ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
---|---|
管理番号 | 1226154 |
審判番号 | 不服2006-7358 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-17 |
確定日 | 2010-10-12 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第526653号「プリンタの電極」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月31日国際公開、WO97/27058、平成12年 4月 4日国内公表、特表2000-503918〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、1997年1月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年1月22日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成15年12月5日付けで最初の拒絶理由が通知され、平成16年3月8日付けで手続補正書が提出され、平成16年6月22日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成16年12月7日付けで手続補正書が提出され、平成17年2月9日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成18年1月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年4月17日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年5月16日付けで明細書についての手続補正がなされ、平成21年10月6日付けで、平成18年5月16日付けの手続補正が却下されるとともに最初の拒絶理由が通知され、平成22年4月13日付けで、意見書が提出されるとともに明細書についての手続補正がなされ、平成22年5月13日付けで上申書が提出されたものである。 第2 本願発明の認定 本願の請求項1に係る発明は、平成22年4月13日付けで補正された本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 使用時において液体を収容する放出セルであって、前記セル内に配置される突出部を有するところの放出セルを備える、液体から物質を放出する放出装置において、 前記突出部は、前記液体のメニスカスのための所定位置を規定する、先端を有しており、前記突出部は、1つ以上の面において液体と接触するように配置されており、そして、 放出電極が、前記セル内において、前記突出部の先端よりも内側の位置に配置されることを特徴とする装置。」(以下「本願発明」という。) 第3 引用発明の認定 本願の優先権主張の日前に頒布された特表平7-502218号公報(以下「引用例」という。)には、以下の記載(ア)?(オ)が図と共にある。 (ア)「 特許請求の範囲 1.粒状物質を含む液体から、液体内に粒状物質からなる離散凝集物、クランプ、凝結体、堆積物、クラスターなどを生成する方法であって、粒状物質を含む液体を、イジェクト位置に提供し、前記イジェクト位置に電位を与え、その位置に電界を形成し、凝集物をイジェクト位置に形成し、静電手段により、凝集物がイジェクト位置から離間するようにイジェクトされるように構成されたことを特徴とする方法。」(第2頁左上欄第1?7行) (イ)「第1図には、本発明の主たる特徴が示されており、液体内に離散凝集物の粒子を生成する装置は、テーパー状の端部を有するように形成された導電性ボディ1を備えている。導電性供給管2が、ボディl内で、該ボディlに電気的に接続されている。供給管2は、ボディ1よりも長く、その両端で、ボディ1から突出している。ボディ1のテーパー状の端部において、供給管2は、長さに対して30°の角度をなして終端し、したがって、頂面上に小さな曲率半径を有する尖点を有している。この尖点を、イジェクト点3と称する。供給管2の他端部は、粒子を含む液体の定圧供給システム4に接続されている。」(第4頁右上欄第1?8行) (ウ)「ボディ1の下側のイジェクト点3の下には、羽根形状の流れディレクタ5が設けられ、過剰な液体や粒状物質を、除去流路6に指向する。除去流路6は、外部抽出システム7に接続されている。」(第4頁右上欄第10?13行) (エ)「ボディ1には、電圧8を印加することができ、したがって、供給管2に電圧を印加することができる。」(第4頁右上欄第14?15行) (オ)「電界が十分に強かった場合には、少量の液体とともに粒状物質の凝集物が、イジェクト点から垂直の方向にイジェクトされる。」(第4頁右上欄第21?23行) 上記(イ)?(オ)は、上記(ア)の方法を実施する装置に係る記載である。 該装置は、上記(ア)の「凝集物がイジェクト位置から離間するようにイジェクトされる」及び上記(オ)より、「粒状物質の凝集物をイジェクトする装置」である。 上記(イ)に「導電性供給管2が、ボディl内で、該ボディlに電気的に接続されている。供給管2は、ボディ1よりも長く、その両端で、ボディ1から突出している。」とあるとおり、導電性供給管2の両端はボディ1から突出しており、導電性供給管2の両端を除く部分はボディ1内に配置されている。このことは、上記(イ)が参照する引用例の第1図からも看取できる。 上記(イ)の「導電性供給管2が、ボディl内で、該ボディlに電気的に接続されている。」より、導電性供給管2とボディlは電気的に接続されているので、上記(エ)にいうとおり、ボディ1に電圧8を印加することにより、供給管2に電圧8が印加される。 上記(イ)及び(ウ)より、定圧供給システム4から供給された液体は、導電性供給管2先端の上部であるイジェクト点3の下にまで至ってから、導電性供給管2先端の下部を回り込んで除去流路6に入って回収される。 また、上記(オ)より、粒状物質を含む液体は、イジェクト点3にまで達している。 よって、導電性供給管2の先端の上部から下部にわたって液体が存在するから、導電性供給管2は、その内面が液体と接触しており、液体のメニスカスのための所定位置を規定する先端を有している。 してみると、引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる。 「キャリア液体から粒状物質の凝集物をイジェクトするイジェクト装置において、 ボディ1と、 前記ボディ1内にその両端を除く部分が配置される導電性供給管2と、を備え、 前記導電性供給管2は、その内面において液体と接触して、液体のメニスカスの所定位置を規定する先端を有し、 さらに、前記イジェクト装置は、前記導電性供給管2先端上部であって、粒状物質をイジェクトするための電圧8が印加されるイジェクト点3を有する装置。」