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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01F
管理番号 1227463
審判番号 不服2007-14233  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-17 
確定日 2010-11-25 
事件の表示 平成11年特許願第366985号「充填材用水酸化アルミニウムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 5日出願公開、特開2000-239013〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成11年12月24日(優先権主張平成10年12月25日)の出願であって、平成18年11月17日付けで拒絶理由が通知され、平成19年1月22日に意見書・手続補正書が提出され、同年4月13日付けで拒絶査定され、同年5月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月15日付けの手続補正書により明細書が補正され、平成21年8月5日に特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年10月13日に回答書が提出され、その後当審から平成22年6月17日付けで平成19年6月15日付けの手続補正書による手続補正の却下の決定と拒絶理由通知が通知され、同年8月23日に意見書・手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年8月23日付けで補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

【請求項1】
平均二次粒子径が5μm?150μmである水酸化アルミニウムに水を加え含液率5重量%?30重量%のケークとし、スクリュー型ねっか機を用いて圧縮下、粉体同士を摩擦することにより、該水酸化アルミニウムを構成する一次粒子を実質的に破砕することなく、且つ該水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が1/2?実質的に一次粒子径となるまで湿式で解砕する充填材用水酸化アルミニウムの製造方法。

2.特許法第29条第2項について
A.引用文献
A-1.本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-69315号公報(以下、「引用例1」という。)には次の事項が記載されている。
(1-1)「1.2次粒平均径と1次粒平均径との比で表わされる凝集度が3.0以下であり、標準粘度が5ポイズ以下であることを特徴とする微粒水酸化アルミニウム。」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明は、・・・・・・プラスチック用フィラー等として、好適な性質を示す微粒水酸化アルミニウムに関するものである。」(1頁左下欄11?13行)
(1-3)「凝集をほぐす方法としては、一般的な乾式又は湿式粉砕でよいが、特に好適な方法は、乾式ではジェットミル粉砕、湿式ではミキサー・ディスインテグレーター等の強力撹拌、又は超音波処理である。これらは、ほとんど1次粒までの粉砕力しかなく、長時間処理しても1次粒を崩壊することはない(以後1次粒を崩壊させない即ち1次粒までの粉砕を解砕と称す)。」(2頁右下欄3?10行)
(1-4)「(実施例1)
・・・・・・
No.1?No.7の従来品は、昭和電工(株)製のH-42である。
・・・・・・
No.12は、No.1をイオン交換水にてスラリーにし、これに分散剤として東亜合成化学(株)のアロンA-200を固形分に対して1%添加し、固体濃度65%スラリーに調整した。これを日本精機製作所(株)のウルトラソニック ジェネレーター(US-300)にて20分間湿式解砕した。」(3頁右上欄2行?同頁左下欄末行)
(1-5)第1表において、「D_(2)μm」の値がNo.1では「2.01」、No.12では「1.00」と記載されているといえ、ここで「2次粒平均径とは、・・・・・・平均粒子径(以後D_(2)と称す)」(2頁左下欄4?5行)をみると「D_(2)」は2次粒平均径であるといえる。
(1-6)「[効 果]
・・・・・・
又プラスチックへ練り込んだ時、低粘性の混練物が得られ、又良く分散された製品ができ上るので、高強度の複合材が得られる。この為、プラスチック用フィラーとしても有用である。」(6頁左下欄5?17行)

A-2.本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-291413号公報(以下、「引用例2」という。)には次の事項が記載されている。
(2-1)「[産業上の利用分野]
本発明は、水酸化マグネシウム懸濁液において、水酸化マグネシウムが高濃度であって、粘度が低く、かつ、沈降分離が起りにくい水酸化マグネシウム懸濁液に関するもの」(2頁左上欄13?17行)
(2-2)「第3工程は、第1混練機において流動性の増加した湿潤ケーキを第2混練機において、・・・・・・強い衝撃、摺摩、擦過、解砕、剪断作用を加えることにより、水酸化マグネシウム固体粒子が凝集し網目状に発達した凝集体は、解砕細分化された凝集体となり、チクソトロビックな特性を増すことにより、粘度が低く、沈降速度が小さくて、静置沈澱発生率の小さい分散が安定な水酸化マグネシウム懸濁液ができる。」(5頁左上欄5?17行)

A-3.本願の優先日前に頒布された刊行物である「社団法人化学工学協会編「改訂五版 化学工学便覧」丸善株式会社 昭和63年3月18日発行 917頁」(以下、「引用例3」という。)には次の事項が記載されている。
(3-1)「混練とは・・・・・・分散系のフロックの解砕や練り砕きなどの作用を含む場合もある。」(917頁左欄3?11行)

A-4.本願の優先日前に頒布された刊行物である「社団法人化学工学協会編「化学工学便覧 改訂四版」丸善株式会社 昭和53年10月25日発行 1353?1358頁」(以下、「引用例4」という。)には次の事項が記載されている。
(4-1)「表18・19 ねっか・混練機とそのおもな適用範囲及び対象物質」には、「容器固定型」の「水平軸」が「単軸、複軸」で「操作」が「回分、連続」の「型式」として「スクリュー押出機、スクリュー」が記載されている(1355頁)。

