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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1227321
審判番号 不服2007-17677  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-25 
確定日 2010-11-17 
事件の表示 平成 8年特許願第532161号「ウイルス性疾患治療用医薬の製造のための(R)-ペンシクロビルトリホスフェートの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月31日国際公開、WO96/33720、平成11年 4月 6日国内公表、特表平11-504026〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年4月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1995年4月24日,英国 1996年3月8日,英国)を国際出願日とする出願であって、平成14年4月2日付けで手続補正がなされ、拒絶理由通知に応答して平成19年2月7日付けで誤訳訂正がなされたが、その後平成19年3月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年6月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成19年7月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年7月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年7月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成19年7月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)により、特許請求の範囲は、
補正前(平成19年2月7日付け誤訳訂正書参照)の
「1.式(A):

で示される化合物(すなわち、PCV)のトリホスフェート(すなわち、PCV-TP)の(R)-エナンチオマー(すなわち、(R)-PCV-TP)の生物学的前駆体またはその医薬的に許容される塩を有効成分とする、HIV-1感染症またはHBV感染症の処置剤であって、当該生物学的前駆体が細胞内で(R)-PCVモノホスフェートを遊離させ、これがさらに(R)-PCV-TPに変換される(R)-PCVモノホスフェート誘導体である処置剤。
2.(R)-PCVモノホスフェート誘導体が次のものから選択される、請求項1記載の処置剤:
(a)式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートとPL-ASOR(ポリリジン-アシアロオロソムコイド)のコンジュゲート(ただし、当該コンジュゲートにはポリリジン-アシアロオロソムコイド分子あたり複数個の(R)-PCVモノホスフェート基が結合し得る。)、
(b)式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのリピッド誘導体、
(c)式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのビス(ピバロイルオキシメチル)エステル誘導体、および
(d)式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのジフェニルエステル誘導体。
3.式(A):

で示される化合物のトリホスフェートの(R)-エナンチオマーの生物学的前駆体またはその医薬的に許容される塩を有効成分とする、HIV-1感染症またはHBV感染症の処置剤であって、当該生物学的前駆体が式:

で示されるジミリストイルグリセロール誘導体であり、細胞内で(R)-PCVモノホスフェートを遊離させ、これがさらに(R)-PCV-TPに変換されるものである処置剤。
4.式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートとPL-ASORのコンジュゲート(ただし、当該コンジュゲートにはプロテイン分子あたり複数個の(R)-PCVモノホスフェート基が結合し得る。)。
5.式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのリピッド誘導体。
6.式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのビス(ピバロイルオキシメチル)エステル誘導体。
7.式:

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのジフェニルエステル誘導体。
8.式:

で示される、(R)-PCVジミリストイルグリセロール誘導体。」から、
補正後の
「【請求項1】 式(A):
【化1】

で示される化合物(すなわち、PCV)のトリホスフェート(すなわち、PCV-TP)の(R)-エナンチオマー(すなわち、(R)-PCV-TP)の生物学的前駆体またはその医薬的に許容される塩を有効成分とする、HIV-1感染症またはHBV感染症の処置剤であって、当該生物学的前駆体が細胞内で(R)-PCVモノホスフェートを遊離させ、これがさらに(R)-PCV-TPに変換されるものである処置剤;ただし、当該生物学的前駆体は次の化合物から選択される:
(a)式:
【化2】

で示される、(R)-PCVモノホスフェートとPL-ASOR(ポリリジン-アシアロオロソムコイド)のコンジュゲート(ただし、当該コンジュゲートにはポリリジン-アシアロオロソムコイド分子あたり複数個の(R)-PCVモノホスフェート基が結合し得る。)、
(b)式:
【化3】

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのリピッド誘導体、
(c)式:
【化4】

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのビス(ピバロイルオキシメチル)エステル誘導体、および
(d)式:
【化5】

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのジフェニルエステル誘導体、および
(e)式:
【化6】

で示されるジミリストイルグリセロール誘導体。
【請求項2】 式:
【化7】

で示される、(R)-PCVモノホスフェートとPL-ASORのコンジュゲート(ただし、当該コンジュゲートにはプロテイン分子あたり複数個の(R)-PCVモノホスフェート基が結合し得る。)。
【請求項3】 式:
【化8】

