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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1227895
審判番号 不服2007-26930  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-02 
確定日 2010-12-02 
事件の表示 平成 9年特許願第315336号「液晶表示装置及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成11年6月2日出願公開、特開平11-148058〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この出願は、平成9年11月17日の特許出願であって、平成17年6月23日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成19年8月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月2日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年10月30日付けで手続補正書が提出され、平成22年5月28日付けで審尋が通知されたところ、同年7月28日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成19年10月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年10月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正
平成19年10月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前に、
「互いに対向する一対の基板の端子間に配置される異方導電性接着剤を介して接着された液晶表示装置であって、
前記異方導電性接着剤は、膜状の絶縁性接着剤と、当該絶縁性接着剤中に含まれる複数の導電粒子と、を備え、
前記絶縁性接着剤は、前記導電粒子の粒径よりも1?5μm大きい厚さを有し、
前記異方導電性接着剤が前記一対の基板の一方の端子側の表面に貼着され、前記一対の基板の端子が対向する向きで重ね合わせて前記異方導電性接着剤を挟み込み、前記異方導電性接着剤により前記一対の基板そのものを互いに接着しないことを特徴とする液晶表示装置。」
であったものが、
「互いに対向する一対の基板の端子間に配置される異方導電性接着剤を介して接着された液晶表示装置であって、
前記異方導電性接着剤は、膜状の絶縁性接着剤と、当該絶縁性接着剤中に含まれる複数の導電粒子と、を備え、
前記導電粒子の粒径は3μm以上10μm以下であり、 前記絶縁性接着剤は、前記導電粒子の粒径よりも1?5μm大きい厚さを有し、
前記異方導電性接着剤が前記一対の基板の一方の端子側の表面に貼着され、前記一対の基板の端子が対向する向きで重ね合わせ、前記端子が形成されていない領域には前記異方導電性接着剤が充満しないように前記異方導電性接着剤を挟み込み、前記異方導電性接着剤により前記一対の基板そのものを互いに接着しないことを特徴とする液晶表示装置。」
と補正された(審決注:下線は補正部分を示す。)。
上記補正は、「前記導電粒子の粒径は3μm以上10μm以下であり」と特定し、「前記異方導電性接着剤を挟み込み」を「前記端子が形成されていない領域には前記異方導電性接着剤が充満しないように前記異方導電性接着剤を挟み込み」と補正するものであり、これは、導電性粒子の粒径を限定し、異方導電性接着剤を挟み込む態様を限定するものである。さらに、本件補正は、請求項2及び3が直接または間接に請求項1を引用することから、補正前の請求項2及び3に同様の限定を付す補正事項からなる。したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。
