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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65B
管理番号 1227949
審判番号 不服2009-19768  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-15 
確定日 2010-12-02 
事件の表示 特願2005-279882「PETボトル詰めミネラルウオーターの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日出願公開、特開2006- 69672〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成15年11月10日(優先権主張平成14年12月26日)に出願した特願2003-379346号の一部を平成17年9月27日に新たな特許出願としたものであって、平成21年7月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.原査定

原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平8-58744号公報
2.特開平7-291236号公報」

3.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「過酸化水素濃度が0.5%を超え1%以下の範囲内にあり液温が40℃を超え50℃以下の範囲内である過酢酸系殺菌剤によりPETボトルを殺菌した後水温が65℃?95℃の範囲内にある無菌洗浄水によりPETボトルを洗浄し、洗浄後のPETボトルに無菌化されたミネラルウオーターを充填し、殺菌済みのキャップで密封することを特徴とするPETボトル詰めミネラルウオーターの製造方法。」

4.引用例

4-1.引用例1

原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-58744号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

(1a)「【請求項3】 過酸化水素が配合されると共に過酢酸の濃度が2000ppm以上で3000ppmよりも小さくされた過酢酸系殺菌剤を50℃以上に加温し、食品容器の少なくとも内面に接触させることを特徴とする食品容器の殺菌方法。
【請求項4】 過酸化水素が配合されると共に過酢酸の濃度が3000ppm以上とされた過酢酸系殺菌剤を45℃以上に加温し、食品容器の少なくとも内面に接触させることを特徴とする食品容器の殺菌方法。」

(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、飲料水、ジュース、ウーロン茶、ミルクコーヒーなどの各種飲食品が充填される容器(以下、単に、「食品容器」という)の殺菌方法及びその装置に関するものであり、より詳しくは、殺菌剤の濃度を高くすることなく短時間に食品容器を殺菌できる食品容器の殺菌方法及びその殺菌装置に関する。」

(1c)「【0003】
ところで、上記洗浄工程後に、過酸化水素や過酢酸が残留しないようにするために、使用する過酸化水素や過酢酸の濃度を低く抑えたいという要請がある。」

(1d)「【0010】
【発明の具体的な説明】
本発明は、過酸化水素が配合された過酢酸系殺菌剤(以下、単に過酢酸系殺菌剤と記すことがある。)を所定の温度以上、あるいは、過酢酸系殺菌剤の濃度に対応して所定の温度以上に加温し、この加温された過酢酸系殺菌剤を食品容器の少なくとも内面に接触させて殺菌することに特徴を有するものであり、これによって、過酢酸系殺菌剤の濃度を高くすることなく、極めて短時間で食品容器の殺菌ができるようになる。」

(1e)「【0011】
本発明において、過酢酸系殺菌剤としては、ヘンケル白水社製のP3 -oxonia aktiv、P3 -oxonia aktiv 90 等を例示でき、過酢酸と過酸化水素の混合比が、重量比で過酢酸1に対して過酸化水素1ないし4となるように混合するのが薬剤の安定性の点で好ましい。」

(1f)「【0014】
また、過酢酸の濃度が2000ppm以上で3000ppmよりも小さくされた過酢酸系殺菌剤を使用する場合には、過酢酸系殺菌剤を50℃以上に加温するのが好ましい。」

(1g)「【0023】
上記の如く搬送されたボトルは、洗浄機5の前記無菌水噴出ノズルによって、ボトル内外に無菌水が噴出されて、ボトルに残留している過酢酸系殺菌剤が除去される。
この場合、本発明では、上記の如く、加熱状態とされた過酢酸系殺菌剤を用いて、すなわち、殺菌力が高くされた過酢酸系殺菌剤を用いてボトルを殺菌しているので、過酢酸系殺菌剤の過酢酸の濃度を低く抑えることができるので、洗浄後に過酢酸系殺菌剤が残留する心配はない。
【0024】
洗浄後のボトルは、充填部6において、前記飲食品供給手段によって、ミルクコーヒー等の飲食品が内部に充填されると共に、キャップ殺菌装置8によって殺菌されたキャップがキャッパー7によって装着される。」

