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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1227220
審判番号 不服2009-6884  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-02 
確定日 2010-11-18 
事件の表示 特願2006-267571「渦電流探傷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年4月17日出願公開、特開2008-89328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成18年9月29日にされた特許出願(2006年特許願第267571号。以下、「本件出願」という。)につき、平成21年2月19日付けで同年2月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定(発送日:同年3月3日)がなされたところ、これに対し、同年4月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同月24日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年4月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成21年4月24日付けの手続補正を却下する。

2 補正却下の決定の理由
(1)平成21年4月24日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本件出願明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正することを含むものである。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成20年11月10日付け手続補正書)

「【請求項1】
検査対象物の探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブと、前記渦電流探傷センサからの検出信号を入力する渦電流探傷器と、前記検査対象物に形成された孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材を備えたことを特徴とする渦電流探傷装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
検査対象物に形成された孔部内に挿入され、この孔部内での探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブと、前記渦電流探傷センサからの検出信号を入力する渦電流探傷器と、支持装置によって支持されて前記検査対象物に形成された他の孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材を備え、
前記渦電流探傷センサが一対の渦電流探傷コイルを有し、
それぞれの前記渦電流探傷コイルに用いられた各磁性体コアの直径を0.1mm以上0.5mm以下の範囲にすることを特徴とする渦電流探傷装置。」
(なお、下線部は補正された箇所である。)

(2) 本件補正の目的の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明について、「検査対象物の探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブ」、及び「前記検査対象物に形成された他の孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材」を、それぞれ「検査対象物に形成された孔部内に挿入され、この孔部内での探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブ」、及び「支持装置によって支持されて前記検査対象物に形成された他の孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材」と補正することは、プローブの構成要件、及び支持部材の構成要件をさらに限定し、特定するものであり、また、「前記渦電流探傷センサが一対の渦電流探傷コイルを有し、それぞれの前記渦電流探傷コイルに用いられた各磁性体コアの直径を0.1mm以上0.5mm以下の範囲にする」構成を付加することは、渦電流探傷センサの構成要件をさらに限定し、特定するものである。
そうすると、本件補正は減縮する補正を含む補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前(以下、単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) 独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)引用刊行物記載の発明
(3A)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された特開昭63-44162号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与したものである。以下、同様である。)

(3A-1)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、製紙用サクションロールのロールシェルの亀裂を検出する装置に関する。」(1頁左下欄17?19行)

(3A-2)「〔従来の技術〕
・・・
サクションホールの亀裂の検出は、センサとして、例えば第9図に示すように、磁心(721)にコイル(722)を捲装したプローブ(72)を支持棒(71)の先端に取付けたものを用いて行うことができる。プローブ(72)をサクションホール(SH)内に挿入して、コイル(722)に交流電流を通じると、相互誘導作用により周囲の導体(ロールシェル)に閉電流が生じ、コイルのインピーダンスが低下する。この場合、ホール(SH)内壁面に亀裂が存在すると閉電流経路の電気抵抗の変化により、コイルの実効インピーダンスが増大するので、コイルのインピーダンスの変化およびその変化量から、亀裂の有無とその進展状況を非破壊的に判定することができる。」(1頁左下欄20行?2頁13行)

(3A-3)「〔実施例〕
第1図は本発明の亀裂検出装置の実施例を示している。第2図〔I〕、〔II〕は亀裂検出装置を被検体であるサクションロールシェルに設置した状態を示している。
・・・
進退移動部(30)は、ステージ(32)と、ステージの背面に取付けられているステージ駆動モータ(33)と、ステージ前面に係着されているアーム(34)とを備えている。(31)は基台(10)に垂設されたステージ固定台である。ステージ(32)はステージ駆動モータ(33)により、ステージ固定台(31)の板面に沿って、基台(10)の板面に対し垂直な方向に移動するようにステージ固定台(31)に取付けられている。
またステージ(32)の前面には、アーム案内溝(321,321)が基台(10)の板面に対する垂直な方向に形設されており、アーム(34)は該アーム案内溝(321,321)に沿って基台(10)板面に垂直な方向の移動が可能なように係着されている。
スライド部(40)は、前記進退移動部(30)のアーム(34)に固着された支持板(41)と、これに重ね合わされた2つのスライド板(42)と(43)とからなる。」(2頁左下欄10行?3頁左上欄14行)

