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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1226820
審判番号 不服2007-33588  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2010-11-08 
事件の表示 特願2000-247971「成形品の取出方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月26日出願公開、特開2002- 59466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年8月17日の出願であって、平成18年7月7日付けで拒絶理由が通知され、同年9月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月13日に拒絶査定不服審判が請求され、平成20年1月15日に手続補正書が提出され、さらに、同年2月28日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年3月24日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において平成22年2月15日付けで審尋がなされ、それに対して同年4月26日に回答書が提出されたものである。

第2.本願発明の認定
本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年1月15日提出の手続補正書により補正された明細書及び図面(以下、図面の記載を併せて「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

「成形機の可動型に連動して取出アームを移動させ、前記取出アームにより前記可動型から成形品を取り出す成形品の取出方法であって、
固定型の前面に設定された原点と、型開限界位置に移動した前記可動型の前面との間に成形品取出しの場合に進入禁止とする立体空間からなる設定領域を設定し、
前記設定領域の外側に前記取出アームの進入待機位置を設定し、かつ、前記型開限界位置に移動した前記可動型の前面側に前記成形品の取り出しのための取出し位置を設定し、
前記固定型から前記可動型が離間したとき、前記進入待機位置にある前記取出アームを前記設定領域に所定の進入速度により進入させ、移動する前記可動型の前面側と所定間隔を保持しながら前記可動型に追従移動させ、前記可動型が停止したとき、前記可動型にある前記成形品を前記取出アームに把持させて受取り、
前記可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、前記進入速度より速い退避速度により、前記成形品を把持した前記取出アームを前記設定領域外に退避させ、
前記取出し位置は、前記可動型の従前の停止位置から最新の停止位置に対して修正し、前記取出アーム側に前記成形品を把持させた後、前記成形機に前記可動型の移動命令を発することを特徴とする成形品の取出方法。」

第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由とされた平成18年7月7日付け拒絶理由通知書に記載された理由は以下のとおりである。
「 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1,4,6
・引用文献等 1
・備考
引用文献1の第2頁左下欄下から第9行目-第4頁左下欄第10行目及び第1,2図参照。
引用文献1に記載された発明では、進入時の取出し用チャック9(本願発明における「取出アーム」に相当。)の速度については何ら特定は無く、退避時の取出し用チャック9の速度については「高速」(第4頁左上欄第13行目-第20行目)と特定されているのみであり、進入速度と退避速度との相対関係について特定がされていない点で、本願発明と相違する。
しかしながら、引用文献1に記載された発明も、成形型を型開き状態に停止させておく時間を短縮することを目的(第4頁左下欄第4行目-第6行目)としているから、退避時の取出し用チャック9の速度向上を可能な限り図ることは当業者であれば容易になしえたことである。
その一方で、進入時の取出し用チャック9の速度は、型開き時の可動型の移動速度の制約を受けると認められる。とすれば、退避時の取出し用チャック9の速度向上を可能な限り図れば、通常、進入速度よりも退避速度の方が速くなると認められる。

・請求項 2
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献2の【0010】-【0014】及び図1には、成形品の取出しを最適な位置で行うために、可動型の停止位置に応じた位置に成形品取出装置を移動させる発明が記載されている。
引用文献1及び2に記載された発明は、いずれも成形品取出装置の発明という点で機能が共通しているから、引用文献1に記載された発明において、可動型の停止位置を考慮して成形品取出し装置の位置を決定することは、当業者であれば容易になしえたことである。

・請求項 3、5
・引用文献等 1-4
・備考
(省略)

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭64-020112号公報
2.特開平10-016022号公報
3.省略
4.省略 」

平成19年11月6日付け拒絶査定には次の点が記載されている。

「 出願人は、平成18年9月19日付け意見書において、下記の点を主張している。
(主張)本願の請求項1に係る発明では、
ア.「固定型の前面に設定された原点と、型開限界位置に移動した前記可動型の前面との間に成形品取出しの場合に進入禁止とする立体空間からなる設定領域を設定し、」
イ.「前記設定領域の外側に前記取出アームの進入待機位置を設定し、かつ、前記型開限界位置に移動した前記可動型の前面側に前記成形品の取り出しのための基準位置を設定し、」
ウ.「前記固定型から前記可動型が離間したとき、前記進入待機位置にある前記取出アームを前記設定領域に所定の進入速度により進入させ、移動する前記可動型の前面側と所定間隔を保持しながら前記可動型に追従移動させ、」
エ.「前記可動型が停止したとき、前記可動型にある前記成形品を前記取出アームに把持させて受取り、」
オ.「前記可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、前記進入速度より速い退避速度により、前記成形品を把持した前記取出アームを前記設定領域外に退避させる」
という構成を備えているのに対し、引用文献1記載の発明は、上記アないしオの構成を備えていない点で相違する。

(一部省略)

