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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E05B
管理番号 1227545
審判番号 無効2010-800067  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-04-12 
確定日 2010-11-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第4446277号発明「かばん錠」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第4446277号に係る発明についての出願についての手続の経緯は以下の通りである。
平成17年9月 7日:実用新案登録出願
(実用新案登録第3116496号)
平成18年5月 1日:特許出願への変更
(特願2006-127299号)
平成22年1月29日:特許の設定登録
平成22年4月12日:本件無効審判の請求
平成22年6月23日:被請求人より審判事件答弁書提出
平成22年9月10日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成22年9月13日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成22年9月28日:請求人より口頭審理陳述要領書(2)提出
平成22年9月28日:口頭審理
平成22年9月28日:審理終結


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」などといい,これらをまとめて「本件特許発明」という。)は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。
1.本件特許発明1
「【請求項1】
かばん本体(B)に固定する錠体(1)と、蓋体(C)に取り付ける掛止板(2)とを備え、掛止板(2)に穿った嵌合孔(3)に係合する係止突体(4)の底面(4a)に設けた止着体(6)を、錠体(1)に設けた通孔(7)に挿入し、この錠体(1)とは別体とした箱体(5)の止着孔(8)に挿入して、止着体(6)の先端部をかしめたものとして、係止突体(4)を錠体(1)表面に突設すると共に、箱体(5)を錠体(1)内部に固定し、係止突体(4)の表面に外形が略同形の掛止部材(9)を回動可能に枢支し、その枢軸(10)に掛止部材(9)を回動させる方向に作用するコイルばね(11)を設け、前記掛止部材(9)の枢軸(10)に、前記箱体(5)内に一端を枢支して設けた制止板(14)に係止する第一フランジ(12a)、および前記箱体(5)内に設けた係止体(13)に係止する第二フランジ(12b)を突出した回動制限片(12)を固着して、前記掛止部材(9)が係止突体(4)と一致した位置、または90度回動した位置となって停止するようにし、前記制止板(14)の中間部に制止片(14a)を突設し、さらに前記制止板(14)の他端に、この制止板(14)の制止片(14a)を錠体(1)表面に突出する方向に作用するコイルばね(24)を設け、この制止片(14a)を掛止部材(9)の手前において錠体(1)表面の一個所に突出させ、また前記掛止板(2)に磁力が作用するようにした永久磁石(26)を錠体(1)と箱体(5)の間に装着したことを特徴とするかばん錠。」

2.本件特許発明2
「【請求項2】
前記錠体(1)を、任意の外形状(1a)および模様(1b)を有したものとしたことを特徴とする請求項1記載のかばん錠。」


第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は,本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,証拠方法として甲第1号証乃至甲第3号証を提出して,次の無効理由を主張している。

1-1.無効理由
本件特許発明は,甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,これらの特許は特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とすべきである。

(1)具体的理由
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明または甲第3号証に記載された発明とを対比すると,概ね以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明は,箱体(5)と係止突体(4)とが別体であって,係止突体(4)の底面(4a)に設けた止着体(6)を,錠体(1)に設けた通孔(7)に挿入し,この錠体(1)とは別体とした箱体(5)の止着孔(8)に挿入して,止着体(6)の先端部をかしめたものとして,係止突体(4)を錠体(1)表面に突設したものであるのに対し,甲第1号証に記載された発明は,箱形部材(14)と突出部(4)とが一体的に設けられており,また,甲第3号証に記載された発明は,本件特許発明の箱体(5),錠体(1)及び係止突体(4)に相当する部材がすべて一体化している点。

<相違点2>
本件特許発明は,制止板(14)が,箱体(5)内に一端を枢支して設けられ,中間部に制止片(14a)を突設して掛止部材(9)の手前の錠体(1)表面の一個所で突出させ,他端にコイルばね(24)を設け,回動制限片(12)が,該制止板(14)に係止する第一フランジ(12a),および前記箱体(5)内に設けた係止体(13)に係止する第二フランジ(12b)を突出しているのに対し,甲第1号証または甲第3号証に記載された発明は,本件特許発明の制止板(14)及び回動制限片(12)に相当する部材が,このような形状・構造となっていない点。

