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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1228067
審判番号 不服2008-9176  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-11 
確定日 2010-12-06 
事件の表示 特願2005- 2804「インクジェット式記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月28日出願公開、特開2005-111995〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年4月5日(優先日:平成11年12月1日)に出願された特願2000-103652号を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願した平成17年1月7日の出願であって、原審において平成19年12月6日付けで拒絶の理由が通知され、それに対して平成20年2月12日に手続補正がなされたが、同年3月7日付けで拒絶査定がなされ、それに対して同年4月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。
その後、平成21年12月24日付けで審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成22年3月8日に回答がなされ、当審において同年4月16日付けで拒絶の理由が通知され、それに対して同年6月21日に手続補正がなされ、さらに当審において同年7月2日付けで最後の拒絶の理由が通知され、それに対して同年9月2日に手続補正がなされたものである。

第2.平成22年9月2日の手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年9月2日の手続補正を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の内容
平成22年9月2日の手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正であって、そのうち特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前(平成22年6月21日の手続補正後のもの。)に、
「ドット形成要素が配列され、主走査方向に往復移動されるインクジェット式の記録ヘッドと、
該記録ヘッドと対向する位置において、副走査方向に搬送される被記録材を支えるプラテンと、
前記被記録材の副走査方向への搬送、前記記録ヘッドの主走査方向への往復移動、及び記録ヘッドのインク吐出動作を記録データに基づいて制御する制御部であって、予め特定された一のサイズの前記被記録材の記録において、
第1ポジションから前記記録ヘッドを加速して第3ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、
前記往復移動の範囲に関して前記第1ポジションよりも外側となる第2ポジションから前記記録ヘッドを加速して前記第3ポジションよりも外側となる第4ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードと、を実行する制御部と、
前記プラテンにおける前記被記録材を支える面は、互いに離間して複数設けられ、
前記複数の前記被記録材を支える面の間で、かつ前記ドット形成要素と対向する位置に形成された複数の溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁と、を備えるインクジェット式記録装置。」
とあったものを、
「ドット形成要素が配列され、主走査方向に往復移動されるインクジェット式の記録ヘッドと、
該記録ヘッドと対向する位置において、副走査方向に搬送される被記録材を支えるプラテンと、
前記被記録材の副走査方向への搬送、前記記録ヘッドの主走査方向への往復移動、及び記録ヘッドのインク吐出動作を記録データに基づいて制御する制御部であって、予め特定された一のサイズの前記被記録材の記録において、
第1ポジションから前記記録ヘッドを加速して第3ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、
前記往復移動の範囲に関して前記第1ポジションよりも外側となる第2ポジションから前記記録ヘッドを加速して前記第3ポジションよりも外側となる第4ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードと、を実行する制御部と、