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのリピッド誘導体。
【請求項4】 式:
【化9】


で示される、(R)-PCVモノホスフェートのビス(ピバロイルオキシメチル)エステル誘導体。
【請求項5】 式:
【化10】

で示される、(R)-PCVモノホスフェートのジフェニルエステル誘導体。
【請求項6】 式:
【化11】

で示される、(R)-PCVジミリストイルグリセロール誘導体。」
と補正された。
なお、補正後の請求項1の式(A)(注:PCV、即ち、ペンシクロビル)及び(a)式?(e)式の構造式を、以下、それぞれ順に単に「構造式(A)」及び「構造式(a)」?「構造式(e)」というとともにその構造式の表示を省略する。

上記補正は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「生物学的前駆体」について、「ただし、当該生物学的前駆体は次の化合物から選択される: (a)式:【化2】構造式(a)・・・、 (b)式:【化3】構造式(b)・・・、 (c)式:【化4】構造式(c)・・・、および (d)式:【化5】構造式(d)・・・、 および(e)式:【化6】構造式(e)・・」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、単に「平成18年改正前」ともいう。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。それに伴い、補正前の請求項2,3を削除し、補正前の請求項4?8の項番を補正後の請求項2?6とするものである。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前の刊行物である「Antiviral Research,1995.03,Vol.26,No3,p.A304」(以下、引用例1という。)と、同じく「特表平5-507279号公報」(以下、引用例2という。)、同じく「国際公開第94/26273号」(以下、引用例3という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、引用例1,3は、英文であるため翻訳文で示す。また、下線は当審が付したものである。
ところで、本願優先権主張の2件のうち最初の1995年4月24日(英国出願9508237.6号)の明細書には、構造式(a)?構造式(e)の化合物(前駆体)が記載されていないので、その最初の優先権主張は認められない。

[引用例1]
(1-i)「(S)-及び(R)-ペンシクロビルトリホスフェートの立体選択的合成及びウィルス性酵素に対するそれらの活性。
ペンシクロビル(PCV)は、単純ヘルペスウィルス(HSV)、水痘ウィルス(HZV)、及びB型肝炎ウィルス(HBV)の選択的反応抑制物質である。ヘルペスウィルスに感染した細胞におけるPCVの活性形体は、エナンチオマーとして存在し得るそのトリホスフェート(PCVTP)である。(S)-PCVTPは、HSV-1及びHZVに感染した細胞に見られる唯一のエナンチオマーであったが、およそ10%の(R)-エナンチオマーがHSV-2に感染した細胞に形成されていた。従って、ウィルス性及び細胞性の酵素に対する活性を比較するには、トリホスフェートの両方のエナンチオマーを合成する方法を開発することが重要であった。化学的アプローチと酵素学的アプローチを組み合わせたアプローチが、(R)- 及び(S)-PCVTPの合成のために開発されたのである。O,O-ビスイソブチリル-PCVをバシラス属リッケンフォーミス タンパク質分解酵素によって部分的に酵素加水分解すると、濃縮(S)-O-モノイソブチリル-PCVとなったことが鏡像異性クロマトグラフ分析法で確認された。(S)-O-モノイソブチリル-PCVをリン酸化した後、イソブチリル防護を除去すると、(R)-濃縮PCVTPが生成された。対応する(S)-PCVTPは、(S)-モノイソブチリル-PCVから作られた(R)-O-モノメトキシルトリチル-PCVのリン酸化を経て合成された。我々は、エナンチオマーの一つが、もう一つのエナンチオマーよりもHIV-1逆転写酵素(RT)に対して際立って強力であることを初めて立証した。PCVTPは、HIV-RTの有効な反応抑制剤でありDNA連鎖停止剤であることが証明されたのである。これらの結果は、HSV及びHIVに二重に感染した細胞において、PCVがHSV及びHIVの双方に有効な反応抑制剤であるという概念を証拠立てるものである。PCVTPエナンチオマー間に生化学的活性の違いがあることが立証されたことは、ヌクレオチドの合成を進歩させてエナンチオマー的な純度をさらに高める必要のあることを裏付けるものである。」(全文参照)
(1-ii)PCVTPとして次の化学構造式が併記されている。


