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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1226823
審判番号 不服2008-11478  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-07 
確定日 2010-11-08 
事件の表示 特願2000-162809「Ni基耐食耐摩耗合金からなる部材及びその原料粉末並びにこの合金を用いた射出、押出成形機用又はダイカストマシン用の構成部材」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月14日出願公開、特開2001-342530〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年5月31日の出願であって、平成20年4月2日付けの拒絶査定に対して、同年5月7日に審判請求がされ、当審において平成22年5月13日付けで拒絶理由を通知した後、平成22年7月9日付けで手続補正がされたものである。
そして、その発明は、上記の手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「鉄鋼材料からなる基材と、Ni基耐食耐摩耗部材とを金属結合により複合化させてなる耐食耐摩耗性複合部材であって、
前記Ni基耐食耐摩耗部材は、組成が、重量%でB:0.6?3.2%、Si:0.5?8%、Mo:15?32%、C:0.01?1%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基耐食耐摩耗合金からなり、
前記Ni基耐食耐摩耗部材は、前記Ni基耐食耐摩耗合金の焼結時に前記Ni基耐食耐摩耗合金を前記基材に拡散接合することによって、あるいは、前記Ni基耐食耐摩耗合金を前記基材に溶射した後最溶融処理を行うことによって、前記基材と複合化されていることを特徴とする耐食耐摩耗性複合部材。」(以下、これを「本願発明」という。)

第2 当審拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由の概要は、この出願の発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用刊行物>
刊行物1:特開平8-134569号公報
刊行物2:特開平4-254502号公報
刊行物3:特開平4-176802号公報
刊行物4:特開平8-232057号公報
刊行物5:特開平9-85413号公報
刊行物6:特開昭64-44258号公報

第3 当審の判断
1 刊行物の記載事項
(1)刊行物1:特開平8-134569号公報
[1a]「【特許請求の範囲】
【請求項1】重量%で、B 0.6?3.2%、Si 0.5?8%、Mo 5?37%、残部Niおよび不可避的不純物からなり、Ni基の結合相にNi硼化物およびMo硼化物が分散していることを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金。
【請求項2】請求項1に記載のNi基合金と鉄鋼材とを金属結合により複合化させたことを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料。」
[1b]「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、射出成形機や押出成形機のシリンダ、スクリュー、プランジャのような耐食性、耐摩耗性および強度を同時に必要とする各種部材の構成材料に関する。」

[1c]「【0002】
【従来の技術】…
【0008】また、(ハ)Mo-Ni系複合硼化物合金は、耐食性、耐摩耗性に優れているが、抗折力は1.5GPaと充分とは云えない。また、焼結温度が1125?1225℃と高いので、焼結と同時に鉄鋼材と接合して複合材料とするには不向きである。この温度では、鉄鋼材の結晶粒粗大化により鋼材が劣化する。…」

[1d]「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、耐食性、耐摩耗性に優れ、かつ高強度を有する射出成形機や押出成形機の部材に適した合金材料を提供することを目的としている。また、本発明のもうひとつの目的は、このような合金材料と鉄鋼材を金属結合させる複合化を焼結と同時に行って、複合材料を低コストで提供することにある。」

[1e]「【0015】次に、本発明Ni基合金の製造法について説明する。Ni基合金は、B、Si、Mo、Niの粉末、もしくはこれらの元素のうち2種以上含有する合金粉を所定の分量秤量し、回転ボールミルによって48時間粉砕混合し、その後プレス成形し、焼結して製造される。
【0016】焼結は、真空中、還元性ガス中で行う。また、熱間静水圧焼結等の他の方法で行ってもよい。焼結温度は、合金の組成によって異なるが、1000?1130℃で行う。焼結温度が低すぎると緻密化が完全ではなく、性能が低下し、また高すぎると結晶粒の粗大化により抗折力が低下する。」

[1f]「【0018】次に、本発明Ni基合金と鉄鋼材との金属結合により複合化される複合材料の製造について説明する。板状の鉄鋼材と本発明Ni基合金を複合化する場合には、Ni基合金の成形を直接接触させた状態で焼結すると、液相の出現によって成形体の焼結が行われると同時に鉄鋼材とNi基合金が接合して複合化される。
【0019】また、円筒状の鉄鋼材の外径部あるいは管状の鉄鋼材の内径部に本発明Ni基合金を接合して複合化する場合には、Ni基合金の成形体の焼結時の収縮を見込んで、焼結最終過程での液相の出現により、鉄鋼材とNi基合金が複合化される。」

