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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C23C |
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管理番号 | 1227910 |
審判番号 | 不服2008-9430 |
総通号数 | 133 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-04-16 |
確定日 | 2010-12-02 |
事件の表示 | 特願2002-137330「ケイ素酸化膜」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月19日出願公開、特開2003-328132〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は、平成14年5月13日の出願であって、平成19年10月3日付けの拒絶理由通知書が送付され、同年11月20日付けで手続補正がされ、平成20年3月11日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、同年4月16日に審判請求がされたものであり、平成22年6月28日付けで審尋を送付したところ、同年8月27日付けで回答書が提出されたものである。 第2 本件発明について I.本件発明 本件出願に係る発明は、平成19年10月3日付け手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものと認められる。 「プラズマCVD法によりプラスチック基材の表面に形成されたケイ素酸化 膜において、 前記ケイ素酸化膜は、プラスチック基材との界面側に位置する第一層と、第一層上の第二層とからなる2層構造を有しており、該第一層には、メチル基及びメチレン基が存在しており、 前記第一層について測定した第1の赤外吸収スペクトルは、波数が1000?1300cm^(-1)の領域にSiOに由来する赤外吸収ピークを有し、且つ波数が2800?3000cm^(-1)の領域にメチル基に由来する赤外吸収ピークとメチレン基に由来する赤外吸収ピークとを有しており、 前記第2層について測定した第2の赤外吸収スペクトルは、波数が845?833cm^(-1)におけるSiCH_(3)に由来する赤外吸収ピークが実質上ゼロであり、波数が1215乃至1250cm^(-1)の領域に吸収ピークを有しているとともに、該第2の赤外吸収スペクトルにおいて、下記式(1): Ri=A_(1)/A_(2)×100 …(1) 式中、A_(1)は、波数1215乃至1250cm^(-1)の範囲の吸光度の 面積を示し、 A_(2)は、波数985乃至1250cm^(-1)の範囲の吸光度の面 積を示す、 で定義される吸光度比が1%以上となっていることを特徴とするケイ素酸化膜。」 II.原査定の理由の概要 原査定の本件発明に対する拒絶の理由は、 「本件発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開平08-291225号公報」 というものである III.刊行物及びその記載事項 刊行物1には、次の事項が記載されている。 (1a)【特許請求の範囲】 「【請求項1】 プラスチック材に無機薄膜を被覆した包装材において、該プラスチック材が環状オレフィンを30モル%以上含有する環状オレフィン共重合体で形成されていることを特徴とする、ガス遮断性に優れた包装材。 ・・・(中略)・・・ 【請求項4】 プラスチック材に被覆した無機薄膜が、低温プラズマ法により有機シリコン化合物モノマーをプラズマとなし、このプラズマでプラスチックス材を処理して表面に有機シリコン化合物重合体の被膜を形成し、ついでこの有機シリコン化合物重合体の被膜上にシリコン酸化物膜を被覆した無機薄膜である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」 (1b)【0020】 「実施例2 プラスチック材に環状ポリオレフィン含有量を30、32、33モル%に調整した三井石油化学株式会社製のアペルを使用し、射出成形したプレートに2軸延伸を行い厚み300μmのシートを作製した。各シートは図1の試料用治具を使用して、高周波プラズマCVD装置内の高周波電極とアース電極に設置した。真空チャンバー内にヘキサメチルジシロキサンを真空度8.0×10^(-3)3torr導入し、高周波出力を100Wで1分間反応させ、アース電極と向い合う基板表面に約100Åの有機ケイ素化合物被膜を作製した。続いてヘキサメチルジシロキサンを真空度1.0×10^(-3)torr、と酸素ガスを真空度2.0×10^(-3)torrを混入し、高周波出力を200Wで10分間反応させ、基板表面に約700Åのシリコン酸化物膜を作製した。」 (合議体注:上記摘示事項において、「ヘキサメチルジシロキサンを真空度8.0×10^(-3)3torr」は、「ヘキサメチルジシロキサンを真空度8.0×10^(-3)torr」の誤記と認められる。) IV.当審の判断 [1]刊行物1に記載された発明 刊行物1の摘示(1a)の記載によれば、刊行物1には、「プラズマ法によりプラスチック材の表面に被覆した無機薄膜であって、前記無機薄膜はプラスチック材の表面に形成された有機シリコン化合物重合体の被膜と、該有機シリコン化合物重合体の被膜上にシリコン酸化物膜を被覆した無機薄膜」が記載されているといえる。そして、刊行物1の摘示(1b)には、その実施例として、前記「プラズマ法」は、高周波プラズマCVDであること、前記「有機シリコン化合物重合体膜」は、約100Åの有機ケイ素化合物被膜であること、前記有機ケイ素化合物の被膜上に被覆する「シリコン酸化物膜」は、前記有機ケイ素化合物被膜を作製した後、続いてヘキサメチルジシロキサンを真空度1.0×10^(-3)torr、と酸素ガスを真空度2.0×10^(-3)torrを混入し、高周波出力を200Wで10分間反応させることにより作製した、約700Åのシリコン酸化物膜であることが記載されている。 以上の記載及び認定事項を、本件発明の記載振りに則り整理して記載すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。 