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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1227798
審判番号 不服2009-11133  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-15 
確定日 2010-12-01 
事件の表示 特願2003-523986「自己動力供給式(self-powered)バイオセンサー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月 6日国際公開、WO03/19170、平成17年 1月13日国内公表、特表2005-501253〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は,平成14年8月12日(優先権主張日:平成13年8月29日,イスラエル)を国際出願日とする出願であって,平成21年3月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年6月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
そして,その請求項1?19に係る発明は,平成20年6月20日付け誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された技術的事項により特定されるものと認められ,その請求項1は次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)
「 【請求項1】
自己動力供給式バイオセンサー,ならびに検体が酸化または還元されつつある間該バイオセンサーによって生成される電気シグナルを測定するための検出器を含んでなる,液体媒質中の検体を決定するシステムであって,検体は,それぞれ酸化剤または還元剤の存在下で生物触媒酸化または還元を受けることができ,該バイオセンサーは,電極の1つがアノードであり,他方がカソードである1対の電極を含有し,両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており,検体の存在下で,電極の1つに担持される酵素は,検体がそれぞれ酸化または還元される酸化または還元反応を触媒することができ,そして該1対の電極の他方は,酸化剤または還元剤がそれぞれ還元または酸化される反応を触媒できる酵素をその表面に担持している,システム。」

2.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物であるEugenii Katz, Itamar Willner & Alexander B. Kotlyar,"A non-compartmentalized glucose|O_(2) biofuel cell by bioengineered electrode surfaces" ,Journal of Electroanalytical Chemistry,15 DECEMBER 1999, VOL.479, NO.1, p.64-69 (以下,「刊行物1」という。)は,“バイオ設計された電極表面による,隔壁なしのグルコース|O_(2)バイオ燃料電池”と題する論文であって,図面と共に次の記載がある。なお,下線は当審にて付記したものである。また,翻訳は当審によるものである。
(a)第64頁,要約の項
「 新規なグルコース|O_(2) バイオ燃料電池エレメントが,積層化されたバイオ電気触媒電極を製作して組み立てられた。アノードは,表面再構成されたグルコースオキシダーゼ単分子層からなり,他方,カソードは,再構成されたシトクロムc/シトクロムオキシダーゼ対にからなる。GO_(X)単分子層-作用電極においては,グルコースのグルコン酸へのバイオ電気触媒酸化が起こり,一方,Cyt.c|CO_(X)積層電極では,O_(2)の水への還元が起こる。電極上のグルコースオキシダーゼ単分子層の配列は,極めて効率的な電気的伝達をもたらし,そして,酸化還元中心と導電性保持体間の電子伝達回転速度が,酸素に感応しない酵素電極をもたらす。このことが,アノードとカソードの隔壁なしにバイオ燃料電池の作動することを可能にするのである。このシステムは,電力発電のための浸潤性バイオ燃料電池の製造への路をひらく。電極の界面の電子伝達工程の分析から,タンパク質を適切に遺伝子的設計すること,及び,電極上の酸化還元タンパク質を適切に化学構築することによって,バイオ燃料電池の出力電力がさらに改良され得ることを示唆している。」