[1g]「【0021】本発明Ni基合金と鉄鋼材との複合化の方法としては、Ni基合金と同一の組成の合金粉をあらかじめ水アトマイズ法やガスアトマイズ法などによって製造し、その合金粉末を用いて、溶射、再溶融あるいは肉盛をする方法もある。」

[1h]「【0022】
【実施例】以下に、本発明を実施例によりさらに説明する。
実施例1
本発明のNi基合金を製造するに際し、表1に示す原料粉の配合比率からなる試料番号1?5合金粉末を配合し、回転ボールミルによりエチルアルコール中で混合粉砕した。次いで、この混合合金粉末を乾燥し、プレス成形し、真空中で焼結した。」(表1には、原料粉のMoの配合比率が15,20,25,33重量%の合金が記載されている。)

(2)刊行物2:特開平4-254502号公報
[2a]「【請求項1】 ステンレス粉末をバインダと混練し、射出成形を行いバインダを脱脂した後焼結を行う焼結体の製造方法において、混練時にバインダとともに黒鉛などのC粉末を加えた射出成形用組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の射出成形用組成物を射出成形し、脱脂した後、減圧下及び非酸化雰囲気化で焼結することを特徴とする金属焼結体の製造方法。」

[2b]「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ステンレス粉末の射出成形による焼結体の製造方法及びその射出成形用組成物に関する。」

[2c]「【0003】
【発明が解決しようとする課題】原料のステンレス粉末は量産的には水アトマイズ法によって製造される。そのため、粉末中には多量の酸素が含有される。この酸素は粉末中に酸化物として存在して、焼結を阻害する。このため、水アトマイズ法にて製造した粉末を用いて焼結を行うと、焼結金属の組織中に介在物、ピンホールができ機械的強度が低くなったり、研摩面の光沢が減ずるなどの課題があった。」

[2d]「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その要旨は射出成形用組成物中に、該粉末中に含有されるOと原子比率で等しい量以上のCを最終の焼結品において残留させるべきC量に加えた量で黒鉛などの粉末として添加し、金属粉末を所定形状に成形した後、減圧下及び非酸化雰囲気で焼結するとともに、この焼結する過程でCとOとを反応させてガスとして除去することにある。」

[2e]「【0007】
【実施例】次に本発明の特徴をより明確にすべく、以下にその実施例を詳述する。
(実施例1)
平均粒径が10μmで酸素量が0.65wt%の水アトマイズ法で製造されたSUS316粉末を、PEOを主成分とするバインダと配合する際に、8.3gの黒鉛を添加し150℃で60分混練を行った。しかる後これを射出成形機により、7×7×10mmの試験片に成形を行い、得られた成形体を脱脂することにより添加したバインダを取り除いた。このとき、添加したバインダのうち94.5wt%が安定的に除去された。次に得られた脱脂体を1100℃までは真空雰囲気でさらに水素を導入して、1330℃で3時間焼結することにより焼結体が得られた。この焼結体の炭素を分析した結果、0.012wt%と低く、また酸素量も0.057wt%と著しく低下していた。
(実施例2)
平均粒径が8.5μmで酸素量が0.92wt%の水アトマイズ法で製造されたSUS304粉末を、PEGを主成分とするバインダと配合する際に、17.2gの黒鉛を添加し、150℃で60分混練を行った。しかる後これを射出成形機により、5×4×60mmの試験片に成形を行い、得られた成形体を脱脂することにより添加したバインダを取り除いた。この時、添加したバインダのうち93.2wt%が安定的に除去された。次に得られた脱脂体を実施例1と同様の方法で焼結を行った。得られた焼結体の炭素を分析した結果0.022wt%と低く、また酸素量も0.035wt%と著しく低下していた。」

(3)引用例3:特開平4-176802号公報
[3a]「1、金属粉末を焼結することによる焼結体の製造方法において、
前記金属粉末として、鉄、ニッケル、コバルトの中から1種以上を含み、平均粒径20μm以下の粉末を用いて、所望組成に配合混合し、得られた混合金属粉末中に含有する酸素量に対する炭素量の重量比C/Oが、0.6?1.2になるように炭素含有量を調整し、得られた混合粉末を成形体に成形し、得られた成形体を、真空中で加熱し、粉末中に含有する酸化物と炭素とを反応させ、得られる焼結体中の炭素量が0.01重量%以下に且つ酸素量が0.1重量%以下になるような条件で加熱還元処理した後に、1100℃以上の温度で焼成することを特徴とする相対密度98%以上の焼結体の製造方法。
2、…
3、前記焼結体中の炭素量を0.01重量%以下で且つ酸素量を0.1重量%以下になるような前記還元条件は、昇温速度5℃/分以下で昇温するか、或いは、400?1100℃の範囲の温度に1時間以上に保持することであることを特徴とする請求項1に記載の焼結体の製造方法。」(特許請求の範囲)

