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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03C
管理番号 1225967
審判番号 不服2007-27086  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-04 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2003-401894「フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日出願公開、特開2005-162519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年12月1日の出願であって、平成18年9月13日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年3月27日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月24日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成19年10月4日に拒絶査定不服審判請求され、同年11月1日に手続補正がなされたものであり、平成22年4月5日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を利用した審尋がなされ、同年6月4日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成19年11月1日付けで補正された明細書または図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1-4に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「 【請求項1】
フラットパネルディスプレイ用ガラス基板にスクライブラインを形成した後、機械的応力を加えるか急冷処理によって前記ガラス基板を切断分離する切断分離工程と、
その後に他の研磨処理を経ることなく実行され、露出状態の前記ガラス基板の表裏面を研磨することなく、フッ酸を含有する所定粘度の研磨液によって、前記切断分離面のみを面取り処理を兼ねて研磨する研磨工程と、
洗浄液によって前記研磨液を除去する洗浄工程とが、この順番に実行され、
前記研磨工程を経ることで、前記ガラス基板の前記研磨工程後の切断分離面が露出状態でありながら、前記ガラス基板を加圧受け台に設置して前記ガラス基板の左右両端部を支持し、前記ガラス基板の左右中心線上垂直方向から加圧して前記ガラス基板が破壊される最大加圧を300/152倍を超えて改善するようにしたフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法。」

なお、「前記切断分離面」の「前記」は、これより前の記載事項に「切断分離面」がないので、「切断分離面」の誤記であると認められる。

3.引用例に記載の発明
これに対して、本願の出願の日前に頒布された「特開平11-322367号公報 」(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1:以下「引用例1」という。)、「特開2002-160932号公報」(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4:以下、「引用例4」という。)、「特開2003-226553号公報」(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5:以下、「引用例5」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)引用例1
(ア)「ガラス基板をエッチング処理し、次いでエッチング処理されたガラス基板の端面を鉛筆引っかき値5H以上である硬さを有する保護膜で被覆するフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法。」(【請求項3】)
(イ)「近年、フラットパネルディスプレイ、特にLCDおよびPDの大型化・薄型化の進行により、製造工程でのハンドリングがますます困難になってきている。特に、大型基板は自重により大きな曲げ応力を受けることが多いため、わずかな傷の存在が製造工程での割れにつながる。
フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の機械的強度を支配する因子の一つは、ガラス基板端面に存在する傷である。しかし、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板においては、高い平坦度が要求されるガラス基板の主表面と比べて、端面の面粗さはそれよりも粗いのが一般的である。その理由は、端面はそもそもガラス素板から切り出した切断面であるため、面取り・仕上げ加工前の面品質がもともと良くないこと、画像表示に関与しないため高い平坦度が要求されないこと、などである。
ガラス基板の機械的強度をより向上させるため、従来♯500メッシュよりも細かい粒径の砥粒により端面の仕上げ加工を行い、端面の傷の深さを低減させることも行われている」(【0004】?【0006】)
(ウ)「本発明でいうフラットパネルディスプレイは、LCD、PD、無機および有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、FED、など画面が平坦なディスプレイである。
本発明でいうガラス基板は、ガラス素板を所定寸法に切断したものである。」(【0011】?【0012】)
(エ)「前記エッチング処理には、一般的なガラスのエッチング方法であるエッチング液を用いたウェットエッチング方法、エッチングガスを用いたドライエッチング方法、等が使用できる。なかでも、フッ酸液、フツ硫酸液、ケイフッ化水素酸などのエッチング液を用いたウェットエッチング方法が好適に使用できるが、フツ硫酸液を用いた方法が特に好適に使用できる。なお、前記エッチング処理に先立って、ガラス基板の端面を#200?#1000メッシュ程度の砥粒により仕上げ加工を行っておくことが好ましい。
前記エッチング処理により、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の曲げ強度を支配する端面に存在する深い傷を除去できる。前記エッチング処理のエッチング深さは、好ましくは15μm以上である。15μm未満では、端面に存在する深い傷の除去が不充分となり、機械的強度の改善効果が低下するおそれがある。」(【0014】?【0015】)
(オ)「前記ガラス素板を、長辺650mm、短辺550mmに切断してガラス基板とし、端面を#500メッシュのダイヤモンド砥石を用いて面取り・仕上げ研磨を行った。次に、フッ酸と硫酸をそれぞれ5%含むフツ硫酸液中に15分間浸漬し、エッチング深さ約20μmのエッチング処理を行った。」(【0036】)

