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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1227182
審判番号 不服2007-22542  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-15 
確定日 2010-11-18 
事件の表示 特願2003-206954「発光材料、発光材料の精製方法および層形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日出願公開、特開2005- 41982〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年8月8日(優先権主張 平成15年5月29日)の出願であって、平成19年7月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年8月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年9月13日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年6月3日付けで審尋を発し、これに対し、平成22年8月4日に回答書の提出がなされたものである。

2.平成19年9月13日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年9月13日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成19年9月13日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「【請求項1】 有機エレクトロルミネッセンス素子が備える発光層に用いられる発光材料であって、
該発光材料を用いて、前記発光層を形成したとき、該発光層中に含まれる、アルミニウムを含むとともに、マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物のうち最も多いものの含有量が、2.5ppm以下であることを特徴とする発光材料。」を、
「【請求項1】 陰極および陽極と、該陰極および陽極の間に、前記陰極側から順次設けられた電子輸送層および発光層とを備え、前記陰極にアルミニウムを含み、かつ前記電子輸送層に8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の前記発光層に用いられる発光材料であって、
該発光材料を用いて、前記発光層を形成したとき、該発光層中に含まれる、アルミニウムを含むとともに、マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物のうち最も多いものの含有量が、2.5ppm以下であることを特徴とする発光材料。」に改める補正を含むものである。

(2)補正の適否
ア.目的要件について
上記請求項1についての補正は、補正前の「有機エレクトロルミネッセンス素子が備える発光層に用いられる発光材料」との記載部分を、「陰極および陽極と、該陰極および陽極の間に、前記陰極側から順次設けられた電子輸送層および発光層とを備え、前記陰極にアルミニウムを含み、かつ前記電子輸送層に8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の前記発光層に用いられる発光材料」との記載に補正するものである。
そこで、当該補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1?4号に掲げる事項を目的とするものであるか否かについて検討する。
当該補正は、発明特定事項として「陰極および陽極と、該陰極および陽極の間に、前記陰極側から順次設けられた電子輸送層および発光層とを備え、前記陰極にアルミニウムを含み、かつ前記電子輸送層に8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む」という事項を、補正後の請求項1の記載に新たに追加するものであるところ、特許法第36条第5項の規定により「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」を記載した補正前の請求項1及びその従属項には、「陰極」、「陽極」及び「電子輸送層」を備えること、「前記陰極にアルミニウム」を含むこと、並びに「前記電子輸送層に8-ヒドロキシキノリン アルミニウム」を含むこと、という事項に対応する事項が、発明を特定するために必要と認める事項のすべてに含まれる事項として記載されていないので、当該補正は、発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
また、平成19年9月13日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は、「2:陰極および電子輸送層と、発光層との双方にアルミニウムが含まれることから、これら各層に含まれるアルミニウムを介して、各層間における電子の輸送を円滑に行うことができる。」等の主張をしていることからみて、補正前の発明と補正後の発明の解決しようとする課題が同一であるとはいえない。
したがって、当該補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当しない。
そして、当該補正は、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同3号に掲げる「誤記の訂正」ないし同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものにも該当しない。
したがって、請求項1についての補正は、目的要件違反の補正を含むものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

イ.独立特許要件について
(ア)はじめに
仮に当該補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当すると仮定した場合に、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)についても検討する。