前記プラテンにおける前記被記録材を支える面は、互いに離間して複数設けられ、
前記プラテンの、前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲するために、前記複数の前記被記録材を支える面の間で、前記被記録材が搬送される副走査方向に複数延設され、前記主走査方向に並んで且つ前記記録ヘッドに向かって突設された溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁と、を備えるインクジェット式記録装置。」(以下、「本願補正発明」という。下線は審決において付した。以下同じ。)と補正するものである。

本件補正後の請求項1に係る発明についての補正内容は、「溝形成用壁」について、補正前の請求項1における「前記複数の前記被記録材を支える面の間で、かつ前記ドット形成要素と対向する位置に形成された複数の溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁」を、「前記プラテンの、前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲するために、前記複数の前記被記録材を支える面の間で、前記被記録材が搬送される副走査方向に複数延設され、前記主走査方向に並んで且つ前記記録ヘッドに向かって突設された溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁」とするものである。

2.補正の適否についての検討:新規事項について
本件補正により請求項1においては、「溝形成用壁」について、「前記被記録材が搬送される副走査方向に複数延設され、前記主走査方向に並んで且つ前記記録ヘッドに向かって突設された」を含む補正がなされた。
しかしながら、「溝形成用壁」が「被記録材が搬送される副走査方向に複数延設され、前記主走査方向に並ん」だ構成は、出願当初の明細書又は図面には記載も示唆もされておらず、また、出願当初の明細書又は図面の記載から、自明の事項であるとも認められない。
そうすると、請求項1についての補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.補正の適否についての検討:独立特許要件について
上記「第2.2.」のように、本件補正は、適法になされていないことが明らかであるが、念のため、独立特許要件についても検討しておく。

ア.本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2.1.」に示したとおり、
「ドット形成要素が配列され、主走査方向に往復移動されるインクジェット式の記録ヘッドと、
該記録ヘッドと対向する位置において、副走査方向に搬送される被記録材を支えるプラテンと、
前記被記録材の副走査方向への搬送、前記記録ヘッドの主走査方向への往復移動、及び記録ヘッドのインク吐出動作を記録データに基づいて制御する制御部であって、予め特定された一のサイズの前記被記録材の記録において、
第1ポジションから前記記録ヘッドを加速して第3ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、
前記往復移動の範囲に関して前記第1ポジションよりも外側となる第2ポジションから前記記録ヘッドを加速して前記第3ポジションよりも外側となる第4ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードと、を実行する制御部と、
前記プラテンにおける前記被記録材を支える面は、互いに離間して複数設けられ、
前記プラテンの、前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲するために、前記複数の前記被記録材を支える面の間で、前記被記録材が搬送される副走査方向に複数延設され、前記主走査方向に並んで且つ前記記録ヘッドに向かって突設された溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁と、を備えるインクジェット式記録装置。」
というものである。
ここで、「溝形成用壁」が「被記録材が搬送される副走査方向に複数延設され、前記主走査方向に並ん」だ構成は、出願当初の明細書又は図面には記載も示唆もされておらず、また、明細書又は図面の記載から、自明の事項であるとすることもできないことは、上記「第2.2.」において述べたとおりである。
そこで、本願の出願当初の明細書又は図面の記載を参照するに、本願の出願当初の明細書の段落【0058】には、
