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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L |
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管理番号 | 1227026 |
審判番号 | 不服2009-6124 |
総通号数 | 133 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-03-19 |
確定日 | 2010-11-11 |
事件の表示 | 平成11年特許願第124921号「絞り要素を有する配管系および同配管系の製作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月14日出願公開、特開2000-314484〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年4月30日の出願であって、平成21年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1、2に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成19年7月17日付け手続補正、及び平成20年4月7日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 絞り要素を有する配管系において、前記絞り要素を閉止端とし、かつ配管出口を開放端として算出した液柱振動の1次振動数よりも配管構造系の固有振動数を高くしたことを特徴とする配管系。 【請求項2】 絞り要素を有する配管系の製作方法であって、前記絞り要素を閉止端とし、かつ配管出口を開放端として液柱振動数を算出し、得られた液柱振動の1次振動数よりも配管構造系の固有振動数を高く設計することを特徴とする配管系の製作方法。」 3.本願発明1について (1)本願発明1 本願発明1は、上記2.のとおりである。 (2)引用例 (2-1)引用例1 塩山勉、川端基夫、古川真一:「流量調整弁のキャビテーションによる配管振動」 日本機会学会第76期全国大会講演論文集(IV) 230-231ページ 1998年10月(以下、「引用例1」という。)には下記の事項が図面とともに記載されている。なお、全角半角等の文字の大きさ、促音、拗音、句読点は記載内容を損なわない限りで適宜表記した。 (あ)「はじめに 発電プラントの冷却水配管系において流量調整弁を用いて流量を制御する際に、流量調整弁でキャビテーションが発生する特定の弁開度・流量条件において、調整弁下流の配管振動を経験することがある。この現象は調整弁下流の配管内液柱振動のモードと配管構造物の固有振動モードとが共振して配管振動が発生したものと推定し、プラントの運転状況から流量調整弁でのキャビテーションが脈動源と考えた。液柱振動と配管構造系との共振現象は、ポンプ脈動やボペット弁など圧力制御弁を脈動源にしたケースは知られているが、ケージ・プラグ弁のような流量調整弁については、キャビテーションによる弁自体の振動を分析した研究は多いものの、下流配管の液柱振動を刺激する脈動源としての研究は少ない。ここでは、80Aの流量調整弁を用いて実験を行い、キャビテーション発生領域内で弁下流の配管内圧カ変動(液柱振動)を刺激する条件について検討する。 実験装置 供試弁は、図1に示すように、上部多孔ケージ(内径80mm)、プラグ(外径63mm)、下部多孔ケージ(内径66mm)の3つの絞り部からなる流量調整弁で、弁の開度に応じてブラグが30mm上下し、上ケージとプラグ部の流路面積が変化する。供試弁の構成及びプラグのシート面形状は実弁と相似(1/3.5)であるが、圧力計測用の小孔を数カ所設けており、歪ゲージ式圧力変換器を直接取り付けて各部の圧力変動を計測する。(図中の(1)?(7)) この供試弁を図2に示すように前後を3Bの配管で接続し、外部のポンプを用いて地下のピットから水を循環させるループに組み込んで試験を行う。供試弁から下流のピットまでの配管長は約15mである。したがって、供試弁から下流の配管の液柱振動周波数(1次)は供試弁を圧力脈動の腹とするモードで概算13Hz〔 音速800m/秒)となる。」(230ページ左欄。なお、(1)(7)は原文では丸囲い数字である。) (い)「検討 …弁下流の配管内圧力変動が励起される条件は、この流量閉塞の下で発生している。…弁出口での圧力変動とキャビテーション領域の変動による圧損(流量閉塞)とが連成し、プラグ部が脈動源となって下流配管での液柱振動を励起する。…」(231ページ左欄) (う)「おわりに 流量調整弁で発生するキャビテーションが弁下流の圧力脈動を励起し、配管振動の原因となることを実験で確認した。また、そのメカニズムが弁でのキャビテーションによる流量閉塞と弁下流の液柱振動とのカップリングによるものと推定した。」(231ページ左欄) 以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「流量調整弁を有する発電プラントの冷却水配管系であって、流量調整弁下流の配管内液柱振動のモードと配管構造物の固有振動モードとが共振して配管振動が発生し得る冷却水配管系。」 (3)対比 本願発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「流量調整弁」は前者の「絞り要素」に相当し、本願発明1に用語に倣って整理すると、両者は、 「絞り要素を有する配管系。