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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63H
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A63H
審判 全部無効 2項進歩性  A63H
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A63H
審判 全部無効 1項2号公然実施  A63H
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A63H
管理番号 1226088
審判番号 無効2008-800213  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-10-21 
確定日 2010-10-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3926821号「可動人形用胴体」の特許無効審判事件についてされた平成22年 3月19日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成22年(行ケ)第10136号平成22年 7月16日決定)があったので、更に審理の上、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求
特許第3926821号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。


第2 事件の概要
1 本件特許の登録までの経緯の概要
本件特許無効審判の請求に係る特許第3926821号(以下「本件特許」という。)は、平成14年4月23日に出願された特願2002-121326号(以下「原出願」という。)の一部を特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願とした特願2005-25336号(以下「本件出願」という。)の特許であり、原出願からの主な手続は次のとおりである。
・平成14年 4月23日 原出願を出願
・平成17年 2月 1日 本件出願を出願
・平成19年 3月 9日 特許第3926821号として設定登録(請求項1及び請求項2)

2 本件特許無効審判の経緯の概要
本件特許無効審判については、平成22年3月19日付けで、訂正を認めず、請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がされ(以下「第1次審決」という。)、第1次審決は平成22年3月31日に請求人及び被請求人に送達された。これに対して、平成22年4月30日に、被請求人により、第1次審決の取消を求める訴えが知的財産高等裁判所に提起された(平成22年(行ケ)第10136号)。その後、当該訴えの提起の日から起算して90日の期間内である平成22年5月21日に訂正審判の請求(訂正2010-390049号)がされた。訂正審判については、平成22年6月21日付けで、本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書を訂正審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり訂正することを認める旨の審決がされ、当該審決が平成22年7月1日に送達されると同時に確定した。その後、平成22年7月16日に、知的財産高等裁判所により、特許法第181条第2項に基づき第1次審決を取り消す旨の決定がされ、事件が審判官に差し戻された。特許無効審判の請求からの主な手続は次のとおりである。
(1)第1次審決までの主な手続
・平成20年10月21日 請求人より無効審判請求書を提出
・平成21年 1月16日 被請求人より答弁書を提出
・同年 1月28日付け 当審より審尋を通知
・同年 2月13日 被請求人より回答書を提出
・同年 3月17日 第1回口頭審尋を実施
・同年 3月27日 請求人より上申書、証人等尋問申出書及び証拠申出書を提出
・同年 4月 1日 請求人より証拠申出書を提出
・同年 4月 9日 被請求人より答弁書を提出
・同年 6月 4日 当事者双方より口頭審理陳述要領書を提出
・同年 6月 4日 第1回口頭審理及び証拠調べを実施
・同年 6月29日 被請求人より上申書を提出
・同年 7月 2日付け 当審より無効理由を通知
・同年 8月 5日 被請求人より訂正請求書及び意見書を提出
・同年 9月17日 請求人より弁駁書を提出
・同年10月15日付け 当審より無効理由を通知
・同年11月18日 被請求人より訂正請求書及び意見書を提出
・同日 請求人より意見書を提出
・同年12月28日 請求人より弁駁書を提出
・平成22年 1月14日付け 当審より訂正拒絶理由を通知
・同年 2月16日 被請求人より手続補正書、意見書及び答弁書を提出
・平成22年3月19日付け 第1次審決(平成22年3月31日に請求人及び被請求人に送達)

請求人は、平成21年6月4日に行われた第1回口頭審理において、同年3月27日付けの証人等尋問申出書を取り下げる旨陳述した。
平成21年8月5日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

(2)第1次審決後の主な手続
平成22年4月30日 被請求人が第1次審決の取消を求める訴えを提起
(平成22年(行ケ)第10136号)
同年 5月21日 被請求人が訂正審判の請求
(訂正2010-390049号)
同年 6月21日付け 訂正を認める旨の審決(同年7月1日に送達)
同年 7月16日 知的財産高等裁判所が第1次審決を取り消す旨の決定

3 本件特許発明1及び本件特許発明2の要旨
上記のとおり、本件特許については、訂正審判の請求(訂正2010-390049号)がされ、訂正を認める旨の審決が確定したから、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。また、双方を総称して「本件特許発明」という。)は、訂正2010-390049号の訂正審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲により訂正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に、
前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって、
前記上半身部品は、スラッシュ成形により接合線なく一体成形され、かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、
該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質合成樹脂製の芯材とで構成され、
前記芯材は、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を備え、
前記下半身連結部材は、下半身部品の上端と対向し、前記軟質製本体下端の開口に位置して備えられ、
前記下半身部品は、前記軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し、外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体と、
前記腰部本体内に備えられ、前記下半身連結部材を差し込み連結可能な上半身部品連結構造とを備え、
前記上半身部品連結構造は、前記下半身連結部材と対向し、前記腰部本体の開放部位に位置して備えられ、
前記下半身連結部材と前記上半身部品連結構造は、
円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成され、
前記上半身部品と前記下半身部品は、
軟質製本体下端の開ロと腰部本体の開放部位にそれぞれ位置している前記棹部と前記差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結されていることを特徴とする可動人形用胴体。
【請求項2】
軟質製本体は、アンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、接合線の無い一体成形品であることを特徴とする請求項1に記載の可動人形用胴体。」

4 設定登録時及び各訂正請求に係る特許請求の範囲の記載
前記のとおり、本件特許無効審判においては、平成21年8月5日付け及び平成21年11月18日付けで合計2回の訂正請求(以下、それぞれ「第1訂正請求」及び「第2訂正請求」という。)がされている。当事者の主張の内容並びに無効理由通知及び訂正拒絶理由通知の内容を理解するために必要となるから、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲及び各訂正請求に係る特許請求の範囲について下記に記す。
(1)本件特許の設定登録時の特許請求の範囲
【請求項1】
少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結されてなる可動人形用胴体であって、
上半身部品はスラッシュ成形により成形された塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、
該本体内に嵌入して内装され、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を有し、硬質合成樹脂材からなる芯材とで構成され、
下半身部品は、前記芯材の下半身連結部材を連結可能な上半身部品連結構造を備えて構成されていることを特徴とする可動人形用胴体。
【請求項2】
上半身部品は、アンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、接合線の無い一体成形品であることを特徴とする請求項1に記載の可動人形用胴体。

(2)第1訂正請求に係る特許請求の範囲
(平成21年8月5日付けの訂正請求書に添付した特許請求の範囲)
【請求項1】
少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に、
前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって、
前記上半身部品はスラッシュ成形により成形された塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、該軟質製本体内に嵌入して内装され、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を有してなる硬質合成樹脂製の芯材とで構成され、
前記下半身部品は、前記芯材の下半身連結部材を連結可能な上半身部品連結構造を備えて構成され、
前記上半身部品と下半身部品との連結は、
差し込み連結、かつ引き抜き分離可能な前記下半身連結部材と前記上半身連結構造とによって構成されていることを特徴とする可動人形用胴体。
【請求項2】
軟質製本体は、アンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、接合線の無い一体成形品であることを特徴とする請求項1に記載の可動人形用胴体。

(3)第2訂正請求に係る特許請求の範囲
(平成21年11月18日付けの訂正請求書に添付した特許請求の範囲)
【請求項1】
少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に、
前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって、
前記上半身部品は、スラッシュ成形により接合線なく一体成形され、かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質合成樹脂製の芯材とで構成され、
前記芯材は、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を備え、
前記下半身連結部材は、下半身部品の上端と対峙する前記軟質製本体下端の開口よりも小径で、かつ該開口に露出して備えられ、
前記下半身部品は、前記軟質製本体下端の開口と対峙する上端を開放し、ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含み、
前記腰部は、前記下半身連結部材と対峙し、かつ下半身連結部材を差し込み連結可能な上半身部品連結構造を備え、
前記上半身部品連結構造は、前記開放した腰部上端よりも小径で、かつその開放した腰部上端に露出して備えられ、
前記下半身連結部材と前記上半身部品連結構造は、
円柱状の棹部と、該棹部を上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成され、
前記上半身部品と前記下半身部品は、
それぞれの端部に露出した前記棹部と前記差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結され、かつ前記棹部と差込み穴との連結状態においては、上半身部品と下半身部品とで覆われた胴体内に前記棹部と差込み穴との連結部分が位置し、外方から視認不可能であることを特徴とする可動人形用胴体。
【請求項2】
少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に、
前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって、
前記上半身部品は、スラッシュ成形により接合線なく一体成形され、かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質合成樹脂製の芯材とで構成され、
前記芯材は、上下方向で分割されかつ揺動可能に連結された第一芯材と第二芯材からなり、
第一芯材には、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を備え、
前記下半身連結部材は、下半身部品の上端と対峙する前記軟質製本体下端の開口よりも小径で、かつ該開口に露出して備えられ、
前記下半身部品は、前記軟質製本体下端の開口と対峙する上端を開放し、ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含み、
前記腰部は、前記開放した上端と連続し、かつ前記軟質製本体の下端を挿入して連結可能な上半身部品連結空間を備え、
前記上半身部品連結空間には、前記下半身連結部材と対峙し、かつ下半身連結部材を差し込み連結可能な上半身部品連結構造が、前記開放した腰部上端よりも小径で、かつ該開放した腰部上端に露出するように固定して一体に備えられ、
前記下半身連結部材と上半身部品連結構造は、
円柱状の棹部と、該棹部を上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成され、
前記上半身部品と前記下半身部品は、
それぞれの端部に露出した前記棹部と前記差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結され、かつ前記棹部と差込み穴との連結状態においては、上半身部品と下半身部品とで覆われた胴体内に前記棹部と差込み穴との連結部分が位置し、外方から視認不可能であることを特徴とする可動人形用胴体。


第3 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
(1)請求人の主張する無効の理由の概要
ア 無効理由1(新規性の欠如)
本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「登録時特許発明1」という。)は、本件特許の出願前に公然実施された、株式会社メディコム・トイの製造・販売に係る商品である「REAL ACTION HEROES DevilMan COMIC VERSION」(以下「第1商品」という。)の人形用胴体に係る発明(以下「第1商品発明」という。)と同一であり、特許法第29条第1項第2号に該当する。したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきである。

イ 無効理由2(進歩性の欠如)
(ア)無効理由2-1
登録時特許発明1は、本件特許の出願前に公然実施された、株式会社メディコム・トイの製造・販売に係る商品である「REAL ACTION HEROES タイガーマスク」(以下「第2商品」という。)の人形用胴体に係る発明(以下「第2商品発明」という。)及び第1商品発明に基いて、又は、それら及び本件特許の出願時における一般的技術(甲第16、17及び19号証を参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下「登録時特許発明2」という。)は、上記に加えて本件特許公報における【背景技術】の欄に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1及び請求項2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされた特許であり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきである。

(イ)無効理由2-2
登録時特許発明1は、本件特許の出願前に公然実施された、有限会社オオツカ企画の製造・販売に係る商品である「HYPER HERO SERIES No.029 ラーメンマン」(以下「第3商品」という。)の人形用胴体に係る発明(以下「第3商品発明」という。)及び第1商品発明に基いて、又は、それら及び本件特許の出願時における一般的技術(甲第16、17及び19号証を参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
登録時特許発明2は、上記に加えて本件特許公報における【背景技術】の欄に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1及び請求項2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされた特許であり、同法第123条第1項第2号の規定に該当するから、無効とすべきである。

(ウ)無効理由2-3
登録時特許発明1は、本件特許の出願前に公然実施された、大丸商事の製造・販売に係る商品である「ブルースリー・アクションドールAタイプ」(以下「第4商品」という。)の人形用胴体に係る発明(以下「第4商品発明」という。)及び第1商品発明に基いて、又は、それら及び本件特許の出願時における一般的技術(甲第16、17及び19号証を参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
登録時特許発明2は、上記に加えて本件特許公報における【背景技術】の欄に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1及び請求項2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされた特許であるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

(2)第2訂正請求に対する請求人の主張の概要
ア 第2訂正請求の不適法性について
(ア)新規事項の追加
請求項1及び請求項2に係る訂正の請求は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第126条第3項の規定に適合しない。

(イ)目的外補正及び特許請求の範囲の変更
請求項2についての訂正は、特許請求の範囲を減縮するものではなく、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものであるから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しない。さらに、当該訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とする訂正に該当しないから、同項の規定に適合しない。

イ 第2訂正請求の発明1の進歩性の欠如について
第2訂正請求に係る特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「第2訂正請求の発明1」という。)は、検甲第1号証の2の人形に係る発明、甲第26号証に記載された事項及び周知慣用技術(甲第24、27及び28号証に記載された技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第2訂正請求に係る特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、検甲第1号証の2の人形に係る発明、甲第26号証に記載された事項、及び周知慣用技術(甲第30号証ないし甲第33号証に記載された技術及び甲第24、27及び28号証に記載された技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、第2訂正請求に係る特許請求の範囲の請求項1及び請求項2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされた特許であり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきである。

2 証拠方法(甲号証)
請求人がこれまでに提出した甲号証は、以下のとおりである。
(1)文書等
甲第1号証の1ないし18:株式会社メディコム・トイの製造・販売に係る商品である「REAL ACTION HEROES DevilMan COMIC VERSION」(第1商品)を撮影した写真及び該商品に同封された使用説明書の写し
甲第2号証:「月刊ホビージャパン8月号別冊 ホビージャパンエクストラ 夏の号」(1997年8月1日発行)の表紙、第3頁、第78頁及び奥付
甲第3号証:「Hobby JAPAN 1997年7月号」(1997年7月1日発行)の表紙、第60頁及び奥付
甲第4号証:「Hobby JAPAN 1997年5月号」(1997年5月1日発行)の表紙、第103頁及び奥付
甲第5号証:「斎藤和典コレクション4 変身サイボーグ大百科」(1997年8月5日発行)の表紙、表紙の折り返し、第87頁及び奥付

甲第6号証の1ないし11:株式会社メディコム・トイの製造・販売に係る商品である「REAL ACTION HEROES タイガーマスク」(第2商品)を撮影した写真及び該商品に同封された使用説明書の写し」
甲第7号証:「月刊ホビージャパン8月号別冊 ホビージャパンEXTRA 1998年夏の号」(1998年8月1日発行)の表紙、第5頁、第102頁及び奥付
甲第8号証:「レプリカント 第1号」(1997年11月17日発行)の表紙、奥付及び裏表紙の見返し

甲第9号証の1ないし8:有限会社オオツカ企画の製造・販売に係る商品である「HYPER HERO SERIES No.029 ラーメンマン」(第3商品)を撮影した写真及び該商品に同封された使用説明書の写し
甲第10号証:「フィギュア王 NO.28」(平成12年1月15日発行)の表紙、第33頁及び裏表紙
甲第11号証:「電撃HOBBY MAGAZINE 2000年2月号」(2000年2月1日発行)の表紙、第263頁及び奥付