[3b]「[従米の技術及び発明が解決しようとする問題点]
従来、金属材料部品を粉末冶金的手法によって製造することは広く一般に行なわれており、そのコスト面でのメリットから使用範囲も広がっている。然し乍ら、一般的に焼結部品はその内部にボアが残留しているため、溶製材に比較するとその諸性質が劣る場合が多い。…これらの性質、特性を改善し、溶製材並みにするには、焼結体内部のボアを無くすこと、即ち、焼結体の密度を溶製材並みにまで引き上げることが必要であるが、従来の粉末冶金法では焼結部品の相対密度は高々92%程度であり、…また、焼結温度を高くしたり、或いは焼結時間を長くした場合でも、常圧焼結では焼結体の相対密度は96%以上にはなり難く、溶製材並みの性質、特性は得られない。
このように焼結体相対密度が96%以上にならない原因は、焼結体内部の空隙が孤立化し、閉空孔となった後にも発生し続けるガスの圧力が、空隙の収縮させようとする表面応力より高くなり、空隙の収縮を妨げるためである。これらの発生ガスは、粉末中或いは成形体中に含有する酸素、炭素、窒素、硫黄のガスやお互いの反応ガス或いは雰囲気中の水素との反応ガスであり、特に、炭素と酸素の反応ガスであるCOガスの影響が大きい。」(第1頁右下欄第20行?第2頁右上欄第11行)

[3c]「こうして、添加された炭素は焼結の際に、還元処理において、粉末粒子表面等に酸化物として存在する酸素と反応し、COガスとなり、焼結体の開空孔を通って放出されるため、焼結体中の空隙表面或いは空隙内部に存在する酸化物を減らすことができる。
そして、焼結処理の途中での還元処理により、焼結体中の空隙表面或いは空隙内部に存在する酸化物が、減少することによって、酸化物による緻密化の阻害が無くなり、最終焼結温度に達する前の昇温過程中の焼結の進行が促進される。更に、昇温過程中の前段、即ち、未だ低温にあるうちでは、焼結体中の孤立空隙内に生成するCOガスの圧力が小さいために、空隙の収縮はあまり妨げられず、また、拡散速度が小さく、結晶粒の成長が少ないため、オストワルド成長による空隙の凝集・粗大化が起こり難いので最終焼成温度である高温にある場合と比べて、空隙径が小さくなり易い。また、空隙表面或いは空隙内部に存在する酸化物は、空隙の収縮によって凝集し、一体となって粗大化する。従って、空隙の表面或いは空隙内部に存在する酸化物が減少することにより、空隙の収縮に伴う酸化物の凝集・粗大化が防止でき、ひいては、焼結体中に含有する酸化物粒子径が小さくなることになる。焼結体内部に酸化物と炭素が存在すると、酸化物表面において炭素と反応し、空隙となるが、酸化物粒子径が小さいと、空隙径も小さくなることになる。従って、還元処理により空隙表面或いは空隙内部の酸化物を減少させることにより空隙径を小さくすることができることが分かる。一方、焼結体中の空隙収縮の駆動力となる表面応力は空隙径に反比例する。即ち、空隙径が小さくなると空隙の表面応力が大きくなり、最終焼結温度である高温にあっても、焼結体内の孤立空隙内に生成するCOガス圧より空隙の表面応力が大きければ、空隙は収縮し、COガスは固溶炭素、固溶酸素或いは炭化物、酸化物となり、最終的に空隙が消滅する。」(第3頁右上欄第17行?同頁右下欄第14行)

[3d]「[実施例1]
原料粉末として、平均粒径5μmのカルボニル鉄の粉末(酸素量;0.4重量%、炭素量;0.03重量%)を用いて、これにカーボンブラックを0.4重量%添加し、C/O比を1.0に調整したものをメノウ乳鉢で混合し、得られた混合粉末を成形した後、1×10^(-4)トール程度の真空中で、700℃で1時間還元処理した後に、1400℃の温度で1時間焼結処理した。」(第4頁右下欄第3?11行)