そこで、補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-84718号公報(平成17年6月23日付け拒絶理由通知書における引用文献1、以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1a)「接着剤成分と導電性粒子とよりなる導電性接着シートにおいて、接着剤成分中に平均粒径が1?50μmで、粒子の最大径に対する最小径の粒径比が0.5?1.0である導電性粒子が0.1?10体積%含有され、かつ接着剤層は前記導電性粒子の平均粒径の110%以上の厚みを有することを特徴とする導電異方性接着シート。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「また本発明における導電性接着シートは接着剤の貫層方向と沿層方向で導電性に異方性を有し、接着剤配合によっては貼付作業を感熱下あるいは感圧下で行なうことができるため、すぐれた貼付作業性と高接着や、高導電性を併せて提供し、さらにその接着シートはかなりの透明性を有するものである。」(2頁右上欄9?15行)
(1c)「本発明における導電性充填剤は直径が1?50μmの金属性粒子であり 粒子径の最大径に対する最小径の粒径比が0.5?1.0であり接着剤中に0.1?10体積%含有するものとする。粒子径については最大径で1?50μmが適当である。1μm以下では多量の導電性充填剤を必要とするため接着力の低下が大きい。50μm以上では粘着フィルム層の厚みとの関係から被着体になじんだ平滑な接着面が得られないため、やはり充分な接着性が得られない。
形状については、最大径に対する最小径の比(以下粒径比という)が0.5?1.0程度とする。この範囲外であると導電性と接着性のバランスがくずれる。この範囲を満たす例としてほゞ球状であるものが代表的であるが上記の条件を満足するものであれば特に限定されない。また粒子表面に突起物や凹凸があっても良い。
・・・・・・・・・・
導電性充填剤がたとえば球状であると貼付時の加熱あるいは加圧により接着シートは流動化し、球状粒子の1点が被着面に接した状態で存在できる。
・・・・・・・・・・
これら導電性金属充填剤としては、下記に示すようなものがあり、その製法は問わない。
金属としては、Ni,Fe,Cr,Co,Al,Sb,Mo Cu,Ag,Pt,Au等がありこれらの単体あるいは合金や酸化物などでも良くこれらの2種以上を複合して用いることも可能である。
また導電性を示さない、たとえばガラスやプラスチック等にこれら金属を被覆したものでも良い。
接着剤中に占める導電性充填剤量は0.1?10体積%が適当である。
0.1体積%以下では満足する導電性が得られず、10体積%以上では接着力の低下が大きく接着シートの透明性も得られない。」(2頁左下欄10行?3頁左上欄12行)
(1d)「この時上記導電性充填剤および添加量の場合に接着シートの厚み方向すなわち貫層方向にのみ導電性を示す。すなわち接着シートの面方向(沿層)には絶縁性あるいは貫層方向に較べ数桁高い抵抗を示す導電異方性の接着シートが得られる。導電異方性であると、たとえば液晶パネルの入力端子を電子回路の出力端子と結合するコネクタ等の細かい部分での接続を接着シートを用いて簡単に面接着できる為に、接続の信頼性や作業性で非常に有利となる。また面方向に導電性を得るには、金属箔等を接着面に貼付ければ良い。」(3頁左上欄13行?右上欄4行)
(1e)「次に接着剤配合について説明するが、基本的には通常の接着シート類に用いられている配合がそのまゝ適用できる。
通常の接着シート類の配合は、凝集力を付与するポリマーと、その他必要に応じて用いる粘着付与剤、粘着性調整剤、老化防止剤等からなっている。
まずポリマー種は、その目的とする貼付方法すなわち感熱あるいは感圧形により若干の配慮が必要である。すなわち、感熱形は貼付時の加熱により接着シートを軟化させて被着面に流動させて接着する方法であり、常温状態においては、比較的硬いポリマーが用いられる。一方感圧形は、常温状態でもベタツキを感じるような比較的柔かい接着シートであり、貼付時の加圧により被着面に貼付ける。
感熱形に用いられるポリマーとしては各種のものが適用できるが、加熱時に熱可塑性を示すものが通常もちいられる。これらポリマー種としては・・・スチレン-ブタジエン共重合体・・・等があり、単独あるいは2種以上併用して用いられる。感圧形に用いるポリマーとしては、一般に常温でも粘着性を示す物が使用される。
これらポリマーとしては・・・ブタジエン-スチレン共重合体・・・などが適用可能であり、単独あるいは2種以上併用して用いられる。
その他必要に応じて感熱形および感圧形に関係なく粘着付与剤や一般的に使用される可塑剤 架橋剤、老化防止剤、酸化防止剤等を用いることができる。粘着付与剤としては、たとえばロジン、水添ロジン、エステルガム、マレイン酸変性ロジン等のロジン系樹脂や、石油樹脂、キシレン樹脂、クマロン-インデン樹脂等がある。これら粘着付与剤は、単独または2種以上併用して用いて良い。」(3頁右上欄5行?右下欄10行)
