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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1226108
審判番号 不服2007-13610  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-10 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2005-513310「電磁波遮蔽積層体およびこれを用いたディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月 3日国際公開、WO2005/020655〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年8月20日(優先権主張2003年8月25日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成19年1月4日付で拒絶の理由が通知され、平成19年3月12日付で手続補正がなされ、平成19年4月2日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年5月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年6月11日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成19年6月11日付けの手続補正についての補正の却下の決定

【補正の却下の決定の結論】
平成19年6月11日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

【決定の理由】
[1]本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を、次の(1-1)から次の(1-2)のとおりに補正するものである。
(1-1)
「【請求項1】
透明な基材上に電磁波遮蔽膜が3?6層積層された電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し、前記第1および/または第2の高屈折率層が酸化ニオブを主成分とする層であり、
前記第1および第2の高屈折率層は、各々幾何学的膜厚が20?50nmであることを特徴とする電磁波遮蔽積層体。
【請求項2】
前記電磁波遮蔽膜が、前記導電層と前記第2の高屈折率層との間に、
第2の酸化物層を有する請求項1に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項3】
前記導電層における銀の含有量が99.8原子%以上である請求項1または2に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項4】
前記第2の酸化物層が酸化亜鉛を主成分とする酸化物層である請求項2または3に記載
の電磁波遮蔽積層体。
【請求項5】
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から2以上積層された請求項1?4のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項6】
透明な基材上に電磁波遮蔽膜が3?6層積層された電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し、 前記電磁波遮蔽膜間で直接接する前記第1の高屈折率層と前記第2の高屈折率層が一括して成膜された1つの層からなり、
前記第1および第2の高屈折率層がそれぞれ酸化ニオブを主成分とする幾何学的膜厚が20?50nmの層であることを特徴とする電磁波遮蔽積層体。
【請求項7】
前記各電磁波遮蔽膜が、前記導電層と前記第2の高屈折率層との間に、
第2の酸化物層を有する請求項6に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項8】
画像を表示するためのディスプレイ画面と、
該ディスプレイ画面の視認側に設けられた請求項1?7のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽積層体とを備えることを特徴とするディスプレイ装置。」
(1-2)
「【請求項1】
透明な基材上に電磁波遮蔽膜が3?6層積層された電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し、 前記導電層は前記第1の酸化物層に直接接し、
前記第1および/または第2の高屈折率層が酸化ニオブを主成分とする層であり、
前記第1および第2の高屈折率層は、各々幾何学的膜厚が20?50nmであることを特徴とする電磁波遮蔽積層体。
【請求項2】
前記電磁波遮蔽膜が、前記導電層と前記第2の高屈折率層との間に、第2の酸化物層を有する請求項1に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項3】
前記導電層における銀の含有量が99.8原子%以上である請求項1または2に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項4】
前記第2の酸化物層が酸化亜鉛を主成分とする酸化物層である請求項2または3に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項5】
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から2以上積層された請求項1?4のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項6】
透明な基材上に電磁波遮蔽膜が3?6層積層された電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し、 前記導電層は前記第1の酸化物層に直接接し、
前記電磁波遮蔽膜間で直接接する前記第1の高屈折率層と前記第2の高屈折率層が一括して成膜された1つの層からなり、
前記第1および第2の高屈折率層がそれぞれ酸化ニオブを主成分とする幾何学的膜厚が20?50nmの層であることを特徴とする電磁波遮蔽積層体。
【請求項7】
前記各電磁波遮蔽膜が、前記導電層と前記第2の高屈折率層との間に、第2の酸化物層を有する請求項6に記載の電磁波遮蔽積層体。
【請求項8】
画像を表示するためのディスプレイ画面と、
該ディスプレイ画面の視認側に設けられた請求項1?7のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽積層体とを備えることを特徴とするディスプレイ装置。」
[2]本件補正の適否
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項6において、「前記導電層は前記第1の酸化物層に直接接し、」との記載事項を新たに付加し、補正前の「酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、銀を主成分とする導電層」について、「酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層」と「銀を主成分とする導電層」との具体的な層構造の関係を特定するものであるから、発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、また、本件補正後の請求項1及び請求項6に記載された発明は、本件補正前の請求項1及び請求項6に記載された発明と発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を一にするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項6に記載された発明(以下、「本願補正発明6」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

