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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1228040
審判番号 不服2008-17367  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-07 
確定日 2010-12-08 
事件の表示 特願2003- 26547「車両間通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月26日出願公開,特開2004-241866〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成15年2月3日の出願であって,平成19年10月26日付け拒絶理由通知に対して同年12月28日付けで手続補正がなされたが,平成20年6月5日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年7月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成20年7月7日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年7月7日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,少なくとも特許請求の範囲の請求項1は,次のとおり補正された。

「車両間通信機と,
周囲の車両とネットワークを形成するネットワーク形成処理手段と,
ネットワーク形成車両間で情報交換処理を行う情報交換処理手段とを備え,
前記ネットワーク形成処理手段には,ネットワーク形成範囲を制限するネットワーク形成制限手段を備える車両間通信装置において,
前記ネットワーク形成制限手段は,形成するネットワークにおける特定の位置から予め定めた範囲内の車両分布から求めた重心位置,または該特定位置の周囲の任意形状の範囲の中心位置からの距離により制限したことを特徴とする車両間通信装置。」

本件補正は,補正前の請求項1に記載された「前記ネットワーク形成制限手段は,形成するネットワークから求めた重心位置,または中心位置からの距離により制限した」を,「前記ネットワーク形成制限手段は,形成するネットワークにおける特定の位置から予め定めた範囲内の車両分布から求めた重心位置,または該特定位置の周囲の任意形状の範囲の中心位置からの距離により制限した」へと限定するものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。


(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である,特開平11-306488号公報(平成11年11月5日公開。以下,「刊行物」という。)には,図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(ア)「本願発明において前提となるシステムは上記の従来技術に類似している。すなわち,図1に示したように基地局(図1においては固定局)が発信した情報を,移動局A局,B局,C局といったようにホップしていくことにより伝搬する。」(第4ページ第5欄第45?49行)

(イ)「このように,移動局間で情報がやり取りされることは従来技術とほぼ同様であるが,本願発明は,どの情報を移動局間で伝播させるかについて示すものである。すなわち,移動無線送受信機において,情報を(最初に)送信する情報元の位置情報を含む受信情報の転送の可否を決定する際には,位置情報を用いて,情報元からの距離を計算するステップと,距離を所定のしきい値と比較するステップと,距離が所定のしきい値より長い場合には,受信情報を転送不可と決定するステップとを実行するということである。これにより,情報の伝搬は情報元から所定の範囲に限定され,よりローカルな情報を所定の範囲内に存在するユーザに伝達することができる。」(第4ページ第6欄第12?24行)

(ウ)「(1)基地局からの送信情報
基地局はいわば放送局のようなもので,自身の広告等を送信する。先に述べたように,送信した情報はこの基地局から所定の範囲内において伝搬されるようにするため,送信すべき情報と共に,情報元の位置,又は時刻,又はそれらの両方を送信する。さらに,送信した情報を消滅させるための,距離的又は時間的又はそれら両方のしきい値を含めてもよい。本発明において用いられる送信フレームの一例を図4に示す。基地局が送信する場合,送信元位置1及び情報元位置5,送信元時刻2及び情報元時刻6はそれぞれ同一であり,いずれかを削除することができる。」(第5ページ第8欄第17?28行)

(エ)「しきい値7は,情報元により指定されるものである。距離的なしきい値の場合情報元からの距離を入力し,時間的なしきい値の場合破棄させる時刻又は情報元時刻からの時間を入力する。
【0021】なお,基地局を放送局のようなものと記したが,本来の放送局のように情報を一方的に流すようなものではなく,移動局と無線通信接続を行い,情報を通信するようにしてもよいし,後に述べるような移動局のように中継機能を有していてもよい。また,基地局が情報元であることを前提にしていたが,移動局自身が情報元になることも可能である。」(第5ページ第8欄第36?46行)

(オ)「(2)移動局の構成
図5に移動局の構成例を示したブロック図を示す。アンテナ11に接続された送受信機13は通信コントローラ15にも接続されている。また,表示装置21は,表示コントローラ17に接続されている。表示コントローラ17及び通信コントローラ15は連携して移動局全体を制御するように接続されている。また,両者はメモリ19に接続されており,このメモリ19を共有している。表示コントローラ17は入力装置23に接続されている。通信コントローラ15は,位置検出器25及び時刻検出器27に接続されている。
【0023】送受信機13は,何でも構わないが,FM電波や赤外線通信(IrDA等)等が好ましい。通信コントローラ15と共に他の移動局又は基地局と接続のタイミングを計り,通信を行う。また,位置検出器25には,GPSやPHSを用いることができる。」(第5ページ第8欄第47行?第6ページ第9欄第12行)

