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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1228036
審判番号 不服2008-8833  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-10 
確定日 2010-12-08 
事件の表示 特願2003- 7802「金属部材の加熱方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月 5日出願公開、特開2004-218016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年1月16日の出願であって、平成19年11月29日付け拒絶理由通知書が送付され、平成20年2月8日付け手続補正書が提出されたが、同年3月3日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として平成20年4月10日付けで請求されたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成20年2月8日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】 段差を有する回転体の金属部材の加熱方法において、誘導加熱コイル全長にわたってコイルの径が同じであることにより金属部材の加熱すべき面と誘導加熱コイルとの距離が加熱すべき面の部位によって異なる状態で、前記加熱すべき面のいかなる部位においても目標加熱温度を超えない温度範囲まで誘導加熱を行ない、次いで前記加熱すべき面全体を前記目標加熱温度にするように金属部材の外部に設けた熱源により加熱することを特徴とする金属部材の加熱方法。」

3.原査定の概要
原査定の概要は次のとおりのものである。

「この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

〈引用文献〉
1.特開昭59-41418号公報
2.特開平11-158552号公報
3.特開昭64-31921号公報 」

4.引用例及びその記載事項
原査定で引用した引用文献1である特開昭59-41418号公報及び引用文献3である特開昭64-31921号公報(以下、「引用例1」及び「引用例2」という。)には、次の記載がある。

(1)引用例1;特開昭59-41418号公報
(1a);
「本発明は、ワークの均一加熱方法と誘導加熱装置に関する。
全長に亘つて同一径を有する誘導加熱コイルを用いて、例えば、中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワークを誘導加熱して焼入れする場合には、ワークと誘導加熱コイルとの対向間隙が小径部より小さい大径部に生ずる誘導電流が小径部のそれより大となる為に、該大径部が他部より速く昇温してワークがその長手方向に不均一加熱されるという問題がある。そのうえ誘導加熱コイルのコイル長がワーク長より十分長くない場合には、誘導加熱コイルの端部に生ずる磁束の漏洩によつてワーク両端近くの部分の加熱効果が低下する為、上記不均一加熱が一層、助長されるという問題があつた。この磁束漏洩によるワークの不均一加熱はワークが全長に亘つて同一径であるような場合にも勿論同様である。」(第1頁右欄第9行?第2頁左上欄第6行)

(2)引用例2;特開昭64-31921号公報
(2a);
「被加熱物を誘導加熱手段により目標温度近傍まで急速加熱し、次いで均熱手段により均一加熱することを特徴とする加熱方法。」(特許請求の範囲)

(2b);
「[従来の技術]
従来、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の非磁性高導電材料及びオーステナイト鋼板等の非磁性低導電材料の上記各種加熱処理、あるいは磁性鋼板の上記固溶化熱処理等に適用される加熱方法として、燃焼炉又は抵抗炉による直接加熱法、あるいはマッフルを介する間接加熱法、及び誘導加熱法が知られている。
[発明が解決しようとする問題点]
しかしながら、前者の直接あるいは間接加熱法(以下、通常加熱法という)においては、被加熱物の炉内における移送速度が毎分数十メートルから数百メートルと速いため、炉長が数十メートルから百数十メートルと非常に長くなり、また連続操業されることが多いため加熱処理装置の前後にアキュームレータ等も必要となり、必然的に大きな設備スペースが必要となり、かつまた設備費も非常に高くなるという問題があった。
一方、後者の誘導加熱法においては、原理的に被加熱物内部に直接任意のエネルギーを与えることができ、かつそのエネルギー密度の制限がないため、極めて高速で加熱できる特徴を有し加熱時間を著しく短縮できる。
しかしながら、この誘導加熱法のみによって被加熱物、例えば条(帯状体)の全体を均一加熱(目標温度に対して±5?10℃以内)することは極めて困難であった。条の場合、巾方向に不均一温度分布となる。本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、炉長を大幅に短縮することにより省スペース、省エネルギー及び低コスト化を図ることができ、かつ均一加熱することができる加熱方法を提供することを目的とする。」(第1頁左下欄第14行?第2頁左上欄第5行)

