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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G07G
管理番号 1226286
審判番号 不服2009-489  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-05 
確定日 2010-11-04 
事件の表示 特願2003-143600号「電子計算機器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 9日出願公開、特開2004-348364号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯

本件出願は、平成15年 5月21日を出願日とする出願であって、平成20年11月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年 1月 5日に本件審判請求がなされるとともに同年 2月 4日付けで手続補正(前置補正)がなされ、当審合議体による平成22年 6月18日付けの拒絶理由通知に応答して、平成22年 8月19日付けで手続補正がなされたものである。


2 本願発明

本件出願の請求項1に係る発明は、平成22年 8月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりの事項により特定されるものと認められる。
「【請求項1】 少なくとも商品の価格を含む売上データが入力されると、入力された売上データに基づいて売上登録処理を行う登録手段と、
売上登録処理によって算出された売上金額に基づいて、入金処理および釣銭金額算出処理を含む預かり処理を行う預かり手段とを有する電子計算機器であって、
前記売上金額は、一部売上金額と、割勘売上金額とからなり、
前記預かり手段は、
前記一部売上金額を売上金額として預かり処理を行う一部預かり手段と、
前記割勘売上金額に対して、入力された人数に基づく割勘処理を行う割勘手段と、
前記一部売上金額を入力する一部売上金額入力手段と、
前記割勘売上金額を入力する割勘売上金額入力手段とを有し、
前記一部売上金額が入力されたときは、前記一部預かり手段が動作し、
売上金額から前記一部売上金額を減算して割勘売上金額を算出した後、割勘手段が動作し、
前記割勘手段は、
前記算出された割勘売上金額に対して、
入力された顧客の人数にて除算することにより、顧客一人当たりの割勘金額を算出する算出手段と、
オペレータの操作によって設定された最小単位の設定に基づき、生じた余りを最後の顧客の割勘金額に加算する加算手段と、
割勘預かり処理後の残金額を算出する残金額算出手段と、
前記顧客一人当たりの割勘金額、前記余り、前記顧客の人数および前記残金額を表示する表示手段であって、割勘預かり処理を行うごとに、前記顧客一人当たりの割勘金額、前記余り、前記顧客の人数および前記残金額を更新して表示する表示手段とを備え、
一部売上金額およびそれぞれの割勘金額を記載した領収証を人数分印字する印字手段を有することを特徴とする電子計算機器。」
(以下「本願発明」という。)


3 引用刊行物とその記載事項

(1)刊行物1の記載内容

(1-1)刊行物1に記載された事項

当審の拒絶理由で引用した、本願の出願よりも前に頒布された刊行物である特開平10-320642号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。

(ア)「【0031】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施の一形態である金銭登録機1の電気的構成を示すブロック図である。金銭登録機1は、商品の売上金額および売上数量を含む売上情報の累積を表す取引情報を算出して記憶する売上登録処理を行う。金銭登録機1は、たとえば電子式キャッシュレジスタおよびPOS端末装置で実現される。
【0032】金銭登録機1は、モード切換えスイッチ3、キーボード4、メモリ7,8、中央処理回路10、表示装置12、プリンタ13、およびドロワ14を含んで構成される。金銭登録機1は、動作モードとして、登録モード、計算モード、設定モード、管理モード、および点検/精算モードを含む。登録モードでは、たとえば売上登録処理が行われる。計算モードでは、四則演算を行う四則演算処理が行われる。点検/精算モードでは、たとえば日単位または月単位の売上金額の点検と売上高の精算との処理が行われる。設定モードでは、登録機1の各種の処理手順および機能の設定処理が行われる。この設定処理は、金銭登録機1で取扱うことができる商品の部門コード、商品名、および単価を設定するための処理を含む。」