(b)第64頁左欄1行?第65頁左欄8行
「 豊富な有機原料,あるいはバイオマスに貯えられている化学エネルギーから電気エネルギーへと変換を触媒するバイオ燃料電池の発展は,生物電気化学の絶え間ない挑戦的努力である〔1,2〕。エタノールやグルコースのようなバイオマス生産物がアノードでの酸化可能な基質(燃料)として使用され得て,他方,H_(2)O_(2),そして好ましくは分子酸素がカソードで還元可能な生産物(酸化剤)として使用され得る。酵素または電池全体は,2つの異なるルートで生物燃料電池中でバイオ触媒として使用され得る〔3-5〕:(i)バイオ触媒は,バイオ触媒的変換あるいは代謝プロセスによって電池用の燃料基質を発生し得る。例えば,微生物Desulfovibrio desulfuricans は硫酸塩イオンの硫化物イオンへの代謝変換を触媒する〔6〕。後者の産物は,アノード室で燃料基質として作用し,そこで硫酸塩に酸化され,そして酸素はカソード室で還元される。(ii)バイオ触媒はバイオ燃料電池の電子伝達連鎖に参加し得る。そして,酵素はアノードでの基質の酸化を強め,カソードでの酸素の還元を容易にする。しかしながら,多くの酸化還元酵素は電極支持体との直接的電気伝達に欠け,そこでさまざまな電子メディエータがバイオ触媒を電極と電気的に結びつけるために使用された〔7〕。例えば,N,N-ジメチル-7-アミノ-1,2-ベンゾフェノキサジウムが,グルコース デヒドロゲナーゼ|O_(2)燃料電池における電子メディエータとして使用された〔8〕。バイオ燃料電池から出力可能な電力(P=V_(cell)I_(cell))は,電池電圧(V_(cell))と電池電流(I_(cell))によってコントロールされた。理想的な電池電圧は燃料基質と酸化剤のポテンシャル式とは相違するけれども,電池中の電子伝達,オーム的抵抗および濃度勾配の動力学的限界の結果としての電池電圧における不可逆的な損失が観察された。同様に,電池電流は,電極サイズ,イオン透過性およびバイオ燃料電池のアノード室とカソード室とを分離する膜を通る伝達によって,特にそれぞれの電極での電子伝達速度によって制御される。バイオ燃料電池エレメントの主たる限界は,酸化剤がアノードでのバイオ燃料のバイオ触媒された酸化に干渉し,そしてしばしばブロックするために,カソードとアノードを分離する必要があることである。」

(c)第65頁左欄9行?末行
「 ここで,我々は,電極の区画化をすることなくバイオ燃料電池の作動が可能な,バイオ触媒単分子層インターフェースを備えたアノード及びカソードの設計によるグルコース|O_(2)バイオ燃料電池装置について報告をしたい。電極での界面的バイオ電気触媒プロセスは,バイオ設計された電極の構造的な配置と配向の結果として効率的である。すなわち,酸素とバイオ触媒的アノード界面との間の干渉反応が除外される。この方法は,植物あるいは生きた組織から電気的エネルギーを抽出する浸潤的バイオ燃料電池を仕立て上げるための新しいアプローチを提供し得るかもしれない。この研究は,電池から出力可能な電力が酸化還元タンパク質のさらなる遺伝子的設計と電極上の追加の化学的構築によって改良され得ることを示唆している。図解1は,バイオ燃料電池の構造を示している。それは2つの電極からなるもので,そのアノードは表面-再構成されたグルコースオキシダーゼ,GO_(X),単分子層によって機能化され〔9〕,そしてカソードはシトクロムc(Cyt c)とシトクロムオキシダーゼ,CO_(X)から構成された一体化バイオ触媒アッセンブリで修飾されている。GO_(X)単分子層-作用電極で,グルコースのグルコン酸への酸化が起きる。一方,Cyt.c|CO_(X)積層化電極で,O_(2)の水への還元が起こる。」

(d)図解(Scheme)1
第65頁左欄下部には,「燃料と酸化剤としてグルコースとO_(2)を採用したバイオ燃料電池図解的構成,それぞれ,PQQ-FAD|GO_(X)とCyt.c|CO_(X)は,それぞれバイオ触媒アノードとカソードとして,電極を機能化する。」と記載されている。また,アノードで,グルコースがグルコン酸にGO_(X)を介して酸化され,FADに電子が伝達され,更に,PQQに電子が伝達されて電極に電子が移動する様子が図示されている。カソードでは,分子酸素がCO_(X)を介して水に還元され,電子が電極からCyt.c,CO_(X)と伝達される様子が図示されている。