<独立特許要件についての検討>

[2-1]刊行物及び刊行物の主な記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、「特開2000-59082号公報」(以下、「刊行物1」という。)、引用文献2として引用された「特表2002-535713号公報」(以下、「刊行物2」という。)、及び、引用文献4として引用された「特開2000-294980号公報」(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)刊行物1:特開2000-59082号公報

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明基板の一方の面に電磁波遮断膜が被覆された電磁波遮断板と、前記電磁波遮断膜面に設けられた保護膜とを有する電磁波フィルタであって、前記電磁波遮断膜を、透明基板側から550nmの波長における屈折率が1.7?2.7の誘電体層と銀主成分層をこの順に交互に積層した9層の積層体とし、前記銀主成分層の厚みを5?20nmとすることにより、前記電磁波遮断膜のシート抵抗を2Ω/□以下、かつ、波長850nmにおける近赤外線透過率を15%以下としたことを特徴とするプラズマディスプレイパネル用の電磁波フィルタ。
【請求項2】 前記銀主成分層は、銀に対して0.1原子%以上0.5原子%未満のパラジウムを含有させたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル用の電磁波フィルタ。
・・・
(中略)
・・・
【請求項11】 前記誘電体層を、酸化錫主成分層と酸化亜鉛主成分層の多層積層体とし、銀主成分層に接する層を酸化亜鉛主成分層としたことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル用の電磁波フィルタ。
【請求項12】 前記誘電体層の最外層を酸化錫層としたことを特徴とする請求項11に記載のプラズマディスプレイパネル用の電磁波フィルタ。」

(1b)「【0034】なかでも導電性である酸化亜鉛は、銀主成分層に下地として積層すると、酸化亜鉛の結晶格子のピッチが銀のそれと非常に近いため比抵抗の低い(結晶性の高い)銀の膜成長に適しているので好ましい。また酸化亜鉛は、雰囲気中の銀に対する腐食性ガスに含まれる硫黄成分などを吸着して硫黄成分の銀層への直接到達を妨げ、銀層を保護するので好ましい。また、酸化亜鉛にアルミニウムやガリウムなどの金属を少量含有させた酸化亜鉛主成分層は、導電性が増加するので、また後述する成膜時において利点があるので好ましい。
【0035】酸化錫やインジウムと亜鉛の複合酸化物は、導電性があり、かつ非晶質の膜とすることができるので腐食性ガスに対するガスバリヤ性が高く、電磁波遮断膜の耐湿熱性を向上させるので好ましい。これらは大気などの環境中の腐食性ガスたとえばH_(2)S、SO_(2)、NOx、HClなどから銀層を保護する点でも好ましい。
【0036】上記理由から、本発明の誘電体層について、その最表面層または各層を酸化錫と酸化亜鉛あるいは酸化錫とアルミニウム含有酸化亜鉛(ZAOと略記する)の2層構成とするのが好ましい。この場合、銀層に下地として接する膜を酸化亜鉛系の膜とするのが上記結晶格子の関係から好ましい。」

(1c)「【0050】以下に本発明を実施例と比較例により説明する。
表1?表4の説明
・ガラス板:厚み2mmのソーダライムシリカ組成のフロートガラス板
・ZAO:6重量%のアルミニウムを含有する酸化亜鉛層
・AgPd0.4:銀に対してパラジウムを0.4原子%含有する銀主成分層
・( )内の数値は厚みで、電磁波遮断膜はnm単位、粘着層および保護膜はμm単位で表示。
・第1、第3、第5、第7、第9層目の誘電体層の多層構成は、透明基板に近い順に上から下へ記載した。」

