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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1227092
審判番号 不服2009-21827  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-10 
確定日 2010-11-11 
事件の表示 特願2006- 50106「定着装置およびそれを備えた画像形成装置、並びに画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-226125〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年2月27日の出願であって、平成20年4月10日付けで通知した拒絶の理由に対して、同年6月11日付けで手続補正書が提出されたが、平成21年8月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月10日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、当審における審尋に対する回答書が平成22年3月18日付けで提出されたものである。


第2 平成21年11月10日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年11月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)
「【請求項1】
搬送されるシートが外周面に圧接される定着部材と、
上記定着部材の外周面に沿って上記搬送されるシートの幅方向に関して細長く配置された、上記定着部材の発熱層を誘導加熱するための励磁コイルと、
上記励磁コイルに或る駆動周波数の電圧を印加することで上記励磁コイルを介して上記定着部材の発熱層を発熱させる高周波電源回路と、
上記定着部材の外周面のうちの上記シートの幅方向に関して一部に対応する小サイズシート非通過領域に、上記励磁コイルに沿って配置された消磁コイルと、
上記搬送されるシートのサイズに応じて上記消磁コイルを開閉する切換スイッチと、
上記定着部材を発熱させる設定電力量および上記消磁コイルの開、閉に応じて、それぞれ設定すべき上記駆動周波数の値を予め記載した駆動周波数テーブルと、
上記消磁コイルの開閉に伴って、上記駆動周波数テーブルを参照して上記高周波電源回路の駆動周波数を切り換えて設定する制御部とを備えたことを特徴とする定着装置。」

(補正後)
「【請求項1】
搬送されるシートが外周面に圧接される定着部材と、
上記定着部材の外周面に沿って上記搬送されるシートの幅方向に関して細長く配置された、上記定着部材の発熱層を誘導加熱するための励磁コイルと、
上記励磁コイルに或る駆動周波数の電圧を印加することで上記励磁コイルを介して上記定着部材の発熱層を発熱させる高周波電源回路とを備え、
上記高周波電源回路は、上記励磁コイルに直列接続されて等価的に直列共振回路を構成するコンデンサを含み、上記直列共振回路を電流共振させる回路であり、
上記定着部材の外周面のうちの上記シートの幅方向に関して一部に対応する小サイズシート非通過領域に、上記励磁コイルに沿って配置された消磁コイルと、
上記搬送されるシートのサイズに応じて上記消磁コイルを開閉する切換スイッチと、
上記定着部材を発熱させる設定電力量毎に、上記消磁コイルの開、閉に伴って上記直列共振回路の共振波形がシフトするのに応じて、それぞれ設定すべき上記駆動周波数の値を予め記載した駆動周波数テーブルと、
上記消磁コイルの開閉に伴って、上記駆動周波数テーブルを参照して上記高周波電源回路の駆動周波数を切り換えて設定する制御部とを備えたことを特徴とする定着装置。」

この補正事項は、補正前の「高周波電源回路」を、「上記励磁コイルに直列接続されて等価的に直列共振回路を構成するコンデンサを含み、上記直列共振回路を電流共振させる回路」であることに限定するとともに、
補正前の「上記定着部材を発熱させる設定電力量および上記消磁コイルの開、閉に応じて、それぞれ設定すべき上記駆動周波数の値を予め記載した駆動周波数テーブル」との記載を、「上記定着部材を発熱させる設定電力量毎に、上記消磁コイルの開、閉に伴って上記直列共振回路の共振波形がシフトするのに応じて、それぞれ設定すべき上記駆動周波数の値を予め記載した駆動周波数テーブル」と変更し、駆動周波数テーブルの内容を明りょうにするものといえる。

また、請求項1で「高周波電源回路」が限定されたことに伴い、同様の限定を規定していた、補正前の請求項4は削除され、請求項5?14はそれぞれ請求項4?13に繰り上げられた。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、同項第2号の特許請求の範囲の減縮、同項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。