(2c);
「[実施例]
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
第1図は本発明の加熱方法を実施するに好適な加熱装置を示したもので、1は誘導熱装置、2は前記通常加熱法を実施するための均熱装置、3は冷却装置で、4,5はそれぞれ各装置の間に設けられた保温シール接続部である。また、6は非磁性導電材料等の被加熱物の条(帯状体)であり、7,8はそれぞれ条導入部、条搬出部であって、条導入部7の前端部は例えば、フレームカーテンにより条搬出部8の後端部は例えば石綿カーテンにより炉内雰囲気を逃がさないようにそれぞれシールされている。
そこで本発明方法を第2図を参照しながら説明すると、まず、条6を誘導加熱装置(第1図のゾーンA)において初期温度T_(0)から目標温度T_(F)の近傍T_(1)まで温度差Δθ_(1)を急速に加熱する。この加熱後において条6の巾方向の温度は未だ不均一であり、上記温度T_(1)はその不均一温度の高温部を示し、T_(1)は最終目標温度T_(F)よりも若干(△θ_(2))低い温度位置にある。なお、この場合T_(I)=T_(F)であってもよい。
次いで、条6を通常加熱法に基づく均熱装置2(ゾーンB)を通過させることにより目標温度T_(F)まで加熱される。この加熱過程で条6は許容される温度公差内(例えば±5?10℃)に均一加熱される。その後、必要に応じて冷却装置3を通過させ、必要な低温領域迄冷却する。
なお、第2図においてL_(A)は誘導加熱ゾーン長さ(炉長)、L_(B)は均熱ゾーン長さ(炉長)、点線Pは通常加熱法のみによる場合の加熱温度曲線、L′_(B)は通常加熱法のみによる場合の加熱ゾーン長さ(炉長)を示している。
上記のように本発明では、誘導加熱法と通常加熱法とを併用しているので、誘導加熱法の高速加熱特性により通常加熱法に比し、著しく短い加熱ゾーン長さで済む。即ち、その関係は、
(L_(A)+L_(B))≪L’a
となり、省スペース、省エネルギー、低コストが達成される。また、通常加熱法の特性により均一加熱効果も達成される。
なお、本発明においては均熱手段として前記通常加熱手段の代りにマッフルを誘導加熱し、該マッフルにより間接的に条6を均一加熱するようにしてもよい。これにより均熱ゾーン長さL_(B)を短縮することができる。」(第2頁左上欄第15行?右下欄第1行)

5.当審の判断
5-1.引用例1に記載された発明
引用例1の(1a)には、「全長に亘つて同一径を有する誘導加熱コイルを用いて、例えば、中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワークを誘導加熱して焼入れする場合には、ワークと誘導加熱コイルとの対向間隙が小径部より小さい大径部に生ずる誘導電流が小径部のそれより大となる為に、該大径部が他部より速く昇温してワークがその長手方向に不均一加熱されるという問題がある。」ことが記載されている。
この記載は、全長に亘って同一径を有する誘導加熱コイルを用いて、例えば、中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワークを誘導加熱して焼入れする場合に生じる従来技術の問題を述べたものであるから、従来技術として、「全長に亘って同一径を有する誘導加熱コイルを用いて、中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワークを誘導加熱して焼入れする加熱方法」について記載されていると認められる。
ここで、この加熱方法は、全長に亘って同一径を有する誘導加熱コイルを用いて、中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワークを加熱するから、このワークの加熱すべき面と誘導加熱コイルとの距離が加熱すべき面の部位によって異なる状態で、誘導加熱を行うことになることは明らかといえるし、また、焼入れに際し、ワークを焼入れ温度にするように加熱することは普通のことであるから、上記誘導加熱は、ワークを焼入れ温度にするように行うものといえる。
以上の記載及び認定事項を、本願発明1の記載振りにあわせて整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワークの加熱方法において、誘導コイル全長にわたって同一径を有することにより軸状のワークの加熱すべき面と誘導加熱コイルとの距離が加熱すべき面の部位によって異なる状態で、ワークを焼入れ温度にするように誘導加熱を行う軸状のワークの加熱方法。」