甲第12号証の1ないし10:大丸商事の製造・販売に係る商品である「ブルースリー・アクションドールAタイプ」(第4商品)を撮影した写真及び該商品に同封された使用説明書の写し
甲第13号証:「Hobby JAPAN 1999年3月号」(1999年3月1日発行)の表紙、第137頁及び奥付
甲第14号証:「Hobby JAPAN 1998年12月号」(1998年12月1日発行)の表紙、第281頁及び奥付
甲第15号証:特開2000-185180号公報(平成12年7月4日公開)

甲第16号証:「Hobby JAPAN 1989年7月号」(1989年7月1日発行)の表紙、第39頁及び奥付
甲第17号証:「Hobby JAPAN 1987年8月号」(1987年8月1日発行)の表紙、第34頁及び奥付
甲第18号証:「社団法人日本雑誌協会のホームページ」のトップページ(http://www.j-magazine.or.jp/)、「社団法人日本雑誌協会のホームページ」の「マガジンデータ2007」発行のご案内のページ(http://www.j-magazine.or.jp/data_001/index.html)、及び、「社団法人日本雑誌協会のホームページ」の「その他趣味・専門誌(ホビー(模型・おもちゃ・フィギュアなど))」に関する雑誌名及び発行部数が掲載されたページ(http://www.j-magazine.or.jp/data_001/commonness_3.html)をプリントアウトしたもの
甲第19号証:「これでわかるプラスチック技術」(株式会社工業調査会、2000年9月20日初版第1版発行)の表紙、第210頁及び奥付

甲第20号証:「コミック・ゴン! 第2号」(平成10年5月1日発行)の表紙、第91ないし103頁及び裏表紙
甲第21号証:平成21年3月30日付けの証明願
甲第22号証:平成21年4月1日付けの陳述書

甲第23号証:特開2000-93662号公報(平成12年4月4日公開)
甲第24号証:実願昭49-47610号(実開昭50-138183号)のマイクロフィルム(昭和50年11月13日公開)
甲第25号証:特開平7-185139号公報(平成7年7月25日公開)

甲第26号証:実願昭57-171646号(実開昭59-73994号)のマイクロフィルム(昭和59年5月19日公開)
甲第27号証:実願昭51-99353号(実開昭53-17391号)のマイクロフィルム(昭和53年2月14日公開)
甲第28号証:特開平6-23154号公報(平成6年2月1日公開)
甲第29号証の1ないし10:株式会社バンダイの製造・販売に係る商品である「マジンガーZ エクストラヘビーバージョン」(以下「第5商品」という。)を撮影した写真及び該商品に同封された説明書の写し

甲第30号証:米国特許第3284947号明細書(1966年11月15日公開)
甲第31号証:米国特許第3624691号明細書(1971年11月30日公開)
甲第32号証:特開平2000-61151号公報(平成12年2月29日公開)
甲第33号証:特開平2000-350871号公報(平成12年12月19日公開)

(2)検証物
検甲第1号証(請求人が、甲第1号証の1?10の現物と称する商品)
(検甲第1号証の1:検甲第1号証の包装箱
検甲第1号証の2:検甲第1号証の1に包装されていた人形
検甲第1号証の3:検甲第1号証の1に包装されていた書面)
検甲第2号証(請求人が、甲第6号証の1?11の現物と称する商品)
(検甲第2号証の1:検甲第2号証の包装箱
検甲第2号証の2:検甲第2号証の1に包装されていた人形
検甲第2号証の3:検甲第2号証の1に包装されていた書面)
検甲第3号証(請求人が、甲第9号証の1?8の現物と称する商品)
(検甲第3号証の1:検甲第3号証の包装箱
検甲第3号証の2:検甲第3号証の1に包装されていた人形
検甲第3号証の3:検甲第3号証の1に包装されていた書面)

3 請求人の主張の詳細
(1)第2訂正請求の不適法性について
新規事項の追加
(ア)新規事項の追加その1
軟質製本体が接合線なく一体成形されていることは、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載されていないから、請求項1及び請求項2についての「前記上半身部品は、スラッシュ成形により接合線なく一体成形され、かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、」なる訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合しない。

(イ)新規事項の追加その2
本件特許明細書等に開示されている腰部は腰部本体に押え部材をネジ止めした構成であり、腰部をネジ穴や接合線を有しない一体成形した構成は、本件特許明細書等に記載されていないから、請求項1及び請求項2についての「前記下半身部品は、前記軟質製本体下端の開口と対峙する上端を開放し、ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含み、」なる訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合しない。

イ 目的外訂正又は特許請求の範囲の変更
請求項2についての訂正は、上半身部品は、アンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備えるという発明特定事項を削除する訂正が含まれる。被請求人は、請求項2について訂正は請求項1を限定する特許請求の範囲の減縮を目的とする旨主張しているが、請求項を増加する訂正は、特許請求の範囲を減縮するものではなく、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものである。したがって、請求項2についての訂正は、特許法第134条の2第1項第1号に該当しないから同項の規定に適合しない。また、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定にも適合しない。

(2)第2訂正請求の発明1の進歩性の欠如について
検甲第1号証の2の人形は、「すくなくとも上半身部品と下半身部品が別形成されると共に、前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって、前記上半身部品はスラッシュ成形により接合線なく一体形成され、かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、該軟質製本体内に嵌入して内装され、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を有してなる硬質合成樹脂製の芯材とで構成され、前記芯材は、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を備え、」なる構成と同様の構成を有している。
甲第26号証の図3ないし図5には、「前記下半身連結部材は、下半身部品の上端と対峙する前記軟質製本体下端の開口よりも小径で、かつ該開口に露出して備えられ、前記下半身部品は、前記軟質製本体下端の開口と対峙する上端を開放し、ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含み、前記腰部は、前記下半身連結部材と対峙し、かつ下半身連結部材を差し込み連結可能な上半身部品連結構造を備え、前記上半身部品連結構造は、前記開放した腰部上端よりも小径で、かつその開放した腰部上端に露出して備えられ、前記下半身連結部材と前記上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成され、」なる構成及び「前記棹部と差込み穴との連結状態においては、上半身部品と下半身部品とで覆われた胴体内に前記棹部と差込み穴との連結部分が位置し、外方から視認不可能である」なる構成と略同様の構成が開示されている。すなわち、甲第26号証には、「軟質製本体」に該当する部位(胴部)が硬質である点、「上半身部品連結構造」に該当する部位(係止軸)と「下半身連結部材」に該当する部位(軸嵌合孔)との嵌合関係が逆転している点で構成が異なっているが、その他は同様の構成を有するロボット玩具が開示されている。
「前記下半身部品は、前記軟質製本体下端の開口と対峙する上端を開放し、ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含み、」なる構成は、甲第29号証の1ないし甲第29号証の10に係る人形(第5商品)も同様の構成を有している。甲第29号証の1ないし甲第29号証の10の包装箱及び説明書には「BANDAI 2001 MADE IN JAPAN」と記載されている。当該商品が本件特許に係る特許出願についての原特許出願の出願前に販売されていた事実については現在調査中であり、そのような事実を示す証拠が入手でき次第提出する。
「前記上半身部品と前記下半身部品は、それぞれの端部に露出した前記棹部と前記差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結され、」なる構成は、本件特許に係る特許出願についての原特許出願の出願前に既に公開されていた甲第24号証、甲第27号証、甲第28号証などに開示されているように、従来から多くの人形玩具に採用されているから、周知慣用技術である。


第4 当審が通知した無効理由及び訂正拒絶理由の概要
1 平成21年7月2日付けで通知した無効理由の概要
当審は、登録時特許発明1及び登録時特許発明2について、特許法第153条第1項の規定に基づいて職権で審理し、平成21年7月2日付けで下記の2つの無効理由(以下、それぞれ「職権無効理由1-1」及び「職権無効理由1-2」という。)を通知した。
<職権無効理由1-1(進歩性の欠如)>
登録時特許発明1及び登録時特許発明2は、検甲第1号証の2の人形に係る発明及び周知技術(甲第16及び17号証参照。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1及び請求項2についての特許は特許法第29条2項の規定に違反してされた特許であり、同法第123条第1項第2号の規定に該当するから、無効とすべきである。

<職権無効理由1-2(サポート要件違反)>
登録時特許発明2には、上半身部品を構成する芯材がアンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、接合線の無い一体成形品である可動人形用胴体が含まれることになるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上半身部品を構成する中空の軟質製本体がアンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、接合線の無い一体成形品である可動人形用胴体しか記載されていない。したがって、請求項2についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた特許であり、同法第123条第1項第4号の規定に該当するから、無効とすべきである。

2 平成21年10月15日付けで通知した無効理由の概要
当審は、平成21年8月5日付けの第1訂正請求に対して、職権で審理し、平成21年10月15日付けで下記の無効理由(以下「職権無効理由2」という。)を通知した。
<職権無効理由2(進歩性の欠如)>
第1訂正請求に係る特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明は、検甲第1号証の2の人形に係る発明、甲第24号証に記載された発明及び周知技術(甲第16及び17号証参照。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1及び請求項2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされた特許であり、同法第123条第1項第2号の規定に該当するから、無効とすべきである。

3 平成22年1月14日付けで通知した訂正拒絶理由の概要
当審は、平成21年11月18日付けの第2訂正請求に対して、特許法第134条の2第3項の規定に基づいて職権で審理し、平成22年1月14日付けで、下記の訂正拒絶理由(以下「職権訂正拒絶理由」という。)を通知するとともに、上記「第3」の「3」の「(1)」に記載した請求人の指摘した訂正拒絶理由のうちの、「ア」の「(イ)新規事項の追加その2」及び「イ 目的外補正及び特許請求の範囲の変更」に記載された2つの訂正拒絶理由についても通知した。
<職権訂正拒絶理由>
請求項1及び請求項2についての訂正は、「上半身部品連結構造」が「腰部上端に露出」するという内容を含むところ、当該訂正事項は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しない。


第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
(1)請求人の主張する無効理由について
新規性進歩性の実体的要件について
本件特許発明と、第1商品発明ないし第4商品発明との間には相違点があり、当該相違点は請求人の挙げるいずれの証拠にも開示はないから、請求人の主張には理由がない。
イ 第1商品発明ないし第4商品発明の公然実施について
第1商品及び第2商品が本件特許の出願前に発売された点については認める(平成21年4月9日付けの答弁書を参照。)。
第3商品及び第4商品については、本件特許の出願前に発売された点については否認する(それぞれ平成21年2月13日付けの回答書及び平成21年1月16日付け審判事件答弁書を参照。)。

(2)第2訂正請求の発明1の進歩性について
請求人は、検甲第1号証の2の人形は、「すくなくとも上半身部品と下半身部品が別形成されると共に、前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって、前記上半身部品はスラッシュ成形により接合線なく一体形成され、かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と、該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質合成樹脂製の芯材とで構成され、前記芯材は、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を備え、」と同様の構成を備えている旨主張するが、第1商品における「上半身部材」を本件特許発明における「芯材」として解釈することは妥当ではないから、第1商品に係る人形が上記構成を備えているとは認められない。
仮に検甲第1号証の2の人形が上記構成を備えているとしても、第2訂正請求の発明1は、ねじ孔や接合線を有していない外観の美観を向上した腰部本体を含む下半身部品を採用していながら、上半身部品と下半身部品との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって分離・連結可能な可動人形用胴体を提供し得るものであるところ、この点について請求人が挙げる先行技術には全く開示されておらず、また、示唆されているものでもないから、第2訂正請求の発明1は、検甲第1号証の2の人形に係る発明、甲第26号証に記載された事項及び請求人が主張する周知慣用技術(甲第24号証、甲第27号証及び甲第28号証)から当業者が容易に想到できるものではない。

2 証拠方法(乙号証))
乙第1号証:株式会社ボークスのホームページの「初めての方へ Dollfie Dream コンセプト」のページ(http://www.volks.co.jp/jp/dollfiedream/concept.html)をプリントアウトしたもの
乙第2号証:株式会社ボークスのホームページの「ドルフィー 12in アクションフィギュア」のページ(http://www.volks.co.jp/jp/dollfie/dollfie_12in.aspxl)をプリントアウトしたもの

3 被請求人の主張の詳細
(1)請求人の主張する無効理由について
ア 請求人の主張する無効理由1について
登録時特許発明1と第1商品発明を対比すると、両者は次の3点、すなわち、(a)第1商品発明は、上半身部品を構成する軟質製本体内に嵌入して内装される芯材を有していないのに対し、登録時特許発明1は、上半身部品を構成する軟質製本体内に嵌入して内装される芯材を有している点(第1商品の人形用胴体において請求人が主張する上半身芯材は素体の一部であって人形用の胴体の一部として成立しているものであり、登録時特許発明1の芯材とは異なる。)、(b)第1商品発明の上半身部品は硬質合成樹脂からなるものであるのに対し、登録時特許発明1の上半身部品は軟質製本体と芯材で構成されている点、及び、(c)第1商品発明は、上半身部品を構成する芯材に備えた下半身連結部材を介して、下半身部品の上半身連結構造と分離・組み立て可能に連結されているものではないのに対し、登録時特許発明1は、上半身部品と下半身部品が分離・組み立て可能に連結されている点、の3点で相違する。したがって、登録時特許発明1は、第1商品発明と同一ではないから、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明に該当しない。