(1d)「【表1】、【表2】
構成 実施例1・・・ 実施例6 実施例7
透明基板 ガラス板 ガラス板 ガラス板
第1層 SnO_(2)(34) SnO_(2)(40) SnO_(2)(26)
ZAO(7) ZAO(12) ZAO(6)
第2層 AgPd0.4(10) AgPd0.4(10) AgPd0.4(10)
第3層 ZAO(7) ZAO(8) ZAO(5)
SnO_(2)(62) SnO_(2)(73) SnO_(2)(45)
ZAO(7) ZAO(8) ZAO(5)
第4層 AgPd0.4(11) AgPd0.4(11) AgPd0.4(11)
第5層 ZAO(7) ZAO(8) ZAO(5)
SnO_(2)(60) SnO_(2)(71) SnO_(2)(44)
ZAO(7) ZAO(8) ZAO(5)
第6層 AgPd0.4(11) AgPd0.4(11) AgPd0.4(11)
第7層 ZAO(7) ZAO(8) ZAO(5)
SnO_(2)(62) SnO_(2)(73) SnO_(2)(45)
ZAO(7) ZAO(8) ZAO(5)
第8層 AgPd0.4(10) AgPd0.4(10) AgPd0.4(10)
第9層 ZAO(7) ZAO(8) ZAO(5)
SnO_(2)(32) SnO_(2)(38) SnO_(2)(23)」

(2)刊行物2:特表2002-535713号公報

(2a)「【0012】
・・・本発明の1つの目的は、プラズマディスプレイパネルと共に使用するフィルム又はフィルタを提供することである。
本発明の別の目的は、反射防止のEMI遮蔽、明暗の向上、及び赤外線遮蔽能力を提供し且つ消費者の安全性の基準にも適合する、プラズマディスプレイパネルフィルタを提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、1つ又は2つ以上の導電膜と、その後、第二の基板に積層するため透明な基板上に形成された1つ又は2つ以上の誘電層とを有するプラズマディスプレイパネルフィルタを提供することである。」

(2b)「【0007】
遮蔽膜の好ましい実施の形態は、導電性材料から成る1つ又は2つ以上の層と、これと交番的に配置される誘電体の1つ又は2つ以上の層とを備えている。導電性材料は、銀材料が好ましいが、特に、銀、銅、金及びインジウムスズ酸化物のような、色々な導電性金属又はその他の材料を含むことができる。誘電材は、ニオブ五酸化物が好ましいが、特に、ニオブ五酸化物、二酸化チタン、スズ酸化物のような色々な材料を含むことができる。」

(2c)「【0027】
・・・
具体的には、フィルム27は、4つの誘電層50、54、58、61と、互いに挿置した3つの導電層51、55、59とを有している。
【0028】
図3を参照すると、層50、54、58、61は、少なくとも1.7、好ましくは約2.2乃至2.8の屈折率を有する比較的高屈折率の誘電材である。」

(3)刊行物3:特開2000-294980号公報

(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明基板の一方の面に、前記透明基板側から誘電体層と銀層とがこの順に交互に繰り返し積層された(2n+1(n≧1))層の積層体を含む透光性電磁波遮断膜が被覆された電磁波遮断膜付き基板において、前記誘電体層は、550nmの波長における屈折率が1.6?2.7の帯電防止性金属酸化物層を含むことを特徴とする透光性電磁波フィルタ。
・・・
(中略)
・・・
【請求項8】 前記帯電防止性金属酸化物層を、モリブデンを含む主成分が酸化ニオブの層で構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の透光性電磁波フィルタ。」

(3b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、陰極線管(CRT)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル等の表示装置の前面に設置して、表示装置から放出される電磁波をカットする電磁波フィルタおよびその製造方法に関する。」

(3c)「【0041】本発明の誘電体層を形成する金属酸化物層は、550nmの波長における屈折率が1.6?2.7の帯電防止性の金属酸化物を含むことが必要である。本発明で用いられる金属酸化物層の主成分は、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化チタニウムが例示できる。これらの金属酸化物に少量の金属酸化物を添加させて半導体的性質を付与し、帯電防止性を付与する。好ましい帯電防止性を確保するための層の比抵抗は5Ωcm以下であるのが好ましい。0.5Ωcm以下であるのがより好ましく、0.05Ωcm以下であるのがさらに好ましい。」