(1f)「接着シートの製造方法としては、ポリマーおよびその他必要に応じて使用する添加剤からなる接着剤組成物を溶剤に溶解し、あるいは熱溶融させて液状とした後に、導電性充填剤を通常の撹拌等の方法により混合し導電性接着剤組成物を得る。
・・・・・・・・・・
上記導電性接着剤組成物を紙やプラスチックフィルム等に必要に応じて剥離処理を行なったセパレータ上に、ロールコーター等により塗布乾燥するかあるいはホットメルトコーティングすることで導電性接着シートが得られる。常温で粘着性を示さない感熱形の場合にはセパレータを用いずに接着層のみで巻重することも可能である。」(3頁右下欄11行?4頁左上欄7行)
(1g)「この時接着シートの厚みは使用した導電性充填剤の粒径および接着シートの特性を考慮して相対的に決定する。
すなわち接着剤により導電性充填剤を充分に保持するためには導電性充填剤の粒径の110%以上を最低必要とする。110%以下であると導電性粒子が接着剤で保護されない為に酸化あるいは腐食等により導電性に劣化を生じる。また接着シートの特性上5?100μmの厚みが必要である。
5μm以下では充分な接着性が得られず、100μm以上では充分な導電性を得る為に多量の導電性充填剤の混合を必要とすることから実用的でない。」(4頁左上欄8行?右上欄1行)
(1h)「得られた接着シートを用いて被着体を接着する方法としては、次のような一般的な設備、方法が使用できる。感熱形の場合には、被着体Aに接着フィルムを仮貼付した状態でセパレータのある場合にはセパレータを剥離し、その面に被着体Bをホットプレスあるいは加熱ロール等で貼付ければ良い。
接着作業時間短縮のためには加熱ロール方式が有利である。
また感圧形においても、ロール間で圧着する等の通常の貼付方法が採用できる。」(4頁右上欄14行?左下欄4行)
(1i)「以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
接着剤の配合比は固形分あたりの表示であり、結果はいずれも第1表に示した。また金属粒子の粒径は、走査形電子顕微鏡により粒子10ケ以上のそれぞれ最大部分と最小部分の粒径を観察し、その平均値から粒径比を求めた。
また粒径の表示は、粒子の最大部分における平均粒子径で表示した。」(4頁左下欄5?13行)
(1j)「実施例1?2
エチレン-酢酸ビニル共重合体(・・・)と、ロジン系粘着付与剤(・・・軟化点70℃)を各々トルエンに溶解した。
上記エチレン-酢酸ビニル共重合体100部と粘着付与剤100部を混合し、この溶液に銀コートガラスビーズ(・・・粒径45μmの球状、粒径比0.95)の含量を変えて撹拌により混合し接着剤配合液をえた。この配合液をバーコーターによりセパレータ(ポリエチレンテレフタレートフィルム25μm上にシリコン処理したもの)上に乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布し、120℃-3分乾燥してトルエンを除去して接着シートを得た。得られた接着シートで金属板(SUS-430BA 500μm厚)と銅箔35μm厚を接着した。すなわちSUS-430BA上に接着コートを貼付け後セパレータを剥離した面に銅箔をヒートロール(120℃に加熱)で貼付けた。この物の特性を第1表に示す。」(4頁左下欄14行?右下欄17行)
(1k)「実施例3?5
実施例 1?2と同様であるが使用材料および塗布量を変え、製法もホットメルトコーターによった。
すなわち、スチレン-ブタンジエンのブロック共重合体(・・・以下SBRと略記)を使用し、芳香族系粘着付与剤(・・・軟化点150℃)を用いた。両者の配合比はSBR100部と粘着付与剤50部とした。導電性充填剤としては、ニッケル粉(・・・平均粒径4.5μmの球状で粒子表面は微細な凹凸に覆われている。粒径比0.70)を用いた。
ホットメルトコーター付属の溶融混合装置にSBRおよび粘着付与剤を投入後加熱溶融させた。この中に導電性充填剤を添加混合後、ホットメルトコーターにより塗布厚を変えた試料を得た。評価は実施例1?2と同様に行なったが貼付法はホットプレス(被着体温度160℃、圧力2kg/cm^(2)、時間5秒)により行なった。得られた接着シートは、いずれもかなりの透明性を有していた。
この結果を第1表に示したが、いずれも高接着力と低抵抗の特性を有していた。
また沿層方向の抵抗は貫層方向に比べて数ケタ高く、導電性に異方性を有していた。」(5頁左上欄11行?右上欄18行)