「図11乃至図13は、更に本発明の他の実施の形態を示し、図11は本実施の形態に係るプラテンの要部平面図、図12は図11のXII-XII線断面図、図13は図11のXIII-XIII線断面図である。本実施の形態に係るインクジェット式記録装置のプラテンは、インク受け用の貫通穴1,2,3,4内に、その貫通状態を維持して前記記録ヘッド側から反対側に傾斜して設けられた傾斜部45と、該傾斜部45上にその傾斜方向に沿って溝48が形成されるように互いに離間して立設された複数の溝形成用壁38とを備え、該溝形成用壁38の頂面は前記貫通穴1,2,3,4の前記開口面と離間する下位位置となるように形成されている。その他の構成は上記実施の形態のものと同様なので同一部分に同一符号を付してその説明は省略する。」
と記載され、段落【0059】には、
「本実施の形態によれば、図9に示した実施の形態のものと同様に、被記録材に左右両端余白ゼロの印刷を実行する際に、記録ヘッドから吐出されたインクの内で被記録材の両辺より外側にはみ出たものは、記録ヘッドのドット形成要素の範囲を囲える大きさの開口を備えた当該インク受け用の貫通穴1,2,3,4内に直接入る。そして、その頂面が前記貫通穴1,2,3,4の前記開口面と離間して下位位置にある複数の溝形成用壁38にガイドされつつ溝48底部に到達する。従って、前記下位位置にある溝形成用壁38が前記インク吸収材7と同様にインク捕獲機能を発揮し、インクの浮遊ミストの発生が殆どなくなる。その結果、インクジェット式記録装置で被記録材の左右の余白をゼロにする写真並みの高画質印刷を実行しても、前記被記録材の左右両辺部分において印刷品質の低下の虞がほとんどない。更に、上記傾斜構造により、溝48底部に付着したインクはある程度たまると、傾斜面を流下して当該インク受け用1,2,3,4穴内から排出される。」
と、記載されており、さらに、図11及び図12の記載から、「溝形成用壁」が「被記録材が搬送される副走査方向に延設され、主走査方向に複数並んだ」構成が開示されていると認められる。
そこで、本願補正発明は、下記のとおりのものであるとして、以下検討を行う。
「ドット形成要素が配列され、主走査方向に往復移動されるインクジェット式の記録ヘッドと、
該記録ヘッドと対向する位置において、副走査方向に搬送される被記録材を支えるプラテンと、
前記被記録材の副走査方向への搬送、前記記録ヘッドの主走査方向への往復移動、及び記録ヘッドのインク吐出動作を記録データに基づいて制御する制御部であって、予め特定された一のサイズの前記被記録材の記録において、
第1ポジションから前記記録ヘッドを加速して第3ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、
前記往復移動の範囲に関して前記第1ポジションよりも外側となる第2ポジションから前記記録ヘッドを加速して前記第3ポジションよりも外側となる第4ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードと、を実行する制御部と、
前記プラテンにおける前記被記録材を支える面は、互いに離間して複数設けられ、
前記プラテンの、前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲するために、前記複数の前記被記録材を支える面の間で、前記被記録材が搬送される副走査方向に延設され、前記主走査方向に複数並んで且つ前記記録ヘッドに向かって突設された溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁と、を備えるインクジェット式記録装置。」

イ.引用刊行物
(1)本願優先日前に頒布された刊行物である特開平8-169155号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある。
(1a)「【発明が解決しようとする課題】このインクジェットプリンタを用いて、記録媒体、例えばテープに隙間なく塗り潰すような印刷(べた塗り印刷)を行なった場合は、テープの縁端(例えば幅方向)に塗り残りができることがあるという問題点がある。」(段落【0005】)
(1b)「本発明の課題は、このような点に鑑みて、テープ等の記録媒体の縁に塗り残しが発生することなく、記録媒体の縁端の一部、全幅、全長あるいは全面を隙間無く塗りつぶす印刷(以下において、このような印刷動作を「べた塗り印刷」として総称するものとする。)を行うことの可能なインクジェットプリンタを実現することにある。」(段落【0009】)
(1c)「これに加えて、本発明の課題は、べた塗り印刷時において吐出したインク滴が案内部材等に付着して搬送される記録媒体を汚してしまうことの無いインクジェットプリンタを実現することにある。」(段落【0010】)
