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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1226325
審判番号 不服2009-4727  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-05 
確定日 2010-11-04 
事件の表示 特願2006- 22569「車両用交流発電機」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月16日出願公開、特開2007-209078〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年1月31日の出願であって、平成21年1月28日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成21年2月3日)、これに対し、平成21年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審により平成22年5月7日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成22年5月11日)、平成22年7月9日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月9日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ケースと、このケース内に設けられシャフトに固定された回転子と、この回転子を囲むようにして設けられ回転子からの回転磁界により交流が生じる固定子と、前記シャフトの端部に設けられ前記固定子で生じる前記交流を直流に整流する整流器と、この整流器のプラス側とマイナス側との間に接続され整流器で直流に整流される際に生じるノイズを吸収する雑音防止コンデンサとを備えた車両用交流発電機において、
前記雑音防止コンデンサと直列に前記雑音防止コンデンサに流れる電流を抑制する抵抗手段が接続されており、
またこの抵抗手段は、前記雑音防止コンデンサのマイナス側で、アース(「マイナス側でアース」は誤記と認める。)されたケースの近傍に設けられている
ことを特徴とする車両用交流発電機。」


3.引用例
これに対して、当審の拒絶の理由に引用された特開平9-9522号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

1-a「本発明の車両用交流発電機の一実施例を図1に示す回路図を参照して説明する。この車両用交流発電機は、複数の爪が互いに入り組んで界磁巻線10を囲包するランデル型爪状多極型の界磁鉄心(図示せず)と、この界磁鉄心の外周側に小ギャップを介して配置されて三相電機子巻線11、12、13が巻装された電機子鉄心(図示せず)と、三相電機子巻線11、12、13の発電電圧を整流してバッテリ3を充電する整流器2と、バッテリ3と並列接続されるコンデンサ4と、バッテリ電圧Vbに応じて界磁巻線10に通電する界磁電流を断続制御するレギュレータ(発電電圧制御手段)5とを備えている。
整流器2は、ハイサイド側の整流素子をなすダイオード21?23と、ローサイド側の整流素子をなすダイオード24?26とからなる。ダイオード21?23のアノードは電機子巻線11?13の出力端に個別に接続され、それらのカソードは整流器2の高位直流出力端20を通じてバッテリ3及びコンデンサの高位端に接続されている。ダイオード24?26のカソードは電機子巻線11?13の出力端に個別に接続され、それらのアノードは接地されている。
コンデンサ4は、本発明でいうサージ電圧吸収手段としてサージ電圧を吸収して電源ラインHLの電位変動を抑止するとともに、電気負荷の開閉などに応じて生じる電位変動の高周波成分に追従して電流の授受を行い、電源ラインHLの高周波電位変動を低減する。」(【0031】-【0033】)

上記記載事項及び図1を参照すると、整流器2のプラス側とマイナス側との間にコンデンサが接続されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「界磁巻線を囲包するランデル型爪状多極型の界磁鉄心と、この界磁鉄心の外周側に小ギャップを介して配置されて三相電機子巻線が巻装された電機子鉄心と、三相電機子巻線の発電電圧を整流してバッテリを充電する整流器と、この整流器のプラス側とマイナス側との間に接続され、サージ電圧を吸収して電源ラインHLの電位変動を抑止するとともに、電源ラインHLの高周波電位変動を低減するコンデンサを備えた車両用交流発電機。」
との発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

同じく、当審の拒絶の理由に引用された特開平7-227072号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

2-a「交流励磁機11は固定側の第1の界磁巻線10と、この巻線10と磁気的に結合する回転側2Aの電機子巻線9とにより構成されている。また、回転側2Aには整流装置8が配され、電機子巻線9と第2の界磁巻線3との間に介装されている。整流装置8は、整流器7を備え、この整流器7にコンデンサ5と抵抗6との直列回路と、非線形素子であるバリスタ4とが並列接続されている。
図2において、第1の界磁巻線10が直流励磁されると、回転軸2の回転によって電機子巻線9に3相の交流電圧が誘起される。この交流電圧は、整流装置8によって整流され、第2の界磁巻線3を直流励磁する。第2の界磁巻線3によって形成される磁界によって固定子巻線1に3相の交流電圧が誘起され、固定子巻線1から図示されていない負荷へ電力が供給される。この構成により、同期機がブラシを介することなしに発電することができ、ブラシの点検や交換などという煩わしい作用を不要にしている。なお、コンデンサ5と抵抗6との直列回路、およびバリスタ4は整流器7を過電圧から保護するためのものである。」(【0003】-【0004】)

上記記載事項及び図1、図2を参照すると、電機子巻線9に接続された整流装置8の出力側にコンデンサ5と抵抗6との直列回路が並列に設けられ、整流装置8の出力側のプラス側にコンデンサ5がマイナス側に抵抗6が接続された交流励磁機が記載されている。


