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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60J
管理番号 1227797
審判番号 不服2009-10928  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-11 
確定日 2010-12-01 
事件の表示 平成11年特許願第113891号「自動車ドアの衝撃梁」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月24日出願公開、特開平11-321318号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1999年(平成11年) 4月21日(パリ条約による優先権主張1998年(平成10年) 4月21日、アメリカ合衆国)を出願日とする出願であって、平成21年 3月 10日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として同年 6月11日付けで本件審判請求がなされるとともに、同年 7月 6日付けで手続補正(前置補正)がなされたものである。

2.平成21年 7月 6日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年 7月 6日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成21年 7月 6日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された。
「【請求項1】
自動車用のドアの衝撃梁であって、上記ドアの衝撃梁は、超高強度鋼板で厚みがあって台形状の閉断面形状を有する長く伸びた梁(114)からなり、
上記閉断面形状は内側フランジ部(128)と丸い外側フランジ部(226)を有し、丸い外側フランジ部(226)は該フランジ部の厚みの9倍以下である内側曲率半径を有し、上記梁(114)は、閉断面形状の内側に配置されて梁(114)の厚さの半分以下の厚さを有する付加的な補強材(140)を有し、該付加的な補強材(140)は少なくとも丸い外側フランジ部(226)を横切り、梁(114)の長さ方向の中心部にわたってのみ伸びている自動車用のドアの衝撃梁。」

(2)補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するための事項である「外側フランジ部(226)」について、「丸い外側フランジ部(226)」に加えて、「フランジ部の厚みの9倍以下である内側曲率半径を有し」との限定を付加するものであり、さらに「付加的な補強材(140)」について、「梁(114)の厚さの半分以下の厚さを有する」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)引用例及びその記載事項と引用発明
(ア)原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用された、特開平6-48177号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、衝撃吸収特性に優れたドア補強パイプに係り、より詳しくは、特定の断面形状を有し、パイプの引張強さが980N/mm^(2)以上である衝撃吸収特性に優れると共に軽量なドア補強用異形パイプに関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、自動車業界においては、自動車への安全性の要求の高まりにより、高強度鋼板を用い、衝突時に乗員を保護するための補強部材の採用が進められている。この中で、自動車側面への衝突に対する乗員の保護のためには、ドア内部に図2に示すようなドアインパクトビームと呼ばれる補強ビームの装着が進められている。
【0003】従来、ドアインパクトビームには、引張強さ588?980N/mm^(2)の高強度鋼板を用い、図3に示すような断面形状の3山タイプのドアインパクトビームが使用されてきた。このタイプのドアインパクトビームは、3山の形状をプレス加工により成形し、その上下面に当板をスポット溶接により接合したものである。
【0004】しかし、このような高強度鋼板を用いた3山タイプのドアインパクトビームであっても、図4に示すような圧壊試験を行った場合、最高荷重に達した後、急激に荷重が低下し、衝撃吸収特性が低下するという問題がある。
【0005】更に、自動車の燃費規制により自動車車体の軽量化への要求が高まっているが、このように補強部材に対しても軽量化を進めることが強く求められている。
【0006】すなわち、このようなドアインパクトビームには、軽量化を図ると共に、側面方向からの衝突に対して乗員を保護するために、剛性・強度が要求されるのみならず、その衝撃吸収特性が優れていること、換言すれば、その吸収エネルギーが大きいことが要求されているのである。」

