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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1227694
審判番号 不服2007-26331  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-26 
確定日 2010-11-24 
事件の表示 平成9年特許願第172949号「徐放性農薬製剤組成物及びその製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年1月12日出願公開、特開平11-5703〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この出願は、平成9年6月13日の出願であって、平成19年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
この出願の発明は、平成19年8月3日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「吸水性物質からなる核の表面に、核1部に対し0.05?0.2部の低温造膜性の疎水性高分子と一種以上の農薬活性成分とからなる被膜が形成され、さらにその上に、不活性な粉が粉衣されてなり、室温から40℃で乾燥して得られることを特徴とする徐放性農薬製剤組成物。」

3.原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成19年5月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その理由2は、「この出願の下記の請求項に係るに係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、その「下記の請求項に係る発明」は、「請求項3に係る発明」及び「請求項4に係る発明」を含むところ、上記「請求項3に係る発明」に「室温から40℃で乾燥して得られる」の点と請求項4に記載されていた「不活性な粉を粉衣」の点を付加した発明が、「本願発明」に相当し、「下記の刊行物」には、特開昭59-164705号公報(以下、「引用例1」という。原査定における「引用文献1」と同じ。)と、鈴木照麿「農薬製剤学」,株式会社南江堂,1965年1月20日,216頁(以下、「引用例2」という。原査定における「引用文献2」と同じ。)と、神奈川経営開発センター出版部「最新造粒技術の実際[総合技術資料集]」,1984年6月20日,311?313頁(以下、「引用例3」という。原査定における「引用文献5」と同じ(審決注:拒絶理由通知書における「増粒」は「造粒」の誤記と認める。)。)が含まれるから、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

4.引用刊行物の記載事項

(1)引用例1:特開昭59-164705号公報
(1a)「トリシクラゾールおよびガラス転移温度が約-20℃?100℃であつて少なくとも1個の式(I):

(式中、R^(1) は水素またはC_(1)?C_(4) アルキル、R^(2) はC_(1)?C_(10) アルキルを表わす)
で示されるアクリルモノマーから導かれる繰返し単位を約30?100重量%の割合で含んでいるポリマーを含有している放出制御製剤。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「稲作を行ない得る国々にとつて、いもち病を制御することは経済的に極めて有益である。トリシクラゾール、即ち、5-メチル-1,2,4-トリアゾロ(3,4-b)ベンゾチアゾールは、いもち病の病原菌であるイモチ菌、Piricularia oryzaeの全身性の殺菌剤である。」(1頁右下欄13?18行)
(1c)「従来市販されているトリシクラゾール製剤は、土壌に施用されると迅速に活性物質を放出するために、葉いもち病期(leaf blast stage)を通して稲を保護するに必要な期間、稲を保護することができないのである。さらに、従来製剤は、高濃度の活性物質を即座に放出することから、稲の幼苗を損傷させるおそれがある。本発明に係る放出制御製剤は、活性物質濃度が初期に高くなるおそれもなく、長期間にわたりトリシクラゾールを放出せしめることにより、これら従来製剤の欠点を克服したものである。」(2頁左上欄7?17行)
(1d)「市販品から入手し得るいくつかのアクリル系共重合体は、本発明製剤に用いることができるポリマーに関する前述の記載内容にあてはまる。そのような市販のアクリル系共重合体の内、好ましいものはRhoplex AC-33(Rohm and Haas Company)である。このアクリル樹脂乳濁液は下記の特性を有している:
外観 白色乳状液
固型物含量(%) 46?47
pH 9.4?9.9
ガロン当りの重量(ポンド/ガロン) 8.9
最少皮膜形成温度 9℃
Tg(ガラス転移温度) -9℃
この共重合体は、約2.8/1(w/w)の割合のアクリル酸エチル/メタクリル酸メチル、およびほぼ2?3%のアクリル酸またはメタクリル酸を含有している。この樹脂乳濁液はまた、約5%のアルキルアリールポリエチレンオキシド系界面活性剤を含有している。」(3頁右上欄3行?左下欄1行)
(1e)「トリシクラゾールおよびポリマーは農業上許容し得る適当な担体と共に製剤化するのが好ましい。このような担体は吸着性であつても吸収性であつてもよい。代表的な担体には、石灰石、砂、石こう、粉砕火山岩、およびモンモリロナイト、アタパルジヤイト、カオリン、ボール・クレーなどの粘土類、タルク、肥料および大豆粉、荒挽きのとうもろこし穂軸、籾殻などの農業生産物等が含まれる。これらの内、アタパルジヤイトクレーおよび殻粉が好ましい。」(4頁左上欄6?15行)
(1f)「通常、3またはそれ以上の成分から成る製剤の場合には、トリシクラゾールを約0.1?約30重量(%)、ポリマーを約10?60重量(%)、および農業上許容し得る担体を約20?約89.9重量(%)含有することが望ましい。」(4頁右上欄16?20行)
(1g)「実施例1
30/60メツシュのFlorex(Floridin社供給の、アタパルジヤイトクレー顆粒)46gを空中粉砕(air milled)したトリシクラゾール8gおよびRhoplex AC-33(100g)の混合物に、撹拌下に加えた。この混合物を、ポリマー/活性物質分散系が担体上に均一に分散されるまで、即ち約10分間混合した。この混合物を室温、常圧で約2時間乾燥させた後、37℃の真空乾燥機内でさらに2時間乾燥させた。得られた放出制御顆粒剤は、分析の結果乾燥重量に基づき濃度7.61%のトリシクラゾールを含有していた。」(6頁左上欄14行?右上欄5行)