2.引用刊行物の記載事項
原査定の理由に引用された、本願の出願前に頒布された、
特開2003-297542号公報(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)、
特開2001-60490号公報(原査定の引用文献2。以下、「刊行物2」という。)、
特開2005-141952号公報(原査定の引用文献3。以下、「刊行物3」という。)、
特開2005-100699号公報(原査定の引用文献4。以下、「刊行物4」という。)
には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)刊行物1
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱ローラに内蔵し軸線方向に配設した複数の誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルと共振をおこさせる複数の共振コンデンサと、前記誘導加熱コイルに交流電力を供給する電力スイッチング素子とを有する共振型誘導加熱装置において、被加熱体の加熱条件を判断する加熱条件判断手段と、この加熱条件判断手段の出力により通電すべき誘導加熱コイルと共振コンデンサを選択する加熱コイル選択手段と、前記選択された誘導加熱コイルと共振コンデンサに通電する通電手段とを備えたことを特徴とする共振型誘導加熱装置
【請求項2】 請求項1記載の共振型誘導加熱装置において、加熱条件判断手段は、被加熱体のサイズ、種類又は加熱枚数の情報を用いて判断することを特徴とする共振型誘導加熱装置。
【請求項3】 請求項1記載の共振型誘導加熱装置において、加熱条件判断手段は、加熱ローラの発熱分布を決定することを特徴とする共振型誘導加熱装置。
【請求項4】 被加熱体上に形成されたトナー画像を、請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の共振型誘導加熱装置を適用して該被加熱体に加熱定着することを特徴とする定着装置。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加熱ローラに内蔵し軸線方向に配設した複数の誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルと共振をおこさせる複数の共振コンデンサと、前記誘導加熱コイルに交流電力を供給する電力スイッチング素子とを有する共振型誘導加熱装置、この共振型誘導加熱装置を適用してトナーなどの加熱溶融性粉体を被加熱体としての用紙に定着させる定着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電子写真方式における複写機/プリンタ等においては、印字媒体としての用紙(被加熱材)上に静電的に吸着させたトナーを、図2に示すような定着装置により用紙に熱と圧力により定着している。その定着装置の構造は、加熱ローラ501、加圧ローラ502が向かい合わせに配置されており、二つのローラ間を静電的にトナーを吸着させた用紙を通過させる。その際、トナーは加熱ローラ501より加熱され、また、加圧ローラ502と加熱ローラ501により加圧されて、用紙上に固定される。加熱ローラ501には、温度検出用のセンサTH1が取り付けてあり、加熱ローラ表面の温度を検出し、所望の温度になるように加熱装置を制御している。
【0003】複写機/プリンタ等に使われる加熱ローラ内の加熱装置としては各種の方法が考案されている。その熱源としてはハロゲンヒータを用いた例、誘導加熱ヒータを用いた例などがある。
・・・(中略)・・・
【0006】図3はゼロクロススイッチングを実現した一般的な誘導加熱装置の概略構成図を、図4はその装置の動作時における各部の電圧、電流波形を示す。図3において、100は複写機/プリンタの場合には加熱ローラ(加熱対象物)、200は誘導加熱電源である。L1は加熱ローラ100に誘導電流を誘起するための誘導加熱コイル、TH1は加熱ローラ100の温度を検出する温度センサである。
【0007】上記誘導加熱電源200は、交流電源1からの交流出力をダイオードD1?D4で構成された整流回路2、この整流回路2の出力端子に接続されたノイズフィルタNF1間に接続されたコンデンサC1、誘導加熱コイルL1と並列に接続されたコンデンサC2、誘導加熱コイルL1と直列に接続された電力スイッチング素子Q1(IGBTなどが用いられる)、この電力スイッチング素子Q1と並列に接続されたダイオードD5、温度センサTH1の検出出力を入力する温度検出回路7、この温度検出回路7の出力信号を入力して電力スイッチング素子Q1に対する制御信号を出力する共振制御回路IC1とで構成されている。また、共振制御回路IC1は三角波発生回路3、この三角波発生回路3の出力信号と温度検出回路7の出力信号とを比較する比較回路4とで構成されている。
【0008】以下、上記構成の誘導加熱装置の動作を説明する。
【0009】誘導加熱電源200に加熱指令信号が送られることで該誘導加熱電源の出力端子5、5に周波数20KHz?100KHz程度の高周波交流電力が発生する。この交流電力が誘導加熱コイルL1に印加され、誘導加熱コイルL1は交流磁界を発生する。
【0010】この時、誘導加熱コイルL1に印加する交流電力は、加熱ローラ100により変化するが、通常200?300Wから数KW程度である。上記誘導加熱コイルL1に印加された交流電力により発生した交流磁界が加熱ローラ100の中に渦電流を発生させる。その渦電流により加熱ローラ100内にジュール熱が発生する事で該加熱ローラが発熱する。この電磁誘導作用により加熱ローラが発熱し該加熱ローラの温度が上昇していく。
【0011】(略)
【0012】この時の各部の動作状態を図4を用いて説明する。時刻T1にて、電力スイッチング素子Q1がオンすると、この電力スイッチング素子Q1のドレイン電流が増加していく。時刻T2にてドレイン電流はIoに達し該時刻T2にて電力スイッチング素子Q1がオフすると、誘導加熱コイルL1から電力スイッチング素子Q1に流れていた電流はコンデンサC2に転流してL1、C2により共振現象がおきる。この時、電力スイッチング素子Q1のドレイン-ソース間電圧はL1,C2の共振動作により、図示のように正弦波の一部のような電圧波形になる。
【0013】時刻T2にて電力スイッチング素子Q1がオフする際には、電力スイッチング素子Q1のドレイン電圧はゼロボルトから、ゆっくりと上昇し、ドレイン電流との時間的重なりが発生しない。そのため、ドレイン電圧、ドレイン電流との積はゼロになり、電力スイッチング素子Q1のスイッチオフ損失は原理的に発生しない。
【0014】誘導加熱コイルL1、コンデンサC2の共振動作により、その後、時刻T3にて共振電流が反転して、ドレイン電圧が下降をはじめ、時刻T4にて電力スイッチング素子Q1のドレイン電圧がゼロになると、電力スイッチング素子Q1のドレインは、フライホイールダイオードD5にてゼロボルトにクランプされる。フライホイールダイオードD5に電流が流れている間、つまり、時刻T4?T5の間にて再び電力スイッチング素子Q1をオンすれば、ドレイン電圧ゼロにてスイッチオンすることになるので、スイッチオン損失は原理的にゼロとなる。
【0015】このように、誘導加熱コイルL1,コンデンサC2よりなる共振回路を用いることで、電力スイッチング素子Q1のスイッチング損失を小さく(原理的にはゼロ)することができる。また、上記共振スイッチングを行う場合、共振周波数は、誘導加熱コイルL1,コンデンサC2にて決定されるので、電力スイッチング素子Q1のスイッチングにおいて、電力スイッチング素子のQ1オフ時間は、ほぼ一定値となるので、誘導加熱コイルL1へ入力する電力の制御には、電力スイッチング素子Q1のオン時間を制御することで、実現している。」

