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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D |
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管理番号 | 1226024 |
審判番号 | 不服2009-12445 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-07-07 |
確定日 | 2010-10-28 |
事件の表示 | 特願2004-131462「8気筒エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日出願公開、特開2005-315107〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成16年4月27日の出願であって、平成20年12月8日付けで拒絶理由が通知され、平成21年4月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成21年7月7日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に特許請求の範囲について手続補正がなされ、その後、当審において平成21年12月14日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年2月15日付けで回答書が提出されたものである。 第2 平成21年7月7日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年7月7日付けの手続補正を却下する。 [理由] [1]補正の内容 平成21年7月7日付けの特許請求の範囲についての手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、願書に最初に添付された特許請求の範囲における)下記の(a)に示す請求項1ないし3を下記の(b)に示す請求項1と補正するものである。 (a)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 8気筒エンジンの各気筒に備えられ燃料を噴射する燃料噴射弁と、 当該8個の燃料噴射弁の内4個の燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第1の弁駆動手段と、 前記4個の燃料噴射弁以外の4個の燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第2の弁駆動手段と、 を備えた8気筒エンジンにおいて、 前記両弁駆動手段は、爆発行程が等間隔となる気筒に備えられた燃料噴射弁を開閉駆動させることを特徴とする8気筒エンジン。 【請求項2】 前記第1の弁駆動手段が、1番目、3番目、5番目、7番目に爆発行程を迎える気筒に備えられた燃料噴射弁を開閉駆動させ、 前記第2の弁駆動手段が、2番目、4番目、6番目、8番目に爆発行程を迎える気筒に備えられた燃料噴射弁を開閉駆動させることを特徴とする請求項1に記載の8気筒エンジン。 【請求項3】 4個の気筒を1つの気筒群とした場合に2つの気筒群がV字形に備えられ、各気筒に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた8気筒エンジンにおいて、 前記2つの気筒群の内の1の気筒群に属する気筒を端から順に第1気筒、第3気筒、第5気筒、第7気筒、他の気筒群に属する気筒を端から順に第2気筒、第4気筒、第6気筒、第8気筒とする場合に、 第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第1の弁駆動手段と、 第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第2の弁駆動手段と、 を備えることを特徴とする8気筒エンジン。」 (b)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 4個の気筒を1つの気筒群とした場合に2つの気筒群がV字形に備えられ、各気筒に燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、8個の気筒の爆発行程がクランク回転角度90°の位相差で等間隔に生じ、且つ、各気筒群に属する4個の気筒の爆発行程の位相差は等間隔ではない8気筒エンジンにおいて、 前記2つの気筒群の内の1の気筒群に属する気筒を端から順に第1気筒、第3気筒、第5気筒、第7気筒、他の気筒群に属する気筒を端から順に第2気筒、第4気筒、第6気筒、第8気筒とする場合に、 爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ2個ずつ選択される4個の気筒である第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第1の弁駆動手段と、 爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ残りの2個ずつ選択される4個の気筒である第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第2の弁駆動手段と、 を備えることを特徴とする8気筒エンジン。」