[引用例2]
(2-i)「11.グリセリドジ-またはトリホスフエートヌクレオシド誘導体およびその塩を調製する方法であって、前記誘導体は以下の式を有し、

ここでAは酸素、硫黄、またはメチレンであり、kは0または1であり、かつNuはヌクレオシドまたはヌクレオシド類似体であり、請求項1で定義される式(I)のリン脂質誘導体を以下の式を有するモノ-またはジホスフェートと反応させるステップを含み、

ここでA、Nu、およびkは、無水条件下で、塩基性触媒の存在において、上に定義されるものであり、これにより、Aが酸素でありかつkが0である場合に、前記第2の化合物がリボースもしくはアラビノースであるペントースに付加された、アデニン基、シトシン基、5-フルオロウラシル基、5-アザシトシン基、6-メルカプトプリン基、または7-デアザアデニン基を含むヌクレオシドまたはヌクレオシド類似体である場合、前記リン脂質誘導体が1-O-アルキル-2-アシルグリセロ-3-ホスフェートモルホリデートでないことを条件として、前記グリセリドホスフェートヌクレオシド誘導体が形成される、方法。
・・・中略・・・
19.Nuが、プリンまはピリミジンを含む塩基部位とペントース部を含む糖部位とを有するヌクレオシド類似体であり、少なくとも1つの前記部位が天然発生の塩基または糖の類似体である、請求項11に記載の方法。
・・・中略・・・
22.Nuがヌクレオシド類似体でありかつ前記ヌクレオシド類似体のグリセリド誘導体が、
(3′-アジド-3′-デオキシ)チミジン-5′-ジホスフェート-(1,2-ジラウロイル)グリセロール(AZT-DP-DLG)と、
(3′-アジド-3′-デオキシ)チミジン-5′-ジホスフェート-(1,2-ジミリストイル)グリセロール(AZT-DP-DMG)と、
(3′-デオキシ)チミジン-5′-ジホスフェート-(1,2-ジラウロイル)グリセロール(3DT-DP-DLG)と、
(3′-デオキシ)チミジン-5′-ジホスフエート-(1,2-ジミリストイル)グリセロール(3DT-DP-DMG)と、
(2′,3′-ジデオキシ)シチジン-5′-ジホスフェート-(1,2-ジラウロイル)グリセロール(ddC-DP-DLG)と、
(2′,3′-ジデオキシ)シチジン-5′-ジホスフェート-(1,2-ジミリストイル)グリセロール(ddC-DP-DMG)と、
1-(2′-デオキシ-2′-フルオロ-B-D-アラビノフラノシル)-5-ヨードウラシル-5′-ジホスフェート-L-(1,2-ジパルミトイル)グリセロール(FIAU-DP-DPG)と、
アシクロビル-ジホスフェート-(1,2-ジパルミトイル)グリセロール(ACV-DP-DPG)と、
アシクロビル-ジホスフェート-(1,2-ジミリストイル)グリセロール(ACV-DP-DPG)と、
アシクロビル-ジホスフェート-(1-O-オクタデシル)グリセロールと、およびアシクロビル-ジホスフェート-(1-O-ヘキサデシル)グリセロールとからなるグループから選択される、請求項19に記載の方法。」(請求項11,19,22参照)
(2-ii)「発明の背景
グリセロールおよびグリセロール誘導体のヌクレオシドジーおよびトリホスフェートエステルは当該技術において既知である。それらの中で、ヌクレオシドジホスフェートジグリセリドが生物学的プロセスにおけるその役割のために特に重要である。脂質の生合成における天然に存在するリボヌクレオチド、シチジンジホスフェートジグリセリド(CDP-DG)の合成および生物学的重要性は1960年初期以来十分に論述されてきた。真核生物においてCDP-DGはホスファチジルグリセロール、カルジオリビンおよびホスファチジルイノシトールの前駆物質であるが、原核生物において、これはホスファチジルセリンおよびホスファチジルグリセロリン酸に転換される。これらの反応はすべてヌクレオチド、シチジン-5′-モノホスフェートの付随的な遊離をともなって進行する。しかし、これらの転換に伴われる酵素の特異性はCDP-DG基質に制限されない。」(第4頁右上欄13?同頁左下欄4行参照)
