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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1227786
審判番号 不服2008-25847  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-08 
確定日 2010-12-01 
事件の表示 特願2003-502803「ネットワークコンピュータシステム、コンピュータワークステーションのリモートコントロール方法、ウェブサーバ、講師ワークステーション内で実行される方法、およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月12日国際公開、WO02/99770、平成16年 9月16日国内公表、特表2004-528606〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年(2002年)6月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年6月5日、フィンランド)を国際出願日とする出願であって、平成19年12月12日付けで手続補正がなされたが、平成20年7月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである(以下、平成20年10月8日付けでなされた手続補正を「本件補正」という。)。

第2 本件補正についての却下の決定
1 結論
本件補正を却下する。

2 理由
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1につき、補正前(平成19年12月12日付け手続補正後のもの。)の、
「 ネットワーク接続されたコンピュータ利用学習のためのネットワークコンピュータシステムであって、
講師アプリケーションユニットを有する講師ワークステーションと、
クライアントアプリケーションユニットおよびウェブブラウザを有する、少なくとも1つの学生ワークステーションと、
前記講師ワークステーションおよび前記少なくとも1つの学生ワークステーションを相互接続するネットワークとを備え、
前記講師アプリケーションユニットは、前記ネットワークを介して制御コマンドを送信することにより前記少なくとも1つの学生ワークステーションの動作をリモートコントロールするためのユーザインターフェースを有し、
前記講師アプリケーションユニットは、前記講師ワークステーションのCPUを利用して、(1)前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザのブラウジング機能をリモートコントロールするために、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに前記ネットワークを介して前記制御コマンドを送信させ、(2)前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザが有するブラウジング機能のうち学生に使用可能にする範囲を定義するナビゲーションポリシ定義のデータを、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに送信させ、
前記クライアントアプリケーションユニットは、前記少なくとも1つの学生ワークステーションのCPUを利用して、前記ナビゲーションポリシ定義のデータを受信してメモリに記憶させ、前記メモリに記憶させた前記ナビゲーションポリシ定義のデータに従って前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザを構成させる、ネットワークコンピュータシステム。」
を、
「 ネットワーク接続されたコンピュータ利用学習のためのネットワークコンピュータシステムであって、
講師アプリケーションユニットを有する講師ワークステーションと、
クライアントアプリケーションユニットおよびウェブブラウザを有する、少なくとも1つの学生ワークステーションと、
前記講師ワークステーションおよび前記少なくとも1つの学生ワークステーションを相互接続するネットワークとを備え、
前記講師アプリケーションユニットは、前記ネットワークを介して制御コマンドを送信することにより前記少なくとも1つの学生ワークステーションの動作をリモートコントロールするためのユーザインターフェースを有し、
前記講師アプリケーションユニットは、前記講師ワークステーションのCPUを利用して、(1)前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザのブラウジング機能をリモートコントロールするために、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに前記ネットワークを介して前記制御コマンドを送信し、(2)前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザが有するブラウジング機能のうち学生に使用可能にする範囲を定義するナビゲーションポリシ定義のデータを、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに送信し、
前記クライアントアプリケーションユニットは、前記少なくとも1つの学生ワークステーションのCPUを利用して、前記ナビゲーションポリシ定義のデータを受信してメモリに記憶させ、前記メモリに記憶させた前記ナビゲーションポリシ定義のデータに従って前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザを構成させ、前記講師ワークステーションから前記制御コマンドを受信して、その受信した制御コマンドに従って前記ウェブブラウザを動作させる、ネットワークコンピュータシステム。」
に補正する内容を含むものである。

(2)補正の目的
上記(1)の補正の内容は、誤記の訂正を目的として、補正前の請求項1の「前記コマンドを送信させ」及び「前記少なくとも1つの学生ワークステーションに送信させ」の各記載における「送信させ」を「送信し」に補正するとともに、補正前の請求項1における発明特定事項である「クライアントアプリケーションユニット」について、「前記講師ワークステーションから前記制御コマンドを受信して、その受信した制御コマンドに従って前記ウェブブラウザを動作させる」との限定を付加するものであるから、全体として、平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