(e)第65頁左欄末行?右欄下から11行
「 図解2Aは,GO_(X)単分子層-作用極を組み立てる方法を示す。それは,金-電極と連結されたピロロキノリンキノン(PQQ)-FAD単分子層の上にapo-GO_(X)を表面再構成することを含む〔10,11〕。グルコースの存在下での表面-再構成されたGO_(X)層のサイクリックボルタモグラムは,PQQ成分の酸化還元電位(E°=-0.12V vs.SCE,pH7)での電気触媒アノード電流を示し,再構成されたタンパク質によるグルコースのPQQ-メディエートバイオ電気触媒化酸化が生じることを意味している。酵素単分子層-電極によって変換されたアノード電流は,先例がないほど高く,酸化還元-タンパク質と電極支持体との間の効率的な電気伝達を意味している。従来の研究〔10,11〕は,表面-再構成された酵素と電極との間の電子伝達交換速度が,酵素とその自然の電子受容体,分子酸素,との間の電子伝達回転速度を超えていることを示していた。GO_(X)とO_(2)との間の回転速度は25℃でおよそ600s^(-1)である。GO_(X)の設置面積,58nm^(2),を考慮すると,ランダムに密に詰められた単分子層,1.7×10^(-12)モルcm^(-2),は,もし電極との電子伝達交換速度が分子酸素のそれと同様であるならば,200μAcm^(-2)の電流密度を得ることが期待される。80mMのグルコース濃度で実験的に変換された電流密度は,およそ200μAcm^(-2)に対応する。すなわち,表面-再構成GO_(X)間の電子伝達回転速度は,バイオ触媒と自然の受容体との間の電子伝達速度を超える。酵素の酸化還元中心と電極支持体との間のこの極めて効率的な電気的伝達は,電極支持体に関してすべてのタンパク質ユニットの配列に寄与されている。PQQユニットは,電極と酸化還元中心との間の電気的接続をブリッジする電子伝達メディエータとして作用する。この結果は,バイオ燃料電池におけるアノードとしての表面-再構成GO_(X)の使用可能性について重要な意味を有している。酵素酸化還元-中心と電極との間の電子の極めて速い回転速度は,酵素のバイオ電気触媒活性が分子酸素によって影響されるはずがないことを示唆している。実際,我々は以前に,表面-再構成GO_(X)のバイオ電気触媒機能がアスコルビン酸,尿酸あるいは分子状酸素のような典型的な干渉成分によって影響されないことを報告していた〔10,11〕。」

(f)第65頁右欄下から10行?第67頁左欄下から3行
「 カソードのバイオ電気触媒インターフェースのアッセンブリが,図解2Bに示されている。シトクロムcは,金電極との直接的電気接触はしていない。従前の研究は,4-ピリジンエチオールのような分子プロモータで金電極の表面を修飾するか,または負に帯電した単分子層インターフェースで電極を作動化することが,Cyt.cを導電性支持体と電気的接触を導くことを示していた〔12,13〕。Cyt.cと電極との間のこの電気的伝達は,電極上のヘムタンパク質の配列の結果である〔14〕。我々は,電極表面上に組み立てられたマレイミド単分子層〔15〕に,Cyt.c(Saccharomyces cerevisiaeからの)の102-Cyt残基をサイト-特異的カップリングすることにより,電極上にCyt.cを配置した。電極上に組み付けたCyt.c単分子層のサイクリックボルタモグラフは,共有結合されたcyt.cがヘム-サイトと電極の間の電気的伝達を示すことを示唆するE°=0.03V(vs.SCE)のヘムタンパク質の擬似可逆的酸化還元波状曲線を示した。Cyt.cと電極との間のこの電気的接触は,サイト-特異的共有結合で取付けた結果として導電性支持体上へのヘムタンパク質の整列に寄与されている。Cyt.cの還元(または酸化)波状曲線の電量滴定分析は,ヘムタンパク質の表面被覆程度を示すが,8×10^(-12)モルcm^(-2)であり,それはほぼ密に詰め込んだ単分子層に対応する(Cys.cの直径がおよそ45Åであることを考慮すると)。時間電流滴定実験におけるヘム中心のパルス化還元の瞬間的電流遅れは,我々にインターフェース電子-伝達速度-定数が20s^(-1)であると算出させてくれる。自己-集合された単分子層上で動かないシトクロムに対する電子伝達速度定数は,0.2?1000s^(-1)で変化する〔16〕。すなわち,我々のシステムにおいて実現された速度定数は,シトクロム分子の適切な変化とその不動化状態によって増強されたものであり得る。
シトクロムオキシダーゼへのシトクロムc-メディエートされた電子伝達は,水への酸素の4-電子還元をもたらす〔17,18〕。このメディエートされた電子伝達は,Cyt.cヘムからCO_(X)の還元中心への電子伝達を容易にするタンパク質相互の高親和性Cyt.c-CO_(X)複合体から始まる。我々は従前,電極表面上の補因子-タンパク質親和性複合体が電気的に接続され,一体化された2次元バイオ電気触媒アッセイを獲得するために架橋され得ることを示してきた〔19-21〕。電極上に取り付けたCyt.c単分子層は,タンパク質相互親和性複合体(図解2B)を発生させるために相互反応する。得られた積層化されたアレイは,一体化され整列されたタンパク質積層化電極を得るために,親和性複合体をグルタミン酸ジアルデヒドと引き続いて架橋できるほど十分に安定である。マイクロ重量測定,石英-結晶-マイクロ天秤(QCM),分析は,ベースCyt.c単分子層上のCO_(X)の表面被覆程度が2×10^(-12)モルcm^(-2)であることを示している。
裸の金電極では,O_(2)の還元はおよそ-0.3V vs.SCEで起こる。多くの電気触媒およびバイオ電気触媒システムは,O_(2)の還元用の過剰電圧を減少させることが報告されてきた〔22-24〕。しかし,組織化された積層酵素システムはこの目的のためには決して使用されなかった。このシフトは,Cyt.cを使用した電極表面の修飾が酸素の還元に対する電子伝達バリアを誘導し,観察された過剰電圧を引き起こす結果になることを示している。一体化されたCyt.c|CO_(X)層の存在下で,O_(2)の還元に対応する電気触媒的カソード電流が観察される。酸素の還元は,およそ0.0V vs.SCEへと正方向にシフトされる。それは,2つのタンパク質が電極に取り付けられているとしても,O_(2)の電気化学的還元は容易化され,そして電子伝達バリアは取り除かれるのである。すなわち,CO_(X)への電子伝達カスケードは,H_(2)O_(2)の介在的な生成なしに,水への関連する4-電子還元プロセスに対して生じることが予想される。H_(2)O_(2)がバイオ燃料電池エレメントにおける酸化剤として干渉することがあるので,一体化されたCyt.c|CO_(X)積層化電極によるバイオ触媒化還元が,H_(2)O_(2)を生じないことを確かめることが重要である。このシステムにおけるH_(2)O_(2)の可能性のある生成が,回転するディスク-リング実験によってアッセイされた〔25〕。金-ディスク電極がCyt.c|CO_(X)アッセンブリによって修飾された。裸の金-リング電極上では,H_(2)O_(2)の酸化用の定電圧として+1.14Vの電圧が印加された。我々は,リング電極がディスク電極上で電圧を掃引し,およびO_(2)のバイオ触媒化還元の刺激をしても,電流を発生せず,H_(2)O_(2)が形成されないことを示すことを見出した。」