(カ)「次に移動局の動作を説明する。送受信機13は,アンテナ11を介して無線信号を受信し,受信情報を通信コントローラ15に渡す。通信コントローラ15は,受信した情報をメモリ19に格納し,新たな情報を受信したこと及びメモリ19内のアドレスを表示コントローラ17に渡す。表示コントローラ17は,表示が必要な情報であるかどうかを確認の上,表示が必要な場合には,メモリ19内の指定されたアドレスから情報を取り出し,表示装置21に表示する。ユーザは入力装置23を用いて,表示すべき情報を指定することができる。例えば,交通情報が知りたい場合には,交通情報を表示するように表示コントローラ17を設定する。また,通信コントローラ15は,他の移動局に送信すべき情報がメモリ19に存在する場合には,当該メモリ19の所定のアドレスから情報を読み出し,図4に示した送信フレームを作成し,送受信機13によりアンテナ11を介して送信させる。
【0025】なお,通信コントローラ15は,図4で示したフレームの先頭にある送信元位置情報や情報元の位置情報を受信したところで,当該フレームを全て受信するか受信しないようにするか判断することも可能である。」(第6ページ第9欄第23?44行)

(キ)「(3)移動局での処理
通信コントローラ15は送信すべき情報の選択を行う。すなわち,通信コントローラ15は,情報ごとに転送の可否を決定する。これは,先に述べたように情報元からの距離や時間により情報の伝搬範囲を限定するという目的の他,移動局及び基地局の配置が未知の状態で行われる通信であるため経路の指定ができず,移動局(及び基地局)の密度が高いと伝送路の重複を生じて通信量が増大するという事態を回避するのに必要なためである。」(第6ページ第9欄第45行?第10欄第3行)

(ク)「情報転送の可否の決定処理のためのアルゴリズムを説明する前に,その前提条件を説明する。
(a)移動局及び基地局はほぼ一様に分布しているとする。すなわち移動局及び基地局同士の平均距離はほぼ一定とし,これをDとする。Dの求め方については後に述べる。Dはゆっくりと変化する場合もある。
(b)ある時間内に情報を転送する回数(転送の割合)は,どの移動局及び基地局でも一定とする。これをNとする。Nもゆっくりと変化する場合もある。
(c)2つの移動局間又は移動局と基地局間における通信限界距離は一定とし,これをXとする。Xは移動局及び基地局で電波受信強度を実際に測定することにより求めてもよい。また,移動局及び基地局の性能として定数とすることもできる。さらに,周辺の通信状況や移動速度等の関数とすることもできる。」(第6ページ第10欄第14?28行)

(ケ)「以上を前提に,図8を用いて通信コントローラ15が実行する,情報転送の可否を決定するためのアルゴリズムを説明する。ここでは最初に,転送するか否か決定すべき情報(以下,転送情報という。)が有効期限切れであるか否か判断する(ステップ210)。もし,有効期限が切れている場合には転送しない(ステップ270)。」(第7ページ第11欄第1?7行)

(コ)「次に,情報元から自身が所定距離離れたか否か判断する(ステップ220)。これは,転送情報のフレームにしきい値として入れられた距離及びフレーム内の情報元の位置から,情報元を中心としてしきい値としての距離を半径とする円に,位置検出器25から検出された自身の位置が入っているか否かで判断できる。もし,所定距離以上情報元から離れた場合には転送しない(ステップ270)。なお,時間による転送の可否の判断と同様に,距離についても通信コントローラ15の独自の基準にて判断することも可能である。例えば,通信コントローラ15は送信元又は情報元からの独自の距離にて転送情報を破棄するか否か決定することも可能である。
【0032】さらに,移動局密度と送信元からの距離が所定の条件を満たしているか判断する(ステップ230)。」(第7ページ第11欄第18?33行)

(サ)「さらに,転送元が情報元であるか否か判断する(ステップ240)。そして,情報元と送信元を結ぶ直線と送信元と自身を結ぶ直線とがなす角度が所定の角度以内になっているか判断する(ステップ250)。」(第7ページ第11欄第47?50行)

(シ)「また,ステップ210,ステップ220,ステップ230,ステップ240及び250のうち一つだけで転送の可否を決定しても,それらの任意の組み合わせにて決定することも可能である。さらに順番も任意に変えることができる。」(第7ページ第12欄第23?27行)