(3)独立特許要件についての検討
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、前記(1)において、本件補正後のものとして示したとおりのものと認められるところ、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて検討する。

ア 刊行物の記載
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-26926号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

「【請求項1】ウェブブラウザを備え、講師が使用するための講師端末と、
それぞれウェブブラウザを備え、受講者が使用するための複数の受講者端末と、
前記講師端末及び前記複数の受講者端末に結合され、教材としてのウェブページをサービスするウェブサーバと、
前記講師端末及び複数の受講者端末と前記ウェブサーバとの間に設置され、各前記受講者端末からの教材のリクエストと前記講師端末からの教材のリクエストとを比較して前記複数の受講者端末のリクエストを前記講師端末のリクエストに一致させるように制御し、前記講師端末から前記ウェブサーバへの教材のリクエスト及び該リクエストに対する前記ウェブサーバからのレスポンスを中継し、該レスポンスをリクエストに応じて前記講師端末と各前記受講者端末に配信するとともに、各前記受講者端末の教材のロード状態を前記講師端末に送信し表示させるレッスンマネージャと、
を具備することを特徴とする遠隔講義システム。」、
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、遠隔地にいる受講者と講師とでネットワークを介して講義を行う遠隔講義システムに係り、特にWWW(ワールドワイドウェブ)を利用した遠隔講義システム及び該遠隔講義システムを構築するためのネットワークシステム及びレッスンマネージャに関する。」、
「【0025】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1?図3を参照して、この発明の第1の実施の形態に係る原理的な遠隔講義システムを説明する。図1は、この発明の第1の実施の形態に係る遠隔講義システムの構成を模式的に示している。
【0026】図1に示す遠隔講義システムは、HTTPサーバ11、講師端末12、受講者端末13_(1)?13_(n)及びレッスンマネージャ(LM)14を備えている。HTTPサーバ11は、ウェブサーバであり、HTMLで記述された教材を含むウェブページを蓄積している。
【0027】講師端末12は、HTTPサーバ11のウェブページを取り込み表示するためのウェブブラウザを備え、講師の操作に基づいて、HTTPサーバ11に対する教材のリクエスト及び該講師端末12におけるイベントデータ等をレッスンマネージャ14に送出する。講師端末12は、レッスンマネージャ14を介して与えられるHTTPサーバ11からのレスポンスにしたがって、ウェブブラウザによる教材ウェブページを表示する。講師端末12は、レッスンマネージャ14を介して与えられる受講者端末13_(1)?13_(n)の状態報告に基づく受講者端末状態の表示も行う。
【0028】n台の受講者端末13_(1),13_(2),…13_(n-1),13_(n)は、HTTPサーバ11のウェブページを取り込み表示するためのウェブブラウザを備え、受講者の操作に基づいて、HTTPサーバ11に対する教材のリクエストをレッスンマネージャ14に送出する。受講者端末13_(1)?13_(n)は、レッスンマネージャ14を介して与えられるHTTPサーバ11からのレスポンス及び講師端末12からのイベントデータにしたがって、ウェブブラウザによる教材ウェブページを表示する。受講者端末13_(1)?13_(n)は、講師端末12からレッスンマネージャ14を介して与えられるイベントデータのうち予め設定された重要なイベントであるクリティカルイベントのイベントデータについては、レッスンマネージャ14においてキャッシュされている過去のイベントデータのシーケンスナンバ情報から、過去のイベントデータの消失を知ることができる。受講者端末13_(1)?13_(n)は、クリティカルイベントのイベントデータの消失が検出されたときには、当該イベントデータの再送を該当するシーケンスナンバを用いてレッスンマネージャ14に要求する。
【0029】レッスンマネージャ14は、講師端末12、受講者端末13_(1)?13_(n)及びHTTPサーバ11の間に介挿され、これら相互間のやりとりを管理する。すなわち、レッスンマネージャ14は、講師端末12で発生したイベントのイベントデータを各受講者端末13_(1)?13_(n)に伝送する。レッスンマネージャ14は、予め設定したクリティカルイベントに該当するイベントデータについては、キャッシングを行うとともに、クリティカルイベントであることを示す識別情報を、当該イベントデータに関するキャッシングされている過去のイベントデータのシーケンスナンバの情報とともに、受講者端末13_(1)?13_(n)に伝送する。レッスンマネージャ14は、受講者端末13_(1)?13_(n)からイベントデータの再送の要求があった場合には、要求に応答して該当するイベントデータを該当する受講者端末13_(1)?13_(n)に再送する。クリティカルイベントについては、後に詳述する。
【0030】また、レッスンマネージャ14は、各受講者端末13_(1)?13_(n)からの教材のリクエストと講師端末12からの教材のリクエストとを比較して、受講者端末13_(1)?13_(n)のリクエストが講師端末12のリクエストと一致していない場合には、受講者端末13_(1)?13_(n)に要求して、受講者端末13_(1)?13_(n)のリクエストを講師端末12のリクエストに一致させるようにする。そして、レッスンマネージャ14は、講師端末12からHTTPサーバ11への教材のリクエスト、及び該リクエストに対するHTTPサーバ11からのレスポンスを中継して、該レスポンスをリクエストに応じて講師端末12及び各受講者端末13_(1)?13_(n)に配信する。さらに、レッスンマネージャ14は、受講者端末13_(1)?13_(n)における教材のロードを監視し、各受講者端末13_(1)?13_(n)の教材のロード状態を講師端末12に通知する。」