(2)引用例2:鈴木照麿「農薬製剤学」
(2a)「(iii)アタパルジャイト(attapulgite)群 この群には、attapulgite,sepiolliteがある.attapulgiteは
Mg_(5)[Si_(4)O_(10)]_(2)・8H_(2)O
であらわされ繊維状である.水と親和しやすく吸水力もあるので,水和剤や粒剤調製に用いられ,特に粒剤調製には適当であるという^(4,9)).」(216頁13?17行)

(3)引用例3:神奈川経営開発センター出版部「最新造粒技術の実際[総合技術資料集]」
(3a)「(3)(審決注:数字「○の中に3」を、「(3)」で示した。)コーチング法(被覆法)
前述した2方法では問題のある品目でも低含量でよければ適用できる。工程も比較的簡単なので有利な場合がある。
a)原料および処方
一般に用いられるものと大体の配合を表6に示す。
主剤原体が固体なら予めなるべく濃厚品で微粉砕しプレミックスにする。液状ならそのままでよいが,ホワイトカーボン等に吸収後に粉砕均質化してプレミックス化してもよく,逆に固体原体を液状化してもよい。
担体としては一般に非吸収性、非膨潤性の粒状鉱物質(破砕整粒品等)を用いる。
本法では結合剤と吸収剤は必須となる。しかし液状原体を結合剤として,或は主剤プレミックスを吸収剤として働かせ得ることがある。また湿潤・分散剤は主剤の水中放出性を促進させるときに用いるが,液状界面活性剤を使えば結合剤の役割も兼ねさせることができる。ただ被覆仕上剤としてホワイトカーボンは普通欠かせない。なお不揮発性溶剤を用いるとき,揮散回収を要しない利点はあるが,それだけ被覆量が増大するので留意を要する。
b)製造プロセス
一般的と思われる例を前の図5にあわせ示した。造粒の原理は,固体微粉末を液状結合剤を用いて粒状担体表面に安定に被覆させることであり,工程の主体は混合工程となる。しかし効率的に行うには原料の添加順序と量的な関係および混合時間についてかなり検討を要する。通常粒状担体に液状原料を加えて表面を濡らし,粉末原料を加えて均質に付着させ,最後にホワイトカーボン等の高吸油性粉末を加えて被覆を完結させ,流動性を付与する。水は良好な結合剤だが乾燥工程が必要となる。また粒の固結団粒化がおこり易い場合があり篩別工程が必要と思われる。」(311頁右欄下から6行?313頁左欄13行)