(イ)サポート要件について
特許法第36条第6項第1号に規定する「サポート要件」の適否については、『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、補正後の請求項1に記載された事項により特定されるもの全てが、本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。
補正後の明細書の段落0074の「発光層上に、3,4,5-トリフェニル-1,2,4-トリアゾールを真空蒸着し、平均厚さ20nmの電子輸送層を形成した。」との記載から明らかなように、補正後の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1?40のものは、何れも「電子輸送層に8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む」という場合の具体例に相当しないところ、補正後の明細書の発明の詳細な説明には、補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるものの具体例についての記載が皆無である。
そして、平成19年9月13日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は、「さらに、本発明では、有機EL素子が備える陰極がアルミニウムを含み、かつ電子輸送層が8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む構成(構成要件A)、すなわち陰極および電子輸送層の双方がアルミニウムを含む構成となっていることから、金属不純物としてアルミニウムが含まれる(構成要件B)構成とする。このように、有機EL素子を、陰極および電子輸送層の双方にアルミニウムが含まれ、かつ発光層が金属不純物としてアルミニウムを含む構成とすることにより、金属不純物にアルミニウムが含まれない場合と比較して、以下のような利点がある。すなわち、1:発光層にアルミニウムが含まれることから、陰極および電子輸送層の双方に含まれるアルミニウムが、発光層に移行してしまうのを抑制または防止することができる。2:陰極および電子輸送層と、発光層との双方にアルミニウムが含まれることから、これら各層に含まれるアルミニウムを介して、各層間における電子の輸送を円滑に行うことができる。以上のような1および2に示した効果が相乗的に得られることから、電子輸送層を介した陰極から発光層への電子の輸送効率(注入効率)を確実に向上させることができる。」との主張をしているが、補正後の明細書の発明の詳細な説明を精査しても、補正後の請求項1に記載された「電子輸送層に8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む」という構成を具備することによって、上記主張のような課題解決がなし得ることについての記載や示唆が見当たらない。
そうしてみると、補正後の明細書の発明の詳細な説明には、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明の課題が解決し得ると当業者が認識できる程度の記載が示唆を含めてなされておらず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる程度の技術常識が存在したとも認められないので、補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるもの全てが、本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。
したがって、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、当該補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしてない。

(ウ)進歩性について
A.引用文献及びその記載事項
原査定で引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2001-214159号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。

摘記1a:請求項2
「含まれるイオン性不純物の濃度が0.01ppm以下であることを特徴とする発光性有機化合物。」

摘記1b:段落0001
「本発明はエレクトロルミネッセンス(EL:Electro Luminescence)が得られる発光性有機化合物(分子式に金属を含む錯体も含む)及びそれを用いたEL表示装置に関する。代表的には、高分子化合物からなる発光性有機化合物を用いた高分子系EL表示装置に関する。」

摘記1c:段落0007
「なお、イオン性不純物とは周期表の1族もしくは2族に属する元素、代表的にはナトリウム(Na)もしくはカリウム(K)を指す。」

摘記1d:段落0010
「上記発光性有機化合物を得るために、低分子化合物からなる発光性有機化合物(以下、低分子系EL化合物という)を用いるならば、該低分子系EL化合物をゾーン精製法、昇華精製法、再結晶法、蒸留法、濾過法、カラムクロマトグラフィもしくは再沈殿法で精製すれば良い。」

摘記1e:段落0016
「本発明に用いることのできる代表的な低分子系EL化合物としてはAlq_(3)(トリス-8-キノリノラトアルミニウム錯体)が挙げられる。」

摘記1f:段落0130?0134
「[実施例2]
本実施例では、本発明を単純マトリクス型EL表示装置に実施した場合の例について図7に示す。図7において、701はプラスチック基板、702はアルミニウム膜とフッ化リチウム膜の積層構造(EL層に接する部分がフッ化リチウム膜)でなる陰極である。本実施例では、陰極702を蒸着法により形成する。尚、図7では図示されていないが、複数本の陰極が紙面に垂直な方向へストライプ状に配列されている。…
陰極702の上には高分子系EL化合物からなるEL層(発光層のみ)703が印刷法により形成される。本実施例では、PVK(ポリビニルカルバゾール)、Bu-PBD(2-(4'-tert-ブチルフェニル)-5-(4''-ビフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール)、クマリン6、DCM1(4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-p-ジメチルアミノスチリル-4H-ピラン)、TPB(テトラフェニルブタジエン)、ナイルレッドを1,2-ジクロロメタンに溶解し、印刷法により陰極702上に転写した後、焼成して白色発光のEL層703を形成する。…
勿論、上記高分子系EL化合物は少なくとも3回以上、好ましくは5回以上の精製(典型的には透析法)を施し、含まれるイオン性不純物の濃度を0.1ppm以下(好ましくは0.01ppm以下)にしてから成膜する。こうすることでEL層703中に含まれるイオン性不純物の濃度は0.1ppm以下(好ましくは0.01ppm以下)となり、かつ、体積抵抗値は1×10^(11)?1×10^(12)Ωcm(好ましくは1×10^(12)?1×10^(13)Ωcm)となる。…
尚、本実施例ではEL層703を上記発光層のみの単層構造とするが、必要に応じて電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層もしくは正孔素子層を設けても良い。…
EL層703を形成したら、透明導電膜でなる陽極704を形成する。本実施例では、透明導電膜として酸化インジウムと酸化亜鉛との化合物を蒸着法により形成する。尚、図7では図示されていないが、複数本の陽極が紙面に垂直な方向が長手方向となり、且つ、陰極と直交するようにストライプ状に配列されている。また、図示されないが陽極704は所定の電圧が加えられるように、後にFPCが取り付けられる部分まで配線が引き出されている。」