(イ)同じく特開2000-356944号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

「【請求項21】通信ネットワークを介して教材を提供するシステムであって、
教師ワークステーションと、
前記通信ネットワークを介して前記教師ワークステーションに接続された1つまたは複数の生徒ワークステーションと、を備え、
前記教師ワークステーションに表示される画像が参加している各生徒ワークステーションに表示されるように、前記教材を示すデータが前記教師ワークステーションから参加している各生徒ワークステーションにリアルタイムで送信され、さらに、
前記教材の各生徒ワークステーションへの送信中に、各生徒が前記教師と交信する手段を備える、システム。
【請求項22】生徒ワークステーションに画像が表示されている間に、前記教師ワークステーションの制御下で、任意の1つまたは複数の生徒入力装置から各生徒ワークステーションへのアクセスを制限して、各生徒が教材に確実に集中するようにする手段をさらに含む、請求項21記載のシステム。
・・・
【請求項38】1つまたは複数の入力装置への前記制限されたアクセスは、前記教師コンポーネントソフトウェアから、かかるアクセス制限が必要な生徒ワークステーションの前記生徒コンポーネントワークステーションへ制限データを送信することにより行われ、前記生徒コンポーネントソフトウェアは前記制限データを使用して、1つまたは複数の入力装置をディセーブルする、請求項21乃至37のいずれか1記載のシステム。
【請求項39】送信された教材のセッションが完了すると、生徒が前記教材を使用することができるように、またはそれに回答できるように、前記教師が各生徒ワークステーションの各入力装置への制限を解除する、請求項21乃至38のいずれか1記載のシステム。
・・・
【請求項42】前記教師は、前記生徒ワークステーションに表示される前記教材を修正、変更、または実演するために、前記教師ワークステーション上で生徒ワークステーションへの入力を前記制御リンクを介して遠隔的に制御する、請求項40または41記載のシステム。
【請求項43】生徒ワークステーションの前記物理的レイアウトの表現は、前記教師ワークステーションに表示される、請求項21乃至42のいずれか1記載のシステム。
【請求項44】各生徒ワークステーションは、アイコンにより識別され、各生徒ワークステーションと関連して機能し、前記制限等が各生徒ワークステーションアイコンを介して前記教師によって制御される、請求項43記載のシステム。」、
「【0018】システム10の教師ワークステーション12は、特定ソフトウェアの教師コンポーネントを実行するプログラムを格納している。生徒ワークステーション14?22それぞれは、教師コンポーネントソフトウェアと関連する生徒コンポーネントソフトウェアを実行するプログラムを格納している。このため、本発明で使用されるソフトウェアは、教師ワークステーション12に教師コンポーネントを、各生徒ワークステーションに生徒コンポーネントを含む。教師コンポーネントソフトウェアの制御下で、生徒コンポーネントソフトウェアは生徒による生徒ワークステーションへのアクセスを制限し、かつ/または生徒が自身のワークステーションと対話していることを知る手段を教師に提供する。生徒の各自ワークステーションへのアクセスを制限することで、特定の生徒による教育データフローの通常課程の妨害が回避される。・・・」、
「【0024】上述したように、教師はまた各生徒のワークステーションを制御する能力を有し、これにより、教師に各生徒に対する修正および実演を教師自身のワークステーションで行う能力が提供される。次に、生徒のコンピュータへの制御は、該生徒が各自の作業を続けられるように、解除されうる。・・・ステップ306において、教師は自身のワークステーションを介して、各生徒ワークステーションにコマンドを送信して、該コマンドが生徒コンポーネントソフトウェアで解釈され、生徒のコンピュータ入力装置へのアクセスをディセーブルすることにより、参加している生徒のワークステーション入力をロックする。・・・」、