(2-iii)「抗レトロウイルス活性を有する幾つかのCDP-DG類似体を含む抗ウイルス性ヌクレオシドの脂質誘導体の化学合成、特性評価および生物学的活性は、バイカル・インコーホレイテッドに譲渡された、1989年6月28日に出願された同時係属中の出願USSN373.088号に開示されている。これらの類似体において、CDP-DGのシチジン部分は、たとえば3′-デオキシチミジン(3dT)、3’-アジド-3′-デオキシ-チミジン(AZT)または2′、3′-ジデオキシシチジン(ddC)によって置換された。これらの化合物は後天性免疫不全症候群(AIDS)の作因である、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の強力な抑制剤である。この出願はさらに他の多数の抗ウイルス性ホスファチジルヌクレオシドおよびヌクレオシドジホスフェートモノ-およびジグリセリドをそれらの合成のための方法とともに開示する。」(第4頁右下欄19行?第5頁左上欄6行参照)
(2-iv)「非環式ヌクレオシド 非環式ペントース残基は、水酸化された2-プロポキシメチル残基、または水酸化されたエトキシメチル残基のような環式ペントースのフラグメントである。これらの構造を有する特定のヌクレオシド残基は2-アミノ-1,9-ジヒドロ-9-[(2-ヒドロキシ-エトキシ)メチル]6H-プリン-6-オン(アシクロビル(acyclivir))、またはガンシクロビル(ganciclovir)(DHPG)、ペンシクロビル(pencyclovir)およびファムシクロビル(famcyclovir)を含む。」(第9頁左上欄14?22行参照)
(2-v)「抗ウイルス効果を有するヌクレオシド類似体のジグリセリドジホスフェート誘導体は、ヘルペス、サイトメガロウィルスおよびB型肝炎感染の治療においてヌクレオシド類似体単独よりもより効果があることがわかっている。したがって、アシクロビル、ガンシクロビル、l(2′-デオキシ-2′-フルオロ-1-β-D-アラビノフラノシル)-5-ヨードシトシン(FIAC)、l-(2′-デオキシ-2′-フルオロ-1-β-D-アラビノフラノシル)-5-ヨードウラシル(FIAU)、1-(2’-デオキシ-2′-フルオロ-1-β-D-アラビノフラノシル)-5-メチルウラシル(FMAU)、または1-(2′-デオキシ-2′-フルオロ-1-β-D-アラビノフラノシル)-5-エチルウラシル(FEAU)の脂質誘導体がこれらの感染の適当な治療において使用されてもよい。」(第10頁右上欄4?17行参照)
(2-vi)「方法A: アシクロビル-ジホスフェート(1,2-ジミリストイル)グリセロール(ACV-DP-DMG)
1グラムのジミリストイルホスファチジン酸のナトリウム塩(・・・)が・・・遊離酸に転換された。乾燥ジミリストイルホスファチジン酸は・・・対応するモルホリゾートに転換された。1.48gの凍結乾燥されたモルホリゾート化合物および0.610gの乾燥アシクロビルモノホスフェートが50mlの乾燥ピリジンで結合され、・・・乾燥するまで蒸発された。最後に、50mlの乾燥ピリジンが加えられ、ほぼ20mlまで凝縮された。アシクロビルモノホスフェートを溶液にするために、10mlの無水ジメチルスルホキシド(DMSO)を加え、かつ反応容器を2時間85℃まで加熱し、45℃でさらに16時間加熱することを必要とした。精製されたアシクロビル-5′-ジホスフェート-(1,2-ジミリストイル)グリセロールは例1で説明されたようにHPLCによって分離され、・・・・フラクションが結合され、凍結乾燥されて白い粉末を生じた。・・・。この化合物はクロロホルム/メタノール(1:lv/v)で溶解され、シリカゲルGプレートの原点て斑点状にされ、クロロホルム/メタノール/濃縮アンモニア(70:38:8v/v)で展開された。生成物は0.23のRf値でU.V.およびリン陽性スポットを与えた。」(第15頁右下欄6行?第16頁左上欄10行参照)

