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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1227213
審判番号 不服2009-1898  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-23 
確定日 2010-11-18 
事件の表示 平成11年特許願第309522号「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月 8日出願公開、特開2001-120687〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成11年10月29日の出願であって、平成20年10月20日に手続補正がなされ、同年12月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年1月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年2月23日付けで手続補正がなされたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成21年2月23日付け手続補正によって補正された明細書の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によりそれぞれ特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「ゴルフボール本体の表面にクリアー塗膜(ただし、顔料を含有する塗膜を除く)が形成されたワンピースゴルフボールであって、
前記ゴルフボール本体はブタジエンゴムを主成分とする基材ゴムと、共架橋剤と、アゾ顔料とを含有するゴム組成物を加硫成形して得られ、
当該ワンピースゴルフボールの色調をLab方式で表わしたとき、L値、b値が下記を満足するように、アゾ顔料が前記ゴム組成物に配合されていることを特徴とするゴルフボール。
L≧85
b=90?110」

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-261166号公報(以下「引用例」という。)には、次の(1)ないし(3)の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)

(1) 「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は現在、黄味を有するエナメル塗料で被覆されたゴルフボールは色彩色差計によるLab色差のb差が18以上あるために下地が露出した場合に外観の美しさを阻害してしまう原因ではないかと考えた。そこで、エナメル塗料被覆前後のb値の差を15以内にすることで、下地が露出した際にも露出した部分を目立ちにくくすることができることを見出し本発明をなすに到った。
【0005】即ち、本発明はゴルフボール表面に黄味を有するエナメル塗料を被覆した塗装ゴルフボールにおいて、該エナメル塗膜が色彩色差計によるLab色素でb=30以上を有し、かつエナメル塗料を被覆する前後でbの差が15以内になることを特徴とする塗装ゴルフボールを提供する。
【0006】本発明に記載するLab色差はJIS Z8701又はJIS Z8728に規定する三刺激値X、Y、Zを用いて次式のように換算される。
【0007】
【化1】

【0008】[式中、Xn、Yn、Zn:完全拡散反射面のXYZ系における三刺激値を示す。]
【0009】上記式によりLは明度を、abは色彩を表わし、特にaは赤-緑方向、bは黄-青方向が表わされる。またLは大きくなると、明るく、aは大きくなると赤く、bは大きくなると黄を示す。
【0010】本発明では、Lab色差は色彩色差計(ミノルタカメラ株式会社から市販のCR-221)を使用して測定する。」

(2) 「【0011】本発明で用いるエナメル塗料はb=30以上の黄味を有することを特徴としており、エナメル塗料被覆前後の色差がb=15以内特に10以内にすることが望ましい。bが上記範囲外であると、ボールの外観の耐久性が悪く、商品価値が低くなる。本発明ではこのb値のみのコントロールでよいが、その他のL,a値も必要に応じてコントロールされる。
【0012】L値は70以上であり、エナメル塗料の被覆前後のL値の差が10以内であることが好ましい。L値が上記範囲外であると上記bと同様にボールの外観の耐久性が悪く、商品価値を低くする。更に、a値もコントロールする必要があるが、エナメル塗料被覆前後のa値の差が10以内、特に5以内が好適である。a値がこの範囲外の場合についても上記b,Lと同様にボールの外観の耐久性が悪く、商品価値を低くする。
【0013】上記Lab値にゴルフボール表面およびエナメル塗膜をコントロールすることは、配合顔料の種類、量等の条件によりなし得る。
【0014】本発明の製造に付されるゴルフボールとしては、特に限定されないが、例えば基材ゴムと共架橋剤とを含有するゴム組成物を加硫成形して製造されたゴルフボール、カバーにアイオノマー樹脂を使用するゴルフボール、カバーにバラタゴムを使用するゴルフボールが挙げられる。
【0015】また本発明の塗装方法は特に限定されず、エアガン塗装、静電塗装が挙げられるが、上記塗装によりエナメル膜厚が3μm以上50μm以下特に10μm以上30μm以下であることが望ましい。
【0016】
【発明の効果】本発明によれば、エナメル塗膜が摩滅したり傷付いたりして下地が露出しても露出部分を目立たなくできるために特に“打ち放しと呼ばれるゴルフ練習場で効果が大きい。」