(2)引用例4
(カ)「図9は、従来の液晶表示装置の製造工程例を示している。従来の液晶表示装置の製造工程では、各種工程を通過した図10(A)に示すマザーガラス1000が、図10(B)に示す短冊状のガラス板1001に切断される。図10(B)と図10(C)に示すように、ガラス板1001は切断線1002に沿って切断溝1004が形成されて、その切断溝1004に沿って折ることにより、それぞれ図10(D)に示すようなガラス基板1003に最終的に切断される。このマザーガラス1000からガラス板1001に切断する工程は、図9のステップST1010であり、ガラス板1001から各ガラス基板1003を切断する工程は図9のステップST1014で示している。
図10(D)のようにして各ガラス基板1003を切断する方式は、図10(A)のマザーガラス1000およびガラス板1001に対していわゆるスクライブブレイク(ダイヤモンドホィールなどを用いてガラス表面に垂直な方向のクラックが引張歪層近くまで発生する程度に切り筋(スクライブライン)を入れておいて、その垂直クラックが成長することを利用してガラスを分割する方法)を施しているために、図10(D)に示すようにガラス基板1003の端面1006には、多くの傷1007やひび割れ1008が存在している。このようにガラス基板1003の端面1006に対して多くの傷やひび割れが残留したままになっている。一方、最近の携帯電話等の電子機器の普及や携帯機器の小型化の要求等により、より高強度のガラス基板やより薄い厚みのガラス基板の出現が求められている。そこで本発明は上記課題を解消し、高強度でかつ厚みの薄くできるガラス基板の製造方法、ガラス基板およびガラス基板を有する電子機器を提供することを目的としている。」(【0004】?【0005】)
(キ)「図4は、本発明のガラス基板の製造方法を含む液晶表示装置の製造工程例を示している。図4に示す液晶表示装置の工程例では、ステップS1からステップS25を有しており、このステップの中に本発明のガラス基板の製造方法の切断ステップST1、仕上げ加工ステップST4、および化学強化ステップST5を含んでいる。図4のステップS1では、たとえばソーダガラスのようなガラスを、所定の大きさに切断し、ステップS2においてガラスのコーナをカットする。ステップS3において、ポリウレタン等でできた回転式ステージにガラスを載せ、回転させておきその上から同様にポリウレタン等でできた平坦なステージを回転しながら押し当て、酸化セリウム(CeO)等の含まれた水溶液を注入してガラス表層に水和層をつくりながらガラスを研磨し、ステップS4において、ガラス基板に対してアンダーコートを施す。このようにして得られるガラスは図5(A)に示すガラスの母材(マザーガラスともいう)80である。ガラスの母材80は、切断ステップST1において、たとえば回転工具81を用いて図5(A)のガラスの母材80の状態から、図4のステップST2に示すように、複数の短冊状のガラス板90に切断する。
次に、図4の切断ステップST1のステップST3において、図5(B)?図5(C)に示すように、短冊状のガラス板90は切断線92に沿って図6(A)のように切断溝94を両側から形成する。その後力を与えて、切断溝94から短冊状のガラス板90を折ることにより、図6(B)に示すように複数のガラス基板95がそれぞれ分離される。この場合に、ガラス基板95の端面96には傷やひび割れが入っている恐れがあるので、図4の仕上げ加工ステップST4において、図5のガラス基板95の端面96と残りの端面97を仕上げ加工する。この仕上げ加工を行う場合には、ダイヤモンド砥石などを用いて、端面をR状もしくはC面取り形状に機械的に研磨を施したりもしくは化学的なエッチングを行うことにより端面に存在するマイクロクラックの形状をより応力集中の緩和される形状にしたりする。このように各ガラス基板95の端面96,97が仕上げ加工されて、傷やひび割れを完全に除去すると、図7(A)に示すような端面の状態になる。」(【0018】?【0019】)