[引用例3]
(3-i)「1. 有効濃度の抗ヘルペスヌクレオシド類縁体ホスフェートエステルまたはその混合物またはその塩を、局所使用のために好適な薬学的担体中に含む薬学的製剤。
2. 前記ヌクレオシド類縁体がアシクロビルである請求項1の製剤。
3. 前記ヌクレオシド類縁体ホスフェートエステルがアシクロビルモノホスフェートである請求項1の製剤。
4. 前記ヌクレオシド類縁体ホスフェートエステルがアシクロビルジホスフェートである請求項1の製剤。
5. 前記抗ヘルペスヌクレオシド類縁体が
・・・中略・・・
9-(4-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチルブト-1-イル)グアニン;
・・・中略・・・
からなる群から選ばれる請求項1の製剤。」(第25?26頁のクレーム1?5参照)
(3-ii)「2. 背景技術
アシクロビル(ACV)は、普通でない不完全(非環式)糖部分を含むグアノシンの抗ウイルスヌクレオシド類縁体である。ヌクレオシド類縁体は、細胞中のDNA複製のプロセスを中断させ、その理由のために抗ウイルス及び抗腫瘍剤として有用である。ACVは、特にI及びII型の単純ヘルペスウイルス感染を治療するのに有効である。ACVは宿主細胞のチミジンキナーゼではなく、HSVチミジンキナーゼにより選択的にリン酸化されるため、細胞中でのACVの抗ヘルペスウイルス活性は、低い毒性を示す。結果として、HSVに感染した細胞のみがACVモノホスフェート(ACV-MP)を形成することができる。ACV-MPは次いで細胞性酵素により同化作用的にACVトリホスフェートに変換され、該活性剤はウイルスの複製を妨害する。」(第1頁10?24行参照)
(3-iii)「9-(4-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチルブト-1-イル)グアニン(ペンシクロビル(penciclovir,BRL 3912)」(第8頁12?13行参照)

(3)対比、判断
引用例1には、上記「(2)[引用例1]」で摘示の技術事項からみて、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認めることができる。
「HIV-1またはHBVに感染した細胞の選択的反応抑制物質として作用する、ペンシクロビル(PCV)の活性形体であるエナンチオマーとして存在し得るそのトリホスフェート(PCVTP)。」(引用例1発明)

そこで、本願補正発明と引用例1発明を対比する。
引用例1発明の「ペンシクロビル(PCV)」の「トリホスフェート(PCVTP)」は、該ペンシクロビルの構造式が本願補正発明の「構造式(A)」であって、本願補正発明の「式(A): 構造式(A) で示される化合物(すなわち、PCV)のトリホスフェート(すなわち、PCV-TP)」と一致するから、両発明は、
「式(A): 構造式(A)
で示される化合物(すなわち、PCV)のトリホスフェート(すなわち、PCV-TP)のエナンチオマー。」
で一致し、次の相違点1?4で相違する。
<相違点>
1.本願補正発明が、PCV-TP「の生物学的前駆体またはその医薬的に許容される塩を有効成分とする、HIV-1感染症またはHBV感染症の処置剤」であると特定されているのに対し、引用例1発明では「HIV-1またはHBVに感染した細胞の選択的反応抑制物質として作用する」と特定されている点
2.「エナンチオマー」に関して、本願補正発明では、「(R)」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのように特定されていない点
3.本願補正発明では、「当該生物学的前駆体が細胞内で(R)-PCVモノホスフェートを遊離させ、これがさらに(R)-PCV-TPに変換される」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点
4.生物学的前駆体に関し、本願補正発明では、「ただし、当該生物学的前駆体は次の化合物から選択される:
(a)式:
構造式(a)
で示される、(R)-PCVモノホスフェートとPL-ASOR(ポリリジン-アシアロオロソムコイド)のコンジュゲート(ただし、当該コンジュゲートにはポリリジン-アシアロオロソムコイド分子あたり複数個の(R)-PCVモノホスフェート基が結合し得る。)、
(b)式:
構造式(b)
で示される、(R)-PCVモノホスフェートのリピッド誘導体、
(c)式:
構造式(c)
で示される、(R)-PCVモノホスフェートのビス(ピバロイルオキシメチル)エステル誘導体、および
(d)式:
構造式(d)
で示される、(R)-PCVモノホスフェートのジフェニルエステル誘導体、および
(e)式:
構造式(e)
で示されるジミリストイルグリセロール誘導体。」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのよう特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(i)相違点1について
引用例1発明では、ペンシクロビルの「HIV-1またはHBVに感染した細胞の選択的反応抑制物質として作用する」活性形体が「そのトリホスフェート(PCVTP)」であることが示されているところ、「そのトリホスフェート(PCVTP)」となり得る生物学的前駆体が、結果的に(トリホスフェートに変換され)「HIV-1またはHBVに感染した細胞の選択的反応抑制物質として作用する」ことに他ならないから、該「そのトリホスフェート(PCVTP)」となり得る生物学的前駆体を、本願補正発明にいうところの「HIV-1感染症またはHBV感染症の処置剤」として使用することは、引用例1発明で実質的に意図されていると理解するのが相当であり、少なくとも当業者であれば容易に想い到る程度のことといえる。
なお、引用例1には「その医薬的に許容される塩」について言及がないけれども、医薬(処置剤)として用いるに際し、薬効成分として「その医薬的に許容される塩」の形態で用いることは慣用の技術にすぎない。