<相違点3>
永久磁石の装着位置について,本件特許発明は,錠体(1)と箱体(5)の間であるのに対し,甲第3号証に記載された発明は,本件特許発明の箱体(5)に相当する部材が存在しない点(甲第1号証に記載された発明とはこの点においては相違していない。)。

一方,上記相違点に対する主張は以下のとおりである。
<相違点1について>
部材を一体的に形成して設ける技術及び部材を別体に形成して結合することによって設ける技術は周知であり,甲第1号証に記載された発明において箱体に対して係止突体を設ける技術,または甲第3号証に記載された発明において,箱体と係止突体と錠体とを別体に設ける技術として上記部材を別体に形成する技術を採用することは,当業者にとって容易である。そして,部材の結合技術として,かしめ止めは,甲第2号証に記載された発明にも開示されているように周知の技術である。

<相違点2について>
制止板及び回動制限片について,本件特許発明と甲第1号証または甲第3号証に記載された発明とはその機能に相違はなく,形状の違いは単なる設計変更に過ぎない。

<相違点3について>
永久磁石を錠体の直下に配置した点においては,本件特許発明と甲第3号証に記載された発明とは同様であり,当該相違点3にかかる事項は単なる設計変更にすぎない。

[証拠方法]
甲第1号証:実願昭52-11683号
(実開昭53-108600号)のマイクロフィルム
甲第2号証:実願昭46-92636号
(実開昭48-50405号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭60-144298号
(実開昭62-52666号)のマイクロフィルム
甲第4号証の1:本件特許発明の分解斜視図
甲第4号証の2:甲第3号証に記載された発明の分解斜視図

2.被請求人の主張
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,その理由として次のように主張し,証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出している。

2-1.無効理由に対して
本件特許発明は,甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1)具体的理由
本件特許発明と甲第1号証または甲第3号証に記載された発明との上記各相違点は認める。また,本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との対比において,以下の相違点3’を有する。

<相違点3’>
永久磁石の装着位置について,本件特許発明は,錠体(1)と箱体(5)の間であるのに対し,甲第1号証に記載された発明は,錠体(1)内の制止片(9)の周りである点。

一方,上記相違点に対する主張は以下のとおりである。
<相違点1について>
甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明のいずれにも,本件特許発明の「係止突体(4)」及び「止着体(6)」に相当する部品または部分がないから,甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明から相違点1にかかる事項が導き出されるものではない。
このような構成とすることにより,錠体(1)と箱体(5)等の形状変更に対応できて,設計の自由度が増すという効果を奏する。

<相違点2について>
甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明のいずれにも,本件特許発明の「制止板(14)」及び「回動制限片(12)」の構成がないから,甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明から相違点2にかかる事項が導き出されるものではない。
また,本件特許発明は,当該相違点2にかかる事項を有するために,甲第1号証に記載された発明の制止片(9)とは異なり左右のバランスを気にせずに,明細書段落【0012】に記載された「施錠する場合の操作性が優れたものとなる。」という効果を奏する。

<相違点3及び3’について>
本件特許発明において,当該相違点3及び3’にかかる事項は,錠体(1)と箱体(5)とを別体としたことにより可能となった構成であり,この構成は当業者といえども容易になし得ることができない。

[証拠方法]
乙第1号証:本件特許出願に係る平成21年7月22日付け意見書
乙第2号証:本件特許出願に係る平成21年5月28日付け拒絶理由通知書


第4 無効理由についての判断
1.証拠方法に記載された事項
(1)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(1a)「鞄の本体に固定する錠体(1)と、鞄の蓋体に固定する掛止鈑(2)とを備え、前記錠体(1)の表面に掛止鈑(2)の嵌合孔(3)に係合する突出部(4)を突設し、突出部(4)の表面に外形が同形の掛止部材(5)を回動自在に枢支し、該掛止部材(5)の枢軸(6)には、掛止部在(5)を回動する方向に作用させるばね(7)を巻付け、又掛止部材(5)と一体の前記枢軸(6)には錠体(1)内において押ばね(8)により押上げられている制止片(9)に接触係止し、掛止部材(5)が突出部(4)と一致した位置及び90度食違つた位置で停止させるための回動制限片(10)を取付け、前記制止片(9)の上向折曲両端(9’)を錠体(1)に設けた細孔(11)より外部に突出させ、更に錠体(1)内の制止片(9)の周りに永久磁石片(12)を装着して成る鞄錠。」(実用新案登録請求の範囲)

