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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1227042
審判番号 不服2007-12473  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-01 
確定日 2010-11-10 
事件の表示 特願2002- 58322「インクジェットインク組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月22日出願公開、特開2002-332443〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年3月5日(優先権主張、2001年3月5日、米国(US))の出願であって、平成16年5月19日に手続補正書が提出され、平成18年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年12月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年1月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月1日に審判請求がなされるとともに、手続補正書が提出され、その後、平成21年9月8日付けで審尋がされ、平成22年3月10日に回答書が提出されたものであって、その発明は、平成19年5月1日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「0.01?50重量%の有機共溶媒と、
0?40重量%の界面活性剤と、
3?12重量%の混合有機酸と、
0.5?10重量%の染料と、
を含んで成る水性インクジェットインク組成物であって、
前記混合有機酸が、組成物の重量をベースとして、
2?8重量%のコハク酸と、
グルタル酸と、
から成る、水性インクジェットインク組成物。」

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の優先権主張日前に頒布された下記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


刊行物1:特開2000-109737号公報(以下、「刊行物1」という。)

3.刊行物1の記載事項
刊行物1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「本明細書に記述された発明は、Palo Alto,Californiaのヒューレット・パッカード社製DESKJET(登録商標)プリンタのような、市販インクジェットプリンタを使ってインクジェット画像を印刷するための染料セットを対象とする。該染料セットによって、媒体の有効範囲上に、優れた耐光性を有する高品質カラー画像を生成するインクジェットカラープリンタが可能となる。さらに、同染料セットは、その性能を広いpH範囲にわたって、特に低pHで維持するものである。この広いpH範囲にわたる機能性によって、pH-感応ブリード制御メカニズムを使用することが可能となる。本発明のインクジェットインクの組成は、標的インク(pH-感応性インクにおいてpH-感応性着色剤の沈殿物を生ずるべく適当なpHを有するインク)に使用する時、水溶性酸、好ましくは、問題としているpH-感応性着色剤のそれに等しいか又はそれ未満のpKaを有する有機酸を含有する。」(段落【0015】)
(1-2)「本発明の水性インクは、重量で(全インク組成のパーセントとして表示)、着色剤約0.1?約7wt%;有機酸約0.1?約20wt%;pH-調節成分約0.1?約20wt%;アルコール約3?約20wt%の;2-ピロリドン約3?約9wt%;グリコールエーテル約5wt%以下;界面活性剤、殺生物剤、及び金属キレート化剤から成る群から独立に選択される少なくとも1つの成分約4wt%以下;及び残余水から成る。」(段落【0016】)
(1-3)「〔酸〕pH-感応ブリード制御メカニズムの使用が望まれる時、そのpH-感応ブリード制御メカニズムが効力を発揮するのに十分な濃度で酸をインクに用いてよい。好ましくは、その酸は、インク中で約0.1?20wt%の範囲の濃度を有する有機酸である。好ましくは、その有機酸の濃度は、約0.5?約8wt%の、そして最も好ましくは約1?約8wt%の範囲にある。」(段落【0029】)
(1-4)「本発明のインクジェットインク組成に適切に用いられる有機酸は、限定するものではないが、単官能性、二官能性、及び多官能性有機酸のような化合物の何れか、又は2つ以上の混合物を含む。一般に、問題としているpH-感応性着色剤のそれに等しいか又はそれ未満のpKaを有する任意の可溶性有機酸は、適切に使用できることが予想される。好ましくは、次の有機酸類の1つを用いる:ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、及びオルト-リン酸及びそれらの誘導体類。有機酸成分は、適当な有機酸の混合物から成ってもよい。用いられる特定の酸は、特定のインク配合物によって決まる。グリコール酸、コハク酸、及びクエン酸は概して好ましいが、その他の有機酸の何れも本発明の実施に適切に用いることができる。」(段落【0030】)
(1-5)「〔pH-調整成分〕インクのpHは、pH-調整成分を使って所望のpHに調整することができる。pH-調整成分は、無機又は有機の塩基、又は塩基性官能基を含む有機酸であってよい(本発明の譲受人に譲渡されたLoomanによる1996年10月30日付けの米国出願08/741073参照)。pH-調整成分は、好ましくは、アルカリ水酸化物類、水酸化第四アンモニウム類、アミノ酸類、及びアミン類から成る群から選択される。最も好ましくは、pH-調整成分は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)、β-アラニン、4-アミノ酪酸、及びエタノールアミン類から成る群から選択される。」(段落【0031】)
(1-6)「〔媒質〕本発明のインクの媒質は、各着色剤と相容性であるような、商業上の実施において見られる成分を含む。媒質は、好ましくは、有機酸成分及びpH-調整成分に加えて、(全インク組成のパーセントで表して)約3?約20wt%のアルコールと、約3?約9wt%の2-ピロリドンと、約5wt%未満のグリコールエーテルを含む。」(段落【0033】)
(1-7)「【実施例】媒質が、表1に示されるような、下記のwt%での組成から成る場合のインクを製造した。インクのpHは、TMAOH又はNaOHを使って所望のレベルに調整した。」(段落【0042】)
(1-8)表1には、インクについて、成分の欄に1,5-ペンタンジオール、EHPD、クエン酸、Tergitol 15-S-7界面活性剤、水及びpHとあり、低pH媒質の欄には、それぞれの成分に対応して8%、7.5%、5%、1%、残余及び4と記載されている。(段落【0043】)