[2-2]本願補正発明6についての当審の判断

(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1a)の「【請求項1】 透明基板の一方の面に電磁波遮断膜が被覆された電磁波遮断板と、前記電磁波遮断膜面に設けられた保護膜とを有する電磁波フィルタであって、前記電磁波遮断膜を、透明基板側から550nmの波長における屈折率が1.7?2.7の誘電体層と銀主成分層をこの順に交互に積層した9層の積層体とし、前記銀主成分層の厚みを5?20nmとすることにより、前記電磁波遮断膜のシート抵抗を2Ω/□以下、かつ、波長850nmにおける近赤外線透過率を15%以下としたことを特徴とするプラズマディスプレイパネル用の電磁波フィルタ。」との記載によれば、刊行物1には、「透明基板の一方の面に電磁波遮断膜が被覆された電磁波遮断板」が記載されており、前記電磁波遮断膜は、透明基板側から550nmの波長における屈折率が1.7?2.7の誘電体層と銀主成分層をこの順に交互に積層した9層の積層体、すなわち、透明基板側から前記誘電体層の5層と銀主成分層の4層とをこの順に交互に積層した積層体であるということがいえる。

そして、(1a)の「【請求項11】 前記誘電体層を、酸化錫主成分層と酸化亜鉛主成分層の多層積層体とし、銀主成分層に接する層を酸化亜鉛主成分層としたことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル用の電磁波フィルタ。【請求項12】 前記誘電体層の最外層を酸化錫層としたことを特徴とする請求項11に記載のプラズマディスプレイパネル用の電磁波フィルタ。」との記載によれば、前記電磁波遮断膜の前記誘電体層は、酸化錫主成分層と酸化亜鉛主成分層の多層積層体であり、前記銀主成分層に直接接する層を酸化亜鉛主成分層とし、また、最外層を酸化錫層とするものであるから、これらの具体的な積層関係の態様を示す、(1d)の表1、表2の実施例1、6及び7の記載を合わせ見ると、前記電磁波遮断膜は、透明基板側から順に第1?9層よりなり、第1、3、5、7、9層が「誘電体層」であり、第2、4、6、8層が「銀主成分層」であり、第1層が、順に「酸化錫主成分層」、「酸化亜鉛主成分層」、第3?7層が、順に「酸化錫主成分層」、「酸化亜鉛主成分層」、「酸化錫主成分層」、第9層が、順に「酸化亜鉛主成分層」、「酸化錫主成分層」である。

ここで、前記電磁波遮断膜を、前記透明基板側から順に整理すると、前記電磁波遮断膜は、「前記透明基板側から順に、誘電層である酸化錫主成分層、酸化亜鉛主成分層、銀主成分層、酸化亜鉛主成分層を積層する積層体」を積層単位として、順に4層の同一構造の積層単位、すなわち、同一構造の第1の積層単位、第2の積層単位、第3の積層単位、及び、第4の積層単位を積層し、最外層に酸化錫主成分層を積層するものであり、前記銀主成分層は、前記酸化亜鉛主成分層に直接接するものである。
また、(1d)の実施例1、6及び7における酸化錫主成分層の括弧内の数値は、(1c)によれば、nm単位で示される膜厚値であり、前記第1の積層単位の酸化錫主成分層は、各実施例の第1層の酸化錫主成分層であるから、その膜厚は、26nm?40nmであり、前記第2?第4の積層単位の酸化錫主成分層は、それぞれ各実施例の第3層、第5層及び第7層の酸化錫主成分層であるから、その膜厚は、44?73nmであり、最外層の酸化錫主成分層は、各実施例の第9層の酸化錫主成分層であるから、その膜厚は、23nm?38nmであるということができる。