(g)図解(Scheme)2A,2B
図解 2A,2B
そして,66頁上部の図解2A,2Bには,上記記載(d),(e)に対応した,電子メディエータと共にGO_(X)単分子層を担持するアノードと,Cyt.c|CO_(X)層を担持するカソードの作成方法が図解的に説明されている。

(h)第67頁左欄下から2行?第68頁左欄6行)
「 再構成されたGO_(X)単分子層-電極の電位は,1mMのグルコース濃度で飽和する。すなわち,バイオ燃料電池性能は,1mMに対応するグルコース濃度で,空気で飽和された電極液を使用して調べられた。図1は,異なる外部負荷でのバイオ燃料電池の電流電圧挙動を示す。異なる負荷での電池の電力は図1(挿入図)に示されている。最大電力は,0.9kΩの外部負荷で4μWである。電気化学的発電器としての理想的電圧-電流関係は長方形である〔26〕。実験的電圧-電流プロットは長方形状からずれていて,充填率,f=(略),はおよそ40%に相当する。I_(cell)-V_(cell)曲線,図1,は,オームで測った電池-抵抗による低抵抗領域を含み,そして電極支持体における介在的電子伝達抵抗による,高い電流値が観察される高抵抗の領域を含む〔26〕。この高い抵抗は,低い介在電子伝達活動を表したCyt.c|CO_(X)-修飾電極での電子伝達による,高い電流値で観察されるかもしれない。
バイオ燃料電池エレメントの安定性は,48時間,1mMの一定量に電池中のグルコース濃度を維持するフローシステムを使用して調べられた。我々は,電池電位と電流がこの期間の間に変化しなかったことを見出した。バイオ燃料電池要素から抽出される電力は比較的低いことは書き留めれなければならない。バイオ燃料電池の性能を最善化するために,2つの電極における介在バイオ電気触媒変換が最適化されなければならない。以前述べたように,グルコースのバイオ電気触媒化酸化はおよそ600s^(-1)で進行する。酸素の還元活動がRDE実験で調べられた。Levich式にしたがって計算された理論的電流からの実験的電流の実質的な相違は,酸素のバイオ電気触媒化酸化が基質あるいはイオンの拡散によるよりもむしろ電子伝達により制限されることを示している。O_(2)のバイオ電気触媒化還元に対する回転速度は,およそ20s^(-1)であると見積もられた。この値は時間電流滴定により決定されたCyt.cの介在電子伝達速度に非常に近い。すなわち,我々は,一体化されたCyt.c|CO_(X)積層化電極によるO_(2)の還元速度がCyt.cへの電子伝達の最初の反応によって支配されると結論している。我々は,伝導性支持体上にヘムタンパク質のサイト-特異的カップリングと整列によって,Cyt.cと電極との間の電子移送伝達に到達することに成功したけれど,表面上のタンパク質設計は恐らく非-最適の立体形状である。特異的システイン残基の適当な遺伝学設計された突然変異体によってヘムタンパク質立体形状を変化させることが,界面の電子伝達の反応速度を改善するための方法であり得る。電池からの相対的に低い出力電力へのさらなる寄与は,アノードとカソードとの間に存在する低い電位差である。グルコースのバイオ電気触媒化酸化は,PQQ-電子メディエータの酸化還元-電位,pH7で-0.125V vs.SCEで起こる。これは,アノードとカソードとの間におよそ130mVだけの電位差を与える。より負の電位が表す電子メディエータの適用によって,電池から抽出可能な電力が増えることがあり得る。」

