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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q |
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管理番号 | 1227777 |
審判番号 | 不服2007-25169 |
総通号数 | 133 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-09-13 |
確定日 | 2010-12-01 |
事件の表示 | 平成11年特許願第124916号「携帯通信機」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月14日出願公開、特開2000-315909〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯と本願発明 本願は、平成11年4月30日の出願であって、原審において平成19年8月7日付けで拒絶査定となり、これに対し同年9月13日に審判請求がなされ、平成22年3月24日付けで発せられた当審よりの拒絶理由通知に対して同年6月18日付けで意見書および手続補正書の提出があったものである。 本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成22年6月18日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 (本願発明) 「携帯通信機を構成する筐体に、その筐体内の回路基板や電池と併設して線状アンテナが備えられ、筐体を人体の耳に当てる通話時または筐体を人体の服のポケットに入れる携帯時に筐体の人体と向き合う面に対し、線状アンテナがほぼ平行となるように配置されてなる、垂直偏波を使用する携帯通信機において、 線状アンテナの電流腹部に対応するエレメントの一部を、そのエレメント上の電流と人体に生じるイメージ電流を同位相となるように、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置したこと、 を特徴とする携帯通信機。」 2.引用発明及び周知技術 (1)これに対して当審の拒絶理由に引用された特開平7-46015号公報(以下、「引用例」という。)には、「携帯無線機のアンテナ装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0024】実施例3.図3はこの発明の第3の実施例による携帯無線機のアンテナ装置を示す図であり、図3(a) はその側面図、図3(b) は図3(a) のCの部分の詳細な構造を示す拡大図である。図において、13は2箇所の折曲げ部19a,19bにおいて折り曲げることのできる構造にしたホイップアンテナであり、14はホイップアンテナ13の折曲げ部のワッシャ、15a,15bは折曲げ部の回転軸である。本実施例3の携帯無線機のアンテナ装置の構成は、上記実施例1および実施例2の構成に加えて、ホイップアンテナの先端部と基部との間に2箇所の折曲げ部19a,19bを設けたものである。 【0025】本実施例3の携帯無線機のアンテナ装置においては、ホイップアンテナ13を取り出して送受信を行なうときに、人体にホイップアンテナ13が近づいて、人体効果により利得が劣化する場合、図3(a) のCの部分に示すアンテナ基部側の折曲げ部19aにおいて、アンテナ先端部から折曲げ部19aまでの部分を、回転軸15aを中心として人体から離れる方向に90°屈曲させ、さらにアンテナ先端部側の折曲げ部19bにおいて、アンテナ先端部から折曲げ部19bまでの部分を、回転軸15bを中心として垂直方向に90°屈曲させる。 【0026】このような本実施例3による携帯無線機のアンテナ装置では、ホイップアンテナの先端部と基部との間にワッシャ14と回転軸15とを有する2箇所の折曲げ部19a,19bを備えたので、ホイップアンテナの先端部から折曲げ部19bまでの部分を人体から遠ざけることができ、このため人体効果による利得の劣化を防ぐことができる。 【0027】なお、本実施例3ではホイップアンテナ13の先端部と基部との間に2箇所の折曲げ部を設けたものを示したが、この折曲げ部を3箇所以上設けるようにしてもよく、この構成においてもホイップアンテナ13の本体を人体から遠ざけて、人体効果による利得の劣化を抑えることができる効果が得られる。 【0028】 【発明の効果】以上のように、この発明にかかる携帯無線機のアンテナ装置によれば、ホイップアンテナを垂直に取り出した状態に保持でき、かつ無線機筺体上で平行移動可能に設けられたアンテナケースを備えたので、必要時にアンテナケースを無線機筺体上で移動させて、ホイップアンテナを垂直に保持した状態で人体から遠ざけることができ、このため人体効果による影響をなくすことができ、しかも良好な垂直偏波を得ることができるものを得られる効果がある。」(4頁5?6欄) 上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、 引用例記載の「携帯無線機」は、上記イ.【0028】末尾にあるように、「垂直偏波」を使用するものであって、 上記イ.図3にあるように、「携帯無線機」として当然のことながら、「携帯通信機」を構成する「筐体1」に「ホイップアンテナ13」を備えたものである。 そして、上記イ.【0025】にあるように、「人体にホイップアンテナ13が近づいて、人体効果により利得が劣化する場合」すなわち「アンテナを人体に近づけて送受信を行う時」に、「アンテナ基部側の折曲げ部19aにおいて、アンテナ先端部から折曲げ部19aまでの部分を、回転軸15aを中心として人体から離れる方向に90°屈曲させ、さらにアンテナ先端部側の折曲げ部19bにおいて、アンテナ先端部から折曲げ部19bまでの部分を、回転軸15bを中心として垂直方向に90°屈曲させる。」ものであるから、 上記記載および「人体」そのものの明示はないが引用例図3(a)から明らかなように、「筐体の人体と向き合う面に対し、ホイップアンテナがほぼ平行」な配置にあり、 上記「折曲げ部19a」から「折曲げ部19b」までの部分(「ホイップアンテナ13」のアンテナ素子(エレメント)の一部)は、アンテナを垂直に保持した状態でその先端部側が人体から遠ざかるように、「筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置」するものである。