また、プラズマディスプレイの電磁波フィルタの分野において、1.7?2.7の屈折率を有する材料は、高屈折率材料にあたることは、技術常識であるから(要すれば、刊行物2の(2c)、特開平11-77873号公報の【0011】を参照。)、前記「屈折率が1.7?2.7の誘電体層である酸化錫主成分層」は、「屈折率が1.7?2.7の高屈折率誘電体層」である「酸化錫主成分層」ということができる。

以上の記載及び認定事項について、前記積層単位の酸化亜鉛主成分層を透明基板に近い順に番号を付することにより区別した上で、本願補正発明の記載ぶりに則り整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されているといえる。

「透明基板の一方の面に電磁波遮断膜が被覆された電磁波遮断板であって、 前記電磁波遮断膜は、前記透明基板側から順に、屈折率が1.7?2.7の高屈折率誘電体層、
第1の酸化亜鉛主成分層、
銀主成分層、
第2の酸化亜鉛主成分層から成り、
前記銀主成分層は、前記酸化亜鉛主成分層に直接接しており、
前記高屈折率誘電体層が酸化錫主成分層である積層体を積層単位とし、
第1の積層単位から第4の積層単位までの4層を積層し、さらに、最外層に屈折率が1.7?2.7の高屈折率誘電体層を有し、該高屈折率誘電体層が酸化錫主成分層であり、
前記第1の積層単位の前記高屈折率誘電体層である酸化錫主成分層の膜厚は、26nm?40nmであり、
前記第2?第4の積層単位のそれぞれの前記高屈折率誘電体層である酸化錫主成分層の膜厚は、44nm?66nmであり、
前記最外層の前記高屈折率誘電体層である酸化錫主成分層の膜厚は、23nm?38nmである、電磁波遮断板。」

(2)本願補正発明6と刊行物1発明との対比
本願補正発明6と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「透明基板」、「電磁波遮断板」は、それぞれ、本願補正発明6の「透明な基材」、「電磁波遮蔽積層体」に相当する。
また、本願補正発明6の「幾何学的膜厚」とは、実際の膜厚をいうことは技術常識であるから、刊行物1発明の「膜厚」と、本願補正発明6の「幾何学的膜厚」とは一致する。

また、本願補正発明6の各電磁波遮蔽膜と刊行物1発明の各積層単位を対比すると、刊行物1発明は、第1?第4の積層単位を有するから、本願補正発明6において、電磁波遮蔽膜が4層積層された電磁波遮蔽積層体に対応するものといえる。
そして、刊行物1発明の第1の積層単位の、高屈折率誘電体層と、第1の酸化亜鉛主成分層と、銀主成分層とは、それぞれ、本願補正発明6の1層目の電磁波遮蔽膜の、第1の高屈折率層と、酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層と、銀を主成分とする導電層とに対応し、刊行物1発明の第2の積層単位の、第1の酸化亜鉛主成分層と、銀主成分層とは、それぞれ、本願補正発明6の2層目の電磁波遮蔽膜の、酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層と、銀を主成分とする導電層とに対応し、よって、刊行物1発明の第2の積層単位の高屈折率誘電体層は、本願補正発明6の1層目の電磁波遮蔽膜の第2の高屈折率層及び2層目の電磁波遮蔽膜の第1の高屈折率層に対応するものといえる。