(1L)第1表には、実施例3につき、「導電性充填剤の含量(体積%)」が「2」、「接着フィルムの厚み(μm)」が「5」、「抵抗(Ω-cm)」は「貫層」が「4×10^(-3)」で「沿層」が「5×10^(8)」、「接着力(kg/19mm)」が「1.7」、「全光線透過率(%)」が「85」であることが記載されている。また、実施例1につき、同じ項目が、順に「0.1」、「50」、「1×10^(4)」、「3×10^(8)」、「4.5」、「70」であり、実施例2につき、同じ項目が、順に「10」、「50」、「5×10^(-4)」、「4×10^(6)」、「3.5」、「40」であることが記載されている。(6頁右上欄)

(3)引用例1に記載された発明
引用例1には、その特許請求の範囲に、「接着剤成分と導電性粒子とよりなる導電性接着シートにおいて、接着剤成分中に平均粒径が1?50μmで、粒子の最大径に対する最小径の粒径比が0.5?1.0である導電性粒子が0.1?10体積%含有され、かつ接着剤層は前記導電性粒子の平均粒径の110%以上の厚みを有することを特徴とする導電異方性接着シート。」(摘示(1a))が記載されている。
その実施例3には、「スチレン-ブタンジエンのブロック共重合体(・・・以下SBRと略記)」を「100部」と「芳香族系粘着付与剤」を「50部」と「導電性充填剤」として「ニッケル粉(・・・平均粒径4.5μmの球状で粒子表面は微細な凹凸に覆われている。粒径比0.70)」を「2」体積%用い、「ホットメルトコーター付属の溶融混合装置にSBRおよび粘着付与剤を投入後加熱溶融させ・・・この中に導電性充填剤を添加混合後、ホットメルトコーターにより塗布厚を変えた試料を得た」ことが記載され、ここで得られた接着シートの厚み、すなわち第1表の「接着フィルムの厚み」は、「5」μmである(摘示(1k)(1L))。ここで、上記スチレン-ブタジエンのブロック共重合体と芳香族系粘着付与剤は「接着剤」の成分であり(摘示(1e))、上記ニッケル粉は「導電性粒子」である(摘示(1c))。また、上記接着シートの厚みの、導電性粒子の平均粒径に対する比(以下、「厚み比」ということがある。)は、111%と計算される。
また、その実施例1及び2には、「エチレン-酢酸ビニル共重合体(・・・)」を「100部」と「ロジン系粘着付与剤」を「100部」と「銀コートガラスビーズ(・・・粒径45μmの球状、粒径比0.95)」を「0.1」体積%又は「10」体積%用い、「エチレン-酢酸ビニル共重合体・・・と、ロジン系粘着付与剤・・・を各々トルエンに溶解し・・・混合し、この溶液に銀コートガラスビーズ・・・の含量を変えて撹拌により混合し接着剤配合液をえ・・・この配合液をバーコーターによりセパレータ(ポリエチレンテレフタレートフィルム25μm上にシリコン処理したもの)上に乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布し、120℃-3分乾燥してトルエンを除去して接着シートを得た」ことが記載され、ここで得られた接着シートの厚み、すなわち第1表の「接着フィルムの厚み」は、「50」μmである(摘示(1j)(1L))。ここで、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体とロジン系粘着付与剤は「接着剤」の成分であり(摘示(1e))、上記銀コートガラスビーズは「導電性粒子」である(摘示(1c))。また、厚み比は、111%と計算される。
そして、引用例1の導電異方性接着シートは、「接着シートの面方向(沿層)には絶縁性あるいは貫層方向に較べ数桁高い抵抗を示す導電異方性の接着シート」であって「たとえば液晶パネルの入力端子を電子回路の出力端子と結合するコネクタ等の細かい部分での接続を接着シートを用いて簡単に面接着できる為に、接続の信頼性や作業性で非常に有利となる」(摘示(1d))というものである。
そうすると、引用例1には、その実施例3に対応するものとして、
「接着剤成分と導電性粒子とよりなる導電性接着シートにおいて、接着剤成分中に導電性粒子として平均粒径が4.5μmで、粒子の最大径に対する最小径の粒径比が0.7であるニッケル粉が2体積%含有され、かつ接着剤層は前記導電性粒子の平均粒径の111%に相当する5μmの厚みを有する導電異方性接着シートであって、液晶パネルの入力端子を電子回路の出力端子と結合するコネクタ等の細かい部分での接続のために面接着できる、上記導電異方性接着シート」
の発明(以下、「引用発明1」という。)、及び、その実施例1及び2に対応するものとして、
