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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1227695
審判番号 不服2007-30022  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-05 
確定日 2010-11-24 
事件の表示 特願2000-31246号「径の異なる複数のビームを使用して三次元物体をステレオリソグラフィーで形成する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月3日出願公開、特開2000-272016号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年2月8日(パリ条約による優先権主張1999年2月8日、(US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成19年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年11月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成19年7月10日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】 三次元物体を材料の連続する層を所定の刺激のビームに露光することによって複数の互いに結合した層で形成するための方法において、
三次元物体を表すデータを作成し、
所定の刺激の、第1の寸法であってアスペクト比が0.9から1.1の範囲である第1のビームのパラメータを設定し、
所定の刺激の、第1の寸法の1.5倍?5倍である第2の寸法であってアスペクト比が0.9から1.1の範囲であり、前記第1のビームと同一の刺激源であるレーザーから発生される第2のビームのパラメータを設定し、
前記データを前記パラメータを用いて処理して、前記第2の寸法の第2のビームによって形成すべき断面部分を表すデータと前記第1の寸法の第1のビームによって形成すべき断面部分を表すデータとを含む変更されたデータを作成し、
物体の次の層を形成するために形成済みの層に隣接して材料の層を形成し、
その材料の層を前記変更されたデータにしたがって、前記第1のビームおよび・または第2のビームに露光して物体の次の層を形成し、
層の形成と刺激への露光を繰り返して、前記物体を複数の互いに結合した層で形成する、各工程を含み、
前記レーザーが前記第2のビームで前記材料を露光するときに前記第1のビームで前記材料を露光するときより高い光学的パワーを発し、
各層を形成する際に前記第1のビームの前に前記第2のビームを使用する、
ことを特徴とする方法。」