(なお、下線は補正箇所を示す。) [2]本件補正の適否 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2を削除し、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3を本件補正後の特許請求の範囲の請求項1とし、その上、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3に係る発明における発明特定事項である「8気筒エンジン」、「第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第1の弁駆動手段」及び「第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第2の弁駆動手段」を、それぞれ、「8個の気筒の爆発行程がクランク回転角度90°の位相差で等間隔に生じ、且つ、各気筒群に属する4個の気筒の爆発行程の位相差は等間隔ではない8気筒エンジン」、「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ2個ずつ選択される4個の気筒である第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第1の弁駆動手段」及び「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ残りの2個ずつ選択される4個の気筒である第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第2の弁駆動手段」と限定したものであるから、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 [3]独立特許要件の判断 1.引用発明 (1)引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-288078号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 a)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、内燃機関に燃料を供給する筒内噴射式インジェクタの制御装置に関し、特に多気筒エンジンへの高速燃料噴射時または一般エンジンの複数行程での分割燃料噴射時における電流集中による発熱などを防止した筒内噴射式インジェクタの制御装置に関するものである。」(段落【0001】) b)「【0017】 【発明の実施の形態】 実施の形態1.以下、この発明の実施の形態1を図について説明する。図1はこの発明の実施の形態1を示すブロック図である。図1において、1は内燃機関の運転状態情報Dを検出する周知の各種センサであり、運転状態情報Dとしては、アクセル開度、スロットル開度、エンジン冷却水温度および吸入空気量などが含まれる。 【0018】2はマイクロコンピュータからなる制御パラメータ演算手段であり、各種センサ1からの運転状態情報Dに基づいて、内燃機関に対する各種の制御パラメータたとえば燃料供給量および燃料噴射時期を演算し、燃料噴射弁(後述するインジェクタ)を開放駆動するための制御信号Cを出力する。 【0019】3は車載電源となるバッテリであり、バッテリ電圧VBを供給する。4はバッテリ電圧VBに基づいて高電圧VHおよび低電圧VLを生成する電圧発生回路であり、高電圧VH1はバッテリ電圧VBを昇圧することによって生成され、一定電圧からなる低電圧VLは、バッテリ電圧VBを降圧することによって生成される。 【0020】5は制御信号Cに応答して燃料噴射信号Jを生成する駆動回路であり、高電圧VHおよび低電圧VLに基づく燃料噴射信号Jを出力するとともに、過励磁期間(後述する)に高電圧VHの出力を禁止するための禁止信号Kを電圧発生回路4に出力する。 【0021】6は内燃機関の各気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射式の複数のインジェクタであり、駆動回路5を介して電圧発生回路4から供給される燃料噴射信号Jにより個別に通電駆動される。燃料噴射信号Jは、制御パラメータ演算手段2内で演算された気筒毎の燃料供給量および燃料噴射時期に対応している。」(段落【0017】ないし【0021】) c)「【0022】図2は図1内の電圧発生回路4の構成を示すブロック図である。図2において、電圧発生回路4は、燃料噴射信号Jの初期に過励磁信号(後述する)を供給するための高電圧発生手段4H1および4H2と、燃料噴射信号Jを一定電流に保持するための低電圧発生手段4L1および4L2とを含む。 【0023】高電圧発生手段4H1および4H2、低電圧発生手段4L1および4L2は、気筒の制御対象グループ毎に対応して、それぞれ複数個(ここでは、2グループに対応した2個)ずつ並列に設けられており、それぞれバッテリ3の陽極に接続されている。 【0024】VH1およびVH2は各高電圧発生手段4H1および4H2から生成される高電圧、VL1およびVL2は各低電圧発生手段4L1および4L2から生成される低電圧である。K1およびK2は駆動回路5から生成される禁止信号であり、過励磁信号の出力期間(過励磁期間)に各高電圧発生手段4H1および4H2の高電圧出力を個別に禁止する。」(段落【0022】ないし【0024】) d)「【0025】図3は図1内の駆動回路5の構成を示すブロック図であり、ここでは、V型と称される6気筒エンジンの場合を示している。図3において、61?66は各気筒#1?#6に対応したインジェクタであり、ここでは、インジェクタ開放駆動用の励磁コイルを代表的にインジェクタ61?66として示している。 【0026】C1?C6は各気筒#1?#6に対する燃料噴射用の制御信号、J1?J6は各インジェクタ61?66に流れる励磁電流すなわち燃料噴射信号である。11?16は制御信号C1?C6に応答して各気筒#1?#6に対する過励磁信号E1?E6を生成する過励磁信号発生手段である。 【0027】21?26は過励磁信号E1?E6に応答して高電圧VH1またはVH2を通過させるスイッチング手段である。