2 刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1には、[1b]に記載の「耐食性、耐摩耗性および強度を同時に必要とする各種部材の構成材料」に関して、[1c]には、従来技術であるMo-Ni系複合硼化物合金では、「焼結温度が1125?1225℃と高いので、焼結と同時に鉄鋼材と接合して複合材料とするには不向きである。この温度では、鉄鋼材の結晶粒粗大化により鋼材が劣化する。」という課題が記載され、[1d]には、上記の課題に対して、「耐食性、耐摩耗性に優れ、かつ高強度を有する射出成形機や押出成形機の部材に適した合金材料を提供する」及び「このような合金材料と鉄鋼材を金属結合させる複合化を焼結と同時に行って、複合材料を低コストで提供する」目的が記載され、[1a]には、上記課題を解決する発明として、請求項1に「重量%で、B 0.6?3.2%、Si 0.5?8%、Mo 5?37%、残部Niおよび不可避的不純物からなり、Ni基の結合相にNi硼化物およびMo硼化物が分散していることを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金」、及び請求項2に「請求項1に記載のNi基合金と鉄鋼材とを金属結合により複合化させたことを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料」が記載されている。
そして、[1e]には、「本発明Ni基合金」の焼結について、「焼結は、真空中、還元性ガス中で行う。また、熱間静水圧焼結等の他の方法で行ってもよい。焼結温度は、合金の組成によって異なるが、1000?1130℃で行う。焼結温度が低すぎると緻密化が完全ではなく、性能が低下し、また高すぎると結晶粒の粗大化により抗折力が低下する。」と記載され、[1f]には、「本発明Ni基合金と鉄鋼材との金属結合により複合化される複合材料」の製法について、「板状の鉄鋼材と本発明Ni基合金を複合化する場合には、Ni基合金の成形を直接接触させた状態で焼結すると、液相の出現によって成形体の焼結が行われると同時に鉄鋼材とNi基合金が接合して複合化される」と記載されている。

イ 以上によると、刊行物1には、請求項2に記載された「耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料」について、以下の発明が記載されているといえる。

『鉄鋼材と、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金とを金属結合により複合化させてなる耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料であって、
前記耐食耐摩耗性高強度Ni基合金は、組成が、重量%で、B 0.6?3.2%、Si 0.5?8%、Mo 5?37%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基合金からなり、
前記耐食耐摩耗性高強度Ni基合金は、前記Ni基合金の成形体を前記鉄鋼材に直接接触させた状態での焼結時に、液相の出現によって、前記Ni基合金の成形体の焼成が行われると同時に鉄鋼材とNi基合金が接合することによって、前記鉄鋼材と複合化されている耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料』(以下、「引用発明」という。)

3 対比
ア 本願発明(前者)と引用発明(後者)とを対比すると、後者の『鉄鋼材』、『耐食耐摩耗性高強度Ni基合金』、『耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料』は、それぞれ前者の「鉄鋼材料からなる基材」、「Ni基耐食耐摩耗部材」、「耐食耐摩耗性複合部材」に相当する。
また、後者の『組成が、重量%で、B 0.6?3.2%、Si 0.5?8%、Mo 5?37%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基合金』は、この合金について、刊行物1の[1h]に、原料粉のMo配合比率が、15,20,25重量%のものが記載されているから、前者の「組成が、重量%でB:0.6?3.2%、Si:0.5?8%、Mo:15?32%、C:0.01?1%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基耐食耐摩耗合金」において、Cを含有しないものに相当する。
そして、前者の「前記Ni基耐食耐摩耗合金の焼結時に前記Ni基耐食耐摩耗合金を前記基材に拡散接合する」の「拡散接合」について、本願明細書【0047】?【0049】に「拡散接合を用いて、本発明合金を丸棒鋼材外径部に焼結、複合化した例」として、「焼結過程において、粉末(審決注:【0048】に記載の基材と型の間に充填したNi基合金粉末)には液相が生じ、これにより液相焼結により焼結体が形成されると同時にこの焼結体は基材の外径部に接合され、複合化材料の外径はφ38となった。…粉末からの液相生成により、丸棒鋼材と粉末は強固に金属結合されており…」と記載されており、これは、Ni基合金粉末の成形体を鉄鋼基材に直接接触させた状態で焼結すると、Ni基合金粉末に生じた液相により、Ni合金粉末成形体の焼結と同時にNi基合金が鉄鋼基材に拡散し、接合することを意味するから、後者の『前記Ni基合金の成形体を前記鉄鋼材に直接接触させた状態での焼結時に、液相の出現によって、前記Ni基合金の成形体の焼成が行われると同時に鉄鋼材とNi基合金が接合する』ことは、前者の「前記Ni基耐食耐摩耗合金の焼結時に前記Ni基耐食耐摩耗合金を前記基材に拡散接合する」ことに相当する。