3.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は、上記2.に記載したとおりである。

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶理由において引用された刊行物である特開平11-5254号公報(以下、「引用例1」という。)には、「積層造形方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、添字を大文字で表記した箇所がある。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レーザビームの照射により固化した固化層を積層して鋳型等の三次元造形物を形成する積層造形方法に関する。」
(い)「【0006】
【発明の実施の形態】本発明方法では、レーザビームを照射する際に、三次元造形物の表層部を形成する部分と、三次元造形物の内部を形成する部分とでレーザビームのビーム径を使い分ける。そして、内部を形成する部分には太いレーザビームを照射する。表層部を形成する部分には細いレーザビームを照射する。
【0007】ビーム径の太い、細いは相対的なものであり、従って、細いレーザビームは、太いレーザビームよりも相対的に細いものであれば良い。細いレーザビームのビーム径、太いレーザビームのビーム径はレーザの種類、三次元造形物の大きさ、三次元造形物を構成する材料の種類、レーザビームの照射速度、要求される生産性等の要因に応じて適宜選択できる。
【0008】例えば、細いレーザビームのビーム径としては0.01?1.0mmを採用でき、なかでも0.1?0.3mmを採用できる。太いレーザビームのビーム径としては、例えば、0.3?50mmを採用でき、なかでも2?10mmを採用できる。但し、ビーム径はこの値に限定されるものではない。太いレーザビームとしては、レーザビームのビーム径を拡大レンズ等の拡大系で拡大した散光ビームを用いても良い。
【0009】本発明方法では、太いレーザビームと細いレーザビームとを1台のレーザ発振器から照射する形態を採用できる。この場合には、単一のレーザビームを複数のビームに分割するビーム分割手段を利用することにより、細い径のレーザビームを生成できる。代表的なビーム分割手段としては、ビームスプリッタ、プリズムなどを採用できる。ビームスプリッタがコーティング膜を積層した構造をもつ場合には、コーティング膜の厚み等を調整することによって、希望する比率でレーザビームを複数のビームに分割できる。」
(う)「【0013】本発明方法では、レーザビームの照射により固化する材料としては、樹脂を被覆した砂等の粉粒体、液状樹脂を採用できる。樹脂は熱硬化性をもつものを採用できる。本発明方法では、レーザビームとしては、CO2レーザ、YAGレーザ、Arレーザ、ルビーレーザ、エキシマレーザ等の公知のレーザビームを採用でき、可視光、非可視光のいずれでも良い。」
(え)「【0018】本実施例では、上記した図4に示す基本形状断面モデル45のデータに基づいて、太いレーザビームM1が照射されるスキャン軌跡を演算する。同様に、上記した図5に示す輪郭層断面モデル46に基づいて、細いレーザビームM2が照射されるスキャン軌跡を演算する。本実施例では、演算されたスキャン軌跡に基づいて、太いレーザビームM1を実際の砂層50に照射すると共に、細いレーザビームM2を実際の砂層50に照射する。図6(A)は、砂層50にレーザビームM1、M2が照射された形態を模式的に示す。レーザビームM1、M2の照射は同時に実行しても良いし、時間的にずらして実行しても良い。
【0019】本実施例では、砂層50のうち、レーザビームM1、M2が照射された樹脂被覆砂50cの樹脂が熱硬化する。よって、隣接する樹脂被覆砂50c同士が結合し、以て一枚の固化層10が形成される。・・・以下、略。」
(お)「【0026】さて、図10は、三次元造形物1を形成する際の工程手順の一例を示す。先ず、ステップS2では、製造すべき三次元造形物1に基づいた形状、サイズをもつ三次元モデル4を求める。この場合には、三次元造形物1の伸尺や加工代等を考慮する。ステップS4では、三次元モデル4のなかの基本形状立体41を求める。ステップS6では基本形状立体41に基づいて基本形状断面モデル45を求め、ステップS8では、求めた基本形状断面モデル45に基づいて、太いレーザビームのスキャン軌跡を演算する。ステップS10では、演算されたスキャン軌跡に基づいて太いレーザビームを照射する。
【0027】ステップS20では、三次元モデル4のなかの輪郭層立体42を求める。ステップS22では、輪郭層立体42に基づいて輪郭層断面モデル46を求める。ステップS24では、求めた輪郭層断面モデル46に基づいて、細いレーザビームのスキャン軌跡を演算する。ステップS26では、演算されたスキャン軌跡に基づいて細いレーザビームを照射する。
【0028】ステップS30では、固化層10の1枚の厚みに相当する距離、固化層10の高さ位置を降下させる。ステップS32では、三次元造形物1の造形が終了したか判定し、終了しておれば、ステップS34で三次元造形物1を取り出す。終了していなければ、ステップS6、ステップS22に戻る。・・・以下、略。」
(か)「【0030】このように三次元造形物1のかなりの容積を占める内部を、照射面積が大きい太いレーザビームM1で照射するため、三次元造形物1の内部を形成するための照射時間が短縮化される。よって、三次元造形物1を形成する生産性が向上する。更に本実施例では、三次元造形物1の輪郭は細いレーザビームM2で形成されるため、三次元造形物1の輪郭の形状精度も確保される。」
(き)「【0037】また図11に示すように、砂層50を領域S1と領域S2とに区分けし、領域S1において主照射部80により第1照射操作を実行しつつ、領域S2において副照射部93により第2照射操作を実行し、その後に、照射領域を交替しても良い。上記したように砂の散布工程、レーザビームM1、M2の照射工程が実行されると、砂層50が固化した固化層10が形成される。このような砂の散布工程、照射工程が繰り返されると、前述したように固化層10が次第に積層され、これにより三次元造形物1が得られる。」
(く)「【0049】本例では、太いレーザビーム(ビーム径:5mm)を照射する場合にはレーザ発振器82aの出力を大パワーとし、細いレーザビーム(ビーム径:0.2mm)を照射する場合にはレーザ発振器82aの出力を小パワーにできる。・・・以下、略。」
(け)図13?15の適用例からみて、上記記載事項(お)及び図10の工程手順において、ステップS30の「固化層10の1枚の厚みに相当する距離、固化層10の高さ位置を降下させる」ことの後に、ステップS32で、「三次元造形物1の造形が終了」していないと判定され、「ステップS6、ステップS22に戻る」際には、三次元造形物の次の層を形成するためにすでに固化された固化層10に隣接して未固化の材料の導入が行われ(図13?図15の適用例における「砂の散布」)、該未固化の材料に太いレーザビーム及び細いレーザビームの照射が行われることで次の固化層10が形成されるものであり、該未固化の材料の導入とレーザビームの照射を繰り返して、固化層10が次第に積層されて三次元造形物が形成されることは明らかである。