(イ)「【0037】中央処理装置10は、キー判定部20、売上登録制御部21、四則演算部22、端数処理選択部23、端数処理部24、算出選択部25を含む。四則演算部22は、計算モードの実行が指示されたときに動作し、四則演算を行う。端数処理選択部23は、キーボード4の操作態様に応答して、四則演算部22の演算結果を表す演算値の端数処理の有無を選択する。端数処理部24は、演算値のうちで桁指定部バッファ44に記憶されたデータによって指定された桁未満の端数を端数処理する。算出選択部25は、キーボード4の操作態様に応答して、四則演算処理の処理結果を売上登録処理に用いるか否かを選択する。売上登録制御部21は、登録モードの実行が指示されたときに動作し、端数処理選択部23の選択結果、算出選択部25の選択結果、キーボード8の出力、四則演算部22の出力、および端数処理部24の出力に応答して、売上登録処理を行う。各部20?25の動作の詳細は後述する。各部20?25は、中央処理装置10の演算処理で実現される仮想回路である。またこれら各部20?25は、実在の回路で個別に備えられても良い。中央処理装置10は、たとえばマイクロコンピュータで実現される。」

(ウ)「【0038】表示装置12は、登録モードでは、キーボード4から入力された商品の売上金額および売上数量ならびに所属部門を表示する。また表示装置12は、計算モードでは、キーボード4から入力された数値と記号とを含む算式を表示する。さらに表示装置12は、中央処理装置10で実施された売上登録処理または四則演算処理の処理結果を表示する。プリンタ13は、中央処理装置で実施された売上登録処理および四則演算処理の処理結果をレシート用記録紙および保存用記録紙に印刷して、いわゆるレシートおよびジャーナルを生成する。ドロワ14は、紙幣および硬貨を収納し、その開閉が中央処理装置10によって制御される。」

(エ)「【0049】基本動作の操作手順は以下の通りである。操作者は、まず、モード切換スイッチ3によって登録モードを指示し続ける。この状態で、1取引で取引される商品の所属部門と売上情報とを各商品毎にキーボード8から入力し、全ての商品の所属部門と売上情報とを入力した後、小計キー36を操作する。これによって、金銭登録機1はこの取引の小計金額を算出し、その小計金額を表示装置12に表示させる。操作者は、顧客から金銭を受領した後に現金キー37を操作して、締め操作を行わせ、さらにレシートを発行させる。
【0050】割前勘定動作の操作手順は以下の通りである。操作者は、基本動作と同じ手順で、金銭登録機1に取引の小計金額を算出させる。次いで操作者は、モード切換スイッチ3によって計算モードを指示する。計算モードでは、キー35を操作して小計金額を算式の第1項の数値として入力し、キー32dを操作して除号を入力し、この取引の顧客の人数を置数キー群31から入力し、さらにキー32eを操作して、等号を入力する。これによって、四則演算部22が小計金額を顧客の人数で除算し、その商を演算値として出力する。端数処理部24は、その演算値を端数処理する。再度操作者はモード切換スイッチ3によって登録モードを指示し、キー35を操作して端数処理部24からの処理値を呼出し、この処理値を支払い金額として、割前勘定動作用締め処理を行わせる。」

(オ)「【0053】まず、主制御動作のうちで売上登録処理の基本動作を説明する。・・・・・
【0057】ステップa6では、売上登録制御部21は、部門別登録処理と小計金額算出処理とを行う。売上登録制御部21は、まず、操作者に置数キー群31を操作させて、商品の売上情報を入力させる。次いで、部門別登録処理として、その売上情報を、部門別合計器41に記憶された取引情報のうちでステップa2の判定で操作ありと判定されたキーによって指示された所属部門の取引情報にさらに累積加算して、前記所属部門の取引情報を更新させる。さらに売上登録制御部21は、小計金額算出処理として、その売上情報のうちで売上金額を、ST1レジスタに記憶された小計金額にさらに累積加算して、小計金額を更新させる。この2つの処理終了後、売上登録制御部21は、前記売上情報を表示装置12に表示させると共に、プリンタ13によって記録紙に印刷させる。この一連の動作が終了すると、ステップa6からステップa2に戻り、締めキーが操作されるまで、ステップa2?a6の処理動作を繰返す。
【0058】ステップa7では、キー判定部20は、ステップa2の判定で操作ありと判定されたキーが、キー36またはキー37であるか否か、すなわち締めキーであるか否かを判定する。締めキーであるとき、ステップa7からステップa8に進み、締めキー以外の別のキーであるときステップa12に進む。
【0059】ステップa8では、売上登録制御部21は、締め処理を行う。締め処理では、ST1レジスタ45に記憶された小計金額を、取引別合計器42に記憶された取引別の取引情報のうちで、締めキーによって指定された取引の種類の取引情報に累積加算する。さらに、操作者に顧客からの入金金額を入力させ、入金金額と小計金額とからつり銭金額を算出する。次いで、売上登録制御部21は、ステップa9で、プリンタ13に小計金額と入金金額とつり銭金額とを印刷させ、記録紙を切断する。これによって、今回の取引の売上金額および売上数量、小計金額ならびにつり銭が印刷されたレシートが得られる。レシート排出後、ステップa9からステップa2に戻る。このような一連の動作によって、基本動作が実施される。」