(1b)「・・・尚図中符号(13)は回動制限片(10)のストツパーで、突出部(4)を形成し錠体(1)と別体の箱形部材(14)の内側に設け、回動制限片(10)の鈎部(15)が掛止する。(16)は回動制限片(10)の係止突起である。
この考案は叙上の構成であるから、掛止鈑(2)の嵌合孔(3)を錠体(1)の掛止部材(5)に嵌めると、掛止鈑(2)は永久磁石(12)に吸引されて錠体表面にいつたん仮り止めされ、更に掛止鈑(2)を押すと、制止片(9)の折曲両端(9’)は掛止鈑(2)に押されるため、回動制限片(10)は自由になりばね(7)の作用で90度回動して施錠されるのである。解錠するときは、ばね(7)に抗して指先で摘んだ掛止部材(5)を90度回わす。かくして回動制限片(10)と制止片(9)は係止して掛止部材(5)は突出部(4)と一致した位置で安定し、施錠、解錠動作を一動作で行うことができ小児向きのランドセル用として好適である。」(明細書第3頁2?17行)

(1c)第2図,第3図及び第7図には,箱形部材(14)が錠体(1)の内部に固定されていることが示されている。

(1d)第5図及び第6図には,回動制限片(10)の,ストツパー(13)または制止片(9)に設けられた係止突起(16)に掛止する鈎部(15)を有する部分が,フランジ状に二箇所突出した点が示されている。

(1e)第1図には,錠体(1)に設けて制止片(9)の上向折曲両端(9’)を外部に突出させる細孔(11)が,掛止部材(5)の両側に設けられた点が開示されている。

これらの記載によれば、甲第1号証には次の発明が記載されていると認められる。
「鞄の本体に固定する錠体(1)と,蓋体に固定する掛止鈑(2)とを備え,掛止鈑(2)の嵌合孔(3)に係合する突出部(4)を錠体(1)の表面に突設し,錠体(1)と別体の箱形部材(14)を錠体(1)内部に固定し,突出部(4)の表面に外形が同形の掛止部材(5)を回動自在に枢支し,該掛止部材(5)の枢軸(6)には,掛止部材(5)を回動する方向に作用させるばね(7)を巻付け,又掛止部材(5)と一体の前記枢軸(6)には,掛止部材(5)が突出部(4)と一致した位置及び90度食違つた位置で停止させるための回動制限片(10)を取付け,回動制限片(10)は,ストツパー(13)または制止片(9)に設けられた係止突起(16)に掛止する鈎部(15)を有する二箇所のフランジを突出しており,錠体(1)内において押しばね(8)により押し上げられている制止片(9)に接触係止し,前記制止片(9)の上向折曲両端(9’)を錠体(1)の掛止部材(5)の両側の位置に設けられた細孔(11)より外部に突出させ,さらに錠体(1)内の制止片(9)の周りに,掛止鈑(2)を吸引する永久磁石片(12)を装着してなる鞄錠。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2a)「断面逆U字状の支持体(1)の両側に永久磁石(2)(2)’を、並に同永久磁石(2)(2)’の外側に磁極片(3)(3)’を夫々当接して磁石機構(イ)を構成し、この磁石機構(イ)をカバー(4)の下面に配装して磁極片(3)(3)’の頂縁部を同カバー(4)の上側に細幅長孔(5)(5)’を経て貫出し、この貫出部に多段式係合凹部(6)・・・、(6)’・・・を切欠すると共に上記の支持体(1)の天壁にカバー(4)の上側に通ずる透孔(7)を設け、これに摘子(8)付回転軸(9)を上方より貫通して其の支持体(1)の下方への貫出部に鍔体(10)を嵌着し、この鍔体(10)と支持体(1)の天壁間に弾機部材(11)を介在せしめると共にこれ等とは別個に、蓋体に取付けるべき磁性材製の被吸着体(12)を構成し、これに係合凹部(6)・・・、(6)’・・・に引掛る爪(13)(13)’及び、回転軸(9)に嵌合する縦向きの長孔(14)を設け、この長孔(14)と回転軸(9)との嵌合時に同回転軸(9)を弾機部材(11)の弾撥力に抗して引上げ且つ90度捻回することにより摘子(8)を長孔(14)の両側縁に係合せしめることによつて当該嵌合の解除を不能ならしめるようにして成る鞄、ランドセル等に於ける蓋の係止装置。」(実用新案登録請求の範囲)