以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「未固化の材料をレーザビームの照射によって固化し、隣接する層同士を結合し、固化層10が次第に積層されて三次元造形物を形成する積層造形方法において、
製造すべき三次元造形物に基づいた形状、サイズをもつ三次元モデル4を求め、
細いレーザビームのビーム径を適宜選択し、
細いレーザビームと同一のレーザ発振器から照射される、細いレーザビームよりも太いビーム径を有する、太いレーザビームのビーム径を適宜選択し、
前記三次元モデル4に基づいて、前記太いレーザビームが照射される領域である基本形状断面モデル45と前記細いレーザビームが照射される領域である輪郭層断面モデル46とを求め、前記太いレーザビームが照射されるスキャン軌跡及び前記細いレーザビームが照射されるスキャン軌跡を演算し、
三次元造形物の次の層を形成するためにすでに固化された固化層10に隣接して未固化の材料の導入し、
その未固化の材料の層を前記太いレーザビームが照射されるスキャン軌跡及び前記細いレーザビームが照射されるスキャン軌跡にしたがって、前記太いレーザビーム及び前記細いレーザビームを照射して次の固化層10を形成し、
未固化の材料の導入とレーザビームの照射を繰り返して層が固化され、隣接する層同士が結合され、固化層10が次第に積層される、各工程を含み、
各層を形成する際に太いレーザビームの照射と細いレーザビームの照射とは時間的にずらして実行される、
三次元造形物を形成する積層造形方法。」

(2-2)引用例2
原査定の拒絶理由において引用された刊行物である特開平3-42233号公報(以下、「引用例2」という。)には、「光学的造形法」に関して、下記の事項が図面(特に、第1?3図)とともに記載されている。
(こ)「[産業上の利用分野]
本発明は光硬化性流動物質に光を照射して目的形状の厚肉断面の硬化体を製造する光学的造形法に係り、特に厚肉断面を有する硬化体の製作速度及び精度を向上できるようにした光学的造形法に関する。」(第1頁左下欄第14?19行)
(さ)「(ロ) 上記の断面が複雑な形状を有していたりする場合には、まず大径光束を照射して概略的に主要部を硬化させ、その後、細部や目的形状体の表面部分を小径光束の照射により硬化させる。」(第2頁右上欄第16?20行)
(し)「第1図に示す方法は、まず大径光束38を走査して硬化層24の主要部を構成する硬化部Aを形成し、次に小径光束35を走査して硬化部Aの表裏両側面に表層部を構成する硬化部Bを形成する。」(第3頁右上欄第9?13行)
(す)「本発明では、大径光束としては例えば2?10mm程の直径の光束が好適である。また、小径光束としては0.2?1mm程度の直径の光束が好適である。」(第4頁左上欄第5?8行)
(せ)「以上の通り、本発明方法は大小複数の光束を用いており、大形の造形体であっても、短時間で製作できる。また、小径光束を用いて表面を精緻にかつ高精度に仕上げることもできる。」(第4頁左下欄第3?6行)
(そ)第1?3図からみて、大径光束38及び小径光束35は略円形であることが看取される。

(2-3)引用例3
原査定の拒絶理由において引用された刊行物である特開平6-254971号公報(以下、「引用例3」という。)には、「三次元形状の形成方法」に関して、下記の事項が図面(特に、図3,4)とともに記載されている。なお、添字を大文字で表記した箇所がある。また、ローマ数字は算用数字で表記した。
(た)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、三次元形状の形成方法に関し、詳しくは、光の照射によって硬化する光硬化性樹脂を用いて、立体的な三次元形状を有する物品を成形製造する方法に関するものである。」
(ち)「【0023】図3は、光ビーム30の断面形状による硬化状態の違いを示している。図の下方に表されているように、(1)に示す断面楕円形状の光ビーム31を照射したときに形成される硬化断面40aの深さD1は、(2)に示す断面円形状の光ビーム32を照射したときに形成される硬化断面40bの深さD2に比べて、はるかに深くなっている。したがって、レーザ発振器などの光源の出力が同じであれば、断面楕円形状の光ビーム31のほうが、断面円形状の光ビーム32よりも硬化深さを深くできることがわかる。・・・以下、略」