図4は次のとおり。


(1c)「【0032】(実施例)図1は本発明の第1の実施例による共振型誘導加熱装置の概略構成図を示すもので、図1においてL1、L2、L3は、磁性体からなる加熱ローラ100に誘導電流を誘起する誘導加熱コイルであり、L1は、加熱ローラの中央部に配置されており、L2、L3は加熱ローラ100の端部に配置されている。
【0033】C2は誘導加熱コイルL1との共振要素としてのコンデンサ、C3は誘導加熱コイルL2、L3との共振要素としてのコンデンサである。SW1は加熱条件に応じてオン/オフされるスイッチで、このスイッチSW1がオフの場合には、L1、C2、電力スイッチング素子Q1による共振電流により加熱ローラ中央部に誘導電流を発生させ前述のように渦電流によるジュール熱を用いて加熱ローラ中央部を発熱させることができる。
【0034】スイッチSW1がオンの場合には、L2、L3、C3が、L1、C2と並列に接続される構成となる。同様に、L1、L2、L3、C2、C3、電力スイッチング素子Q1による共振電流により加熱ローラ中央部に加えて、加熱ローラ端部にも誘導電流を発生させ前述のように渦電流によるジュール熱をもちいて加熱ローラ中央部と端部を発熱させることができる。
【0035】ダイオードD1?D4、コンデンサC1は交流電力を整流し脈流に変換する整流回路であり、その脈流を電力スイッチング素子Q1のスイッチングに応じて前記誘導加熱コイルL1に通電する。スイッチSW1が導通状態においては、上記L1に加えて誘導加熱コイルL2、L3にも通電されることは言うまでもない。
【0036】前記電力スイッチング素子Q1にはそのスイッチング状態を制御する共振制御回路IC1が制御端子に接続され、前記電力スイッチング素子Q1がオフしたときの前記誘導加熱コイルからのフライホイール電流を整流するフライホイールダイオードD5が逆並列接続された電力変換回路であり、前記誘導加熱コイルに加熱電力を供給するための電源回路を構成している。
【0037】ここで、スイッチSW1は、コピー/プリント等のジョブ毎に(用紙サイズの切り替え毎に)切り替えれば充分であるためスイッチング速度の遅い素子(リレーも可)でも使える。7は測温素子TH1の検出信号を入力して加熱ローラ100の中央部の温度を測定する測定回路、8は用紙サイズ等の加熱条件入力を受ける加熱条件判断回路、9は共振条件切り替え回路である。
【0038】次に動作について説明する。
【0039】加熱条件(紙サイズ、紙種、枚数等)より共振条件を加熱ローラ中央部のみの発熱、加熱ローラ端部を含めた全体の発熱のどちらにすべきかを加熱条件判断回路8により判断して、共振条件切り替え回路9、スイッチSW1を用いて、誘導加熱コイルL2、L3、C3をL1、C2と並列接続したりしなかったりする。
【0040】そして、加熱条件判断回路8により、加熱装置端部での発熱を必要とするか、加熱装置中央部のみでの発熱が適切であるかを判断して、中央部での発熱のみが適切な場合には、スイッチSW1をオープンにして、誘導加熱コイルL2、L3、C3に通電させないようにすることで、加熱ローラ端部での発熱をやめる。また、加熱装置端部での発熱を必要とする場合には、スイッチSW1をクローズにして誘導加熱コイルL2、L3、C3に通電させるようにすることで、加熱ローラ中央部に加えて加熱ローラ端部での発熱を実現させる。なお、他の図3と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0041】いま、誘導加熱コイルL1、L2、L3を並列に接続すると、電力スイッチング素子Q1のオフ直前のドレイン電流Ioは大きくなり、共振インピーダンスZが小さくなり、共振周波数は大きくなる。
【0042】詳細に説明すると、(1)式を計算すればよいが、仮にL1=L2=L3とすると、
電力スイッチング素子Q1オフ直前のドレイン電流Ioは、約3倍
共振インピーダンスZは、√(1/3)倍
共振周波数ωは、√3倍
になり、結果として共振電圧p-p値√(Vin^2+Io^2*Z^2)は、
√(Vin^2+9*Io^2*1/3*Z^2)=√(Vin^2+3*Io^2*Z^2)
となり大きくなる。
【0043】上記計算より明らかなように(仮にL1=L2=L3とすると)、共振周波数が約1.7倍になり、共振電圧も大きくなるので、電力スイッチング素子Q1は高耐電圧且つ、ハイスピードな素子が必要になる。もちろん、ゼロクロススイッチングを行うために、電力スイッチング素子Q1のスイッチング周波数や該電力スイッチング素子のオフ時間(前述のようにL1,L2,L3により合成されたL、Cにより決定される)を適切に変更する必要があることは言うまでもない。
【0044】そこで、誘導加熱コイルL1、L2、L3を並列に接続する時には、共振コンデンサC2,C3も並列接続させて適切な共振コンデンサ容量を合成することで、共振周波数ω、共振電圧p-p値√(Vin^2+Io^2*Z^2)を適切な値にすることが望ましい。上記のように、L1=L2=L3の場合には、C3=2*C2を選択すれば、このとき
共振周波数ω=1/{√(L*C)}
=1/{√(1/3*L1*3*C2)}
=1/{√(L1*C2)}
共振インピーダンスZ=√(L/C)
=√{1/3*L1/(3*C2)}
=1/3*√(L/C)
共振電圧p-p値√(Vin^2+Io^2*Z^2)
=√(Vin^2+9*Io^2*1/9*Z^2)
=√(Vin^2+*Io^2*Z^2)
となり、L1、C2のみを接続した場合(加熱ローラの中央部のみを発熱させる場合)と同一周波数、同一共振電圧p-p値となり都合がよい。
【0045】加熱装置制御の特徴として、加熱動作を開始する前に選択された用紙の種類、サイズ等により実現したい発熱分布を決定できる。この事は、今後設定すべき発熱分布にあわせて最適な誘導加熱コイルを選択して、最適な共振コンデンサ条件を予め決定できることを意味している。
【0046】例えば、複写機においては、ユーザによりコピー枚数や用紙が設定されたのちにコピースタートキーが押される。ハガキなど紙幅の狭い用紙が選択された場合にはあらかじめ、加熱装置中央部分の誘導加熱コイルのみを選択接続して、そのコイルに最適な共振コンデンサを接続させれば良い。
【0047】また、A3サイズ用紙や、A4横向き用紙が選択された場合にはあらかじめ、加熱装置中央部分の誘導加熱コイルと端部の誘導加熱コイルの両方を選択接続して、その並列接続されたコイルに最適な共振コンデンサを接続させれば良い。
【0048】上記例では、3つの誘導加熱コイルL1,L2,L3と2つの共振コンデンサC2,C3を用いた例であるが誘導加熱コイルを4つ以上用いて、より細かく加熱ローラの発熱分布を制御する場合についても同様に考えれば良い。
【0049】上記実施例による共振型誘導加熱装置の加熱ローラ100を、図2に示す定着装置の加熱ローラ501として用いることにより、常に適切な定着処理を可能とする定着装置を得ることができる。」