そこで、刊行物1発明の第1の積層単位の高屈折率誘電体層と本願補正発明6の1層目の電磁波遮蔽膜の第1の高屈折率層を対比すると、前者の膜厚は26nm?40nmであり、また、後者の膜厚は、20?50nmであるから、両者は、いずれも高屈折率層であって、膜厚の点においても一致するものである。
また、刊行物1発明の第2の積層単位の高屈折率誘電体層は、前記したとおり、本願補正発明6の1層目の電磁波遮蔽膜の第2の高屈折率層及び2層目の電磁波遮蔽膜の第1の高屈折率層に対応するところ、刊行物1発明の第2の積層単位の高屈折率誘電体層の膜厚は、44nm?66nmであるのに対し、それに対応する本願補正発明6の1層目の電磁波遮蔽膜の第2の高屈折率層及び2層目の電磁波遮蔽膜の第1の高屈折率層の膜厚は、それぞれ、20?50nmであるから、その和は、40nm?100nmであり、両者は膜厚において一致するものであって、しかも、本願補正発明6の1層目の電磁波遮蔽膜の第2の高屈折率層と2層目の電磁波遮蔽膜の第1の高屈折率層は、直接接しており、一括して成膜されるもの、すなわち、一層で形成されるものであるから、両者は層構造においても一致するものである。
そして、かかる点は、刊行物1発明の第3の積層単位の高屈折率誘電体層と、本願補正発明6の2層目の電磁波遮蔽膜の第2の高屈折率層及び3層目の電磁波遮蔽膜の第1の高屈折率層との関係、並びに、刊行物1発明の第4の積層単位の高屈折率誘電体層と、本願補正発明6の3層目の電磁波遮蔽膜の第2の高屈折率層及び4層目の電磁波遮蔽膜の第1の高屈折率層との関係についても同様である。
また、刊行物1発明の最外層の前記高屈折率誘電体層は、本願補正発明6の4層目の電磁波遮蔽膜の第2の高屈折率層に対応し、前者の膜厚は、23nm?38nmであり、また、後者の膜厚は、20?50nmであるから、両者は、いずれも高屈折率層であって、膜厚の点においても一致しているものといえる。

次に、本願補正発明6の「酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層」と、その対応関係にある、刊行物1発明の「酸化亜鉛主成分層」とを対比する。 刊行物1発明の「酸化亜鉛主成分層」は、(1b)の記載によれば、「酸化亜鉛にアルミニウムやガリウムなどの金属を少量含有させた酸化亜鉛主成分層」であり、「アルミニウム含有酸化亜鉛(ZAOと略記する)」を含み、その組成は、(1c)の「表1?表4の説明 ・・・ ZAO:6重量%のアルミニウムを含有する酸化亜鉛層」との記載によれば、酸化亜鉛を94重量%含有するから、原子比換算では、90原子%程度を含有するものであるところ、本願補正発明6の「酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層」は、本願明細書の「【0029】酸化亜鉛を主成分とする物質とは、酸化亜鉛が80原子%以上、好ましくは90原子%以上含まれることを意味する。具体的には、実質的に酸化亜鉛(ZnO)のみからなるものであってもよい」との記載によれば、酸化亜鉛が80原子%以上を含むものを意味するのであるから、本願補正発明6の酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層と刊行物1発明の酸化亜鉛主成分層とは一致する。

また、同様に、本願補正発明6の「銀を主成分とする導電層」と、その対応関係にある、刊行物1発明の「銀主成分層」とを対比する。
刊行物1発明の「銀主成分層」は、(1a)の「【請求項2】前記銀主成分層は、銀に対して0.1原子%以上0.5原子%未満のパラジウムを含有させた」との記載によれば、銀に対して、パラジウムを原子%にて、0.1原子%以上0.5原子%未満の範囲で添加したものであるから、銀の含有量は、99.5原子%以上99.9原子%以下であるところ、本願補正発明6の「銀を主成分とする導電層」は、本願明細書の「【0041】(導電層)・・・ここで、銀を主成分とする物質とは、該物質に含まれる全金属に対して、銀の含有量が99.8原子%以上であることを意味する。銀を主成分とする物質としては、銀単体、銀にパラジウム、白金、金、イリジウム、ロジウム、銅およびビスマスから選ばれる少なくとも一種の金属が混入している合金が挙げられる。」との記載によれば、銀の含有量が、99.8原子%以上の銀-パラジウム合金を含むものであるから、本願補正発明6の「銀を主成分とする導電層」と刊行物1発明の「銀主成分層」とは一致する。