(1d)「また、本発明では、上記の構成に加えて、このようなはみ出し印刷時に印刷ヘッドから吐出するインク滴を回収するインク回収手段を有する構成を採用している。この構成によれば、吐出したインク滴が、印刷ヘッドに対峙している案内部材等に付着することを回避でき、したがって、後続の記録媒体がそれらに付着したインク滴で汚れてしまうこともない。」(段落【0013】)
(1e)「また、このテープカートリッジは収納されているテープ幅が異なるので、それに応じてべた塗り印刷のための印刷範囲を適切に設定できるようにするためには、テープカートリッジが収納されているテープの幅寸法を示すための寸法表示手段を備え、前記印刷駆動制御手段が、この寸法表示手段によって表示される幅寸法を読み取るための読み取り手段を備えた構成を採用し、読み取った幅寸法に基づき前記印刷ヘッドによる前記第1の方向の印刷範囲を記録媒体の縁端より外側に外れた位置までとなるように設定できるようにすればよい。」(段落【0021】)
(1f)「【作用】
例えば、本発明のインクジェットプリンタにより記録媒体の幅方向あるいは長さ方向を隙間無く塗りつぶすべた塗り印字を行う場合には、印刷駆動制御手段によって、記録媒体の幅あるいは長さよりも広い印刷範囲が設定される。従って、印刷ヘッドによる印刷が、搬送される記録媒体の印刷開始側の縁端に到る前から開始され、記録媒体の印刷終了側の縁端を通過した後の時点で終了するように行われる。印刷の開始位置を印刷開始側の縁端よりも充分な距離だけ手前の位置とし、印刷終了位置を印刷終了側の縁端から充分な距離だけ通過した位置にすることにより、記録媒体の双方の縁端に塗り残こしの状態が発生することはない。」(段落【0023】)
(1g)「図1および図2を参照して説明すると、インクジェットプリンタ1は、全体として薄い直方体形状のケーシング101を有しており、その上面の前側半分の部分が操作面102となっている。ここには、各種のキーが配列されており、印刷動作を指示するための印刷ボタン103、電源ボタン104等も含まれている。ケーシング101の後側半分の部分には、開閉蓋105が取付けられている。この開閉蓋105は操作面102の側からみて内部が開放されるようにその後端を中心として開閉することができ、操作面102に配列された蓋開閉ボタン106を操作することによりそのロックを解除して開けることができる。」(段落【0027】)
(1h)「この蓋105を開けると、内部には後述するテープカートリッジ3の装着部23が形成されている。したがって、この蓋を開くことにより、テープカートリッジ3の着脱を行うことができる。蓋105には透明の窓105aが取付けられており、ここを介して、テープカートリッジ3の装着の有無を確認することができる。この蓋105の隣接位置には、操作面102のキーを介して入力した文字情報等を表示するための液晶表示部107が配置されている。」(段落【0028】)
(1i)「次に、図3には、ケーシング101内に搭載されているインクジェットプリンタ1の主要部分の概略構成を示してある。図において、2は各部品を搭載するためのベースであり、ケーシング101の底板上に取付けられている。この上には、テープカートリッジ3、3個のインクタンク4(4C、4M、4Y)、およびインクジェト式の印刷ヘッド5が配置されている。印刷ヘッド5はヘッドキャリッジ6に担持されており、ヘッドキャリッジ6は、ベース2の左右両側壁21、22の間に架け渡したリードねじ7によって支持されている。キャリッジ6は、リードねじ7と平行に配置されたガイド軸(図示せず)によって回転不可の状態で左右(リードねじの軸線方向)に移動自在に支持されている。したがって、リードねじ7を回転することにより、ヘッドキャリッジ6およびそこに担持されている印刷ヘッド5を図において矢印A、Bで示す左右方向(第1の方向)に往復移動させることができる。」(段落【0030】)
(1j)「印刷ヘッド5の移動範囲の中央には、印刷ヘッド5に対向する状態にテープ案内部材8が配置されている。このテープ案内部材8は、サーマルプリンタ等の他の印刷形式の印刷ヘッドに対向配置されているプラテンに対応する部材であり、印刷ヘッド5による印刷位置を規定している。」(段落【0031】)
(1k)「ここで、本例では、この案内部材8によってインク回収手段が構成されている。図5に示すように、本例の案内部材8の表面はインクを吸収通過可能な長方形のインクフィルタ81によって形成されている。このインクフィルター81は、例えばステンレススチール製のメッシュフィルタから構成することができる。このインクフィルタ81は、インク吸収材から構成した直方体形状のインク吸収部82の表面に取付けられている。したがって、案内部材8の表面に付着したインクはインクフィルタ81を通って、インク吸収体82の側に吸収される。」(段落【0032】)
