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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N |
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管理番号 | 1227160 |
審判番号 | 不服2009-7561 |
総通号数 | 133 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-04-08 |
確定日 | 2010-11-19 |
事件の表示 | 特願2005-258470「メタルマスク」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日出願公開、特開2006-205716〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願は、平成17年9月6日(優先権主張日:平成16年12月28日)の出願であって、平成20年12月2日付け(発送日:同年12月9日)の拒絶理由通知に対して、平成21年2月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年3月2日付け(発送日:同年3月10日)で拒絶査定がなされたものである。 これに対して、平成21年4月8日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年4月28日付けで、審判請求書についての手続補正がなされると共に、特許請求の範囲についての手続補正がなされた。 そして、当審において、平成22年4月2日付け(発送日:同年4月13日)で、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年6月11日付けで回答書が提出された。 第2 平成21年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [結論] 平成21年4月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] 平成21年4月28日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 <補正前>(平成21年2月5日付け手続補正書参照。) 「 【請求項1】 メタルマスク本体の表面にセラミック処理膜が形成されてなるメタルマスクにおいて、 前記メタルマスク本体がフォトリソグラフィ製版を用いたNi系のめっきで形成されてなることを特徴とするメタルマスク。 【請求項2】 前記セラミック処理膜の材質硬さ(JIS Z 2244-2003)がHV1000以上であるとともに、前記メタルマスクの表面粗度(JIS B 0601-2001)が0.1?1.0μmRaであることを特徴とする請求項1記載のメタルマスク。 【請求項3】(以下省略)」 <補正後> 「 【請求項1】 メタルマスク本体の表面にセラミック処理膜が形成されてなり、スキージを用いて印刷するのに使用するメタルマスクにおいて、 前記メタルマスク本体がフォトリソグラフィ製版を用いたNi系のめっきで形成されてなり、 前記セラミック処理膜の材質硬さ(JIS Z 2244-2003)がHV1000以上であるとともに、前記メタルマスクの表面粗度(JIS B 0601-2001)が0.1?1.0μmRaであることを特徴とするメタルマスク。 【請求項2】(以下省略)」 (下線は審決で付した。) 本件補正は、補正前の請求項1を削除し、補正前の(請求項1を引用する)請求項2を、新たな請求項1とすると共に、その新たな請求項1について、請求項1に係る発明の「メタルマスク」が、「スキージを用いて印刷するのに使用する」ものであることを特定するものである。 なお、この点に関して、審判請求人も同様の主張をしている(審判請求書の平成21年4月28日付け手続補正書2頁【補正の説明】参照)。 即ち、本件補正は、実質的に、「スキージを用いて印刷するのに使用する」なる特定事項を付加したものであり、該特定事項は、補正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の「メタルマスク」について、その使用態様を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、即ち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下、検討する。 2.