摘記1g:段落0154
「本発明を実施することでEL素子の劣化を抑制することができ、EL表示装置の信頼性を高めることができる。また、本発明のEL表示装置を電子装置の表示部として用いることで、電子装置の信頼性を高めることができる。」

摘記1h:図7




当審において新たに提示する本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平11-54271号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の記載がある。

摘記2a:段落0050?0053
「〔合成例5〕 電子輸送材料の精製
電子輸送材料として、同仁化学社製の、アルミニウム-トリス(8-ヒドロキシキノリノール)(以下、Alqと略記する)を用いた。…
同仁化学社製Alq(これをAlq-1とした)1.0gをボート温度300℃、10^(-5)torrの条件で2回昇華精製することにより、0.7gの黄色粉末を得た。これをAlq-2とした。」

摘記2b:段落0058?0062
「〔実施例1〕…ガラス基板上に蒸着法により、厚さ100nmの…ITO膜…(陽極に相当)を設け、これを透明支持基板とした。…MTDATA-1層の上に、NPD-1を蒸着し…DPVTP-2とDPAVBi-1から成る膜厚40nmの発光層を形成した。…更に、Alq-1の入った加熱ボートに通電して、蒸着速度0.1?0.3nm/秒で上記発光層の上にAlq-1層を蒸着して、膜厚20nmのAlq-1層を設けた。…次いで、アルミニウム及びリチウム(Al-Li)から成るリチウム濃度5原子%の合金母材を陰極形成用の蒸着材料として用い、…蒸着し、膜厚150nmの陰極を形成した。」

B.刊行物1に記載された発明
摘記1fの「[実施例2] 本実施例では、本発明を単純マトリクス型EL表示装置に実施した場合の例について図7に示す。…702はアルミニウム膜とフッ化リチウム膜の積層構造(EL層に接する部分がフッ化リチウム膜)でなる陰極である。…陰極702の上には高分子系EL化合物からなるEL層(発光層のみ)703が印刷法により形成される。…印刷法により陰極702上に転写した後、焼成して白色発光のEL層703を形成する。…上記高分子系EL化合物は少なくとも3回以上、好ましくは5回以上の精製(典型的には透析法)を施し、含まれるイオン性不純物の濃度を…0.01ppm以下…にしてから成膜する。…尚、本実施例ではEL層703を上記発光層のみの単層構造とするが、必要に応じて…電子輸送層…を設けても良い。…EL層703を形成したら、透明導電膜でなる陽極704を形成する。」との記載、摘記1cの「なお、イオン性不純物とは周期表の1族もしくは2族に属する元素…を指す。」との記載、摘記1dの「低分子系EL化合物をゾーン精製法、昇華精製法、再結晶法、蒸留法、濾過法、カラムクロマトグラフィもしくは再沈殿法で精製すれば良い。」との記載、及び摘記1eの「本発明に用いることのできる代表的な低分子系EL化合物としてはAlq_(3)(トリス-8-キノリノラトアルミニウム錯体)が挙げられる。」との記載からみて、刊行物1には、
『陰極、EL層(発光層のみの単層構造とするが、必要に応じて電子輸送層を設けても良い。)、陽極を形成し、陰極がアルミニウム膜とフッ化リチウム膜の積層構造でなるEL表示装置のEL層に用いることのできるAlq_(3)(トリス-8-キノリノラトアルミニウム錯体)等のEL化合物であって、EL層に含まれる周期表の1族もしくは2族に属する元素のイオン性不純物の濃度が0.01ppm以下であるEL化合物。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

