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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47J
管理番号 1226830
審判番号 不服2008-27441  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-28 
確定日 2010-11-08 
事件の表示 特願2004-143700「卓上酒燗器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-323747〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本願は,平成16年5月13日の出願であって,平成20年10月9日付けで拒絶査定され,これに対して平成20年10月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がなされたが,当審からの平成22年5月31日付け拒絶理由に応答して,平成22年7月16日付けで特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正がなされたものである。

2. 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は,平成22年7月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ,請求項1は,次のとおり記載されている。

「断熱材を巻き付けて形成した摘み材11を備え,かつ,それ自身は伝熱性の良好な素材で成形された銚子・燗瓶のごとき酒差器1と,この酒差器1と熱湯Hとを収容可能な内部空間サイズを保有し,かつ,伝熱性の低い保温性材料にて作製された器体であって,卓上に設置自在な平底の湯煎封熱容器2と,この湯煎封熱容器2の上部口縁に気密を保って嵌め合わせ可能であって,湯煎封熱容器2と同材料で作製されており,天地逆さにして平坦な天板面を卓上に置き,かつ,前記湯煎容器2の湯中で燗されて外周面が濡れた状態の酒差器1を起立させることによって当該酒差器の外周面から滴り落ちる水滴の受袴として兼用可能な被せ蓋3とから成り,
前記湯煎封熱容器2の内面には,酒差器1の酒量を上燗又は熱燗に3.5?5分ほどの時間内に昇温させるに最適の熱湯量の水位を表示するための水位ライン23・24・25の中の少なくとも1つが水平に引かれており,
所要温度の熱湯H,および酒類を充填した前記酒差器1を前記湯煎封熱容器2の中に収容して当該湯煎容器の口縁に被せ蓋3を被せることにより,前記水位ライン23・24・25に応じた収容熱湯によって当該保温性の湯煎封熱容器内は気密状態となって酒差器1の中の酒類と収容熱湯Hとは温度漏れの少ない気密雰囲気の中で当該酒差器1の器壁を介して熱交換し,酒差器1内の酒類が所望の燗温度にまで適時昇温して御燗されると共に,これら酒類を充填した酒差器1と,前記収容熱湯Hと,当該封熱容器2の口縁に被せた被せ蓋3とを,燗付けの保温状態のまゝ安全に持ち運べるようにしたことを特徴とする卓上酒燗器。」(以下この発明を「本願発明」という。)

3. 刊行物の記載事項
当審の平成22年5月31日付け拒絶理由で引用した本願出願前に頒布された刊行物である実願昭63-50733号(実開平1-153127号)のマイクロフィルム (以下「引用例」という。)には,以下の事項が図面とともに記載されている。

(a)第1頁第5?10行
「側壁(1)に保持部(2)を有し,耐熱性材料により形成された加熱容器(3);該加熱容器(3)の内側に設けられた,上下方向の係合部(4)を有する盃(5)の支持部(6);前記係合部(4)と係止する係止部(7)を有する前記盃(5);前記加熱容器(3)に組合せて形成された,加熱容器(3)の蓋(8)から成る酒燗器。」
(b)第1頁第13?14行
「この考案は旅館,料亭,又は家庭等で酒を燗する場合に用いる酒燗器に関するものである。」
(c)第3頁第3?12行
「この考案は上記のような各種の問題点をすべて解決するためになされたもので,その目的は,ほぼ飲む場合の適温となるように燗ができ,多数の客がそれぞれ,ほぼ自己の好む温度に燗することができ,又燗された場合の,酒の信頼性を低下させずにすみ,かつ燗番等を不要にすることができ,又宴席の卓上等に配置しても周囲と調和し,客の興趣を高めることができ,又火災の危険等のない酒燗器を提供することである。」
(d)第5頁第11?15行
「次に8は加熱容器3の蓋であり,第1図に示されるように,その縁端部10に,蓋係合部11が形成され,加熱容器3の上端部12に形成された容器係止部13と,水平方向に係合するように形成されている。」
(e)第5頁第17行?第6頁第3行
「加熱容器3,盃5,蓋8,受皿14は四点セットを形成し,これらは陶磁器,ガラス,石材,耐熱性の合成樹脂,金属等のような耐熱性の材料によつて形成される。又第1図中15,16はそれぞれ糸底,17はつまみであり,18は熱湯,19は酒を示す。」
(f)第6頁第7?12行
「一般に盃5は比較的薄肉に形成されているため,その内側の酒は,その外側の熱湯17により容易に昇温させられる。又加熱容器3はその内側の熱湯17により,指等で触れられない温度になるが,その場合保持部2を形成してあるため容易に扱うことができる。」
(g)第6頁第12?17行
「加熱容器3中の,熱湯17は鍔状の支持部6及び盃5により外部に開放されずに閉止状態となつており,かつ又蓋8により補完されて閉止状態となつているため熱のいわゆる逃げがごく少なく,効果的に燗を行うことができるようになつている。」
(下線は当審が付与したものである。)