引用刊行物とそれに記載された事項及び発明 (1)本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開平11-245371号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。 なお、以下、下線は審決において付すものである。 ア.特許請求の範囲の請求項1 「マスク基体の外周面、或いは該マスク基体に形成された貫通孔の内壁面のうち少なくとも一部分に硬質被膜が形成されたことを特徴とするマスク。 」 イ.同請求項2 「前記マスクは、半田ペーストをプリント回路基板にスクリーン印刷する際に用いることを特徴とする請求項1記載のマスク。」 ウ.同請求項3 「前記マスク基体の材料がNi、Fe、Alを主成分とする材料、セラミックス、樹脂、ステンレス鋼、リン青銅鋼、Ni-Co合金からなることを特徴とする請求項1、又は2のうちいずれかに記載のマスク。」 エ.同請求項13 「前記硬質被膜はセラミックス被膜であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれかに記載のマスク。」 オ.同請求項19 「前記セラミックス被膜は、Zr、Ti、Hf、Cr、Fe、B、Al、Si、或いはGeの窒化物、酸化物、又は炭化物であることを特徴とする請求項13乃至18のうちいずれかに記載のマスク。」 カ.段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、マスク、及びスキージに関し、特に電子部品のプリント回路基板への表面実装に際して用いる半田ペーストを該プリント回路基板に加圧塗布印刷するときに使用するスクリーン印刷用のマスク、…(略)…に関する。」 キ.段落【0005】 「【発明が解決しようとする課題】然し乍ら、前述したメタルマスクへのフッ素系樹脂の被膜形成をしたとしても以下に掲げる問題点が生じていた。 (1)マスクのプリント回路基板からの離型時に半田ペーストの形状くずれが起り易く、ひいては半田ペーストがプリント回路基板上の隣接する導体回路基板に電気的に接続してしまっていた。 (2)プリント回路基板への半田ペーストの加圧塗布印刷時に、マスクの開孔部付近では、マスクとプリント回路基板との間隙に半田ペーストが滲んでしまう結果、印刷精度が低下してしまっていた。 (3)プリント回路基板への半田ペーストの加圧塗布印刷に際して、半田ペーストがマスク表面に付着していると、その付着した半田によりスキージがスムーズにマスク上を往復運動しなかったり、またマスクの開孔部への半田ペーストが効率よく流入しなくなるため、定期的に洗浄等のメンテナンスを必要としていた。更に、マスク開孔部に半田ペーストが残留し、頻繁にマスクを洗浄する作業が必要となり、生産性が低下していた。 (4)マスク、又はスキージ自体の摩擦抵抗が高いために寿命が短かった。」 ク.段落【0006】 「そこで、本発明は、このような従来の問題点を解消し、高い膜硬度を有し、かつ対する密着性に優れた被膜を形成したマスク、又はスキージを提供することにある。」 ケ.段落【0041】 「このようにして作製した硬質炭素被膜の硬度は予め約1μmの膜厚で測定した結果、約3000Hvであることを確認した。」 コ.段落【0042】1?2行 「また、密着性の評価をビッカース圧子による押し込み試験(荷重:300g)を行った結果、」 サ.段落【0044】 「更に、硬質炭素被膜をコーティングしたマスクと、コーティングしていないマスクをアルミナボールを用いた耐摩耗性摺動試験を行った結果(荷重:10g、摺動回数:3000回)、未コーティングのマスクでは傷が確認できたのに対し、硬質炭素被膜をコーティングしたマスクでは全くその表面に変化はなく、大幅に寿命の向上を確認した。」 シ.段落【0057】7?9行 「<第5の実施の形態>第5の実施の形態として、窒化ジルコニウム(ZrN)被膜をマスク基体に形成する形成方法について図面を用いて詳細に説明する。」 ス.段落【0065】 「このZrN被膜の硬度は、1600Hvであり、ビッカース圧子による押し込み試験(300g)でも剥離はなく、密着性においても優れていることを確認している。また、硬質炭素被膜と同様に摺動試験を行った。従来(荷重:10g)3000回の摺動でも表面の状態は変化がなく、大幅に寿命が向上したことを確認した。」 セ.段落【0070】 「さらに、本実施の形態では、ZrN被膜について述べたが、本形態の膜としては、Zr以外にセラミックス、Ti、Hf、Cr、Fe、B、Al、Si、Geの窒化物、或いは酸化物、炭化物でもZrN被膜の効果と同様の効果を発揮することを確認済みである。」 ソ.