(図面では、人体、筐体、アンテナ先端部が垂直配置となっているから、前記「エレメントの一部」は水平配置となっている。) したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (引用発明) 「携帯無線機を構成する筐体に、ホイップアンテナが備えられ、アンテナを人体に近づけて送受信を行う時に筐体の人体と向き合う面に対し、ホイップアンテナがほぼ平行となるように配置されてなる、垂直偏波を使用する携帯通信機において、 ホイップアンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した携帯無線機。」 (2)同じく当審の拒絶理由に引用した特開平10-84406号公報(以下、「周知例1」という。)には図面とともに以下の事項イ.、ロ.が記載されている。 イ.「【0021】図1は、この実施の形態における折畳式無線通信装置の概略構成図である。図1において、1は、折り曲げ可能なフレキシブル基板であり、2は、フレキシブル基板1上に設けられたダイポールアンテナであり、3は、フレキシブル基板1上に設けられた第1のリジット基板であり、4は、第1のリジット基板3上に設けられた通信用回路である。通信用回路4は、リジット基板3およびフレキシブル基板1を介してダイポールアンテナ2と電気的に接続される。 【0022】5は、フレキシブル基板1の一部、ダイポールアンテナ2、リジット基板3および通信用回路4を内部に格納する第1の筐体であり、6は、フレキシブル基板1上に設けられた第2のリジット基板であり、7は、第2のリジット基板6上に設けられた通信用回路であり、8は、フレキシブル基板1の一部、リジット基板6、通信用回路7および後述する導体12を内部に格納する第2の筐体である。」(4頁5欄、段落21?22) ロ.「【0033】尚、この実施の形態においてはダイポールアンテナを具体例として説明したが、第1の筐体5に設けるアンテナ2は、必ずしもダイポールアンテナに限られず、例えば半波長ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、マイクロストリップアンテナ等を用いることができる。これらのアンテナは、一般に自己共振型アンテナといわれるものである。また、第1の筐体5に設けるアンテナおよび第2の筐体8に設ける導体12は、線状、帯状等いずれであってもよい。」(5頁7欄、段落33) 上記イ.および図1には、「折畳式無線通信装置の概略構成図」として、「第1の筐体5」の内部に「リジット基板3」及び「リジット基板3上に設けられた通信用回路4」に併設して、「ダイポールアンテナ2」やその代替部品である「モノポールアンテナ」(上記ロ.参照)が備えた構成が開示されている。 また、実開平6-17056号公報(実願平4-58753号)のマイクロフィルム(以下、「周知例2」という。)には、「コードレス電話機」の分解斜視図(【0007】、図1,2)として、「ロアーケース2」、「アッパーケース70」で構成される筐体内に「第1の基板35」、「第2の基板55」、「充電池97」(【0018】、図4)と併設して「内蔵アンテナ52,53」(【0015】)を備えたものが開示されている。 上記周知例1の「折畳式無線通信装置」、周知例2の「コードレス電話機」は、いずれも「携帯通信機」であり、 上記周知例1の「第1の筐体5」、周知例2の「ロアーケース2」、「アッパーケース70」は、いずれも「携帯通信機」の「筐体」であり、 上記周知例1の「リジット基板3」及び「リジット基板3上に設けられた通信用回路4」、周知例2の「第1の基板35」、「第2の基板55」は、いずれも「回路基板」ということができ、周知例2の「充電池97」は「電池」であり、 上記周知例1の「ダイポールアンテナ2」や「モノポールアンテナ」、周知例2の「内蔵アンテナ52,53」は、いずれもその図面の形状からも明らかなように「線状アンテナ」ということができる。 したがって、周知例1,2には以下の技術(以下、周知技術という。)が記載されている。 (周知技術) 「筐体内の回路基板や電池と併設して線状アンテナが備えられた携帯通信機」 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「携帯無線機」は無線により通信を行う通信機であるから、本願発明の「携帯通信機」にあたり、 引用発明の「ホイップアンテナ」はアンテナ素子が一次元的な線状の構造からなる「線状アンテナ」の一種であるから、本願発明の「線状アンテナ」である。 また、引用発明の「アンテナを人体に近づけて送受信を行う時」とは、当然に「携帯無線機を構成する筐体」も人体に近づくのは明らかであるから、本願発明の「筐体を人体の耳に当てる通話時または筐体を人体の服のポケットに入れる携帯時」という構成と対比すると、両者は「筐体を人体に近づけて使用する時」である点において一致する。(「筐体を人体の服のポケットに入れる携帯時」であっても、待ち受け、着信などの通信動作機能に関しては使用されていることに留意されたい。) また、引用発明の「ホイップアンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した」構成と、本願発明の「線状アンテナの電流腹部に対応するエレメントの一部を、そのエレメント上の電流と人体に生じるイメージ電流を同位相となるように、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した」構成は、いずれも「線状アンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した」構成である点で一致している。 したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「携帯通信機を構成する筐体に、線状アンテナが備えられ、筐体を人体に近づけて使用する時に筐体の人体と向き合う面に対し、線状アンテナがほぼ平行となるように配置されてなる、垂直偏波を使用する携帯通信機において、 線状アンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した携帯通信機。」 (相違点1) 「線状アンテナが備えられ」る点に関し、 本願発明は「その筐体内の回路基板や電池と併設して線状アンテナが備えられ」るのに対し、 引用発明は単に「ホイップアンテナが備えられ」る点。 (相違点2) 「筐体を人体に近づけて使用する時」に関し、 本願発明は「筐体を人体の耳に当てる通話時または筐体を人体の服のポケットに入れる携帯時」であるのに対し、 引用発明は「アンテナを人体に近づけて送受信を行う時」である点。 (相違点3) 「線状アンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置」した点に関し、 本願発明は「線状アンテナの電流腹部に対応するエレメントの一部を、そのエレメント上の電流と人体に生じるイメージ電流を同位相となるように、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置」したのに対し、 引用発明は単に「ホイップアンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置」した点。 4.判断 (1)相違点1の「線状アンテナが備えられ」る点について 上記2.で述べたように、「筐体内の回路基板や電池と併設して線状アンテナが備えられた携帯通信機」は周知技術であるから、このような周知技術を引用発明の「携帯無線機」に適用し、その「ホイップアンテナ」(線状アンテナ)の構成を、本願発明のような「その筐体内の回路基板や電池と併設して線状アンテナが備えられ」た構成とする程度のことは当業者であれば容易になし得ることである。 (2)相違点2の「アンテナを人体に近づけて使用する時」について 上記周知例1,2のほか、当審の拒絶理由に挙げた特開平9-232839号公報(刊行物3)、特開平8-78930号公報(刊行物4)にもあるように、本願出願時点において既に、いわゆる携帯電話のような「筐体を人体の耳に当て」て通話を行ったり、「筐体を人体の服のポケットに入れ」て携帯可能な「携帯無線機」(携帯通信機)は広く周知のものであるから、 引用発明の携帯無線機の「アンテナを人体に近づけて送受信を行う時」という使用時の構成を、本願発明の携帯通信機のように具体的に「筐体を人体の耳に当てる通話時または筐体を人体の服のポケットに入れる携帯時」という構成とする程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。 (3)相違点3の「線状アンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置」した点について まず、「線状アンテナのエレメントの一部」の設置箇所が「線状アンテナの電流腹部」に対応する点について考察するに、 通常、引用発明の「ホイップアンテナ」のような線状アンテナの先端は開放端であって、アンテナ上の電流分布の節にあたり、アンテナ基部に近い側に電流分布の腹(電流腹部)が存在することは、アンテナの技術分野における技術常識であって、引用発明の「ホイップアンテナのエレメントの一部」も「線状アンテナの電流腹部」に対応するものである。 ついで、本願発明の作用効果である「エレメント上の電流と人体に生じるイメージ電流を同位相となる」点について検討するに、 本願発明と引用発明は「線状アンテナのエレメントの一部」について「筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した」という同じ構成を備えているのであるから、それぞれの「線状アンテナのエレメントの一部」が有する作用効果は、その作用効果が何であれ、同じであると考えられる。 即ち、本願発明の「そのエレメント上の電流と人体に生じるイメージ電流」が「同位相」となっているのであれば、同じ構成を備えた引用発明の「エレメントの一部」もまた「そのエレメント上の電流と人体に生じるイメージ電流」が「同位相」となっているはずであり、本願発明と引用発明それぞれの作用効果に差異はないものである。 また、例えば原審の拒絶理由に先行技術文献として引用された、特開平4-287407号公報(【0009】後段)に開示されているように、 「人体は金属板と同じようにイメージが生ずることから、電界形のアンテナでは電界が人体面に垂直となるように、磁界形のアンテナでは磁界が人体面に平行となるように配置すると、実アンテナとイメージアンテナが同相となり、人体近傍で高い利得が得られる。」ことは周知ないしはイメージの原理からして自明な事項であり、 本願発明や引用発明が備える「筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した」部分の電流と人体に生じるイメージ電流が「同位相」となっていることは、例え引用例には記載されていなくとも、当業者であれば自明のことでもあり、当該作用効果を明記する程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。 以上のとおりであるから、引用発明の「ホイップアンテナのエレメントの一部を、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した」構成を、本願発明のような「線状アンテナの電流腹部に対応するエレメントの一部を、そのエレメント上の電流と人体に生じるイメージ電流を同位相となるように、筐体の人体と向き合う面に対してほぼ垂直に配置した」構成とする程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。 また、当審の拒絶理由通知に対する意見書を参酌しても、上記判断を覆すものはない。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-08-05 |
結審通知日 | 2010-08-31 |
審決日 | 2010-09-22 |
出願番号 | 特願平11-124916 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 圭一郎、西脇 博志 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
萩原 義則 高野 洋 |
発明の名称 | 携帯通信機 |