(3)対比
引用例1発明の「三次元造形物」は、その機能及び技術常識からみて、本願発明1の「三次元物体」又は「物体」に相当し、以下同様に、「レーザビーム」は「所定の刺激のビーム」に、「(レーザビームの)照射」は「露光」に、「未固化の材料をレーザビームの照射によって固化し、隣接する層同士を結合し、固化層10が次第に積層されて三次元造形物を形成する積層造形方法」は「三次元物体を材料の連続する層を所定の刺激のビームに露光することによって複数の互いに結合した層で形成するための方法」に、「製造すべき三次元造形物に基づいた形状、サイズをもつ三次元モデル4」は「三次元物体を表すデータ」に、「細いレーザビーム」は「(第1の寸法である)第1のビーム」に、「ビーム径を適宜選択」は「(ビームの)パラメータを設定」に、「同一のレーザ発振器から照射される」は「同一の刺激源であるレーザーから発生される」に、「太いレーザビーム」は「(第2の寸法である)第2のビーム」に、「前記太いレーザビームが照射される領域である基本形状断面モデル45」又は「前記太いレーザビームが照射されるスキャン軌跡」は「前記第2の寸法の第2のビームによって形成すべき断面部分を表すデータ」に、「前記細いレーザビームが照射される領域である輪郭層断面モデル46」又は「前記細いレーザビームが照射されるスキャン軌跡」は「前記第1の寸法の第1のビームによって形成すべき断面部分を表すデータ」に、「前記三次元モデル4に基づいて、・・・前記太いレーザビームが照射されるスキャン軌跡及び前記細いレーザビームが照射されるスキャン軌跡を演算」は「前記データを前記パラメータを用いて処理」に、「未固化の材料の導入」は「材料の層を形成」に、「前記太いレーザビームが照射されるスキャン軌跡及び前記細いレーザビームが照射されるスキャン軌跡」は「前記変更されたデータ」に、それぞれ実質的に相当する。

上記の相当関係を踏まえて、本願発明1の記載ぶりに倣って整理すると、本願発明1と引用例1発明とは、
「三次元物体を材料の連続する層を所定の刺激のビームに露光することによって複数の互いに結合した層で形成するための方法において、
三次元物体を表すデータを作成し、
所定の刺激の、第1の寸法である第1のビームのパラメータを設定し、
所定の刺激の、第2の寸法であり、前記第1のビームと同一の刺激源であるレーザーから発生される第2のビームのパラメータを設定し、
前記データを前記パラメータを用いて処理して、前記第2の寸法の第2のビームによって形成すべき断面部分を表すデータと前記第1の寸法の第1のビームによって形成すべき断面部分を表すデータとを含む変更されたデータを作成し、
物体の次の層を形成するために形成済みの層に隣接して材料の層を形成し、
その材料の層を前記変更されたデータにしたがって、前記第1のビームおよび・または第2のビームに露光して物体の次の層を形成し、
層の形成と刺激への露光を繰り返して、前記物体を複数の互いに結合した層で形成する、各工程を含む、
方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
ビームの形状及び大きさに関して、本願発明1は、「第1の寸法であってアスペクト比が0.9から1.1の範囲である第1のビーム」及び「第1の寸法の1.5倍?5倍である第2の寸法であってアスペクト比が0.9から1.1の範囲」である「第2のビーム」とされているのに対し、引用例1発明は、「(第1の寸法である)第1のビーム」に相当する「細いレーザビーム」及び「(第2の寸法である)第2のビーム」に相当する「太いレーザビーム」を有するものの、アスペクト比及びビーム寸法は明らかではない点。
[相違点2]
ビームのパワーに関して、本願発明1は、「前記レーザーが前記第2のビームで前記材料を露光するときに前記第1のビームで前記材料を露光するときより高い光学的パワーを発し」とされているのに対し、引用例1発明は、、太いレーザビームと細いレーザビームの照射を行う際の光学的パワーの比較が不明である点。
[相違点3]
ビーム照射のタイミングに関して、本願発明1は、「各層を形成する際に前記第1のビームの前に前記第2のビームを使用する」とされているのに対し、引用例1発明は、各層を形成する際に太いレーザビームの照射と細いレーザビームの照射とは時間的にずらして実行されるものではあるが、細いビームの前に太いビームの照射を行うか否か明らかではない点。

