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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C13K
管理番号 1227725
審判番号 不服2009-20462  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-23 
確定日 2010-11-24 
事件の表示 特願2007- 33826「強酸加水分解法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月16日出願公開、特開2007-202560〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成19年2月14日に,1996年6月3日を国際出願日として出願した特願平09-501223号(パリ条約による優先権主張を伴う。外国庁受理1995年6月7日,米国)の一部を新たな出願としたものであって,平成20年3月25日付けの拒絶理由通知に対して,同年8月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され,その後,平成21年6月17日付けで拒絶査定がなされ,同年10月23日に拒絶査定に対する審判請求がされ,同年12月24日に審判請求書の手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明の認定

本願の請求項1?58に係る発明は,平成20年8月29日付けの手続補正により補正された明細書(以下,「本願明細書」という。)の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1?58に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものであると認める。

「セルロース及びヘミセルロースを含む物質からアルコールを製造する方法であって,
物質を約25?90重量%の濃酸溶液と混合し,これにより少なくとも部分的に物質を脱結晶化し,固体物質と液体部分とを含むゲルを形成し,ここで脱結晶化は混合物の温度として60℃未満で行い,
前記ゲルを約20?30重量%の酸濃度に希釈し,ゲルを80?100℃の温度に加熱し,これにより前記物質中に含まれるセルロース及びヘミセルロースを加水分解し,
前記液体部分を前記固体物質から分離し,これにより糖及び酸を含む第一の液体を得,
そして
前記セルロース及びヘミセルロースをさらに脱結晶化することなく,第一の液体中の酸
から糖を樹脂分離して合計で少なくとも約15重量%の糖を含み,3重量%を超える酸を含まない第二の液体を生成し,第二の液体中の糖を発酵させ,アルコールを製造することを含む前記方法。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要

本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものであるところ,引用文献1は,下記のとおりである。



引用文献1国際公開第94/23071号(以下,「刊行物1」という。)

第4 刊行物に記載された事項

刊行物1には,「セルロース及びヘミセルロースを含む物質から強酸により加水分解して糖を製造する方法」という表題で,次の記載がある(日本語訳は,当審による)。

(a)「本発明の方法は,生成される廃棄物及び廃水を減らす,バイオマスから糖を製造する手段を提供する。該方法は,全ての水性流を再利用し,全ての固形物を販売可能あるいは有用な産物に変換するように設計される。使用される酸の多くはリサイクルするために回収される。バイオマスがシリカを高いレベルで含む場合は,本方法によりシリカゲル,ケイ酸ナトリウム,ケイ酸カリウム,あるいはその他の副産物を生産することができる。発酵を含む本方法の部分においては,C5及びC6糖の両方の発酵を天然の微生物を使用して同時に行うことができる。さらに,バイオマスの加水分解から糖が高収率で得られ,発酵の前に糖流を濃縮する必要がない。
効率と経済的実施可能性に寄与する本発明のその他の特徴としては,大気圧と比較的低い温度を使用することが挙げられる。本方法は,フルフラール及び有毒で発酵を阻害する類似した望ましくない副産物を生産しない。本発明の方法は,タンタル鋼のような新型の高価な製造材料の使用を必要としない。
以下でより詳細に説明するように,本発明の方法は,農業廃棄物の加水分解から有用な化学物質を製造し,同時に廃水あるいは廃棄物を殆どあるいはまったく生成しない,効率的でコスト効果の高い手段を提供するものである。」(8頁36行?9頁26行)

(b)「脱結晶化
本発明の方法に使用する原材料は,セルロース及びヘミセルロースの含量が少なくとも65%,より好ましくは約75%になるように混合したものである。本方法における任意の最初の段階として,バイオマスを洗浄しておおよその泥及び汚染物を除去することができる。図1において示すように,例として図全体において使用されるバイオマスである稲藁1を水2で洗浄する。」(9頁29?36行)

(c)「脱結晶化は,80℃を超えない温度でなされ,望ましくは60-80℃の範囲である。もし,脱結晶化での温度が80℃を超えると,C5の糖の多くは,次の加水分解で失われる。」(10頁36行?11頁3行)

(d)「実施例2
50.04グラムの稲藁を98.91グラムの77%H_(2)SO_(4)と混合した。稲藁をH_(2)SO_(4)にゆっくりと加え,それぞれの追加分を加えた後に余分な液体が生じるようにした。温度を80℃未満に保持した。稲藁の最後の量を加えた後,得られたゼラチン状の塊を完全に混合した。」(11頁19?25行)