(3) 「【0017】
【実施例】本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されてよい。
【0018】実施例1?8および比較例1?8
以下のゴルフボール配合からワンピースゴルフボールを作成した。
【0019】
ゴルフボール配合例
成 分 重量部
ハイシスポリブタジエン 100
酸化亜鉛 23
メタクリル酸 24
ジクミルパーオキサイド 1.5
顔料(住化カラー製LB305(黄)、LB045(赤)使用) 0.001?3.0の範囲で使用
【0020】上記配合を混練した後、160℃30分間加硫成形を行なって1ピースゴルフボールを得た。ゴルフボールのLab値を顔料の配合量で調製し、表-1および表-2に示す塗装前のゴルフボールを得た。
【0021】上記ゴルフボールをショットブラストを行なった後アルコールで洗浄、乾燥後膜厚20μmになるようにウレタンペイントを塗装した。ペイントは酸化チタン、黄鉛により着色し、ボールと同様Labを調整した。
【0022】尚色彩測定はミノルタ製、CR-221使用してLabを測定した。石、上記ボール、水を含んだボールミルを150rpmで5時間回転させた後、ボール外観を下記要領でチェックした。結果を表-1および表-2に示す。
【0023】
【表1】

…(略)…
【0025】◎ エナメル塗料の露出部がほとんど目立たない
○ エナメル塗料の露出部がボールを手にとるとわかる。
× エナメル塗料の露出部が2?3mはなれてもわかる。」

(4) 摘記(1)ないし(3)を含む引用例全体、特に、実施例1から、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「塗装前のゴルフボールの表面に、酸化チタン及び黄鉛を含み黄味を有するエナメル塗膜を被覆したワンピースゴルフボールであって、
塗装前のゴルフボールは、ハイシスポリブタジエン100重量部、酸化亜鉛23重量部、メタクリル酸24重量部、ジクミルパーオキサイド1.5重量部、顔料(住化カラー製LB305(黄)、LB045(赤)使用)0.001?3.0重量部を成分とするゴルフボール配合を加硫成形して得たものであり、
塗装前のゴルフボールのLab値は、L=84.89,a=-6.85,b=89.54であり、
塗装後のゴルフボールのLab値は、L=84.78,a=-5.23,b=81.40である、
ゴルフボール。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「塗装前のゴルフボール」、「ハイシスポリブタジエン」及び「メタクリル酸」は、それぞれ、本願発明の「ゴルフボール本体」、「ブタジエンゴムを主成分とする基材ゴム」及び「共架橋剤」に相当する。

(2)引用発明のワンピースゴルフボールは、「ゴルフボール本体(塗装前のゴルフボール)」の表面に、酸化チタン及び黄鉛を含み黄味を有するエナメル塗膜を被覆したものであるから、引用発明の「ワンピースゴルフボール」と本願発明の「ゴルフボール本体の表面にクリアー塗膜(ただし、顔料を含有する塗膜を除く)が形成されたワンピースゴルフボール」とは、「ゴルフボール本体の表面に塗膜が形成された」ものである点で一致する。

(3)引用発明の「顔料(住化カラー製LB305(黄))」と、本願明細書の【0022】に記載された「有機顔料である住化カラー社製のLB305(黄色)」とは、製造会社、品番及び色がいずれも同一であることからみて、同一の顔料と認められる。
そして、本願明細書の「【0019】
顔料としては、無機顔料として、べんがら(Fe_(2)O_(3))、鉛丹(Pb_(3)O_(4))、モリブレンレッド、カドミウムレッド等の赤色顔料;チタンイエロー(20TiO_(2)-NiO-Sb_(2)O_(3))、リサージ(PbO)、黄鉛(PbCrO_(4))、黄色酸化鉄(FeO(OH))、カドミウムイエロー等の黄色顔料が用いられる。有機顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン系顔料などを用いることができるが、耐熱性、耐候性の良い顔料を使用することが好ましく、特にアゾ顔料が好ましく用いられる。アゾ顔料としては、ピグメントイエロー-1、ピグメントイエロー-12、ピグメントレッド-3、ピグメントレッド-57、ピグメントオレンジ-13等が挙げられる。」及び「【0022】
尚、顔料としては、有機顔料である住化カラー社製のLB305(黄色)、LB200(橙)、レジノカラー工業製BX LB(赤)を表2に示す配合で使用し…(略)…【0024】【表2】

」との記載からみて、上記【0024】【表2】に記載された本願発明の実施例1?3すべてに共通して含まれている唯一の顔料である「住化カラー社製のLB305(黄色)」は、本願発明の「アゾ顔料」に相当するものと認められる。
したがって、引用発明の「顔料(住化カラー製LB305(黄))」は、本願発明の「アゾ顔料」に相当する。