イ 請求人の主張する無効理由2について
(ア)請求人の主張する無効理由2-1について
第2商品の人形用胴体は、その素体自体は第1商品の人形用胴体と同一であって、素体の上半身に外装されるソフビパーツのデザインが異なるだけであるから、登録時特許発明1及び登録時特許発明2(以下、双方を総称して「登録時特許発明」という。)と第2商品発明は、登録時特許発明1と第1商品発明の相違点(上記「ア」参照。)と同じ点で相違する。また、本件特許の出願時における一般的技術を示す文献として請求人が提出した甲第16、17及び19号証は、単に、ソフトビニルやスラッシュ成形についての記載がなされている文献に過ぎない。したがって、第2商品発明、第1商品発明及び本件特許の出願時における一般的技術(甲第16、17及び19号証を参照。)を組み合わせても、登録時特許発明には容易に想到し得ないから、登録時特許発明は当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)請求人の主張する無効理由2-2について
登録時特許発明と第3商品発明を対比すると、両者は次の3点、すなわち、(a)第3商品発明は、上半身部品を構成する軟質製本体内に嵌入して内装される芯材を有していないのに対し、登録時特許発明は、上半身部品を構成する軟質製本体内に嵌入して内装される芯材を有している点(第3商品の人形用胴体において請求人が主張する上半身芯材は素体の一部であって人形用の胴体の一部として成立しているものであり、登録時特許発明の芯材とは異なる)、(b)第3商品発明の上半身部品は硬質合成樹脂からなるものであるのに対し、登録時特許発明の上半身部品は軟質製本体と芯材で構成されている点、、及び、(c)第3商品発明は、上半身部品を構成する芯材に備えた下半身連結部材を介して、下半身部品の上半身連結構造と分離・組み立て可能に連結されているものではないのに対し、登録時特許発明は、上半身部品と下半身部品が分離・組み立て可能に連結されている点、の3点で相違する。そして、第1商品発明は、これらの相違点を有していない。また、本件特許の出願時における一般的技術を示す文献として請求人が提出した甲第16、17及び19号証は、単に、ソフトビニルやスラッシュ成形についての記載がなされている文献に過ぎない。したがって、第3商品発明、第1商品発明及び本件特許の出願時における一般的技術(甲第16、17及び19号証を参照。)を組み合わせても、登録時特許発明には容易に想到し得ないから、登録時特許発明は当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 請求人の主張する無効理由2-3について
登録時特許発明と第4商品発明を対比すると、両者は次の3点、すなわち、(a)第4商品発明は、芯材が全身本体に収容される部分と左右の脚部に収容される部分を有し、それらが一体にネジ止め構成されているのに対し、登録時特許発明は、そのような構成を採用していない点、(b)第4商品発明は、上半身部品を構成する芯材に備えた下半身連結部材を介して、下半身部品の上半身連結構造と分離・組み立て可能に連結する構成ではないのに対し、登録時特許発明は、上半身部品と下半身部品が分離・組み立て可能に連結されている点、(c)第4商品発明は、芯材が軟質製本体内に嵌入されている構成ではないのに対し、登録時特許発明は、芯材が軟質製本体内に嵌入されている点、の3点で相違する。また、登録時特許発明と第1商品発明は、上記「ア」で述べた点で相違する。さらに、本件特許の出願時における一般的技術を示す文献として請求人が提出した甲第16、17及び19号証は、単に、ソフトビニルやスラッシュ成形についての記載がなされている文献に過ぎない。したがって、第4商品発明、第1商品発明及び本件特許の出願時における一般的技術(甲第16、17及び19号証を参照。)を組み合わせても、登録時特許発明には容易に想到し得ないから、登録時特許発明は当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)第2訂正請求の発明1の進歩性について
ア 「芯材」と「人形素体」の相違
可動人形で用いられる芯材というものは、それのみでは人形としての体をなさないもので、胴体と認められる部位(本件特許発明の軟質製本体など)と組合わさって初めて人形として成立する。検甲第1号証の2の硬質の胴体(上半身部材)は、カバー部材がなくとも人形として成立するいわゆる人形素体を構成する胴体である。審判官は、本件特許発明の芯材を解釈するにあたって本件特許の明細書に記載の実施形態を参照し、本件特許発明の「芯材」とは、「中空の軟質製本体」と接触する面積がある程度大きな板状の部材を有し、「中空の軟質製本体」を外部から押圧しても「中空の軟質製本体」に上半身の形状を保たせる機能を有する部材である旨認定し、その上で検甲第1号証の2の胴体(上半身部材)が芯材に相当すると認定しているが、解釈を拡げて芯材と認めるのは妥当ではない。当業者の間でも人形の胴体として認識されている部位を芯材として解釈するということはしていないものと思われる。

イ 各甲号証について
甲第24号証には、「棹部と差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結されるとの構成は開示されておらず、何ら示唆されていない。甲第24号証で開示されている「球状態」や「椀状態」のいずれかが設けられる胴体は人形の胴体であって、芯材ではない。さらに、この胴体を芯材として用いる記載若しくは思想は全く開示されておらず、かつ示唆されているものでもない。甲第24号証に開示されている人形は、胴体と腰体の着脱自在な構造のみに着眼しているもので、人形に対して需要者が求めている外観上の美観及び、その美観を備えつつ、上半身部品と下半身部品の容易な着脱・上半身部品と下半身部品の連結状態を保持する構造については何ら考慮されていない。
甲第26号証の人形における胴部と腰部は、係止軸とフックの係止構造を用いて連結及び連結解除をなすものである。この係止構造は、フックと解除ボタン(23)で構成された係止体(25)と係止軸で構成されるものである。そして、腰部の上端から突出させて備えた係止軸は括れ部(22a)と先端係止部(22b)を含んで構成されている。したがって、甲第26号証の人形は、棹部と差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結される構成を有するものではない。また、甲第26号証には、ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含むことの記載や示唆はない。
甲第27号証における「腹部」と「胸部」の連結構造は、輪壌状凸体と冠状窩体によって分離・連結する構造であるから、本件特許発明のように棹部と差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結される構成ではない。
甲第28号証は、人体像製作用芯材であって、骨組を形成する芯材に関する発明であることは甲第28号証の明細書などからも明白である。単なる骨組みとしての各芯材同士を連結する際に用いられる構造であって、人形の上半身部品と下半身部品を着脱自在に連結する構造に関するものではない。
甲29号証の1?10に係る商品が本件出願前に公然実施された点については不知。甲29号証の1?10に係る商品の部品には、ゲート跡の傷やパーティングラインが存在していると考えられるから、甲第29号証の1ないし甲第29号証の10に係る人形(第5商品)が「前記下半身部品は、前記軟質製本体下端の開口と対峙する上端を開放し、ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含み、」なる構成を有しているとは認められない。


第6 当審の判断
1 審理終結の時機について
最高裁昭和51年5月6日第1小法廷判決・取消集(昭和51年)157頁(昭和45年(行ツ)32号)は、訂正審判により訂正を認める旨の審決が確定し、これにより特許無効審判の対象に変更が生じたときには、従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防御について修正、補充を必要としないことが明白な格別な事情があるときを除き、変更された後の審判対象の特許について特許無効審判の請求人に弁駁の機会を与えるべき旨判示した。これを受け、審判便覧においても、「訂正審判を優先して審理した場合において、訂正を認める旨の審決が確定し、これにより無効審判の対象に変更が生じたときには、当該変更の内容を無効審判の請求人に通知し、変更された後の審判対象の特許について無効審判の請求人に相当の期間を指定して意見を申し立てる弁駁機会を与える」となっている(「審判便覧 51-09 特許無効審判と訂正審判の関連的な取扱い」を参照)。以下、この点について検討する。
訂正審判(訂正2010-390049号。以下単に「訂正審判」ということがある。)の審判請求書に添付された特許請求の範囲を第2訂正請求に係る特許請求の範囲と対比すると、訂正審判の確定によりなされた請求項1についての訂正事項は、「対向」と「対峙」等の文言上の相違による微差がある点を除けば、第2訂正請求に係る特許請求の範囲の請求項1の記載に実質的に現れているということができる。また、請求項2についての訂正事項としては、請求項1に対して行った訂正事項に加えて、設定登録時の請求項2に対して当審が通知した職権無効理由2(サポート要件違反)を解消することを目的として請求項2を願書に添付された明細書又は図面に記載された範囲に減縮する訂正事項があるのみである。そして、請求人は、第2訂正請求に対して弁駁の機会を有していた。このような事情を踏まえると、本件特許無効審判においては、訂正審判の確定により特許無効審判の対象に変更が生じたといっても、第2訂正請求に対してされた請求人の主張を本件特許発明に対する主張として読み替えて参酌して審理することにより、本件特許無効審判の請求人にその変更点についての弁駁の機会が実質的にあったということができるから、従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防御について修正、補充を必要としないことが明白な格別な事情があったと認められる。したがって、当審は、知的財産高等裁判所からの事件の差戻し後、第2訂正請求に対してされた請求人の主張を本件特許発明に対する主張として読み替えて参酌して審理し、請求人に特段弁駁を促すことなく審理を終結した。なお、平成22年8月30日付けで審理終結通知書を送付(平成22年9月1日発送)したところ、審理再開の申立てはされていない。

2 第2訂正請求について
既に述べたとおり、訂正(第2訂正請求)を認めず、請求項1及び請求項2に係る特許を無効とした第1次審決は、知的財産高等裁判所により特許法第181条第2項の規定に基づいて取り消された。一方、知的財産高等裁判所が第1次審決を取り消す前に、訂正審判が確定しており、第2訂正請求の取り扱いが問題となる。
これに関連する特許法の規定として、特許法第134条の3第2項の「審判長は、第181条第2項の規定による審決の取消しの決定が確定し、同条第5項の規定により審理を開始するときは、被請求人に対し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求するための相当の期間を指定しなければならない。ただし、当該審理の開始の時に、当該事件について第126条第2項ただし書に規定する期間内に請求された訂正審判の審決が確定している場合は、この限りでない。」との規定、及び、特許法第134条の3第5項の「第126条第2項ただし書に規定する期間内に訂正審判の請求があつた場合において、第1項又は第2項の規定により指定された期間内に前条第1項の訂正の請求がされなかつたときは、その期間の末日に、その訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面を第3項の規定により援用した同条第1項の訂正の請求がされたものとみなす。ただし、その期間の末日にその訂正審判の審決が確定している場合は、この限りでない。」との規定がある。さらに、特許法第134条の2第4項には、「第1項の訂正の請求がされた場合において、その審判事件において先にした訂正の請求があるときは、当該先の請求は、取り下げられたものとみなす。」との規定がある。これらの規定を併せ読むと、特許法第181条第2項の規定により審決が取り消された場合であって、訂正審判が確定していない場合には、先にした訂正請求はもれなく取り下げられたものと見なされることが理解される。そして、特許法第134条の2第4項の趣旨が、訂正請求が複数回あった場合に特許権者の意思を最もよく反映しているのは後の訂正請求であるということを踏まえて、手続の煩雑さを回避することを目的としていることは明らかである。また、特許法第134条の3第2項のただし書「ただし、当該審理の開始の時に、当該事件について第126条第2項ただし書に規定する期間内に請求された訂正審判の審決が確定している場合は、この限りでない。」及び特許法第134条の3第5項のただし書「ただし、その期間の末日にその訂正審判の審決が確定している場合は、この限りでない。」の規定の趣旨について検討すると、それぞれ訂正審判が確定した場合にまでも特許法第134条の3第2項前段に規定の行為をする必要性がないこと、及び、特許法第134条の3第5項前段のように規定する意味がないからであることは明らかである。以上を踏まえれば、特許法第134条の2第4項は、訂正請求が複数回された場合のみを規定しており、訂正請求があった後に訂正審判が確定した場合については明示的には規定してないとはいえ、本件のような場合も、第2訂正請求は取り下げられたものとして扱うことが合理的であると考えられる。
さらには、1)請求人は第2訂正請求が不適法である旨主張していることを踏まえれば第2訂正請求が取下げ扱いとなることについて請求人に異論があるとは考え難いこと、2)第1次審決が第2訂正請求は不適法なものとして認めない旨結論したことを踏まえて訂正審判を請求したことを考えれば第2訂正請求が取下げ扱いとなることについて被請求人に異論があるとは考え難いこと、3)第2訂正請求が訂正拒絶理由で通知した理由により認められないことは明らかであるから、たとえ第2訂正請求が取下げ扱いとならなくても審決の結論には影響が出ないこと(なお、第2訂正請求を補正する平成22年2月16日付けの手続補正書は、第2訂正請求の要旨を変更するものであるから、当該補正は認められない。)、及び、4)第2訂正請求を取下げ扱いとしても請求人及び被請求人の双方にとって特段の不利益を生じるとは考えられないこと、を考慮すれば、第2訂正請求は取り下げられたものとして扱うことが合理的であると考えられる。
以上検討のとおりであるから、当審は、第2訂正請求は取り下げられたものとして扱い、検討する。

3 新規性進歩性について
(1)出願日の認定
本件特許は、平成14年4月23日に出願された原出願の一部を特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであるから、本件特許の出願日は、同条第2項の規定により、原出願の出願日である平成14年4月23日であるとみなされる。