「接着剤成分と導電性金属粒子よりなる導電性接着シートにおいて、接着剤成分中に導電性粒子として平均粒径が45μmで、粒子の最大径に対する最小径の粒径比が0.95である銀コートガラスビーズが0.1体積%または10体積%含有され、かつ接着剤層は前記導電性粒子の平均粒径の111%に相当する50μmの厚みを有する導電異方性接着シートであって、液晶パネルの入力端子を電子回路の出力端子と結合するコネクタ等の細かい部分での接続のために面接着できる、上記導電異方性接着シート」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「導電異方性接着シート」は、本願補正発明における「異方導電性接着剤」に相当する。引用発明1において上記導電異方性接着シートを構成する一方の成分の「接着剤成分」は、シート状のものであるから、本願補正発明の「膜状の絶縁性接着剤」に相当し、もう一方の成分の「導電性粒子」は、接着剤成分中に複数個が「含有され」るものであって、本願補正発明の「複数の導電粒子」に相当する。また、引用発明1における「接着剤層・・・の厚み」は、本願補正発明における「絶縁性接着剤・・・厚さ」に相当し、引用発明1における「平均粒径」は、本願補正発明における「粒径」に相当する。よって、両者は、
「膜状の絶縁性接着剤と、当該絶縁性接着剤中に含まれる複数の導電粒子と、を備えた異方導電性接着剤」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明は、導電粒子の粒径と膜状の絶縁性接着剤の厚さの関係が、「前記導電粒子の粒径は3μm以上10μm以下であり、前記絶縁性接着剤は、前記導電粒子の粒径よりも1?5μm大きい厚さを有し」と特定されているのに対し、引用発明1は、導電性粒子の平均粒径は4.5μmであって上記の特定を満足するものの、接着シートの厚みは5μmであって上記の特定を満足しない点
(相違点2)
本願補正発明は、上記異方導電性接着剤が、「互いに対向する一対の基板の端子間に配置される異方導電性接着剤を介して接着された液晶表示装置」に、「前記異方導電性接着剤が前記一対の基板の一方の端子側の表面に貼着され、前記一対の基板の端子が対向する向きで重ね合わせ、前記端子が形成されていない領域には前記異方導電性接着剤が充満しないように前記異方導電性接着剤を挟み込み、前記異方導電性接着剤により前記一対の基板そのものを互いに接着しない」態様で使用されている「液晶表示装置」の発明であるのに対し、引用発明1は、その導電異方性接着シートが、「液晶パネルの入力端子を電子回路の出力端子と結合するコネクタ等の細かい部分での接続のために面接着できる」ものであることが示されるものの、具体的に液晶表示装置に使用した例は示されてなく、「面接着」したときに上記の態様になるか否かが明示されていない点

(5)判断
(5-1)相違点1について
引用例1には、「導電性粒子の平均粒径が4.5μmで厚み5μm(厚み比111%)」とした引用発明1の導電異方性接着シートのほかに、「導電性粒子の平均粒径が45μmで厚み50μm(厚み比111%)」とした引用発明2の導電異方性接着シートも記載され(上記(3))、いずれについても、実際に、金属板(SUS-430BA 500μm厚)と銅箔35μm厚を接着した際の、接着力、貫層方向及び沿層方向の抵抗、そして、シートの全光線透過率が測定されている(摘示(1j)(1k)(1L))。
そして、引用例1の特許請求の範囲に記載された導電異方性接着シートは、導電性粒子の平均粒径は1?50μmとするものであり、厚み比を110%以上とするものである(摘示(1a))ところ、引用発明1と引用発明2は、導電性粒子の平均粒径は4.5μm及び45μmと異なるが、厚み比を111%とした点で共通するものであり、具体的に性能も試験されているのであるから、厚み比111%の導電異方性接着シートについて、少なくとも、導電性粒子の平均粒径が4.5μmと45μmの間の任意の粒径であるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。すなわち、「導電性粒子の平均粒径が9μmで厚み10μm(厚み比111%)」、「導電性粒子の平均粒径が10μmで厚み11μm(厚み比111%)」、「導電性粒子の平均粒径が20μmで厚み22μm(厚み比111%)」、「導電性粒子の平均粒径が30μmで厚み33μm(厚み比111%)」、「導電性粒子の平均粒径が40μmで厚み44μm(厚み比111%)」のいずれとすることも、当業者が容易に想到し得る。