(e)「実施例5
実施例2で得たゼラチン状の塊を完全に混合した後,104.56グラムの水を加え,全混合物の酸濃度を30%に低下させた。試料を100℃に60分加熱した。ゼラチン状の塊をプレスして16.5%の糖と34.23%の酸を含む188.9グラムの液体を得た。」(12頁26?32行)

(f)「実施例14
34.23%のH_(2)SO_(4)及び16.5%の糖を含む加水分解液を,Purolite,Inc.から入手できる強酸カチオン交換樹脂であるPCR-771を充填した1.2リットル容量の50cmガラスカラム中に流すことにより分離した。カラムを60℃に保持し,体積流量は70ml/分とした。酸流,糖流,及び別の樹脂床にリサイクルされる混合流の3つの流れを回収した。酸流は96.47%純度(酸と水の合計)であった。糖流は92.73%純度(糖と水の合計)であった。全体として酸の回収は97.9%であり,糖の回収率は95.0%であった。」(19頁2?13行)

(g)「発酵
本発明のまた別の態様は,セルロース及びヘミセルロース物質の酸加水分解の後に分離された糖流を発酵させるための改善された方法を包含する。糖流はヘキソース及びペントースの両方の糖を含む。これらの糖は任意に,天然の微生物を使用して同時に発酵させることができる。これにより糖を分離し,あるいはそれらを順次発酵する必要が回避されるので有利である。」(21頁17?25行)

(h)「約3?5日かかる発酵が終了した後,好ましくは遠心分離41により,発酵産物と微生物とを分離する。微生物43は糖の次のバッチにリサイクルできる。アルコール溶液44は,さらに処理するために蒸留塔46に送ることができる。」(22頁25?30行)

(i)「1.セルロース及びヘミセルロースを含む物質から糖を製造する方法であって, 物質を約25?90重量%の酸溶液と混合し,これにより少なくとも部分的に物質を脱結晶化し,固体物質と液体部分とを含むゲルを形成し,
前記ゲルを約20?30重量%の酸濃度に希釈し,ゲルを加熱し,これにより前記物質中に含まれるセルロース及びヘミセルロースを部分的に加水分解し,
前記液体部分を前記固体物質から分離し,これにより糖及び酸を含む第一の液体を得,そして分離した固体物質を約25?90重量%の酸溶液と混合し,これによりさらに物質を脱結晶化し,第二の固体物質と第二の液体部分とを含む第二のゲルを形成し,
前記第二のゲルを約20?30重量%の酸濃度に希釈し,第二のゲルを加熱し,これにより前記第二のゲルに残存するセルロース及びヘミセルロースをさらに加水分解し,
前記第二の液体部分を前記第二の固体物質から分離し,これにより糖及び酸を含む第二の液体を得,第一及び第二の液体中の酸から糖を分離し,合計で少なくとも約15重量%の糖を含み,3重量%を超える酸を含まない第三の液体を生成することを含む前記方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

(j)「35.発酵用の糖を準備し,糖を発酵させアルコールを製造することを含む請求項1の方法。」(特許請求の範囲の請求項35)

なお,上記(d)は「脱結晶化」(9頁29行)の項に記載され,(e)は「最初の加水分解」(11頁36行)の項に記載され,(f)は「酸及び糖の分離」(16頁8行)の項に記載され,(g)及び(h)は「発酵」(21頁17行)の項に記載されている。