(2)第1商品発明ないし第5商品発明の本件特許出願前の公然実施の検討
ア 第1商品発明の本件特許出願前の公然実施について
被請求人は、第1商品が本件特許の出願前に発売されたことを認めており(平成21年4月9日付けの答弁書参照)、第1商品発明が本件特許の出願前に公然実施をされた発明であることについて、当事者間に争いはない。
請求人は、第1商品が本件特許の出願前に発売された事実を示す証拠方法として、甲第1号証の1、甲第2ないし5号証及び甲第20ないし22号証を提出しているところ、念のため、これらの証拠方法のうち特に甲第2、5及び20号証について検討する。
(ア)甲第2号証について
甲第2号証は本件特許の出願前である1997年8月1日に発行された刊行物である。甲第2号証の3頁には「恒例となった夏のガレージキットカタログも今年で第11弾を迎えることとなった。果たして今年はどんなキットがどれくらい発売されたのか?」と記載され、78頁の「[REAL ACTION HEROES]」の欄には「メディコム・トイより毎月約2体リリースされている、リアルアクションヒーローズは・・・全身が可動する完成品人形である。」と記載され、78頁の「デビルマン原作版」の欄には「○3 9800円、発売中」(当審注:「○3」は「丸付き数字3」のことである。以下同様。)という記載とともに人形の写真が掲載されている。したがって、甲第2号証の78頁の「デビルマン原作版」の欄に掲載された人形(以下「甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形」という。)は、甲第2号証の刊行物の発行日である1997年8月1日以前に発売されたと認めることができる。
そして、次の(a)ないし(f)に照らすと、第1商品の人形と甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形は同一であると認めることができる。すなわち、(a)甲第1号証の2に示された写真と甲第2号証の78頁の「デビルマン原作版」の欄に掲載された写真を比べると、第1商品の人形と甲第2号証のデビルマン原作版デビルマンに係る人形はいずれもデビルマンに係る人形であって、その外観は極めて似ている。(b)甲第1号証の1の【正面】の写真及び甲第1号証の10には「REAL ACTION HEROES」という記載が存在し、甲第1号証の1の【側面】の写真には「(株)メディコム・トイ」という記載が存在し、甲第2号証の78頁の「[REAL ACTION HEROES]」の欄には「メディコム・トイより毎月約2体リリースされている、リアルアクションヒーローズ」と記載されていることから、第1商品の人形と甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形はいずれも株式会社メディコム・トイから「リアルアクションヒーローズ」というシリーズで販売された人形である点で共通する。(c)甲第1号証の10には「この製品はボディ内部にフル可動ボディを組み込んであり、全身が可動します。」、「可動ボディ ○C TAKARA 1995」(当審注:「○C」は「丸付きアルファベットC」のことである。以下同様。)と記載され、甲第2号証の78頁の「[REAL ACTION HEROES]」の欄には「メディコム・トイより毎月約2体リリースされている、リアルアクションヒーローズはタカラ製のニューコンバットジョーを内蔵し」と記載されていることから、第1商品の人形と甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形はいずれも内部にタカラ製の可動ボディが組み込まれたものである点で共通する。(d)甲第1号証の10には「30.Devil Man コミックバージョン ・・・ ¥9,800」と記載され、甲第2号証の78頁の「デビルマン原作版」の欄には「○3 9800円、発売中」と記載されていることから、第1商品の人形と甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形はいずれも9800円で販売されていた点で共通する。(e)甲第1号証の1の【正面】の写真には「DevilMan」、「COMIC VERSION」という記載が存在し、甲第1号証の10には「デビルマン?コミックバージョン」、「Devil Man コミックバージョン」と記載されているのに対し、甲第2号証の78頁には「デビルマン原作版」と記載されていることから、第1商品の人形はデビルマンの「コミックバージョン」に係る人形であるのに対し、甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形はデビルマンの「原作版」に係る人形である点で一応相違するが、デビルマンの原作版はデビルマンの漫画版すなわちコミックバージョンであることは本件特許の出願時において当業者にとって常識的な事項であるから(例えば、本件特許の出願前である1997年5月1日に発行された甲第4号証の103頁には、「原作版デビルマン」という記載が、「DevilMan」、「COMIC VERSION」という記載とともに存在する。)、かかる常識的事項に照らすと、第1商品の人形と甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形はいずれもデビルマンの「コミックバージョン」に係る人形である点で共通している。(f)被請求人は、平成21年6月4日の口頭審理において、甲第1号証の1?9に示された人形が、甲第2号証のデビルマンに係る人形と同一であることを認めている。
以上検討のとおり、甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形は1997年8月1日以前に発売されたと認めることができ、第1商品の人形と甲第2号証のデビルマン原作版に係る人形は同一であると認めることができるから、甲第2号証に基づいて、第1商品は本件特許の出願前に発売されたと認めることができる。
(イ)甲第5号証について
甲第5号証は本件特許の出願前である1997年8月5日に発行された刊行物である。甲第5号証の表紙の折り返しには、「変身サイボーグとは、男の子向け『着せ替えヒーロー人形』のシリーズ名である(1972?1975/タカラ)。人形本体と『変身セット』と呼称されるコスチュームに大別され、…(中略)…さらに、最近この『変身人気』を背景にメディコム・トイから販売されている『リアルアクションヒーローズ』も同時掲載した。」と記載され、87頁には「1997」、「DEVIL MAN」、「(comic version)」という記載とともに人形の写真が掲載されている。したがって、甲第5号証の87頁の「1997」、「DEVIL MAN」、「(comic version)」という記載とともに掲載された人形(以下「甲第5号証のデビルマン(コミックバージョン)に係る人形」という。)は、甲第5号証の刊行物の発行日である1997年8月5日以前に発売されたと認めることができる。
そして、次の(a)ないし(c)に照らすと、第1商品の人形と甲第5号証のデビルマン(コミックバージョン)に係る人形は同一であると認めることができる。すなわち、(a)甲第1号証の2に示された写真と甲第5号証の87頁の「1997」、「DEVIL MAN」、「(comic version)」という記載とともに掲載された写真を比べると、第1商品の人形と甲第5号証のデビルマン(コミックバージョン)に係る人形はいずれもデビルマンのコミックバージョンに係る人形であって、その外観は極めて似ている。(b)甲第1号証の1の【正面】の写真及び甲第1号証の10には「REAL ACTION HEROES」という記載が存在し、甲第1号証の1の【側面】の写真には「(株)メディコム・トイ」という記載が存在し、甲第5号証の表紙の折り返しには「さらに、最近この『変身人気』を背景にメディコム・トイから販売されている『リアルアクションヒーローズ』も同時掲載した。」と記載されていることから、第1商品の人形と甲第5号証のデビルマン(コミックバージョン)に係る人形はいずれも株式会社メディコム・トイから「リアルアクションヒーローズ」というシリーズで販売された人形である点で共通している。(c)被請求人は、平成21年6月4日の口頭審理において、甲第1号証の1?9に示された人形が、甲第5号証のデビルマンに係る人形と同一であることを認めている。
以上検討のとおり、甲第5号証のデビルマン(コミックバージョン)に係る人形は1997年8月5日以前に発売されたと認めることができ、また、第1商品の人形と甲第5号証のデビルマン(コミックバージョン)に係る人形は同一であると認めることができるから、甲第5号証に基づいて、第1商品は本件特許の出願前に発売されたと認めることができる。
(ウ)甲第20号証について
甲第20号証は本件特許の出願前である平成10年5月1日に発行された刊行物である。甲第20号証の94頁には「原作版デビルマン」、「97年5月下旬発売」という記載とともに人形の写真が掲載されており、102頁には「メディコム・トイの歴史ともいえる発売されたフィギュアたち。その全部を漏らすことなくリストにした。」と記載され、甲第20号証の102頁には「リアルアクションヒーローズNo.30」、「原作版デビルマン」という記載とともに人形の写真が掲載され、さらに、「○1 商品名」、「○3 発売年月」、「No.30 ○1 原作版デビルマン」、「○3 97年5月」と記載されている。したがって、甲第20号証の94頁及び102頁の「原作版デビルマン」という記載とともに掲載された人形(以下「甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形」という。)は、1997年5月末日以前に発売されたと認めることができる。
そして、次の(a)ないし(f)に照らすと、第1商品の人形と甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形は同一であると認めることができる。すなわち、(a)甲第1号証の2に示された写真と、甲第20号証の94頁及び102頁の「原作版デビルマン」という記載とともに掲載された写真を比べると、第1商品の人形と甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形はいずれもデビルマンを模した人形であって、その外観は極めて似ている。(b)甲第1号証の1の【正面】の写真及び甲第1号証の10には「REAL ACTION HEROES」という記載が存在し、甲第1号証の1の【側面】の写真には「(株)メディコム・トイ」という記載が存在し、甲第20号証の94頁及び102頁の「原作版デビルマン」の欄には「リアルアクションヒーローズNo.30」と記載されており、甲第20号証の102頁には「メディコム・トイの歴史ともいえる発売されたフィギュアたち。その全部を漏らすことなくリストにした。」と記載されていることから、第1商品の人形と甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形はいずれも株式会社メディコム・トイから「リアルアクションヒーローズ」というシリーズで販売された人形である点で共通する。(c)甲第1号証の10には「この製品はボディ内部にフル可動ボディを組み込んであり、全身が可動します。」、「可動ボディ ○C TAKARA 1995」と記載され、甲第20号証の103頁には「リアルアクションヒーローズの全ての商品はニューコンバットジョーの採用により全身全15箇所可動 ○C TAKARA」記載されていることから、第1商品の人形と甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形はいずれも内部にタカラ製の可動ボディが組み込まれたものである点で共通する。(d)甲第1号証の10には「30.Devil Man コミックバージョン ・・・ ¥9,800」という記載が存在し、甲第20号証の94頁の「原作版デビルマン」の欄には「価格¥9800 97年5月下旬発売」という記載が存在することから、第1商品の人形と甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形はいずれも9800円で販売されていた点で共通する。(e)甲第1号証の1の【正面】の写真には「DevilMan」、「COMIC VERSION」という記載が存在し、甲第1号証の10には「デビルマン?コミックバージョン」、「Devil Man コミックバージョン」と記載されているのに対し、甲第20号証の94頁には「原作版デビルマン」と記載され、甲第20号証の102頁には「○1 商品名」、「No.30 ○1 原作版デビルマン」と記載されていることから、第1商品の人形はデビルマンの「コミックバージョン」に係る人形であるのに対し、甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形はデビルマンの「原作版」に係る人形である点で一応相違するが、デビルマンの原作版はデビルマンの漫画版すなわちコミックバージョンであることは本件特許の出願時において当業者にとって常識的な事項であるから(例えば、本件特許の出願前である1997年5月1日に発行された甲第4号証の103頁には、「原作版デビルマン」という記載が、「DevilMan」、「COMIC VERSION」という記載とともに存在する。)、かかる常識的事項に照らすと、第1商品の人形と甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形はいずれもデビルマンの「コミックバージョン」に係る人形である点で共通している。(f)被請求人は、平成21年6月4日の口頭審理において、甲第1号証の1?9に示された人形が、甲第20号証のデビルマンに係る人形と同一であることを認めている。
以上検討のとおり、甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形は1997年5月末日以前に発売されたと認めることができ、また、第1商品の人形と甲第20号証の原作版デビルマンに係る人形は同一であると認めることができるから、甲第20号証に基づいて、第1商品は本件特許の出願前に発売されたと認めることができる。
(エ)第1商品の本件特許出願前の公然実施についての小括
以上のとおりであるから、請求人が提出した甲第2、5及び20号証から、第1商品は本件特許の出願前に発売されており、第1商品発明は本件特許の出願前に公然実施をされた発明であると認められる。

イ 第2商品発明の本件特許出願前の公然実施について
被請求人は、第2商品が本件特許の出願前に発売されたことを認めており(平成21年4月9日付けの答弁書参照)、第2商品発明が本件特許の出願前に公然実施をされた発明であることについて、当事者間に争いはない。
請求人は、第2商品が本件特許の出願前に発売された事実を示す証拠方法として、甲第7、8及び20号証を提出しているところ、念のため、これらの証拠方法のうち特に甲第7及び20号証について検討する。
(ア)甲第7号証について
甲第7号証は本件特許の出願前である1998年8月1日に発行された刊行物である。甲第7号証の5頁には「今回で12回目を迎える『ホビージャパンエクストラ夏の号恒例ガレージキットカタログ』ですが、掲載されたガレージキットの点数はなんと900点以上!(ちなみに昨年は700点以上・・・・・)この1年間に発売されたキットはもちろんのこと、今夏発売の最新キットまで掲載しています。」と記載され、102頁の「[メディコム・トイ]」の欄には「メディコム・トイから発売されている可動人形は『リアルアクションヒーローズ(RAH)』と呼ばれるタカラ製ニューコンバットジョー内蔵のものである。」と記載され、102頁の「タイガーマスク」の欄には人形の写真が掲載されている。したがって、甲第7号証の102頁の「タイガーマスク」の欄に掲載された人形(以下「甲第7号証のタイガーマスクに係る人形」という。)は、甲第7号証の刊行物の発行日である1998年8月1日以前に発売されたと認めることができる。
そして、次の(a)ないし(d)に照らすと、第2商品の人形と甲第7号証のタイガーマスクに係る人形は同一であると認めることができる。すなわち、(a)甲第6号証の2に示された写真と甲第7号証の102頁の「タイガーマスク」の欄に掲載された写真を比べると、第2商品の人形と甲第7号証のタイガーマスクに係る人形はいずれもタイガーマスクに係る人形であって、その外観は極めて似ている。(b)甲第6号証の1の写真及び甲第6号証の11には「REAL ACTION HEROES」という記載が存在し、甲第6号証の1の【背面図】の写真には「(株)メディコム・トイ」という記載が存在し、甲第7号証の102頁の「[メディコム・トイ]」の欄には「メディコム・トイから発売されている可動人形は『リアルアクションヒーローズ(RAH)』と呼ばれるタカラ製ニューコンバットジョー内蔵のものである。」と記載されていることから、第2商品の人形と甲第7号証のタイガーマスクに係る人形はいずれも株式会社メディコム・トイから「リアルアクションヒーローズ」というシリーズで販売された人形である点で共通する。(c)甲第6号証の11には「ボディ内部にフル可動ボディを組み込んであり、全身が可動します。」、「可動ボディ ○C TAKARA 1995」と記載され、甲第7号証の102頁の「[メディコム・トイ]」の欄には「メディコム・トイから発売されている可動人形は『リアルアクションヒーローズ(RAH)』と呼ばれるタカラ製ニューコンバットジョー内蔵のものである。」と記載されていることから、第2商品の人形と甲第7号証のタイガーマスクに係る人形はいずれも内部にタカラ製の可動ボディが組み込まれたものである点で共通している。(d)被請求人は、平成21年6月4日の口頭審理において、甲第6号証の1?10に示された人形が、甲第7号証のタイガーマスクに係る人形と同一であることを認めている。
以上検討のとおり、甲第7号証のタイガーマスクに係る人形は1998年8月1日以前に発売されたと認めることができ、また、第2商品の人形と甲第7号証のタイガーマスクに係る人形は同一であると認めることができるから、甲第7号証に基づいて、第2商品は本件特許の出願前に発売されたと認めることができる。
(イ)甲第20号証について
甲第20号証は本件特許の出願前である平成10年5月1日に発行された刊行物である。甲第20号証の99頁には「タイガーマスク」、「97年10月下旬発売」という記載とともに人形の写真が掲載されており、102頁には「メディコム・トイの歴史ともいえる発売されたフィギュアたち。その全部を漏らすことなくリストにした。」と記載され、103頁には「リアルアクションヒーローズNo.42」、「タイガーマスク」という記載とともに人形の写真が掲載され、102頁には「○1 商品名」、「○3 発売年月」と記載されるとともに、103頁には「No.42 ○1 タイガーマスク」、「○3 97年10月下旬発売」と記載されている。したがって、甲第20号証の99頁及び103頁の「タイガーマスク」という記載とともに掲載された人形(以下「甲第20号証のタイガーマスクに係る人形」という。)は、1997年10月末日以前に発売されたと認めることができる。
そして、次の(a)ないし(d)に照らすと、第2商品の人形と甲第20号証のタイガーマスクに係る人形は同一であると認めることができる。すなわち、(a)甲第6号証の2に示された写真と、甲第20号証の99頁及び103頁の「タイガーマスク」という記載とともに掲載された写真を比べると、第2商品の人形と甲第20号証のタイガーマスクに係る人形はいずれもタイガーマスクに係る人形であって、その外観は極めて似ている。(b)甲第6号証の1の写真及び甲第6号証の11には「REAL ACTION HEROES」という記載が存在し、甲第6号証の1の【背面図】の写真には「(株)メディコム・トイ」という記載が存在し、甲第20号証の99頁及び103頁の「タイガーマスク」の欄には「リアルアクションヒーローズNo.42」と記載されており、甲第20号証の102頁には「メディコム・トイの歴史ともいえる発売されたフィギュアたち。その全部を漏らすことなくリストにした。」と記載されていることから、第2商品の人形と甲第20号証のタイガーマスクに係る人形はいずれも株式会社メディコム・トイから「リアルアクションヒーローズ」というシリーズで販売された人形である点で共通する。(c)甲第6号証の1の【側面図】及び【背面図】には「REAL ACTION HEROES」、「INCLUDES」、「NEW COMBAT JOE」という記載が存在し、甲第6号証の11には「ボディ内部にフル可動ボディを組み込んであり、全身が可動します。」、「可動ボディ ○C TAKARA 1995」と記載され、甲第20号証の103頁には「リアルアクションヒーローズの全ての商品はニューコンバットジョーの採用により全身全15箇所可動 ○C TAKARA」と記載されていることから、第2商品の人形と甲第20号証のタイガーマスクに係る人形はいずれも内部にニューコンバットジョーと呼ばれるタカラ製の可動ボディが組み込まれたものである点で共通している。(d)被請求人は、平成21年6月4日の口頭審理において、甲第6号証の1?10に示された人形が、甲第20号証のタイガーマスクに係る人形と同一であることを認めている。
以上検討のとおり、甲第20号証のタイガーマスクに係る人形は1997年10月末日以前に発売されたと認めることができ、また、第2商品の人形と甲第20号証のタイガーマスクに係る人形は同一であると認めることができるから、甲第20号証に基づいて、第2商品は本件特許の出願前に発売されたと認めることができる。
(ウ)第2商品発明の本件特許出願前の公然実施についての小括
以上のとおりであるから、請求人が提出した甲第7及び20号証から、第2商品は本件特許の出願前に発売されており、第2商品発明は本件特許の出願前に公然実施をされた発明であると認められる。