(4)引用例5
(ク)「ガラス基板を化学研磨する作用を有する研磨成分と溶液粘度を増加させる作用を有する増粘剤を共に一定濃度含有し、かつ粘度が5×10^(-1)?5×10^(5)Pa・sの範囲にある研磨液を、ガラス基板上に所定量だけ塗布してガラス基板の平坦化反応を進行させ、
所定時間経過後に、平坦化反応に供した研磨液を洗浄することを特徴とするPDP用ガラス基板の製造方法。」(【請求項2】)

4.対比・判断
引用例1には、記載事項(ア)に、「ガラス基板をエッチング処理し、次いでエッチング処理されたガラス基板の端面を鉛筆引っかき値5H以上である硬さを有する保護膜で被覆するフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法。」が記載されている。この記載中の「ガラス基板」について、記載事項(ウ)に、「ガラス素板を所定寸法に切断したものである。」と記載されている。
次に、「エッチング処理」について、記載事項(エ)に、「前記エッチング処理には、・・・なかでも、フッ酸液、フツ硫酸液、ケイフッ化水素酸などのエッチング液を用いたウェットエッチング方法が好適に使用できるが、フツ硫酸液を用いた方法が特に好適に使用できる。」と記載され、記載事項(オ)に、「フッ酸と硫酸をそれぞれ5%含むフツ硫酸液」と記載されており、エッチング液としてフッ酸を含有するエッチング液を用いているといえる。また、記載事項(エ)に、「前記エッチング処理に先立って、ガラス基板の端面を・・・砥粒により仕上げ加工を行っておくことが好ましい。」と記載され、記載事項(オ)に、「前記ガラス素板を・・・切断してガラス基板とし、端面を・・・ダイヤモンド砥石を用いて面取り・仕上げ研磨を行った。次に、フッ酸と硫酸をそれぞれ5%含むフツ硫酸液中に15分間浸漬し、・・・エッチング処理を行った。」と記載されていることからみて、ガラス基板の端面を砥粒・砥石を用いて面取り・仕上げ研磨を行ってから、エッチング処理を行うことが記載されているといえる。

これらの記載を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には、「ガラス素板を所定寸法に切断してガラス基板とし、前記ガラス基板の端面を砥粒・砥石を用いて面取り・仕上げ研磨を行ってから、フッ酸を含有するエッチング液によってエッチング処理を行い、次いでエッチング処理されたガラス基板の端面を鉛筆引っかき値5H以上である硬さを有する保護膜で被覆するフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法。」(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明と引用1発明とを比較する。
(a)引用1発明の「ガラス素板」、「ガラス基板」は、それぞれ本願発明における「(分離切断前の)フラットパネルディスプレイ用ガラス基板」、「(切断分離後の)フラットパネルディスプレイ用ガラス基板」に相当する。また、引用1発明の「ガラス素板を所定寸法に切断してガラス基板」とすることは、「ガラス素板を所定寸法に切断する」工程を介するものといえ、この工程は、本願発明の「ガラス基板を切断分離する切断分離工程」と、ガラス基板を切断分離する工程である点で共通する。
(b)引用1発明の「端面」は、記載事項(イ)に、「端面はそもそもガラス素板から切り出した切断面であるため、」と記載されていることからみて、本願発明の「切断分離面」に相当する。
(c)引用1発明の「フッ酸を含有するエッチング液」は、本願発明の「フッ酸を含有する研磨液」に相当する。また、引用1発明の「エッチング処理を行」うことは、記載事項(エ)、(オ)からみて、面取り・仕上げ研磨された端面に存在する深い傷を除去していることから、本願発明の「面取り処理を兼ねて研磨する研磨工程」に相当する。
以上のことから、両者は「フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を切断分離する工程と、フッ酸を含有する研磨液によって、切断分離面を面取り処理を兼ねて研磨する研磨工程とが実行される、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法。」で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「切断分離工程」において、「ガラス基板にスクライブラインを形成した後、機械的応力を加えるか急冷処理によって前記ガラス基板を切断分離」させているのに対し、引用1発明では切断分離の手法について特定されていない点