(1h)「【0025】
【実施例】
実施例1
Bacillus subutilis 芽胞を、内容量が1500mlのPETボトル(JUC
-1500)内面に均一に106 cfu/ボトルトとなるように付着させ、試験用ボトルとした。
殺菌条件は以下の通りとした。
(1)使用する殺菌剤;過酢酸系殺菌剤(商品名:P3-oxonia aktiv)」

(1i)「【0030】
実施例6
殺菌剤における過酢酸の濃度を2000ppmとし、過酢酸系殺菌剤の温度を50℃とすること以外は、実施例1と同様の条件で試験用ボトルの殺菌を行い、殺菌結果を表3に示した。」

(1j)「【0034】
実施例10
殺菌剤における過酢酸の濃度を3000ppmとし、過酢酸系殺菌剤の温度を45℃とすること以外は、実施例1と同様の条件で試験用ボトルの殺菌を行い、殺菌結果を表4に示した。
【0035】
実施例11
殺菌剤の温度を50℃にする以外は、実施例10と同様の条件で試験用ボトルの殺菌を行い、殺菌効果を表4に示した。」

これらの記載事項によると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「過酸化水素が配合されると共に過酢酸の濃度が2000ppm以上で3000ppmよりも小さく温度が50℃以上である過酢酸系殺菌剤、または過酸化水素が配合されると共に過酢酸の濃度が3000ppm以上であり温度が45℃以上である過酢酸系殺菌剤によりPETボトルを殺菌した後無菌水によりPETボトルを洗浄し、洗浄後のPETボトルに飲料水を充填し、殺菌されたキャップを装着する、PETボトル充填飲料水の製造方法。」

4-2.引用例2

原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-291236号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 63℃以上の温水を食品容器の少なくとも内面に接触させる温水殺菌工程と、過酸化水素、過酢酸、該過酢酸と過酸化水素との混合物、次亜塩素酸ソーダよりなる群から選ばれた殺菌薬剤を、該食品容器の少なくとも内面に接触させる薬剤殺菌工程とを組み合わせたことを特徴とする食品容器の殺菌方法。
【請求項2】 前記温水殺菌工程を施した後に、前記薬剤殺菌工程を施し、該薬剤殺菌後の食品容器の少なくとも内面を無菌水によってリンスする請求項1記載の食品容器の殺菌方法。
【請求項3】 温水により食品容器の少なくとも内面を予備洗浄したのちに、前記薬剤殺菌工程を施し、次いで、前記温水殺菌工程を施す請求項1記載の食品容器の殺菌方法。」

(2b)「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、飲料水、ジュース、ウーロン茶、ミルクコーヒーなどの各種飲食品が充填される容器(以下、単に、「容器」ということがある)の殺菌方法に関するものであり、より詳しくは、殺菌のための薬剤を多量に使用することなく当該食品中で発育できる全ての微生物を充分に殺菌できる食品容器の殺菌方法に関する。」

(2c)「【0010】…(中略)…薬剤殺菌後に、無菌水によって、容器をリンスすることによって、薬剤を確実に容器から除去できる。」

(2d)「【0011】
さらに、本願請求項3記載の食品容器の殺菌方法では、…(中略)…この方法では、温水殺菌工程を、薬剤殺菌後に行っているので、該温水殺菌工程が、殺菌と、薬剤殺菌工程において使用され食品容器に残留している薬剤のリンスとを兼ねることになる。」