ウ 第3商品発明の本件特許出願前の公然実施について
請求人は、第3商品が本件特許の出願前に発売された事実を示す証拠方法として、甲第10及び11号証を提出している。そこで、これらの証拠方法について検討する。
(ア)甲第10号証について
甲第10号証は本件特許の出願前である平成12年1月15日に発行された刊行物である。しかし、甲第10号証の33頁の「闘将ラーメンマン見参!」の欄には「2000年1月発売予定」と記載されているに過ぎず、甲第10号証には第3商品が実際にいつ発売されたのかは記載されていない。また、甲第9号証の1から、第3商品の人形は「ラーメンマン」の「銀らめバージョン」に係る人形であると認められるところ、甲第10号証の33頁の「闘将ラーメンマン見参!」の欄に掲載された人形が「ラーメンマン」の「銀らめバージョン」に係る人形であることが記載されていないから、第3商品の人形と甲第10号証の33頁の「闘将ラーメンマン見参!」の欄に掲載された人形が同一であると認めることはできない。したがって、甲第10号証は、第3商品が本件特許の出願前に発売されたことを示すものではない。
(イ)甲第11号証について
甲第11号証は本件特許の出願前である2000年2月1日に発行された刊行物である。しかし、甲第11号証の263頁の「SERIES No,029」、「ラーメンマン」という記載の下には、「1月下旬発売予定」と記載されているに過ぎず、甲第11号証には第3商品が実際にいつ発売されたのかは記載されていない。また、甲第9号証の1から、第3商品の人形は「ラーメンマン」の「銀らめバージョン」に係る人形であると認められるところ、甲第11号証の281頁の「ラーメンマン」という記載とともに掲載された人形が「ラーメンマン」の「銀らめバージョン」に係る人形であることが記載されていないから、第3商品の人形と甲第11号証の281頁の「ラーメンマン」という記載とともに掲載された人形が同一であると認めることはできない。したがって、甲第11号証も、第3商品が本件特許の出願前に発売されたことを示すものではない。
(ウ)第3商品発明の本件特許出願前の公然実施についての小括
以上のとおりであるから、請求人が提出した証拠方法によっては、第3商品が本件特許の出願前に発売されたと認めることはできず、第3商品発明は本件特許の出願前に公然実施をされた発明であると認めることはできない。

エ 第4商品発明の本件特許出願前の公然実施について
請求人は、第4商品が本件特許の出願前に発売された事実を示す証拠方法として、甲第13ないし15号証を提出している。そこで、これらの証拠方法について検討する。
(ア)甲第13号証について
甲第13号証は本件特許の出願前である1999年3月1日に発行された刊行物である。しかし、甲第13号証の137頁の「ブルース・リー再び」の欄には、「以前紹介した、大丸商事のブルース・リーの修正が完了したとの報を受け、完成間近の試作を紹介することにしました。」、「なお、現在発売に向けて最終調整が行なわれているので、本誌が発売される頃には店頭に並びそうです。」と記載されているに過ぎず、甲第13号証には第4商品が実際にいつ発売されたのかは記載されていない。また、甲第12号証の3?7に示された写真と甲第13号証の137頁の「ブルース・リー再び」の欄に掲載された写真を比べると、人形の顔の表情及びアマーチュアの構造がいずれも相違すると認められ、また、甲第13号証の137頁の「ブルース・リー再び」の欄には、「完成間近の試作を紹介することにしました。」、「なお、現在発売に向けて最終調整が行なわれている」と記載されていることから、第4商品の人形と甲第13号証の137頁の「ブルース・リー再び」の欄に掲載された人形が同一であると認めることはできない。したがって、甲第13号証は、第4商品が本件特許の出願前に発売されたことを示すものではない。
(イ)甲第14号証について
甲第14号証は本件特許の出願前である1998年12月1日に発行された刊行物である。しかし、甲第12号証の3?7に示された写真と甲第14号証の281頁の「BRUCE LEE」の欄に掲載された写真を比べると、人形の顔の表情が相違するとともに、甲第14号証の281頁の「BRUCE LEE」の欄に掲載された人形が内部に甲第12号証の7に示されたアマーチュアの構造を有することも不明であり、また、甲第14号証の281頁の「BRUCE LEE」の欄には、「写真は試作品です。」と記載されているから、第4商品の人形と甲第14号証の281頁の「BRUCE LEE」の欄に掲載された人形が同一であると認めることはできない。したがって、甲第14号証も、第4商品が本件特許の出願前に発売されたことを示すものではない。
(ウ)甲第15号証について
甲第15号証は、第4商品の内装箱の側面に記載された「特願平10-367721」(甲第12号証の2の【側面2】を参照。)の番号の公開特許公報が、本件特許の出願前である平成12年7月4日に発行されたことを示すに過ぎず、第4商品が本件特許の出願前に発売されたことを示すものではない。したがって、甲第15号証も、第4商品が本件特許の出願前に発売されたことを示すものではない。
(エ)第4商品発明の本件特許出願前の公然実施についての小括
以上のとおりであるから、請求人が提出した証拠方法によっては、第4商品が本件特許の出願前に発売されたと認めることはできず、第4商品発明が本件特許の出願前に公然実施をされた発明であると認めることはできない。

オ 第5商品発明の本件特許出願前の公然実施について
請求人は、第5商品が本件特許の出願前に発売された事実を示す事実として、甲第29号証の1ないし甲第29号証の10の包装箱及び説明書には「BANDAI 2001 MADE IN JAPAN」と記載されていることを主張し、第5商品が本件特許出願前に販売されていた事実については現在調査中であり、そのような事実を示す証拠が入手でき次第提出すると説明したが、その後新たに提出された証拠はない。前記事実のみよっては、第5商品が本件特許の出願前に発売されたものであるとは認めることができない。したがって、請求人が提出した証拠方法によっては、第5商品が本件特許の出願前に発売されたと認めることはできず、第5商品発明が本件特許の出願前に公然実施をされた発明であると認めることはできない。

(3)新規性進歩性の要件の充足について
ア 引用発明(第1商品発明)の認定
請求人は、第2訂正請求の発明1は、検甲第1号証の2の人形に係る発明、甲第26号証に記載された事項及び周知慣用技術(甲第24、27及び28号証に記載された技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。また、当審が通知した職権無効理由2は、第1訂正請求に係る特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明は、検甲第1号証の2の人形に係る発明、甲第24号証に記載された発明及び周知技術(甲第16及び17号証参照。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。そこで、まず、検甲第1号証の2の人形に係る発明と本件特許発明1を対比するために、検甲第1号証の2の人形に係る発明の認定について検討する。
平成21年6月4日付けの口頭審理において、被請求人は、検甲第1号証の1?3からなる検甲第1号証が、甲第1号証の1?10に示されている、包装箱、包装箱に包装されている人形と人形カバー及び書面等の内容物の現物である旨陳述した。したがって、検甲第1号証の2の人形が第1商品であることに当事者間に争いがない。平成21年6月4日付けの第1回口頭審理及び証拠調べ調書における検証調書(以下単に「検証調書」という。)によれば、検甲第1号証の2の外観は甲第1号証の2に示された人形の外観と酷似している(「検証の結果」の「1」の「(2)」の「ア」参照)。検甲第1号証の2の人形が第1商品であることを疑うべき事実の存在は認められない。以上より、検甲第1号証の2の人形は第1商品であると認められる。
検証調書の「検証の結果」の「1」の「(2)」の「ス」の「(オ)」及び検証調書に添付された写真1-2-28及び1-2-30から、検甲第1号証の2は、腰部材の前面部及び略逆T字状の乳白色の部材を固定しつつ上半身部材の前面部に対し左右方向に力を加えると、略逆T字状の乳白色の部材の皿状の膨大部の略半球状の下面と上半身部材の腹部の内面とが摺動して、上半身部材が腰部材及び略逆T字状の乳白色の部材に対して力を加えた方向に傾くものであることは明らかである。また、検証調書の写真1-2-14及び写真1-2-12等を参照することにより、検甲第1号証の2は、上半身部材を覆うカバー部材の下端に開口があり、略逆T字状の乳白色の部材が前記開口に位置して備えられていることは明らかである。
したがって、第1商品が本件特許の出願前に発売されたことにより本件特許の出願前に公然実施をされた発明は、次の発明(以下「引用発明」という。)であると認められる。

<引用発明>
「左右の腕部を構成する部材(以下「腕部材」という。)、胸部及び腹部を構成する部材(以下「上半身部材」という。)、上半身部材を覆うカバー部材(以下「上半身カバー部材」という。)、腰部分を構成する部材(以下「腰部材」という。)、左右の脚部を構成する部材(以下「脚部材」という。)を有するコミックバージョンのデビルマンに係る人形において、
上半身部材が上半身カバー部材で覆われた状態において、上半身カバー部材を指示棒の先で押すと、上半身カバー部材が少し凹状に変形して上半身カバー部材越しに指示棒の先が上半身部材に当接し、
腕部材、上半身部材、腰部材及び脚部材が組み立てられ、上半身部材の前面部と背面部とがねじ止めされ、腰部材の前面部と背面部がねじ止めされ、上半身部材が上半身カバー部材で覆われた状態(以下「組み立て状態」という。)において、腰部材を固定しつつ上半身部材に対し前後左右方向に力を加えると腰部材に対し上半身部材が力を加えた方向に傾き、腰部材を固定しつつ上半身部材に対し捩りの力を加えると腰部材に対し力を加えた方向に捩られるものであり、
組み立て状態において腰部材のねじを外すことによって腰部材の前面部と背面部とが分離して組み立て状態から腰部材を取り外すことができ、組み立て状態から腰部材を取り外すと上半身部材の下端の開口から略逆T字状の乳白色の部材が突出しており、組み立て状態から腰部材を取り外した状態において、略逆T字状の乳白色の部材から脚部材を取り外すことができ、上半身部材を覆うカバー部材の下端に開口があり、略逆T字状の乳白色の部材が前記開口に位置して備えられており、
組み立て状態から腰部材及び脚部材を取り外したものに対して、上半身部材から突出する略逆T字状の乳白色の部材に腰部材の前面部及び背面部を取り付けて両者をねじ止めし、次いで、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の横棒部分を脚部材に設けられた穴に嵌め込んで取り付けることにより、組み立て状態とすることができ、
上半身カバー部材は中空であって、上半身カバー部材に先端が削られていない鉛筆の先を押し当てながら上半身カバー部材に約60グラムの荷重をかけると、上半身カバー部材は凹んで変形し、
上半身部材は、上半身部材に先端が削られていない鉛筆の先を押し当てながら上半身部材に約400グラムの荷重をかけても、目視の範囲では上半身部材に変形は認められず、
上半身部材は上半身カバー部材内に内装され、上半身カバー部材は、腕部材が取り外された上半身部材に対し着脱可能であり、
略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分は柱状体であり、前記柱状体の側面には、前記略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の横棒部分の延在方向に広がりかつ略逆T字の縦棒部分の上部に向かうにつれて幅広となる薄肉部と、前記略逆T字の横棒部分及び縦棒部分に直交する方向に突出する突起部が形成され、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の上部に上面が略平面で下面が略半球状である皿状の膨大部が形成され、前記略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の先端にばね及びばね受けが設けられ、
上半身部材の前面部と背面部はねじ止めされ、上半身部材の前面部と背面部のそれぞれの腹部の下端には、切り欠きが形成され、上半身部材の前面部と背面部とを組み合わせると、上半身部材の前面部と背面部のそれぞれの腹部の下端に形成された切り欠きが組み合わされて、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体を通すが、乳白色の部材の皿状の膨大部を通さない大きさの開口が形成され、
腰部材の形状は、略T字状であり、腰部材の前面部と背面部はねじ止めされ、略T字状の腰部材の前面部及び背面部のそれぞれは、略T字の横棒部分の上部及び縦棒部分の左右側面に切り欠きが形成され、略T字状の腰部材の前面部及び背面部のそれぞれは、略T字の縦棒部分と横棒部分が交わる部分付近に、略中央部に切り欠きを有する曲面状の板状突出部を備え、略T字状の腰部材の前面部及び背面部のそれぞれは前記曲面状の板状突出部の下部に略円形の開口を有する突起を備え、腰部材の前面部と背面部とを組み合わせると、(a)腰部材の前面部及び背面部の略T字の横棒部分の上部に形成された切り欠きが組み合わされて、上半身部材の腹部を受け入れるための開口が形成され、(b)腰部材の前面部及び背面部の略T字の縦棒部分の左右側面に形成された切り欠きが組み合わされて、略逆T字状の乳白色部材の略逆T字の横棒部分を腰部材から突出させるための開口が形成され、(c)腰部材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部とが隙間を空けて対向配置されるとともに、腰部材の前面部及び背面部の板状突出部の切り欠きが組み合わされて前記隙間の略中央部に略円形の開口が形成され、
略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の先端に形成されたばねによって前記乳白色の部材の皿状の膨大部が押圧されて、前記皿状の膨大部の略半球状の下面と上半身部材の腹部の内面とが当接し、
略逆T字状の乳白色の部材の突起部が腰部材の突起の略円形の開口に嵌め込まれ、上半身部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに上半身部材の前面部及び背面部の腹部の下端に形成された切り欠きが組み合わされて形成される開口、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の略T字の横棒部分の上部の切り欠きが組み合わされて形成される開口、及び、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の板状突出部の切り欠きが組み合わされて形成される略円形の開口に、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体が挿入され、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部と間に形成される隙間に略逆T字状の乳白色の部材の薄肉部が挿入されることにより、上半身部材と腰部材が連結され、
腰部材の前面部及び略逆T字状の乳白色の部材を固定しつつ上半身部材の前面部に対し左右方向に力を加えると、略逆T字状の乳白色の部材の皿状の膨大部の略半球状の下面と上半身部材の腹部の内面とが摺動して、上半身部材が腰部材及び略逆T字状の乳白色の部材に対して力を加えた方向に傾く、
コミックバージョンのデビルマンに係る人形。」