(ス)「以上のように通信コントローラ15が動作することにより,情報ごとに転送の可否を決定することができる。」(第7ページ第12欄第35?37行)

(セ)「次に,本発明の応用例について述べておく。例えば,移動局が情報携帯端末であって,個人ユーザが当該情報携帯端末を有している場合を考える。例えば情報元は小売り店舗であり,特売情報や売場案内を位置情報と共に送信している。」(第7ページ第12欄第38?42行)

(ソ)「また,情報元には交通機関が考えられる。例えば,交通機関は電車やバス,飛行機等の発着案内情報を送信する。」(第8ページ第13欄第6?8行)

(タ)「さらに他の例としては,移動局が自動車である場合が考えられる。この場合,情報携帯端末を自動車に接続したり,カーナビゲーション・システムが前記移動局の機能を有している。情報元としては,例えばガソリン・スタンドや駐車場等が考えられる。そして,それらの場所や値段,駐車場の場合には空き情報等を送信する。」(第8ページ第13欄第23?29行)

(チ)「また,従来技術でも開示している交通情報の伝達も考えられる。渋滞情報は,よりローカルでよりリアルタイムなものであり,自動車間の交信により伝達可能となる。」(第8ページ第13欄第36?39行)

(ツ)【図4】には,文字列「送信元位置」を囲み符号「1」が付された矩形,文字列「送信元時刻」を囲み符号「2」が付された矩形,文字列「送信元速度」を囲み符号「3」が付された矩形,文字列「情報カテゴリ」を囲み符号「4」が付された矩形,文字列「情報元位置」を囲み符号「5」が付された矩形,文字列「情報元時刻」を囲み符号「6」が付された矩形,文字列「しきい値」を囲み符号「7」が付された矩形,文字列「情報」を囲み符号「8」が付された矩形を,左から右へ並べた図面が,送信フレームの一例として記載されている。


したがって,刊行物には,以下の発明(以下,「刊行物記載発明」という。)が記載されていると認められる。

「2つの移動局間における通信限界距離は一定とし,情報を最初に送信する情報元が発信した情報を,移動局A局,B局,C局といったようにホップしていくことにより伝搬し,移動局間で情報がやり取りされるシステム,を構成する移動局であって,
情報元が送信した情報はこの情報元から所定の範囲内において伝搬されるようにするため,送信すべき情報と共に,情報元の位置,又は時刻,又はそれらの両方を送信し,さらに,送信した情報を消滅させるための,距離的又は時間的又はそれら両方のしきい値を含めてもよく,用いられる送信フレームは,送信元位置,送信元時刻,送信元速度,情報カテゴリ,情報元位置,情報元時刻,しきい値,及び情報,で構成され,
移動局は,送受信機,通信コントローラ,メモリ,位置検出器を備え,移動局が自動車であり,移動局自身が情報元になることも可能であり,
通信コントローラは,受信した情報をメモリに格納し,他の移動局に送信すべき情報がメモリに存在する場合には,当該メモリの所定のアドレスから情報を読み出し,送信フレームを作成し,送受信機により送信させ,送信フレームの先頭にある送信元位置情報や情報元の位置情報を受信したところで,当該フレームを全て受信するか受信しないようにするか判断することも可能であり,
また通信コントローラは,送信すべき情報の選択を行い,すなわち,情報ごとに転送の可否を決定し,これは,情報元からの距離や時間により情報の伝搬範囲を限定するという目的に必要なためであり,
情報転送の可否を決定するためには,情報元から自身が所定距離離れたか否か判断し,これは,転送情報のフレームにしきい値として入れられた距離及びフレーム内の情報元の位置から,情報元を中心としてしきい値としての距離を半径とする円に,位置検出器から検出された自身の位置が入っているか否かで判断できて,もし,所定距離以上情報元から離れた場合には転送しないこととし,送信元又は情報元からの独自の距離にて転送情報を破棄するか否か決定することも可能であり,
これにより,情報の伝搬は情報元から所定の範囲に限定され,よりローカルな情報を所定の範囲内に存在するユーザに伝達することができて,また,渋滞情報は,よりローカルでよりリアルタイムなものであり,自動車間の交信により伝達可能となる,
移動局。」


(3)本願補正発明と刊行物記載発明との対比

刊行物記載発明の「移動局」は自動車であり,自動車間の交信により渋滞情報を伝達可能であるから,本願補正発明の「車両間通信装置」に相当する。また,刊行物記載発明の移動局が備える「送受信機」は,本願補正発明の「車両間通信機」に相当する。