(以下、「引用発明」という。) 第4 対比 引用発明の「粒状物質の凝集物」、「イジェクトする」及び、「イジェクト装置」は、それぞれ本願発明の「物質」、「放出する」及び「放出装置」に相当する。 引用発明の「導電性供給管2」は、「液体のメニスカスのための所定位置を規定する、先端を有しており」かつ「1つ以上の面において液体と接触するように配置されて」いる点で、本願発明の「突出部」と共通している。 そして、引用発明の「ボディ1」は、「突出部」(導電性供給管2)が配置される点で、本願発明の「放出セル」と共通している。 引用発明の「導電性供給管2先端上部であって、粒状物質をイジェクトするための電圧8が印加されるイジェクト点3」は、「物質」(粒状物質の凝集物)を「放出する」(イジェクトする)ための電圧が印加される電極である点で、本願発明の「放出電極」と共通している。 ボディlの内にある導電性供給管2に液体が流れるのであるから、引用発明のボディlは、使用時において、液体を収納するといえる。 してみれば、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「使用時において液体を収納する放出セルであって、前記セルに配置される突出部を有するところの放出セルを備える、液体から物質を放出する放出装置において、 前記突出部は、前記液体のメニスカスのための所定位置を規定する、先端を有しており、前記突出部は、1つ以上の面において液体と接触するように配置されており、そして、放出電極が配置される装置。」 <相違点1> 「突出部」に関して、本願発明は「前記セル内に配置される突出部」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。 <相違点2> 「放出電極」に関して、本願発明は、「セル内において、突出部の先端よりも内側の位置に配置される」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。 第5 判断 <相違点1>について 引用発明の「突出部」(導電性供給管2)は、その両端が「放出セル」(ボディ1)内に配置されていない。 しかしながら、引用発明の「突出部」(導電性供給管2)は、液体をその先端まで流すものであればよいのであって、どの部分を「放出セル」(ボディ1)内に配置するかは、設計事項にすぎない。 よって、引用発明において、本願発明の相違点1に係る構成を備えることは、当業者が適宜なし得ることである。 <相違点2>について 引用発明の「放出電極」(導電性供給管2先端上部であって、粒状物質をイジェクトするための電圧8が印加されるイジェクト点3)は、「突出部」(導電性供給管2)と兼用されている(導電性供給管2先端上部が放出電極となっている。)ので、その位置が「突出部」(導電性供給管2)の先端と同じ位置であり、先端よりも内側の位置となっていない。 しかしながら、引用発明の「放出電極」は、「物質」(粒状物質の凝集物)を放出する(イジェクトする)ための電界を形成できる位置にあればよく、該位置は設計事項の範囲内で当業者が適宜定め得る。 また、電極により形成される電界で液体のメニスカス面から物質を放出する装置において、該電極を、該液体を収容する部分の先端よりも内側の位置に配置することはありふれた構成である。 そのことを示す例として、平成18年5月16日付けの手続補正についての補正却下の決定で引用され本願の優先権主張の日前に頒布された特開平1-195053号公報及び本願の優先権主張の日前に頒布された特開昭62-111753号公報を挙げることができる。 特開平1-195053号公報には、「個別電極(15)を、上記吐出口(13)より20μm離れた位置に形成した。」(第9欄第10?12行)及び「個別電極(15)に-200Vのパルス電圧を印加・・・インクジェットヘッド構成部材の吐出口(13)から飛翔された-に帯電した飛翔インク(17)」(第12欄第4?9行)との記載があり、第2図(A)からは、インク通路用の溝11の先端の吐出口13より後ろの位置に個別電極15が配置されていることが看取できる。 特開昭62-111753号公報の第4図からは、ノズルヘッド41の溝の先端より下がった位置に金電極43a,43b,43cが配置されていることが看取できる。 よって、引用発明において、「放出電極」(導電性供給管2先端上部であって、粒状物質をイジェクトするための電圧8が印加されるイジェクト点3)を「突出部」(導電性供給管2)とは別体のものとし、「突出部」(導電性供給管2)の先端よりも内側の位置に配置することにより、本願発明の相違点2に係る構成を備えることは、当業者が適宜なし得ることである。 まとめ 以上のことから、引用発明において、本願発明の相違点1及び相違点2に係る構成を備えることは、当業者が適宜なし得ることである。 また、かかる発明特定事項を採用することによる効果も、当業者が予測し得る程度のものである。 したがって、本願発明は、引用発明の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 請求人は意見書及び上申書において、「本願発明は、本願の図6に示された溝3内の電位分布を得ることにより、突出部先端に物質を集めることができる。」旨を主張しているので、以下検討する。 本願明細書及び図面には、本願の図6に示された溝3内の曲線が電位分布であるとの記載はない。 図6には、L字型断面形状の放出電極9及びセル分離体ランド4の面取り面8上の第2電極が記載されているが、放出電極9及び第2電極の電位が規定されていないから、両電極による電位分布は不明である。 しかも、本願発明の放出電極は「各放出セル内で、突出部の先端よりも内側の位置に配置される」と特定されるのみであって、図6に記載された放出電極9及び第2電極の構成と対応していない。 以上のことから、該主張は採用できない。 第6 むすび 本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-05-10 |
結審通知日 | 2010-05-17 |
審決日 | 2010-05-28 |
出願番号 | 特願平9-526653 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B41J)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小牧 修、藤本 義仁 |
特許庁審判長 |
江成 克己 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 藏田 敦之 |
発明の名称 | プリンタの電極 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 井野 砂里 |
代理人 | 弟子丸 健 |
代理人 | 熊倉 禎男 |