C.対比
本願の補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)と引用発明とを対比する。
引用発明の「陰極」、「発光層」、「電子輸送層」及び「陽極」は、補正発明の「陰極」、「発光層」、「電子輸送層」及び「陽極」に相当し、
引用発明の「陰極」、「EL層(発光層のみの単層構造とするが、必要に応じて電子輸送層を設けても良い。)」及び「陽極」の積層構造は、摘記1fの「陰極702の上には…EL層(発光層のみ)703が…形成される。…EL層703を形成したら、透明導電膜でなる陽極704を形成する。」との記載からみて、補正発明の「該陰極および陽極の間に、…発光層とを備え」という特徴を満たすものと解され、
引用発明の「アルミニウム膜とフッ化リチウム膜の積層構造」でなる「陰極」は、補正発明の「陰極にアルミニウムを含み」という特徴を満たすものであり、
引用発明の「EL表示装置」は、摘記1bの「エレクトロルミネッセンス(EL…)が得られる発光性有機化合物…を用いたEL表示装置」との記載、及び引用発明のEL化合物がAlq_(3)等の有機系のものであることから、補正発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当し、
引用発明の「EL層に用いることのできるAlq_(3)(トリス-8-キノリノラトアルミニウム錯体)等のEL化合物」は、摘記1dの「発光性有機化合物(以下、低分子系EL化合物という)を用いる」との記載、及び摘記1fの実施例2において、発光層のみからなるEL層に発光性有機化合物であるEL化合物が使用されていることからみて、補正発明の「発光層に用いられる発光材料」に相当し、
引用発明の「周期表の1族もしくは2族に属する元素のイオン性不純物」は、マグネシウム及びカルシウムが2族に属する金属元素であり、ナトリウムが1族に属する金属元素であることから、補正発明の「マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物」に相当し、
引用発明の「EL層に含まれる…イオン性不純物の濃度が0.01ppm以下である」については、当該不純物の濃度の総含有量が0.01ppm以下であることを意味するから、補正発明の「マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物のうち最も多いものの含有量が、2.5ppm以下である」という特徴を満たすことは明らかである。
そうしてみると、補正発明と引用発明は、『陰極および陽極と、該陰極および陽極の間に、発光層とを備え、前記陰極にアルミニウムを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の前記発光層に用いられる発光材料であって、
該発光材料を用いて、前記発光層を形成したとき、該発光層中に含まれる、マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物のうち最も多いものの含有量が、2.5ppm以下である発光材料。』である点において一致し、
(α)電子輸送層が、補正発明においては、「陰極側から順次設けられた電子輸送層および発光層」という積層順にあり、かつ、「8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む」というものであるのに対して、引用発明においては、必要に応じて設けても良い「電子輸送層」の積層順及びその組成について記載がない点、及び
(β)発光層中に含まれる金属不純物が、補正発明においては、「アルミニウムを含む」とともに、アルミニウムを含めた金属不純物のうち最も多いものの含有量が「2.5ppm以下」であるのに対して、引用発明においては、金属不純物として「アルミニウムを含む」こと、及び、その含有量の上限について記載がない点、
の2つの点においてのみ一応相違している。