(3A-4)「センサ固定部(60)は、センサ固定板(61)、センサ案内板(62)、ガイド棒(63)およびセンサ固定板(61)に止着された複数のセンサ(70)により構成され、センサ固定板(61)を握持するつかみ部材(50,50)を介して前記スライド部(40)の下部スライド板(43)に取付けられている。
センサ案内板(62)には、サクションロールシェルのサクションホール(SH)配列パターンに一致する配列パターンを以てセンサガイド孔(621)が穿設されており、その上面の四隅にはセンサ固定板(61)を取付けるためのガイド棒(63)が垂設され、下面の四隅には脚部(64)が設けられている。該脚部(64)は、センサガイド孔(621)と同じようにサクションホール(SH)の配列パターンに対応して設けられており、脚部(64)をサクションホール(SH)に係止させると、各ガイド孔(621)はサクションホール(SH)の1つひとつに相対向する。
センサ固定板(61)には、前記センサ案内板(62)のセンサガイド孔(621)群の配列パターンに一致する配列パターンを以てセンサガイド孔(621)と同じ孔数のセンサ取付孔(611)が形成されており、またセンサ固定板(61)の四隅には前記センサ案内板(62)に垂設されているガイド棒(63)を貫入する孔(612)が穿設されている。センサ案内板(62)とセンサ固定板(61)とは、ガイド棒(63)に案内されて近接しまたは離間する。センサ固定板(61)とセンサ案内板(62)の近接・離間の移動距離は、被検体であるサクションロールシェル(SH)の厚さ(サクションホール深さ)に略等しい。なお、センサ固定板(61)の四隅の孔(612)からガイド棒(63)が抜け落ちるのを防ぐために、各ガイド捧(63)の頂部にはストッパ(631)が設けられている。
センサ固定部(60)に取付けられるセンサ(70)は、センサ案内板(62)のセンサガイド孔(621)の孔数(従って、センサ固定板(61)のセンサ取付孔(611)の孔数)と同数のセンサ(70)を1組とし、各センサ(70)は、その上端部がセンサ固定板(61)のセンサ取付孔(611)に止着され、その下部はセンサ案内板(62)のセンサガイド孔(621)を貫通してセンサ案内板(62)の裏面側に突出している。
センサ(70)は、第5図に示すように、支持棒(71)と、その下端部の検出プローブ(72)および検出プローブ(72)から上方に延在するエナメル線(73)を保護し、かつサクションホール(SH)内への挿入を滑らかにするために、略その全長に恒ってプラスチックチューブ(74)で被覆するとよい。
・・・
また、センサ(70)のエナメル線(73)の線径は、例えば、0.1?0.03mと極細であるので、亀裂検出作業時に張力が加わると断線し易い。これを防止するために、第7図に示すように、センサ固定板(61)の適所にターミナル(613)を付設し、エナメル線(73)を一旦ターミナル(613)につなぎ、リード線(614)を計測機本体に接続するとよい。」(3頁右上欄11行?4頁左上欄20行)

(3A-5)「上記亀裂検出装置によりサクションロールシェルの亀裂検出を行うには、まず前述のように基台(10)の脚部(20)のマグネットベース(24)を、基台(10)の四隅に定められた脚部(20)の位置に対応する位置にあるサクションホール(SH)、例えば第8図に示す4つのサクションホール(P)、(Q)、(R)、(S)のそれぞれに取付けたうえ、くさび(22)を介してその上部に基台(10)を載設することにより装置全体を位置決めする。この位置決めにより、1組のセンサ(70)を有するセンサ固定部(60)は領域(R_(1))に相対面する。また、この場合、予め基台(10)に対するセンサ固定部(60)の位置関係をサクションホール(SH)の配列パターンに対応させておけば、センサ固定部(60)が領域(R1)に相対面すると同時に、センサ固定部(60)のセンサ案内板(62)の四隅の各脚部(64)(64)(64)(64)は、それが係止されるべきサクションホール(p)(q)(r)(s)のそれぞれに略相対向するように位置せしめられる。
ついで、ステージ(32)をステージ駆動モータ(33)により降下させてセンサ固定部(60)をサクションロールシェル(SR)の表面に近づける。このとき、センサ案内板(62)の各脚部(64)(64)(64)(64)と、それらの係止すべきサクションホール(p)(q)(r)(s)とが正確に対応していない場合には、手動操作によりスライド部(40)を一方向(χ方向もしくはy方向)または直角二方向にスライド調整すことにより、各脚部(64)(64)(64)(64)をサクションホール(p)(q)(r)(s)の鉛直上方に正確に一致させたうえで、アーム(34)を降下させて各脚部(64)(64)(64)(64)をサクションホール(p)(q)(r)(s)のそれぞれに着地させる。各脚部(64)(64)(64)(64)と1組のセンサ(70)の配列パターンはサクションホール(SH)の配列パターンと一致しているので、各脚部(64)(64)(64)(64)を上記のようにサクションホールに着地させることによって、1組のセンサ(70)のそれぞれは、領域(R_(1))内のサクションホール(SH)の1つひとつに対して第2図に示すように正確に指向する。
しかるのち、アーム(34)を降下させてセンサ固定部(60)のセンサ固定板(61)をガイド捧(63)に沿って押し下げていけば、1組のセンサ(70)は、センサ案内板(62)のセンサガイド孔(621)を通過しながら、サクションホール(SH)の1つひとつの孔内に進入する。サクションホール(SH)内に挿入されたセンサ(70)の先端のプローブ(72)挿入深さは、センサ固定板(61)の昇降動により自由に調節することができる。
こうして、センサ固定部(60)の1組のセンサ(70)の測定対象となるサクションロールシェル表面の1つの領域(R_(1))(第8図)について、各サクションホール(SH)の亀裂検出を行ったのち、センサ固定部(60)を上方に引き挙げることにより各センサ(70)をサクションホール(SH)から引き抜き、装置全体を次の場所に移動し、例えば領域(R_(2))のサクションホール(SH)の亀裂検出を行う。」(4頁右上欄1行?右下欄17行)

(3A-6)「また、上記実施例では、装置全体をサクションロールシェル上に設置することとしたが、連通な台盤上に設置しでセンサ固定部(60)をサクションロールシェルの表面に対面させるようにしてもよい。その場合、センサ固定部(60)は必ずしもサクションロールシェルの鉛直上面に対面させる必要はなく、サクションロールシェルに対し横方向から対面させるようにしてもよい。」(5頁右上欄1?8行)

(3A-7)第2図〔I〕及び〔II〕には、センサ案内板62の下面の四隅に、脚部(64)が設けられ、この脚部(64)の先端部がサクションホール(SH)の孔内に侵入することが描かれている。
さらに、図9図には、プローブ(72)がコイル(722)を捲装した磁心(721)からなるプローブ(72)において、サクションホール(SH)の孔の表面に平行に磁心(721)を配置することが描かれている。