イ 本件特許発明1と引用発明の対比
(ア)「上半身部品」及び「下半身部品」の定義
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】には、「本明細書において、『上半身部品』とは、腰より上の部分をいい、『下半身部品』とは腰から下の部分(腰部含む)をいうものとする。」と記載されている。引用発明の「上半身部材」及び「上半身カバー部材」はいずれも「腰部材」より上の部分の部材であり、引用発明の「腰部材」及び「脚部材」は腰を含む腰から下の部材である。したがって、引用発明の「上半身部材」及び「上半身カバー部材」は本件特許発明1の「上半身部品」に相当し、引用発明の「腰部材」及び「脚部材」は本件特許発明1の「下半身部品」に相当する。

(イ)本件特許発明1と引用発明の一致点の検討
次に、本件特許発明と引用発明の一致点について、本件特許発明1の発明特定事項に沿って順に検討する。
(a)引用発明の「上半身部材」及び「上半身カバー部材」が引用発明の「腰部材」及び「脚部材」とは別体の部材であることは、検証調書の「検証結果」の「1」の「(2)」の「セ」における「頭部材、腕部材、略逆T字状の乳白色の部材、上半身部材、上半身カバー部材、腰部材、脚部材がすべて分解された状態」という記載及び検証調書に添付された写真1-2-4から明らかである。したがって、引用発明と本件特許発明1は、少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形される点で一致する。
(b)引用発明は、腕部材、上半身部材、腰部材及び脚部材が組み立てられ、上半身部材の前面部と背面部とがねじ止めされ、腰部材の前面部と背面部がねじ止めされ、上半身部材が上半身カバー部材で覆われた状態である組み立て状態において、腰部材を固定しつつ上半身部材に対し前後左右方向に力を加えると腰部材に対し上半身部材が力を加えた方向に傾き、腰部材を固定しつつ上半身部材に対し捩りの力を加えると腰部材に対し力を加えた方向に捩られるものであるから、引用発明においては上半身カバー部材で覆われた上半身部品と腰部材が揺動可能に連結されているということができる。
引用発明は、1)組み立て状態において腰部材のねじを外すことによって腰部材の前面部と背面部とが分離して組み立て状態から腰部材を取り外すことができ、組み立て状態から腰部材を取り外すと上半身部材の下端の開口から略逆T字状の乳白色の部材が突出しており、2)組み立て状態から腰部材を取り外した状態において、略逆T字状の乳白色の部材から脚部材を取り外すことができ、組み立て状態から腰部材及び脚部材を取り外したものに対して、上半身部材から突出する略逆T字状の乳白色の部材に腰部材の前面部及び背面部を取り付けて両者をねじ止めし、次いで、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の横棒部分を脚部材に設けられた穴に嵌め込んで取り付けることにより、組み立て状態とすることができるから、引用発明の「上半身部材」と「腰部材」及び「脚部材」とは分離・組み立て可能に連結されているということができる。
引用発明のコミックバージョンのデビルマンに係る人形は、組み立て状態において、腰部材を固定しつつ上半身部材に対し前後左右方向に力を加えると腰部材に対し上半身部材が力を加えた方向に傾き、腰部材を固定しつつ上半身部材に対し捩りの力を加えると腰部材に対し力を加えた方向に捩られるものであるから、引用発明における「上半身部材」、「上半身カバー部材」、「腰部材」及び「脚部材」は、本件特許発明1の「可動人形用胴体」に相当する。
以上を踏まえると、本件特許発明1と引用発明は、前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体の点で一致する。
(c)引用発明の「上半身カバー部材」は、先端が削られていない鉛筆の先を押し当てながら約60グラムの荷重をかけると凹んで変形するものであるから、本件特許発明1における「軟質製本体」に相当する。さらに、「上半身カバー部材」は中空であって下端に開口があるから、本件特許発明1と引用発明は、上半身部品は下端に開口を設けた中空の軟質製本体を備える点で一致する。
次に、引用発明の「上半身部材」が本件特許発明1の「芯材」に相当するか否かの点について検討する。本件特許明細書等には、本件特許発明1の「芯材」について、1)「上半身部品40は、上端と下端そして左右の腕部連結部位に夫々開口42,43,44を有してなる中空状の上半身部品本体41と、該本体41内に嵌め込み状に内装される芯材48と、・・・を備えて構成されている。」(段落【0010】)、2)「芯材48は、少なくとも上下方向で分割されると共に揺動可能に連結された硬質材からなる第一芯材49と第二芯材54からなる。」(段落【0012】)、3)「第一芯材49は、上半身部品本体41の腹部46と同程度の長さで、かつ腹部46よりも僅かに小形(薄幅・薄肉)に形成され、二枚の前後片50,51と該前後片50,51間に一端を摺動自在に連結した芯材間連結部材52と、下半身連結部材53を備える。」(段落【0013】)、4)「第二芯材54は、上半身部品本体41の胸部45と同程度の長さで、かつ胸部45よりも僅かに小形(薄幅・薄肉)に形成され、二枚の前後片55,56と該前後片55,56間に一端を摺動自在に連結した腕部連結部材57を備える。」(段落【0014】)、5)「そして、第一芯材49と第二芯材54とを連結した状態で上半身部品本体41内に嵌入する。すなわち、軟質材からなる上半身部品本体41の下端開口43を押し広げて第二芯材54・第一芯材49を順に本体41内に嵌入する。この時、第一芯材49・第二芯材54共に、上半身部品本体41の夫々対応する腹部46と胸部45よりも僅かに小形としているため、嵌入時には芯材48の外面と上半身部品本体41の内面とが接触し、あたかも上半身部品本体41が人間で言うところの皮膚を疑似表現することとなる。」(段落【0015】)と記載されているとともに、図1ないし図6が示されている。以上の本件特許明細書等の記載に照らすと、本件特許発明1の「芯材」とは、「中空の軟質製本体」と接触する面積がある程度大きな板状の部材(前後片50、51、55、56)を有し、「中空の軟質製本体」を外部から押圧しても「中空の軟質製本体」に上半身の形状を保たせる機能を有する部材をいい、「中空の軟質製本体」と接触する面積が小さく、「中空の軟質製本体」を外部から押圧すると「中空の軟質製本体」に上半身の形状を保たせることが困難な単なる棒状または骨状の部材を意味するものではないと解するのが相当である。
引用発明の「上半身部材」は「胸部及び腹部を構成する」板状の部材である(検証調書に添付された写真1-2-14、1-2-24を参照。)。また、引用発明では、1)上半身カバー部材は中空であって、上半身カバー部材に先端が削られていない鉛筆の先を押し当てながら上半身カバー部材に約60グラムの荷重をかけると、上半身カバー部材は凹んで変形し、2)上半身部材は、上半身部材に先端が削られていない鉛筆の先を押し当てながら上半身部材に約400グラムの荷重をかけても、目視の範囲では上半身部材に変形は認められず、3)上半身部材が上半身カバー部材で覆われた状態において、上半身カバー部材を指示棒の先で押すと、上半身カバー部材が少し凹状に変形しただけで上半身カバー部材越しに指示棒の先が上半身部材に当接する。したがって、引用発明の上半身部材は上半身カバー部材を外部から押圧しても上半身カバー部材に上半身の形状を保たせる機能を有する部材であるということができるから、引用発明の「上半身部材」は、本件特許発明1の「芯材」に相当する。さらに、引用発明の「上半身部材」は、先端が削られていない鉛筆の先を押し当てながら約400グラムの荷重をかけても、目視の範囲では変形が認められないから、硬質材料製であるということができる。
また、引用発明の上半身部材が上半身カバー部材で覆われた状態において、上半身カバー部材を指示棒の先で押すと、上半身カバー部材が少し凹状に変形して上半身カバー部材越しに指示棒の先が上半身部材に当接するという態様で上半身部材が上半身カバー部材内に内装されることは、芯材が該本体内に嵌入して内装される点で本件特許発明1と一致する。
以上を踏まえると、本件特許発明1と引用発明は、上半身部品は、下端に開口を設けた中空の軟質製本体と、該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質材料製の芯材とで構成される点で一致する。
(d)本件特許発明1の、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を有する芯材、ということの意味を検討する。本件特許明細書等には、1)「上半身部品40は、上端と下端そして左右の腕部連結部位に夫々開口42,43,44を有してなる中空状の上半身部品本体41と、該本体41内に嵌め込み状に内装される芯材48と、・・・を備えて構成されている。」(段落【0010】)、2)「芯材48は、少なくとも上下方向で分割されると共に揺動可能に連結された硬質材からなる第一芯材49と第二芯材54からなる。」(段落【0012】)、3)「第一芯材49は、上半身部品本体41の腹部46と同程度の長さで、かつ腹部46よりも僅かに小形(薄幅・薄肉)に形成され、二枚の前後片50,51と該前後片50,51間に一端を摺動自在に連結した芯材間連結部材52と、下半身連結部材53を備える。」(段落【0013】)、4)「上記下半身連結部材53は、棹部53aの一端に摺動ボール53bを一体形成し、その摺動ボール53bを前後片50,51の下端内面に形成した凹部50b,51bで摺動自在に保持すると共に、下半身部品1の腰部2に備えられる上半身部品連結構造19の連結部20に、前記棹部53aを差込嵌合して揺動可能、かつ着脱可能に連結される。」(段落【0013】)、5)「上半身部品連結構造19は、上述した押え部材10の上面が兼ねている。すなわち、押え部材本体11の上面略中心に立設した連結部20を介して上半身部品40を連結している。」(段落【0023】)、6)「連結部20は、例えば本実施形態の如く、上面を開放し、差込み穴21を備えた円筒状に構成され、例えば上半身部品40の下部から突出している下半身連結部材53の棹部53aを、上記差込み穴21に着脱自在に差込み連結する。」(段落【0023】)、7)「なお、本実施形態では、上半身部品40と腰部2との継手部分にボールジョイント構成とした下半身連結部材53を使用しているため、上記連結部20の差込み穴21を断面角穴状とした場合には、この棹部53a外形も角柱状にすることが可能で、上半身部品40と腰部分2とが着脱自在な継手構造を有していれば、棹部53aと差込み穴21との関係は任意に設計変更可能である。但し、容易に抜け落ちないように嵌合されているものとする。」(段落【0023】)と記載されるとともに、図2ないし図7が示されている。以上の本件特許明細書等の記載に照らすと、下半身連結部材53は、棹部53aの一端に摺動ボール53bを一体形成し、その摺動ボール53bを前後片50、51の下端内面に形成した凹部50b、51bで摺動自在に保持すると共に、下半身部品1の腰部2に備えられる上半身部品連結構造19の連結部20に、前記棹部53aを差込嵌合するから、下半身連結部材53は下半身部品1の腰部2と芯材48を揺動可能に連結するものの、柱状の部材である下半身連結部材53の棹部53aを筒状の部材である下半身部品1の連結部20に差込嵌合して連結されるから、下半身連結部材53は下半身部品1と揺動可能に連結されたものとは認められない。したがって、本件特許明細書等には、下半身部品1と揺動可能に連結される下半身連結部材53は記載されておらず、下半身部品1と芯材48を揺動可能に連結する部材である下半身連結部材53が記載されているということができる。
このような本件特許明細書等の記載に照らすと、本件特許発明1の、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を有する芯材は、下半身連結部材は下半身部品と芯材を揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する部材であり、芯材がかかる下半身連結部材を有することを意味すると解することができる。
これを踏まえて、引用発明の「略逆T字状の乳白色の部材」が、本件特許発明1の「下半身部品と揺動可能に連結する下半身連結部材」に相当するか否かを検討する。引用発明では、1)略逆T字状の乳白色の部材の突起部が腰部材の突起の略円形の開口に嵌め込まれ、上半身部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに上半身部材の前面部及び背面部の腹部の下端に形成された切り欠きが組み合わされて形成される開口、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の略T字の横棒部分の上部の切り欠きが組み合わされて形成される開口、及び、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の板状突出部の切り欠きが組み合わされて形成される略円形の開口に、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体が挿入され、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部と間に形成される隙間に略逆T字状の乳白色の部材の薄肉部が挿入されることにより、上半身部材と腰部材が連結され、2)腰部材の前面部及び略逆T字状の乳白色の部材を固定しつつ上半身部材の前面部に対し左右方向に力を加えると、略逆T字状の乳白色の部材の皿状の膨大部の略半球状の下面と上半身部材の腹部の内面とが摺動して、上半身部材が腰部材及び略逆T字状の乳白色の部材に対して力を加えた方向に傾く。したがって、引用発明の略逆T字状の乳白色の部材は、腰部材と上半身部材を揺動可能に連結する部材であるということができるから、引用発明の腰部材と上半身部材を揺動可能に連結する部材である「略逆T字状の乳白色の部材」は、本件特許発明1の「下半身部品と揺動可能に連結する下半身連結部材」に相当する。
次に、上記で検討した下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材の意味を踏まえて、引用発明の「略逆T字状の乳白色の部材」が、本件特許発明1の「下半身部品と分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材」に相当するか否かを検討する。引用発明では、1)略逆T字状の乳白色の部材の突起部が腰部材の突起の略円形の開口に嵌め込まれ、上半身部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに上半身部材の前面部及び背面部の腹部の下端に形成された切り欠きが組み合わされて形成される開口、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の略T字の横棒部分の上部の切り欠きが組み合わされて形成される開口、及び、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の板状突出部の切り欠きが組み合わされて形成される略円形の開口に、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体が挿入され、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部と間に形成される隙間に略逆T字状の乳白色の部材の薄肉部が挿入されることにより、上半身部材と腰部材が連結され、2)組み立て状態において腰部材のねじを外すことによって腰部材の前面部と背面部とが分離して組み立て状態から腰部材を取り外すことができ、組み立て状態から腰部材を取り外すと上半身部材の下端の開口から略逆T字状の乳白色の部材が突出しており、組み立て状態から腰部材を取り外した状態において、略逆T字状の乳白色の部材から脚部材を取り外すことができ、3)組み立て状態から腰部材及び脚部材を取り外した物に対して、上半身部材から突出する略逆T字状の乳白色の部材に腰部材の前面部及び背面部を取り付けて両者をねじ止めし、次いで、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の横棒部分を脚部材に設けられた穴に嵌め込んで取り付けることにより、組み立て状態とすることができる。したがって、引用発明の略逆T字状の乳白色の部材は、腰部材と上半身部材を分離・組み立て可能に連結する部材であるということができる。また、引用発明では、1)組み立て状態から腰部材を取り外した状態において、略逆T字状の乳白色の部材から脚部材を取り外すことができ、2)略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の横棒部分を脚部材に設けられた穴に嵌め込んで取り付けることにより、組み立て状態とすることができる。したがって、引用発明の略逆T字状の乳白色の部材は、脚部材と上半身部材を分離・組み立て可能に連結する部材であるということができる。
さらに、引用発明においては、略逆T字状の乳白色の部材の縦棒部分の先端に形成されたばねによって前記乳白色の部材の皿状の膨大部が押圧されて、前記皿状の膨大部の略半球状の下面と上半身部材の腹部の内面とが当接し、上半身部材の下端の開口から略逆T字状の乳白色の部材が突出しているから、引用発明の上半身部材が略逆T字状の乳白色の部材を有することも明らかである。
以上より、引用発明の「略逆T字状の乳白色の部材」は、本件特許発明1の「下半身連結部材」に相当し、本件特許発明1と引用発明は、芯材は、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を備える点で一致する。
(e)引用発明においては、上半身部材を覆うカバー部材の下端に開口があり、略逆T字状の乳白色の部材が前記開口に位置して備えられており、略逆T字状の乳白色の部材は、上半身部材と腰部材とを連結する部材であるから、略逆T字状の乳白色の部材が下半身の上端に相当する腰部材と対向しなければならないことは明らかである。したがって、本件特許発明1と引用発明は、下半身連結部材は、下半身部品の上端と対向し、軟質製本体下端の開口に位置して備えられる点で一致する。
(f)引用発明における「腰部材」が、本件特許発明1における「腰部本体」に相当することは明らかである。また、引用発明の略逆T字状の乳白色の部材は、上半身部材と腰部材とを連結する部材であるから、腰部材が略逆T字状の乳白色の部材との連結構造を備えていることは明らかである。すなわち、引用発明においては、1)組み立て状態において腰部材のねじを外すことによって腰部材の前面部と背面部とが分離して組み立て状態から腰部材を取り外すことができ、組み立て状態から腰部材を取り外すと上半身部材の下端の開口から略逆T字状の乳白色の部材が突出しており、組み立て状態から腰部材を取り外した状態において、略逆T字状の乳白色の部材から脚部材を取り外すことができ、2)組み立て状態から腰部材及び脚部材を取り外した物に対して、上半身部材から突出する略逆T字状の乳白色の部材に腰部材の前面部及び背面部を取り付けて両者をねじ止めし、次いで、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の横棒部分を脚部材に設けられた穴に嵌め込んで取り付けることにより、組み立て状態とすることができ、3)略逆T字状の乳白色の部材の突起部が腰部材の突起の略円形の開口に嵌め込まれ、上半身部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに上半身部材の前面部及び背面部の腹部の下端に形成された切り欠きが組み合わされて形成される開口、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の略T字の横棒部分の上部の切り欠きが組み合わされて形成される開口、及び、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の板状突出部の切り欠きが組み合わされて形成される略円形の開口に、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体が挿入され、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部と間に形成される隙間に略逆T字状の乳白色の部材の薄肉部が挿入されることにより、上半身部材と腰部材が連結される。したがって、引用発明の腰部材の「ねじ」、略逆T字状の乳白色の部材の突起部が嵌め込まれる「腰部材の突起の略円形の開口」、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体が挿入される「腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の板状突出部の切り欠きが組み合わされて形成される略円形の開口」、及び、略逆T字状の乳白色の部材の薄肉部が挿入される「腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部と間に形成される隙間」は、本件特許発明1の「下半身連結部材を連結可能な上半身部品連結構造」に相当する。
以上を踏まえると、本件特許発明1と引用発明は、下半身部品は、腰部本体と、前記腰部本体内に備えられ、下半身連結部材を連結可能な上半身部品連結構造とを備えている点で一致する。