4.当審の判断
4.1 刊行物1に記載された発明
刊行物1の「本発明のインクジェットインクの組成は、標的インク(pH-感応性インクにおいてpH-感応性着色剤の沈殿物を生ずるべく適当なpHを有するインク)に使用する時、水溶性酸、好ましくは、問題としているpH-感応性着色剤のそれに等しいか又はそれ未満のpKaを有する有機酸を含有する。」(摘示(1-1))及び「本発明の水性インクは、重量で(全インク組成のパーセントとして表示)、着色剤約0.1?約7wt%;有機酸約0.1?約20wt%;pH-調節成分約0.1?約20wt%;アルコール約3?約20wt%の;2-ピロリドン約3?約9wt%;グリコールエーテル約5wt%以下;界面活性剤、殺生物剤、及び金属キレート化剤から成る群から独立に選択される少なくとも1つの成分約4wt%以下;及び残余水から成る。」(摘示(1-2))からみて、刊行物1には
「重量で(全インク組成のパーセントとして表示)、着色剤約0.1?約7wt%;有機酸約0.1?約20wt%;pH-調節成分約0.1?約20wt%;アルコール約3?約20wt%の;2-ピロリドン約3?約9wt%;グリコールエーテル約5wt%以下;界面活性剤、殺生物剤、及び金属キレート化剤から成る群から独立に選択される少なくとも1つの成分約4wt%以下;及び残余水から成る、水性インクジェットインク組成物。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

4.2 本願発明と引用発明の対比
引用発明の「着色剤」は、摘示(1-1)の「本明細書に記述された発明は、Palo Alto,Californiaのヒューレット・パッカード社製DESKJET(登録商標)プリンタのような、市販インクジェットプリンタを使ってインクジェット画像を印刷するための染料セットを対象とする。」の記載からみて、「染料」であり、引用発明の「アルコール」、「2-ピロリドン」及び「グリコールエーテル」は、摘示(1-6)からみて、「媒質」であって、本願発明における「有機共溶媒」に相当し、合計で「約6?34wt%」存在し、界面活性剤は、任意成分であるので、「0?4wt%」存在することになるから、本願発明と引用発明は、
「6?34重量%の有機共溶媒と0?4重量%の界面活性剤と有機酸と染料とを含んで成る水性インクジェットインク組成物」
の点で一致し、次の点で相違する。
(1)有機酸が、本願発明においては、コハク酸とグルタル酸とから成る混合有機酸であるのに対し、引用発明においては、有機酸の種類が特定されていない点(以下、「相違点(1)」という。)
(2)本願発明においては、混合有機酸の量が3?12重量%と特定されているのに、引用発明においては、有機酸の量が約0.1?約20重量%と特定されている点(以下、「相違点(2)」という。)
(3)本願発明においては、コハク酸の量が2?8重量%であると特定されているのに対して、引用発明においては、コハク酸の量は特定されていない点(以下、「相違点(3)」という。)
(4)本願発明においては、染料の量が0.5?10重量%と特定されているのに、引用発明においては、着色剤の量が約0.1?約7重量%と特定されている点(以下、「相違点(4)」という。)