5.当審の判断

(1)刊行物に記載された発明
引用例1には、トリシクラゾールと式(I)で示されるアクリルモノマーから導かれるポリマーを含有する放出制御製剤が記載されている(摘示(1a))。この放出制御製剤におけるトリシクラゾールは、「いもち病の病原菌であるイモチ菌・・・の全身性の殺菌剤」(摘示(1b))であり、この製剤は、「活性物質濃度が初期に高くなるおそれもなく、長期間にわたりトリシクラゾールを放出せしめること」(摘示(1c))ができるものである。
製剤化にあたり、「トリシクラゾールおよびポリマーは農業上許容し得る適当な担体と共に製剤化するのが好ましい」(摘示(1e))とされ、代表的な担体が例示されている(同)。また、各成分の割合について、「トリシクラゾールを約0.1?約30重量(%)、ポリマーを約10?60重量(%)、および農業上許容し得る担体を約20?約89.9重量(%)含有することが望ましい。」(摘示(1f))とあることから、担体1部に対し、高分子は0.1?3部(10/89.9?60/20)使用されるものである。そして、具体的な製剤として、実施例1に、「30/60メツシュの・・・アタパルジヤイトクレー顆粒46gを空中粉砕・・・したトリシクラゾール8gおよびRhoplex AC-33(100g)の混合物に、撹拌下に加え」、「ポリマー/活性物質分散系が担体上に均一に分散されるまで・・・約10分間混合し」、「この混合物を室温、常圧で約2時間乾燥させた後、37℃の真空乾燥機内でさらに2時間乾燥させ」ることにより得られる「放出制御顆粒剤」(摘示(1g))が記載されている。実施例1における「アタパルジヤイト」は、担体として例示されたものであり(摘示(1e))、「Rhoplex AC-33」は、引用例1で定義されるポリマーにあてはまる市販のアクリル系共重合体で、最少皮膜形成温度9℃の、固形物含量46?47%のアクリル樹脂乳濁液である(摘示(1d))。
これらの引用例1の記載からすると、引用例1には、
「アタパルジヤイトクレー顆粒からなる担体上に、最少皮膜形成温度9℃のアクリル樹脂乳濁液とトリシクラゾールの分散系が均一に分散された混合物を、室温及び37℃で乾燥させることにより得られる放出制御顆粒剤」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明と引用発明との対比
引用発明における「アタパルジヤイトクレー顆粒からなる担体」は、アタパルジヤイトが吸水性の物質であり(摘示(2a))、担体の表面に高分子とトリシクラゾールとが均一に分散されることにより被覆されるので、放出制御顆粒剤の核といえるものであるから、本願発明の「吸水性物質からなる核」に相当する。そして、その表面を被覆するアクリル樹脂乳濁液は、最少皮膜形成温度が9℃であり、界面活性剤により乳濁化されている(摘示(1d))ことから、本願発明の「低温造膜性の疎水性高分子」からなるものであり、被覆後の室温及び37℃での乾燥により、本願発明でいう「核の表面に・・・被膜が形成」されるものである。また、引用発明の「トリシクラゾール」は、いもち病の病原菌であるイモチ菌の殺菌剤(摘示(1b))であるから、本願発明の「農薬活性成分」であり、「放出制御顆粒剤」は、長期間にわたり農薬活性成分であるトリシクラゾールを放出する(摘示(1c))ものであるから、「徐放性農薬製剤組成物」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「吸水性物質からなる核の表面に、低温造膜性の疎水性高分子と一種以上の農薬活性成分とからなる被膜が形成され、室温から40℃で乾燥して得られる徐放性農薬製剤組成物」
である点において一致し、以下の点において相違するといえる。
(相違点1)
本願発明は、低温造膜性の疎水性高分子の量が、「核1部に対し0.05?0.2部」であるのに対し、引用発明では、具体的に示された実施例のものがこの範囲を満足していない点
(相違点2)
本願発明は、被膜が形成された「さらにその上に、不活性な粉が粉衣されてな」るのに対し、引用発明では、不活性な粉による粉衣がされていない点