『高周波プラズマCVD法によりプラスチック基材の表面に形成された無機薄膜において、 前記無機薄膜は、プラスチック基材表面に作製された有機ケイ素化合物被膜と、該有機ケイ素化合物被膜の上に、ヘキサメチルジシロキサンを真空度1.0×10^(-3)torr、と酸素ガスを真空度2.0×10^(-3)torrを混入し、高周波出力を200Wで10分間反応させ、シリコン酸化膜を作製した無機薄膜。』 [2]対比・判断 本件発明(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の『プラスチック基材表面に作製された有機ケイ素化合物被膜と、該有機ケイ素化合物被膜の上に、・・・、シリコン酸化膜を作製した』無機薄膜は、前者の「プラスチック基材との界面側に位置する第一層と、第一層上の第二層とからなる2層構造を有して」いるケイ素酸化膜に相当する。 してみると、両者は、 「プラズマCVD法によりプラスチック基材の表面に形成されたケイ素酸化 膜において、 前記ケイ素酸化膜は、プラスチック基材との界面側に位置する第一層と、第一層上の第二層とからなる2層構造を有しているケイ素酸化膜。」 で一致するものの、次の点で一応相違する。 相違点1:本件発明では、第一層には、「メチル基及びメチレン基が存在」しており、「第一層について測定した第1の赤外吸収スペクトルは、波数が1000?1300cm^(-1)の領域にSiOに由来する赤外吸収ピークを有し、且つ波数が2800?3000cm^(-1)の領域にメチル基に由来する赤外吸収ピークとメチレン基に由来する赤外吸収ピークとを有して」いるのに対して、刊行物1発明では、プラスチック基材表面に作製した有機ケイ素化合物被膜には「メチル基及びメチレン基が存在」し、また、その測定した赤外吸収スペクトルにおいて、SiO、メチル基、メチレン基に由来する赤外吸収ピークを有するか不明である点。 相違点2:本件発明では、 「第2層について測定した第2の赤外吸収スペクトルは、波数が845?833cm^(-1)におけるSiCH_(3)に由来する赤外吸収ピークが実質上ゼロであり、波数が1215乃至1250cm^(-1)の領域に吸収ピークを有しているとともに、該第2の赤外吸収スペクトルにおいて、下記式(1): Ri=A_(1)/A_(2)×100 …(1) 式中、A_(1)は、波数1215乃至1250cm^(-1)の範囲の吸光度の 面積を示し、 A_(2)は、波数985乃至1250cm^(-1)の範囲の吸光度の面 積を示す、 で定義される吸光度比が1%以上となっている」(以下、「条件X」とする。) のに対して、刊行物1発明では、シリコン酸化膜の赤外吸収スペクトルが不明である点。 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 刊行物1の摘示(1b)にあるように、刊行物1発明の有機ケイ素化合物被膜は、ヘキサメチルジシロキサンを原料とし、「有機ケイ素化合物」の被膜を得るものであるから、「有機ケイ素化合物」の被膜の赤外吸収スペクトルには、当然SiOやメチル基、メチレン基由来の赤外吸収ピークが含まれるものといえる。 してみると、当該相違点1は、結局、実質的な相違点とはなり得ない。 なお、この点については、請求人も、刊行物1発明の有機ケイ素化合物被膜(刊行物1の摘示(1a)の記載における「有機ケイ素重合体膜」)は、本件発明の「第一層」の条件を満たしている旨、意見書及び審判請求書のいずれにおいても認めている。 (2)相違点2について 刊行物1発明のシリコン酸化膜は、「有機ケイ素化合物被膜の上に、ヘキサメチルジシロキサンを真空度1.0×10^(-3)torr、と酸素ガスを真空度2.0×10^(-3)torrを混入し、高周波出力を200Wで10分間反応させ、作製した」ものである。 この刊行物1発明の「シリコン酸化膜」の作製条件は、製膜時の出力を200W乃至500Wの高出力で行うとする本件発明(本件明細書段落【0058】参照)と一致するものであり、その原料ガスも「ヘキサメチレンジシロキサン」を用いる点で一致している。 さらに、刊行物1発明(及び本件発明)の発明者の一人である、並木恒久氏が発表した、 ・「表面技術」Vol.45,No.12,1994、第1270?1275頁、「高周波プラズマCVD法によって形成された酸化ケイ素膜のガス透過性」(以下、「提示文献1」とする。) の、「3.1 HMDSO/酸素プラズマ生成膜」の項の記載によると、「高周波プラズマCVD装置を用い、HMDSOと酸素の混合比は1:1,高周波出力は200W」で10分間成膜した際のFT-IRスペクトルがFig.3に「HMDSO-O2 Plasma」として示されており、かかるFT-IRスペクトルのSiOと付されたピークからみるに、Riが少なくとも1%以上であることが見てとれるから、刊行物1発明の「シリコン酸化膜」においてもRiが少なくとも1%以上となると推認される。 してみると、当該相違点2も、結局、実質的な相違点にはなり得ない。 なお、この点について審尋にて、請求人に提示文献1を提示しつつ釈明を求めたところ、回答書において、Riが1%以上となっているとの考えが正しい旨認めている。 (3)小括 上記検討より、本件発明は、刊行物1発明と同一である。 IV.まとめ 上記のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、原査定の理由により本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-04 |
結審通知日 | 2010-10-05 |
審決日 | 2010-10-18 |
出願番号 | 特願2002-137330(P2002-137330) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C23C)
P 1 8・ 121- Z (C23C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横島 重信 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 植前 充司 |
発明の名称 | ケイ素酸化膜 |
代理人 | 奥貫 佐知子 |
代理人 | 小野 尚純 |