D.判断
上記(α)及び(β)の相違点について検討する。
相違点(α)について、摘記2bの「発光層の上に…膜厚20nmのAlq-1層を設けた。…次いで、…膜厚150nmの陰極を形成した。」との記載、及び摘記2aの「電子輸送材料として、同仁化学社製の、アルミニウム-トリス(8-ヒドロキシキノリノール)(以下、Alqと略記する)を用いた。… 同仁化学社製Alq(これをAlq-1とした)」との記載からみて、電子輸送層を設ける場合においては、陰極と発光層との間に電子輸送層を設けるのが一般的な技術常識であり、電子輸送層に用いられる電子輸送材料として、補正発明の「8-ヒドロキシキノリン アルミニウム」と合致する「アルミニウム-トリス(8-ヒドロキシキノリノール)」という化合物(CAS登録番号:24731-66-6)を用いることも、当業者にとって周知ないし刊行物公知であるから、引用発明の必要に応じて設けられても良い「電子輸送層」の積層順を「陰極側から順次設けられた電子輸送層および発光層」という積層順にして、かつ、その電子輸送材料として「8-ヒドロキシキノリン アルミニウム」を採用することは、当業者にとって格別の創意工夫を要することではない。
相違点(β)について、補正後の明細書の段落0067には、実施例21?30の発光材料として、「トリス(4-メチル-8-ハイドロキシキノリン)アルミニウム」というアルミニウム錯体を用いることが記載され、同段落0068には、実施例31?40の発光材料として、「トリス(4-メチル-8-ハイドロキシキノリン)アルミニウムと、トリス(5-クロロ-8-ハイドロキシ-キノリネイト)-アルミニウム」というアルミニウム錯体を用いることが記載され、同段落0069には、比較例3?4において、発光材料の精製を省略したことが記載されている。
そして、同段落0061、0071及び0078?0079の表3?4には、比較例3及び4のアルミニウム不純物含有量が、発光材料を2.0wt%となるようにトルエンに溶解した発光材料溶液に調製した場合に、各々4+(40ppb以下)及び3+(30ppb以下)となること、これらのものを金属不純物の総含有量(Total)が7+(200ppb以下)になる程度の精製を行った場合に、アルミニウム不純物含有量が+(10ppb以下)又は2+(20ppb以下)にまで減じられることが示されている。
ここで、発光材料を2.0wt%となるようにトルエンに溶解した発光材料溶液に調製した場合における4+(40ppb以下)及び7+(200ppb以下)という金属不純物の含有量を、発光層中における含有量に換算してみると「2.0ppm以下」及び「10ppm以下」ということになるところ、引用発明の「Alq_(3)(トリス-8-キノリノラトアルミニウム錯体)等のEL化合物」は、補正後の明細書の実施例21?40と同様のアルミニウム錯体からなる発光材料であるから、補正発明と同様に若干のアルミニウムが金属不純物として含有されるものと解するのが自然であり、その場合の含有量は、精製工程を経ていない補正後の明細書の比較例3及び4におけるアルミニウム不純物の含有量が発光層中に含まれる含有量に換算した場合に「2.0ppm以下」というオーダーになっていること、ましてや、引用発明はイオン性不純物の総含有量を「10ppm以下」の千分の一の「0.01ppm以下」というオーダーにまで低減する精製工程を複数回繰り返しているものであることから、引用発明の「EL層」に含まれるアルミニウム不純物の濃度が「2.5ppm」を超える量にあるとは解せない。してみると、相違点(β)について、両者に実質的な差異は認められない。
次に、補正発明の効果について検討する。
補正後の明細書の実施例1?40は、補正発明の具体例に相当するものではなく、補正後の明細書の発明の詳細な説明を精査しても、補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるもの全てについて、格別の効果ないし技術上の意義があることについての明確かつ十分な説示ないし裏付けがない。してみると、補正発明に格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

E.小括
以上総括するに、補正発明は、刊行物1に記載された発明(及び刊行物2に記載された技術常識)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、補正発明は、独立特許要件に違反するものであるから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしてない。

(エ)まとめ
以上総括するに、請求項1についての補正は、目的要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであり、また、仮に請求項1についての補正が目的要件を満たすとしても、独立特許要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年9月13日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成19年6月21日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、理由1として、『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由を含むものである。そして、当該「下記の刊行物」として、上記2.(2)イ.(ウ)A.に示したとおりの刊行物1(特開2001-214159号公報)が引用されている。