「【0027】あるいは、監視した画像データを参加しているすべての生徒ワークステーションに送信する代わりに、実際の表示コマンドと同等のものを、生徒のワークステーションで実行されて教師ワークステーションと略同様の画面を構成するように、各ワークステーションに送信する。コマンド情報は、システムグラフィックスコマンドとして転送される。例えば、まずシステムコマンドを呼び出して灰色を用いてウィンドウ領域をクリアし、次に第2のコマンドを呼び出して、該ウィンドウの明示された場所に「空ウィンドウ」というタイトルを配置することで、背景が灰色でありタイトルが「空ウィンドウ」という空のウィンドウを描画できる。このため、この第2の方法を使用して表示情報を生徒に送信すると、このウィンドウの生成は、これら2つのシステム表示コマンドを正しいシーケンスかつ適切なパラメータで送信することだけを含む。・・・」、
「【0031】・・・図3のステップ314において、特定のレッスンが完了すると、これにより教育データが配送され、教師が生徒のコンピュータ入力を解放すなわちロック解除する。そして生徒はワークステーションを自由に使用することができ、必要であれば、教育アプリケーションの各自セッションを実行する。ステップ316において、教師は特定の生徒を監視して、必要であれば、任意の生徒のワークステーションにコマンドを送信して、教師のワークステーションに生徒の表示画面への転送を要求することができる。教師は次に、生徒がどのように進行しているかを査定して、ステップ318において、特定の生徒の画面を制御して、該生徒を手助けするよう決定可能である。教師は次に、生徒のデータをその他の生徒すべてまたは一部にディスパッチするか送信して、すべての生徒に対話型学習セッションを提供するよう決定できる。これにより、教師は遠隔的に特定の生徒のコンピュータ入力装置を制御し、かつ生徒の代わりにアプリケーションを実行して、実演または生徒の作業を修正するかを選択できる。これが行われると、ステップ320において教師は特定の生徒のワークステーションの制御を解放して、ステップ322において他の生徒の進行を監視するよう決定できる。
【0032】図4に示すのはシステムへの強化であり、これにより教室における生徒ワークステーションの物理的なレイアウトの表現400が表示されるとともに、教師ワークステーション12の画面上で実施される。これにより、セッションが行われる教室レイアウトの直接かつ直観的な表現が教師に提供される。これは、送信および共用教育データのセッションに関連するイベントを観察かつ制御する手段を提供する。各生徒ワークステーションはアイコン、例えばアイコン410で表され、この場合生徒番号2の生徒ワークステーションを識別する。アイコンは、例えば色コードまたはアイコンが点滅することなどの指示手段により、生徒ワークステーションについてのステータス情報を提供する。これにより、アイコン420および430により識別されるグリーンアイコンは、作業しているステーションを表し、アイコン440および450(シェーディングがより暗い)で識別されるレッドアイコンは、特定のアイコンに関連して通信問題があることを示しうる。教師ワークステーションを介しての教師による制御、例えば生徒ワークステーションの入力に対するアクセス制限、質問に対する回答の制限は、特定の生徒ワークステーションに関連するアイコンをクリックしてかかる制御を実施するウィンドウボックス/メニューを出すことで、表現400上で直接適用できる。教育データが送信されるセッションを通して行われるイベントは、表現400から直接監視される。これは、特定セッションで行われる、教室全体を制御および観察するコンパクトかつ独自のソースである。」