(1d)図1は次のとおり。


これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「加熱ローラ100と、
磁性体からなる加熱ローラ100に誘導電流を誘起する、加熱ローラの中央部に配置された誘導加熱コイルL1、及び、加熱ローラ100の端部に配置された誘導加熱コイルL2,L3と、
電力スイッチング素子Q1により高周波交流電力を誘導加熱コイルL1,L2,L3に印加することで交流磁界を発生させ、加熱ローラ100内に渦電流によるジュール熱を発生させる、誘導加熱電源200と
を備え、
上記誘導加熱電源200は、用紙のサイズなどの加熱条件に応じてオン/オフされるスイッチSW1と、誘導加熱コイルL1との共振要素としてのコンデンサC2、誘導加熱コイルL2、L3との共振要素としてのコンデンサC3を含み、
ハガキなど紙幅の狭い用紙が選択されて、スイッチSW1がオフの場合には、誘導加熱コイルL1、コンデンサC2、電力スイッチング素子Q1による共振電流により加熱ローラ中央部に誘導電流を発生させ渦電流によるジュール熱を用いて加熱ローラ中央部を発熱させ、
A3サイズ用紙やA4横向き用紙が選択されて、スイッチSW1がオンの場合には、誘導加熱コイルL2,L3とコンデンサC3が、誘導加熱コイルL1とコンデンサC2と並列に接続される構成となり、誘導加熱コイルL1,L2,L3、コンデンサC2,C3、電力スイッチング素子Q1による共振電流により、加熱ローラ中央部に加えて、加熱ローラ端部にも誘導電流を発生させ渦電流によるジュール熱を用いて加熱ローラ中央部と端部を発熱させるもので、
スイッチSW1がオンにされて、誘導加熱コイルL1,L2,L3を並列に接続すると、電力スイッチング素子Q1のオフ直前のドレイン電流Ioは大きくなり、共振インピーダンスZが小さくなり、共振周波数は大きくなるので、ゼロクロススイッチングを行うために、電力スイッチング素子Q1のスイッチング周波数を適切に変更する、
定着装置。」

(2)刊行物2
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電磁(磁気)誘導加熱方式の加熱装置、および該加熱装置を画像定着等の像加熱装置として備えた画像形成装置に関する。」

(2b)「【0060】励磁コイル4は励磁回路40(図3)から供給される交番電流によって交番磁束Fを発生し、交番磁束Fは磁性コア5に導かれて定着フィルム6の後述する電磁誘導発熱層に渦電流を発生させる。その渦電流は電磁誘導発熱層の固有抵抗によってジュール熱を発生させる。即ち、励磁コイル4に交番電流を供給することで定着フィルム6が電磁誘導発熱状態になる。」

(2c)「【0087】e.キャンセルコイル7
図5はキャンセルコイル7のモデル図である。前述したように、磁束発生手段4・5の磁性コア5は長手に沿って3つに分割5a・5c・5bしてあり、両端側2つの分割磁性コア5aと5bにはそれぞれ該コア5a・5bを周回する小コイル7a及び7bを配設し、かつその2つの小コイル7a及び7bを電気導体を成す連結線7x及び7yで連結してキャンセルコイル7を構成させてある。
【0088】小コイル7a及び7bは絶縁被覆された電気良導体を励磁フィル4で発生する磁路の一部を周回するように配設したもので、連結線7x及び7yは小コイル7a及び7bに同じ周回方向に電流が流れるょぅにそれぞれのコイル端を結んで一つの電流路を構成し、これら7a・7b・7x・7yは全体としてキャンセルコイル7を構成する。
【0089】キャンセルコイル7の両端は画像加熱定着装置10外のスイッチング回路41に接続されて閉回路を構成する。スイッチング回路41は制御回路100により開閉制御される。」