(3)判断

(3-1)相違点1について
引用例1には、上記(1)にも示したとおり、各成分の割合について、「トリシクラゾールを約0.1?約30重量(%)、ポリマーを約10?60重量(%)、および農業上許容し得る担体を約20?約89.9重量(%)含有することが望ましい。」(摘示(1f))とあることから、担体1部に対し、高分子0.1?3部(10/89.9?60/20)が使用されるものである。この割合は、本願発明が特定している割合と、「核1部に対し0.1?0.2部」の範囲で共通している。
そして、上記の、「担体1部に対し、高分子0.1?3部」との割合は、担体がアタパルジヤイトクレー顆粒の場合にも適用できるものであることは明らかであって、担体の単位重量当りの表面積が担体の粒径に依存することや、所望する農薬活性成分の担持量に応じて被膜の厚さを調整できることを勘案すると、当業者は、上記の範囲内でその割合を適宜設定できるものである。
してみると、引用発明につき、上記の割合を、相違点1に係る本願発明の構成を満足するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3-2)相違点2について
引用例3は、造粒技術について記載された刊行物であり、造粒の一方法として「コーチング法(被覆法)」が記載されている(摘示(3a))。そして、一般的と思われる製造プロセスの例として、「粒状担体に液状原料を加えて表面を濡らし,粉末原料を加えて均質に付着させ,最後にホワイトカーボン等の高吸油性粉末を加えて被覆を完結させ,流動性を付与する。」(同)と記載されている。
この方法における、「最後にホワイトカーボン等の粉末を加えて被覆を完結させ、流動性を付与する」工程は、液状原料により濡れた粒状担体の表面に粉末原料を付着させてもいまだ濡れた状態にある表面を、ホワイトカーボン等の粉末で被覆することにより、濡れた状態の粒状担体同士の結合による団塊化を防止し、流動性を付与するものであると理解できる。
ここで、引用発明の顆粒剤の製造過程をみると、担体の表面にアクリル樹脂乳濁液とトリシクラゾールの分散系が均一に分散された段階では、担体表面が濡れた状態にある。そうすると、この状態で粉末を加えれば、粒状担体同士の結合による団塊化を防止し、流動性を付与することができることは、引用刊行物の記載から当然予測し得ることである。そして、引用発明の顆粒剤は、粉末原料を付着させるものではないが、その製造過程において、担体の表面にアクリル樹脂乳濁液とトリシクラゾールの分散系が均一に分散された段階では、担体表面が濡れた状態にあり、上記「コーチング法(被覆法)」が、造粒技術における代表的な方法であることからすると、引用発明の顆粒剤の製造にあたり、担体表面が濡れた状態にある段階で、粒状担体同士の結合による団塊化を防止し、流動性を付与することを目的として粉末を添加しその表面を覆うことは、当業者にとって想起が格別困難といえるものではない。なお、添加する粉末として、製剤組成物中で他に影響を及ぼさない不活性なものを採用することは当然のことである。
したがって、引用発明において、低温造膜性の疎水性高分子と農薬活性成分とからなる被膜が形成された「さらにその上に、不活性な粉が粉衣されてな」るものとすることは当業者が容易に実施し得ることである。