段落【0072】1?4行 「【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、マスクの寿命、半田離形性、クリーニング性、及び印刷精度が向上すると共に、半田滲みが減少し、更には洗浄性等のメンテナンス性も向上する。」 上記ウのとおり、マスク基体は、Niを主成分とする材料、或いは、Ni-Co合金からなるものであるから、引用文献1に記載されたマスク基体は、Ni系の金属で形成されているものである。 又、上記オのとおり、セラミックス被膜には、「Zrの窒化物(ZrN)」の被膜も含まれており、該ZrN被膜の硬度は、上記スのとおり「1600Hv」である。 さらに、他の記載事項等も参酌すれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載発明」という。)が開示されていると認められる。 「マスク基体の外周面にセラミックス被膜が形成され、該マスクは、半田ペーストを、スキージを用いて、プリント回路基板にスクリーン印刷する際に使用されるものであり、 マスク基体は、Ni系の金属から形成され、 セラミックス被膜の硬度は、1600Hvである、マスク。 」 (2)同じく、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開2002-361135号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。 タ.特許請求の範囲の請求項4 「請求項1乃至3いずれか記載のメタルマスクにおいて、前記表面硬化処理は表面硬度がビッカース硬度400以上の膜を形成することを特徴とするメタルマスク。」 チ.同請求項5 「請求項1乃至3いずれか記載のメタルマスクにおいて、表面粗さが0.8S(算術平均粗さRa0.2)以下の膜を形成することを特徴とするメタルマスク。」 ツ.同請求項6 「請求項1乃至5いずれか記載のメタルマスクにおいて、表面硬化膜は窒化物材料TiN,CrNまたはAlNの成膜からなることを特徴とするメタルマスク。」 テ.段落【0029】 「メタルマスク1の面粗度が粗い場合には、最初の数回の使用においてPZTの付着はないが、数回繰り返し使用後には表面硬化膜の剥離が発生したが、表面粗さ0.8S(算術平均粗さRa0.2)以下の膜を形成することによって、表面硬化膜の剥離は低減し、メタルマスクの耐久性は向上しコストを低減することができる。」 3.対比 本件補正発明と引用文献1記載発明とを対比する。 引用文献1記載発明の「マスク」が「メタルマスク」であることは言うまでもないから、引用文献1記載発明の「マスク基体」は、本件補正発明の「メタルマスク本体」に相当し、同様に、「セラミックス被膜」は「セラミック処理膜」に相当する。 ところで、本件補正発明の「メタルマスク本体」は、形成手段としては、「フォトリソグラフィ製版を用いたNi系のめっきで形成されてな」るものであるが、材質としては、「Ni系」の金属で形成されたものであるから、引用文献1記載発明のマスク基体の材質は、本件補正発明と共通するものである。 以上の点からみて、本件補正発明と引用文献1記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。 《一致点》 「メタルマスク本体の表面にセラミック処理膜が形成されてなり、スキージを用いて印刷するのに使用するメタルマスクにおいて、 前記メタルマスク本体がNi系の金属で形成されてなるメタルマスク。」 《相違点1》 メタルマスク本体が、本件補正発明では、「フォトリソグラフィ製版を用いたNi系のめっきで形成されてな」るのに対して、引用文献1記載発明では、Ni系の金属ではあるがどのような手段で形成されたか記載がない点。 《相違点2》 セラミック処理膜が、本件補正発明では、「材質硬さ(JIS Z 2244-2003)がHV1000以上である」のに対して、引用文献1記載発明では、1600Hvである点。 《相違点3》 本件補正発明では、「メタルマスクの表面粗度(JIS B 0601-2001)が0.1?1.0μmRaである」のに対して、引用文献1記載発明では、メタルマスクの表面粗度について記載がない点。 4.判断 (1)相違点1について メタルマスクの技術分野において、メタルマスク本体を、フォトリソグラフィ製版を用いたNi系のめっきで形成(製造)することは、例えば、特開2004-221489号公報(以下、「周知例1」という。段落【0018】参照)、特開平7-276842号公報(以下、「周知例2」という。段落【0004】、【0011】?【0012】参照)、特開平6-115045号公報(以下、「周知例3」という。