そこで、上記主張について検討する。

1.1.構成要件アについて
・引用文献1の第3頁右下欄第4行-第5行には、位置を座標データとして取得する旨が記載されている。座標データである以上、どこかに原点を設定する必要があるのは明らかであり、原点をどこに設定するのかは、当業者が任意に選択可能である。そして、原点を固定型の前面に設定することによる効果は認められない。
・引用文献1の第1図において、可動型は型開限界位置まで移動しているものと認められる。
・引用文献1の第1図において、取り出し用チャックの進入経路と退避経路とが異なることから、引用文献1に記載された発明においても、設定領域が事実上設定されているものと認められる。
1.2.構成要件イについて
・引用文献1の第1図において、位置P11が進入待機位置に対応する。
・引用文献1の第3頁右下欄第12行-第20行及び第1図において、位置P19が基準位置に対応する。
1.3.構成要件ウについて
・構成要件ウは、引用文献1の第3頁右上欄第15行-右下欄第11行に開示されている。
1.4.構成要件エについて
・構成要件エは、引用文献1の第3頁右下欄第12行-第20行に開示されている。
1.5.構成要件オについて
・取出アームを設定領域外へ退避させることは、引用文献1の第1図に開示されている。
・進入速度と退避速度との相対関係については、引用文献1に開示されていないが、この点は、既に平成18年7月7日付け拒絶理由通知書において述べたとおりであり、出願人から特段の反論はなされていない。

1.6.効果について
出願人が、平成18年9月19日付け意見書において主張する効果も、効果a,d及びeは、引用文献1に記載された発明も奏する効果であり、効果bは引用文献2に、(省略)記載された発明が奏する効果であるから、異質又は格別顕著な効果ではない。」

第4.当審の判断
1.引用文献の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭64-20112号公報(平成18年7月7日付け拒絶理由通知の引用文献1であり、以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア)「固定型に対して接近離隔する可動型から射出成形によって成形された製品を取出し用チャックによって把持して取出すにあたり、固定型から離隔する可動型の型開き動作に追従させて取出し用チャックを移動させるとともに、型開き完了とほぼ同時に可動型に対して取出し用チャックを対向させて位置させ、かつその状態で可動型と一体となっている製品を取出し用チャックで把持し、ついで取出し用チャックを可動型および固定型と干渉しないよう可動型の移動ストローク範囲から外れた位置に後退させるとともに型閉じを行なわせることを特徴とする射出成形機からの製品取出し方法。」(特許請求の範囲)

イ)「発明が解決しようとする問題点
しかるに上述したような取出し機の動作は、エアーシリンダなどの直動型のアクチュエータによって行なわせているために、その駆動機構を比較的簡単かつ安価なものとすることができるが、型開きを行なった状態で取出し機を第5図に示す矢印a?dの過程で移動させるから、可動型を型開きの状態に停止させておく時間が長くなり、その結果、1サイクルに要する時間が長くなって稼動率が低くなる問題があった。
この発明は上記の事情を背景としてなされたもので、製品の取出しを迅速化して成形効率を向上させることを目的とするものである。」(2頁右上欄19行?同左下欄11行)

ウ)「作 用
この発明の方法では、成形材料の射出およびその硬化の後に型開きを行なうに際し、可動型の移動に追従して取出し用チャックが移動し、型開きの完了の時点では、可動型に対して取出し用チャックが対向して位置する。この間の取出し用チャックの移動軌跡は必要に応じて任意に設定できるが、少なくとも可動型の移動方向に対しては取出し用チャックが可動型に同期して追従移動する。型開きの完了の後に、可動型に対向している取出し用チャックが製品を把持し、そのまま可動型の移動ストローク範囲外に取出し用チャックが後退移動する。この後退移動は、可動型および固定型との干渉がないことを条件として行なえばよいので、最短距離を迅速に移動する。
したがってこの発明では、型開きの際に既に取出し用チャックが移動を開始しているから、型開きの完了時には、取出し用チャックが可動型に対向して位置し、直ちに製品の取出しを行なうことになり、その結果、可動型を型開き位置に停止させておく時間が短くなる。」(2頁右下欄10行?3頁左上欄10行)