4.対比
そこで、本願発明と引用例1発明とを比較すると、その機能・作用からみて、引用例1発明の「界磁巻線を囲包するランデル型爪状多極型の界磁鉄心」は、本願発明の「回転子」に相当し、引用例1発明の「この界磁鉄心の外周側に小ギャップを介して配置されて三相電機子巻線が巻装された電機子鉄心」は、本願発明の「この回転子を囲むようにして設けられ回転子からの回転磁界により交流が生じる固定子」に相当し、引用例1発明の「三相電機子巻線の発電電圧を整流してバッテリを充電する整流器」は、本願発明の「固定子で生じる交流を直流に整流する整流器」に相当し、引用例1発明の「この整流器のプラス側とマイナス側との間に接続され、サージ電圧を吸収して電源ラインHLの電位変動を抑止するとともに、電源ラインHLの高周波電位変動を低減するコンデンサ」は、本願発明の「この整流器のプラス側とマイナス側との間に接続され整流器で直流に整流される際に生じるノイズを吸収する雑音防止コンデンサ」に、それぞれ相当している。

したがって、両者は、
「回転子と、この回転子を囲むようにして設けられ回転子からの回転磁界により交流が生じる固定子と、前記固定子で生じる前記交流を直流に整流する整流器と、この整流器のプラス側とマイナス側との間に接続され整流器で直流に整流される際に生じるノイズを吸収する雑音防止コンデンサとを備えた車両用交流発電機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明は、ケースと、このケース内に設けられシャフトに固定された回転子と、シャフトの端部に設けられる整流器を備えているのに対し、引用例1発明は、回転子と整流器を備えてはいるが、ケース、回転子、整流器をどの様な形態で車両用交流発電機が備えているかは不明である点。
〔相違点2〕
本願発明は、雑音防止コンデンサと直列に雑音防止コンデンサに流れる電流を抑制する抵抗手段が接続されているのに対し、引用例1発明は、雑音防止コンデンサに抵抗手段は接続されていない点。
〔相違点3〕
本願発明は、抵抗手段は、雑音防止コンデンサのマイナス側で、アースされたケースの近傍に設けられているのに対し、引用例1発明は、抵抗手段を有しておらず、したがって何処に設けられるかは示されていない点。


5.判断
〔相違点1〕について
車両用交流発電機が、ケースと、このケース内に設けられシャフトに固定された回転子と、前記シャフトの端部に設けられる整流器を備える構成は、車両用交流発電機において常套手段(必要が有れば、特開2002-84723号公報、図15参照)であり、引用例1発明においても、ケースと、このケース内に設けられシャフトに固定された回転子と、前記シャフトの端部に設けられる整流器を備えることは、当業者であれば適宜なし得る程度のことと認められる。

〔相違点2〕〔相違点3〕について
雑音防止コンデンサと直列に雑音防止コンデンサに流れる電流を抑制する抵抗手段を接続することは、例えば引用例2(「コンデンサ5と抵抗6との直列回路」が相当)、特開2000-32739号公報(【0122】、図8参照)、特開2003-174799号公報(【0022】、図1参照)にもみられるように、周知の技術であるので、引用例1発明においても、雑音防止コンデンサに上記周知の技術のように抵抗手段を直列接続して雑音防止コンデンサに流れる電流を抑制することは当業者であれば適宜なし得る程度のことと認められる。
その際、雑音防止コンデンサと抵抗手段の直列回路は、整流器のプラス側とマイナス側との間に接続されるが、この様な直列回路であれば、抵抗手段は、雑音防止コンデンサのマイナス側に設けられるか、雑音防止コンデンサのプラス側に設けられるかの何れかとなり、しかも、抵抗手段を雑音防止コンデンサのマイナス側に設けることは、引用例2(「コンデンサ5と抵抗6との直列回路」が相当)に示されているから、当該抵抗手段を雑音防止コンデンサのマイナス側に設けることは当業者であれば適宜なし得る程度のことと認められる。
車両用交流発電機において、ケースをアースすることは、例えば特開2002-78269号公報(【0040】参照)にもみられるように周知の事項である。また、近傍とは近辺のことであり、「近」は基準となる距離があって初めて意味を成すから、近傍はどの位置までを含むかは必ずしも明確ではないが、一般に車両用交流発電機の電気部品は、ブラシ、スリップリングが配置される、発電機本体とケースの間に配置(上記した特開2002-84723号公報、図15の左側部分参照)することが常套手段であり、当該発電機本体とケースの間は、ケースの近傍であると認められる。一般に電気部品を当該発電機本体とケースの間の空間のような場所に集中的に配置する理由は、電気部品間の配線を短くできる等の配線の容易性を求めるためであり、車両用交流発電機の電気部品をケース近傍に配置してケースから放熱させることは、例えば特開平11-356020号公報(【0018】参照)にもみられるように周知の事項であるから、引用例1発明においても、上記周知の事項及び上記常套手段を採用して、雑音防止コンデンサのマイナス側に設けられた抵抗手段を、アースされたケースの近傍に設けることは当業者が容易に考えられるものと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1発明、上記常套手段、上記周知の技術及び上記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用例1発明、上記常套手段、上記周知の技術及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.むすび
したがって、本願発明は、引用例1発明、上記常套手段、上記周知の技術及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-31 
結審通知日 2010-09-07 
審決日 2010-09-21 
出願番号 特願2006-22569(P2006-22569)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天坂 康種  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 冨江 耕太郎
槙原 進
発明の名称 車両用交流発電機  
代理人 梶並 順  
代理人 上田 俊一  
代理人 古川 秀利  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  

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