5-2.本願発明1と引用発明との対比
軸とは、通常、中心線の廻りに回転するも棒状の部材を意味するから(「広辞苑第5版」1998年11月11日、株式会社岩波書店発行、1153頁【軸】参照)、引用発明の「中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワーク」は、段差を有する回転体であり、そして、誘導加熱するものであることからみて、金属からなるものと考えて差し支えないから、引用発明の「中央が大径部で両端側が小径部である軸状のワーク」は、本願発明1の「段差を有する回転体の金属部材」に相当するといえる。
また、引用発明の「焼入れ温度」は、誘導加熱の際の目標となる温度であるから、本願発明1の「目標加熱温度」に相当する。
したがって、両者は、「段差を有する回転体の金属部材の加熱方法において、誘導加熱コイル全長にわたってコイルの径が同じであることにより金属部材の加熱すべき面と誘導加熱コイルとの距離が加熱すべき面の部位によって異なる状態で、誘導加熱を行なう金属部材の加熱方法」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点;
本願発明1では、加熱すべき面のいかなる部位においても目標加熱温度を超えない温度範囲まで誘導加熱を行い、次いで前記加熱すべき面全体を前記目標温度にするように金属部材の外部に設けた熱源により加熱するのに対して、引用発明では、ワークを目標加熱温度(焼入れ温度)にするように誘導加熱のみを行なう点

なお、請求人は、「本願発明と引用文献1(審決註;引用例1のこと)の発明とを比較すると、対象とする被加熱材が段差を有する回転体であること、また誘導加熱コイル全長にわたってコイルの径が同じであることにより金属部材の加熱すべき面と誘導加熱コイルとの距離が加熱すべき面の部位によって異なる状態で誘導加熱を行うことも両者は同じである。」(審判請求書についての平成20年5月12日付け手続補正書「3.(1)」参照)と主張し、上記一致点の認定を認めている。

5-3.相違点についての判断
引用例1の(1a)によれば、従来方法である、引用発明の加熱方法では、「ワークと誘導加熱コイルとの対向間隙が小径部より小さい大径部に生ずる誘導電流が小径部のそれより大となる為に、該大径部が他部より速く昇温してワークがその長手方向に不均一加熱されるという問題がある」し、「そのうえ誘導加熱コイルのコイル長がワーク長より十分長くない場合には、誘導加熱コイルの端部に生ずる磁束の漏洩によつてワーク両端近くの部分の加熱効果が低下する為、上記不均一加熱が一層、助長されるという問題があつた」ことが認められる。
これに対して、引用例2には、「誘導加熱法においては、極めて高速で加熱でき加熱時間を著しく短縮できるが、被加熱物、例えば条(帯状体)の場合、巾方向に不均一温度分布となり全体を均一加熱(目標温度に対して±5?10℃以内)することは極めて困難であった」〔(2b)参照〕という解決課題を、「被加熱物を誘導加熱手段により目標温度近傍まで急速加熱し、次いで均熱手段により均一加熱する」〔(2a)参照〕という加熱方法により解決することができたことが記載されている。
ところで、引用例2には、上記加熱方法を適用する被加熱物について、「例えば条(帯状体)」と記載されており、条(帯状体)が例示されているが、その記載全体をみても、被加熱物として、例示された条(帯状体)以外のものを排除すべき理由は見当たらず、当業者であれば、条(帯状体)以外の種々の形状の被加熱物にも適用できるであろうことは十分に予測できたことである。
してみると、引用発明が有する課題を念頭に置いている当業者が、引用発明と同じ技術分野の刊行物である引用例2の開示事項に接した場合、段差を有する回転体の金属部材を誘導加熱する際に生ずる不均一の加熱という、引用発明の課題の解決手段として、引用例2に記載された加熱方法の適用を想到することは容易なことといえる。