イ したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「鉄鋼材料からなる基材と、Ni基耐食耐摩耗部材とを金属結合により複合化させてなる耐食耐摩耗性複合部材であって、
前記Ni基耐食耐摩耗部材は、組成が、重量%でB:0.6?3.2%、Si:0.5?8%、Mo:15?32%、残部Niおよび不可避的不純物からなる(ただし、Cについては除く)Ni基耐食耐摩耗合金からなり、
前記Ni基耐食耐摩耗部材は、前記Ni基耐食耐摩耗合金の焼結時に前記Ni基耐食耐摩耗合金を前記基材に拡散接合することによって、前記基材と複合化されている耐食耐摩耗性複合部材。」

<相違点>
本願発明は、Ni基耐食耐摩耗合金が「C:0.01?1%」を含むのに対して、引用発明は、不可避的不純物として以外にCを含まない点

4 相違点についての判断
ア 刊行物2には、[2b]に記載のステンレス粉末の射出成形による焼結体の製造方法およびその射出成形用組成物に関して、[2c]には、水アトマイズによって製造される粉末中に存在する多量の酸素が焼結を阻害し、焼結金属の組織中に介在物、ピンホールができ、機械的強度を低くするという課題があること、[2a]、[2d]には、その解決手段として、該粉末中に酸素と等しい原子比率以上の炭素を添加して成形し、焼結過程で酸素と炭素を反応させてガスとして除去する旨が記載されている。
また、刊行物3には、[3b]に、粉末冶金による焼結部品について、粉末中あるいは成形体中に含まれる酸素と炭素の反応ガスであるCOガスの影響により、相対密度が低いという課題が記載され、[3a]、[3c]に、鉄、ニッケル、コバルトの中から1種以上を含む金属粉末の焼結において、粉末中に存在する酸素量に対してC/Oが重量比で0.6?1.2になるように炭素量を調整して成形し、得られた成形体を真空中で、昇温速度5℃/分以下で昇温するか、或いは、400?1100℃の範囲の温度に1時間以上に保持して、粉末中の酸化物と炭素を反応させてCOガスとして放出する還元処理を行った後に、1100℃以上で焼成することにより、空隙を消滅させて相対密度98%以上の焼結体を製造する旨が記載されている。

イ すなわち、刊行物2,3には、鉄やニッケルを含む粉末の焼結体において、粉末中の酸素は、焼結を阻害し、ピンホールや空隙の発生により密度低下をもたらし、機械的強度を低下させるが、酸素量と同程度の炭素を粉末中に添加して成形し、酸素と炭素とを反応させてCOガスとして成形体より離脱させることにより、機械的強度が高く、高密度の焼結体を得ることができることが記載されているといえる。

ウ これに対して、刊行物1の[1c]?[1e]の記載によると、引用発明は、Ni基合金粉末の成形体を鉄鋼材に接触させて、従来より低い1000?1130℃の焼結温度で焼結と同時に鉄鋼材に接合することにより、Ni基合金や鉄鋼材の結晶粒を粗大化することなく緻密に焼結された、高強度の複合材料を得ることを目的として、Ni基合金の組成を調整するものといえるが、[1g]の記載によると、引用発明のNi基合金は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法によって製造された粉末を原料とするものを含むものであって、水アトマイズ法により製造された粉末に酸素が多く含まれることは、刊行物2の[2c]に記載されるように当業者に周知の事項であるし、ガスアトマイズ法により製造される粉末であっても、微量の酸素が含まれることが周知の事項である(要すれば特開平5-343063号公報【0009】、特開昭62-127406号公報第2頁左上欄第6?8行参照、以下「周知文献」という。)。