エ)「実施例
つぎにこの発明の方法を実施例に基づいて説明する。
まずこの発明の方法を実施するために使用する装置について説明すると、第1図において固定ダイプレート1の正面に固定型4が取付けられ、これに対して可動ダイプレート2の正面には、固定型4と共にキャビティを形成する可動型5が取付けられている。可動ダイプレート2の側部には、その移動方向に沿って2本のリニアスケール6,7が配置されており、そのリニアスケール6,7に係合して移動量を電気信号として出力するセンサ8が前記可動ダイプレート2に取付けられている。
他方、取出し用チャック9は、エアーシリンダなどのアクチュエータ10によって開閉される1対のフィンガ11を基板12に取付け、かつその基板12を、三次元方向に移動させられるアーム13に取付けた構成であり、その動作の制御は図示しない制御装置によって行なわれるようになっている。また基板12には第2図に示すように、三方向に向けた接近センサ14が取付けられ、その出力信号によって可動型5とフィンガ11との距離Aを一定に保持するようになっている。
上記の装置を用いたこの発明の方法をフローチャートで示せば第3図の通りであり、まず可動型5に取出し用チャック9を同期させるために可動ダイプレート2の位置を検出する。すなわち前記センサ8によって読取った第1のリニアスケール6の値S1(実施例では最大値1200mm)を図示しない制御装置に入力(ステップ200)するとともに、第2のリニアスケール7の値S2(実施例では最大値1200mm)を制御装置に入力(ステップ201)する。そしてこれらの値Sl、S2の差が一定の値(例えば10mm)以下であるか否かを判断し(ステップ202)、その判断結果がイエスの場合、すなわち可動ダイプレート2の移動距離の測定が正確に行なわれている場合には、第2のリニアスケール7の読取値S2をポイント信号P(0?19)に変換(ステップ203)し、そのポイント信号Pを出力する(ステップ204)。
取出し用チャック9の制御器は、ポイント信号Pを入力(ステップ210)されると、その信号をホールド(ステップ211)し、ついでその信号が“0”から“19”のいずれであるかを判断(ステップ212)する。ポイント信号Pが“0?11”であれば、取出し用チャック9を待機位置(第1図のPllの位置)に移動(ステップ213)させた後、入力信号をリセット(ステップ214)し、リターンする。
またポイント信号Pが“12?18”であれば、その各信号に応じて取出し用チャック9を第1図にP12?P18の符号で示す各位置に移動させる(ステップ215)。これらの各位置P12?P18は座標データとして、あるいは予め行なったティーチングによって制御装置に記憶させてあり、したがって取出し用チャック9は可動型5の型開き動作に追従して移動することになる。なおこの場合、接近センサ14が有効に機能していることによりフィンガ11と可動型5とは互いに干渉しないよう一定の距離Aに維持される。
さらにポイント信号Pが“19”であれば、射出成形機(図示せず)に型締禁止を出力し(ステップ216)、また接近センサ14をOFFとして無効とし(ステップ217)、さらに取出し用チャック9を第1図のP19の位置に移動させる(ステップ218)。この位置では、取出し用チャック9が可動型5に対向しかつ接近して位置し、取出し用チャック9は可動型5から押し出された製品15をフィンガ11を閉じることにより把持する(ステップ219)。ついで入力されたポイント信号をリセット(ステップ220)した後、取出し用チャック9を第1図のP18の位置に後退させ(ステップ221)、さらに接近センサ14をONとして有効にする(ステップ222)。この状態は、取出し用チャック9が可動型5から製品15を取出した状態であり、したがってここで製品15の有無、すなわち製品15を確実に把持しているか否かの判断(ステップ223)を行ない、その判断結果がノーの場合、すなわち製品15を把持していない場合には、警報信号を出力する(ステップ224)。またステップ223の判断結果がイエスの場合、すなわち製品15を確実に把持していた場合には、射出成形機に対して型締指令を出力(ステップ225)するとともに、取出し用チャック9を第1図のP20の位置に高速で移動させる。このP20の位置は、取出し用チャック9および製品15が可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置であり、またP20の位置への移動は最短距離で行なわれる。そして取出し用チャック9のトラバース移動やフィンガ11の開放などの製品開放プログラムを実行(ステップ227)した後に、取出し用チャック9が最初の待機位置P11に移動(ステップ228)し、1サイクルを終了する。
したがって上記の方法では、型開きのための可動型5の移動の際に取出し用チャック9を同時に移動させるから、型開き完了時には取出し用チャック9が可動型5に対向して位置することになり、その結果、型開きの完了と同時に製品の取出しを行ない、かつ型締めを行なうことができ、従来、型開きの完了の後に取出し機の移動を開始していたのと比較すれば、型開き状態に停止させておく時間を大幅に短くすることができる。」(3頁左上欄11行?4頁右上欄13行)

オ)「発明の効果
以上の説明から明らかなようにこの発明の方法によれば、成形品を把持して取出すための取出し用チャックを、型開きの際の可動型の移動に追従させて移動させるから、型開きの完了時には、取出し用チャックは可動型に対向して直ちに製品を把持し得る状態になっており、そのため可動型からの製品の押出しとほぼ同時に取出し用チャックが製品を把持するとともに、成形型に干渉しない退避位置に後退し、かつ型締めを行なわせることができ、その結果、成形型を型開き状態に停止させておく時間を従来になく短縮し、サイクルタイムを短くして生産性を向上させることができる。また製品の取出し時間の短縮により成形材料を射出シリンダ内に滞溜させておく時間を短くすることがきるので、成形品の不良率を低下させることができる。」(4頁右上欄14行?左下欄10行)

カ)「

」(4頁右下欄)

本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-16022号公報(平成18年7月7日付け拒絶理由通知の引用文献2であり、以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

キ)「射出成形機の金型の近傍に、金型の停止位置を検出する非接触式の変位センサを設け、該センサからの信号により成形品取出装置あるいはインサート装置の移動位置を補正することを特徴とする射出成形方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