段落【0006】参照)等に記載されるように、周知の技術事項である。 そして、上記周知例1の段落【0003】、周知例2の段落【0004】、或いは、周知例3の段落【0006】等に記載されるように、フォトリソグラフィー技術を用いた電鋳法により製造されたメタルマスクが、エッチング法、或いは、レーザー法により製造されたメタルマスクに比して、寸法精度に優れていること、高精細な配線パターンの印刷を可能にすることは、当該技術分野における技術常識であり、又、引用文献1記載発明のマスク基体がNi系の金属から形成されていることをも勘案すると、引用文献1記載発明のマスク基体の製造手段として、上記周知の技術事項、即ち、上記相違点1に係る技術事項を採用することに、格別の困難性は認められない。 なお、審判請求人(以下、「請求人」という。)は、審判請求書の平成21年4月28日付け手続補正書において、概略、次のように主張する(3頁下から16?10行参照)。 a.引用文献3(審決注:本審決における「引用文献1」)の段落【0002】に「端子部分に相当する部分が穿設されたマスク」と記載されている。 b.引用文献3(同上)が、マスクを「めっき」で形成することを例示していないことは、「めっき形成のメタルマスク本体とセラミック処理膜との結合」の動機付けの阻害理由を伺わせる。 [aの主張に対して] 引用文献3(以下、本審決のとおり「引用文献1」と記載する。)において「穿設」なる用語は、段落【0002】と【0004】で用いられている。この段落【0004】では、「周知例3」に開示されたメタルマスクに関し、その孔を形容するために用いられている。そして、この「周知例3」記載のメタルマスクは、上記のとおりエッチングで形成されたものや、周知のフォトリソグラフィ製版を用いたNi系のめっき(以下、単に「電鋳法」という。)で形成されたもの(段落【0006】参照)等を含むものである。したがって、段落【0004】で用いられている「穿設」は、エッチングや電鋳法等で形成された孔全般についての形容しているものであり、単に孔が開いている程度のことを示すにすぎず、エッチングで形成されたことを示しているものではないことは明らかであるから、段落【0002】における「穿設」も同様に意味を示すにすぎないものである。当該技術分野においては電鋳法で製造されたメタルマスクは、エッチング法やレーザー法のそれより、寸法精度に優れていることが技術常識であること、等からみて、引用文献1記載発明のマスク基体を、電鋳法で製造することに困難性はない。 [bの主張に対して] 引用文献1に、(マスク基体の製造法として)「めっき」が例示されていないことは、阻害理由を覗わせるものではない。 即ち、マスク基体の製造について、特段の記載がない場合は、従来周知の方法で製造するものと解するのが相当であるからである。 付記するに、上記のとおり、電鋳法は周知の技術事項であり、又、電鋳法が、エッチング法やレーザー法に比して、優れていることは技術常識であり、更に、引用文献1記載発明では、Ni系の金属からなるマスク基体にセラミックス被膜が形成されていること、等を勘案すれば、「めっき形成のメタルマスク本体とセラミック処理膜との結合」の動機付けに阻害理由があるとは、到底認められない。 さらに、請求人は、平成22年6月11日付け回答書において、本件補正発明の「印刷性改善」(なお、本願明細書においては「印刷性の向上」と記載されている。)は、本願明細書の段落【0023】の「露光を多目にすると、最終的に硬化部14aが逆テーパ(下広がり)となって、…(略)…、印刷性能の向上が期待できる。」との記載から支持されるように、引用文献5(審決注:本審決における「周知例1」)の印刷性から示唆されるものではない、旨主張する(3頁下から3行?4頁13行参照)。 しかしながら、本件補正発明において、「硬化部が逆テーパになる」ように「露光を多目にすること」、即ち、露光時間等に係る限定はなされていないから、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、「印刷性の向上」なる効果は、普通に想定される、周知例1?3等に記載されるような電鋳法の効果と同等程度のものと解するのが相当である。 以上のとおりであるから、請求人の主張は、何れも採用できない。 (2)相違点2について 本件補正発明では、セラミック処理膜の材質硬さについて「JIS Z 2244-2003」と括弧書きされている。 この「JIS Z 2244」なる規格番号は、「ビッカース硬さ試験-試験方法」(以下、「ビッカース試験法」という。)を表すものであり、又、「2003」なる追記は、2003年の規格であることを表すものと認められる。 