第5 当審の判断

1 刊行物1に記載された発明

上記摘示(d)?(f)は,それぞれ「脱結晶化」,「最初の加水分解」及び「酸及び糖の分離」の工程を示すところ,「最初の加水分解」工程である摘示(e)によると,得られた加水分解物は,「16.5%の糖と34.23%の酸を含む188.9グラムの液体」である。そして,次の工程の「酸及び糖の分離」の摘示(f)には,「34.23%のH_(2)SO_(4)及び16.5%の糖を含む加水分解液」との記載があり,これは,摘示(e)の糖及び酸(H_(2)SO_(4))の量と一致するから,摘示(f)は,摘示(e)に記載の工程に続く工程に係る記載であるといえる。すなわち,摘示(d),(e)及び(f)は,「セルロース及びヘミセルロースを含む物質から強酸により加水分解して糖を製造する方法」の一連の工程の記載である。
そこで,これらを続けて記載すると,
「50.04グラムの稲藁を98.91グラムの77%H_(2)SO_(4)と混合した。稲藁をH_(2)SO_(4)にゆっくりと加え,それぞれの追加分を加えた後に余分な液体が生じるようにした。温度を80℃未満に保持した。稲藁の最後の量を加えた後,得られたゼラチン状の塊を完全に混合した。(以上,実施例2)
実施例2で得たゼラチン状の塊を完全に混合した後,104.56グラムの水を加え,全混合物の酸濃度を30%に低下させた。試料を100℃に60分加熱した。ゼラチン状の塊をプレスして16.5%の糖と34.23%の酸を含む188.9グラムの液体を得た。(以上,実施例5)
34.23%のH_(2)SO_(4)及び16.5%の糖を含む加水分解液を,Purolite,Inc.から入手できる強酸カチオン交換樹脂であるPCR-771を充填した1.2リットル容量の50cmガラスカラム中に流すことにより分離した。カラムを60℃に保持し,体積流量は70ml/分とした。酸流,糖流,及び別の樹脂床にリサイクルされる混合流の3つの流れを回収した。酸流は96.47%純度(酸と水の合計)であった。糖流は92.73%純度(糖と水の合計)であった。全体として酸の回収は97.9%であり,糖の回収率は95.0%であった。(以上,実施例14)」となる。
上記実施例5に係る「ゼラチン状の塊をプレスして16.5%の糖と34.23%の酸を含む188.9グラムの液体を得た。」の記載と,実施例14に係る「酸流,糖流,及び別の樹脂床にリサイクルされる混合流の3つの流れを回収した。酸流は96.47%純度(酸と水の合計)であった。糖流は92.73%純度(糖と水の合計)であった。全体として酸の回収は97.9%であり,糖の回収率は95.0%であった。」の記載において「糖流」に着目すると,糖の回収率は95.0%であるから,糖流には,16.5%(上記プレスされた糖量)×95.0%=15.675%の糖が含有されていると計算される。そして,酸の回収は,97.9%であるから,糖流に,酸が「2.1%」以上含まれることはない。

さらに,上記摘示(g)及び(h)は,「発酵」の工程を示すものであるところ,摘示(g)には「セルロース及びヘミセルロース物質の酸加水分解の後に分離された糖流・・(中略)・・。糖流はヘキソース及びペントースの両方の糖を含む」との記載があり,この糖流は,セルロース及びヘミセルロースを含む物質を酸により加水分解してヘキソース及びペントースの両方の糖を含むものであり,酸には強酸も含まれることから,上述の,摘示(d),(e)及び(f)の「セルロース及びヘミセルロースを含む物質から強酸により加水分解して糖を製造する方法」の一連の工程によって得られる糖といえる。
そして,摘示(g)の「これらの糖は・・天然の微生物を使用して同時に発酵させる」との記載より,糖流中の糖であるヘキソース及びペントースを微生物を使用して発酵させており,更に摘示(h)の「約3?5日かかる発酵が終了した後・・・発酵産物と微生物とを分離する。アルコール溶液44は,さらに処理する・・」との記載より,糖流中の糖を発酵させた後発酵産物としてアルコール溶液が得られていることから,上記摘示(g)及び(h)の「発酵」の工程は,糖流中の糖であるヘキソース及びペントースを微生物を使用して発酵させアルコールを製造する工程といえる。

これらの知見を踏まえ,上記記載を更にまとめると,刊行物1には,
「稲藁を77%H_(2)SO_(4)と混合し,温度を80℃未満に保持し,得られたゼラチン状の塊を完全に混合し,その後,水を加え,全混合物の酸濃度を30%に低下させ,試料を100℃に加熱し,そして16.5%の糖と34.23%の酸を含む液体を得,この加水分解液を,強酸カチオン交換樹脂のガラスカラム中に流すことにより分離し,15.675%の糖を含み,2.1%以上の酸を含むことのない糖流を生成し,該糖流中の糖を発酵させアルコールを製造する方法」
という発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