刊行物記載発明の「通信コントローラ」は,送信フレームの先頭にある送信元位置情報や情報元の位置情報を受信したところで,当該フレームを全て受信するか受信しないようにするか判断可能であり,受信した情報をメモリに格納し,送信すべき情報の選択を行い,他の移動局に送信すべき情報がメモリに存在する場合には,当該メモリの所定のアドレスから情報を読み出し,送信フレームを作成し,送信させるものである。
そして,刊行物記載発明のシステムでは,送信フレームは送信先を限定する情報を含まず2つの移動局間における通信限界距離内に存在する複数の移動局により受信されるものと解され,情報元が発信した情報をそれぞれ自動車である移動局A局,B局,C局とホップしていくことにより伝搬し,移動局間で情報がやり取りされるから,刊行物記載発明の「通信コントローラ」は,周囲の自動車と車両間通信を行うグループを形成するものであって,本願補正発明の「周囲の車両とネットワークを形成するネットワーク形成処理手段」と,「周囲の車両とグループを形成するグループ形成処理手段」の点で一致するといえる。
さらに,刊行物記載発明において,情報ごとに転送の可否を決定することは,情報元からの距離により情報の伝搬範囲を限定する目的で行われ,情報の伝搬範囲を限定することは,情報を伝搬する移動局が形成するグループの範囲を限定することといえる。
したがって,刊行物記載発明の「通信コントローラ」が,情報の伝搬範囲を限定する目的で情報ごとに転送の可否を決定する機能を備えていることは,本願補正発明の「前記ネットワーク形成処理手段には,ネットワーク形成範囲を制限するネットワーク形成制限手段を備える」ことと,「前記グループ形成処理手段には,グループ形成範囲を制限するグループ形成制限手段を備える」点で共通する。

刊行物記載発明の移動局は,移動局間で情報をやり取りするから,本願補正発明の「ネットワーク形成車両間で情報交換処理を行う情報交換処理手段」と「グループ形成車両間で情報交換処理を行う情報交換処理手段」の点で一致する手段を備えている。

本願補正発明の「該特定位置」は,その直前の記載における「形成するネットワークにおける特定の位置」に相当するものと解され,一方,刊行物記載発明では,情報元が発信した情報を,それぞれ自動車である移動局A局,B局,C局が,周囲の自動車と車両間通信を行うグループを形成しつつ伝搬するといえるから,刊行物記載発明の「情報元の位置」は,本願補正発明の「該特定位置」と,「形成するグループにおける特定の位置」である点で共通する。
また,刊行物記載発明の「情報元の位置」は,形成するグループにおける特定の位置である自身の位置の周囲の円形状の範囲の中心位置といえるから,本願補正発明の「該特定位置の周囲の任意形状の範囲の中心位置」と,「該特定位置の周囲の形状の範囲の中心位置」である点で一致する。
さらに,刊行物記載発明において,情報の伝搬を情報元から所定の範囲に限定することは,情報を伝搬する移動局が形成するグループの範囲を限定することといえる。
したがって,刊行物記載発明の通信コントローラが,情報元を中心としてしきい値としての距離を半径とする円に自身の位置が入っているか否かで,情報元から自身が所定距離離れたか否か判断し,もし,所定距離以上情報元から離れた場合には情報を転送しないこととし,これにより情報の伝搬は情報元から所定の範囲に限定されることは,形成するグループにおける特定の位置の周囲の円形状の範囲の中心位置からの距離により制限したことを意味し,本願補正発明の「前記ネットワーク形成制限手段は,形成するネットワークにおける特定の位置から予め定めた範囲内の車両分布から求めた重心位置,または該特定位置の周囲の任意形状の範囲の中心位置からの距離により制限したこと」と「前記グループ形成制限手段は,形成するグループにおける特定の位置から予め定めた範囲内の車両分布から求めた重心位置,または該特定位置の周囲の形状の範囲の中心位置からの距離により制限したこと」の点で共通する。


よって,本願補正発明と刊行物記載発明は,以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「車両間通信機と,
周囲の車両とグループを形成するグループ形成処理手段と,
グループ形成車両間で情報交換処理を行う情報交換処理手段とを備え,
前記グループ形成処理手段には,グループ形成範囲を制限するグループ形成制限手段を備える車両間通信装置において,
前記グループ形成制限手段は,形成するグループにおける特定の位置から予め定めた範囲内の車両分布から求めた重心位置,または該特定位置の周囲の形状の範囲の中心位置からの距離により制限したことを特徴とする車両間通信装置。」である点。