(2d)「【0093】励磁コイル4で発生した磁束Fの多くが高透磁率部材である磁性コア5を通ることから、このように小コイル7a及び7bを配置することによつて非通紙部領域部D・Dにおける磁束の多くを周回する。
【0094】本例に用いたスイッチング回路41は可動接点を有するリレーであって、このリレーを開閉することによってキャンセルコイル7の両端を開閉する。
【0095】図6においてスイッチング回路41は簡単のため接点スイッチを使って代表させてあり、(a)はOFF状態(リレーを開いた状態)における加熱アセンブリ内の磁束の様子、(b)はON状態(リレーを閉じた状態)における加熱アセンブリ内の磁束の様子を模式的に示した。
【0096】制御回路100は装置に通紙する記録材Pが大サイズである場合にはスイッチング回路41をOFF状態に制御し、小サイズである場合にはON状態に制御する。
【0097】レンツの法則によれば、小コイル7a及び7b内を通る交番磁束により励磁コイル4が発生する磁束を打ち消す方向に小コイル7a及び7bに交番電圧が誘起される。本例では小コイル7a及び7bに同じ周回方向に電流が流れるように両コイル7a及び7bを連結してあり、キャンセルコイル7の両端には両小コイルに発生した誘起交番電圧の和が発生する。したがって、リレーを閉じた時には上記誘起交番電圧によりキャンセルコイル7に交番電流が流れ、小コイル7a及び7bを配した領域では定着フィルム6に作用する励磁コイル4の磁束が減じられる。キャンセルコイル線7による閉ループが磁束を減じる割合は、励磁コイル4と小コイル7a及び7bとの結合係数kに依存し、kは一般に、
【0098】
【式1】(略)
【0099】で表される。ここで、Φmは励磁コイル4と小コイル7a及び7b両方を貫く磁束、Φl1 は励磁コイル4の漏れ磁束、Φl2 は小コイル7a及び7bの漏れ磁束である。
【0100】本例においては小コイル7a及び7bを配した領域の磁性コア5a・5b内を通過する磁束がΦmに相当し、励磁コイル4と磁性コア5との空隙を通過する磁束がΦl1 及びΦl2 に相当する。
【0101】本例のように励磁コイル4と磁性コア5との空隙が大きい系では漏れ磁束Φl1 及びΦl2 が比較的大きく、したがって図6の(b)のようにキャンセルコイル7を閉じた場合にはΦm分が減磁されて加熱能力が低減されるとともに、漏れ磁束による定着フィルム6の加熱が行われ、小コイル7a及び7bを配しなかった領域(小ザイズ通紙領域C)における温度との滑らかな連続性をもって非通紙領域D・Dの温度が維持される。この作用はリレーを閉じたときでも定着フィルム6及び加圧ローラ2の長手温度分布に関して極端な温度差(非通紙部昇温)を発生することなく、熱膨張の差等による変形や破損を防止する効果がある。
【0102】一方、図6の(a)のようにリレーを開いた場合にはキャンセルコイル7に上記誘導電流は流れなくなるために励磁コイル4で発生した磁束が低下することなく全域に亘つて均一な昇温能力が得られる。
【0103】本例では、使用されている記録材Pのサイズに関して記憶装置101に記憶されている情報を利用して、制御回路100によりスイッチング回路41の上記リレーの開閉を行う制御をすることによって、小サイズ記録材通紙時の非通紙領域部D・Dにおける過昇温(非通紙部昇温)を低減することを可能にしている。」

(2e)図3は次のとおり。


(3)刊行物3
(3a)「【0001】
本発明は、誘導加熱装置およびそれを備える画像形成装置に関するものであり、より詳細には、誘導加熱装置における異常昇温を素早く検知することができる誘導加熱装置および該誘導加熱装置を備える画像形成装置に関するものである。」

(3b)「【0045】
図13(a)に、上記励磁回路60の、加熱コイル2に高周波電流を流すためのコイル電流発生部56を示す。コイル電流発生部56は、図13(a)に示すように、商用電源のAC成分をDC成分に変換する整流回路55と、DC成分に変換された電流を20kHz以上の高周波電流にチョッピングするDC-AC変換部26とを備えている。
【0046】
上記DC-AC変換部26は、図13(a)に示すように、スイッチング動作を行うことによって、加熱コイルに電流を供給する、第1のスイッチング素子52と第2のスイッチング素子53とが互いに直列に接続されている。また、上記DC-AC変換部26は、これらのスイッチング素子52・53のオン/オフをそれぞれに制御する制御回路54を備えている。さらに、DC-AC変換部26は、加熱コイル2に直列に接続された共振コンデンサ51を備えている。なお、上記第2のスイッチング素子53は、加熱コイル2に並列に接続されている。
【0047】
上記構成のコイル電流発生部56では、次のようにして、加熱コイル2に磁界(交番磁界)が発生する。すなわち、制御回路54は、図1(a)および図12にそれぞれ示す温度検知部材25および温度検出素子4の検出結果に基づいて、スイッチング素子52・53のスイッチング動作を制御する。具体的には、スイッチング素子52・53が同時にオン状態とならないように、互いに所定の周期でオン/オフのスイッチングを繰返すように制御する。これにより、共振コンデンサ51の充放電が行われ、加熱コイル2には、流れる方向が所定の周期で変化する高周波電流が発生する。この高周波電流により、加熱コイル2に生じる磁界の方向が所定の周期で変化して、交番磁界が発生する。
【0048】
ここで、スイッチング素子52・53のオン/オフは、交互に繰返されるので、各スイッチング素子の駆動デューティ比は約50%に保たれる。従って、上記スイッチング素子52・53のスイッチング周期を変化させることにより、スイッチング素子52・53の駆動周波数が変更されるように制御される。
【0049】
また、加熱コイル2は、共振コンデンサ21(当審注:51の誤記と思われる。)に直列に接続されているため、加熱コイル2に流れる電流、すなわち励磁回路60の出力は、図15に示すように、スイッチング素子52・53の駆動周波数に応じて変化する。つまり、上記DC-AC変換部26では、高周波電流を発生させるために、加熱コイル2と共振コンデンサ51との共振現象を利用している。そのため、上記駆動周波数が、加熱コイル2のインダクタンスと共振コンデンサ51の容量とから決定される共振周波数である場合には、励磁回路60の出力が最大となる。言い換えれば、上記励磁回路60を用いれば、上記駆動周波数を変化させることにより、励磁回路60の出力を制御することができる。なお、上記加熱コイル2を加熱する場合には、スイッチング素子52・53への逆電流の流れ込みによる破損を防止するために、まず、駆動周波数を共振周波数よりも高い周波数域に設定し、その後、駆動周波数を徐々に共振周波数に近づけるようにするとよい。」