ク)「【従来の技術】・・・
ところが、成形機の金型の停止位置は、最終的に油圧回路の切換えによって行われているのが大多数であるため、成形品取出し装置の停止位置の精度と比較してかなり見劣りがする。このため、成形品取出し装置のハンド部の構造を工夫することにより、成形機金型の停止位置のばらつきを吸収するようにしていることが多い。
【発明が解決しようとする課題】しかし、ハンド部の構造を工夫するだけでは成形機金型の停止位置のばらつきを吸収しきれず、製品を落下させたり、金型内に取残したりするなどの取出しミスを完全に防止することはできなかった。さらに、最悪の場合には、取出し装置と金型との衝突を引起こすこともある。
また、インサート成形等で金型内に各種金具等を挿入する場合にも、金型の停止位置とインサート装置との相互の位置関係を厳密に管理する必要がある。
そこで本発明は、金型内からの成形品の取出しや金具等の挿入物の挿入を確実に行うことができる射出成形方法を提供することを目的としている。」(【0002】?【0007】)

ケ)「射出成形機1は、固定型2と可動型3とからなる射出成形金型を備えており、成形品取出装置4は、成形品を取出すハンド部5と該成形品取出装置4の移動位置を制御する制御装置6とを備えている。また、可動型3の停止位置の近傍には、非接触式の変位センサ7が設けられており、変位センサ7と前記成形品取出装置4の制御装置6とが演算装置8を介して接続している。
上記変位センサ7としては、各種のものを用いることが可能であるが、例えば、発光部7aからレーザー光Aを帯状に発し、受光部7bとの間にある物体がレーザー光Aを遮った量に応じて出力信号が変化するレーザー変位センサを用いることができる。このような変位センサ7は、金型を開いたときの可動型3の停止位置付近に、発光部7aと受光部7bとの間に可動型3が位置するように射出成形機1の架台上等の固定点に設置する。
射出成形を完了して金型が開くと、可動型3は、前記レーザー光Aをある程度遮る位置に停止するので、変位センサ7が可動型3の停止位置に応じた信号を演算装置8に出力する。演算装置8は、この信号に基づいて成形品取出装置4の移動量を演算し、その結果を成形品取出装置4の制御装置6に出力する。これにより、成形品取出装置4を、常に金型の停止位置に応じた位置に移動させることができるので、そのハンド部5による成形品の取出しを最適な位置で行うことができ、金型内から製品を確実に取出すことができる。」(【0010】?【0012】)

コ)「【発明の効果】以上説明したように、本発明の射出成形方法によれば、成形品の取出しや挿入物の挿入を確実に行うことができ、生産性の向上や成形精度の向上が図れる。」(【0014】)

2.引用文献に記載された発明の認定
引用文献1には、上記摘示事項ア)?カ)の記載からみて、
「三次元方向に移動させられるアーム13に取付けた取出し用チャック9によって射出成形機の可動型5から成形された製品15を把持して取出す製品取出し方法であって、
可動型5が取付けられた可動ダイプレート2の位置を検出してその移動量をポイント信号P(0?19)に変換し、ポイント信号Pが“0?11”であれば、取出し用チャック9を待機位置(第1図のPllの位置)に移動させ、
ポイント信号Pが“12?18”であれば、その各信号に応じて取出し用チャック9を第1図にP12?P18の符号で示す各位置に固定型から離隔する可動型5の型開き動作に追従させて移動させ、
ポイント信号Pが“19”であれば、射出成形機に型締禁止を出力し、さらに取出し用チャック9を第1図のP19の位置に移動させ、取出し用チャック9は可動型5から押し出された製品15を把持し、その後、取出し用チャック9を第1図のP18の位置に後退させ、併せて、射出成形機に対して型締指令を出力するとともに、取出し用チャック9及び製品15が可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置(第1図のP20の位置)に高速で移動させる、製品取り出し方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