(カ)「【0078】次いで、割前勘定動作を含む売上登録処理を説明する。割前勘定動作は基本動作および量売り動作と同じ処理ステップを含み、同じステップの動作の詳細な説明およびその効果は省略する。
・・・・・
【0080】ステップa11では、四則演算部24が、後述の手法で四則演算処理を行う。四則演算処理で支払い金額を求めるには、たとえば、まずST1レジスタ45に記憶された小計金額を、代金を支払うべき顧客の人数で除算する。操作者は、この手順に沿って、キー群31,32とキー35とを順次操作して実施する。また、金銭登録機1内部にこの一連の処理手順を予め記憶させ、顧客の人数だけを入力させて他の必要なデータをメモリ3,4から順次読出して実施してもよい。具体的な演算手法は後述する。R4レジスタ51には、最終の演算結果を表す演算値が記憶される。前記支払い金額が演算値として得られた時点で、四則演算処理を終了して、ステップa2に戻る。
・・・・・
【0082】この状態で、操作者は、キー36またはキー37を操作する。このキー操作に応答して、キー判定部20は、ステップa2で操作ありと判定し、さらにステップa3の判定を肯定する。算出選択部25は、ステップa4の判定を肯定する。これによって、演算値および処理値を用いた売上登録処理が選択される。この状態で、キー判定部20は、ステップa18の判定を否定して、ステップa19の判定を肯定する。ゆえに、売上登録制御部21は、ステップa27?a32の割前勘定時締め動作を行う。
【0083】具体的には、売上登録制御部21は、まずステップa27で、ドロワ14を開く。次いで、ステップa28で、複数の顧客のうちの一人が支払うべき支払い金額として、演算値または処理値を取得する。・・・・・以後の説明では、処理値を取得したものとする。続いて、取得した処理値を、取引別合計器42に記憶された取引別の取引情報のうちで、締めキーによって指定された取引の種類の取引情報に累積加算する。
【0084】続いて、ステップa29で、売上登録制御部21は、次式1に表すように、ST1レジスタ45に記憶された小計金額から、ST3レジスタ47に記憶された処理値または処理値を減算して、減算結果をST1レジスタに記憶させることによって、小計金額を更新する。次いで、更新後のST1レジスタ45の小計金額を、表示装置12に表示する。このときさらに、操作者に顧客のうちの一人からの入金金額を入力させ、入金金額と処理値とからつり銭金額を算出してもよい。
ST1 = ST1-ST3 …(1)
【0085】続いて、ステップa30で、売上登録制御部21は、ST1レジスタに記憶された小計金額が、ST3レジスタに記憶された処理値未満であるか否かを判定する。小計金額が処理値以上であるとき、ステップa30からステップa28に戻り、ステップa28?a30の処理を繰返す。小計金額が処理値未満であるとき、ステップa30からステップa31に進む。
【0086】ステップa31では、割前勘定用締め処理を行う。具体的には、まず、ST1レジスタに記憶された小計金額とST3レジスタに記憶された処理値との和を、残金として算出する。この残金を、顧客のうちの最後の一人が支払うべき支払い金額として、表示装置12に表示させる。さらに、この残金を取引別合計器42に記憶された取引別の取引情報のうちで締めキーによって指定された取引の種類の取引情報に累積加算する。さらに、操作者に顧客からの入金金額を入力させ、入金金額と残金とからつり銭金額を算出する。最後に、売上登録制御部21は、ステップa32で、ステップa9と同様の処理によって、レシートを作成する。レシート排出後、ステップa9からステップa2に戻る。このような一連の動作によって、割前勘定処理を含む売上登録処理を行うことができる。」