上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-1)?(3A-7)の記載のうち、(3A-3)?(3A-7)の記載を特に参照すると、上記引用刊行物Aには、
「支持棒(71)と、その下端部設けられた検出プローブ(72)と、検出プローブ(72)から上方に延在するエナメル線(73)とを有するとともに、センサ固定板(61)に止着され、サクションロールシェルのサクションホール(SH)内に挿入される複数のセンサ(70)と、
エナメル線(73)がつながれたターミナル(613)を介してリード線(614)で接続された計測機本体と、
複数のセンサ(70)を貫通させるセンサガイド孔(621)が穿設されるとともに、上面の四隅にセンサ固定板(61)を取付けるためのガイド棒(63)が垂設され、さらに、下面の四隅にはサクションホール(SH)に係止される脚部(64)が設けられているセンサ案内板(62)と、
を有するサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置。」
の発明(以下、「引用発明a」という。)が記載されているものと認める。

(3B)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された特開昭60-93954号公報(以下、「引用刊行物B」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3B-1)「〔発明の技術分野〕
本発明はタービンおよびタービン発電機等の回転子中心孔内表面の欠陥を検出する渦流探傷装置に関する。」(1頁右下欄14?17行)

(3B-2)「〔発明の実施例〕
・・・
第1図において、1は円板状の探傷ヘツド本体で、この探傷ヘツド本体1内には筒状に成形された複数個の渦流探傷用の検査コイル2_((1))?2_((n))が外周面に沿つて放射状に密に埋設されている。これら各検査コイル2_((1))?2_((n))は探傷ヘツド本体1の略中心部に取付けられた探傷ヘツド駆動軸4内に挿通された接続ケーブル3(3_((1)),3´_((1))?3_((n)),3´_((n)))のそれぞれ対応する一端に接続されている。これら探傷ヘツド本体1および探傷ヘツド駆動軸4は探傷ヘツドを構成している。第2図(a),(b)は中心孔を有する被検査体、ここでは回転子の中心孔内表面を検査する場合の渦流探傷装置全体の構成例を示すものである。第2図(a),(b)において、5は架台上に配置された駆動機構で、この駆動機構5は探傷ヘツド駆動軸4をその長手方向に進退させて前記探傷ヘツド本体1を回転子6の中心孔内を軸方向に移動させるものである。一方、7は探傷ヘツド4内の接続ケーブル3の他端が接続されたコイル選択回路で、このコイル選択回路7は後述する制御器12からの指令により複数の検査コイル2_((1))?2_((n))のうち、隣接する2つのコイルをペアーとして選択しながら順次切り換えるものである。8a,8bはコイル選択回路7により選択された2つの検査コイル2_((i))?2_((i+1))に対して通電及び被検査体に生じる渦流による信号をそのコイルのインピーダンスに応じた信号としてそれぞれ測定するインピーダンス測定回路、9はこれらインピーダンス測定回路の8a,8bに対してコイルを励磁するための電源として発振周波数が可変な出力を供給する発振器である。また10はインピーダンス測定回路8a,8bにより測定された検査コイルのインピーダンスに応じた電圧信号が入力される信号処理器、11はこの信号処理機により画像表示に必要な信号処理がなされた信号が入力されるCRT表示器で、このCRT表示器11は、中止孔内表面の展開図上に欠陥位置を表示する、即ちCスコープ像として表示するものである。さらに12は、コイル選択回路7に対してはコイル選択指令、発振器9に対しては発振動作指令、信号処理器10に対しては信号処理データ、そしてCRT表示器11に対しては同期信号等をそれぞれ与える制御器で、この制御器12は信号処理器10から出力される2つの検査コイルのインピーダンスに応じた信号を比較してその差を求め、その結果から回転子の中心孔内表面の欠陥の有無を判定するものである。13はこの制御器12により判定された探傷結果を保存するフロツピーデスク等の記録媒体である。」(2頁右下欄3行?3頁右上欄17行)

(3B-3)第2図(a)には、先端に探傷ヘッド本体1を取り付けた棒状の探傷ヘッド駆動軸4が駆動機構5に接続されることが描かれている。

上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-1)?(3B-3)の記載を参照すると、上記引用刊行物Bには、
「タービンおよびタービン発電機等の被検査体の回転子6の中心孔内を軸方向に移動し、外周面に沿つて検査コイル2_((1))?2_((n))が埋設されている円板状の探傷ヘツド本体1と、
各検査コイル2_((1))?2_((n))に接続された接続ケーブル3、及び接続ケーブル3の他端に接続されたコイル選択回路7を介して、被検査体に生じた渦流による信号を各検査コイル2_((1))?2_((n))のインピーダンスに応じた信号として測定するインピーダンス測定回路8a,8bと、
インピーダンス測定回路8a,8bにより測定された検査コイルのインピーダンスに応じた電圧信号が入力される信号処理器10と、
探傷ヘツド本体1の略中心部に取付けられ、駆動機構5により軸の長手方向に進退させられる探傷ヘツド駆動軸4とからなる被検体の回転子中心孔内表面の欠陥を検出する渦流探傷装置。」
の発明(以下、「引用発明b」という。)が記載されているものと認める。