(2b)「・・・支持体(1)、永久磁石(2)(2)’及び磁極片(3)(3)’を筺枠(15)に嵌入して磁石機構(イ)を一体化すると共にまた、被吸着体(12)の後端をアングル状の当板(16)と共にピンにてカシメ止めすることによつてこれを鞄、ランドセル等の蓋に取付けるようにする・・・」(明細書第4頁7?12行)

(2c)第2図には,支持体(1)の上面がカバー(4)から突出せずに,表出している(支持体(1)の上面がカバー(4)の細長孔が設けられた部分の表面と同じ高さ)である点が開示されている。

これらの記載によれば、甲第2号証には次の発明が記載されていると認められる。
「断面逆U字状の支持体(1)の両側に永久磁石(2)(2)’を、並に同永久磁石(2)(2)’の外側に磁極片(3)(3)’を夫々当接して磁石機構(イ)を構成し、この磁石機構(イ)を筺枠(15)に嵌入して一体化すると共にカバー(4)の下面に配装して磁極片(3)(3)’の頂縁部を同カバー(4)の上側に細幅長孔(5)(5)’を経て貫出し、この貫出部に多段式係合凹部(6)・・・、(6)’・・・を切欠すると共に上記の支持体(1)の天壁にカバー(4)の上側に通ずる透孔(7)を設け、これに摘子(8)付回転軸(9)を上方より貫通してその支持体(1)の下方への貫出部に鍔体(10)を嵌着し、この鍔体(10)と支持体(1)の天壁間に弾機部材(11)を介在せしめると共にこれ等とは別個に、後端をアングル状の当板(16)と共にピンにてカシメ止めすることによつてこれを蓋体に取付けた磁性材製の被吸着体(12)を構成し、これに係合凹部(6)・・・、(6)’・・・に引掛る爪(13)(13)’及び、回転軸(9)に嵌合する縦向きの長孔(14)を設け、この長孔(14)と回転軸(9)との嵌合時に同回転軸(9)を弾機部材(11)の弾撥力に抗して引上げ且つ90度捻回することにより摘子(8)を長孔(14)の両側縁に係合せしめることによつて当該嵌合の解除を不能ならしめるようにして成る鞄、ランドセル等に於ける蓋の係止装置。」(以下,「甲2発明」という。)

(3)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(3a)「かばん本体側に固定する錠体と、蓋側に取付ける掛止鈑とから構成され、錠体の表面に掛止鈑に穿つた嵌合孔に係合する係止突部を突設し、係止突部の表面に外形が同形の掛止部材を回動可能に枢着し、その枢軸に掛止部材を回動させる方向に作用するコイルばねを巻付けたものにおいて、前記枢軸に円弧状つばを突出した回動環を固着し、前記コイルばねを回動環に作用させ、かつ前記円弧状つばに係離する受止めつばが突出している制止ピンを枢軸の近傍において錠体に支持させ、更に受止めつばを錠体の裏面に圧接させて制止ピンの上端を錠体の表面に突出させるコイルばねを制止ピンに作用させたかばん錠。」(実用新案登録請求の範囲)

(3b)「[従来の技術]
・・・昭和56年実用新案出願公告12381号公報に記載され既に公知である。
[考案が解決しようとする問題点]
ところがこの公報に記載されたものは、構造が極めて複雑で、製作が面倒であり故障率も多い等の欠点があつた。」(明細書2頁3?18行)

(3c)「・・・この制止ピン(10)に、前記円弧状つば(9)に衝接係止する受止めつば(11)を一体に突出させ、又錠体表面より一部が突出するようにコイルばね(12)を制止ピン(10)に巻付け、その一端は錠体(1)の内面に他端を受止めつば(11)に圧接させる、(13)は円弧状つば(9)の回動を制限するストツパー、(14)は蓋板、(15)は永久磁石を示す。」(明細書4頁8行?14行)