(キ)「【0091】図6は、金銭登録機1の主制御動作のうちで、ステップa14の端数処理を詳細に説明するためのフローチャートである。この端数処理では、演算値のうちで処理桁未満の端数を切捨てる。処理桁は、1の位以上の桁であるとする。
【0092】主制御動作のステップa13で、R4レジスタ51に記憶された演算値をST2レジスタに記憶させた後、ステップb1からステップb2に進む。ステップb2では、端数処理部24は、メモリ8の桁指定バッファ44に記憶された処理桁が、0より大きいか否かを判定する。処理桁が0より大きいとき、ステップb2からステップb3に進み、ステップb3,b4で10の位以上の桁を処理桁とした第1切捨て処理を行う。処理桁が0であるとき、ステップb2からステップb5に進み、ステップb5?b7でいわゆる小数点以下切捨てを行う第2切捨て処理を行う。
・・・・・
【0099】このように、第1切捨て処理では、小数点以上の任意の桁未満の桁を端数として切捨てることができる。これによって、たとえば処理桁が小数点以上2桁であるとき、100の位未満の桁を切捨てることができる。また、第2切捨て処理では、小数点以下の端数を切捨て、演算値の整数部だけを得ることができる。
【0100】第1切捨て処理は、たとえば割前勘定動作に用いることが好ましい。これは、以下の理由からである。割前勘定では、一般的に、10円単位未満の金額まで顧客全員が均等に負担することは少なく、10円未満の金額は顧客のうちのいずれか一人がまとめて負担することが多い。四則計算処理の演算値を端数処理することができる従来技術の金銭登録機では、切捨て処理は小数点以下の桁の切捨て、すなわち第2切捨て処理に限定されていたので、上述のような割前勘定を行う場合の各顧客の支払い金額を計算することが困難だった。本実施形態の金銭登録機では、小数点以上の任意の桁を処理桁として切捨て処理を行うことができるので、上述のような割前勘定を行う場合に、各顧客の支払い金額を計算することができる。
【0101】また、第1切捨て処理によって処理値を定め、この処理値を顧客の一人分の支払い金額として取得するとき、処理値と全顧客の数との積は小計金額よりも少なくなることがある。前述の割前勘定用締め処理のうちでステップa30の判定は、全顧客のうち最後の一人を除く顧客の支払い時には否定され、最後の顧客の支払い金額を求めるときだけ肯定される。このときのST1レジスタ45に記憶された数値は、割前勘定用締め処理の開始前に算出された小計金額から処理値と全顧客との数との積を減算した差分と等しい。このとき、顧客のうちの最後の1人の支払い金額は、処理値にこの差分を加えた値に定められる。これによって、最後の一人の顧客の支払い金額には、処理値に加えて100円未満の残金が加算されるので、最後の一人の顧客が100未満の端数をまとめて負担することになる。ゆえにこのとき、最後の一人の支払い金額を、操作者または顧客が別途計算する必要がない。ゆえに、上述のような割前勘定を行うとき、操作者および顧客の手間を減少させることができる。」

(ク)「【0103】図7は、端数処理の処理桁を設定するための端数処理桁設定処理のキー操作手順を表すジョブフローである。このジョブフローに基づいて、端数処理桁設定処理を説明する。
【0104】まず、操作者は、モード切換スイッチ3を操作して、設定モードを選択する。次いで、第1操作c1として、置数キー群31を操作して、端数処理桁設定処理のためのジョブ番号を表す数値を入力する。次いで第2操作c2としてキー33が操作されて、「・」が入力され、さらに第3操作として、置数キー群31の中のキー31bが操作されて、「@」が入力される。このキー操作に応答して、中央処理装置10の主制御動作のステップa2の判定が否定されてかつステップa3,a10の判定が肯定されるので、ステップa11の処理が開始される。」