(3c)図13(a)、図15は次のとおり。


(4)刊行物4
(4a)「【0001】
本発明は、励磁コイルがつくる磁束によって導電性の薄い層に電流を誘導し、発熱させる電磁誘導加熱装置、乾式トナーの選択的な付着によって形成された画像を電磁誘導加熱装置によって加熱し、圧着する定着装置、及び電磁誘導加熱装置の励磁コイルに供給する電流を制御する方法に関するものである。」

(4b)「【0035】
次に、上記定着装置で用いられる電磁誘導加熱装置の励磁コイル13bへ供給する電流の制御方法を、図4に基づいて説明する。
制御装置15には、表1に示すように、電流値と周波数とが組み合わされた設定値が記憶されている。これらの設定値は、励磁コイル13bがつくる磁束の量が段階的に変化するように設定されている。つまり、設定値S1は、初期加熱用の設定であり、発生する磁束の量Bwが最も多くなるように設定されている。そして、以下の設定値S1,S2,S3,S4……は、発生する磁束の量がB1,B2,B3,B4……と順次少なくなるように電流値Iと周波数fとを組み合わせて設定されている。一般に、磁束の量Bは励磁コイル13bに供給される電流値I及び周波数fの関数となっており、表1に示すように、これらの値が小さくなるにしたがって発生する磁束の量Bが少なくなる。また、表2に示すように一方が支配的となる場合には他方が大きくなっていても磁束の量Bは少なくなる。そして、B1,B2,B3,B4…と磁束の量が順次少なくなるのにともない、磁気ヒステリシスによる損失エネルギーも減少するものとなっている。
【表1】

【表2】(略)



3.対比・判断
そこで、本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「加熱ローラ100」は、本願補正発明の「搬送されるシートが外周面に圧接される定着部材」に相当する。

刊行物1記載の発明の「磁性体からなる加熱ローラ100に誘導電流を誘起する、加熱ローラの中央部に配置された誘導加熱コイルL1、及び、加熱ローラ100の端部に配置された誘導加熱コイルL2,L3」と、
本願補正発明の「上記定着部材の外周面に沿って上記搬送されるシートの幅方向に関して細長く配置された、上記定着部材の発熱層を誘導加熱するための励磁コイル」とは、
「上記定着部材の外周面に沿って上記搬送されるシートの幅方向に関して細長く配置された、上記定着部材の発熱層を誘導加熱するための、単一または複数の励磁コイル」の点で共通する。

刊行物1記載の発明の「電力スイッチング素子Q1により高周波交流電力を誘導加熱コイルL1,L2,L3に印加することで交流磁界を発生させ、加熱ローラ100内に渦電流によるジュール熱を発生させる、誘導加熱電源200」は、実質的に、本願補正発明の「上記励磁コイルに或る駆動周波数の電圧を印加することで上記励磁コイルを介して上記定着部材の発熱層を発熱させる高周波電源回路」に相当する。

また、刊行物1記載の発明の「用紙」「ハガキなど紙幅の狭い用紙」は、それぞれ、本願補正発明の「シート」「小サイズシート」に相当する。

そして、刊行物1記載の発明と、本願補正発明は、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止するようにした点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「搬送されるシートが外周面に圧接される定着部材と、
上記定着部材の外周面に沿って上記搬送されるシートの幅方向に関して細長く配置された、上記定着部材の発熱層を誘導加熱するための、単一または複数の励磁コイルと、
上記励磁コイルに或る駆動周波数の電圧を印加することで上記励磁コイルを介して上記定着部材の発熱層を発熱させる高周波電源回路とを備え、
小サイズシート非通過領域の過昇温を防止するようにした
定着装置。」

[相違点1]
本願補正発明は、高周波電源回路が、上記励磁コイルに直列接続されて等価的に直列共振回路を構成するコンデンサを含み、上記直列共振回路を電流共振させる回路であるのに対し、
刊行物1記載の発明は、誘導加熱電源200(高周波電源回路)が、用紙のサイズなどの加熱条件に応じてオン/オフされるスイッチSW1と、誘導加熱コイルL1との共振要素としてのコンデンサC2、誘導加熱コイルL2、L3との共振要素としてのコンデンサC3を含むが、本願補正発明のような直列共振回路ではない点。

[相違点2]
小サイズシート非通過領域の過昇温を防止する手段に関して、
本願補正発明は、上記定着部材の外周面のうちの上記シートの幅方向に関して一部に対応する小サイズシート非通過領域に、上記励磁コイルに沿って配置された消磁コイルと、上記搬送されるシートのサイズに応じて上記消磁コイルを開閉する切換スイッチとを有するのに対し、
刊行物1記載の発明は、励磁コイルを、加熱ローラの中央部に配置された誘導加熱コイルL1、及び、加熱ローラ100の端部に配置された誘導加熱コイルL2,L3とで構成し、用紙のサイズなどの加熱条件に応じてオン/オフされるスイッチSW1を用いて、小サイズシートを定着する場合には、スイッチSW1がオフとなり、加熱ローラの中央部に配置された誘導加熱コイルL1、コンデンサC2、電力スイッチング素子Q1による共振電流により加熱ローラ中央部に誘導電流を発生させ渦電流によるジュール熱を用いて加熱ローラ中央部を発熱させ、加熱ローラ100の端部に配置された誘導加熱コイルL2,L3は使用しないようにして、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止するものである点。