(ii)相違点2について
引用例1には、R体とS体のいずれが、HIV-1感染症またはHBV感染症の処置剤として優れているのかまでは言及されていない。
しかし、本願優先権主張日前に一対のエナンチオマー(鏡像異性体)の一方が他方と比較してより薬効が大きいことは当業者によく知られたことであり、しかも、引用例1には、少なくとも、PCVTPのエナンチオマー間に生化学的活性に違いがあることが言及されているのであるから、当業者であれば、R体とS体のいずれが優れた活性を有するのかを明らかにする程度のことは適宜に、少なくとも容易になし得る程度のことであるというべきであり、R体と特定することに格別の創意工夫が必要であるとは認められない。

(iii)相違点3について
引用例1には、生物学的前駆体が最終的にPCV-TPに変換されることは、前記(i)の検討から明らかであるところ、「PCV-モノホスフェートを遊離させたのちに」にPCV-TPに変換されることは記載されていない。
しかし、引用例3(摘示(3-i)?(3-iii)参照)には、抗ウィルスヌクレオシド類縁体として包括できPCVと類似するアシクロビル(ACV)に関するものでHSVについてであるが、感染した細胞のみがモノホスフェート(ACV-MP)を形成することができ、次いでACVトリホスフェートに変換され、ウィルスの複製を妨害すると説明されていること、及び、引用例2(摘示(2-ii)参照)には、「・・原核生物において、これはホスファチジルセリンおよびホスファチジルグリセロリン酸に転換される。これらの反応はすべてヌクレオチド、シチジン-5′-モノホスフェートの付随的な遊離をともなって進行する。」とされていることに鑑みれば、ヌクレオシド類縁体であるPCVについても、「PCV-モノホスフェートを遊離させたのちに」にPCV-TPに変換されることを想定することに格別の困難性は無いといえる。
なお、本願明細書を検討しても、生物学的前駆体であるという構造式(a)?構造式(e)の化合物は、(イ)そのような経路を経ることが明らかにされているわけではなく、また(ロ)製造したことすら本願明細書に明らかにされておらず、(ハ)活性データも何ら示されていない。
よって、相違点3にかかる工程は、技術的意義を有するものではないし、少なくとも当業者であれば、引用例2,3の前記摘示の記載から容易に想到し得る程度のものという他ないものである。