(1-2)刊行物1の記載及び図面より、刊行物1に記載されていることが明らかな事項

(a)上記摘記事項(オ)には、売上登録処理を行うことが記載されているが、装置として「売上登録処理を行う手段」を有することは明らかである。上記摘記事項(エ)には、割前勘定動作を行うことが記載されているが、装置として「割前勘定動作を行う手段」を有することは明らかであり、割前勘定動作時に小計金額を入力する「小計金額を入力する手段」を有することは明らかである。上記摘記事項(カ)には、支払金額を算出することが記載されているが、装置として「支払金額を算出する算出手段」を有することは明らかである。上記摘記事項(キ)には、小計金額から処理値と全顧客との数との積を減算した差分を最後の一人の顧客の支払金額に加算することが記載されているが、装置として、「小計金額から処理値と全顧客との数との積を減算した差分を最後の一人の顧客の支払金額に加算する手段」を有することは明らかである。そして、上記摘記事項(カ)には、割前勘定時締め動作後の残金額を算出することが記載されているが、装置として「割前勘定時締め動作後の残金額を算出する手段」を有することは明らかである。

(b)上記摘記事項(ク)より、端数処理の処理桁の設定は、オペレータの操作によってなされることは明らかである。

(c)上記摘記事項(ウ)及び上記摘記事項(カ)の【0084】?【0086】段落より、表示装置12は支払金額および残金額を表示することは明らかである。


(1-3)引用発明

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているということができる。

「取引される商品の所属部門と売上情報が入力されると、入力された取引される商品の所属部門と売上情報に基づいて売上登録処理を行う手段と、
売上登録処理によって算出された小計金額に基づいて、入金処理およびつり銭金額算出処理を含む処理を行う中央処理装置10とを有する金銭登録機1であって、
前記中央処理装置10は、
前記小計金額に対して、入力された人数に基づく割前勘定動作を行う手段と
前記小計金額を入力する手段とを有し、
前記割前勘定動作を行う手段は、
前記小計金額に対して、
代金を支払うべき顧客の人数にて除算することにより、支払金額を算出する算出手段と、
オペレータの操作によって設定された端数処理の処理桁の設定に基づき、小計金額から処理値と全顧客との数との積を減算した差分を最後の一人の顧客の支払金額に加算する手段とを有し、
割前勘定時締め動作後の残金額を算出する手段と、
前記支払金額および前記残金額を表示する表示装置12であって、割前勘定時締め動作を行うごとに、前記支払金額および前記残金額を更新して表示する表示装置12とを備え、
レシートを印字するプリンタ13を有する、金銭登録機1。」


(2)刊行物2の記載内容

当審の拒絶理由に引用した、本願の出願よりも前に頒布された刊行物である特開2000-48082号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。

(ケ)「【0037】前記指示入力部24のF2の動作の操作キーが押下されて特定支払いモード(F2)が選択された場合には(ステップ510)、この特定のICカード10が投入口20aの投入口に投入されて暗証番号が入力される(ステップ511)。この暗証番号を入力した特定者は精求金額のうちの所定金額(例えば精求金額の3分の1)を精算する(ステップ512)。
【0038】この所定金額が精算された残りの精求金額(例えば精求金額の3分の2)を均等に分割するか否かを判断し(ステップ513)、均等分割による精算と判断された場合には特定者以外の残りの消費者である支払い人数を入力する(ステップ515)。この入力された支払い人数で残りの精求金額を割って割勘金額を算出する(ステップ515)。この割勘金額を残りの消費者は、前記ステップ507に戻りステップ509までの動作を繰り返すこととなる。」

すなわち、刊行物2には、
「請求金額は、所定金額と、残りの請求金額とからなり、
前記所定金額が入力されたときは、請求金額から前記所定金額を減算して残りの請求金額を算出した後、割勘金額を算出する」
技術(以下「刊行物2に記載の技術」という。)が記載されていると認める。