(i)図1
そして,第67頁左欄下部には,「図1 異なる外部負荷でのバイオ燃料電池の電流-電圧挙動。(挿入図)異なる負荷でのバイオ燃料電池から抽出される電力。バイオ触媒的カソードとアノード(およそ0.8cm^(2)幾何学的面積,粗さ因子およそ1.3)は,電極間同士の距離が5mmで,薄層電気化学的セル中に取り付けられた。」と説明された図1が示されている。

これらの記載および図面を勘案すると,刊行物1には,次の発明が記載されている。
「グルコースを燃料とするバイオ燃料電池を含む,システムであって,グルコースは,分子酸素の存在下でバイオ触媒酸化を受けることができ,該バイオ燃料電池は,電極の1つがアノードであり,他方がカソードである1対の電極を含有し,両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており,グルコースの存在下で,電極の1つに担持される酵素であるグルコースオキシダーゼは,グルコースが酸化される酸化反応を触媒することができ,そして該1対の電極の他方は,酸素が還元される反応を触媒できる酵素であるシトクロムc/シトクロムオキシダーゼ対をその表面に担持している,システム。」(以下,「刊行物1発明」という。)

3.対比・検討
(1)一致点・相違点
本願発明と刊行物1発明を対比すると,
ア.本願発明の「自己動力式バイオセンサー」について,本願の明細書【0017】に「検出器に電線によって連結された2つの酵素電極からなる生物燃料電池アセンブリーは,本アセンブリーにおいて生成した電圧および電流が試験される検体の定量および/または同定の指標となることから,分析用バイオセンサーとして使用されてもよいことが,本発明において見い出された。」と記載されており,自己動力式バイオセンサーとは,生物燃料電池としての機能を具備するバイオセンサーを包含するものと解される。
刊行物1発明の「グルコースを燃料とするバイオ燃料電池を含む,システム」と,本願発明の「自己動力供給式バイオセンサー,ならびに検体が酸化または還元されつつある間該バイオセンサーによって生成される電気シグナルを測定するための検出器を含んでなる,液体媒質中の検体を決定するシステム」とは,燃料電池を含むシステムである点で共通する。
イ.本願発明の「検体」は,本願の明細書【0017】に「検出器に電線によって連結された2つの酵素電極からなる生物燃料電池アセンブリーは,本アセンブリーにおいて生成した電圧および電流が試験される検体の定量および/または同定の指標となることから,分析用バイオセンサーとして使用されてもよいことが,本発明において見い出された。」と記載されており,「検体」が生物燃料電池アセンブリーの燃料ともなっていることが理解される。
他方,刊行物1発明の「グルコース」は,燃料であって,グルコースオキシダーゼという生物触媒の存在下で,分子酸素による酸化を受ける。刊行物1発明の「分子酸素」は,本願発明の「酸化剤」に相当することは明らかである。
そうすると,刊行物1発明の「グルコースは,分子酸素の存在下でバイオ触媒酸化を受けることができ,該バイオ燃料電池は,電極の1つがアノードであり,他方がカソードである1対の電極を含有し,両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており,グルコースの存在下で,電極の1つに担持される酵素であるグルコースオキシダーゼは,グルコースが酸化される酸化反応を触媒することができ,そして該1対の電極の他方は,酸素が還元される反応を触媒できる酵素であるシトクロムc/シトクロムオキシダーゼ対をその表面に担持している,システム」と,本願発明の「検体は,それぞれ酸化剤または還元剤の存在下で生物触媒酸化または還元を受けることができ,該バイオセンサーは,電極の1つがアノードであり,他方がカソードである1対の電極を含有し,両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており,検体の存在下で,電極の1つに担持される酵素は,検体がそれぞれ酸化または還元される酸化または還元反応を触媒することができ,そして該1対の電極の他方は,酸化剤または還元剤がそれぞれ還元または酸化される反応を触媒できる酵素をその表面に担持している,システム」とは,「燃料は,それぞれ酸化剤または還元剤の存在下で生物触媒酸化または還元を受けることができ,燃料電池は,電極の1つがアノードであり,他方がカソードである1対の電極を含有し,両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており,燃料の存在下で,電極の1つに担持される酵素は,燃料がそれぞれ酸化または還元される酸化または還元反応を触媒することができ,そして該1対の電極の他方は,酸化剤または還元剤がそれぞれ還元または酸化される反応を触媒できる酵素をその表面に担持している,システム」という点で共通する。