(1l)「次に、テープカートリッジ3から繰り出されるテープTの搬送路を説明する。テープTはテープ送りローラ12を回転することにより繰り出される。このテープ送りローラ12における小径部分の外周に接した状態で、PETフィルムからなる複数枚のテープガイド片13が配置されている。これらのテープガイド片13によって、テープTの先端が確実に搬送方向の前方側に向けて案内される。これらのテープガイド片13の搬送方向の前方側には、ステンレススチール製のテープガイド14が配置されている。このガイド14と、これに対峙させたガイド15によって、テープTは印字位置に向けて案内される。印刷位置は、印刷ヘッド5とこれに対峙させた案内部材8によって規定される。案内部材8の表面はメッシュフィルタ81となっており、これが、インク吸収材から形成されたインク吸収部82の表面に配置されている。この印刷位置を通過したテープTは、テープ押さえローラ15によって、テープガイド16の側に押さえ付けられながら、テープ切断位置17を通過して、テープ排出口101bから外部に搬出される。」(段落【0039】)
(1m)「上述したテープ送りローラ12、および印刷ヘッド5を担持したヘッドキャリッジ6の駆動力伝達系を説明する。図3および図4に示すように、ベース2の側壁22の内側には、テープ送りモータ18が取付けられている。このモータ出力軸18aは、歯車列181を介して、テープ送りローラ12の回転軸121の端に連結されている。本例では、この歯車列181は、動力切り換え機能を備えており、ヘッドキャリッジ6が側壁22の側に移動して、そこから内部に突出している突起182を押すと、動力伝達経路が切り換わり、モータ18の動力がキャップ機構9の側に伝達されるように構成されている。このように本例では、記録媒体であるテープの搬送手段が、テープ送りローラ12と、この駆動源であるモータ18と、モータ18からローラ12への動力伝達用の歯車列181によって基本的に構成されている。」(段落【0040】)
(1n)「一方、ベース上の他方の側壁21の内側には、ヘッド駆動モータ19が配置されている。このモータ出力軸19aは、歯車列から構成される減速機構191を介して、リードねじ7の端部に連結されている。」(段落【0041】)
(1o)「図6には、本例のインクジェットプリンタ1の制御系の概略構成を示してある。図において100はマイクロコンピュータから構成される制御回路であり、この入力側には、インクジェットプリンタ1の操作面102に配置されているキー群から構成される入力部110が接続されている。また、テープ幅を検出するための検出部105cが接続されている。制御回路100の出力側には、各種の表示を行うための液晶表示装置などの表示部107、印刷ヘッド5による印刷動作を制御するためのプリンタコントローラ140、各モータ18、19を駆動制御するためのモータドライバ150、160が接続されている。制御回路100のROM内に予め格納された制御プログラムに基づき、この制御回路100の制御の下に、装着されたテープカートリッジ3に収納されているテープ幅に対応した印刷可能範囲が設定され、以下に述べるべた塗り印字等の動作が行われる。このように、本例では、制御回路100を中心として、印刷駆動制御手段が構成されている。」(段落【0046】)
(1p)「このように構成した本例のインクジェットプリンタ1により、テープTの全幅をインクで塗りつぶすべた塗り印刷を説明する。この場合には、テープTの幅方向の両端にはマージンが設定されず、印刷範囲は、テープ幅W1よりも広い範囲W(p1)に設定される。モータ18を駆動してテープ送りローラ12を回転することにより、テープTはテープカートリッジ3から繰り出されて印刷位置に向けて搬送される。テープTの搬送動作に同期させてモータ19によってリードねじ7を回転させて、キャリッジ6によって印刷ヘッド5を移動させる。印刷ヘッド5を図の矢印Aで示す方向の移動させて、印刷位置に搬送されたテープTの縁端T1に到る手間の時点、図4におけるT0の時点から印刷を開始する。また、この往動による印刷の終了時点は、テープTの他方の縁端T2を通過した後の時点、図4におけるT3の時点である。」(段落【0047】)
(1q)「このように、本例のインクジェットプリンタ1においては、搬送されるテープ幅W1よりも広い印刷範囲で印刷を行うので、テープTの縁端T1あるいはT2の部分に、塗り残しが発生することはない。」(段落【0048】)
(1r)「ここで、このような印刷を行うと、テープTの縁端T1の手前側での印刷動作、およびテープTの縁端T2を通過した後での印刷動作において、印刷ヘッドから吐出したインク滴は、テープT上に付着することなく、案内部材8の側に飛翔する。本例では、案内部材8の表面81を、印刷可能範囲に渡って配置してあるので、吐出したインク滴が他の部分に飛翔してそこに付着することがなく、案内部材の表面81に付着する。さらに、本例では、案内部材8は、メッシュフィルタ81と、これに連続したインク吸収部82から構成されている。したがって、案内部材の表面81に向けて吐出され、ここに付着したインク滴は、このメッシュフィルタ81を通過して、後ろ側のインク吸収部82に至り、ここに吸収保持される。よって、案内部材表面にインク滴が付着したままの状態になり、後に搬送されてくるテープTが、インク滴によって汚れてしまうことがない。」(段落【0049】)