(3d)「[考案の作動]
掛止鈑(2)の嵌合孔(3)を錠体(1)の掛止部材(5)に嵌込むと、掛止鈑(2)によつて制止ピン(10)を押すので、コイルばね(12)に抗して受止めつば(11)は移動し、受止めつば(11)に衝接していた円弧状つば(9)が自由になりコイルばね(7)の作用で、掛止部材(5)は第1図実線の位置から鎖線のように90度回わされストツパー(13)で止められ自動的に仮止め状態になる。取外す際は掛止部材(5)を90度逆に回わして行なう。」(明細書4頁15行?5頁6行)

(3e)第1図及び第3図には,制止ピンが掛止部材の奥側において錠体表面の一箇所に突出している点が開示されている。

(3f)第2図には,回動環の円弧状つばが制止ピンの受け止めつばに係止した点が,第3図には,回動環の円弧状つばが錠体に設けられたストツパーに係止した点が,それぞれ開示されている。

(3g)第3図には,永久磁石が錠体内部に設けられた点が開示されている。

これらの記載によれば、甲第3号証には次の発明が記載されていると認められる。
「かばん本体側に固定する錠体と,蓋側に取付ける掛止鈑とから構成され,錠体の表面に掛止鈑に穿つた嵌合孔に係合する係止突部を突設し,係止突部の表面に外形が同形の掛止部材を回動可能に枢着し,その枢軸に掛止部材を回動させる方向に作用するコイルばねを巻付けたものにおいて,前記枢軸に,制止ピンに設けられた受止めつばまたは錠体に設けられたストツパーに係離する円弧状つばを突出した回動環を固着し,前記コイルばねを回動環に作用させて掛止部材が90度回わされた位置で自動的に仮止め状態になるようにし,かつ前記円弧状つばに係離する受止めつばが突出している制止ピンを枢軸の近傍において錠体に支持させ,更に受止めつばを錠体の裏面に圧接させて制止ピンの上端を掛止部材の奥側において錠体表面の一箇所に突出させるコイルばねを制止ピンに作用させ,さらに錠体内部に永久磁石を設けたかばん錠。」(以下,「甲3発明」という。)

2.対比・判断
2-1.本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,甲1発明の「鞄の本体」が,本件特許発明1の「かばん本体(B)」に相当し,以下,「突出部(4)」が「係止突体(4)」に,「箱形部材(14)」が「箱体(5)」に,「ばね(7)」が「(掛止部材(9)を回動させる方向に作用する)コイルばね(11)」に,「制止片(9)」が「制止板(14)」に,「ストツパー(13)」が「係止体(13)」に,「上向折曲両端(9’)」が「制止片(14a)」に,「押しばね(8)」が「(制止片(14a)を錠体(1)表面に突出する方向に作用する)コイルばね(24)」に,「掛止鈑(2)を吸引する永久磁石片(12)」が「掛止板(2)に磁力が作用するようにした永久磁石(26)」に,「鞄錠」が「かばん錠」に,それぞれ相当する。
また,本件特許発明1の「前記箱体(5)内に一端を枢支して設けた制止板(14)に係止する第一フランジ(12a),および前記箱体(5)内に設けた係止体(13)に係止する第二フランジ(12b)」と甲1発明の「ストツパー(13)または制止片(9)に設けられた係止突起(16)に掛止する鈎部(15)を有する二箇所のフランジ」は,いずれも「二箇所のフランジ」である点で共通している。

したがって、両者は、
「かばん本体に固定する錠体と,蓋体に取り付ける掛止板とを備え,掛止板に穿った嵌合孔に係合する係止突体を錠体表面に突設すると共に,錠体とは別体とした箱体を錠体内部に固定し,係止突体の表面に外形が略同形の掛止部材を回動可能に枢支し,その枢軸に掛止部材を回動させる方向に作用するコイルばねを設け,前記掛止部材の枢軸に,二箇所のフランジを突出した回動制限片を固着して,前記掛止部材が係止突体と一致した位置,または90度回動した位置となって停止するようにし,前記制止板に制止片を突設し,さらに制止板の制止片を錠体表面に突出する方向に作用するコイルばねを設け,この制止片を錠体表面に突出させ,また前記掛止板に磁力が作用するようにした永久磁石を装着したかばん錠。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は,箱体と係止突体とが別体であって,係止突体の底面に設けた止着体を,錠体に設けた通孔に挿入し,箱体の止着孔に挿入して,止着体の先端部をかしめたものであるのに対し,甲1発明は,箱形部材と突出部とが一体的に設けられ,箱形部材と突出部とを結合する手段が存在しない点。