(イ)本願補正発明と引用発明aとの対比・判断
(イ-1)本願補正発明と引用発明aとを対比する。
(i)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)には、従来技術として、「サクションホールの亀裂の検出は、センサとして、例えば第9図に示すように、磁心(721)にコイル(722)を捲装したプローブ(72)を支持棒(71)の先端に取付けたものを用いて行うことができる。プローブ(72)をサクションホール(SH)内に挿入して、コイル(722)に交流電流を通じると、相互誘導作用により周囲の導体(ロールシェル)に閉電流が生じ、コイルのインピーダンスが低下する。この場合、ホール(SH)内壁面に亀裂が存在すると閉電流経路の電気抵抗の変化により、コイルの実効インピーダンスが増大するので、コイルのインピーダンスの変化およびその変化量から、亀裂の有無とその進展状況を非破壊的に判定することができる。」ことが記載されており、この閉電流が、電磁気学的にみて、渦電流であることは、例えば特開平10-47589号公報の5頁7欄20行に「閉電流(渦電流ともいう)」と記載されているように、技術常識であることからみて、引用発明aのサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置の「複数のセンサ(70)」の「検出プローブ(72)」が、上記従来技術のサクションホールの亀裂の検出するプローブ(72)と同様に、サクションロールシェルのサクションホール(SH)内に挿入され、サクションホールの亀裂の検出を閉電流経路の電気抵抗の変化を検出する、すなわち、渦電流の変化を検出するセンサであることは明らかである。
よって、引用発明aの「検出プローブ(72)」は、本願補正発明の「渦電流探傷センサ」に相当し、引用発明aの「支持棒(71)と、検出プローブ(72)と、エナメル線(73)とを有する複数のセンサ(70)」が、本願補正発明の「プローブ」に相当する。
さらに、引用発明aの「支持棒(71)と、その下端部設けられた検出プローブ(72)と、検出プローブ(72)から上方に延在するエナメル線(73)とを有するとともに、センサ固定板(61)に止着され、サクションロールシェルのサクションホール(SH)内に挿入される複数のセンサ(70))」が、本願補正発明の「検査対象物に形成された孔部内に挿入され、この孔部内での探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブ」に相当する。

(ii)引用発明aの「計測器本体」と、複数のセンサ(70)の検出プローブ(72)とは、複数のセンサ(70)のエナメル線(73)と接続されたターミナル(613)を介してリード線(614)で接続されていることから、検出プローブ(72)の検出信号が、エナメル線(73)、ターミナル(613)及びリード線(614)を介して、「計測器本体」に入力されることになる。
そうすると、引用発明aの「計測機本体」は、本願補正発明の「前記渦電流探傷センサからの検出信号を入力する渦電流探傷器」に相当する。

(iii)本件出願の明細書の段落【0020】には「一対の支持棒9がサポート部13に固定される。連結部材36が一対の支持棒9の先端部を連結している。一対の支持棒9がフレキシブルシャフト部10のケーシング10Aを貫通しており、フレキシブルシャフト部10は支持棒9に沿って支持棒9の軸方向に移動可能である。プローブ8は、ケーシング10Aに取り付けられ、一対の支持棒9の間に配置される。プローブ8及び支持棒9の先端部は、流線型をしており、ピン孔内に挿入しやすい形状となっている。」ことが記載されており、この記載によれば、一対の支持棒9が、ピン孔内に挿入されるとともに、プローブ8が取り付けられたフレキシブルシャフト部10のケーシング10Aを貫通し、フレキシブルシャフト部が、支持棒9の軸方向に沿って移動可能すると、プローブ8ピン孔内に挿入されることから、支持棒9は、プローブ8が取り付けられたフレキシブルシャフト部10のケーシング10Aを貫通することにより、プローブ8を支持していることになる。
他方、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)及び(3A-5)には、それぞれ「センサ固定板(61)の四隅には前記センサ案内板(62)に垂設されているガイド棒(63)を貫入する孔(612)が穿設されている。」こと、及び「センサ固定板(61)をガイド捧(63)に沿って押し下げていけば、1組のセンサ(70)は、センサ案内板(62)のセンサガイド孔(621)を通過しながら、サクションホール(SH)の1つひとつの孔内に進入する。」ことが記載されており、これらの記載によれば、引用発明aの、センサ案内板(62)に垂設されたセンサ固定板(61)を取付けるためのガイド棒(63)は、複数のセンサ(70)が取付けられたセンサ固定板(61)を貫通しており、このセンサ固定板(61)をガイド棒(63)に沿って押し下げていけば、1組のセンサ(70)がサクションホール(SH)の1つひとつの孔内に進入することから、引用発明aの「ガイド棒(63)」は、センサ固定板(61)を貫通して、サクションロールシェルのサクションホール(SH)内に挿入される複数のセンサ(70)を支持し、引用発明aの、上面の四隅にガイド棒(63)を垂設する「センサ案内板(62)」は「ガイド棒(63)」を支持しているものといえる。
そうすると、引用発明aの「ガイド棒(63)」と、本願補正発明の「支持装置によって支持されて前記検査対象物に形成された他の孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材」とは、「支持装置によって支持されて、前記プローブを支持する支持部材」である点で共通する。

(iv)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)には、従来技術として、「サクションホールの亀裂の検出は、センサとして、例えば第9図に示すように、磁心(721)にコイル(722)を捲装したプローブ(72)を支持棒(71)の先端に取付けたものを用いて行うことができる。」と記載されており、さらに、引用発明aの亀裂検出装置は、従来技術と同様に、検出プローブ(72)によりサクションロールシェルの亀裂を検出する装置であることから、引用発明aの検出プローブ(72)が、亀裂を検出するための磁心とコイルを有することは明らかであり、また、検出プローブ(72)が渦電流探傷センサであることは上記(i)で検討したとおりである。
そうすると、引用発明aの「複数のセンサ(70)の検出プローブ(72)」と、本願補正発明の「渦電流探傷センサ」とは、「渦電流探傷センサが渦電流探傷コイルを有」する点で共通する。

(v)引用発明aの「サクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置」は、その機能・構成からみて、本願補正発明の「渦電流探傷装置」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明aとは、
「検査対象物に形成された孔部内に挿入され、この孔部内での探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブと、
前記渦電流探傷センサからの検出信号を入力する渦電流探傷器と、
支持装置によって支持されて、前記プローブを支持する支持部材を備え、
前記渦電流探傷センサが渦電流探傷コイルを有する渦電流探傷装置。」である点で一致し、次の相違点(あ)及び相違点(い)で相違する。