3.対比
本願発明1と引用発明とを、対比する。
引用発明における「製品15」、「アーム13に取付けた取出し用チャック9」、「取出し方法」は、それぞれ、本願発明1の「成形品」、「取出アーム」、「取出方法」に相当している。
引用発明における「取出し用チャック9を第1図にP12?P18の符号で示す各位置に固定型から離隔する可動型5の型開き動作に追従させて移動させ」とは、本願発明1の「可動型に連動して取出アームを移動させる」ことに相当し、同じく、引用発明における「三次元方向に移動させられるアーム13に取付けた取出し用チャック9によって射出成形機の可動型5から成形された製品15を把持して取出す製品取出し方法」が、本願発明1の「前記取出アームにより前記可動型から成形品を取り出す成形品の取出方法」に相当することも明らかである。
また、引用発明における取出し用チャック9の「待機位置(第1図のPllの位置)」は、上記摘示事項カ)の図1からみて、P20の位置と異なるが、P20と同じく可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置であることから、本願発明1の「取出アームの進入待機位置」に相当することは明らかであり、その位置に移動させることは、当該位置を設定する動作を包含していることは自明といえる。
加えて、引用発明における取出し用チャック9が移動する「第1図のP19の位置」が、上記摘示事項オ)の「ポイント信号Pが“19”であれば、射出成形機(図示せず)に型締禁止を出力し・・・この位置では、取出し用チャック9が可動型5に対向しかつ接近して位置し、取出し用チャック9は可動型5から押し出された製品15をフィンガ11を閉じることにより把持する」との記載から、本願発明1の「前記型開限界位置に移動した前記可動型の前面側に前記成形品の取り出しのための取出し位置」に相当することも明らかであり、同様に、その位置に移動させることは、当該位置を設定する動作を包含していることは自明である。そして、「射出成形機に型締禁止を出力する」と可動型5が停止することは自明であるから、引用発明における「ポイント信号Pが“19”であれば、射出成形機に型締禁止を出力し、さらに取出し用チャック9を第1図のP19の位置に移動させ、取出し用チャック9は可動型5から押し出された製品15を把持し」が、本願発明1における「前記可動型が停止したとき、前記可動型にある前記成形品を前記取出アームに把持させて受取り」に相当することも明らかである。
上記のことから、引用発明における「ポイント信号Pが“12?18”であれば、その各信号に応じて取出し用チャック9を第1図にP12?P18の符号で示す各位置に固定型から離隔する可動型5の型開き動作に追従させて移動させ」は、本願発明1の「前記固定型から前記可動型が離間したとき、前記進入待機位置にある前記取出アームを所定の進入速度により進入させ、移動する前記可動型の前面側と所定間隔を保持しながら前記可動型に追従移動させ」に相当する。
同じく、引用発明における取出しチャック9が製品15を把持した際の「射出成形機に対して型締指令を出力するとともに、取出し用チャック9及び製品15が可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置(第1図のP20の位置)に高速で移動させる」は、本願発明1の「取出アーム側に前記成形品を把持させた後、前記成形機に前記可動型の移動命令を発する」及び「可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、前記成形品を把持した前記取出アームを退避させ」に相当することも明らかである。

そうすると、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、

「成形機の可動型に連動して取出アームを移動させ、前記取出アームにより前記可動型から成形品を取り出す成形品の取出方法であって、
前記取出しアームの進入待機位置を設定し、かつ、前記型開限界位置に移動した前記可動型の前面側に前記成形品の取り出しのための取出し位置を設定し、
前記固定型から前記可動型が離間したとき、前記進入待機位置にある前記取出アームを所定の進入速度により進入させ、移動する前記可動型の前面側と所定間隔を保持しながら前記可動型に追従移動させ、前記可動型が停止したとき、前記可動型にある前記成形品を前記取出アームに把持させて受取り、
前記可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、前記成形品を把持した前記取出アームを退避させ、
前記取出アーム側に前記成形品を把持させた後、前記成形機に前記可動型の移動命令を発する成形品の取出方法。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明1においては、「固定型の前面に設定された原点と、型開限界位置に移動した前記可動型の前面との間に成形品取出しの場合に進入禁止とする立体空間からなる設定領域」が設定されており、「前記設定領域の外側」に前記取出アームの進入待機位置が設定され、前記固定型から前記可動型が離間したときに、前記取出アームが「前記設定領域に」進入するとされ、前記可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、成形品を把持した前記取出アームを「前記設定領域外」へ退避させると規定することで、取出アームの各工程における位置が前記設定領域との関係で特定されているのに対して、引用発明においては、この点について記載がない点。

<相違点2>
成形品を保持した取出アームを退避させる速度に関し、本願発明1においては、「進入速度より速い退避速度により」行っていると特定されているのに対して、引用発明においては、退避時に高速で移動させると規定されているが、進入速度との関係については記載がない点。

<相違点3>
本願発明1においては、「取出し位置は、前記可動型の従前の停止位置から最新の停止位置に対して修正し」ているのに対して、引用発明においては、そのような修正については触れられていない点。

4.判断
(1)相違点1について
引用発明の各位置は、上記摘示事項エ)の「各位置P12?P18は、座標データとして・・制御装置に記憶させてあり」の記載から、何らかの座標系に基づいて設定された位置であるといえる。そして、「型開きの完了の後に、可動型に対向している取出し用チャックが製品を把持し、そのまま可動型の移動ストローク範囲外に取出し用チャックが後退移動する。この後退移動は、可動型および固定型との干渉がないことを条件として行なえばよい」(摘示事項ウ)及び「このP20の位置は、取出し用チャック9および製品15が可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置」(摘示事項エ)であること、待機位置(第1図のPllの位置)が、図1からみて、P20の位置と異なるが、P20と同じく可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置であることから、引用発明においても、「固定型の前面と型開限界位置に移動した前記可動型の前面との間に成形品取出しの場合に進入禁止とする立体空間からなる設定領域」が設定されているということができ、その場合において、引用発明の取出アームの進入待機位置が「前記設定領域の外側」となり、前記固定型から前記可動型が離間したときに、取出アームが進入待機位置から「前記設定領域に」進入するものとなり、成形品を把持した取出アームは「前記設定領域外」に退避するものとなることは自明である。ここで、「固定型の前面に設定された原点」については、座標系において、原点はいずれかに設定しなければならないものであることから、原点を固定側の前面に設定する点はその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が適宜おこない得た設計事項といえる。
してみれば、相違点1は、当業者が容易になし得たことであり、その効果にも格別なものがあるとはいえない。