・「【0010】そして、本発明者らは、これらのドア補強パイプの断面形状を異形化することにより圧壊特性を向上させ、かつ、軽量化するために、更に研究を重ねた結果、パイプを圧壊試験する場合に、衝突方向に対して近い側の断面形状が局部座屈による荷重低下の開始点に強い影響を与え、その反対側の断面形状が最高荷重に強い影響を与えることを見い出した。
【0011】そこで、このドア補強パイプを異形化することにより、その形状を、圧壊方向に対して近い側の断面形状を丸パイプより小さいRを持つ形状として耐座屈特性を向上させ、一方、その反対側の断面形状を四角形状にすることによって断面係数を増加させ、最高荷重を向上させることにより、圧壊特性に優れると共に、軽量化が可能であるドア補強パイプを得ることができることを見い出して、ここに本発明をなしたものである。
【0012】すなわち、本発明に係る補強パイプは、四角形又は台形の一辺がその両側の辺に連続した曲率Rのほゞ半円からなる上部を有する断面形状を持ち、かつ各部の寸法が次式、
0.02×L≦H …(1)
0.8≦H/B≦1.4 …(2)
0.6×B/2.0≦R≦B/2.0 …(3)
5.0×t≦R≦8.5×t …(4)
t≦r≦0.3×H …(5)
ここで、
L:ドア補強パイプの長さ
H:ドア補強パイプの高さ
B:ドア補強パイプの底辺の幅
R:ドア補強パイプの上部の外側曲率
r:ドア補強パイプの底辺角部の外側曲率
t:ドア補強パイプの板厚
を満足する寸法の異形パイプであることを特徴とし、また、パイプの引張強さが980N/mm^(2)以上であることを特徴とするものである。」
・「 【符号の説明】
4 異形パイプ
5 上部
6 側辺(縦壁)
7 底辺 」
上記記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が実質的に記載されていると認められる。
「自動車用のドア補強用異形パイプであって、上記ドアの補強用異形パイプは、高強度鋼板で厚みがあって台形状の閉断面形状を有する長く伸びた異形パイプ4からなり、上記閉断面形状はドア異形パイプ4の底辺7とドア異形パイプ4の丸い上部5を有し、丸い上部5はドア補強パイプ4の厚みtの9倍以下である外側曲率Rを有するドア補強用異形パイプ。」

(イ)原査定の拒絶の理由に引用文献8として引用された、特開平4-92719号公報(以下「引用例2」という。)には、自動車等の車両のドアに内蔵されるサイドインパクトビームに関して、第2図とともに次の技術事項が記載されている。
・「本発明の目的は、比較的軽量でありながら所望の強度を発揮できるようなサイドインパクトビームを提供することにある。
[課題を解決するための手段]
上記目的を果たすために開発された本発明のサイドインパクトビームは、ドア内部に前後方向にわたって配置されかつ両端がドアのフレームに固定されるビーム本体と、上記ビーム本体の長手方向中間部に所定長さにわたって取着された補強材とを具備している。なお、ビーム本体と補強材の材質は、要求される剛性やドア内部の許容スペース等に応じて適宜に選定される。」(公報第1頁右下欄19行目?第2頁左上欄第10行目)

・「この実施例のサイドインパクトビーム2は、ビーム本体3と、ビーム本体3の長手方向中間部に挿入された補強材4とによって構成されている。ビーム本体3は、熱処理された断面円形の肉厚一定の鋼製パイプ材からなる。
補強材4にも熱処理された断面円形の鋼製パイプ材が使われるとよい。補強材4の肉厚も管軸方向に一定である。」(公報第2頁右上欄第6?13行目)

・「補強材4はビーム本体3の内部に挿入され、適宜の固定手段によってビーム本体3に固定されている。固定手段の一例として、この補強材4をビーム本体3に圧入することによって固定してもよいが、」(公報第2頁左下欄第12?16行目)(以下「引用例2に記載の事項」という。)

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを比較すると、次のことが明らかである。
・引用発明の「自動車用のドア補強用異形パイプ」が、本願補正発明の「自動車用のドアの衝撃梁」に相当する。同様に、引用発明の「異形パイプ4 」「底辺7」「上部5」は、本願補正発明の「梁(114) 」「内側フランジ部(128)」「外側フランジ部(226)」にそれぞれ相当する。
・引用発明では異形パイプ4の上部5の丸みを「外側曲率R」で表しているが、異形パイプ4の厚さtが一定であるから外側曲率Rも内側曲率も同じRであり、上記引用例1の図1を参照すると、「外側曲率R」は「外側曲率半径」を示すことが明らかである。
同様に、本願補正発明においても、外側フランジ部(226)の丸みを表現するのに「内側曲率半径」を用いているが、フランジ部tの厚みが一定であるから「外側曲率半径」と同じであるから、引用発明の「外側曲率R」は本願補正発明の内側曲率半径」に相当している。
・引用発明の「高強度鋼板」と本願補正発明の「超高強度鋼板」とは、ともに強度の高い鋼板、すなわち「高強度鋼板」である限りにおいて共通する。
すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「自動車用のドアの衝撃梁であって、上記ドアの衝撃梁は、高強度鋼板で厚みがあって台形状の閉断面形状を有する長く伸びた梁からなり、上記閉断面形状は内側フランジ部と丸い外側フランジ部を有し、丸い外側フランジ部は該フランジ部の厚みの9倍以下である内側曲率半径を有している自動車用のドアの衝撃梁。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
(相違点1)本願補正発明は「超高強度鋼板」であるのに対して、引用発明では「高強度鋼板」である点。
(相違点2)
本願補正発明では、梁の補強について「梁(114)は、閉断面形状の内側に配置されて梁(114)の厚さの半分以下の厚さを有する付加的な補強材(140)を有し、該付加的な補強材(140)は少なくとも丸い外側フランジ部(226)を横切り、梁(114)の長さ方向の中心部にわたってのみ伸びている」のに対して、引用発明では、梁の補強について明らかでない点。