そして,上記各記載及び図1から次の事項は明白である。
・特に摘示事項(f)から,加熱容器3に保持部2を形成してあるため,盃5と収容熱湯と蓋8とを燗付け保温状態のまま安全に持ち運びができること。
・特に摘示事項(d),(g),図1から,加熱容器3の口縁に蓋8を被せることにより,加熱容器3内は気密状態となって盃5中の酒類と収容熱湯とは温度漏れの少ない気密雰囲気の中で盃5を介して熱交換が行われること。

したがって,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「盃5と,この盃5と熱湯とを収容可能な内部空間サイズを保有し,かつ,合成樹脂により作製された容器であって,卓上に設置自在な糸底の加熱容器3と,この加熱容器3の上部口縁に気密を保って嵌合わせ可能であって,加熱容器3と同材料で作製された蓋8とから成り,
所定温度の熱湯,および酒類を入れた盃5を前記加熱容器3の中に収容して当該加熱容器3の口縁に蓋8を被せることにより,収容熱湯によって当該加熱容器3内は気密状態となって盃5の中の酒類と収容熱湯とは温度漏れの少ない気密雰囲気の中で当該盃5を介して熱交換し,盃5内の酒類が所望の燗温度にまで適時昇温して御燗されると共に,これら酒類を入れた盃5と前記収容熱湯と,当該加熱容器3の口縁に被せた被せ蓋3とを,加熱容器3に形成した保持部2により燗付けの保温状態のまま安全に持ち運べる酒燗器。」

4. 対比
本願発明と引用発明とを対比すると,その文言上の意義,構造及び機能等からみて,引用発明における「容器」は,本願発明の「器体」に相当し,以下同様に,「加熱容器3」は「湯煎封熱容器2」に,「蓋8」は「被せ蓋3」に,「酒燗器」は「卓上酒燗器」に,「所定温度」は「所要温度」に,「入れた」は「充填した」にそれぞれ相当する。
また,引用発明の「盃5」は,本願発明の「酒差器1」とは,酒類収容容器である限りにおいて一致する。
したがって,両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

〈一致点〉
「酒類収容容器と,この酒類収容容器と熱湯とを収容可能な内部空間サイズを保有する器体であって,卓上に設置自在な湯煎封熱容器と,この湯煎封熱容器の上部口縁に気密を保って嵌合わせ可能であって,湯煎封熱容器と同材料で作製された被せ蓋とから成り,
所要温度の熱湯,および酒類を充填した酒類収容容器を前記湯煎封熱容器の中に収容して当該湯煎容器の口縁に被せ蓋を被せることにより,収容熱湯によって当該湯煎封熱容器内は気密状態となって酒類収容容器の中の酒類と収容熱湯とは温度漏れの少ない気密雰囲気の中で当該酒類収容容器の器壁を介して熱交換し,酒類収容容器内の酒類が所望の燗温度にまで適時昇温して御燗されると共に,これら酒類を充填した酒類収容容器と前記収容熱湯と,当該封熱容器の口縁に被せた被せ蓋とを,燗付けの保温状態のまゝ安全に持ち運べる卓上酒燗器。」
〈相違点1〉
御燗対象である酒類収容容器が,本願発明においては「断熱材を巻き付けて形成した摘み材11を備え,かつ,それ自身は伝熱性の良好な素材で成形された銚子・燗瓶のごとき酒差器1」であるのに対して,引用発明においては盃である点。
〈相違点2〉
器体の材料が,本願発明においては,伝熱性の低い保温性材料で作製されているため,酒燗器を燗付けの保温状態のまゝ安全に持ち運べるのに対して,引用発明においては,合成樹脂で作製されており,加熱容器3に形成した保持部2により酒燗器を燗付けの保温状態のまゝ安全に持ち運べる点。
〈相違点3〉
熱湯を収容する容器本体の底部形状が,本願発明においては平底であるのに対して,引用発明においては糸底である点。
〈相違点4〉
酒燗器の蓋体に関して,本願発明においては,「天地逆さにして平坦な天板面を卓上に置き,かつ,前記湯煎容器2の湯中で燗されて外周面が濡れた状態の酒差器1を起立させることによって当該酒差器の外周面から滴り落ちる水滴の受袴として兼用可能」であるのに対して,引用発明においては,蓋が受袴として兼用可能ではない点。
〈相違点5〉
酒差器の酒量に最適な熱湯の水位を表示するために,本願発明においては,湯煎封熱容器の内面に「酒差器1の酒量を上燗又は熱燗に3.5?5分ほどの時間内に昇温させるに最適の熱湯量の水位を表示するための水位ライン23・24・25の中の少なくとも1つ」を水平に引いたのに対して,引用発明においては,水位ラインについては不明である点。