(2)相違点2について
引用発明においては、本願発明の取出アームに相当する「アーム13に取り付けた取出し用チャック9」(以下、「取出アーム相当部材」という。)の移動に関して、本願発明1の「進入速度」に相当する型開時の速度と退避時の速度の相対的な比較はなされていない。そこで、引用文献1において、取出アーム相当部材の移動に関する記載を以下再度摘示する。
型開時における記載としては、
「固定型から離隔する可動型の型開き動作に追従させて取出し用チャックを移動させる」(上記摘示事項ア)から抜粋)、
「可動型の移動に追従して取出し用チャックが移動し、型開きの完了の時点では、可動型に対して取出し用チャックが対向して位置する。この間の取出し用チャックの移動軌跡は必要に応じて任意に設定できるが、少なくとも可動型の移動方向に対しては取出し用チャックが可動型に同期して追従移動する。」(上記摘示事項ウ)から抜粋)、
「またポイント信号Pが“12?18”であれば、その各信号に応じて取出し用チャック9を第1図にP12?P18の符号で示す各位置に移動させる(ステップ215)。これらの各位置P12?P18は座標データとして、あるいは予め行なったティーチングによって制御装置に記憶させてあり、したがって取出し用チャック9は可動型5の型開き動作に追従して移動することになる。」(上記摘示事項エ)から抜粋)
がある。
一方、退避時における記載としては、
「取出し用チャックを可動型および固定型と干渉しないよう可動型の移動ストローク範囲から外れた位置に後退させる」(上記摘示事項ア)から抜粋)、
「型開きの完了の後に、可動型に対向している取出し用チャックが製品を把持し、そのまま可動型の移動ストローク範囲外に取出し用チャックが後退移動する。この後退移動は、可動型および固定型との干渉がないことを条件として行なえばよいので、最短距離を迅速に移動する。」(上記摘示事項ウ)から抜粋)、
「製品15を確実に把持していた場合には、射出成形機に対して型締指令を出力(ステップ225)するとともに、取出し用チャック9を第1図のP20の位置に高速で移動させる。このP20の位置は、取出し用チャック9および製品15が可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置であり、またP20の位置への移動は最短距離で行なわれる。」(上記摘示事項エ)から抜粋)
があり、移動軌跡については、摘示事項カ)の図1に具体的に示されている。
これらの記載を総合すると、引用発明における取出アーム相当部材の型開時の移動は、可動型の動きに追従移動するが、退避時においては、可動型および固定型との干渉がないことを条件として行なわれ、最短距離を高速ないし迅速に移動するものである。
そして、引用発明が「可動型を型開きの状態に停止させておく時間が長くなり、その結果、1サイクルに要する時間が長くなって稼動率が低くなる問題があった。この発明は上記の事情を背景としてなされたもので、製品の取出しを迅速化して成形効率を向上させることを目的とする」(上記摘示事項イ)ものであることから、サイクルタイムをより短くするために、特に制約がなく、迅速に移動する旨記載されている退避時の移動速度を、進入時の移動速度より早くすることは、当業者が容易になし得たことといえる。
そして、その効果について検討しても、移動速度をより速くすることで製品の取出時間がより短縮でき、成形効率、生産効率がより向上することは自明なことといえるから、その効果は当業者の予測の範囲内である。

(3)相違点3について
引用文献2には、上記摘示事項キ)?コ)から、引用発明と同じ成形品取出装置に関して、成形機の金型の停止位置のばらつきに対応して、金型内から成形品の取出しを確実に行うために、射出成形を完了して金型が開くと、可動型の停止位置に応じた信号を出力し、この信号に基づいて成形品取出装置の移動量を演算し、その結果を成形品取出装置の制御装置に出力して移動位置を補正しているものが記載されている。この移動位置の補正は、本願発明1における「取出し位置は、前記可動型の従前の停止位置から最新の停止位置に対して修正」されていることに相当している。
そうすると、引用発明において、成形品の取出をより確実に行うために、引用文献2に記載の上記金型の移動位置の補正を採用することは、当業者が容易になし得たことといえる。
そして、その効果も、当業者の予測の範囲内のものである。