<相違点1>
グループ形成処理手段により周囲の車両と形成され,情報交換処理手段が情報交換処理を行う車両を特定し,グループ形成制限手段により形成範囲が制限される「グループ」について,本願補正発明では「ネットワーク」であるのに対して,刊行物記載発明では「ネットワーク」とは記載されていない点。

<相違点2>
グループ形成制限手段が,該特定位置の周囲の形状の範囲の中心位置からの距離により制限したことについて,本願補正発明では,該特定位置の周囲の「任意」形状の範囲の中心位置からの距離により制限したのに対して,刊行物記載発明では,該特定位置の周囲の円形状の範囲の中心位置からの距離により制限した点。


(4)相違点についての判断
<相違点1について>
自律運行している複数の車両同士が車両間通信を行う際に「ネットワーク」を形成する必要があることは周知(特開2000-90395号公報の第2ページ第1欄第34行?第2欄第5行には「自律運行している車両同士が互いに自車の走行状態を提供しあう車両間の通信においては,自車の近隣を走行する車両と通信を行うためのネットワークを形成する必要がある。」などと記載され,特開2001-251235号公報の第3ページ第4欄第22?30行には「車両間通信は,近隣を走行する車両同士が,互いに速度,加速度,車間距離,操舵角等の個々の車両に関する情報や音声,画像,コンピュータ用データ等のマルチメディア情報を交換し合うためのものであり,…このような車両間通信を実現するためには,偶然近くに居合わせた車両同士が,自律的に通信ネットワークを構成,管理する必要が生じる。」と記載されている。)である。
したがって,刊行物記載発明において,自動車間の交信により渋滞情報を伝達可能であり,また,移動局間で情報がやり取りされる自動車は,ネットワークを形成していることが明らかであって,刊行物記載発明の「グループ」は「ネットワーク」に相当するといえるから,相違点1は実質的な相違点ではない。

<相違点2について>
情報の伝搬をどのような範囲に限定するかについては,情報元(例えば,小売り店舗,交通機関,ガソリン・スタンド,駐車場。前記「(2) (セ)?(タ)」を参照。),送信内容(例えば,特売情報,売場案内,発着案内情報,値段,空き情報。前記「(2) (セ)?(タ)」を参照。),通信量(前記「(2) (キ)」を参照。)などを考慮して,当業者が適宜なし得る設計的事項であり,刊行物記載発明にも,「送信元又は情報元からの独自の距離にて転送情報を破棄するか否か決定することも可能であ」る旨記載されていることを考慮すると,刊行物記載発明において,グループ形成制限手段は,該特定位置の周囲の任意形状の範囲の中心位置からの距離により制限した構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。


また,本願補正発明のように構成したことによる効果も,刊行物記載発明及び周知技術から予測できる程度のものである。

したがって,本願補正発明は,刊行物記載発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(5)まとめ
本願補正発明は,上記「(4)相違点についての判断」で示したとおり,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明・刊行物

平成20年7月7日付け手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年12月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「車両間通信機と,
周囲の車両とネットワークを形成するネットワーク形成処理手段と,
ネットワーク形成車両間で情報交換処理を行う情報交換処理手段とを備え,
前記ネットワーク形成処理手段には,ネットワーク形成範囲を制限するネットワーク形成制限手段を備える車両間通信装置において,
前記ネットワーク形成制限手段は,形成するネットワークから求めた重心位置,または中心位置からの距離により制限したことを特徴とする車両間通信装置。」

また,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に関する記載事項は,前記「第2 (2)刊行物」に記載したとおりである。


第4 当審の判断

本願発明は,前記「第2 平成20年7月7日付け手続補正についての補正却下の決定」で検討した本願補正発明における「前記ネットワーク形成制限手段は,形成するネットワークにおける特定の位置から予め定めた範囲内の車両分布から求めた重心位置,または該特定位置の周囲の任意形状の範囲の中心位置からの距離により制限した」の限定を省いて,「前記ネットワーク形成制限手段は,形成するネットワークから求めた重心位置,または中心位置からの距離により制限した」としたものである。

そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 (4)相違点についての判断」に記載したとおり,刊行物記載発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物記載発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび

以上のとおり,本願発明は,刊行物記載発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-27 
結審通知日 2010-10-06 
審決日 2010-10-19 
出願番号 特願2003-26547(P2003-26547)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丹治 彰青木 健  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 稲葉 和生
圓道 浩史
発明の名称 車両間通信装置  
代理人 木村 良雄  

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