他方、上記引用文献1記載発明において、セラミックス被膜の表面硬度は、1600Hvであり、Hvは、ビッカース硬度(Vickers hardness)の単位であるから、引用文献1記載発明においても、その表面硬度は、ビッカース試験法で試験されていることは明らかであるが、何年の規格による試験であるかは不明である。 ところで、本件補正発明において、その表面硬さを、上記相違点2に係る事項のように特定するのは、耐久性(耐摩耗性)のため(本願明細書の段落【0031】参照)であるところ、引用文献1記載発明においても、マスクの寿命向上のためである(上記サ参照)。 なお、上記サは、硬質炭素皮膜に係る記載事項であるが、硬質被膜を設ける目的・効果等は、セラミックス被膜についても同様であることは言うまでもない。 即ち、引用文献1記載発明も、本件補正発明と同様に、セラミックス被膜の耐久性向上のために、ビッカース試験法で1600Hvの材質硬度を有するセラミックス被膜を形成するものである。 そして、ビッカース試験法において、その規格の年により極端に試験条件が異なるものとも認められないから、引用文献1記載発明の表面硬度は、本件補正発明のそれと、作用効果において格段の差があるものとも認められない。 よって、2003年の規格で実験等により好ましい硬度を求め、2003年の規格で「HV1000」を下限値とし、上記相違点2に係る構成とすることに、格別の困難性は認められない。 (3)相違点3について 1)JIS規格について 本件補正発明では、メタルマスクの表面粗度について「JIS B 0601-2001」と括弧書きされている。 この「JIS B 0601」なる規格番号は、「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」を表すものであり、特に、「JIS B 0601-2001」は、「ISO4287-1997」に準拠して、2001年に改正された規格である。 そして、上記相違点3に係る「表面粗度(JIS B 0601-2001)が0.1?1.0μmRa」なる特定事項の内、「Ra」は、2001年改正版における「算術平均粗さ」を表すものである。 他方、上記引用文献2において、表面粗さは、「表面粗さ0.8S(算術平均粗さRa0.2)」(上記チ、テ参照)と記載されている。 そこで、この「Ra」について、更に検討する。 原審において、審査官が、平成20年12月2日付け拒絶理由で指摘したとおり、「JIS B 0601」に係る規格は、1994年に改正がなされ、1982年に確立された従前の「JIS B 0601」とは、異なる内容となっている。 即ち、1982年の「JIS B 0601」における「Ra」は「中心線平均粗さ」を表し、1994年以降の「Ra」は「算術平均粗さ」を表すものである(なお、数値的にみて、両者にそれほどの差異はない。)。 本件補正発明は、2001年の規格によるRaであるから「算術平均粗さ」を表すものであるところ、引用文献2に記載されたRaが、何年の規格によるもの不明なため、上記2つのRaの内、どちらのものであるか、直ちには特定できない。 しかしながら、引用文献2に「算術平均粗さRa」と明記されていること、又、引用文献2が、2001年出願の公報であることからみて、2001年の規格であるとは断定できないまでも、(1982年よりは)出願年に近い1994年改正の規格により、表面粗さを規定していると解するのが相当であり、又、そのように解しても、他の記載と矛盾しない。 そして、少なくとも「Ra」に関しては、1994年と2001年の規格においては、同じ「算術平均粗さ」を表すものである。 以上の点からみて、引用文献2に記載された表面粗さは、少なくとも「Ra」に関して、本件補正発明の表面粗度と同じ規格により測定されたものと認められる。 2)数値範囲について 本件補正発明において、メタルマスクの表面粗度を特定したのは、印刷性の向上のためである(本願明細書の段落【0018】、【0032】参照)。 ところで、メタルマスクを用いて、スキージにより、はんだペーストを加圧塗布する印刷法において、スキージ滑走面(メタルマスク表面)の表面粗度が印刷性に影響することは、例えば、上記周知例1(段落【0008】、【0013】参照)、上記周知例2(段落【0005】、【0006】参照)等に記載されるように、当該技術分野における自明の課題であるから、印刷性の向上のために、当業者であれば、表面粗さをどのように規定するか、普通に考慮すべき技術事項である。 そして、自明の課題を解決するため、即ち、印刷性の向上のために、引用文献2では、メタルマスクの表面粗さを「算術平均粗さRa0.2」(上記チ、テ参照)としたものであるところ、印刷性の向上のために、表面粗度をどのように規定するか考慮する際に、「Ra0.2」なる数値等も参酌して、上記相違点3に係る数値範囲とすることは、当業者が適宜決定し得ることと認められる。 