[相違点3]
本願補正発明は、
上記定着部材を発熱させる設定電力量毎に、上記消磁コイルの開、閉に伴って上記直列共振回路の共振波形がシフトするのに応じて、それぞれ設定すべき上記駆動周波数の値を予め記載した駆動周波数テーブルと、
上記消磁コイルの開閉に伴って、上記駆動周波数テーブルを参照して上記高周波電源回路の駆動周波数を切り換えて設定する制御部と
を備えるのに対し、
刊行物1記載の発明は、
スイッチSW1がオンにされて、誘導加熱コイルL1,L2,L3を並列に接続すると、電力スイッチング素子Q1のオフ直前のドレイン電流Ioは大きくなり、共振インピーダンスZが小さくなり、共振周波数は大きくなるので、ゼロクロススイッチングを行うために、電力スイッチング素子Q1のスイッチング周波数を適切に変更するものであり、
また、設定電力毎に設定すべき駆動周波数を記載したテーブルを有しない点。

次に、相違点について検討する。

(1)相違点1(高周波電源回路の構成(直列共振回路))について
高周波電源回路として、本願補正発明は、励磁コイルにコンデンサが直列接続されて等価的に直列共振回路になるものを採用しているが、一般に、高周波電源回路としては、並列共振回路、直列共振回路の両方があることは、当業者に周知なことであり、例えば、刊行物3には、直列共振回路の例が示されている。
したがって、刊行物1記載の発明において、高周波電源回路の構成として、直列共振回路を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(2)相違点2(小サイズシート非通過領域の過昇温を防止する手段(消磁コイル))について
刊行物1記載の発明は、励磁コイルを、加熱ローラの中央部に配置された誘導加熱コイルL1、及び、加熱ローラ100の端部に配置された誘導加熱コイルL2,L3とで構成し、用紙のサイズなどの加熱条件に応じてオン/オフされるスイッチSW1を用いて、小サイズシートを定着する場合には、スイッチSW1がオフとなり、加熱ローラの中央部に配置された誘導加熱コイルL1、コンデンサC2、電力スイッチング素子Q1による共振電流により加熱ローラ中央部に誘導電流を発生させ渦電流によるジュール熱を用いて加熱ローラ中央部を発熱させ、加熱ローラ100の端部に配置された誘導加熱コイルL2,L3は使用しないようにして、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止するものである。
しかし、刊行物2には、定着部材の外周面のうちのシートの幅方向に関して一部に対応する小サイズシート非通過領域に消磁コイル(キャンセルコイル7)を配置し、スイッチング回路(リレー)を開閉することによってキャンセルコイル7の両端を開閉することにより、リレーを閉じた時には誘起交番電圧によりキャンセルコイル7に交番電流が流れ、その小コイル7a及び7bを配した領域では励磁コイル4の磁束が減じられるようにして、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止する技術が記載されている。

そうすると、刊行物1記載の発明において、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止する手段として、刊行物2の技術を適用して、本願補正発明のごとく、「上記定着部材の外周面のうちの上記シートの幅方向に関して一部に対応する小サイズシート非通過領域に、上記励磁コイルに沿って配置された消磁コイル」及び「上記搬送されるシートのサイズに応じて上記消磁コイルを開閉する切換スイッチ」を設けることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)相違点3(その1):コイル開閉に伴う共振回路の共振波形のシフトに対応した駆動周波数の設定について
刊行物1記載の発明は、「スイッチSW1がオンにされて、誘導加熱コイルL1,L2,L3を並列に接続すると、電力スイッチング素子Q1のオフ直前のドレイン電流Ioは大きくなり、共振インピーダンスZが小さくなり、共振周波数は大きくなるので、ゼロクロススイッチングを行うために、電力スイッチング素子Q1のスイッチング周波数を適切に変更する」ものである。
ここで、刊行物1記載の発明は、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止する手段として、消磁コイルを用いたものではないが、スイッチSW1がオンにされて、誘導加熱コイルL1,L2,L3を並列に接続するときには、共振周波数は大きくなるという現象が示され、この現象に対して、ゼロクロススイッチングを行うために、電力スイッチング素子Q1のスイッチング周波数を適切に変更する必要があるという対応策が示されている。
そして、上記(1)(2)で検討した、高周波電源回路として、本願補正発明のように、励磁コイルにコンデンサが直列接続されて等価的に直列共振回路を採用し、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止する手段として消磁コイルを採用した場合にも、消磁コイルを開閉した際には、刊行物1に記載された現象と類似する、共振周波数が変化する(消磁コイルの開、閉に伴って直列共振回路の共振波形がシフトする)現象が発生することは、刊行物1の記載から、当業者に自明であるとともに、そのような現象に対して、電力スイッチング素子Q1のスイッチング周波数、すなわち、誘導加熱コイルに対して印加する駆動周波数を、適切なものに設定する必要があること(少なくとも、適切なものに設定することが好ましいこと)は、刊行物1の記載から、当業者に自明である。
また、刊行物3には、加熱コイル2と共振コンデンサ51との共振現象を利用するとき、スイッチング素子の駆動周波数が共振周波数である場合に、加熱コイル2に流れる電流、すなわち励磁回路60の出力が最大になること、そして、そのような励磁回路60を用いれば、スイッチング素子の駆動周波数を変化させることにより、励磁回路60の出力(電力)を制御することができることが、記載されている。