エ そして、上記「イ」に示すとおり、原料粉末中の酸素による焼結性の阻害や、相対密度の低下が、酸素量と同程度の炭素の添加により抑制されることは、上記刊行物2,3に記載された公知の事項であるから、引用発明において、鉄鋼材の結晶粒が粗大化することのないNi基合金の焼結温度1000?1130℃での焼結と同時に、さらに高強度、高相対密度の複合材料を得るために、Ni基合金粉末に、粉末中の酸素量と同程度の炭素を含ませることは、上記の公知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、その際、[2e]の「酸素量が0.65wt%」、「酸素量が0.92wt%」の記載や、[3d]の「粉末(酸素量;0.4重量%、炭素量;0.03重量%)」の記載、または、上記「ウ」に提示の周知文献にガスアトマイズ粉末における酸素量として80?150ppm等と記載されていることによると、粉末に含まれる酸素量は、通常0.01?1%のオーダーと認められるから、酸素量と同程度の炭素量とするための炭素添加量を0.01?1%に設定することも、単なる設計的事項にすぎない。

5 補足
ア なお、請求人は、平成22年7月9日付けの意見書において、概略、以下の主張をしている。

刊行物2の発明においては、【0007】の実施例1,2の記載から、「原料粉末混練時のC(グラファイト)添加」と「1330℃の水素含有雰囲気中における焼結」は一体不可分である。
引用発明は、Ni基合金との複合化に用いる鉄鋼材が、刊行物1の段落【0020】に例示されるマルテンサイト系ステンレスおよび炭素鋼であり、これらの材料の焼き入れ温度は、一番高くても1100℃弱であるから、それ以上の温度に晒すと、材料特性が著しく劣化することは技術常識であり、また、Ni基合金と鉄鋼材とを複合化するに際して両者を過度の高温(例えば1330℃)に晒すと両者の界面の拡散層(材料強度的には最弱部)の厚みが大きくなるから、刊行物1に示すNi基合金と鉄鋼材の複合化にあたって、両者を過度に高い温度に長時間晒すことは避けるべきであるということも技術常識である。
したがって、刊行物1に示された鉄鋼材をNi基合金と複合化するに際して、1330℃という高温に3時間もの長時間晒すことを必要とする刊行物2記載の技術を組み合わせることを当業者が考えつくはずはない。
また、刊行物3には、磁性材料として用いられる焼結体において磁気的特性を損なうことなく空隙(ボイド)を減少させる技術が記載されており、(i)混合粉末のC/O比を適当な範囲に調整すること、(ii)所定の炭素量、酸素量が得られるように真空中で加熱還元処理すること、(iii)1400℃で2時間焼成すること、の組合せにより相対密度98%以上の焼結体を製造するものであって、刊行物2の発明でも、上記特徴(i)(ii)(iii)は一体不可分のものであるから、刊行物2について論じたのと同様の理由により、刊行物1に示された鉄鋼材をNi基合金との複合化するに際して、1400℃という高温に2時間もの間晒すことを必要とする刊行物3記載の技術を組み合わせることなど当業者が考えつくはずはない。
よって、引用発明に刊行物2、3に記載された発明を組み合わせる動機付けなど全くなく、むしろ組合せには阻害要因がある。

イ 上記の主張に対して、以下に補足する。
刊行物2に記載された焼結の対象となる合金粉末は、ステンレス粉末であって、引用発明におけるNi基合金とは、好ましい焼結温度が異なることは当然である。
また、刊行物3に記載された1400℃で焼成される合金は、実施例1?3として記載されたカルボニル鉄であって、これも、引用発明のNi基合金と好適な焼結温度が異なるものであるし、刊行物3においては、COガスの効果的な除去温度が[3a]に「400?1100℃の範囲」と記載されており、これは引用発明におけるNi基合金の焼結温度1000?1130℃と重複する温度である。
そうすると、刊行物2,3の記載の接した当業者は、Ni基合金の焼結温度1000?1130℃を前提とする引用発明においても、焼結性のさらなる向上(高密度化)のために、炭素の添加によりその焼結温度においてCOガスの効果的な除去を行おうとする動機付けが得られるというべきであるから、引用発明に刊行物2,3記載の炭素添加による焼結性の向上技術を組み合わせることは何ら阻害されておらず、請求人の主張は失当である。

第4 むすび
以上のとおりであるから、当審拒絶理由は妥当なものと認められる。
したがって、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-07 
結審通知日 2010-09-10 
審決日 2010-09-28 
出願番号 特願2000-162809(P2000-162809)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 仁志近野 光知  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山本 一正
長者 義久
発明の名称 Ni基耐食耐摩耗合金からなる部材及びその原料粉末並びにこの合金を用いた射出、押出成形機用又はダイカストマシン用の構成部材  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 吉武 賢次  
代理人 岡田 淳平  
代理人 森 秀行  

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