相違点2:本願発明は、「研磨工程」において、「他の研磨処理を経ることなく実行され、露出状態のガラス基板の表裏面を研磨することがなく、切断分離面のみ所定粘度の研磨液によって研磨する」のに対し、引用1発明は、「砥粒・砥石を用いて面取り・仕上げ研磨を行ってから、エッチング液によってエッチング処理を行」っており、「露出状態のガラス基板の表裏面を研磨することがなく切断分離面のみ」に実行されること、および、エッチング液の粘度について特定されていない点

相違点3:本願発明は、「洗浄工程」において、「洗浄液によって研磨液を除去」しているのに対し、引用1発明は、「洗浄工程」を実行することについて記載されていない点

相違点4:本願発明は、「ガラス基板の研磨工程後の切断分離面が露出状態でありながら、前記ガラス基板を加圧受け台に設置して前記ガラス基板の左右両端部を支持し、前記ガラス基板の左右中心線上垂直方向から加圧して前記ガラス基板が破壊される最大加圧を300/152倍を超えて改善するようにした」のに対し、引用1発明では、「ガラス基板の端面を鉛筆引っかき値5H以上である硬さを有する保護膜で被覆」しており、「前記ガラス基板を加圧受け台に設置して前記ガラス基板の左右両端部を支持し、前記ガラス基板の左右中心線上垂直方向から加圧して前記ガラス基板が破壊される最大加圧を300/152倍を超えて改善するようにした」について記載がされていない点

上記相違点について検討する。
・相違点1について
引用例4には、記載事項(キ)に、「図4の切断ステップST1のステップST3において、図5(B)?図5(C)に示すように、短冊状のガラス板90は切断線92に沿って図6(A)のように切断溝94を両側から形成する。その後力を与えて、切断溝94から短冊状のガラス板90を折ることにより、図6(B)に示すように複数のガラス基板95がそれぞれ分離される。」と記載されている。この「ガラス板90は切断線92に沿って・・・切断溝94を両側から形成する。その後力を与えて、切断溝94から短冊状のガラス板90を折ることにより、・・・複数のガラス基板95がそれぞれ分離される。」ことについて、記載事項(カ)に、「図10(B)と図10(C)に示すように、ガラス板1001は切断線1002に沿って切断溝1004が形成されて、その切断溝1004に沿って折ることにより、それぞれ図10(D)に示すようなガラス基板1003に最終的に切断される。・・・図10(D)のようにして各ガラス基板1003を切断する方式は、図10(A)のマザーガラス1000およびガラス板1001に対していわゆるスクライブブレイク(ダイヤモンドホィールなどを用いてガラス表面に垂直な方向のクラックが引張歪層近くまで発生する程度に切り筋(スクライブライン)を入れておいて、その垂直クラックが成長することを利用してガラスを分割する方法)を施している」と記載されており、前記「切断溝94」が「切り筋(スクライビングライン)」であるといえ、「切断溝94を両側から形成する。その後応力を与えて」と記載されていることからみて、引用例4には、ガラス板にスクライブラインを形成した後、応力を与えることによってガラス基板を切断分離する点が記載されているといえる。