(3-3)本願発明の効果について
本願発明は、「放出速度が高度に制御されるため、土壌中に施用された場合リーチングも少なくなり又長期にわたって農薬活性成分を放出することが可能になる」、「製造方法が非常に簡単であり、かつ短時間で製造できるため生産効率の面でも優れたものである」(本願明細書の段落【0027】)との効果を奏するものであるとされるが、引用発明においても、「活性物質濃度が初期に高くなるおそれもなく、長期間にわたりトリシクラゾールを放出せしめること」(摘示(1c))ができるものであり、製造方法も簡便なものといえるから、本願発明の効果は、引用発明においても奏しているか、これから当業者が予測し得る範囲のものである。
そして、本願発明において、相違点1に係る、低温造膜性の疎水性高分子の量が「核1部に対し0.05?0.2部」との特定は、その技術的意義は、本願明細書の段落【0007】によれば、「0.05部以下では農薬活性成分の含有量が多くできず、又充分な徐放性が得られない」、「0.2部以上になると本発明の簡便な製造法では製造が困難となる」というものにすぎす、このように特定することにより格別の効果を奏するものであるとはいえない。
また、本願発明において、相違点2に係る、被膜が形成された「さらにその上に、不活性な粉が粉衣されてな」るとの特定は、本願発明において不活性な粉は、「粒と粒を独立させるために用いる」(本願明細書の段落【0009】)とされるもので、引用例3における「流動性を付与する」(摘示(3a))と同等の効果をもたらすにすぎず、本願発明が格別の予期し得ない効果を奏するものであるともいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、拒絶理由は誤りがあると主張し、主張の根拠として次のように述べている(審判請求書【本件発明が特許されるべき理由】2.(3))。
「本件発明は、吸水性物質からなる核、農薬活性成分と特定量の低温造膜性の疎水性高分子被膜、及び、不活性な粉の衣からなる製剤であり、当該製剤を室温から40℃という低温で乾燥することにより、実用的に十分な能力を有する徐放性製剤を簡単に製造することができるというものです。
核として吸水性物質を選択して用いること、被膜として低温造膜性の疎水性高分子を選択して用いること、及び室温から40℃という低温を選択して乾燥するという技術思想は、上記文献からは見出せませんし、ましてやこれらを組合せて行うという発想は、上記引用文献からは考えられません。
それに対して、拒絶理由は、各文献に本発明の上記技術思想が記載されており、それらの記載を基に本発明は寄せ集めたものであるから、創意工夫はないとするものです。
確かに、引用文献には、核として吸水性物質に相当するものが記載されていること、被膜として低温造膜性の疎水性高分子に相当するものが記載されていること、及び室温から40℃という低温で乾燥する範囲も記載されていることは事実といえるかもしれません。しかしながら、引用文献の発明はこれらの技術を用いることを必須とする発明ではありません。引用文献の発明は、これらに限定することなく何でも良いとしているのです。
数多くある技術の中から、特定の技術を選択するには、選択する理由が無くてはなりませんし、それらを結び付けるには動機がなければなりません。原査定は、この選択する理由と動機の存在を明らかにすることなくなされたものと思料いたします。」
しかし、請求人の主張は、以下のとおり採用できない。
引用例1には、トリシクラゾールと式(I)で示されるアクリルモノマーから導かれるポリマーを含有する放出制御製剤が記載されている(摘示(1a))。そして、担体(核)として「アタパルジヤイト」を採用すること(摘示(1e))、被膜を形成するポリマーとして低温造膜性の疎水性高分子を含有する「Rhoplex AC-33」を採用すること(摘示(1d))、乾燥にあたり温度条件として「室温」、「37℃」を採用すること(摘示(1g))は、すべて引用例1に記載されている。そして、いずれも引用例1記載の放出制御製剤の所期の目的を達成するために採用される構成として記載されているのであるから、これらの構成を組合せて放出制御製剤とすることは、当然想定されることである。
してみると、担体、ポリマー、乾燥条件等を、引用文献1に記載される技術から選択すること、及び、それらを結び付けることは、放出制御製剤を製造することを理由とし、動機とするものであるから、明示するまでもなく自明のことといえる。
したがって、請求人が根拠とする内容は妥当なものではないので、これを根拠とする請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2、3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2?5に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-24 
結審通知日 2010-09-27 
審決日 2010-10-12 
出願番号 特願平9-172949
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 千香子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 松本 直子
齊藤 真由美
発明の名称 徐放性農薬製剤組成物及びその製造法  
代理人 廣田 雅紀  

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