(3)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「刊行物1」及びその記載事項は、上記2.(2)イ.(ウ)A.に示したとおりである。

(4)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記2.(2)イ.(ウ)B.に示したとおりの「引用発明」、すなわち、
『陰極、EL層(発光層のみの単層構造とするが、必要に応じて電子輸送層を設けても良い。)、陽極を形成し、陰極がアルミニウム膜とフッ化リチウム膜の積層構造でなるEL表示装置のEL層に用いることのできるAlq_(3)(トリス-8-キノリノラトアルミニウム錯体)等のEL化合物であって、EL層に含まれる周期表の1族もしくは2族に属する元素のイオン性不純物の濃度が0.01ppm以下であるEL化合物。』が記載されている。

(5)対比・判断
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「補正発明」の「陰極および陽極と、該陰極および陽極の間に、前記陰極側から順次設けられた電子輸送層および発光層とを備え、前記陰極にアルミニウムを含み、かつ前記電子輸送層に8-ヒドロキシキノリン アルミニウムを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の前記発光層に用いられる発光材料」との発明特定事項を、「有機エレクトロルミネッセンス素子が備える発光層に用いられる発光材料」との発明特定事項に置き換えたものである。
そこで、上記2.(2)イ.(ウ)C.における検討を踏まえて、本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「陰極、EL層(発光層のみの単層構造とするが、必要に応じて電子輸送層を設けても良い。)、陽極を形成し、陰極がアルミニウム膜とフッ化リチウム膜の積層構造でなるEL表示装置のEL層に用いることのできるAlq_(3)(トリス-8-キノリノラトアルミニウム錯体)等のEL化合物」は、摘記1dの「発光性有機化合物(以下、低分子系EL化合物という)を用いる」との記載、及び摘記1fの実施例2において、発光層のみからなるEL層に発光性有機化合物であるEL化合物が使用されていることからみて、本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子が備える発光層に用いられる発光材料」に相当し、
引用発明の「周期表の1族もしくは2族に属する元素のイオン性不純物」は、マグネシウム及びカルシウムが2族に属する金属元素であり、ナトリウムが1族に属する金属元素であることから、本願発明の「マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物」に相当し、
引用発明の「EL層に含まれる…イオン性不純物の濃度が0.01ppm以下である」については、当該不純物の濃度の総含有量が0.01ppm以下であることを意味するから、本願発明の「マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物のうち最も多いものの含有量が、2.5ppm以下である」という特徴を満たすことは明らかであるから、
本願発明と引用発明は、『有機エレクトロルミネッセンス素子が備える発光層に用いられる発光材料であって、
該発光材料を用いて、前記発光層を形成したとき、該発光層中に含まれる、マグネシウム、カルシウムおよびナトリウムのうちの1種または2種以上を含む金属不純物のうち最も多いものの含有量が、2.5ppm以下である発光材料。』である点において一致し、
(β’)発光層中に含まれる金属不純物が、本願発明においては、「アルミニウムを含む」とともに、アルミニウムを含めた金属不純物のうち最も多いものの含有量が「2.5ppm以下」であるのに対して、引用発明においては、金属不純物として「アルミニウムを含む」こと、及び、その含有量の上限について記載がない点においてのみ一応相違しているが、当該相違点(β’)は、上記2.(2)イ.(ウ)C.において検討した相違点(β)と同様のものであるから、上記2.(2)イ.(ウ)D.において検討したのと同様の理由により、この点に関して、両者に実質的な差異は認められない。
したがって、本願発明は、発明特定事項において引用発明と相違する点がないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

(6)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-17 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-10-04 
出願番号 特願2003-206954(P2003-206954)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09K)
P 1 8・ 537- Z (C09K)
P 1 8・ 572- Z (C09K)
P 1 8・ 575- Z (C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 松本 直子
木村 敏康
発明の名称 発光材料、発光材料の精製方法および層形成方法  
代理人 増田 達哉  

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