(2e)「【0013】
本発明において使用する殺菌薬剤は、過酸化水素、過酢酸、該過酢酸と過酸化水素との混合物、次亜塩素酸ソーダからなる群より選ばれたものであるが、なかでも、過酢酸と過酸化水素との混合物が、殺菌の安定性、価格、簡便性等の点で好ましい。
過酢酸と過酸化水素との混合物としては、ヘンケル白水社製のオクソニア(P3-oxonia akfiv 商品名) が好ましく使用でき、過酢酸と過酸化水素の混合比は、重量比で、過酢酸1に対して、過酸化水素が1ないし4となるように混合するのが、薬剤の安定性の点で好ましく、過酢酸濃度が0.13%以上で使用する事が殺菌の安定性の点で好ましい。
また、殺菌する際の温水の温度は、殺菌効果の点で63℃以上である必要があるが、温水の温度を高くすれば、ボトルの素材として耐熱性が優れたものを用いなければならず、その分、コスト面で不利になる。したがって、本発明においては、ボトル素材のコストを抑えるという面から、63ないし66℃の温度範囲に設定するのがより好ましい。」

(2f)「【0014】
本発明によって殺菌洗浄する食品容器としては、通常、PETボトルと略称されているポリエチレンテレフタレート製やポリオレフィン製などのプラスチックボトルなどのほか、食品を充填するための各種プラスチック容器、あるいはガラス製容器等が挙げられる。」

(2g)「【0018】…(中略)…このリンス域4では、ノズルより、常温の無菌水あるいは無菌温水がボトルの少なくとも内面に吹き付けられ、これにより、ボトルに付着されているオクソニアがボトル表面から除去される。なお、使用するオクソニアの濃度は上記の如く低くされているので、リンス域4に送られたボトルに付着しているオクソニアは、当然、低濃度であり、少量の無菌水あるいは少量の無菌温水によってオクソニアを容易かつ確実に除去できる。」

(2h)「【0020】
内容物が充填されたボトルは、充填・密封域5内のキャッパーにより、キャップ締めがなされた後に、」

(2i)「【0021】
なお、上記図1の実施例では、ボトル薬剤殺菌域3の前段にボトル温水殺菌域2を配置しており、薬剤殺菌に先立って、温水殺菌を行っているが、ボトル薬剤殺菌域3の後段にボトル温水殺菌域2を配置して、薬剤殺菌後に温水殺菌を行ってもよい。この場合においても、薬剤殺菌を先に行う上記の場合と同様、温水殺菌及び薬剤殺菌の一方が他方の殺菌力を補完する関係にあるので、薬剤の濃度を低く抑えることができる。これに加えて、薬剤殺菌後に温水殺菌を行う場合には、温水殺菌と、薬剤殺菌工程において使用され食品容器に残留している薬剤のリンスとが、同時に行われるので、殺菌及びその後のリンスを含めたボトルの処理時間を短縮できる。」

これらの記載事項によると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「過酢酸と過酸化水素との混合物からなる殺菌薬剤によりPETボトルを薬剤殺菌した後、63℃以上の無菌温水によりPETボトルを温水殺菌リンスし、温水殺菌リンス後のPETボトルに飲料水を充填し、キャップで密封する、PETボトル充填飲料水の製造方法。」

5.対比

本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「無菌水」は、本願発明の「無菌洗浄水」に相当する。

よって、本願発明と引用発明1とは、

「過酢酸系殺菌剤によりPETボトルを殺菌した後無菌洗浄水によりPETボトルを洗浄し、洗浄後のPETボトルに飲料水を充填し、殺菌済みのキャップで密封する、PETボトル詰め飲料水の製造方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]本願発明は、過酢酸系殺菌剤の過酸化水素濃度が0.5%を超え1%以下の範囲内にあり液温が40℃を超え50℃以下の範囲内であるのに対し、引用発明1は、過酢酸の濃度が2000ppm以上で3000ppmよりも小さく温度が50℃以上であるか、または過酢酸の濃度が3000ppm以上であり温度が45℃以上である点。

[相違点2]本願発明は、飲料水が無菌化されたミネラルウオーターであるのに対し、引用発明1は、飲料水の種類について特定されていない点。

[相違点3]本願発明は、無菌洗浄水の水温が65℃?95℃の範囲内にあるのに対し、引用発明1は、無菌水の水温について特定されていない点。

6.判断

上記相違点について検討する。

[相違点1]について;