B.対比・判断
(あ)引用例1の(1-1)には「2次粒平均径と1次粒平均径との比で表わされる凝集度が3.0以下・・・・・・である・・・・・・微粒水酸化アルミニウム」が記載され、この「微粒水酸化アルミニウム」は、同(1-4)の「イオン交換水にてスラリーにし、これに分散剤・・・・・・を・・・・・・添加し、固体濃度65%スラリーに調整し・・・・・・これを日本精機製作所(株)のウルトラソニック ジェネレーター(US-300)にて20分間湿式解砕」することによって製造されたものであって、この「解砕」とは、同(1-3)によれば、「1次粒を崩壊させない即ち1次粒までの粉砕」であるといえる。
(い)引用例1の(1-1)の「微粒水酸化アルミニウム」は同(1-2)の「本発明は、・・・・・・プラスチック用フィラー等として、好適な性質を示す」及び同(1-6)の「プラスチック用フィラーとしても有用である」との記載からみて、「プラスチック用フィラーとして有用」なものといえる。
(う)上記(あ)及び(い)の検討を踏まえ、引用例1の(1-1)?(1-6)に記載された事項を本願発明の記載ぶりに則して整理して記載すると、引用例1には、
「水酸化アルミニウムをイオン交換水にてスラリーにし、ウルトラソニック ジェネレーターにて、1次粒を崩壊させない即ち1次粒までの粉砕である湿式解砕をし、2次粒平均径と1次粒平均径との比で表わされる凝集度が3.0以下であるプラスチック用フィラーとして有用な微粒水酸化アルミニウムの製造方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
(か)引用発明の「水酸化アルミニウムをイオン交換水にてスラリーに」することは、本願発明と「水酸化アルミニウムに水を加え」る点で一致する。
(き)引用発明の「1次粒を崩壊させない即ち1次粒までの粉砕である湿式解砕」は、本願発明の「一次粒子を実質的に破砕することなく、・・・・・・湿式で解砕」に相当する。
(く)引用発明の「2次粒平均径」、「1次粒平均径」は、それぞれ、本願発明の「平均二次粒子径」、「一次粒子径」に他ならない。
(け)本願発明の「水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が1/2?実質的に一次粒子径となるまで湿式で解砕する」ことについて本願明細書の記載をみてみる。
本願明細書の【0007】の「本発明において原料として用いる水酸化アルミニウム(以下、単に水酸化アルミニウムと称する。)は、・・・・・・一次粒子の平均粒子径(以下、平均一次粒子径と称する。)が平均二次粒子径の約1/8?1/2・・・・・・である。」をもとに計算すると、解砕前は平均二次粒子径は平均一次粒子径の8?2倍である。そして、「平均二次粒子径が1/2?実質的に一次粒子径となるまで湿式で解砕する」から、平均二次粒子径が平均一次粒子径の4?1倍になるといえる。
一方、引用発明の「湿式解砕をし、2次粒平均径と1次粒平均径との比で表わされる凝集度が3.0以下」は、湿式解砕により、2次粒平均径が1次粒平均径の3.0倍以下となるといえる。
そうすると、引用発明の「湿式解砕をし、2次粒平均径と1次粒平均径との比で表わされる凝集度が3.0以下」であることは、本願発明の「水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が1/2?実質的に一次粒子径となるまで湿式で解砕する」ことと湿式による解砕を平均二次粒子径が一次粒子径の3?1倍の範囲となるまで行う点で文言上一致している。
(こ)引用発明の「プラスチック用フィラーとして有用な微粒水酸化アルミニウム」は、本願発明の「充填材用水酸化アルミニウム」に相当する。
そうすると、両者は、
「水酸化アルミニウムに水を加え、該水酸化アルミニウムを構成する一次粒子を実質的に破砕することなく、且つ該水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が一次粒子径の3?1倍となるまで湿式で解砕する充填材用水酸化アルミニウムの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点P:本願発明が解砕前の水酸化アルミニウムの平均二次粒子径を5μm?150μmとしているのに対し、引用発明はかかる特定を有していない点
相違点Q:本願発明が水を加えているのに対し、引用発明はイオン交換水を加えている点
相違点R:本願発明が「含液率5重量%?30重量%のケークとし、スクリュー型ねっか機を用いて圧縮下、粉体同士を摩擦することにより湿式で解砕する」のに対し、引用発明は、スラリーにし、ウルトラソニック ジェネレーターにて湿式で解砕をしている点
相違点S:本願発明が「水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が1/2?実質的に一次粒子径となるまで湿式で解砕」しているのに対し、引用発明は水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が1/2以下となるまで湿式で解砕しているかどうか特定されておらず、実際にこの程度まで解砕しているか不明である点
そこで、これら相違点について検討する。
・相違点Pについて
例えば、特開平9-86924号公報(当審からの平成22年6月17日付け拒絶理由において平成21年10月13日付け回答書に記載された補正案について言及した部分に提示した文献)に記載されているように、充填剤として用いられる水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が0.5μm?200μmであるものは、周知であるから、引用発明において、解砕前の水酸化アルミニウムの平均二次粒子径を5μm?150μmとすることは、当業者であれば適宜なし得ることである。
・相違点Qについて
引用発明において、イオン交換水でなくても水を添加すればスラリーを作成できることは明らかであるから、イオン交換水を水にすることは当業者であれば適宜なし得ることである。
・相違点Rについて
引用例2の(2-2)には、「湿潤ケーキを第2混練機において、・・・・・・強い衝撃、摺摩、擦過、解砕、剪断作用を加えることにより、・・・・・・分散が安定な水酸化マグネシウム懸濁液ができる」と記載されており、ケーキが摺摩、擦過をうける混練機を用いて解砕することができる旨開示されているといえる。この引用例2は、水酸化マグネシウムに係るものであるが、同じ金属水酸化物である水酸化アルミニウムにおいても同様なことがなし得ることは、当業者にとって自明といえる。ここで、上記(4-1)に記載されているように、混練機として「スクリュー型ねっか機」は周知のものとして知られており、この混練機は、上記(3-1)に記載されているように解砕を行うことができるものである。そうすると、引用例2の「混練機」として、この周知の混練機を使用できることは明らかである。
一方、引用例1の(1-3)には、引用例1において、凝集をほぐす方法、すなわち、解砕方法としては、一般的な乾式又は湿式粉砕が使用できるものと記載されているから、引用発明において解砕にあたり、5重量%?30重量%程度の適宜の含水率のケークを作り、引用例2に記載された混練機を用いる方法を採用して上記(4-1)に記載の周知の混練機を用いて解砕することは当業者であれば、困難なくなし得ることである。
なお、請求人は平成22年8月23日付け意見書において、引用例2について、「解砕細分化の定義が明確に記載されていない」ことや「解砕細分化という用語を使っているが、一次粒を崩壊させない即ち一次粒までの粉砕について教示するものではない」ことを主張しているが、引用例1の解砕手段として引用例2に記載の混練機を使うに当たり、解砕の程度を一次粒の粉砕までとすることは、1次粒を崩壊することはない解砕を行う旨の記載のある引用例1の教示により当業者が適宜なし得ることである。
・相違点Sについて
引用例1の(1-5)をみると同(1-4)のNo.12の解砕において、解砕前の平均二次粒子径は「2.01μm」であり、解砕後では「1.00μm」であるから、引用発明においても水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が1/2以下となるまで湿式で解砕しているということができる。
そうすると、相違点Pで述べた、解砕前の平均二次粒子径が5μm?150μmの水酸化アルミニウムを解砕するに当たって、平均二次粒子径が1/2以下となるまで湿式で解砕することは、当業者が適宜なし得ることである。
よって、本願発明は引用例1?4の記載に基づいて当業者が困難なくなし得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