そうすると、引用発明1において、「導電性粒子の平均粒径が9μmで厚み10μm(厚み比111%)」、「導電性粒子の平均粒径が10μmで厚み11μm(厚み比111%)」等として、「前記導電粒子の粒径は9?10μm以下であり、前記絶縁性接着剤は、前記導電粒子の粒径よりも1μm大きい厚さを有し」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるから、相違点1に係る本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(5-2)相違点2について
引用発明1における「導電異方性接着シート」が「液晶パネルの入力端子を電子回路の出力端子と結合するコネクタ等の細かい部分での接続のために面接着できる」の点は、引用例1の特許請求の範囲に記載された導電異方性接着シートの用途に関して、唯一、挙げられたものである(摘示(1d))。そして、接着方法については、「接着剤配合によつては貼付作業を感熱下あるいは感圧下で行なうことができ」る(摘示(1b))とされ、「感熱形は貼付時の加熱により接着シートを軟化させて被着面に流動させて接着する方法であり・・・一方感圧形は、常温状態でもベタツキを感じるような比較的柔かい接着シートであり、貼付時の加圧により被着面に貼付ける」(摘示(1e))とされ、「感熱形の場合には、被着体Aに接着フィルムを仮貼付した状態でセパレータのある場合にはセパレータを剥離し、その面に被着体Bをホットプレスあるいは加熱ロール等で貼付ければ良い。接着作業時間短縮のためには加熱ロール方式が有利である。また感圧形においても、ロール間で圧着する等の通常の貼付方法が採用できる」(摘示(1h))とされている。
ここで、引用発明1の「液晶パネル」は、本願補正発明の「液晶表示装置」に相当し、引用発明1における「液晶パネルの入力端子」と「電子回路の出力端子」は「導電異方性接着シート」により「接続のために面接着」されるのであるから、上記の両端子は、それぞれ互いに対抗する一対の基板の上に設けられ、その間に配置される「導電異方性接着シート」を介して接着されるものといえる。そして、引用発明1の上記「面接着」についての、引用例1の摘示(1h)の「被着体Aに接着フィルムを仮貼付した状態で・・・その面に被着体Bをホットプレスあるいは加熱ロール等で貼付け」る操作は、本願補正発明における「前記異方導電性接着剤が前記一対の基板の一方の端子側の表面に貼着され・・・前記異方導電性接着剤を挟み込み」との操作と同じであり、また、その操作は、端子間の接続を目的としたものだから、当然、「前記一対の基板の端子が対向する向きで重ね合わせ」るものである。
そこで、その際、「前記端子が形成されていない領域には前記異方導電性接着剤が充満しないように前記異方導電性接着剤を挟み込み、前記異方導電性接着剤により前記一対の基板そのものを互いに接着しない」態様になるか否かを、以下に検討する。
まず、「前記端子が形成されていない領域には前記異方導電性接着剤が充満しないように前記異方導電性接着剤を挟み込み、前記異方導電性接着剤により前記一対の基板そのものを互いに接着しない」態様になるか否かは、それぞれ端子が設けられた一対の基板間に導電異方性接着シートが挟み込まれて感熱下あるいは感圧下で接着させられた後の、両基板間の体積と、導電異方性接着シートの体積との、大小関係によると解される。引用発明1の導電異方性接着シート、引用発明2の導電異方性接着シート、及び同様に厚み比111%の導電異方性接着シートであって導電性粒子の平均粒径が4.5μmと45μmの間の任意の粒径である導電異方性接着シート(以下、「厚み比111%の導電異方性接着シート」という。)では、感熱下あるいは感圧下で接着された後に両端子間の電気的な接続が達成されるためには、その導電性粒子が両方の端子に接触する必要があり、そのために、端子間で、感熱下あるいは感圧下でシートの厚みが11%以上小さくされる必要があり、その小さくなった厚み分の体積の接着剤成分は、端子が形成されていて上記のように導電異方性接着シートにより接着された端子間の空間(以下、「端子間空間」という。)から、端子が形成されていないことによって端子間空間よりも基板の単位面積当たりの体積が大きくなっている基板間の空間(以下、「無端子基板間空間」という。)へと、流動するものと解される。この無端子基板間空間にも、導電異方性接着シートは挟み込まれているが、感熱下あるいは感圧下でシートの厚みが11%以上小さくされるように接着される前の段階では、両方の端子の高さに相当する高さの空間があるはずで、この空間が、接着後、高さが上記の11%相当分程度小さくなったうえで上記の流動してきた接着剤成分により充填されるか否かが問題になると解される。