・相違点(あ)
本願補正発明では、支持装置によって支持されて前記プローブを支持する支持部材が、「前記検査対象物に形成された他の孔部内に挿入され」るのに対して、引用発明aでは、センサ案内板(62)の上面に四隅に垂設されるガイド棒(63)がサクションホール(SH)に挿入されるのではなく、センサ案内板(62)の下面の四隅に設けられた脚部(64)がサクションホール(SH)に係止される点。

・相違点(い)
本願補正発明では、渦電流探傷センサが有する渦電流探傷コイルが「一対」であり、「それぞれの前記渦電流探傷コイルに用いられた各磁性体コアの直径を0.1mm以上0.5mm以下の範囲にする」のに対して、引用発明aでは、検出プローブ(72)のコイルが一対であるかどうかが不明であり、検出プローブコイルに用いられる磁心の大きさが不明である点。

(イ-2)当審の判断
そこで、上記相違点(あ)及び相違点(い)について判断する。
・相違点(あ)について
(あ-1)引用発明aの脚部(64)は、サクションホール(SH)に係止され、さらに、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-7)には、「センサ案内板62の下面の四隅に、脚部(64)が設けられ、この脚部(64)の先端部がサクションホール(SH)の孔内に侵入する」ことが記載されているから、引用発明aの「脚部(64)」の先端が、複数のセンサ(70)が挿入されない他のサクションホール(SH)の孔内に挿入されることは明かである。そして、引用発明aの「脚部(64)」は、下面の四隅に設けられていることから、センサ案内板(62)に支持されており、さらに「脚部(64)」の先端が、複数のセンサ(70)が挿入されない他のサクションホール(SH)の孔内に挿入されている場合には、「脚部(64)」を支持しているセンサ案内板(62)を介して、センサ案内板(62)の上面に垂設されたガイド棒(63)を支持しているものといえる。
そうすると、引用発明aの「脚部(64)」が、複数のセンサ(70)が挿入されない他のサクションホール(SH)の孔内に挿入されている場合には、センサ案内板(62)を介してガイド棒(63)を支持しており、さらに、上記(iii)で検討したように、ガイド棒(63)は複数のセンサ(70)を支持していることから、引用発明aの「脚部(64)」は、ガイド棒(63)を支持することにより、間接的に、複数のセンサ(70)を支持しているものと解される。
したがって、引用発明aの「ガイド棒(63)及び脚部(64)」は、センサ案内板(62)に支持されて、複数のセンサ(70)を支持すると同時に、複数のセンサ(70)が挿入されない他のサクションホール(SH)の孔内に挿入されることになるから、本願補正発明と同様に、支持装置によって支持されてプローブを支持する支持部材が、「前記検査対象物に形成された他の孔部内に挿入され」こととなり、実質的な差異とはならないものである。
(あ-2)上記(あ-1)においては、引用発明aの「脚部(64)」は、ガイド棒(63)を支持することにより、間接的に、複数のセンサ(70)を支持しているものと解されるとしたが、上記(あ-1)のように解されない場合についても一応検討する。
上記引用刊行物Aには、引用発明aのガイド棒(63)と脚部(64)とが一体的に形成されることは記載されていないが、引用発明aのガイド棒(63)と脚部(64)下面、上面の違いはあるものの、ともにセンサ案内板(62)の四隅に配置されている。さらに、細管にセンサを挿入し、センサで渦電流検出して探傷検査をする探傷装置において、センサ案内板の上面及び下面の同じ位置に設けられる2つの部材を、センサ案内板を貫通する孔を介してネジで結合して一体的に結合し、案内板に固定することは、例えば、実願昭51-106719号(実開昭53-25383号)のマイクロフィルムの第3図(特に、ロックネジ12参照)に記載されているごとく周知であり、引用発明aのガイド棒(63)及び脚部(64)も、上記周知例のセンサ案内板の上面及び下面の同じ位置に設けられる2つの部材もともに、探傷装置のセンサ案内板の上面及び下面の同じ場所に設けられる部材である点で共通することから、引用発明aのガイド棒(63)及び脚部(64)をセンサ案内板(62)に固定する際、上記周知例の構成を採用して、ガイド棒(63)及び脚部(64)をセンサ案内板4)センサ案内板(62)を貫通する孔を介してネジで結合し、センサ案内板(62)に固定することにより、センサ案内板(62)の上面の四隅に固定されたガイド棒(63)で複数のセンサ(70)を支持し、センサ案内(62)の下面の四隅に固定された脚部(64)の先端を複数のセンサ(70)が挿入されない他のサクションホール(SH)の孔内に挿入させ、本願補正発明のごとく、支持装置によって支持されてプローブを支持する支持部材が、「前記検査対象物に形成された他の孔部内に挿入され」るように構成することは当業者であれば容易になし得るものである。