3.特許法第36条第6項第1項及び同条第4項について
本願発明において、解砕前の水酸化アルミニウムの平均一次粒子径についての特定はなされておらず、「平均二次粒子径が5μm?150μmである」との特定事項からは、例えば、平均一次粒子径が15μm、平均二次粒子径が150μmの水酸化アルミニウムであってもよいと解される。そうすると、この水酸化アルミニウムを本願発明にしたがって、平均二次粒子径が1/2以下となるまで解砕すると平均二次粒子径が75μmの水酸化アルミニウムができることになる。一方、本願明細書の「実施例2」では、平均二次粒子径が68μmで、平均一次粒子径が12μmの水酸化アルミニウムを解砕する例が記載されており、上記のように解砕された平均二次粒子径が75μmの水酸化アルミニウムは、実施例2における解砕前の水酸化アルミニウムの平均二次粒子径よりも大きなもので、低い樹脂充填粘度を示すとはいえない。そうすると、解砕前の平均二次粒子径が5μm?150μmの水酸化アルミニウムを平均二次粒子径が1/2以下?実質的に一次粒子径となるまで湿式で解砕する本願発明が、解砕前の平均二次粒子径として特定される5μm?150μmのすべての数値範囲にわたって、本願明細書【0005】に記載されている課題を解決できるとはいえず、本願発明は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないし、当業者が課題を解決することを確認するために過度の試行錯誤が必要といえるから発明の詳細な説明の記載は同条第4項の規定を満たしていない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないし、また、本願は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項の規定を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-27 
結審通知日 2010-09-28 
審決日 2010-10-12 
出願番号 特願平11-366985
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C01F)
P 1 8・ 537- WZ (C01F)
P 1 8・ 536- WZ (C01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰岡本 恵介  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 安齋 美佐子
小川 慶子
発明の名称 充填材用水酸化アルミニウムの製造方法  
代理人 中山 亨  

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