(iv)相違点4について
引用例1には、ペンシクロビルの活性形体トリホスフェートの前駆体として具体的なものは言及されていない。
ところで、ペンシクロビルについても言及されている引用例2,3(摘示(2-iv),(2-v),(3-i)?(3-iii)参照)に徴すると明らかなように、ペンシクロビル(PCV)が属するヌクレオシド類縁体に関しそのモノホスフェートやジホスフェートを抗ウィルス剤として使用できることが理解できる。例えば引用例2には、「抗ウイルス効果を有するヌクレオシド類似体のジグリセリドジホスフェート誘導体は、ヘルペス、サイトメガロウィルスおよびB型肝炎感染の治療においてヌクレオシド類似体単独よりもより効果があることがわかっている」(摘示(2-v)参照)とされ、ジグリセリドジホスフェート誘導体とすることが示唆され、現に「アシクロビル-ジホスフェート(1,2-シミリストイル)グリセロール(ACV-DP-DMG)」(摘示(2-vi)参照)が合成されていて、該「ジホスフェート(1,2-シミリストイル)グリセロール」が本願補正発明の構造式(e)中の「ジホスフェート(1,2-シミリストイル)グリセロール」である点でも一致するし、ペンシクロビルがアシクロビルやガンシクロビルと極めて構造が類似しいずれも非環式ヌクレオシドの範疇に包含されるものである(摘示(2-iv)参照)との記載もある。また、引用例3には、抗ウィルスヌクレオシド類縁体として、ペンシクロビル[即ち9-(4-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチルブト-1-イル)グアニン]と並んで示されているアシクロビル(摘示(3-i)?(3-iii)参照)について、アシクロビルモノホスフェートやアシクロビルジホスフェートが薬効成分として示されている(摘示(3-i)参照)。
しかも、抗ウィルス活性を有するヌクレオシド類縁体を、本願補正発明の構造式(e)中の「ジホスフェート(1,2-シミリストイル)グリセロール」の誘導体として薬剤とすることは知られている。例えば、特表平4-501255号公報[HIVなどのウィルス感染の治療に用いるアシクロビルなどが含まれるヌクレオシド類縁体について、具体例としてアジドチミジン(AZT)の二リン酸ジミリストイルグリセロールが挙げられている点(請求項1,9,59,60,第24頁右上欄?左下欄)]、特表平7-500573号公報[1995年1月19日公表;アシクロビルなどを包含するヌクレオシド類縁体について、脂質部との間にジホスフェート結合基を更に含むプロドラッグとの言及(請求項1,6,8,28),ジホスフェートジミリストイルグリセロールの誘導体例の記載(第14頁左上欄?右上欄)]など参照。
また、原査定の理由に用いられた刊行物である「Drug Delivery,1995,Vol.2,p.136-143」には、アシクロビルではあるが、B型肝炎ウィルスに対する効果として複合させていないアシクロビルの80倍の効力を示す、モノホスホリル連結からポリリジンアシアロオロソムコイドまで繋がったアシクロビル(ACV-MP-PL-ASOR)の誘導体が記載(第136頁左欄の要約の箇所参照)され、同じく「国際公開第94/13324号」には、1-O-アルキル-sn-グリセロール-3-ホスフェートなどのリン酸エステルを介しての脂肪酸誘導体とすることによりプロドラッグとすること、具体的には、グリセロールの1位において18炭素アルキルエーテル、2位においてヒドロキシル基、3位においてホスホジエステル結合により薬剤に結合させることによりバイオアビリティを向上させること、および薬剤としてアシクロビルやガンシクロビルなどの抗ウィルス剤が挙げられていることが記載(第35頁の請求項1,第10頁16?26行,第15頁13?33行など参照)され、同じく「特開昭60-174789号公報」には、抗ウィルス剤として、9-[4’-ヒドロキシ-3’-ヒドロキシメチル)ブチルグアニン(摘示(3-iii)のペンシクロビル相当)を含む抗ウィルス活性剤として、ジフェニルホスフェートを採り得ることが記載(請求項1,6,第3頁左上欄参照)されているように、本願発明で特定する構造式(a)や構造式(b)や構造式(d)中のペンシクロビルの誘導体部分と合致するモノホスフェートやジホスフェートの使用例も知られている。

このような本件優先権主張日(最初の優先権主張は認められない)当時の技術レベルからすると、ペンシクロビルの活性形体トリホスフェートの前駆体として、ペンシクロビルのモノホスフェートやジホスフェートの形体を想起し、例えば、引用例2で示されているよなジミリストイルグリセロール-ジホスフェートの誘導体とすることにより、構造式(e)とすることに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。
しかも、本願明細書を検討しても、構造式(a)乃至構造式(e)の化合物(前駆体;モノホスフェートやジホスフェート)が、現に製造されその物性が示されているわけでもなく、抗ウィルス活性が格別に優れていることを明らかにするデータも示されていないのであるから、構造式(a)乃至構造式(e)の化合物(前駆体)が他の前駆体に比べ格別に優れていると解すべき理由もない。