また、こうして流動してきた接着剤成分により無端子基板間空間が充満されれば、両基板間の接着が強固になることは予想されるが、端子間の電気的な接続の目的からすれば、端子間で接着されれば足り、無端子基板間空間に接着剤が充満されるかどうかは、本質的な事項ではないと解される。
さて、上記(5-1)で検討したとおり、「導電性粒子の平均粒径が9μmで厚み10μm(厚み比111%)」、「導電性粒子の平均粒径が10μmで厚み11μm(厚み比111%)」等とした導電異方性接着シートの構成とすることは当業者が容易に想到し得るところ、このものでは、感熱下あるいは感圧下でシートの厚みが1μm程度小さくされて接着されることが、想定される。この、端子間空間にあった厚み1μm分の接着剤成分によって、無端子基板間空間が充満されるか否かは、基板の面積に占める端子の面積の割合、端子の高さ等の条件により、一概にはいえないが、厚み1μm分ということから、充満されないこととなる蓋然性が高いと解される。そして、上記のとおり、無端子基板間空間に接着剤が充満されるかどうかは、電気的な接続と比べて、本質的な事項ではないから、充満されないこととなっても良しとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そうすると、引用発明1において、相違点2に係る本願補正発明の構成を備えた液晶表示装置とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(5-3)本願補正発明の効果について
本願の本件補正後の明細書(以下、「本願明細書」という。)には、発明の効果として、「本発明によれば、絶縁性接着剤の厚さが導電粒子の粒径と略同じにされているので、端子同士を確実に接着できるから、充分な接着強度を確保できる。従って、端子に応じて厚さ等の異なる複数種類の異方導電性接着剤を用意しなくてもよくなるから、その製造や管理を容易化できるうえ、端子の種類に拘わらず異方導電性接着剤を共通化できるので、接着条件を共通化できる。」(段落【0053】)、「本発明の液晶表示装置および電子機器によれば、液晶パネルと半導体素子との接着に本発明の異方導電性接着剤を用いたことで、端子の種類に拘わらず異方導電性接着剤およびその接着条件を共通化できるから、製造工程を単純化できるうえ、コストダウンを達成できる。」(段落【0054】)と記載されている。
しかし、「絶縁性接着剤の厚さが導電粒子の粒径と略同じにされている」のは、引用発明1及びそれから容易に想到し得る「厚み比111%の導電異方性接着シート」の発明でも、同じであるから、「端子同士を確実に接着できるから、充分な接着強度を確保できる」との点は、同様の効果を奏すると解され、格別な効果とはいえない。また、「端子に応じて厚さ等の異なる複数種類の異方導電性接着剤を用意しなくてもよくなるから、その製造や管理を容易化できるうえ、端子の種類に拘わらず異方導電性接着剤を共通化できるので、接着条件を共通化できる」及び「端子の種類に拘わらず異方導電性接着剤およびその接着条件を共通化できるから、製造工程を単純化できるうえ、コストダウンを達成できる」との点は、引用発明1及びそれから容易に想到し得る「厚み比111%の導電異方性接着シート」の発明において、複数種類の異方導電性接着剤を用意しなければならなかったというものではないから、これも、格別な効果とはいえない。

(5-4)まとめ
本願補正発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の手続補正書の「(4)本願発明の説明」の項で、(i)「端子を相互に接続するだけで充分な接着強度が得られ、接着する端子に応じて異方導電性接着剤を複数種類用意しなくてもよく、製造や管理を容易にすることが可能となる」こと、(ii)「基板間に異方導電性接着剤を充填しない構成ですので、異方導電性接着剤が基板間から流れ出すのを防ぐことができ」ること、(iii)「端子が形成されていない領域には、異方導電接着剤が形成されていない空間を有することになり・・・当該空間を有することにより、絶縁性接着材の使用量を空間の分だけ少なくすることができ」ること、(iv)「基板間に空間を有することにより、接着剤に起因する応力の発生を低減することができ、端子間の接続不良を低減することができ」ることを説明し、「(5)引用文献の説明及び引用文献と本願発明との対比」の項で、「本願請求項1に係る液晶表示装置では、『前記端子が形成されていない領域には前記異方導電性接着剤が充満させないように』異方導電性接着剤を挟み込んでいることにより、端子が形成されていない領域には、異方導電接着剤が形成されていない空間を有することから、従来のような接着剤起因による過剰な応力の発生を未然に防ぐことができ、結果的に端子の接続不良を低減することができます。上記の構成及び効果は、第1引用文献及び第2引用文献には記載も示唆もないと思料いたします。」と主張している。