5. 相違点についての検討及び判断
〈相違点1〉について
昇温された容器を把持するために,熱伝導率が低い紐状体を容器に巻回することは従来周知(実願平1-9762号(実開平2-100577号)のマイクロフィルムの第1図,第3図,第4図を参照)である。
また,酒燗器において,酒類を入れた銚子・燗瓶のごとき酒差器を熱湯で昇温して御燗することは従来周知(実用新案登録第3026254号の図2,実用新案登録第3026253号の図2及び図4,実願平4-56676号(実開平6-17641号)のCD-ROMの図2及び図10を参照)である。
そして,一般にお燗を行う際は,酒差器を効率的に昇温することが望まれるから,お燗に用いる銚子・燗瓶のごとき酒差器を伝熱性の良好な素材で成形することに格別な困難性を認めることはできない。
したがって,御燗対象である酒類を入れた容器として,引用発明の盃に替えて,「断熱材を巻き付けて形成した摘み材を備え,かつ,それ自身は伝熱性の良好な素材で成形された銚子・燗瓶のごとき酒差器」を採用することは,当業者であれば容易に想到し得たことである。

〈相違点2〉について
熱湯を収納する容器自体を伝熱性の低い保温性材料により作製して容器を把持したときの安全性を高めることは,従来より周知の技術(特開2000-271011号公報の段落【0028】,特開平6-32379号公報の段落【0002】,特開2000-168853号公報の段落【0002】を参照)である。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用して,本願発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。

〈相違点3〉について
容器底部の形状を「平底」とすることは例を挙げるまでもなく従来より周知な技術である。
したがって,引用発明の底部に上記周知技術を適用して,本願発明の相違点3に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。

〈相違点4〉について
液体収納容器の蓋において,卓上を濡らさないように蓋を逆さに置くことで液体の受け皿として利用可能となるものは従来周知(実願昭53-147622号(実開昭55-63915号)のマイクロフィルムの図4,実願昭55-190982号(実開昭57-114656号)のマイクロフィルムの図2,実願昭55-191520号(実開昭57-114657号)のマイクロフィルムの第2図等を参照)である。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用して,本願発明の相違点4に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。

〈相違点5〉について
液体を収納する容器において,液量を示すラインを容器壁面に形成することは,従来周知(実公昭43-23576号公報の第2?4図,特開2002-166943号公報の図1,2を参照)である。
また,容器内に収納する熱湯の量によりお燗に要する時間を調整できることは技術常識であり,お燗に要する時間をどの程度に設定するか,すなわち容器内の熱湯の量を示す水位ラインをどのように形成するかは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用して,本願発明の相違点5に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。

6. むすび
本願発明を全体構成でみても引用発明及び周知技術に記載された技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって,本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明を検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものとせざるを得ない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-01 
結審通知日 2010-09-02 
審決日 2010-09-27 
出願番号 特願2004-143700(P2004-143700)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 遠藤 秀明
豊原 邦雄
発明の名称 卓上酒燗器  
代理人 戸川 公二  

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