(4)判断
[相違点1]について
ビームの形状(アスペクト比)に関して、平成12年4月10日付けで提出された本願の願書に最初に添付した明細書の翻訳文(以下、「当初明細書」という。)の段落【0007】には、「過度の楕円度は光線のアスペクト比、すなわち、焦点面における光線の最小寸法と最大寸法の比、に基づいて決定される。アスペクト比が1であるということは光線が円形であることを示し、1.1または0.9であるということは光線の一方の幅が他方の幅より約10%大きいかあるいは小さいということを示している。アスペクト比が1.1より大きいか、または0.9より小さいとき通常楕円度が過度であるとみなす。」と記載されていることから、ビームの「アスペクト比が0.9から1.1の範囲である」ことは、ビームが円形又は楕円形であることを特定したものと捉えることができる。
それに対して、引用例1発明は、レーザビームがビーム径を有するものであるから、その形状が円形であることは示唆されているといえるものであるが、さらに、同一技術分野に属する引用例3(特に、上記記載事項(ち)及び図3を参照。)には、光の照射で三次元形状の物品を製造する方法において、「断面楕円形状の光ビーム31」の照射を利用することも「断面円形状の光ビーム32」の照射を利用することも記載されており、引用例1発明及び上記引用例3の記載事項に基づいて、太いレーザビームと細いレーザビームの形状を、所定のアスペクト比を有するような円形又は楕円形の形状とすることは当業者が容易になし得たものであり、該アスペクト比をどの程度に設計するかは、ビームの性能等を考慮して適宜選択する設計的事項である。
また、ビームの大きさ(寸法)に関して、引用例1発明には、上記記載事項(い)の段落【0008】において、「例えば、細いレーザビームのビーム径としては0.01?1.0mmを採用でき、なかでも0.1?0.3mmを採用できる。太いレーザビームのビーム径としては、例えば、0.3?50mmを採用でき、なかでも2?10mmを採用できる。」と記載されており、この記載されている数値範囲は、本願発明1の「第2のビーム」の大きさとして特定されている「第1の寸法の1.5倍?5倍」を包含するものであるが、さらに、引用例1発明において、太いレーザビームを細いレーザビームの寸法の何倍にするかは、時間の短縮や輪郭の精度等を考慮して、当業者が適宜設計する設計的事項にすぎないものである。
さらに、本願発明1において、ビームの形状及び大きさに関する、「0.9から1.1の範囲」及び「1.5倍?5倍」との数値範囲の限定に関して、本願当初明細書全体を参酌しても、それぞれの数値範囲の上限及び下限を定めたことによる格別の技術的意義や、範囲の内外で顕著な差異があることは記載されていない以上、臨界的意義は認められず、結局、相違点1に係る本願発明1の構成は、上述したように、引用例1及び引用例3に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

[相違点2]について
ビームのパワーに関して、本願当初明細書の段落【0012】には、「小スポットおよび大スポットのパワーはどのようなものでよいが、(1)ベクトルの種類、(2)領域、(3)1回の露光または複数回の重複した露光によって得られるべき硬化深さ等のいくつかのパラメータに基づいて決定することができる。また、所望の硬化深さは層厚、ベクトルの種類、MSD、MRDの値等の種々のパラメータに基づいて決定することができる。両ビームのパワーは同じであってもよいし、小スポットビームのパワーの方が大スポットビームのパワーより大きくてもよい。しかしながら、小スポットビームのパワーの方が大スポットビームのパワーより小さいのが普通である。」と記載されているものではあるが、さらに、引用例1の段落【0049】には、「本例では、太いレーザビーム(ビーム径:5mm)を照射する場合にはレーザ発振器82aの出力を大パワーとし、細いレーザビーム(ビーム径:0.2mm)を照射する場合にはレーザ発振器82aの出力を小パワーにできる。」との適用例が記載されていることから、レーザ発振器でレーザビームの照射を行う際に、太いレーザビームを照射するときは、細いレーザビームを照射するときよりもレーザ発振器が大きな光学的パワーを発することは示唆がされているといえるものではあるが、太いレーザビーム及び細いレーザビームを発する際のレーザー発振器のパワーをどの程度に設定するかは、ビームの性能、加工性等に応じて当業者が適宜設計する設計的事項にすぎないものであるから、結局、相違点2に係る本願発明1の構成は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