(ウ)本件特許発明1と引用発明の一致点及び相違点
以上の検討を総合すると、本件特許発明1と引用発明は、
「少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に、
前記上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって、
前記上半身部品は、下端に開口を設けた中空の軟質製本体と、
該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質材料製の芯材とで構成され、
前記芯材は、下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材を備え、
前記下半身連結部材は、下半身部品の上端と対向し、前記軟質製本体下端の開口に位置して備えられ、
前記下半身部品は、腰部本体と、前記腰部本体内に備えられ、前記下半身連結部材を連結可能な上半身部品連結構造とを備えている
可動人形用胴体。」
である点で一致し、以下の相違点1ないし相違点3の点で相違すると認められる。

<相違点1>
中空の軟質製本体が、本件特許発明1においてはスラッシュ成形により成形された塩化ビニル樹脂製であるのに対し、引用発明においてはこのような限定がない点。

<相違点2>
硬質材料製の芯材が、本件特許発明1においては、合成樹脂製であるとの限定があるのに対し、引用発明においては、合成樹脂製であるのか否か不明である点。

<相違点3>
本件特許発明1においては、
腰部本体は、前記軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し、外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形されたものであり、
前記腰部本体内に備えられた上半身部品連結構造は、前記下半身連結部材を差し込み連結可能であり、前記上半身部品連結構造は、前記下半身連結部材と対向し、前記腰部本体の開放部位に位置して備えられ、前記下半身連結部材と前記上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成され、
前記上半身部品と前記下半身部品は、軟質製本体下端の開ロと腰部本体の開放部位にそれぞれ位置している前記棹部と前記差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結されているのに対して、
引用発明においては、
腰部材は前面部と背面部がねじによって組み立てられるものであり、
略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分は柱状体であり、前記柱状体の側面には、前記略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の横棒部分の延在方向に広がりかつ略逆T字の縦棒部分の上部に向かうにつれて幅広となる薄肉部と、前記略逆T字の横棒部分及び縦棒部分に直交する方向に突出する突起部が形成され、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の上部に上面が略平面で下面が略半球状である皿状の膨大部が形成されたものであり、
略逆T字状の乳白色の部材の突起部が腰部材の突起の略円形の開口に嵌め込まれ、上半身部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに上半身部材の前面部及び背面部の腹部の下端に形成された切り欠きが組み合わされて形成される開口、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の略T字の横棒部分の上部の切り欠きが組み合わされて形成される開口、及び、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部及び背面部の板状突出部の切り欠きが組み合わされて形成される略円形の開口に、略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体が挿入され、腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部と間に形成される隙間に略逆T字状の乳白色の部材の薄肉部が挿入されることにより、上半身部材と腰部材が連結され、
組み立て状態において腰部材のねじを外すことによって腰部材の前面部と背面部とが分離して組み立て状態から腰部材を取り外すことができ、組み立て状態から腰部材を取り外すと上半身部材の下端の開口から略逆T字状の乳白色の部材が突出しており、組み立て状態から腰部材を取り外した状態において、略逆T字状の乳白色の部材から脚部材を取り外すことができる点で相違する。

ウ 相違点についての検討
相違点のうち、特に相違点3について以下検討する。
(ア)甲第26号証についての検討
請求人は、第2訂正請求の発明1の進歩性についての主張において、相違点3のうち、腰部本体は、前記軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し、外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形されたものであり、前記腰部本体内に備えられた上半身部品連結構造は、前記下半身連結部材を差し込み連結可能であり、前記上半身部品連結構造は、前記下半身連結部材と対向し、前記腰部本体の開放部位に位置して備えられ、前記下半身連結部材と前記上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成される点(以下「相違点3-1」という。)と同様の構成が、甲第26号証に開示されている旨主張しているから、甲第26号証に記載された事項についてまず検討する。
甲第26号証の第5頁第2行ないし第9頁第14行には、次のとおり記載されている。
<甲第26号証の記載事項>
「第3?5図は、本考案の一実施例を示す。
1はロボット玩具であり、胴部2と腰部6とは、フツク21と該フツク21に挿着自在に係止される係止軸22とを介して結合されている。
上記係止軸22は、上記中空の腰部6を貫通して横設され、両端に前記左右の各脚部7,8が回動自在に結合された連結軸14の中央に立設されている。
そして、先端近傍に先端より縮径して形成された括れ部22aと、先端にテーパ部22b_(1)を有する先端係止部22bとが連設されて形成されている。
一方、前記フツク21は、前記中空の胴部2に摺動自在に設けられている。
即ち、21aは板状の基部であり、該基部21aの下端に上記括れ部22aに対応する板状の係止片21bが直交して突設され断面略L字状に形成されている。
また、上記係止片21bとの間に前記先端係止部22bが嵌合する隙間を有して上記基部21aに直交してストツパ軸23aが突設され、かつ該ストツパ軸23a先端に該ストツパ軸23aより小径の解除軸23bが胴部2の背面に穿設された軸孔2bを通つて胴部2の外側迄突設されている。
更に、このストツパ軸23aと、解除軸23bと、胴部2の外側において上記解除軸23bの先端に固着された略L字状の釦23cとにより、解除釦23が形成されている。
また、胴部2の内壁2cと上記基部21aとの間には、ばねであるコイルスプリング24が装着され、上記基部21aを胴部2の背面に向けて付勢している。
そして、これらフツク21と解除釦23とコイルスプリング24とにより、係止体25が構成されている。
尚、26は前記中空の腰部6内に一端部が固着されたばねであるコイルスプリングであり、結合時の胴部2と腰部6とを離脱する方向に付勢し、結合部分の緩みを解消して結合を確実に保持するようにしている。
また、2a_(1)は前記嵌合円筒部2aに穿設された軸嵌合孔であり、前記係止軸22が嵌合可能に該係止軸22よりやや大きい内径に形成されている。
次に、その使用方法について説明する。
まず、胴部2と腰部6とを結合する場合には、係止軸22を軸嵌合孔2a_(1)に嵌合する。
すると、テーパ面22b_(1)が係止片21bに衝合し、かつ該係止片21bを押圧しつつコイルスプリング24の弾発力に抗してフツク21を胴部2の前面へ押圧移動し、先端係止部22bが係止片21bを乗り越えて節度感を持つて該係止片21bとストツパ軸23aとの間に係合すると共に、係止軸22の括れ部22aに上記係止片21bが節度感を持つて係止される。
このとき、嵌合内筒部2aも筒嵌合孔6a_(1)に嵌合される。
この際、フツク21はコイルスプリング24の弾発力に押圧されて胴部2の背面の方向に押圧移動されるので、該フツク21と係止軸22との係止は容易に外れなくなる。
従つて、胴部2と腰部6との結合も、容易に離脱しない。
このとき、係止軸22はフツク21と係止しているのみで回転自在であるので、腰部6は胴部2に対して回転することができる。
また、胴部2と腰部6とは、コイルスプリング26によつて離脱方向に付勢されているので、緩みを生ずることなく、確実に連結が保持されている。
次に、胴部2から腰部6を離脱させる場合には、まず釦23cを押圧して解除体23をコイルスプリング24の弾発力に抗して胴部2の前面に向つて移動させ、フツク21と係止軸22との係止を外す。
次いで、腰部6を胴部2に対して離脱方向に移動し、係止軸22を軸嵌合孔2a_(1)から外すと共に、嵌合外筒部6aを嵌合内筒部2aから外し、胴部2から腰部6を離脱することができる。」

甲第26号証の図3ないし図5及び上記記載から明らかなとおり、甲第26号証のロボット玩具は、本件特許発明1の「上半身部品」と「下半身部品」にそれぞれ相当する「胴部2」と「腰部6」が、フツク21と該フツク21に挿着自在に係止される係止軸22とを介して結合されるものであり、胴部2から腰部6を離脱させる場合には、釦23cを押圧するものである。したがって、下半身連結部材と上半身部品連結構造が、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成されたものではない。さらに、腰部本体に対応する腰部6を外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形されたものとする点の開示がない。したがって、相違点3-1が甲第26号証に開示されている旨の請求人の主張は失当である。
さらに、甲第26号証に記載されたロボット玩具は、胴部2と腰部6が揺動可能に連結されたものではない。したがって、甲第26号証に記載された胴部2と腰部6の連結構造を引用発明に適用したのでは、引用発明の上半身部品と下半身部品が揺動可能に連結される可動人形用胴体であるという本件特許発明1との一致点が損なわれてしまう。
このように、甲第26号証には、
「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体における上半身部品と下半身部品との連結構造としての、
腰部本体内に備えられた上半身部品連結構造は、下半身連結部材を差し込み連結可能であり、上半身部品連結構造は、下半身連結部材と対向し、腰部本体の開放部位に位置して備えられ、下半身連結部材と上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成される構造」
の開示はない。しかも、
「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体において、
下半身部品が軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体を有する点」
の開示もない。したがって、甲第26号証の開示内容によっては、引用発明において相違点3-1の発明特定事項を有するようにすることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。