引用例1の段落【0011】には、「本発明において、過酢酸系殺菌剤としては、ヘンケル白水社製のP3 -oxonia aktiv、P3 -oxonia aktiv 90 等を例示でき、過酢酸と過酸化水素の混合比が、重量比で過酢酸1に対して過酸化水素1ないし4となるように混合するのが薬剤の安定性の点で好ましい。」(上記摘記(1e)参照。)と記載され、同段落【0025】には、実施例として、「使用する殺菌剤;過酢酸系殺菌剤(商品名:P3-oxonia aktiv)」(上記摘記(1h)参照。)と、段落【0011】で例示された過酢酸系殺菌剤を使用することが記載されていることから、引用発明1において、過酢酸と過酸化水素水との混合比は、重量比で、過酢酸1に対して過酸化水素1ないし4であると認められる。
してみると、引用発明1の、「過酢酸の濃度が2000ppm以上で3000ppmよりも小さく温度が50℃以上である」事項及び「過酢酸の濃度が3000ppm以上であり温度が45℃以上である」は、それぞれ、「過酸化水素濃度が0.2%以上で1.2%よりも小さく温度が50℃以上である」事項及び「過酸化水素濃度が0.3%以上であり温度が45℃以上である」事項に相当するといえる。
そして、引用発明1の過酢酸系殺菌剤の過酸化水素濃度及び液温の上記数値範囲は、本願発明の「過酸化水素濃度が0.5%を超え1%以下の範囲内にあり液温が40℃を超え50℃以下の範囲内である」との数値範囲と一部重なるものであり、また、引用例1には「過酢酸系殺菌剤を過酢酸系殺菌剤の『濃度に対応して』所定の温度以上に加温する」(上記摘記(1d)参照。)と、過酢酸系殺菌剤の濃度に応じて温度を調整する事項が開示されていることを考慮すると、引用発明1の上記数値範囲を本願発明のような数値範囲とすることは設計的事項にすぎない。

[相違点2]について;

本願発明におけるPETボトルの内容物である「ミネラルウオーター」は、ミルクコーヒーなどとは異なり、過酸化水素と反応してこれを分解する内容物が存在しないため、通常の過酢酸系殺菌剤を通常の方法で使用する限り微量の過酸化水素が製品中に残留するという課題を有するものであり、その点で、引用発明1におけるPETボトルの内容物である「飲料水」も、「水」以外の成分を含有しないため、同様の課題を内在するものと認められる。
そして、それに対し、引用発明1のPETボトル充填飲料水の製造方法は、洗浄工程後に、過酸化水素や過酢酸が残留しないようにするという課題を有するものであり(上記摘記(1c)参照。)、本願発明の「PETボトル詰めミネラルウオーター製品中に過酸化水素が検出されない」という課題と共通する。
してみれば、引用発明1の「PETボトル充填飲料水の製造方法」を「ミネラルウオーター」の製造方法に適用することは容易である。
また、該「ミネラルウオーター」を無菌化して充填することは、周知慣用の技術である。

[相違点3]について;

引用例2には、過酢酸系殺菌剤(引用例2の「過酢酸と過酸化水素との混合物からなる殺菌薬剤」)によりPETボトルを殺菌した後、水温が63℃以上の無菌洗浄水(引用例2の「無菌温水」)によりPETボトルを洗浄(引用例2の「リンス」)し、洗浄後のPETボトルに飲料水を充填する事項が記載されている。
そして、引用発明1の無菌洗浄水の水温として、引用例2記載の上記事項を考慮すると、本願発明のような温度範囲とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明の効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測し得た程度のものである。

7.むすび

したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

原査定は妥当である。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-06 
結審通知日 2010-10-07 
審決日 2010-10-20 
出願番号 特願2005-279882(P2005-279882)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関谷 一夫  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 豊島 ひろみ
熊倉 強
発明の名称 PETボトル詰めミネラルウオーターの製造方法  
代理人 原田 卓治  
代理人 坂本 徹  
代理人 坂本 徹  
代理人 原田 卓治  

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