(1s)「以上説明したように、本例のインクジェットプリンタ1においては、装着されたテープ幅よりも左右に広い印刷範囲を設定して、テープ全幅のベタ塗り印刷を行うようにすると共に、案内部材として、印刷可能な範囲を含む範囲にわたってインクを吸収可能なインク吸収面を備えたものを採用している。したがって、テープの両端部分に塗り残しを生ずることなくべた塗りを行うことができる。また、テープの両端から外れた位置での印刷によって吐出されたインク滴は、案内部材によって吸収されてしまうので、搬送されるテープが汚れることもない。」(段落【0054】)
(1t)「なお、テープ表面おける幅方向の一方の縁端側のみをべた塗り印刷する場合には、その縁端の手前の時点から、あるいはこの縁端を通過した時点まで印刷動作を行うように印刷範囲を設定すればよい。」(段落【0055】)
(1u)「(第2の実施例)図7、8、9には、ポスター等の大きな寸法の記録媒体に対してベタ塗り印刷を行うのに最も適したインクジェットプリンタの主要部分を示してある。但し、前述の第1の実施例中に取り上げたテープ等の比較的小さな寸法の記録媒体に対しても本例を適用できることは言うまでもない。」(段落【0057】)
(1v)「印刷ヘッドの下側には、少なくとも印刷ヘッドの往復移動範囲に渡って、記録媒体205の案内部材が設けられ、その案内部材にはインク回収機構211が配置されている。図8に示すように、このインク回収機構211は、搬送される記録紙の幅よりも充分に幅広の長方形のインク回収容器212と、この内部に配置されたインク吸収材213と、搬送される記録紙を案内するための複数本のガイドリブ214を備えている。インク回収容器212は、底板212aと、この周囲から立ち上がっている前後左右の側壁212b,212c,212d,212eとを有し、上側は開放状態となっている。インク吸収材213は、インク回収容器212の底面212a上において、その後側壁212bから左右の側壁212c、212dに沿うように、コの字状に配置されている。そして、このインク吸収材213の三方内周縁と、インク回収容器の前側壁212eとによって囲まれた底壁212aからは、扇形のガイドリブ214が、幅方向に等しいピッチで垂直に突出した状態に形成されている。これらのリブ214の上端はインク回収容器212の上端面よりも僅かに上方に突出しており、したがって、このインク回収容器212の上を通過する記録紙205は、これらのリブ214の上端部分によって案内される。」(段落【0061】)
(1w)「なお、本例においては、記録紙205の幅寸法の検出を次のように行っている。すなわち、ヘッドキャリッジ202の側面に反射型光学センサ231を取付けておく。このセンサ231によって、搬送される記録紙の幅寸法、あるいは、記録紙の幅方向の端が通過する位置を検出する。この検出結果に基づき、記録紙の両端よりも広い範囲に渡る印字範囲を設定するようになっている。センサ231は、キャリッジの両側に設置して、両方のセンサの検出結果に基づき両端位置を検出すればよい。あるいは、1個のセンサを用いる場合には、印刷前にキャリッジを幅方向に移動させることにより、記録紙の両端位置を検出するようにすればよい。」(段落【0067】)

上記記載事項(1a)?(1w)及び図面の記載からみて、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「インクジェットプリンタ1は、ケーシング101を有しており、
各部品を搭載するためのベース2は、ケーシング101の底板上に取付けられていて、この上には、テープカートリッジ3、3個のインクタンク4(4C、4M、4Y)、およびインクジェト式の印刷ヘッド5が配置されており、印刷ヘッド5はヘッドキャリッジ6に担持されており、ヘッドキャリッジ6は、ベース2の左右両側壁21、22の間に架け渡したリードねじ7によって支持されていて、キャリッジ6は、リードねじ7と平行に配置されたガイド軸によって回転不可の状態で左右(リードねじの軸線方向)に移動自在に支持されており、したがって、リードねじ7を回転することにより、ヘッドキャリッジ6およびそこに担持されている印刷ヘッド5を図において矢印A、Bで示す左右方向(第1の方向)に往復移動させることができるものであり、
印刷ヘッド5の移動範囲の中央には、印刷ヘッド5に対向する状態にテープ案内部材8が配置されていて、このテープ案内部材8は、サーマルプリンタ等の他の印刷形式の印刷ヘッドに対向配置されているプラテンに対応する部材であり、印刷ヘッド5による印刷位置を規定しており、