(イ)甲第24、27、28、29号証についての検討
請求人は、第2訂正請求の発明1の進歩性を否定する旨の主張において、甲第26号証の他、甲第24号証、甲第27号証、甲第28号証、甲第29号証の1?10について言及している。請求人は、これらの刊行物が相違点3-1を開示する旨の主張を行っている訳ではないが、念のため、これらの刊行物についても、以下順に検討する。
甲第24号証の図1及び考案の詳細な説明の記載を参酌すると、本件特許発明1の「上半身部品」と「下半身部品」にそれぞれ相当する、「胴体41」と腰に当たる部材が、椀状体と該椀状体に嵌着される球状体よりなる球形関節で着脱自在に連結した人形が見て取れ、胴体41と腰に当たる部材が揺動可能に連結されていることが推測できる。しかしながら、甲第24号証には、下半身連結部材と上半身部品連結構造が、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成される点の開示ないし示唆はない。さらに、腰部本体に相当する部材を外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形されたものとする点の開示はない。
次に、甲第27号証について検討する。甲第27号証の図1ないし図4及び考案の詳細な説明の記載を参酌することから明らかなとおり、甲第27号証のロボット玩具は、雌雄の冠状窩体13と輪壌状凸体14からなる着脱自在で且つその接合面に平行に回動自在な接合部により胸部4と腹部5が接合されたものであり、下半身連結部材と上半身部品連結構造が、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成されたものではない。また、腰部本体に対応する腹部5を外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形されたものとする点の開示がない。さらに、甲第27号証に記載された組立玩具は、甲第26号証のロボット玩具と同様の、本件特許発明1の「上半身部品」と「下半身部品」にそれぞれ相当する「胸部4」と「腹部5」が揺動可能には連結されていないものである。
次に、甲第28号証について検討すると、甲第28号証の図1ないし図6及び発明の詳細な説明の記載を参酌することから明らかなとおり、甲第28号証に記載された発明は人体像製作用芯材であって、骨組を形成する芯材に関する発明である。したがって、甲第28号証には、単なる骨組みとしての各芯材同士を連結する際に用いられる連結構造は開示されているものの、人形の上半身部品と下半身部品を揺動可能かつ着脱自在に連結する構造は開示されていない。また、軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し、外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体の点の開示もない。
次に、甲29号証の1?10に係る商品(第5商品)について検討する。既に検討したとおり、請求人の提出した証拠によっては、第5商品が本件特許の出願前に発売されたとは認められない。次に、第5商品発明の内容について検討すると、腰に当たる部材(パーツF○1(当審注:甲第29号証の10においては、「○1」は「丸付き数字1」のことである。以下同様。))と上半身に相当する部材(パーツD○1及びD○2)を揺動可能に連結する部材である、パーツB○17、B○18、B○25及びB○26とビス及びナットとを用いて組み立てられる部材が、円柱状の棹部と該棹部を嵌合しかつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成されるものでないことは明らかであり、かつ、前記部材が、上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能でないことも明らかである。
このように、甲第24号証、甲第27号証、甲第28号証及び甲第29号証の1?10(第5商品)のいずれを検討しても、
「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体における上半身部品と下半身部品との連結構造としての、
腰部本体内に備えられた上半身部品連結構造は、下半身連結部材を差し込み連結可能であり、上半身部品連結構造は、下半身連結部材と対向し、腰部本体の開放部位に位置して備えられ、下半身連結部材と上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成される構造」
及び
「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体において、
下半身部品が軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体を有する点」
の開示はない。したがって、これらの各甲号証を検討しても、引用発明において相違点3-1の発明特定事項を有するようにすることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。

(ウ)その他の甲号証についての検討
念のため、請求人が提出したその他の甲号証についての以下検討する。
まず、第2商品発明について検討する。検証調書には、「検甲第1号証の2と検甲第2号証の2とは、(ア)検甲第1号証の2がデビルマンを模した人形であるのに対し、検甲第2号証の2がタイガーマスクを模した人形である点、及び、(イ)検甲第1号証の2の上半身カバー部材が腰より上の部分のみからなるのに対し、検甲第2号証の2の上半身カバー部材が腰より上の部分及び腰部分からなる点で相違するものの、(ウ)検甲第1号証の2と検甲第2号証の2とは、上半身部材、腰部材、上半身部材と腰部材とを連結する乳白色の部材、腕部材及び脚部材の材質及び構造が同一であるとともに、検甲第1号証の2の上半身カバー部材と検甲第2号証の2のカバー部材の材質も同一である。」と記載されている(「検証の結果」の「2」の「(2)」の「カ」参照。)。したがって、第2商品発明は引用発明(第1商品発明)と実質同一であって、本件特許発明1と第2商品発明の相違点は、本件特許発明1と引用発明の相違点と同一であると認められる。
次に第3商品発明について検討する。検証調書の「検証の結果」の「3」の「(2)」にはそれぞれ次の事項が記載されている。「ウ 検甲第3号証の2は、腕部材、胸を含む部材、腰を含む部材及び脚部材が組み立てられ、胸を含む部材の前面部と背面部とがねじ止めされ、腰を含む部材の前面部と背面部がねじ止めされた状態(以下「検甲第3号証の2の組み立て状態」という(写真3-2-1、写真3-2-2)。)では、胸を含む部材と腰を含む部材とを分離することができない。」、「オ 検甲第3号証の2の組み立て状態において腰を含む部材のネジを外すことによって、腰を含む部材の背面部と前面部とが分離して、前記組み立て状態から腰を含む部材及び脚部材を取り外すことができる。そして、前記組み立て状態から腰を含む部材を取り外すと、胸を含む部材の下端の開口から先端に略球状の膨大部を有する肌色の部材(以下「肌色部材」という。)が突出している。(写真3-2-7)また、腰を含む部材に脚部材を取り付けた状態で、胸を含む部材に肌色部材が取り付けられた物に対し、腰を含む部材及び脚部材を着脱することができる。」、「カ 検甲第3号証の2の肌色部材は、下端に略球状の膨大部が設けられ、上部に略直方体状の膨大部が設けられ、両者を柱状体で接続した部材である。また、検甲第3号証の2の肌色部材の略直方体状の膨大部の略中央部には突起が形成されている。(写真3-2-3、写真3-2-8)」この検証結果を踏まえれば、第3商品発明が、「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体における上半身部品と下半身部品との連結構造としての、腰部本体内に備えられた上半身部品連結構造は、下半身連結部材を差し込み連結可能であり、上半身部品連結構造は、下半身連結部材と対向し、腰部本体の開放部位に位置して備えられ、下半身連結部材と上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成される構造」及び「下半身部品が軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体」を有していないことは明らかである。
次に第4商品発明について検討すると、甲第12号証の3ないし甲第12号証の7を参照することからも明らかなとおり、第4商品発明は、「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体における上半身部品と下半身部品との連結構造としての、腰部本体内に備えられた上半身部品連結構造は、下半身連結部材を差し込み連結可能であり、上半身部品連結構造は、下半身連結部材と対向し、腰部本体の開放部位に位置して備えられ、下半身連結部材と上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成される構造」及び「下半身部品が軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体」を有していないと認められる。
以上検討のとおり、請求人が無効審判請求において、主たる引用発明として説明した、第2商品発明、第3商品発明及び第4商品発明を検討しても、さらには、請求人が提出したその他の甲号証を検討しても、いずれも、
「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体における上半身部品と下半身部品との連結構造としての、
腰部本体内に備えられた上半身部品連結構造は、下半身連結部材を差し込み連結可能であり、上半身部品連結構造は、下半身連結部材と対向し、腰部本体の開放部位に位置して備えられ、下半身連結部材と上半身部品連結構造は、円柱状の棹部と、該棹部を嵌合し、かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み穴とによって構成される構造」
及び
「上半身部品と下半身部品とが、揺動可能、かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体において、
下半身部品が軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体を有する点」
が見当たらない。したがって、これらの各甲号証を検討してみても、引用発明において相違点3-1の発明特定事項を有するようにすることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。

(エ)相違点についての検討・判断のまとめ
以上検討のとおり、請求人の提示したすべての証拠方法(甲第1号証の1ないし甲第33号証及び検甲第1号証ないし検甲第3号証)を検討しても、相違点3の点について当業者が容易に想到し得たとは認められない。かかる状況が、本件特許発明1の対比の対象として、第2商品発明、第3商品発明及び第4商品発明のいずれかを選択しても変わらることがないことは明らかである。したがって、本件特許発明1は、第1商品発明ないし第5商品発明及び甲第2号証ないし甲第33号証のうちの刊行物に記載された発明又はこれらから周知技術であると認められる発明に基いて当業者が容易に想到し得たものということはできない。したがって、請求人の主張する無効理由1、無効理由2-1ないし無効理由2-4のいずれによっても本件特許発明1を無効とすることはできない。そして、職権無効理由1-1及び職権無効理由2も解消していると認められる。また、そもそも、既に検討したとおり、第3商品発明及び第4商品発明は本件特許の出願前に公然実施をされた発明であるとは認められないから、請求人の主張する無効理由2-2及び無効理由2-3によって本件特許発明1を無効とすることはできない。したがって、請求人の提出したすべての証拠方法を検討してみても、本件特許発明1は、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
本件特許発明2は、本件特許発明1の備えるすべての発明特定事項を含む以上、同様の理由により、本件特許発明2も、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

(4)新規性進歩性の小括
以上検討のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2は、特許法第29条第1項第2号の発明に該当するということも、特許法第29条第1項各号に掲げる発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。したがって、本件特許の請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当するとは認められない。

4 サポート要件(職権無効理由1-2)について
当審は、平成21年7月2日付け無効理由通知において、登録時特許発明2には、上半身部品を構成する芯材がアンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、接合線の無い一体成形品である可動人形用胴体が含まれることになるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上半身部品を構成する中空の軟質製本体がアンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、接合線の無い一体成形品である可動人形用胴体しか記載されていないから、登録時特許発明2についての特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた特許であり、同法第123条第1項第4号の規定に該当する点を指摘した(当審注:下線は当審による。)。この点について検討すると、訂正審判により訂正された請求項2においては、「軟質製本体は、アンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、」(当審注:下線は当審による。)となっており、当審の通知した不備が解消されている。したがって、本件特許発明2についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、請求項2に係る特許は同法第123条第1項第4号の規定には該当しない。

5 訂正要件について
(1)新規事項の有無について
新規事項の追加その1について
請求人は、軟質製本体が接合線なく一体成形されていることは、本件特許明細書等に記載されていないから、請求項1について「スラッシュ成形により接合線なく一体成形され、かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体」なる訂正事項を含む第2訂正請求は、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項の規定に適合しない旨主張している。そこで、この点について検討する。ただし、請求人の前記主張は、第2訂正請求に対してされたものであり、訂正審判による訂正に対してされたものではないところ、請求人の訂正請求が不適法である旨の主張は、前記訂正事項を含む請求項1及び請求項2についての訂正審判による訂正は、特許法第126条第1項ただし書の規定に違反してされたものであるから、請求項1及び請求項2に係る特許は特許法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものであると読み替えて検討する(以下「5 訂正要件について」の部分で同様である。)。
本件特許明細書等には、「軟質製本体」に関して、次の記載がある。1)「上記上半身部品本体41を構成する軟質材は、芯材48の揺動作動によって変形可能な程度に軟質であればよく、例えば、塩化ビニル樹脂などの軟質合成樹脂材でスラッシュ成形等したものが代表例として挙げられる。なお、上記本体41の軟質材は、塩化ビニル樹脂などの軟質合成樹脂材に限定されず、他の軟質合成樹脂材であってもよく、また軟質ゴム材などから一体成形されるものであってもよい。」(段落【0010】)。2)「上半身部品本体41は、・・・本実施形態では本体41の前面(胸部45)位置には極端に大きい乳房部47を一体成形している。なお、本実施形態では、上半身本体41は、胸部45と腹部46とが一体成形された一体物である。」(段落【0010】)。これらの記載を参酌すると、本件特許明細書等には、軟質製本体がスラッシュ成形により一体成形されていることが記載されているということができる。そして、スラッシュ成形により一体成形されたものに接合線がないことは、本件特許明細書等の「従来のような二つ割構成ではなく一体成形され、……このように一体成形されるため、・・・従来のような合わせ面に生じていた線(図20に示すような接合線800)がなく」という記載(段落【0017】)及び本件特許の出願時における技術常識に照らし明らかである。すると、接合線なく一体成形された軟質製本体という技術事項は、当業者によって、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、接合線なく一体成形された軟質製本体という訂正事項を含む訂正審判による請求項1及び請求項2についての訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合するから、訂正審判による訂正は特許法第123条第1項第8号に該当するとは認められない。

新規事項の追加その2について
請求人は、本件特許明細書等に開示されている「腰部」は「腰部本体」に「押え部材」をネジ止めした構成であり、腰部をネジ穴や接合線を有しない一体成形した構成は、本件特許明細書等に記載されていないから、請求項1について「前記下半身部品は、……ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部を含み、」なる訂正事項を含む第2訂正請求は、同法第134条の2第5項において準用する特許法第126条3項の規定に適合しない旨主張している。そこで、この点について検討する。訂正審判により訂正された請求項1(及び請求項1を引用する請求項2)においては、「前記下半身部品は、……ネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体と、……上半身部品連結構造とを備え、」(当審注:下線は当審による。)となっており、請求人の主張する不備が解消されている。したがって、訂正審判による請求項1及び請求項2についての訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合するから、訂正審判による訂正は特許法第123条第1項第8号に該当するとは認められない。

ウ 職権訂正拒絶理由に係る論点について
平成22年1月14日付けの訂正拒絶理由通知において、第2訂正請求の請求項1における、上半身部品連結構造が腰部上端に露出するという訂正事項は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しない旨通知した。そこで、この論点について検討する。訂正審判により訂正された請求項1(及び請求項1を引用する請求項2)においては、「前記上半身部品連結構造は、……前記腰部本体の開放部位に位置して備えられ、」(当審注:下線は当審による。)となっており、当審の通知した不備が解消されている。したがって、訂正審判による請求項1及び請求項2についての訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合するから、訂正審判による訂正は特許法第123条第1項第8号に該当するとは認められない。

(2)目的外訂正及び特許請求の範囲の変更について
請求人は、第2訂正請求による請求項2の訂正は、上半身部品はアンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備えるという発明特定事項を削除する訂正が含まれるところ、このような訂正は特許請求の範囲を減縮するものではなく、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものであるから、特許法第134条の2第1項の規定に適合せず、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定にも適合しない旨主張している。そこで、この点について検討すると、訂正審判により訂正された請求項2においては、「軟質製本体は、アンダーバストの位置と腹部との接触角が鋭角である乳房部を備え、」との発明特定事項が存在しており、請求項1によれば、軟質製本体は上半身部品の一部であるから、請求人の主張する不備が解消されている。したがって、訂正審判による請求項2についての訂正は、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、訂正審判による訂正は特許法第123条第1項第8号に該当するとは認められない。


第7 結び
以上検討のとおり、請求人が申し立てた理由及び証拠方法並びに当審が職権で審理し通知した無効理由のいずれによっても、請求項1及び請求項2に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-30 
結審通知日 2010-09-01 
審決日 2010-03-19 
出願番号 特願2005-25336(P2005-25336)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A63H)
P 1 113・ 112- Y (A63H)
P 1 113・ 851- Y (A63H)
P 1 113・ 854- Y (A63H)
P 1 113・ 841- Y (A63H)
P 1 113・ 537- Y (A63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎松川 直樹  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 森林 克郎
岡田 吉美
登録日 2007-03-09 
登録番号 特許第3926821号(P3926821)
発明の名称 可動人形用胴体  
代理人 安藤 順一  
代理人 上村 喜永  
代理人 伊原 友己  
代理人 岩木 謙二  

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