なお、「算術平均粗さ」と、数値的にそれほど差異のない「中心線平均粗さ」において、好適な表面粗さを「0.1?1.0μmRa」、或いは、「0.2?1.0μmRa」とすることは、例えば、上記周知例3(段落【0016】参照)、上記周知例2(段落【0007】参照)等に記載されている。 3)引用文献1記載発明に引用文献2を適用することの容易性について 引用文献2記載のメタルマスクは「ビッカース硬度400以上の表面硬化膜を有するもの」(上記タ参照)であるところ、該条件を満たす表面硬化膜として、具体的に、TiN、CrNの成膜が例示されており(上記ツ参照)、これらTiN、CrNの成膜が、(ビッカース試験法で)硬度1000Hv以上であることは、当該技術分野における技術常識である。 なお、この数値は、本願明細書の段落【0031】からみても、矛盾無く首肯できるものである。 そして、上記2)に記載したとおり、メタルマスクの表面粗度が印刷性に大きく影響することは、当該技術分野における自明の課題であるから、表面硬度を規定した引用文献1記載発明のメタルマスクにおいても、表面粗さについて配慮することは、当業者が普通になすべき技術事項である。 そして、引用文献2において、表面硬度1000Hv以上のメタルマスクについて、表面粗さを規定していることからみて、表面硬度1600Hvのセラミックス被膜を有する引用文献1記載発明のメタルマスクにおいて、引用文献2に記載されているように表面粗度についても配慮すべきことに、阻害要因は見当たらない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、上記各相違点に係る特定事項は、当業者が適宜想到可能なものであり、それにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。 したがって、本件補正発明は、引用文献1記載発明、引用文献2記載の技術事項、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明は、平成21年2月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。 なお、請求項2は、請求項1を引用するものであるので、請求項1も併せて記載する。 「【請求項1】 メタルマスク本体の表面にセラミック処理膜が形成されてなるメタルマスクにおいて、 前記メタルマスク本体がフォトリソグラフィ製版を用いたNi系のめっきで形成されてなることを特徴とするメタルマスク。 【請求項2】 前記セラミック処理膜の材質硬さ(JIS Z 2244-2003)がHV1000以上であるとともに、前記メタルマスクの表面粗度(JIS B 0601-2001)が0.1?1.0μmRaであることを特徴とする請求項1記載のメタルマスク。」 2.引用刊行物及びその記載事項と発明 原審における拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項と発明は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記「第2」において検討した「メタルマスク」について、該「メタルマスク」が、「スキージを用いて印刷するのに使用する」ことに係る特定事項を省いたものである。 そうすると、実質的に本願発明の発明を特定する事項を全て含み、更に、他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 4.」に記載したとおり、引用文献1記載発明、引用文献2記載の技術事項、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-09-07 |
結審通知日 | 2010-09-14 |
審決日 | 2010-09-27 |
出願番号 | 特願2005-258470(P2005-258470) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41N)
P 1 8・ 575- Z (B41N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石井 裕美子 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
湯本 照基 菅野 芳男 |
発明の名称 | メタルマスク |
代理人 | 上田 千織 |
代理人 | 村松 孝哉 |
代理人 | 飯田 昭夫 |
代理人 | 江間 路子 |