そして、引用例1と引用例4とでは、ガラス基板の製造方法という同一の技術分野に属し、かつ、切断分離面に生じた傷を除去することで強度低下を防止するという課題も共通することから、引用1発明のガラス基板の切断分離手法として、引用例4の、ガラス板にスクライブラインを形成した後、応力を与えることによってガラス基板を切断分離する技術を適用し、相違点1に係る本願発明の特定事項をなすことは、当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
引用例4には、記載事項(キ)に、「ステップS3において、ポリウレタン等でできた回転式ステージにガラスを載せ、回転させておきその上から同様にポリウレタン等でできた平坦なステージを回転しながら押し当て、酸化セリウム(CeO)等の含まれた水溶液を注入してガラス表層に水和層をつくりながらガラスを研磨し、・・・次に、図4の切断ステップST1のステップST3において、図5(B)?図5(C)に示すように、短冊状のガラス板90は切断線92に沿って図6(A)のように切断溝94を両側から形成する。その後力を与えて、切断溝94から短冊状のガラス板90を折ることにより、図6(B)に示すように複数のガラス基板95がそれぞれ分離される。この場合に、ガラス基板95の端面96には傷やひび割れが入っている恐れがあるので、図4の仕上げ加工ステップST4において、図5のガラス基板95の端面96と残りの端面97を仕上げ加工する。この仕上げ加工を行う場合には、ダイヤモンド砥石などを用いて、端面をR状もしくはC面取り形状に機械的に研磨を施したりもしくは化学的なエッチングを行うことにより端面に存在するマイクロクラックの形状をより応力集中の緩和される形状にしたりする。」と記載されており、この記載から、切断分離されたガラス基板の端面に存在するマイクロクラックの形状をより応力集中の緩和される形状にすべく仕上げ加工がなされ、この仕上げ加工は化学的エッチングのみでもされるといえる。そして、ステップS3において、ガラス母材80の表面を研磨されていることからみて、仕上げ加工ステップST4における化学的エッチングは、端面のみをエッチングしているといえる。すなわち、この化学的エッチングは、「他の研磨処理を経ることなく実行され、露出状態のガラス基板の表裏面を研磨することなく、端面のみをエッチング」しているといえる。
なお、液体が粘性を有することは当然のことであり、引用1発明の「フッ酸を含有するエッチング液」も所定粘度のエッチング液であるといえる。

そして、引用例1と引用例4とでは、ガラス基板の製造方法という同一の技術分野に属し、切断分離面に生じた傷を除去することで強度低下を防止するという課題も共通することから、引用1発明の砥粒・砥石を用いて面取り・仕上げ研磨を行った後にエッチング処理を行うことに代えて、引用例4の、他の研磨処理を経ることなく実行され、露出状態のガラス基板の表裏面を研磨することすることなく、端面のみをエッチングする技術を適用し、相違点2に係る本願発明の特定事項をなすことは、当業者が容易になし得たことである。

・相違点3について
研磨液による研磨後に洗浄液で前記研磨液を除去することは当業者にとって技術常識である(例えば、引用例5の記載事項(ク)を参照。)といえるから、相違点3に係る本願発明の「洗浄工程」を特定することに格別の困難性はない。

・相違点4について
ディスプレー用ガラス基板の切断分離面を研磨液によって研磨するものにおいて、研磨後の切断分離面を露出状態とすることは、例えば、特開昭54-25号公報において、エツチング処理が完了したものを水洗・乾燥させたのち、欠けやクラツクの発生を調べていることから、その端面は、保護膜が形成されず露出状態であるといえ、本願出願前周知技術であるといえる。(第2頁右下欄第17行?第3頁左下欄第6行を参照)

そして、上記周知技術は、ディスプレー用ガラス基板に係るものであり、他方、引用1発明の「保護膜」は端面を保護するものであって切断・分離によって生じる傷を除去するものではないから、切断分離面が保護されなければ、該切断分離面を露出状態とすることを示唆しているといえ、引用1発明の「ガラス基板の端面を鉛筆引っかき値5H以上である硬さを有する保護膜で被覆」することに代えて、上記周知の保護膜が形成されず露出状態とすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、端面を面取りすることでガラス基板の機械的強度を向上させることは、引用例1の記載事項(ウ)に記載されている。ガラス基板の強度は、端面の形状にも依存する認められるところ、本願発明は端面の形状について特に規定がなく、どの程度の研磨を行ったのかについても規定されておらず、最大加圧値300N(研磨アリ)、152N(研磨ナシ)という数値も、それぞれ1つのサンプルのデータであるため、「最大加圧を300/152倍を超えて改善するようにした」ことに臨界的意義があるとはいえない。

そして、ガラス基板の切断分離面を面取りすることで、強度および安全性を向上させるという本願の作用効果も、引用例1の記載事項(ウ)や上記周知技術から、当業者が容易に予測し得たことである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1、引用例4、引用例5に記載された発明、および、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-25 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-13 
出願番号 特願2003-401894(P2003-401894)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之宮澤 尚之  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 吉川 潤
木村 孔一
発明の名称 フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法  
代理人 野中 誠一  

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