イ 引用発明
上記ア(ア)によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「ウェブブラウザを備え、講師が使用するための講師端末と、それぞれウェブブラウザを備え、受講者が使用するための複数の受講者端末と、前記講師端末及び前記複数の受講者端末に結合され、教材としてのウェブページをサービスするウェブサーバと、前記講師端末及び複数の受講者端末と前記ウェブサーバとの間に設置され、各前記受講者端末からの教材のリクエストと前記講師端末からの教材のリクエストとを比較して前記複数の受講者端末のリクエストを前記講師端末のリクエストに一致させるように制御し、前記講師端末から前記ウェブサーバへの教材のリクエスト及び該リクエストに対する前記ウェブサーバからのレスポンスを中継し、該レスポンスをリクエストに応じて前記講師端末と各前記受講者端末に配信するとともに、各前記受講者端末の教材のロード状態を前記講師端末に送信し表示させるレッスンマネージャと、を具備し、受講者と講師とでネットワークを介して講義を行う遠隔講義システムであって、前記講師端末は、講師の操作に基づいて教材のリクエスト及び該講師端末におけるイベントデータ等をレッスンマネージャに送出し、ウェブブラウザによる教材ウェブページを表示し、また、レッスンマネージャを介して与えられる前記受講者端末の状態報告に基づく受講者端末状態の表示を行うものであり、前記受講者端末は、受講者の操作に基づいて教材のリクエストをレッスンマネージャに送出し、また、レッスンマネージャを介して与えられるレスポンス及び講師端末からのイベントデータにしたがって、ウェブブラウザによる教材ウェブページを表示するものである、遠隔講義システム。」(以下「引用発明」という。)

ウ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「受講者と講師とでネットワークを介して講義を行う遠隔講義システム」、及び「ネットワーク」は、それぞれ、本願補正発明の「ネットワーク接続されたコンピュータ利用学習のためのネットワークコンピュータシステム」及び「講師ワークステーションおよび前記少なくとも1つの学生ワークステーションを相互接続するネットワーク」に相当する。

(イ)引用発明の「講師端末」及び「複数の受講者端末」は、それぞれ、「講師の操作に基づいて教材のリクエスト及び該講師端末におけるイベントデータ等をレッスンマネージャに送出し、ウェブブラウザによる教材ウェブページを表示し、また、レッスンマネージャを介して与えられる前記受講者端末の状態報告に基づく受講者端末状態の表示を行う」、あるいは、「受講者の操作に基づいて教材のリクエストをレッスンマネージャに送出し、また、レッスンマネージャを介して与えられるレスポンス及び講師端末からのイベントデータにしたがって、ウェブブラウザによる教材ウェブページを表示する」といった固有の機能を有するものであるから、それぞれの端末に応じた固有のアプリケーションユニットを有することは明らかであり、また、引用発明の「複数の受講者端末」は、「ウェブブラウザを備え」るものであるから、引用発明の「講師端末」及び「複数の受講者端末」は、それぞれ、本願補正発明の「講師アプリケーションユニットを有する講師ワークステーション」及び「クライアントアプリケーションユニットおよびウェブブラウザを有する、少なくとも1つの学生ワークステーション」に相当する。