ところで、請求人は、本願発明の前駆体が「細胞壁を通して吸収、透過できるような優れた性質を示すこと」を主張している(意見書,審判請求理由)。なるほど、本願明細書には、「(R)-PCV-TPは、細胞壁に吸収され透過することのできる生物前駆体である化合物として投与される。」との記載がある。しかし、それを裏付ける実験データは何も示されていないし、「潜在的に興味がある」とされているにすぎないし、活性データすら示されていないから、前記請求人の主張は、前駆体とすることで一般的に期待される作用効果を言及したにすぎないものと言うべきであり、格別予想外のものであるとも認められず、請求人も、「本願発明で使用されている生物学的前駆体の保護基が、当該前駆体の細胞壁からの吸収、透過に預かっていることは、当業者にとって容易に理解することができるものと思料する」(審判請求理由の「(4-2)理由Cについて」の項を参照)と主張し、一般的に期待される作用効果であることを自ら認めているとおりである。また、R体であることが優れた活性を有するか否かは前記「(ii)相違点2について」で検討したとおりであり、R体の採用に格別の創意工夫が必要であったと解すべき理由はない。

よって、少なくとも構造式(e)の化合物(ペンシクロビルのジミリストイルグリセロール-ジホスフェートの誘導体)を生物学的前駆体として想起することに格別の創意工夫が必要であったと言うことはできない。

以上(i)?(iv)の検討結果から明らかなように、本願補正発明は、引用例2,3と周知技術を勘案し、引用例1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものと言え、格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成19年7月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成19年2月7日付け誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるのもと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、上記「2.[理由](1)」の補正前の請求項1に記載されたとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。
「1.式(A):
構造式(A)
で示される化合物(すなわち、PCV)のトリホスフェート(すなわち、PCV-TP)の(R)-エナンチオマー(すなわち、(R)-PCV-TP)の生物学的前駆体またはその医薬的に許容される塩を有効成分とする、HIV-1感染症またはHBV感染症の処置剤であって、当該生物学的前駆体が細胞内で(R)-PCVモノホスフェートを遊離させ、これがさらに(R)-PCV-TPに変換される(R)-PCVモノホスフェート誘導体である処置剤。」

(1)引用例
原査定の拒絶理由に引用される引用例と周知例、およびその記載事項は、前記「2.[理由](2)」に記載したとおりである。

(2)対比、判断
本願発明は、前記「2.[理由](1)」で検討した本願補正発明から「生物前駆体」の限定事項である「ただし、当該生物学的前駆対は次の化合物から選択される: (a)式:【化2】構造式(a)・・・、 (b)式:【化3】構造式(b)・・・、 (c)式:【化4】構造式(c)・・・、および (d)式:【化5】構造式(d)・・・、 および(e)式:【化6】構造式(e)・・」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.[理由](3)」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、周知技術を勘案し引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成21年8月7日付け回答書において、請求項1を削除し、請求項2?6の化合物(前駆体)の発明と特定する補正を提出する機会を要請しているが、次の理由でその要請は受けいれられない。
(i)特許法では審判請求に際して補正できる期間を定めているところ、その期間内に既に手続補正をしているのであるから、それ以上の補正の機会を与えることは法律の想定するところではない。
(ii)仮に検討してみたところで、請求項2?6の化合物(前駆体)については、本願明細書に実施例1?5として単に一般的な製造方法が記載されているに止まり、その具体的な反応条件、及び得られるとする化合物の物性値、及びその有用性とその程度を明らかにするデータはいずれも何ら記載されていなく、また、本願発明の詳細な説明の他の箇所には何ら請求項2?6の化合物(前駆体)について言及がないことから、該実施例1?5は化合物が実際に製造されたことを示した記載であると到底解することができないものであり、本願明細書には化合物の発明として必要な開示がなされていない不備がある。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、周知技術を勘案し引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-16 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-05 
出願番号 特願平8-532161
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今村 玲英子中木 亜希  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 上條 のぶよ
星野 紹英
発明の名称 ウイルス性疾患治療用医薬の製造のための(R)-ペンシクロビルトリホスフェートの使用  
代理人 青山 葆  
代理人 田中 光雄  
代理人 岩崎 光隆  
代理人 山田 卓二  
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