・相違点(い)について
(い-1)渦電流検出用プローブを用いて、被検体の欠陥を検出する装置において、被検体の欠陥を検出する際に一対のコイルを用いることは、例えば、特開平5-164745号公報に「【0008】・・・また、図10および図11は他の手法を用いて被検体の表面に存在する孔食を検出する孔食検出装置の動作原理を示す図である。【0009】被検体6の表面に対向させて棒状コア7a,7bに巻装された一対のコイル8a,8bが配設されている。・・・」と記載されているように、周知(他に、特開平7-280774号公報の段落【0043】の記載参照)であり、引用発明aのサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置も周知の被検体の欠陥を検出する装置も、ともに渦電流検出用プローブを用いて被検体の欠陥を検出する装置である点で共通することから、引用発明aのサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置において、周知例のごとく、一対のコイルを用いて、サクションロールシェルの亀裂を検出することにより、本願補正発明のごとく、渦電流探傷センサが有する渦電流探傷コイルが「一対」であるように構成することは当業者であれば容易になし得たものである。
(い-2)また、例えば、特開平7-280774号公報には、「【0010】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は非破壊検査目的で空間解像度を向上させた表面検査用のうず電流プローブを提供することである。」と記載され、さらに特開平6-138095号公報には、「【0011】又、本発明は、自己比較方式の渦電流探傷子に於いて、隣り合うコイルから発生する磁界の鎖交に伴うノイズの影響を極力削減し、SN比の良い高精度の欠陥検出信号を得ることができる自己比較方式の渦電流探傷子を提供することを目的とする。・・・【0027】【発明の効果】以上詳記したように本発明の渦電流探傷子によれば、尖鋭な磁界分布により溝の外側の欠陥等の影響を受けずに溝の内側の欠陥に対する信号のみが検出される。即ち検出分解能が極めて高い探傷ができ、微細欠陥を含む各種欠陥の判別、特定に役立つ。」と記載されていることから、引用発明aのサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置のような、渦電流検出用プローブを用いて、被検体の欠陥を検出する装置においても、上記特開平7-280774号公報に記載された電流プローブや、上記特開平6-138095号公報の渦電流探傷子と同様に、解像度や分解能を向上させて高精度の欠陥検出信号を得ることを共通の課題とするものである。
(い-3)ところで、コアを有するコイルからなる渦電流検出プローブを用いて、被検体の欠陥を検出する際、例えば、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-7)に記載されているように、被検体の表面に平行にコア配置して、被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブと、上記周知例の特開平5-164745号公報の図10に記載されているように、被検体の表面に磁心を対向させて被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブとがあることは、周知の技術事項であって、コアを有するコイルからなる渦電流検出プローブを用いて、被検体の欠陥を検出する際に、被検体の表面に平行にコア配置して被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブを採用するか、被検体の表面に磁心を対向させて被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブを採用するかは当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎないものである。
そして、引用発明aのサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置において、検出プローブ(72)として、上記周知例のうちの被検体の表面に磁心を対向させて被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブを採用した場合にも、上記(い-2)で検討したように、解像度や分解能を向上させて高精度の欠陥検出信号を得る課題が存在し、その課題を解決しようとすることは当業者であれば当然なすべき技術事項であり、さらに、被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブの解像度や分解能向上するために、渦電流プローブからの被検体に侵入する磁場の範囲をできるだけ狭くすることは、例えば、上記(い-1)で提示した周知例の特開平7-280774号公報の段落【0003】に「本発明によれば、磁場通過表面の近傍かつコアの長手方向の軸に対して少なくとも直交する方向にあるプローブ・コアの断面は0.5ミリメートル以下の範囲を有する。その結果プローブ・コアにより増幅される交流磁場がコアの長手方向の軸の周囲の領域に空間的に集中する。磁場通過表面の領域内でプローブ・コアから前方へと磁場が通過し被験物に侵入する。つまり特に検査間隙が小さい場合にもコイルの磁場で励起される被験サンプル量はコアの長手方向の軸の延長線上付近に集中することになる。つまり、被験物内での事実上全てのうず電流の作用が少なくともコアの長手方向の軸に対して直交する1つの方向の限られた範囲の部分に制限される。解像力の本質的限界、言い換えれば励起した被験サンプル体積の範囲を有利に減少させることができる。」と記載され、また、上記(い-2)で提示した周知例の特開平6-138095号公報の段落【0019】に「このように構成された渦電流探傷子は、図2に示すように、コイル3に交番電流を通電すると磁界6が発生するが、コイル3から発生する磁界6のうち、軸方向に大きく拡がる磁界6はパーマロイ膜8によって制限され、溝2よりも外側へ漏れる磁界6は殆どなくなる。即ち、図3に示すように、従来技術の広幅の磁界分布10に対し、尖鋭な磁界分布9が得られる。これにより、軸方向に微細な欠陥を感度よく検出することのできる渦電流探傷子が実現できる。」と記載されているように、技術常識であるといえる。
そうすると、引用発明aのサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置において、検出プローブ(72)として、上記周知例のうちの被検体の表面に磁心を対向させて被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブを採用した場合に、サクションロールシェルの亀裂を検出する検出する検出プローブの解像度や分解能向上するためには、渦電流プローブからの被検体に侵入する磁場の範囲をできるだけ狭くする、すなわち、周知例の特開平7-280774号公報の段落【0014】に記載されているように、磁心の断面を小さく、例えば0.5mm以下にすることは当業者が必要に応じてなし得る設計的事項にすぎないものである。
さらに、検出プローブ(72)の磁心の断面の下限値どの程度にするかは製造上の問題から当業者が適宜採用しうる値であることから、引用発明aの検出プローブ(72)の磁心の断面を、本願補正発明のごとく、「それぞれの前記渦電流探傷コイルに用いられた各磁性体コアの直径を0.1mm以上0.5mm以下の範囲にする」ことは当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎないものである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであって、格別のものではない。