<相違点2>
本件特許発明1は,制止板が,箱体内に一端を枢支して設けられ,中間部に制止片を突設して掛止部材の手前の錠体表面の一箇所で突出させ,他端にコイルばねを設け,また,回動制限片が,該制止板に係止する第一フランジ,および前記箱体内に設けた係止体に係止する第二フランジを突出しているのに対し,甲1発明は,制止板が,中間部分で掛止部材の枢軸に接触係止し,両端に上向折曲両端を設け,この上向折曲両端が掛止部材の両側において錠体表面に二箇所で突出し,中心部分に押ばねを設けており,また,回動制限片が,ストツパーまたは制止片に設けられた係止突起に掛止する鈎部を有する二箇所のフランジを突出しているものの,二箇所のフランジがいずれもストツパー及び制止片のいずれにも係止するものである点。

<相違点3>
永久磁石の装着位置について,本件特許発明1は,錠体と箱体の間であるのに対し,甲1発明は,錠体内の制止片の周りである点。

相違点について検討する。
<相違点1について>
まず甲2発明をみると,甲2発明は,支持体上面がカバーから表出しているものの,突設するものでなく(上記「第4 1.(2)(2c)」参照),さらに,支持体のカバーから表出している部分がカバー下面に配装された部分と別体として構成されたものでもない。また,甲2発明の筺枠15及び支持体がそれぞれ本件特許発明1の箱体及び係止突体に相当する部材であると仮定したとしても,これらが本件特許発明1の「止着体」に相当する部材で互いに結合したものでもない。
一方,甲2発明は,後端をアングル状の当板と共にピンにてカシメ止めすることによってこれを蓋体に取付けた磁性材製の被吸着体を構成しており,ピンにより部材同士をかしめて固定する技術が開示されていると言えるが,かしめ固定されている部分は,本件特許発明1でいう蓋体と掛止板の部分であり,箱体の止着孔に止着体を挿入して先端部をかしめた本件特許発明1とは異なるものである。

次に甲3発明をみると,甲3発明は,本件特許発明1の係止突体に相当する係止突部が錠体と一体に形成されたものであり,さらに,本件特許発明1の箱体に相当する部材も存在しない。よって,係止突体と錠体と箱体を別体とし,係止突体に設けた止着体により錠体及び箱体を一体化した本件特許発明1とは異なるものである。

つまり,甲1発明乃至甲3発明には,箱体と係止突体とが別体である構成について,何ら開示されていないし,例え,一般的に,部材を別体に形成して結合する技術が周知の技術であるとしても,甲1発明の突出部と箱形部材を別体に形成する動機付けがなく,さらに,止着体をもって係止突体と錠体及び箱体を一体化する技術についても,甲1発明乃至甲3発明のいずれにも,記載も示唆もない。

さらに,本件特許発明1はこのような構成を採用したことにより,錠体と箱体には止着体に対応する孔を形成するのみでよいため,例えば突出部と同形状の孔を錠体に形成しなければならない甲1発明や,係止突部を錠体に一体的に形成した甲3発明と比較して,錠体と箱体等の形状変更に対応できて,設計の自由度が増すという効果を奏する。
したがって,本件特許発明1の相違点1にかかる事項は,甲1発明乃至甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

<相違点2について>
まず,甲2発明をみると,甲2発明には,本件特許発明1の制止板及び回動制限片に相当する部材または部分が存在しない。
次に,甲3発明をみると,甲3発明の「制止ピン」及び「回動環」は,本件特許発明1の「制止板」及び「回動制限片」に,それぞれ機能的には相当する部材であると言える。
しかし,本件特許発明1の制止板が,箱体内に一端を枢支して設けられ,中間部に制止片を突設して係止部材の手前の錠体表面の一箇所で突出させ,他端にコイルばねを設けたものであるのに対し,甲3発明は箱体に相当する部材が存在せず,また,制止ピンの一部が錠体表面の一箇所で突出するよう形成されているものの,一端を枢止し,他端にコイルばねを設けたものではない。また,本件特許発明1の回動制限片が,制止板に係止する第一フランジ,および箱体内に設けた係止体に係止する第二フランジを突出したものであるのに対し,甲3発明の回動環が有する円弧状つばは,フランジ状に設けられているものの1つであり,制止ピンの受け止めつばとストツパーのいずれにも係止するよう形成されているものである点で,本件特許発明1の制止板及び回動制止片は,甲3発明のそれと構成が相違している。