(ウ)以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「 ネットワーク接続されたコンピュータ利用学習のためのネットワークコンピュータシステムであって、
講師アプリケーションユニットを有する講師ワークステーションと、
クライアントアプリケーションユニットおよびウェブブラウザを有する、少なくとも1つの学生ワークステーションと、
前記講師ワークステーションおよび前記少なくとも1つの学生ワークステーションを相互接続するネットワークとを備える、ネットワークコンピュータシステム。」
である点で一致し、以下のa及びbの点で相違するものと認められる。

a 本願補正発明では、前記講師アプリケーションユニットは、前記ネットワークを介して制御コマンドを送信することにより前記少なくとも1つの学生ワークステーションの動作をリモートコントロールするためのユーザインターフェースを有し、前記講師アプリケーションユニットは、前記講師ワークステーションのCPUを利用して、前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザのブラウジング機能をリモートコントロールするために、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに前記ネットワークを介して前記制御コマンドを送信し、前記クライアントアプリケーションユニットは、前記少なくとも1つの学生ワークステーションのCPUを利用して、前記講師ワークステーションから前記制御コマンドを受信して、その受信した制御コマンドに従って前記ウェブブラウザを動作させるのに対して、引用発明では、講師アプリケーションユニット及びクライアントアプリケーションユニットがそのようなものでない点(以下「相違点1」という。)。

b 本願補正発明では、前記講師アプリケーションユニットは、前記講師ワークステーションのCPUを利用して、前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザが有するブラウジング機能のうち学生に使用可能にする範囲を定義するナビゲーションポリシ定義のデータを、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに送信し、前記クライアントアプリケーションユニットは、前記少なくとも1つの学生ワークステーションのCPUを利用して、前記ナビゲーションポリシ定義のデータを受信してメモリに記憶させ、前記メモリに記憶させた前記ナビゲーションポリシ定義のデータに従って前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザを構成させるのに対して、引用発明では、講師アプリケーションユニット及びクライアントアプリケーションユニットがそのようなものでない点(以下「相違点2」という。)。

エ 判断
(ア)相違点1について
前記ア(イ)によれば、刊行物2には、通信ネットワークを介して教材を提供するシステムにおいて、教師による制御を実施するウィンドウボックス/メニューを出し、教師コンポーネントソフトウェアから生徒コンポーネントワークステーションへコマンドを送信することにより、生徒入力装置から各生徒ワークステーションへのアクセスを制限し、また、制限を解除し、あるいは、生徒ワークステーションに表示される教材を修正、変更、または実演する技術が記載されているものと認められ、かかる技術を引用発明に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記技術は、相違点1に係る本願補正発明の構成である、「前記講師アプリケーションユニットは、前記ネットワークを介して制御コマンドを送信することにより前記少なくとも1つの学生ワークステーションの動作をリモートコントロールするためのユーザインターフェースを有し、前記講師アプリケーションユニットは、前記講師ワークステーションのCPUを利用して、前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザのブラウジング機能をリモートコントロールするために、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに前記ネットワークを介して前記制御コマンドを送信し、前記クライアントアプリケーションユニットは、前記少なくとも1つの学生ワークステーションのCPUを利用して、前記講師ワークステーションから前記制御コマンドを受信して、その受信した制御コマンドに従って前記ウェブブラウザを動作させる」ものにほかならないものと認められるから、引用発明において、刊行物2記載の上記技術を適用することにより、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
a 本願補正発明における「学生ワークステーションの前記ウェブブラウザが有するブラウジング機能のうち学生に使用可能にする範囲を定義するナビゲーションポリシ定義」に関して、本願明細書には、
「 【0035】
教師は、どのウェブページでもアクセスを許可または拒否することができ、したがって、学生によるインターネットの使用に対する制限を定義することができる。その目的は、学生のインターネットブラウジング能力を制限することによってブラウザ側でウェブアクセスを制限することであり、これによって、教室環境でのさまざまな学習状況に関するより高い柔軟性が可能になる。ブラウジング範囲は、無制限からサイトレベルの制限、最終的には単一ページレベルの制限まで、異なるレベルで絞り込むことができる。
【0036】
ナビゲーションポリシすなわち、ウェブページへのアクセスの許可および拒否に関して、少なくとも2つの選択の余地がある。これらの選択の余地は、1)ストリクトナビゲーションポリシ、および、2)オープンナビゲーションポリシである。」
との記載が認められ、【0037】?【0041】には、ストリクトナビゲーションポリシ及びオープンナビゲーションポリシについて説明する記載が認められる一方、「 好ましい実施形態の説明は、本発明を例示するだけのために行われた。本発明は、これらの例に制限されるのではなく、請求項の範囲および趣旨から逸脱せずに修正および変更を行うことができる。」(【0056】)との記載が認められる。