そうすると、本願補正発明6と刊行物1発明とは、
「透明な基材上に電磁波遮蔽膜が4層積層された電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および第2の高屈折率層を有し、
前記導電層は前記第1の酸化物層に直接接し、
前記第1および第2の高屈折率層は、各々幾何学的膜厚が20?50nmである電磁波遮蔽積層体。」
である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点:
本願補正発明6は、前記第1および第2の高屈折率層が屈折率が2.0以上である酸化ニオブを主成分とする層であるのに対し、刊行物1発明は、前記第1および第2の高屈折率層が酸化錫主成分層である点。

(3)相違点についての判断

刊行物2や刊行物3にも記載されているように、プラズマディスプレイフィルタに用いる透光性の電磁波遮断膜を、透明基板側から誘電体層と銀層とをこの順に交互に繰り返して成る積層体とし、屈折率が1.6?2.7、或いは、1.7?2.8の高屈折率を有する金属酸化物で成る前記誘電体層の材料として酸化ニオブを用いることは周知(刊行物2の(2a)、(2b)、(2c)、刊行物3の(3a)(3b)を参照。)であり、しかも、刊行物2の(2b)や刊行物3の(3c)には、前記酸化ニオブと同様に酸化錫が用いられることも記載されている。
そうすると、刊行物1発明と同じくプラズマディスプレイの電磁波フィルタの技術分野に属する、刊行物2、刊行物3に記載された周知技術を刊行物1発明に適用し、屈折率が1.7?2.7の高屈折率誘電体層を酸化錫主成分層に代えて酸化ニオブ主成分層とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
よって、前記相違点は、当業者が容易になし得たものである。

(4)小括
したがって、本願補正発明6は、刊行物1発明に刊行物2、3に記載された周知技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

[2-3]むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明についての審決

[1]本願発明

平成19年6月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成19年3月12日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項6に係る発明は、次のとおりのものである。
「透明な基材上に電磁波遮蔽膜が3?6層積層された電磁波遮蔽積層体であって、
前記電磁波遮蔽膜が、前記基材側から順に、屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層、
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し、 前記電磁波遮蔽膜間で直接接する前記第1の高屈折率層と前記第2の高屈折率層が一括して成膜された1つの層からなり、
前記第1および第2の高屈折率層がそれぞれ酸化ニオブを主成分とする幾何学的膜厚が20?50nmであることを特徴とする電磁波遮蔽積層体。」(以下、「本願発明6」という。)

[2]原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由は、本願の請求項1?8に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前のその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2000-59082号公報(「刊行物1」)
引用文献2:特表2002-535713号公報(「刊行物2」)
引用文献3:特開2002-6106号公報
引用文献4:特開2000-294980号公報(「刊行物3」)

[3]刊行物の主な記載事項及び刊行物1発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開2000-59082号公報)、刊行物2(特表2002-535713号公報)、刊行物3(特開2000-294980号公報)の主な記載事項は、前記「第2 【決定の理由】[2-1]」に記載したとおりである。
また、刊行物1発明は、前記「第2 【決定の理由】[2-2](1)」に記載したとおりである。

[4]当審の判断
前記「第2 【決定の理由】[2-2]」において、その独立特許要件を検討した本願補正発明6は、前記「第2 【決定の理由】[1]」に示すとおり、本願発明において、「酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層、銀を主成分とする導電層」について、「前記導電層は前記第1の酸化物層に直接接し、」と特定することにより、発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、そして、このように発明を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定的に減縮した本願補正発明6が、刊行物1発明、及び、刊行物2、刊行物3に記載された前記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると認められることは、前記「第2 【決定の理由】[2-2]」に示すとおりであるから、本願発明6も、「第2 【決定の理由】[2-2]」に記載したと同様の理由により、刊行物1発明、及び刊行物2、刊行物3に記載された前記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[5]むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきでものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-10 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-29 
出願番号 特願2005-513310(P2005-513310)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川内野 真介  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 吉水 純子
植前 充司
発明の名称 電磁波遮蔽積層体およびこれを用いたディスプレイ装置  
代理人 青山 正和  
代理人 柳井 則子  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 三義  

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