請求人は,当該相違点2については設計上の工夫に基づく相違にすぎず,本件特許発明1と甲1発明または甲3発明の作用効果も同様である,と主張するが,本件特許発明1は,制止板として相違点2にかかる構成を採用することにより,甲1発明のように二箇所の上向折曲両端のいずれも押さなければならない場合より,施錠する際の操作性が優れたものとなるという格別の効果を奏するものである。
結局,相違点2にかかる,制止板が,箱体内に一端を枢支して設けられ,中間部に制止片を突設して掛止部材の手前の錠体表面の一箇所で突出させ,他端にコイルばねを設け,また,回動制限片が,該制止板に係止する第一フランジ,および前記箱体内に設けた係止体に係止する第二フランジを突出している点については,甲1発明乃至甲3発明のいずれにも,記載も示唆もされておらず,制止板及び回動制止片をこのような構造とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。
したがって,本件特許発明1の相違点2にかかる事項は甲1発明乃至甲3発明に基づいて当業者が適宜設計し得る事項ということはできない。

<相違点3について>
甲2発明の永久磁石は筺枠内に設けられており,また,甲3発明は,本件特許発明1の箱体に相当する部材が存在しなから,甲2発明及び甲3発明のいずれにも,本件特許発明1のように,永久磁石を錠体と箱体の間に装着した点が記載も示唆もされていない。
しかし,永久磁石は掛止板に磁力が作用する部分であればいずれに配置してもよく,また,本件特許の発明の詳細な説明を参酌しても,永久磁石を錠体と箱体との間に装着したことによる当業者が予測できないほどの格別の効果を見いだすことができない。
したがって,本件特許発明1の相違点3にかかる事項は甲1発明に基づいて当業者が適宜設計し得たものである。

次に,本件特許発明1と甲3発明とを対比して,その相違点について検討した結果についても,以下述べておく。

本件特許発明1と甲3発明を対比すると,甲3発明の「蓋」が,本件特許発明1の「蓋体(C)」に相当し,以下,「係止突部」が「係止突体(4)」に,「ストツパー」が「係止体(13)」に,「制止ピンの上端」が「制止片(14a)」に,「回動環」が「回動制限片(12)」に,「掛止鈑」が「掛止板(2)」に,それぞれ相当する。
また,本件特許発明1の制止板(14)と甲3発明の制止ピンは,いずれも回動制限片に係止する部材であるから,両者は「制止部材」である点で共通している。
さらに,本件特許発明1の第一フランジ(12a)と第二フランジ(12b),及び甲3発明の円弧状つばは,いずれも「フランジ」である点で共通している。
そして,永久磁石の配置位置について,本件特許発明1及び甲3発明はいずれも「錠体内部」に配置している点で共通している。そして,甲3発明も永久磁石は掛止板に磁力が作用することを目的としたものであることが自明である。

したがって,両者は,
「かばん本体に固定する錠体と,蓋体に取り付ける掛止板とを備え,掛止板に穿った嵌合孔に係合する係止突体を錠体表面に突設し,係止突体の表面に外形が略同形の掛止部材を回動可能に枢支し,その枢軸に掛止部材を回動させる方向に作用するコイルばねを設け,前記掛止部材の枢軸に,制止部材に係止するフランジを突出した回動制限片を固着して,前記掛止部材が係止突体と一致した位置,または90度回動した位置となって停止するようにし,前記制止部材に制止片を突設し,この制止部材の制止片を錠体表面に突出する方向に作用するコイルばねを設け,この制止片を錠体表面の一個所に突出させ,また前記掛止板に磁力が作用するようにした永久磁石を錠体内部に装着したことを特徴とするかばん錠。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点a>
本件特許発明1は,箱体と係止突体と錠体とが別体に設けられており,係止突体の底面に設けた止着体を,錠体に設けた通孔に挿入し,この錠体とは別体とした箱体の止着孔に挿入し,この錠体とは別体とした箱体の止着孔に挿入して,止着体の先端部をかしめたものであるのに対し,甲3発明は,本件特許発明1の箱体に相当する部材が存在せず,また,錠体と突出部とが一体的に設けられ,錠体と突出部とを結合する手段が存在しない点。