刊行物1の摘示(b)には,「本発明の方法に使用する原材料は,セルロース及びヘミセルロースの含量が少なくとも65%,より好ましくは約75%になるように混合したものである。・・(略)・・図1において示すように,例として図全体において使用されるバイオマスである稲藁1を水2で洗浄する。」との記載があり,この記載によると,引用発明に係る「稲藁」は,セルロース及びヘミセルロースを含む物質である。引用発明の「77%H_(2)SO_(4)」は「濃酸」といえ,引用発明の「稲藁を77%H_(2)SO_(4)と混合し,温度を80℃未満に保持し,得られたゼラチン状の塊を完全に混合した。」は摘示(d)によるものであるから,「脱結晶化」工程に相当する。また,引用発明の「ゼラチン状の塊」は,摘示(g)でいうところの「ゲル」といえる。そして,引用発明において,「セルロース及びヘミセルロースをさらに脱結晶化する」工程は存在せず,また,「%」は「重量%」であるといえるから,両者は,

「セルロース及びヘミセルロースを含む物質からアルコールを製造する方法であって,
物質を77重量%の濃酸溶液と混合し,これにより少なくとも部分的に物質を脱結晶化し,固体物質と液体部分とを含むゲルを形成し,
前記ゲルを30重量%の酸濃度に希釈し,ゲルを100℃の温度に加熱し,これにより前記物質中に含まれるセルロース及びヘミセルロースを加水分解し,
前記液体部分を前記固体物質から分離し,これにより糖及び酸を含む第一の液体を得,そして
前記セルロース及びヘミセルロースをさらに脱結晶化することなく,第一の液体中の酸から糖を樹脂分離して合計で少なくとも約15重量%の糖を含み,3重量%を超える酸を含まない第二の液体を生成し,第二の液体中の糖を発酵させ,アルコールを製造することを含む方法」
で一致し,

脱結晶化する場合の混合物の温度が,本願発明では,「60℃未満」であるのに対し,引用発明では,「80℃未満」である点,で相違する(以下,「相違点」という)。

3 相違点についての判断

(1)相違点について

刊行物1には,「脱結晶化は,80℃を超えない温度でなされ,望ましくは60-80℃の範囲である。もし,脱結晶化での温度が80℃を超えると,C5の糖の多くは,次の加水分解で失われる。」(摘示(c))との記載があり,この記載によると,脱結晶化での温度が80℃を超えて実施することは避けるべきであるが,「望ましくは60」という記載があることから,60℃未満で実施することは不可能である,すなわち,60℃未満の場合を排除しているとまでは解することはできない。

そうすると,引用発明において,脱結晶化する場合の混合物の「80℃未満」という温度に代えて,80℃未満に含まれる「60℃未満」という温度で実施することは,当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について

本願発明の効果は,本願明細書の記載によると,
「本発明の方法は,生成される廃棄物及び廃水を減らす,バイオマスから糖を製造する手段を提供する。該方法は,全ての水性流を再利用し,全ての固形物を販売可能あるいは有用な産物に変換するように設計される。使用される酸の多くはリサイクルするために回収される。バイオマスがシリカを高いレベルで含む場合は,本方法によりシリカゲル,ケイ酸ナトリウム,ケイ酸カリウム,ゼオライト,あるいはその他の副産物を生産することができる。発酵を含む本方法の部分においては,C5及びC6糖の両方の発酵を天然の微生物を使用して同時に行うことができる。さらに,バイオマスの加水分解から糖が高収率で得られ,発酵の前に糖流を濃縮する必要がない。
効率と経済的実施可能性に寄与する本発明のその他の特徴としては,大気圧と比較的低い温度を使用することが挙げられる。本方法は,フルフラール及び有毒で発酵を阻害する類似した望ましくない副産物を生産しない。本発明の方法は,タンタル鋼のような新型の高価な製造材料の使用を必要としない。
以下でより詳細に説明するように,本発明の方法は,農業廃棄物の加水分解から有用な化学物質を製造し,同時に廃水あるいは廃棄物を殆どあるいはまったく生成しない,効率的でコスト効果の高い手段を提供するものである。」(本願明細書 段落番号【0033】?【0035】),及び,
「加水分解物スラリーの濾過性は,脱結晶化を行った温度に影響を受ける。脱結晶化をより低温に維持すればするほど後の加水分解産物の濾過が容易になる。」(本願明細書 段落番号【0051】)であるといえる。