なお、審判請求人は請求の理由及び当審からの審尋に対する回答書において、
「空間分解能が向上し、隣り合う翼フォーク部の半円溝によって形成される孔部内で合わせ目近傍に発生したき裂を検出できるという新たな効果は、本願発明の構成要件である『各磁性体コアを0.1mm以上0.5mm以下の範囲にする』ことによって、初めてもたらされるのであります。」(回答書7頁21?24行)旨の主張している。
しかしながら、上記(い-3)で検討したように、被検体の欠陥を検出する渦電流検出プローブの解像度や分解能向上するために、渦電流プローブからの被検体に侵入する磁場の範囲をできるだけ狭くすることは技術常識であり、さらに、本願補正発明の構成要件には、審判請求人が主張する「隣り合う翼フォーク部の半円溝によって形成される孔部内で合わせ目近傍に発生したき裂を検出できる」ことに対応する構成要件は記載されていないから、審判請求人の主張は採用できない。
なお、上記周知例の特開平7-280774号公報の段落【0003】には、「空間解像度は、試験方法で独立して検出可能な2つの隣接した欠陥の間の最小距離を表わすものと理解される。」ことが記載され、また、上記周知例の特開平6-138095号公報の段落【0004】には「しかしながら上記した従来の構成による渦電流探傷子に於いては、コイル03から発生する磁界06が溝02の両側の広範囲に影響を及ぼし、そのため伝熱管5内の広い(特に軸方向に長い)面積に分布する欠陥の重畳された情報しか検出できなかった。つまり図7に示すように、伝熱管5のある範囲に浅い欠陥7a,7bが存在する場合、この2つの欠陥を単独欠陥として検出することは難しく、この2つの欠陥の重畳情報と欠陥7cのように深い欠陥が1個存在する場合の信号とが同じように検出されていた。」ことが記載されていることから、審判請求人が主張する「空間分解能が向上」させるには、2つの亀裂を検出しない程度に小さい磁心の断面積を有する渦電流検出プローブを用いればよいことであり、また、たとえ、本願補正発明の構成要件に、「隣り合う翼フォーク部の半円溝によって形成される孔部内で合わせ目近傍に発生したき裂を検出できる」構成要件が含まれていても、隣り合う翼フォーク部の半円溝は、亀裂と同様に、渦電流検出プローブで検出されるものであるから、隣り合う翼フォーク部の半円溝によって形成される孔部内で合わせ目と合わせ目の近傍に発生した亀裂とが同時に検出されない程度に小さい磁心の断面積を有する渦電流検出プローブを用いれば、それぞれが単独で検出されることになることは明らかである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) 補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年4月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年11月10日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2 (1)」の「ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1」に記載したように、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
検査対象物の探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブと、前記渦電流探傷センサからの検出信号を入力する渦電流探傷器と、前記検査対象物に形成された孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材を備えたことを特徴とする渦電流探傷装置。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は上記「第2 2 (3)」の(ア)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
(3-1)先ず、本願発明と引用発明aとの対比・判断をする。
(a-1)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)には、従来技術として、「サクションホールの亀裂の検出は、センサとして、例えば第9図に示すように、磁心(721)にコイル(722)を捲装したプローブ(72)を支持棒(71)の先端に取付けたものを用いて行うことができる。プローブ(72)をサクションホール(SH)内に挿入して、コイル(722)に交流電流を通じると、相互誘導作用により周囲の導体(ロールシェル)に閉電流が生じ、コイルのインピーダンスが低下する。この場合、ホール(SH)内壁面に亀裂が存在すると閉電流経路の電気抵抗の変化により、コイルの実効インピーダンスが増大するので、コイルのインピーダンスの変化およびその変化量から、亀裂の有無とその進展状況を非破壊的に判定することができる。」ことが記載されており、この閉電流が、電磁気工学からみて、渦電流であることは、例えば特開平10-47589号公報の5頁7欄20行に「閉電流(渦電流ともいう)」と記載されているように、技術常識であることから、引用発明aのサクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置の「複数のセンサ(70)」の「検出プローブ(72)」が、上記従来技術のサクションホールの亀裂の検出するプローブ(72)と同様に、サクションロールシェルのサクションホール(SH)内に挿入され、サクションホールの亀裂の検出を閉電流経路の電気抵抗の変化を検出する、すなわち、渦電流の変化を検出するセンサであることは明らかである。
そうすると、引用発明aの「検出プローブ(72)」は、本願発明の「渦電流探傷センサ」に相当し、引用発明aの「支持棒(71)と、検出プローブ(72)と、エナメル線(73)を有する複数のセンサ(70)」が、本願発明の「プローブ」に相当する。
さらに、引用発明aの「支持棒(71)と、その下端部設けられた検出プローブ(72)と、検出プローブ(72)から上方に延在するエナメル線(73)とを有するとともに、センサ固定板(61)に止着され、サクションロールシェルのサクションホール(SH)内に挿入される複数のセンサ(70)」が、本願発明の「検査対象物に形成された孔部内に挿入され、この孔部内での探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブ」に相当する。

(a-2)引用発明aの「計測器本体」と、複数のセンサ(70)の検出プローブ(72)とは、複数のセンサ(70)のエナメル線(73)と接続されたターミナル(613)を介してリード線(614)で接続されていることから、検出プローブ(72)の検出信号が、エナメル線(73)、ターミナル(613)及びリード線(614)を介して、「計測器本体」に入力されることになる。
そうすると、引用発明aの「計測機本体」は、本願発明の「前記渦電流探傷センサからの検出信号を入力する渦電流探傷器」に相当する。