高電圧発生手段4H1からの高電圧VH1は、各スイッチング手段21、23および25を介して、各気筒#1、#3および#5のインジェクタ61、63および65に印加される。 【0028】また、高電圧発生手段4H2からの高電圧VH2は、各スイッチング手段22、24および26を介して、各気筒#2、#4および#6のインジェクタ62、64および66に印加される。 【0029】31?36はスイッチング手段として機能する保持電流発生手段であり、制御信号C1?C6に応答して低電圧VL1またはVL2を通過させ、低電圧VL1またはVL2に基づく一定の保持電流を、各気筒#1?#6のインジェクタJ1?J6に供給する。 【0030】低電圧発生手段4L1からの低電圧VL1に基づく保持電流は、各保持電流発生手段31、33および35を介して、各インジェクタ61、63および65に供給される。 【0031】また、低電圧発生手段4L2からの低電圧VL2に基づく保持電流は、各保持電流発生手段32、34および36を介して、各インジェクタ62、64および66に供給される。 【0032】41?46は各気筒#1?#6のインジェクタ61?66の両端間に並列に挿入された電流高速オフ手段であり、各インジェクタ61?66の励磁電流すなわち燃料噴射信号J1?J6を高速にオフさせる。 【0033】D1?D6は各保持電流発生手段31?36と各インジェクタJ1?J6との間に挿入されたダイオードであり、各インジェクタJ1?J6への保持電流を通過させるとともに、各スイッチング手段21?26を介した高電圧VH1およびVH2の保持電流発生手段31?36への逆流を防止する。 【0034】51および52は過励磁期間(過励磁信号E1?E6の出力期間)に各高電圧発生手段4H1および4H2に対する禁止信号K1およびK2を個別に生成する禁止手段である。 【0035】各気筒#1、#3および#5に関連した禁止手段51は、各過励磁信号E1、E3およびE5のいずれかに応答して、高電圧発生手段4H1に対する禁止信号K1を生成する。また、各気筒#2、#4および#6に関連した禁止手段52は、各過励磁信号E2、E4およびE6のいずれかに応答して、高電圧発生手段4H2に対する禁止信号K2を生成する。 【0036】高電圧発生手段4H1および低電圧発生手段4L1は、各気筒#1、#3および#5を制御対象グループとしており、また、高電圧発生手段4H2および低電圧発生手段4L2は、各気筒#2、#4および#6を制御対象グループとしている。」(段落【0025】ないし【0036】) e)「【0037】図4はこの発明の実施の形態1の動作を説明するためのタイミングチャートであり、制御信号C1?C6、燃料噴射信号J1?J6、高電圧VH1およびVH2の時間変化を示している。 【0038】図4において、筒内噴射式エンジンの場合、各気筒#1?#6に対する燃料噴射制御は、吸気→圧縮→爆発→排気の4行程のうちの圧縮行程に行われる。また、インジェクタ61?66の通電制御順序(燃料噴射信号J1?J6の生成順序)は、V型6気筒エンジンの場合、一般的に、#1→#2→#3→#4→#5→#6となっている。 【0039】したがって、上記各制御対象グループは、4サイクルエンジンの4行程内で2行程だけ離れたインジェクタに対応した気筒により構成されていることになる。ここでは、1行程おきに制御されるグループすなわち2行程離れた気筒グループを制御対象グループとしている。以下、各気筒#1、#3および#5からなる制御対象グループを第1グループ、各気筒#2、#4および#6からなる制御対象グループを第2グループと称する。」(段落【0037】ないし【0039】) f)「【0054】ここで、各インジェクタ61?66に給電を行う電圧発生回路4内において、第1グループのインジェクタ61、63および65に対しては、過励磁給電用の高電圧発生手段4H1および保持電流給電用の低電圧発生手段4L1が設置されている。 【0055】また、第2グループのインジェクタ62、64および66に対しては、過励磁給電用の高電圧発生手段4H2および保持電流給電用の低電圧発生手段4L2が設置されている。 【0056】すなわち、前述のように、燃料噴射順序が2行程だけ離れた気筒のインジェクタ毎に、高電圧発生手段および低電圧発生手段が独立に設置されているので、高電圧VH1およびVH2が交互に動作することになる。 【0057】したがって、各気筒#1?#6毎のインジェクタ61?66の通電開始時間が短くなった場合でも、個々の高電圧発生手段4H1および4H2の応答性能力を変更せずに、各インジェクタ61?66への給電が可能となる。 【0058】この結果、6気筒や8気筒などの多気筒ガソリン筒内噴射エンジンまたはディーゼルエンジンのインジェクタ制御装置において、燃料噴射開始周期が短くなっても、高電圧発生手段4H1および4H2における応答性の制約を解決することができる。」(段落【0054】ないし【0058】) (2)上記(1)a)ないしf)及び図面の記載より分かること イ)上記(1)a)、b)及びf)並びに図1の記載より、8気筒エンジンの各気筒には、燃料を噴射するインジェクタ6が備えられていることが分かる。 ロ)上記(1)b)ないしf)並びに図1ないし図4の記載より、高電圧発生手段4H1と低電圧発生手段4L1とを含む弁駆動手段が、噴射間隔が4サイクルエンジンの4行程内で2行程だけ離れた等間隔である第1気筒、第3気筒、第5気筒の複数個の気筒からなる第1の気筒グループの各気筒に備えられたインジェクタ6に通電することによりこれらのインジェクタ6を開閉駆動し、高電圧発生手段4H2と低電圧発生手段4L2とを含む弁駆動手段が、噴射間隔が4サイクルエンジンの4行程内で2行程だけ離れた等間隔である残りの第2気筒、第4気筒、第6気筒の複数個の気筒からなる第2の気筒グループの各気筒に備えられたインジェクタ6に通電することによりこれらのインジェクタ6を開閉駆動していることが分かる。 (3)引用発明 したがって、上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「各気筒に燃料を噴射するインジェクタ6を備えた8気筒エンジンにおいて、 噴射間隔が4サイクルエンジンの4行程内で2行程だけ離れた等間隔である複数個の気筒からなる第1の気筒グループの各気筒に備えられたインジェクタ6に通電することによりこれらのインジェクタ6を開閉駆動させる高電圧発生手段4H1と低電圧発生手段4L1とを含む弁駆動手段と、 噴射間隔が4サイクルエンジンの4行程内で2行程だけ離れた等間隔である残りの複数個の気筒からなる第2の気筒グループの各気筒に備えられたインジェクタ6に通電することによりこれらのインジェクタ6を開閉駆動させる高電圧発生手段4H2と低電圧発生手段4L2とを含む弁駆動手段と、 を備える8気筒エンジン。」 2.対比・判断 本件補正発明と引用発明とを対比すると、その機能、構造及び技術的意義からみて、引用発明における「インジェクタ6」は本件補正発明における「燃料噴射弁」及び「弁」に相当し、以下同様に、「高電圧発生手段4H1と低電圧発生手段4L1とを含む弁駆動手段」は「第1の弁駆動手段」に、「高電圧発生手段4H2と低電圧発生手段4L2とを含む弁駆動手段」は「第2の弁駆動手段」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「噴射間隔が4サイクルエンジンの4行程内で2行程だけ離れた等間隔である複数個の気筒からなる第1の気筒グループの各気筒」は、複数個の各気筒間において、噴射間隔が等間隔であれば、爆発行程も等間隔であることは明らかであるから、「爆発行程が等間隔である複数個の気筒からなる第1の気筒グループの各気筒」という限りにおいて、本件補正発明における「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ2個ずつ選択される4個の気筒である第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒」に相当する。 さらに、引用発明における「噴射間隔が4サイクルエンジンの4行程内で2行程だけ離れた等間隔である残りの複数個の気筒からなる第2の気筒グループの各気筒」は、複数個の各気筒間において、噴射間隔が等間隔であれば、爆発行程も等間隔であることは明らかであるから、「爆発行程が等間隔である残りの複数個の気筒からなる第2の気筒グループの各気筒」という限りにおいて、本件補正発明における「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ残りの2個ずつ選択される4個の気筒である第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒」に相当する。 してみると、本件補正発明と引用発明とは、 「各気筒に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた8気筒エンジンにおいて、 爆発行程が等間隔である複数個の気筒からなる第1の気筒グループの各気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第1の弁駆動手段と、 爆発行程が等間隔である残りの複数個の気筒からなる第2の気筒グループの各気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第2の弁駆動手段と、 を備える8気筒エンジン。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 本件補正発明では、「8気筒エンジン」が「4個の気筒を1つの気筒群とした場合に2つの気筒群がV字形に備えられ、」「8個の気筒の爆発行程がクランク回転角度90°の位相差で等間隔に生じ、且つ、各気筒群に属する4個の気筒の爆発行程の位相差は等間隔ではない8気筒エンジン」であって、「前記2つの気筒群の内の1の気筒群に属する気筒を端から順に第1気筒、第3気筒、第5気筒、第7気筒、他の気筒群に属する気筒を端から順に第2気筒、第4気筒、第6気筒、第8気筒とする場合に、」「第1の弁駆動手段」により「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ2個ずつ選択される4個の気筒である第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させ」、「第2の弁駆動手段」により「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ残りの2個ずつ選択される4個の気筒である第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させ」ているのに対して、引用発明では、「8気筒エンジン」が、本件補正発明のようなV字形の8気筒エンジンであるか明らかではなく、また、「高電圧発生手段4H1と低電圧発生手段4L1とを含む弁駆動手段(第1の弁駆動手段)」と「高電圧発生手段4H2と低電圧発生手段4L2とを含む弁駆動手段(第2の弁駆動手段)」によって、「8気筒エンジン」の各気筒に備えられた「インジェクタ6(燃料噴射弁)」が、本件補正発明のように開閉駆動されているか明らかではない点(以下、「相違点」という。なお、括弧内の記載は引用発明における発明特定事項に相当する本件補正発明における発明特定事項を示す。)。 上記相違点について検討する。 