5.まとめ
よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。

第5.審判請求人の主張について
1.審判請求人の主張1
審判請求人は平成22年4月26日提出の回答書において、「引用文献1は・・・取出アームの退避速度と進入速度との比較や、可動型の移動開始との前後を問わずに取出アームを退避させる点については何ら言及していない。」及び「本願発明は、上記相違点を有することにより、進入時には、移動する可動型の前面側と所定間隔を保持しながら可動型に追従移動させる一方、退避時は可動型が固定型側に移動を開始する前のみならず移動を開始した後であっても、その「進入速度より早い退避速度」で退避させることから、取出アームを脱出開始に先行して可動型に型締め動作指令を送出しても、可動型に衝突することなく取出アームを退避させることが可能である。・・・そして、取出アームを迅速に退避させることで成形機の待機時間の短縮や成形品の生産性の向上を図ることができる、との付随的効果を奏する。引用文献1では、取出し用チャックの移動の時期について言及せず、・・・上記相違点について開示するものではなく、また示唆するものでもない。また、引用文献1に記載された発明は、本願発明の上記の付随的効果を奏するものでもない。」と主張する。

しかし、本願発明1においては「可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、前記進入速度より速い退避速度により、前記成形品を把持した前記取出アームを前記設定領域外に退避させ」と特定されているのであり、審判請求人が主張する「可動型の移動開始との前後を問わずに取出アームを退避させる」とは規定されていないから、審判請求人の主張は請求項の記載に基づかない主張であり、採用できない。さらにいえば、この「可動型の移動開始との前後を問わずに取出アームを退避させる」点については、引用発明においても「取出し用チャック9は可動型5から押し出された製品15を把持し、その後、取出し用チャック9を第1図のP18の位置に後退させ、併せて、射出成形機に対して型締指令を出力するとともに、取出し用チャック9及び製品15が可動型5や可動ダイプレート2に干渉しない位置(第1図のP20の位置)に高速で移動させ」と規定されており、そうすると、引用発明においても可動型が固定型側に移動する前又は開始した後に、「アーム13に取り付けた取出し用チャック9」の退避を開始しているといえるものである。

2.審判請求人の主張2
審判請求人は同回答書において、「引用文献1は所定の目標座標へ最短距離で向かうため、2軸の動作が調整されることになり、移動速度を上げることは困難である。」及び「本願発明では、特定の目標座標を決めずに取出アームのそれぞれの軸を最大速度で回転させて退避動作を行うため、軸の調整による減速が生ぜずに高速で取出アームを退避させることができる。そして、取出アームを迅速に退避させることで成形機の待機時間の短縮や成形品の生産性の向上を図ることができる、との付随的効果を奏する。引用文献1では、・・・取出しチャックの移動速度を高めることが困難な事情があるため、上記相違点について開示するものではなく、また示唆するものでもない。」とも主張する。

しかし、本願発明1においては、審判請求人が主張する「特定の目標座標を決めずに取出アームのそれぞれの軸を最大速度で回転させて退避動作を行う」ことは規定されていないから、上記主張は、請求項の記載に基づかない主張であり、採用できない。
さらに、「成形機の待機時間の短縮」と「生産性の向上」は、可動型の型閉速度、取出アームの退避動作の軌跡等にも依存するものであり、本願発明1において、可動型の移動速度と取出アームの退避動作の軌跡を規定せずに、単に取出アームの退避速度を速くすることのみで達成できるものでもない。
加えて、本願発明1も引用発明も、ともに2軸以上の動作が調整されているものであり、出願時において、2軸以上の動作を調整して任意の方向に任意の速度となるように制御することは慣用技術であるといえるから、審判請求人の主張する「引用文献1は・・・移動速度を上げることが困難」とまで言うことはできない。

3.請求人の主張3(効果について)
審判請求人は同回答書の「2.4 効果について」において、
「a成形を完了した可動型の移動に取出アームを追従させ、成形品を把持した取出アームを進入速度より速い退避速度を以て設定領域外に退避させ、成形品の取出し時間の短縮化を図ったので、可動型の停止時間を短縮し、成形効率及び生産効率を高めることができる、
b取出し位置の変動を位置修正によって補償するので、精度良く成形品の取出しを行うことができる、
cこの振動緩和処理を施すので、機械的な磨耗から取出アームの機械系を防護することができる、
d取出装置によれば、取出アームの移動及び成形品の取出し動作を成形動作に連動させ、成形品の取出し時間の短縮化を図ったので、可動型の停止時間が短縮でき、成形効率及び生産効率を高めることができる、
e可動型の型締め開始を取出アーム側の成形品把持の後に発することにより、成形品把持と型締め開始との間の無駄時間を省略でき、成形時間の短縮とともに、型締めが成形品把持の前に開始されることによる不都合が防止でき、安全性を高めることができる」との効果を奏するものである。
加えて、本願発明では、退避時に可動型が固定型側に移動を開始する前のみならず開始した後であっても、その「進入速度より早い退避速度」となることから、取出アームを脱出させる際に先行して可動型に型締め動作指令を送出することも可能であり、また、成形機の待機時間の短縮や成形品の生産性の向上を図ることができる、との付随的効果を奏する。」
と主張しているので、これについて検討する。ただし、効果cは、本願の請求項2に記載の発明の効果であるので省略する。

効果aについて
上記第4.4.(2)相違点2についてで検討したとおりであり、引用発明の効果が、サイクルタイムの短縮であり、当業者において、取出アームの移動速度をより早くすると、サイクルタイムがより短縮できることは自明の事項といえることから、進入速度より早い退避速度とすることによる効果は、当業者において予測の範囲内のものであり、格別な効果とはいえない。