そうすると,両者は,次の点:
(一致点)
「燃料電池を含くむシステムであって,燃料は,それぞれ酸化剤の存在下でバイオ触媒酸化を受けることができ,該燃料電池は,電極の1つがアノードであり,他方がカソードである1対の電極を含有し,両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており,燃料の存在下で,電極の1つに担持される酵素は,グルコースがそれぞれ酸化される酸化反応を触媒することができ,そして該1対の電極の他方は,酸化剤がそれぞれ還元される反応を触媒できる酵素をその表面に担持している,システム。」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点)
燃料電池が,本願発明では「自己動力供給式バイオセンサー」として機能するのに対して,刊行物1発明では,燃料電池はかかる機能を具備しておらず,また,システムが,本願発明では「検体が酸化または還元されつつある間該バイオセンサーによって生成される電気シグナルを測定するための検出器」を含むものであるのに対して,刊行物1発明では,該検出器を具備しておらず,そしてその結果,燃料が,本願発明では「検体」であるのに対して,刊行物1発明では,検体ではない点。

(2)相違点についての検討
バイオ燃料電池を,バイオ燃料電池の電気シグナルを測定して,液体媒質中の燃料,すなわち,アノードで酸化される物質の存在量の検知するバイオセンサーとして利用することは,本願優先権主張日前に周知の事項である(例えば,
国際公開第01/004626号の第19?20頁の請求項4?5,第16?17頁の例4,第18頁の記載[翻訳文として拒絶理由通知の引用文献1:特表2003-504621号公報の第2頁の請求項4?5,第16?18頁の段落【0041】?【0044】の記載参照],

国際公開第00/03447号の第51?52頁の請求項28?30の記載[翻訳文として拒絶理由通知の引用文献2:特表2002-520032号公報の第4?5頁の請求項28?30の記載参照]

G. Kreysa, D. Sell & P. Kramer(当審注:「Kramer」の「a」には,上に「・・」が付されている。), "Bioelectorochemical fuel cells", Berichte der Bunsen-Gesellschaft, 1990年,vol.94 ,no.9, pp.1042?1045,特に,1044頁左欄本文下から6行?同頁右欄本文下から11行に「Bioanalytical Apprication of the Biofuel cell」(当審訳「バイオ燃料電池の生物学的分析適用」)とする欄に,グルコース濃度をバイオ燃料電池の電圧を測定して検出する旨が記載されている。

そうすると,刊行物1発明のグルコースを燃料とするバイオ燃料電池において,上記周知の事項を適用することにより,相違点記載の本願発明の如く構成することは,特段の創作力を要することなくなし得たことといえる。

そして,それによる効果も,刊行物1及び上記周知の事項から予測し得る範囲内のもので,格別顕著なものとは認められない。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-29 
結審通知日 2010-07-06 
審決日 2010-07-20 
出願番号 特願2003-523986(P2003-523986)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 榎本 吉孝柏木 一浩  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 竹中 靖典
秋月 美紀子
発明の名称 自己動力供給式(self-powered)バイオセンサー  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  
代理人 志賀 正武  

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