b 上記aによれば、本願補正発明における「学生ワークステーションの前記ウェブブラウザが有するブラウジング機能のうち学生に使用可能にする範囲を定義するナビゲーションポリシ定義」とは、「学生ワークステーションのウェブブラウザによりアクセスできるウェブページの範囲を定義する」ものということができる。

c しかるところ、「学生ワークステーションのウェブブラウザによりアクセスできるウェブページの範囲」をどのようなものとするかということ自体については、何ら技術的考察が関与することはなく、技術的思想である発明を評価する上では、教育上の必要に応じて適宜定められるべき設計的事項というべきである。
そして、教育上の必要についてみても、例えば、刊行物1に「講師と受講者とは、同じ画面を共有することにより、通常の教室で行なわれている講義のように、教育・学習を行うことが可能である。」(【0003】)と記載されるように、講師と同じウェブページを見なければならない場合や、ある事柄について学生が自ら調査するときのように、ある程度の範囲のウェブページを表示する必要がある場合があることは、当業者ならずとも想定し得る事項である。
してみれば、ウェブブラウザによる教材ウェブページを表示する引用発明において、講師が、「学生ワークステーションのウェブブラウザによりアクセスできるウェブページの範囲」を定めることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項というべきであり、前記範囲を定めるためにどのような手段を用いるかは、当業者が適宜設計し得る程度の事項であって、相違点2に係る本願補正発明の構成である、「前記講師ワークステーションのCPUを利用して、前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザが有するブラウジング機能のうち学生に使用可能にする範囲を定義するナビゲーションポリシ定義のデータを、前記少なくとも1つの学生ワークステーションに送信し、前記クライアントアプリケーションユニットは、前記少なくとも1つの学生ワークステーションのCPUを利用して、前記ナビゲーションポリシ定義のデータを受信してメモリに記憶させ、前記メモリに記憶させた前記ナビゲーションポリシ定義のデータに従って前記少なくとも1つの学生ワークステーションの前記ウェブブラウザを構成させる」ことにより、「学生ワークステーションのウェブブラウザによりアクセスできるウェブページの範囲」を定めることに、格別の技術的困難はないものと認められる。

d よって、引用発明1において、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

オ 小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。
よって、本件補正は、平成14年改正前特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成19年12月12日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項18に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2、2(1)において、補正前のものとして示したとおりのものである。

2 判断
前記第2、2(2)によれば、本願補正発明は、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものと認められるところ、前記第2、2(3)で検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-01 
結審通知日 2010-07-06 
審決日 2010-07-20 
出願番号 特願2003-502803(P2003-502803)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
P 1 8・ 575- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 昭彦  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 杉山 輝和
稲積 義登
発明の名称 ネットワークコンピュータシステム、コンピュータワークステーションのリモートコントロール方法、ウェブサーバ、講師ワークステーション内で実行される方法、およびプログラム  
代理人 松田 正道  

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