4.3 相違点についての判断
(1)相違点(1)について
刊行物1には、有機酸が、インクジェット印刷インクのpH-感応ブリード制御メカニズムにおいて効力を発揮するものであること(摘示(1-1)、(1-3)及び(1-4))は記載されているが、有機酸がコハク酸とグルタル酸との混合有機酸であることは記載されていない。しかしながら、摘示(1-4)には、「有機酸は、限定するものではないが、単官能性、二官能性、及び多官能性有機酸のような化合物の何れか、又は2つ以上の混合物を含む。」こと、及び「好ましくは、次の有機酸類の1つを用いる:ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、及びオルト-リン酸及びそれらの誘導体類。有機酸成分は、適当な有機酸の混合物から成ってもよい。」及び「グリコール酸、コハク酸、及びクエン酸は概して好ましいが、その他の有機酸の何れも本発明の実施に適切に用いることができる。」が記載されており、有機酸の混合物が用いられること、コハク酸が概して好ましいことが記載されていることから、有機酸として、概して好ましい有機酸として特に例示されているコハク酸と、他の好ましい有機酸として例示されており、コハク酸とはメチレン基の数が1個多いだけで構造が類似するグルタル酸との混合物を用いてみることは当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明においては、カラーブリードについて、段落【0022】に「コハク酸とグルタル酸の混合物を含んでいるインクは、コハク酸又はグルタル酸のみを含んでいるインクと同様に、良好に作用することを示している。」と記載しているように、特にコハク酸とグルタル酸の混合物を選択したことにより格別顕著な効果を奏し得たものとも認められない。
また、請求人は、回答書において、「コハク酸とグルタル酸との組み合わせを用いることで、優れたカラーブリード抑制効果を奏するのみならず、最小限の毒性及びコストの水性インクジェットインク組成物を実現するに至った」旨主張する。
しかしながら、コハク酸自体が、二枚貝や清酒中に含まれるものであり、そのナトリウム塩はうま味調味料として用いられるものであるから(必要ならば、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典3縮刷版」(共立出版株式会社、1993年6月1日、縮刷版第34刷、673頁?674頁参照))、コハク酸は一般的に毒性のあるものと認識されるものではなく、コハク酸にグルタル酸を混合することにより格別顕著な効果を奏し得たものとも認められず、また、商業上コストが少なくなるように原料を選択することは当業者が当然行うことであるので、この点についても格別顕著な効果を奏するとは認められない。
さらに、請求人は、審判請求理由において、コハク酸とグルタル酸との組み合わせを用いることでブリードを抑制するのに要求される隣接インク(pH感応性着色剤を含有するインク)とのpH差を低減させることができ、低pHのインクに関連したペン腐食性の問題も合わせて解決することができた旨主張している。
しかしながら、引用発明においても、摘示(1-1)、(1-3)及び(1-4)にあるように、標的インク(pH-感応性インクにおいてpH-感応性着色剤の沈殿物を生ずるべく適当なpHを有するインク)に使用する時有機酸を用いることにより、カラーブリードを制御するものであるから、カラーブリードの抑制という目的及び効果は異なるものでない。そして、本願明細書には、段落【0021】表1に、強塩基、即ちNaOH,KOH等を添加してpH4に調整した有機酸を含む3種のインクが記載されており、その内のグルタル酸とコハク酸とを含むインクが、本願発明に相当するものであることから、本願発明においてはインクのpHが4程度であれば、ペン腐食性の問題が解決されるものと解されるところ、引用発明には、その実施例として、摘示(1-8)の表1にTMAOH(摘示(1-7)からみて、水酸化テトラメチルアンモニウム)又はNaOHを用いてpHを4に調整した酸を含む低pH媒質が例示されており、引用発明においてもpH4程度の媒質が用いられるのであるから、引用発明においても低pHのインクに関連したペン腐食性の問題も解決されているものと解され、この点においても本願発明が格別顕著な効果を奏し得たものとも認められない。

(2)相違点(2)について
本願発明においては、混合有機酸の量が3?12重量%であると特定しているが、刊行物1には、インク中で有機酸の濃度は約0.1?20wt%で、最も好ましくは約1?約8wt%の範囲であることが記載されており(摘示(1-3))、有機酸の最も好ましい範囲に近い3?8重量%としてみることは当業者が適宜なし得ることであり、また、本願発明においては、混合有機酸の量を3?12重量%に限定したことにより、格別顕著な効果を奏し得たものとも認められない。

(3)相違点(3)について
本願発明においては、混合有機酸のうちのコハク酸の量がインク組成物の2?8重量%であると特定しているが、刊行物1には、インク中で有機酸の濃度は約0.1?20wt%で、最も好ましくは約1?約8wt%の範囲であることが記載されており(摘示(1-3))、コハク酸を混合物として用いる際にも、有機酸の最も好ましい範囲に近い2?8重量%としてみることは当業者が適宜なし得ることであり、また、本願発明においては、2?8重量%に限定したことにより、格別顕著な効果を奏し得たものとも認められない。

(4)相違点(4)について
本願発明においては、染料の量を0.5?10重量%であると特定しているが、刊行物1には、インク中の着色剤は約0.1?約7重量%であることが記載されており(摘示(1-2))、引用発明の「着色剤」は「染料」であることからみて(摘示(1-1))、引用発明において、着色剤として染料の量を許容量に近い0.5?7重量%とすることは当業者が適宜なし得ることであり、また、本願発明においては、0.5?10重量%に限定したことにより、格別顕著な効果を奏し得たものとも認められない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-09 
結審通知日 2010-06-15 
審決日 2010-06-29 
出願番号 特願2002-58322(P2002-58322)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
細井 龍史
発明の名称 インクジェットインク組成物  
代理人 古谷 聡  
代理人 溝部 孝彦  

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