8気筒エンジンにおいて、4個の気筒を1つの気筒群とした場合に2つの気筒群がV字形に備えられ、8個の気筒の爆発行程がクランク回転角度90°の位相差で等間隔に生じ、且つ、各気筒群に属する4個の気筒の爆発行程の位相差は等間隔ではなく、前記2つの気筒群の内の1の気筒群に属する気筒を端から順に第1気筒、第3気筒、第5気筒、第7気筒、他の気筒群に属する気筒を端から順に第2気筒、第4気筒、第6気筒、第8気筒とし、爆発行程の発生順序を、第1気筒→第8気筒→第7気筒→第3気筒→第6気筒→第5気筒→第4気筒→第2気筒や、第1気筒→第8気筒→第4気筒→第3気筒→第6気筒→第5気筒→第7気筒→第2気筒とする技術は、周知の技術(以下、「周知技術」という。要すれば、特開平9-88666号公報(特に段落【0015】、図1、図5及び図6の記載を参照。)及び特開2003-148224号公報(特に段落【0029】及び【0030】及び図1の記載を参照。)を参照。)である。 そして、引用発明を上記周知技術であるV字形の8気筒エンジンに適用すると、爆発行程の発生順序が、第1気筒→第8気筒→第7気筒→第3気筒→第6気筒→第5気筒→第4気筒→第2気筒や、第1気筒→第8気筒→第4気筒→第3気筒→第6気筒→第5気筒→第7気筒→第2気筒であるV字形の8気筒エンジンのいずれにおいても、「第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒」を第1の気筒グループした場合の各気筒に設けられた「インジェクタ6」は「高電圧発生手段4H1と低電圧発生手段4L1とを含む弁駆動手段」により開閉駆動されることになり、「第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒」を第2の気筒グループとした場合の各気筒に設けられた「インジェクタ6」は「高電圧発生手段4H2と低電圧発生手段4L2とを含む弁駆動手段」により開閉駆動されることになり、「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ2個ずつ選択される4個の気筒である第1気筒、第4気筒、第6気筒、第7気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第1の弁駆動手段と、爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ残りの2個ずつ選択される4個の気筒である第2気筒、第3気筒、第5気筒、第8気筒に備えられた燃料噴射弁に通電することによりこれらの弁を開閉駆動させる第2の弁駆動手段」となる。 よって、引用発明を周知技術に適用して上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることに格別な困難性はない。 そして、本件補正発明を全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成21年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由][1](a)に示した請求項3に記載されたとおりのものである。 2.刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献(特開平10-288078号公報)には、前記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)のとおりのものが記載されている。 3.対比・判断 本願発明は、前記第2[理由][3]で検討した本件補正発明から「8個の気筒の爆発行程がクランク回転角度90°の位相差で等間隔に生じ、且つ、各気筒群に属する4個の気筒の爆発行程の位相差は等間隔ではない」、「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ2個ずつ選択される4個の気筒である」及び「爆発行程がクランク回転角度180°の位相差で等間隔となるように前記1の気筒群及び前記他の気筒群からそれぞれ残りの2個ずつ選択される4個の気筒である」という発明特定事項を省いたものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2[理由][3]に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 第4 平成22年2月15日付けで提出された回答書において主張する点について 当該回答書において特許請求の範囲の請求項1の補正案が提示されている。そして、その補正案は、発明特定事項である「第1の弁駆動手段」及び「第2の弁駆動手段」が、「燃料噴射弁に、各気筒の1サイクル中において、爆発上死点近辺に噴射するメイン噴射に加えて吸気上死点近辺で噴射するビゴム噴射を行うように通電する」ものであることを限定しようとするものである。 しかしながら、上記の「各気筒の1サイクル中において、爆発上死点近辺に噴射するメイン噴射に加えて吸気上死点近辺で噴射するビゴム噴射を行う」ことは、例えば、特開昭62-75049号公報及び特開昭60-116855号公報に記載されているように周知の技術である。 したがって、当該回答書における補正案の特許請求の範囲の請求項1に係る発明も、進歩性があるものとは認められない。 |
審理終結日 | 2010-08-05 |
結審通知日 | 2010-08-10 |
審決日 | 2010-09-06 |
出願番号 | 特願2004-131462(P2004-131462) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鹿角 剛二 |
特許庁審判長 |
小谷 一郎 |
特許庁審判官 |
八板 直人 柳田 利夫 |
発明の名称 | 8気筒エンジン |
代理人 | 世良 和信 |
代理人 | 関根 武彦 |
代理人 | 川口 嘉之 |
代理人 | 遠山 勉 |
代理人 | 坂井 浩一郎 |
代理人 | 宮下 文徳 |
代理人 | 和久田 純一 |