なお補足すれば、本件出願に先立つ20年前に公知となった刊行物であり、本件出願当時の技術水準を示すものと認められる特開昭58-11742号公報には、「ロールは胴部を焼入してシヨアかたさ90以上で使用される。この焼入にさきだち、・・・いわゆる調質処理が実施される。この加熱は通常全体加熱のため、外径に段差のあるロールの場合、誘導加熱方法では均一な加熱が不可能である。このため加熱温度直下まで誘導加熱により加熱する。この場合胴部と軸部で温度は不均一となるがあくまで予熱のため問題はない。次いで誘導加熱の電源を断電、電気炉加熱に切り変え、ロールを目的加熱温度に均一に加熱する。本方法によれば品質的には従来ロールと同様のものが得られ、加熱電力量が大巾に低減される。」(第1頁左欄第13行?右欄第6行)との記載があり、この記載からみて、外径に段差のあるロール、すなわち、段差を有する回転体の金属部材を、誘導加熱手段により目標温度近傍まで急速加熱し、次いで均熱手段により均一加熱する加熱方法は、本件出願前に当業者間において周知技術であった事実が認められる。そして、この事実を参酌すれば、引用例2に記載された加熱方法を、段差を有する回転体の金属部材に適用できることは明らかであるから、なおのこと、引用発明の課題の解決手段として、引用例2に記載された加熱方法の適用を想到することは当業者にとって容易なことといえる。

そして、(1c)の「まず、条6を誘導加熱装置(第1図のゾーンA)において初期温度T_(0)から目標温度T_(F)の近傍T_(1)まで温度差Δθ_(1)を急速に加熱する。この加熱後において条6の巾方向の温度は未だ不均一であり、上記温度T_(1)はその不均一温度の高温部を示し、T_(1)は最終目標温度T_(F)よりも若干(△θ_(2))低い温度位置にある。」との記載によれば、目標温度近傍まで加熱したとき、不均一温度の高温部が目標温度よりも若干低い温度であるから、引用例2の「目標温度近傍」とは、「加熱すべき面のいかなる部位においても目標加熱温度を超えない温度範囲」を意味するものと理解すことができるし、また、(1c)の「次いで、条6を通常加熱法に基づく均熱装置2(ゾーンB)を通過させることにより目標温度T_(F)まで加熱される。」、「なお、本発明においては均熱手段として前記通常加熱手段の代りにマツフルを誘導加熱し、該マツフルにより間接的に条6を均一加熱するようにしてもよい。」との記載によれば、引用発明の「次いで均熱手段により均熱する」とは、誘導加熱のように金属部材自体が熱源になるものではなく、「次いで加熱すべき面全体を目標加熱温度にするように金属部材の外部に設けた熱源により加熱する」ことを意味しているものと解することができる。
したがって、引用発明において、誘導加熱による不均一加熱という問題を解決し、均一に加熱するために、ワークを目標加熱温度にするように誘導加熱のみを行なうという加熱方法に代えて、「前記加熱すべき面のいかなる部位においても目標加熱温度を超えない温度範囲まで誘導加熱を行ない、次いで前記加熱すべき面全体を前記目標加熱温度にするように金属部材の外部に設けた熱源により加熱する」という加熱方法を用いてみることは、当業者が容易になし得たことというべきである。

5-4.小括
以上のとおり、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受
けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-28 
結審通知日 2010-10-05 
審決日 2010-10-18 
出願番号 特願2003-7802(P2003-7802)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蛭田 敦  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 植前 充司
山本 一正
発明の名称 金属部材の加熱方法  
代理人 萩原 康弘  

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