[相違点3]について
上述したとおり、引用例1発明は、各層を形成する際に太いレーザビームの照射と細いレーザビームの照射とは時間的にずらして実行するものであることから、細いビームの前に太いビームの照射を行うことが明記されていなくとも容易になし得たものと解することもできるが、さらに、同一技術分野に属する引用例2(特に、上記記載事項(さ)(し)を参照。)には、光を照射して目的形状の硬化体を製造する光学的造形法において、「大径光束を照射して概略的に主要部を硬化させ、その後、細部や目的形状体の表面部分を小径光束の照射により硬化させる。」ことが記載されているから、引用例1発明及び引用例2の記載事項に基づいて、細いビームの前に太いビームの照射を行うことは当業者が容易になし得たものであり、結局、相違点3に係る本願発明1の構成は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明1の奏する作用効果も、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が予測できる程度のものである。

なお、審判請求人は、審判請求の理由を補正する平成20年1月17日付け手続補正書の「(b)引用発明の説明、および本願発明と引用発明との対比」欄において、「引用文献1-3(注:本審決の「引用例1」-「引用例3」に相当。以下、同様。)に係る発明は、本願発明における径の異なる複数のビームによりステレオリソグラフィーで光硬化性の造形材料を選択的に硬化することにより三次元物体を層ごとに形成するための方法において、材料の露光に第1および第2のビームを使用し、第2のビームの寸法が第1のビームの寸法の1.5倍?5倍であり、第2のビームの光学的パワーが第1のビームの光学的パワーより高く、各層を形成する際に第1のビームの前に第2のビームを使用する点、および、そのように構成することにより解決しようとする技術的課題については全く記載も示唆もされていません。」と主張している。
しかしながら、ビームの形状及び大きさに関しては[相違点1]、ビームのパワーに関しては[相違点2]、ビーム照射のタイミングに関しては[相違点3]として、それぞれの判断は上記「(4)判断」で示したとおりである。
また、審判請求人は、「引用文献1の実施例においては、まず細いレーザビームにより造形物の輪郭形状のスキャン照射を行った後、太いレーザビームにより造形物の内部形状のスキャン照射を行うことが記載されており(段落[0048])、本願発明の特徴とする、第1のビームの寸法の1.5倍?5倍の寸法であり、第1のビームの光学的パワーより高い光学的パワーを有する第2のビームによる露光を先に行い、その後第1のビームによる露光を行う場合とは全く逆の順序で太いレーザビームと細いレーザビームを照射するものでありますから、仮に引用文献2の記載を参酌したとしても、先に太いレーザビームにより照射し、その後細いレーザビームにより照射することは、当業者が容易に想到できることではありません。」とも主張している。
たしかに、上記引用例1の段落【0047】、【0048】には、まず細いレーザビームによりスキャン照射を行った後、太いレーザビームによりスキャン照射を行う旨の記載があるが、該段落【0047】、【0048】の記載事項は、太いレーザビームと細いレーザビームとを時間的にずらして照射する発明の一つの実施の態様を例示したものにすぎず、細いレーザビームの前に太いレーザビームの照射を行うことを阻害する事由を示しているものでもない。さらには、同一技術分野に属する引用例2(特に、上記記載事項(さ)(し)を参照。)には、光を照射して目的形状の硬化体を製造する光学的造形法において、「大径光束を照射して概略的に主要部を硬化させ、その後、細部や目的形状体の表面部分を小径光束の照射により硬化させる。」ことが記載されていることを考え合わせれば、引用例1発明において、太いレーザビームと細いレーザビームとを時間的にずらして照射する実施態様として、細いビームの前に太いビームの照射を行う実施態様を想到することに格別の困難性はなく、それを阻害する事由もみあたらない。

(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結論
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、請求項2ないし15に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-21 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願2000-31246(P2000-31246)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 溢喜
大山 健
発明の名称 径の異なる複数のビームを使用して三次元物体をステレオリソグラフィーで形成する方法および装置  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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