そうすると、刊行物1記載の発明において、上記(1)(2)の事項を採用するに際して、定着部材を発熱させる設定電力量毎に、消磁コイルの開、閉に伴って直列共振回路の共振波形がシフトするのに応じて、誘導加熱コイル(定着部材の発熱層を誘導加熱するための励磁コイル)に対して印加する駆動周波数を適切なものに設定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(4)相違点3(その2):設定電力毎に設定すべき駆動周波数を記載したテーブルについて
上記(3)で検討したように、共振回路の共振波形がシフトしたときには、誘導加熱コイルに対して印加する駆動周波数を、適切なものに設定する必要があるから、良好な定着画像を得るためには、速やかに適切なものに設定することが望ましいことも、刊行物1の記載に接した当業者であれば、容易に理解できることである。

ところで、一般に、定着装置の制御において、制御に関わる値を予め記載したテーブルを利用して、円滑な制御を行うことは、周知の技術である。例えば、刊行物4には、定着装置で用いられる電磁誘導加熱装置の励磁コイルへ供給する電流を適切に制御するために、電流値と周波数とが組み合わされた設定値を予めテーブルの形で記憶しておき、制御の際に利用する技術が記載されている。

そうすると、共振回路の共振波形がシフトしたときには、誘導加熱コイルに対して印加する駆動周波数を、適切なものに設定する際に、
本願補正発明のごとく、定着部材を発熱させる設定電力量毎に、消磁コイルの開、閉に伴って直列共振回路の共振波形がシフトするのに応じて、それぞれ設定すべき駆動周波数の値を予め記載した駆動周波数テーブルと、消磁コイルの開閉に伴って、駆動周波数テーブルを参照して高周波電源回路の駆動周波数を切り換えて設定する制御部とを用いるようにすることは、
当業者が容易になし得ることである。

(5)全体としての構成について
上記(1)?(4)では、構成を段階的に付加しつつ個々に検討したが、全体としてみても、上記(1)?(4)で検討した構成をまとめて採用することに、困難性を認めることができない。

(6)効果について
そして、全体としてみて、本願補正発明によってもたらされる効果も、刊行物1?3に記載された事項および周知技術(例えば刊行物4記載の技術)から当業者であれば予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。

(7)請求人の主張について
請求人は、回答書で次のように主張する。
「すなわち、本請求人は、要するに、消磁コイルの開、閉に伴って周波数特性が多少なりとも変化することを、当業者は気付くかもしれないが、その変化が無視できる程度に過ぎなければ、現実には何ら問題は生じないことと、このため、従来は、たとえ当業者といえども、『消磁コイルの開、閉に応じた、それぞれの駆動周波数の値を設定する』という発想に至ることはなかったことと、を主張しています。
実際のところ、引用文献1-5には、消磁コイルの開、閉に伴って、高周波電源回路の駆動周波数を切り換える必要性に関して、何ら問題意識がありません。したがって、従来は、たとえ当業者といえども、『消磁コイルの開、閉に応じた、それぞれの駆動周波数の値を設定する』という発想に至ることは、ありませんでした。」
「しかしながら、本願との関連では、引用文献3には駆動周波数を徐々に変化させるものしか記載されていません。また、既述のように、従来は、消磁コイルの開、閉に伴って、高周波電源回路の周波数特性が実質的に変わるか否か、つまり、高周波電源回路の駆動周波数に影響を与えるほど変わるか否かは、分かっていませんでした。このため、そのことがあたかも既知であったかのような前提で、『その際に、消磁コイルの開、閉に伴う周波数特性の変化が大きいのであれば、消磁コイルの開、閉に応じたそれぞれの駆動周波数の値を設定することに、格別の困難性は認められない』と認定するのは、不当である、と本請求人は考えます。」

しかし、上記(3)で検討したように、刊行物1記載の発明は、小サイズシート非通過領域の過昇温を防止する手段として、消磁コイルを用いたものではないが、類似する現象と対応策が示されているから、当業者であれば、消磁コイルの開閉においても周波数特性が変化する現象があり、これに対し駆動周波数を適切なものに設定する必要があること(少なくとも、適切なものに設定することが好ましいこと)を理解し、『消磁コイルの開、閉に応じた、それぞれの駆動周波数の値を設定する』ことを難なく発想することができるというべきである。
また、引用文献3(刊行物3)の「なお、上記加熱コイル2を加熱する場合には、スイッチング素子52・53への逆電流の流れ込みによる破損を防止するために、まず、駆動周波数を共振周波数よりも高い周波数域に設定し、その後、駆動周波数を徐々に共振周波数に近づけるようにするとよい。」という記載は、スイッチング素子への逆電流の流れ込みによる破損を防止するための留意であり、そのような弊害が生じない程度に速やかに駆動周波数を変更することを妨げるものではない。

(まとめ)
以上のとおりであるので、本願補正発明は、刊行物1?3に記載された発明および周知技術(例えば刊行物4記載の技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願の請求項1に係る発明
平成21年11月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成20年6月11日付けの手続補正書により補正された請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記「第2 1.(補正前)」に記載したとおりである。

2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?4は、上記「第2 2.」において、刊行物1?4として記載されたもので、その記載事項は上記「第2 2.」で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明1は、「高周波電源回路」に関して、本願補正発明の「上記励磁コイルに直列接続されて等価的に直列共振回路を構成するコンデンサを含み、上記直列共振回路を電流共振させる回路」という限定事項を省いたものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.」に記載したとおり、刊行物1?3に記載された発明および周知技術(例えば刊行物4記載の技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1?3に記載された発明および周知技術(例えば刊行物4記載の技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-10 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-28 
出願番号 特願2006-50106(P2006-50106)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 一宮 誠
紀本 孝
発明の名称 定着装置およびそれを備えた画像形成装置、並びに画像形成方法  
代理人 山崎 宏  
代理人 仲倉 幸典  
代理人 田中 光雄  

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