(4)引用発明の「ゴルフボール本体(塗装前のゴルフボール)」は、「ブタジエンゴムを主成分とする基材ゴム(ハイシスポリブタジエン)」、酸化亜鉛、「共架橋剤(メタクリル酸)」、ジクミルパーオキサイド、「アゾ顔料(顔料(住化カラー製LB305(黄)))」、顔料(住化カラー製LB045(赤))を成分とするゴルフボール配合を加硫成形して得たものであるから、引用発明の「ゴルフボール本体」と本願発明の「ゴルフボール本体」とは、「ブタジエンゴムを主成分とする基材ゴムと、共架橋剤と、アゾ顔料とを含有するゴム組成物を加硫成形して得られ」たものである点で一致する。

(5)引用発明のワンピースゴルフボールは、塗装前のゴルフボールの表面に、酸化チタン及び黄鉛を含み黄味を有するエナメル塗膜を被覆し、塗装後のゴルフボールのLab値を、L=84.78,a=-5.23,b=81.40としたものであるから、引用発明のワンピースゴルフボールは、エナメル塗膜に含まれる酸化チタン及び黄鉛により規定される「黄味」の色調を有するものである。
また、本願明細書の【0010】の「本発明のワンピースゴルフボールは、その色調をLab方式で表わしたときのL値、b値が下記を満足する様にゴム組成物と顔料とを適宜組み合せることで、ボール表面に着色塗装することなく、鮮やかな黄味の色調が得られるものである。
L≧85
b=90?110」
との記載からみて、本願発明のワンピースゴルフボールは、ゴム組成物と組み合せられる顔料により規定される「鮮やかな黄味の色調」を有するものである。
したがって、引用発明の「ワンピースゴルフボール」と本願発明の「ワンピースゴルフボール」とは、「黄味の色調を有する」ものである点で一致する。

(6)上記(1)ないし(5)から、本願発明と引用発明とは、
「ゴルフボール本体の表面に塗膜が形成されたワンピースゴルフボールであって、
前記ゴルフボール本体はブタジエンゴムを主成分とする基材ゴムと、共架橋剤と、アゾ顔料とを含有するゴム組成物を加硫成形して得られ、
当該ワンピースゴルフボールは黄味の色調を有する、ゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明では、前記塗膜が「クリアー塗膜(ただし、顔料を含有する塗膜を除く)」であるので、前記ゴルフボールの黄味の色調は、前記ゴルフボール本体に含有される「アゾ顔料」により規定され、Lab方式で表わしたとき「L≧85,b=90?110」であるのに対して、
引用発明では、前記塗膜が「黄味を有するエナメル塗膜」であるので、前記ゴルフボールの黄味の色調は、前記塗膜に含有される「酸化チタン及び黄鉛」により規定され、Lab方式で表わしたとき「L=84.78,a=-5.23,b=81.40」である点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)顔料を含まないクリアー塗膜を表面に有するゴルフボールは、本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.特開平8-10356号公報「【0002】【従来の技術】ゴルフボールは通常、外観を美しく見せるためまたは表面を傷から守るため、塗料が塗装されている。その塗膜は酸化チタン等の顔料を含んだエナメル塗料および顔料を含んでいないクリアー塗料、またはクリアー塗料のみから形成されている。」、特開平9-276447号公報「【0019】…(略)…H:顔料を含まない二液硬化型ウレタンペイント(クリアーペイント)を使用し、ゴルフボールの表面にスプレー塗装した後、45℃で24時間乾燥する。ペイント付着量は200mgである。」参照。)ところ、このゴルフボールの色調は、クリアー塗膜の下地色で規定されることが明らかである。
(2)ゴルフボールの色調は、当業者がゴルフボールの使用者の嗜好などを考慮して適宜決定すべき設計事項というべきものである。
(3)引用例には、「上記Lab値にゴルフボール表面およびエナメル塗膜をコントロールすることは、配合顔料の種類、量等の条件によりなし得る。」(上記2(2)の【0013】参照。)と記載されている。
(4)上記(1)ないし(3)から、引用発明において、ゴルフボール本体の表面の塗膜として、黄味を有するエナメル塗膜に代えて、顔料を含まないクリアー塗膜を用いるとともに、該クリアー塗膜の下地となる前記ゴルフボール本体に含有されるアゾ顔料の種類、量等の条件を変えることにより、ゴルフボールの黄味の色調を、Lab方式で表わしたとき「L≧85,b=90?110」であるものとなし、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(5)効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果、引用例に記載された事項及び周知技術の奏する効果から予測できた程度のものである。

(6)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-15 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-10-04 
出願番号 特願平11-309522
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
菅野 芳男
発明の名称 ゴルフボール  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 悦司  
代理人 江川 勝  

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