(3)刊行物3の記載内容

当審の拒絶理由に引用した、本願の出願よりも前に頒布された刊行物である特開2003-99685号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。

(コ)「【0006】請求項1記載の発明は、客と取引された商品の合計金額に関するデータを処理する取引データ処理装置(例えば、図1に示すECR1)において、複数の客からなるグループとの一取引において取引された商品の合計金額の支払いを割り勘にするか否かを指定する割り勘指定手段(例えば、図2に示す入力部12)と、支払人毎に、複数の支払方法のうちから任意の支払方法を指定する支払方法指定手段(例えば、図2に示す入力部12)と、前記割り勘指定手段により割り勘による支払いが指定された場合、前記支払人毎に指定された支払方法に従って、各支払人に対する割り勘代金の決済を行う代金決済手段(例えば、図2に示すCPU11)と、を備えることを特徴としている。」

(サ)「【0088】次に、図15?図17を参照し、単純割り勘処理の具体例を簡単に説明する。注文書が、図11(a)に示したものと同一である場合に、単純割り勘による代金精算が行われる時のECR1におけるキー操作例を図15に示す。本具体例における単純割り勘では、4名の客の支払い方法は、それぞれ、クレジットカード払い、現金払い、デビットカード払い、プリペイドカード払いであるものとする。
【0089】この場合、置数キーにおいて客人数を示す数値「4」の押下操作に続き、乗算キー「×」、取引別キーにおける「単割」キーが順番に押下されると、表示部17には、図16に示すように、画面左下に人数が表示され、画面右上の割り勘種別欄では、「単割」が選択される。
【0090】次いで、商品別キー内の「A定」、「B定」、「C定」、「D定」キーが順番に押下されると、図16に示すように、表示部17の左部には、各商品名と金額が表示され、下部には、これらの商品の合計金額としての小計「10000円」、及びこの小計に対応する消費税「500円」が表示される。
【0091】次いで、除法キー「÷」が押下されると、売上合計金額10500円が、客人数4で割られ、一人分の支払い金額「2650円」が算出され、図16に示すように、表示部17の右下に表示される。
【0092】次いで、取引別キー内の「カード1」キーが押下され、クレジットカードによる支払いが指定され、表示部17に、クレジットカード会社サーバ2からのクレジット決済可能通知が表示されると、「締め」キーが押下され、図17(カ)に示すようなレシートが発行される。
【0093】取引別キー内の「現金/預かり金」キーが押下され、現金払いが指定され、現金授受処理が終了すると、「締め」キーが押下され、図17(キ)に示すようなレシートが発行される。取引別キー内の「カード2」キーが押下され、デビットカード払いが指定され、銀行サーバ3から決済完了通知があると、「締め」キーが押下され、図17(ク)に示すようなレシートが発行される。
【0094】取引別キー内の「カード3」キーが押下され、プリペイドカード払いが指定され、当該プリペイドカードの残高が支払い金額より多ければ、「締め」キーが押下され、図17(ケ)に示すようなレシートが発行される。」

上記摘記事項(サ)及び【図17】より、一人分の支払い金額を記載した領収証を人数分印字する点ついて記載されていることが明らかであるから、刊行物3には、
「合計金額に対して、入力された人数に基づく割勘処理を行う割り勘指定手段を有するものにおいて、
それぞれの一人分の支払い金額を記載した領収証を人数分印字する」
技術(以下「刊行物3に記載の技術」という。)が記載されていると認める。