また、平成22年7月28日付けの回答書においても、同旨の主張をしている。
しかし、上記(4)(i)の点は、上記(5-3)で検討したとおり、格別な効果とはいえない。同(ii)及び(iii)の点は、基板間に異方導電性接着剤を充填しない構成であれば必然の作用・効果と解されるところ、上記(5-2)で検討したとおり、そのような構成とすることは当業者が容易に想到し得ることであるから、これらも格別な効果とはいえない。同(iv)の点は、本願明細書に記載された効果ではないうえ、具体的にどの程度、「接着剤に起因する応力の発生を低減することができ、端子間の接続不良を低減することができ」るものなのかが全く不明であるから、これも格別な効果とはいえない。上記(5)の主張及び回答書における主張についても、同様のことがいえる。
したがって、請求人の主張は、採用できない。

(7)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成19年10月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年8月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「互いに対向する一対の基板の端子間に配置される異方導電性接着剤を介して接着された液晶表示装置であって、
前記異方導電性接着剤は、膜状の絶縁性接着剤と、当該絶縁性接着剤中に含まれる複数の導電粒子と、を備え、
前記絶縁性接着剤は、前記導電粒子の粒径よりも1?5μm大きい厚さを有し、
前記異方導電性接着剤が前記一対の基板の一方の端子側の表面に貼着され、前記一対の基板の端子が対向する向きで重ね合わせて前記異方導電性接着剤を挟み込み、前記異方導電性接着剤により前記一対の基板そのものを互いに接着しないことを特徴とする液晶表示装置。」

(2)原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1?3に係る発明は、本願出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特開昭60-84718号公報(「引用例1」に同じ。以下、「引用例1」という。)
2.特開昭61-77279号公報
3.特開昭62-58515号公報

(3)引用例1の記載事項及び引用例1に記載された発明
引用例1の記載事項及び引用例1に記載された発明は、それぞれ、前記2.(2)及び2.(3)に記載したとおりである。

(4)対比・判断
本願発明は、前記2.(1)に記載したとおり、本願補正発明から、「前記導電粒子の粒径は3μm以上10μm以下であり、」との構成を省き、「前記異方導電性接着剤を挟み込み」についての「前記端子が形成されていない領域には前記異方導電性接着剤が充満しないように」との構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項をすべて含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(5)に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)結論
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2及び3に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-04 
結審通知日 2010-10-05 
審決日 2010-10-21 
出願番号 特願平9-315336
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之中村 浩  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
発明の名称 液晶表示装置及び電子機器  
代理人 須澤 修  
代理人 宮坂 一彦  
代理人 上柳 雅誉  

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