(5)相違点についての判断
(相違点1)について
引用発明の「高強度鋼板」は引張強さ980N/mm^(2)以上であり(上記(3)(ア)の記載参照)、 本願補正発明の「超高強度鋼板」は80KSI(552Mpa)以上の降伏点を有する鋼を意味している。(本願明細書【0006】参照)
自動車ドアの衝撃梁の補強材として、引用発明における引張強さ980N/mm^(2)以上の鋼板である「高強度鋼板」を、本願補正発明における80KSI(552Mpa)以上の降伏点を有する鋼板、すなわち「超高強度鋼板」とすることに何ら困難性を認めることができない。

(相違点2)について、
まず、自動車用のドアの衝撃梁の補強について、上記引用例2には、引用発明のドア補強用異形パイプや本願補正発明の衝撃梁に相当するサイドインパクトビームに、ビーム本体3の長手方向中間部に所望長さにわたって取着された補強材4を具備することが記載されている。
さらに、補強材4はビーム本体3の内部に挿入され、適宜の固定手段によってビーム本体3に固定されている。 この補強材4は本願補正発明の「付加的な補強材(140)」に相当し、断面円形のビーム本体3は閉断面形状であり、断面円形の補強材4はビーム本体3の内部で長手方向中間部に所望長さにわたって取着されているから、「閉断面形状のビーム本体3の内側に配置され、少なくともビーム本体3の上部(丸い外側フランジ部(226))を横切って、ビーム本体3の長さ方向の中心部にわたってのみ伸びている」といえる。
そうすると、引用例2の記載事項には「ビーム本体3は、閉断面形状の内側に配置された補強材4を有し、該補強材4は少なくともビーム本体3の上部を横切り、ビーム本体3の長さ方向の中心部にわたってのみ伸びている」ことが記載されているといえる。ここで、「ビーム本体3」、「補強材4」、「ビーム本体3の上部」は、それぞれ本願補正発明の「梁(114)」、「付加的な補強材(140)」、「丸い外側フランジ部(226)」に相当しているから、上記引用例2には、本願補正発明の
「梁(114)は、閉断面形状の内側に配置された補強材(140)を有し、該付加的な補強材(140)は少なくとも丸い外側フランジ部(226)を横切り、梁(114)の長さ方向の中心部にわたってのみ伸びている」構成が記載されているといえる。
また、補強材4の厚さについては、サイドインパクトビームの軽量化や強度を考慮すると、ビーム本体3の厚さの半分以下の厚さとすることは、当業者であれば適宜なし得る程度の設計的な事項に過ぎないものである。
すると、引用発明において、引用例2に記載の技術事項を適用して、本願補正発明の上記相違点に係る構成とすることは、当業者にとって容易想到の範囲ということができる。
そして、本願補正発明により得られる作用効果も、引用発明及び引用例2に記載の技術事項から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、台形状の閉断面形状を有する長く伸びた自動車用のドアの衝撃梁は引用発明と同様の発明を開示する、米国特許第5232261明細書(原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用されたもの)のFIG.7にも記載されている。

(6)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成21年 7月 6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年12月 3日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるものと認められるが、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項1】
自動車用のドアの衝撃梁であって、上記ドアの衝撃梁は、超高強度鋼板で厚みがあって台形状の閉断面形状を有する長く伸びた梁(114)からなり、
上記閉断面形状は内側フランジ部(128)と外側フランジ部(126)を有し、上記梁(114)は、閉断面形状の内側に配置された付加的な補強材(140)を有し、該付加的な補強材(140)は少なくとも外側フランジ部(126)を横切り、梁(114)の長さ方向の一部にわたってのみ伸びている自動車用のドアの衝撃梁。」 (以下「本願発明」という。)

(2)引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記2.(3)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、前記限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(5)に記載したとおり、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-29 
結審通知日 2010-07-06 
審決日 2010-07-20 
出願番号 特願平11-113891
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60J)
P 1 8・ 121- Z (B60J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小関 峰夫西本 浩司  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 横溝 顕範
藤井 昇
発明の名称 自動車ドアの衝撃梁  
代理人 角田 嘉宏  

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