4 対比

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「取引される商品の所属部門と売上情報」は、本願発明の「少なくとも商品の価格を含む売上データ」に対応し、引用発明の「売上登録処理を行う手段」は、本願発明の「売上登録処理を行う登録手段」に対応する。
また、引用発明の「小計金額」は、本願発明の「売上金額」及び「割勘売上金額」に相当し、引用発明の「金銭登録機1」は、本願発明の「電子計算機器」に相当する。
引用発明の「中央処理装置10」は、本願発明の「預かり手段」に相当するから、引用発明の「入金処理およびつり銭金額算出処理を含む処理を行う中央処理装置10」は、本願発明の「入金処理および釣銭金額算出処理を含む預かり処理を行う預かり手段」に対応する。
そして、引用発明の「割前勘定動作」は、本願発明の「割勘処理」に相当するから、引用発明の「割前勘定動作を行う手段」は、本願発明の「割勘処理を行う割勘手段」に対応し、引用発明の「小計金額を入力する手段」は本願発明の「割勘売上金額を入力する割勘売上金額入力手段」に対応し、引用発明の「代金を支払うべき顧客の人数」及び「支払金額」は、本願発明の「入力された顧客の人数」及び「顧客一人当たりの割勘金額」に対応する。
また、引用発明の「端数処理の処理桁」は、本願発明の「最小単位」に相当し、引用発明の「小計金額から処理値と全顧客との数との積を減算した差分を最後の一人の顧客の支払金額に加算する手段」は、本願発明の「生じた余りを最後の顧客の割勘金額に加算する加算手段」に対応する。
さらに、引用発明の「割前勘定時締め動作」は、本願発明の「割勘預かり処理」に相当するから、引用発明の「割前勘定時締め動作後の残金額を算出する手段」は、本願発明の「割勘預かり処理後の残金額を算出する残金額算出手段」に対応する。
また、引用発明の「前記支払金額および前記残金額を表示する表示装置12であって、割前勘定時締め動作を行うごとに、前記支払金額および前記残金額を更新して表示する表示装置12」と本願発明の「前記顧客一人当たりの割勘金額、前記余り、前記顧客の人数および前記残金額を表示する表示手段であって、割勘預かり処理を行うごとに、前記顧客一人当たりの割勘金額、前記余り、前記顧客の人数および前記残金額を更新して表示する表示手段」とを対比すると、両者は「前記顧客一人当たりの割勘金額および前記残金額を表示する表示手段であって、割勘預かり処理を行うごとに、前記顧客一人当たりの割勘金額および前記残金額を更新して表示する表示手段」の限りにおいて共通している。
そして、引用発明の「表示装置12」、「レシート」及び「プリンタ13」は、本願発明の「表示手段」、「領収書」及び「印字手段」にそれぞれ相当するものであるから、引用発明の「レシートを印字するプリンタ13」と、本願発明の「一部売上金額およびそれぞれの割勘金額を記載した領収証を人数分印字する印字手段」とを対比すると、両者は「領収証を印字する印字手段」である限りにおいて共通している。

してみると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以下の通りである。


<一致点>
「少なくとも商品の価格を含む売上データが入力されると、入力された売上データに基づいて売上登録処理を行う登録手段と、
売上登録処理によって算出された売上金額に基づいて、入金処理および釣銭金額算出処理を含む預かり処理を行う預かり手段とを有する電子計算機器であって、
前記売上金額を、割勘売上金額とし、
前記預かり手段は、
前記割勘売上金額に対して、入力された人数に基づく割勘処理を行う割勘手段と
前記割勘売上金額を入力する割勘売上金額入力手段とを有し、
前記割勘手段は、
前記割勘売上金額に対して、
入力された顧客の人数にて除算することにより、顧客一人当たりの割勘金額を算出する算出手段と、
オペレータの操作によって設定された最小単位の設定に基づき、生じた余りを最後の顧客の割勘金額に加算する加算手段とを有し、
割勘預かり処理後の残金額を算出する残金額算出手段と、
前記顧客一人当たりの割勘金額および前記残金額を表示する表示手段であって、割勘預かり処理を行うごとに、前記顧客一人当たりの割勘金額および前記残金額を更新して表示する表示手段とを備え、
領収証を印字する印字手段を有する、電子計算機器。」


<相違点1>
本願発明では、「売上金額は、一部売上金額と、割勘売上金額とからなり」、預かり手段は、割勘手段と割勘売上金額入力手段の他に「一部売上金額を売上金額として預かり処理を行う一部預かり手段」と、「一部売上金額を入力する一部売上金額入力手段」とを有し、「一部売上金額が入力されたときは、一部預かり手段が動作し、売上金額から前記一部売上金額を減算して割勘売上金額を算出した後、割勘手段が動作」するのに対して、引用発明では、当該構成を有しない点。