効果bについて
引用文献2において、「射出成形を完了して金型が開くと、可動型の停止位置に応じた信号を出力し、この信号に基づいて成形品取出装置の移動量を演算し、その結果を成形品取出装置の制御装置に出力して移動位置を補正」することを採用することにより、「そのハンド部5による成形品の取出しを最適な位置で行うことができ、金型内から製品を確実に取出すことができる」(上記摘示事項コ)と記載されているから、効果bについても、引用文献2に記載の発明を採用することで、当業者が予測可能な効果といえ、格別なものとは認められない。

効果dについて
引用発明においても、金型の開閉動作と取り出し動作を連動させ、サイクルタイムの短縮を行っているのであるから、可動型の停止時間は短縮でき、成形効率及び生産効率を高めることができるという効果dを奏しているといえる。

効果eについて
引用発明においても「可動型の型締め開始を取出アーム側の成形品把持の後に発する」という発明特定事項を備えているのであるから、審判請求人が主張する効果eは、当然に引用発明においても奏される効果といえる。

付随効果について
可動型の移動速度及び可動型の停止位置が特定されていないから、単に「進入速度より早い退避速度」であるからといって、取出アームを脱出させる際に先行して可動型に型締め動作指令を送出することが可能ということはできない。また、本願発明1は「前記可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、前記進入速度より速い退避速度により、前記成形品を把持した前記取出アームを前記設定領域外に退避させ」るのであるから、審判請求人が主張する付随効果は、可動型が固定型側に移動を開始した後に退避させる態様を含む本願発明1の特有の効果ということもできないものである。

4.請求人の要望する補正案についての検討
審判請求人の同回答書において補正案が記載されており、その補正案における請求項1に係る発明(以下、「補正案発明1」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「 成形機の可動型に連動して取出アームを移動させ、前記取出アームにより前記可動型から成形品を取り出す成形品の取出方法であって、
固定型の前面に設定された原点と、型開限界位置に移動した前記可動型の前面との間に成形品取出しの場合に進入禁止とする立体空間からなる設定領域を設定し、
前記設定領域の外側に前記取出アームの進入待機位置を設定し、かつ、前記型開限界位置に移動した前記可動型の前面側に前記成形品の取り出しのための取出し位置を設定し、
前記固定型から前記可動型が離間したとき、前記進入待機位置にある前記取出アームを前記設定領域に所定の進入速度により進入させ、移動する前記可動型の前面側と所定間隔を保持しながら前記可動型に追従移動させ、前記可動型が停止したとき、前記可動型にある前記成形品を前記取出アームに把持させて受取り、
前記可動型が前記固定型側に移動を開始する前又は開始した後、前記進入速度より速い退避速度により、前記成形品を把持した前記取出アームを前記設定領域外に退避させ、
前記取出アームと前記可動型との距離が所定距離未満になると前記可動型の移動を停止させ、
前記取出し位置は、前記可動型の従前の停止位置から最新の停止位置に対して修正し、前記取出アーム側に前記成形品を把持させた後、前記成形機に前記可動型の移動命令を発することを特徴とする成形品の取出方法。 」

当該補正案発明1の内容は、補正前の本願発明1に、「前記取出アームと前記可動型との距離が所定距離未満になると前記可動型の移動を停止させ、 」た点を更に限定するものと認められる。

これに対して、引用文献1についての上記摘示事項エ)には、「したがって取出し用チャック9は可動型5の型開き動作に追従して移動することになる。なおこの場合、接近センサ14が有効に機能していることによりフィンガ11と可動型5とは互いに干渉しないよう一定の距離Aに維持される。」、「さらにポイント信号Pが“19”であれば、射出成形機(図示せず)に型締禁止を出力し(ステップ216)、また接近センサ14をOFFとして無効とし(ステップ217)、さらに取出し用チャック9を第1図のP19の位置に移動させる(ステップ218)。」、「ついで入力されたポイント信号をリセット(ステップ220)した後、取出し用チャック9を第1図のP18の位置に後退させ(ステップ221)、さらに接近センサ14をONとして有効にする(ステップ222)」との記載があり、これらの記載を総合すれば、引用文献1に記載の取出方法においては、「接近センサ」により「アーム13に取り付けた取出し用チャック9」(補正案発明1の「取出アーム」に相当)と可動型との距離が所定未満となると可動型の移動を停止させているものが記載されていると認められることから、新たに限定した点については、引用文献1に記載されているといえ、新たな相違点とはならない。

よって、当該補正案発明1であっても、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

したがって、当該補正案発明1によっても、本願発明は特許を受けることができるものではないから、同回答書に記載の補正案は受け入れられるものではない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-01 
結審通知日 2010-09-07 
審決日 2010-09-21 
出願番号 特願2000-247971(P2000-247971)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 大島 祥吾
小野寺 務
発明の名称 成形品の取出方法及びその装置  
代理人 畝本 正一  

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