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明1は、「前記絞り要素を閉止端とし、かつ配管出口を開放端として算出した液柱振動の1次振動数よりも配管構造系の固有振動数を高くした」という事項を具備するのに対して、引用例1発明は、そのような事項を具備していない点。 (4)判断 [相違点1]について 引用例1発明の「流量調整弁を有する発電プラントの冷却水配管系」においても、共振による配管振動を抑制・低減することが望ましいことはいうまでもない。 上記に摘記したとおり、引用例1には、「はじめに」の欄に「発電プラントの冷却水配管系において流量調整弁を用いて流量を制御する際に、…調整弁下流の配管振動を経験することがある。この現象は調整弁下流の配管内液柱振動モードと配管構造物の固有振動モードとが共振して配管振動が発生したものと推定し、」と記載されており、この記載に接した当業者であれば、調整弁下流の配管内液柱振動モードと配管構造物の固有振動モードとの共振を避けるために、配管内液柱1次振動数と配管構造物の固有振動数とをずらすという手段を取り得ることは、容易に想起し得たものと認められる。その場合に、配管構造物の固有振動数を配管内液柱1次振動数より高くするか、逆に、配管構造物の固有振動数を配管内液柱1次振動数より低くするかが考えられるが、いずれにするかは、配管系の所要の形状・構造、製造の作業性等を考慮しつつ、理論的ないし実験的な検討に基づいて適宜設計する事項にすぎない。 引用例1にはまた、「実検装置」の欄に「供試弁から下流ピットまでの配管長は約15mである。したがって、供試弁から下流の配管の液柱振動周波数(1次)は供試弁を圧力脈動の腹とするモードで概算13Hz(音速800m/秒)となる。」と記載されており、液柱1次振動数を算出する一例が示されている。このような液柱1次振動数の算出にあたってどのようにモデルを採用するかは、配管系の形状・構造、想定されるその用途・使用状況、振動数の算出精度等に応じて適宜設計する事項にすぎない。そして、本願明細書及び図面には、「前記絞り要素を閉止端とし、かつ配管出口を開放端」というモデルを選択して「液柱振動の1次振動数」を算出するようにしたことの技術的意義が特に示されておらず、かつ、そのようにしたことに当業者が想定し得ないような格別の技術的意義があるとは認められないことを勘案すると、「前記絞り要素を閉止端とし、かつ配管出口を開放端」として「液柱振動の1次振動数」を算出することは、上記のように、配管系の形状・構造等に応じて当業者が適宜なし得たものと認められる。 そして、本願発明1の作用効果は、引用例1に記載された発明から当業者が予測できる程度のものである。 以上の点に関して、請求人は審判請求の理由において、 「(2-2)確かに、引用文献1には、液柱振動と配管の固有振動とが共振する技術については記載されているものの、物理的な状況が近い絞り要素を閉止端としかつ配管出口を開放端として液柱振動を解析する技術については何ら記載されていない点で本願請求項1に係る発明と相違する。 引用文献1に係る実際の配管においては、絞り要素である弁が開いており流体が流れているので、開放状態にある弁を振動モデル化して液柱振動の1次振動数を導出することが考えられる。 (2-3)上述のように、引用文献1に係る配管においては、絞り要素である弁が開いているので、解析上の境界条件を現実の境界条件をそのまま適用することになる。 このために、引用文献1に係る配管によれば、物理的な状況が近い絞り要素を閉止端としかつ配管出口を開放端として液柱振動を算出することは困難である。」(ここでの引用文献1は本審決の引用例1である。)と主張する。 しかし、このような液柱1次振動数の算出にあたってどのようなモデルを採用するかは、配管系の形状・構造、想定されるその用途・使用状況、振動数の算出精度等に応じて適宜設計する事項にすぎないことは、上述したとおりである。 これに関して補足すると、(a)請求人は「引用文献1に係る実際の配管においては、絞り要素である弁が開いており流体が流れている」と主張するが、「弁が開いている」といっても、弁の開度は様々であって、本願明細書の【0003】に記載されているように、通常はむしろ小流量である。(b)引用例1には、上記(い)に摘記したように、「弁出口での圧力変動とキャビテーション領域の変動による圧損(流量閉塞)」と「下流配管での液柱振動」との関連について記載がある。(c)引用例1発明の「冷却水配管系」においても、その配管出口が「閉止端」というより「開放端」と想定する方が実際の状況に近いことは明らかである。 (5)むすび したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.結語 以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明2について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-09-13 |
結審通知日 | 2010-09-14 |
審決日 | 2010-09-27 |
出願番号 | 特願平11-124921 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 和田 雄二 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
大山 健 川上 溢喜 |
発明の名称 | 絞り要素を有する配管系および同配管系の製作方法 |
代理人 | 堀口 浩 |