しかし,上記本願明細書段落番号【0033】?【0035】に記載の効果は,刊行物1の摘示(a)に記載されている。
また,上記同書段落番号【0051】に記載の効果についても,刊行物1の摘示(a)中の「効率と経済的実施可能性に寄与する本発明のその他の特徴としては,大気圧と比較的低い温度を使用することが挙げられる。本方法は,フルフラール及び有毒で発酵を阻害する類似した望ましくない副産物を生産しない。」という記載を検討すると,引用発明で温度を明示しているのは,脱結晶化の項の「脱結晶化は,80℃を超えない温度でなされ,望ましくは60-80℃の範囲である。」(摘示(c))と,最初の加水分解の項の「試料を100℃に60分加熱した。」(摘示(e))しかないことから,引用発明で「比較的低い温度」は,脱結晶化する場合の混合物の温度であるといえ,また「フルフラール及び有毒で発酵を阻害する類似した望ましくない副産物」とは,フルフラールがヘミセルロースを酸加水分解した際の副産物であり,その類似した副産物も同じくヘミセルロースを酸加水分解した際の副産物と考えられることから,酸加水分解副産物のことといえる。そうすると,刊行物1の摘示(a)中の上記記載は,脱結晶化する場合の混合物の温度を「比較的低い温度を使用する」ことにより,望ましくない酸加水分解副産物を生産しないで効率に行えるということであるといえ,酸加水分解副産物を生産しなければ当然その後の工程である,酸加水分解液をカラム中に通すことにより糖流を分離する工程すなわち濾過工程で濾過が容易になるはずであるから,上記本願明細書段落番号【0051】に記載の「脱結晶化をより低温に維持すればするほど後の加水分解産物の濾過が容易になる」という効果についても,当業者であれば,当然予測し得る範囲内の効果である。

したがって,本願発明の効果は,当業者にとって,刊行物1に記載された事項から予測を超えて優れているとはいえない。

(3)請求人の主張について

請求人は,平成21年12月24日付けの審判請求書の手続補正書の「[3](2)」において,
「しかしながら,本願明細書に記載されている「より好ましくは,脱結晶化は60℃未満の温度で行い,ケークが35?45℃の温度に保持される場合に最適な結果が得られる」ことに関して,本願の実施例2(本願明細書段落[0047])に「混合物中に存在する水を減圧下に除去することにより温度を80℃未満に保持した。275 mm Hg(757.26の減圧)の最初の圧力を使用して40℃で溶液を蒸発させた。」と記載されており,また,実施例5に「実施例2で得たゼラチン状の塊を完全に混合した後,104.56グラムの水を加え,全混合物の酸濃度を30%に低下させた。試料を100℃に60分加熱した。ゼラチン状の塊をプレスして16.5%の糖と34.23%の酸を含む188.9グラムの液体を得た。」と記載されておりますので,脱結晶化を60℃未満の温度で行い,最適な結果が得られた具体的な実験データは本願明細書に開示されているものであります。
なお,このような本願発明の技術的特徴及びそれに基づく効果は,本願の出願日前に本発明者らによって初めて見出されたものであり,このことは,さらに平成20年8月29日付けで提出した意見書に添付した参考実験のデータによっても裏付けられています。また,このような低い温度で脱結晶化を行うことにより,混合物の加水分解産物の濾過が容易になり(本願明細書段落[0051]),このことも生成物の回収率の向上に寄与します。
このようなことは引用文献1には開示されておらず,平成20年8月29日付けで提出した意見書にも記載したとおり,引用文献1などに記載されている技術常識に基づいた場合には,当業者はあえて脱結晶化を60℃未満で行おうとは考えないと思料します。よって,脱結晶化の温度範囲を60℃未満に設定することは,当業者が日常業務的に行う最適化には該当しないと思料します。」と主張する。

しかし,本願発明が「脱結晶化を60℃未満の温度で行い,最適な結果が得られた具体的な実験データは本願明細書に開示されている」としても,「脱結晶化を60℃未満の温度で行」うことについては,上記(1)で示したとおりであり,それに基づく効果についても,上記(2)で示したとおりである。

したがって,請求人の上記主張は採用できない。

4 まとめ

したがって,本願発明は,本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,その余のことを検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-15 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-08 
出願番号 特願2007-33826(P2007-33826)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C13K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 齊藤 真由美
細井 龍史
発明の名称 強酸加水分解法  
代理人 松倉 秀実  
代理人 遠山 勉  
代理人 川口 嘉之  

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