<相違点2>
本願発明では、「前記顧客一人当たりの割勘金額、前記余り、前記顧客の人数および前記残金額を表示する表示手段であって、割勘預かり処理を行うごとに、前記顧客一人当たりの割勘金額、前記余り、前記顧客の人数および前記残金額を更新して表示する表示手段とを備え」ているのに対して、引用発明では、表示手段は、顧客一人当たりの割勘金額お及び残金額は表示するものの、余り及び顧客の人数を表示することについては明らかではない点。

<相違点3>
本願発明では「一部売上金額およびそれぞれの割勘金額を記載した領収証を人数分印字する印字手段を有する」のに対して、引用発明では、印字手段は有するものの、一部売上金額およびそれぞれの割勘金額を記載した領収証を人数分印字することについては明らかではない点。


5 相違点についての検討(容易想到性の判断)

上記各相違点について検討する。

(1)<相違点1>について
本願発明と、刊行物2に記載の技術を対比すると、刊行物2に記載の技術の「請求金額」、「所定金額」及び「残りの請求金額」は、本願発明の「売上金額」、「一部売上金額」及び「割勘売上金額」に相当するから、刊行物2には、実質的に、
「売上金額は、一部売上金額と、割勘売上金額とからなり、
前記一部売上金額が入力されたときは、売上金額から前記一部売上金額を減算して割勘売上金額を算出した後、割勘金額を算出する」技術が記載されているものである。
引用発明と刊行物2に記載の技術は、ともに割勘処理を行う電気計算機器に関するものであるから、引用発明の電気計算機器に、刊行物2に記載の技術を適用し、預かり手段が、割勘手段と割勘売上金額入力手段の他に「一部売上金額を売上金額として預かり処理を行う一部預かり手段」と、「一部売上金額を入力する一部売上金額入力手段」とを有することとし、上記相違点1における本願発明のような構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得る程度の事項にすぎない。

(2)<相違点2>について
本願発明において表示手段にて表示する「顧客一人当たりの割勘金額」、「余り」、「顧客の人数」および「残金額」のうち、割勘預かり処理を行うごとにその数値が変化していくのは「残金額」であり、当該「残金額」を更新することによって割勘預かり処理を確実に行おうとするものである。一方引用発明においては、「顧客一人当たりの割勘金額」及び「残金額」表示するものであり、引用発明においても「残金額」を更新し表示しているものである。この場合、その他の表示する情報としては当業者であれば適宜選択し得る程度の事項にすぎない。
よって、引用発明の電子計算機において、表示手段にて「顧客一人当たりの割勘金額」及び「残金額」に加えて、「余り」及び、「顧客の人数」をも表示することとし、上記相違点2における本願発明のような構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得る程度の事項にすぎない。

(3)<相違点3>について
本願発明と、刊行物3に記載の技術を対比すると、刊行物3に記載の技術の「合計金額」、「割り勘指定手段」及び「一人分の支払い金額」は、本願発明の「割勘売上金額」、「割勘手段」及び「割勘金額」に相当するから、刊行物3には、実質的に、
「割勘売上金額に対して、入力された人数に基づく割勘処理を行う割勘手段を有するものにおいて、それぞれの割勘金額を記載した領収証を人数分印字する」技術が記載されているものである。
引用発明と刊行物3に記載の技術は、本願発明と同様に割勘処理を行う電気計算機器に関するものであるから、引用発明の電気計算機器における印字手段に、刊行物3に記載の技術を適用し、上記相違点3における本願発明のような構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得る程度の事項にすぎない。

そして、本願発明の作用効果は、引用発明、並びに上記刊行物2及び3に記載された技術から、当業者であれば予測できる範囲のものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用発明、並びに上記刊行物2及び3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-01 
結審通知日 2010-09-07 
審決日 2010-09-21 
出願番号 特願2003-143600(P2003-143600)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G07G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 眞吾  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 金丸 治之
藤井 昇
発明の名称 電子計算機器  
代理人 西教 圭一郎  

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