<相違点b>
本件特許発明1は,制止部材が制止板であって,箱体内に一端を枢支して設けられ,中間部に制止片を突設して掛止部材の手前の錠体表面の一箇所で突出させ,他端にコイルばねを設けたものであり,また,回動制限片が,該制止板に係止する第一フランジ,および前記箱体内に設けた係止体に係止する第二フランジを突出しているのに対し,甲3発明は,制止部材が制止ピンであり,また,回動制限片が,フランジを1箇所突出したものである点。

<相違点c>
永久磁石の装着位置について,本件特許発明1は,錠体と箱体の間であるのに対し,甲3発明は,錠体内部であるものの,箱体を有していないため,本件特許発明1のような位置関係とはならない点。

相違点について検討する。
<相違点aについて>
上記相違点1でも検討したように,甲1発明乃至甲3発明には,箱体と係止突体とが別体である構成について,何ら開示されていないし,例え,一般的に,部材を別体に形成して結合する技術が周知の技術であるとしても,甲3発明の係止突部と錠体とを別体に形成し,さらに箱体を設ける動機付けがなく,その上,止着体をもって係止突部,錠体及び箱体を一体化する技術についても,甲1発明乃至甲3発明のいずれにも,記載も示唆もない。
なお,甲3発明は,記載事項(3b)にも示したように,昭和56年実用新案出願公告12381号公報に記載された発明(甲1発明)の「構造が極めて複雑で製作が面倒」などの問題点を解消した発明であって,その結果箱体などの部材が省かれたものであり,このようにして成立した甲3発明の問題点として認識された箱体を再び設けることは,阻害要因となる。
したがって,本件特許発明1の相違点1にかかる事項は,甲1発明乃至甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

<相違点bについて>
上記相違点2でも検討したように,制止板が,箱体内に一端を枢支して設けられ,中間部に制止片を突設して掛止部材の手前の錠体表面の一箇所で突出させ,他端にコイルばねを設け,また,回動制限片が,該制止板に係止する第一フランジ,および前記箱体内に設けた係止体に係止する第二フランジを突出している点については,甲1発明乃至甲3発明のいずれにも,記載も示唆もされておらず,制止板及び回動制止片をこのような構造とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。
したがって,本件特許発明1の相違点bにかかる事項は甲1発明乃至甲3発明に基づいて当業者が容易発明をすることができたとすることはできない。

<相違点cについて>
上記相違点3でも検討したように,甲1発明は,永久磁石を錠体内の制止片の周りに装着しているおり,また,甲2発明の永久磁石は筺枠内に設けられており,本件特許発明1とは異なる。
また,相違点aでも検討したように,甲3発明においては,箱体を設けることの動機付けが存在しないため,甲3発明において箱体を設けることは当業者にとって容易に想到し得た事項ではないため,永久磁石を錠体と箱体の間に装着することも,当業者が容易に想到し得ない。
したがって,本件特許発明1の相違点cにかかる事項は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-2.本件特許発明2について
本件特許発明2は,本件特許発明1を引用するものであって,さらに「前記錠体(1)を、任意の外形状(1a)および模様(1b)を有したものとした」点を限定したものである。
したがって,本件特許発明2も,上記本件特許発明1と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。


第5 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件特許発明1及び本件特許発明2に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-10-13 
出願番号 特願2006-127299(P2006-127299)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 家田 政明清藤 弘晃  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 草野 顕子
宮崎 恭
登録日 2010-01-29 
登録番号 特許第4446277号(P4446277)
発明の名称 かばん錠  
代理人 丸山 英之  
代理人 丸山 英之  
代理人 上野 康成  
代理人 辻本 希世士  
代理人 辻本 一義  
代理人 辻本 一義  
代理人 谷山 守  
代理人 森田 拓生  
代理人 森田 拓生  
代理人 辻本 希世士  
代理人 上野 康成  

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