(a-3)本件出願の明細書の段落【0020】には「一対の支持棒9がサポート部13に固定される。連結部材36が一対の支持棒9の先端部を連結している。一対の支持棒9がフレキシブルシャフト部10のケーシング10Aを貫通しており、フレキシブルシャフト部10は支持棒9に沿って支持棒9の軸方向に移動可能である。プローブ8は、ケーシング10Aに取り付けられ、一対の支持棒9の間に配置される。プローブ8及び支持棒9の先端部は、流線型をしており、ピン孔内に挿入しやすい形状となっている。」ことが記載されており、この記載によれば、一対の支持棒9が、ピン孔内に挿入されるとともに、プローブ8が取り付けられたフレキシブルシャフト部10のケーシング10Aを貫通し、フレキシブルシャフト部が、支持棒9の軸方向に沿って移動可能すると、プローブ8ピン孔内に挿入されることから、支持棒9は、プローブ8が取り付けられたフレキシブルシャフト部10のケーシング10Aを貫通することにより、プローブ8を支持していることになる。
他方、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)及び(3A-5)には、それぞれ「センサ固定板(61)の四隅には前記センサ案内板(62)に垂設されているガイド棒(63)を貫入する孔(612)が穿設されている。」こと、及び「センサ固定板(61)をガイド捧(63)に沿って押し下げていけば、1組のセンサ(70)は、センサ案内板(62)のセンサガイド孔(621)を通過しながら、サクションホール(SH)の1つひとつの孔内に進入する。」ことが記載されており、これらの記載によれば、引用発明aの、センサ案内板(62)に垂設されたセンサ固定板(61)を取付けるためのガイド棒(63)は、複数のセンサ(70)が取付けられたセンサ固定板(61)を貫通して、センサ固定板(61)がガイド棒(63)に沿って押し下げていけば、1組のセンサ(70)がサクションホール(SH)の1つひとつの孔内に進入することから、引用発明aの「ガイド棒(63)」は、センサ固定板(61)を貫通して、サクションロールシェルのサクションホール(SH)内に挿入される複数のセンサ(70)を支持し、さらに、引用発明aの、上面の四隅にガイド棒(63)を垂設する「センサ案内板(62)」は、「ガイド棒(63)」を支持するとともに、1組のセンサ(70)がセンサ案内板(62)のセンサガイド孔(621)を通過することから、複数のセンサ(70)を支持していることになる。
また、引用発明aの、脚部(64)はサクションホール(SH)に係止され、さらに、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-7)には、「センサ案内板62の下面の四隅に、脚部(64)が設けられ、この脚部(64)の先端部がサクションホール(SH)の孔内に侵入する」ことが記載されているから、引用発明aの「脚部(64)」の先端が、サクションホール(SH)の孔内に挿入されていることは明かである。そして、引用発明aの「脚部(64)」は、センサ案内板(62)の下面の四隅に設けられていることから、センサ案内板(62)に支持されており、さらに「脚部(64)」の先端が、サクションホール(SH)の孔内に挿入されている場合には、「脚部(64)」を支持しているセンサ案内板(62)支持すると同時に、センサ案内板(62)を介してセンサ案内板(62)の上面に垂設されたガイド棒(63)を支持しているものといえる。
そうすると、引用発明aの「センサ案内板(62)、ガイド棒(63)及び脚部(64)」が本願発明の「前記検査対象物に形成された孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材」に相当する。

(a-4)引用発明aの「サクションロールシェルの亀裂を検出する亀裂検出装置」が、本願発明の「渦電流探傷装置」に相当する。

してみると、本願発明の発明特定事項は、すべて引用刊行物Aに示されているものであって、本願発明は、引用刊行物Aに記載された発明である。

(3-2)次に、本願発明と引用発明bとの対比・判断する
(b-1)引用発明bの「検査コイル2_((1))?2_((n))」は、被検査体に生じた渦流を検出するコイルであるから、本願発明の「渦電流探傷センサ」に相当する。
また、引用発明bの「円板状の探傷ヘツド本体1」は、その外周面に検査コイル2_((1))?2_((n))が埋設されており、さらに、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-3)に記載されているように、棒状の探傷ヘッド駆動軸4の先端に取り付けられるものである。
ところで、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)に、「サクションホールの亀裂の検出は、センサとして、例えば第9図に示すように、磁心(721)にコイル(722)を捲装したプローブ(72)を支持棒(71)の先端に取付けたものを用いて行うことができる。」と記載されているように、欠陥を検出するために棒状部材のセンタに取り付けられたコイルのセンサ部分がプローブに含まれることは技術常識であることから、引用発明bの「円板状の探傷ヘツド本体1」が、本願発明の「検査対象物の探傷を行う渦電流探傷センサを有するプローブ」に相当する。

(b-2)引用発明bの「インピーダンス測定回路8a,8b」は、被検査体に生じた渦流による信号を各検査コイル2_((1))?2_((n))のインピーダンスに応じた信号として測定する回路であり、また、引用発明bの「信号処理器10」は、インピーダンス測定回路8a,8bにより測定された検査コイルのインピーダンスに応じた電圧信号が入力される信号処理器であることから、引用発明bの「インピーダンス測定回路8a,8b、及び信号処理器10」が、本願発明の「前記渦電流探傷センサからの検出信号を入力する渦電流探傷器」に相当する。

(b-3)引用発明bの「探傷ヘッド駆動軸4」は、タービンおよびタービン発電機等の被検査体の回転子6の中心孔内を軸方向に移動する探傷ヘツド本体1の略中心部に取付けられ、駆動機構5により軸の長手方向に進退させられる探傷ヘッド駆動軸であることから、本願発明の「前記検査対象物に形成された孔部内に挿入され、前記プローブを支持する支持部材」に相当する。

(b-4)引用発明bの「被検体の回転子中心孔内表面の欠陥を検出する渦流探傷装置」が、本願発明の「渦電流探傷装置」に相当する。

してみると、本願発明の発明特定事項は、すべて引用刊行物Bに示されているものであって、本願発明は、引用刊行物Bに記載された発明である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものであるので、本件出願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-10 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-30 
出願番号 特願2006-267571(P2006-267571)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 郡山 順
居島 一仁
発明の名称 渦電流探傷装置  
代理人 ポレール特許業務法人  
代理人 ポレール特許業務法人  

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