この案内部材8によってインク回収手段が構成されていて、案内部材8の表面はインクを吸収通過可能な長方形のインクフィルタ81によって形成されており、このインクフィルター81は、例えばステンレススチール製のメッシュフィルタから構成することができ、このインクフィルタ81は、インク吸収材から構成した直方体形状のインク吸収部82の表面に取付けられていて、案内部材8の表面に付着したインクはインクフィルタ81を通って、インク吸収体82の側に吸収され、
テープカートリッジ3から繰り出されるテープTはテープ送りローラ12を回転することにより繰り出され、テープTは印字位置に向けて案内されて、印刷位置は、印刷ヘッド5とこれに対峙させた案内部材8によって規定されるものであり、この印刷位置を通過したテープTは、テープ排出口101bから外部に搬出されるものであって、
テープ送りローラ12、および印刷ヘッド5を担持したヘッドキャリッジ6の駆動力伝達系は、記録媒体であるテープの搬送手段が、テープ送りローラ12と、この駆動源であるモータ18と、モータ18からローラ12への動力伝達用の歯車列181によって基本的に構成されていて、ヘッド駆動モータ19のモータ出力軸19aは、歯車列から構成される減速機構191を介して、リードねじ7の端部に連結されており、
マイクロコンピュータから構成される制御回路100の出力側には、印刷ヘッド5による印刷動作を制御するためのプリンタコントローラ140、各モータ18、19を駆動制御するためのモータドライバ150、160が接続されていて、制御回路100のROM内に予め格納された制御プログラムに基づき、この制御回路100の制御の下に、装着されたテープカートリッジ3に収納されているテープ幅に対応した印刷可能範囲が設定され、べた塗り印字等の動作が行われ、
テープTの全幅をインクで塗りつぶすべた塗り印刷の場合には、テープTの幅方向の両端にはマージンが設定されず、印刷範囲は、テープ幅W1よりも広い範囲W(p1)に設定され、
搬送されるテープ幅W1よりも広い印刷範囲で印刷を行うと、テープTの縁端T1の手前側での印刷動作、およびテープTの縁端T2を通過した後での印刷動作において、印刷ヘッドから吐出したインク滴は、テープT上に付着することなく、案内部材8の側に飛翔するが、案内部材8の表面81を、印刷可能範囲に渡って配置してあるので、吐出したインク滴が他の部分に飛翔してそこに付着することがなく、案内部材の表面81に付着して、案内部材8は、メッシュフィルタ81と、これに連続したインク吸収部82から構成されているから、案内部材の表面81に向けて吐出され、ここに付着したインク滴は、このメッシュフィルタ81を通過して、後ろ側のインク吸収部82に至り、ここに吸収保持されることにより、案内部材表面にインク滴が付着したままの状態になり、後に搬送されてくるテープTが、インク滴によって汚れてしまうことがない、
インクジェットプリンタ1。」(以下「引用発明1」という。)

(2)本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平9-300766号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
(2a)「【発明の属する技術分野】
本発明は記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に移動させながら記録媒体を副走査方向に搬送して記録を行なうシリアル型記録装置に関する。」(段落【0001】)
(2b)「一方、キャリッジ4を移動させる場合、図6及び図7に示すように記録領域での定速移動を行うために定速領域の前後に加減速領域を設定しなければならない。そして、印刷(記録)が可能な最大の記録媒体の全面にわたって記録を行う場合、即ち、最大記録可能領域に記録するときには、図6(a)及び図7(a)に示すようにキャリッジ4は最大記録可能領域の前後に加減速領域を加えた最大可動域で移動することになる。」(段落【0020】)
(2c)「この最大記録可能領域に両方向印刷で記録するとき、キャリッジ4を正方向に移動させるときに加速を開始する位置を第1加速開始位置HP1とし、キャリッジ4を逆方向に移動させるときに加速を開始する位置を第2加速開始位置HP2とする。」(段落【0021】)
(2d)「また、使用する記録媒体が最大記録可能領域よりも小さい場合、或いは、1走査毎にキャリッジを第1又は第2加速開始位置に戻すのではなく、記録データが終わった時点で停止して、この位置から次の記録データの記録位置まで最短距離でキャリッジを移動させる所謂最短距離印字を行う場合には、図6(b)及び図7(b)に示すように、キャリッジ4の加速開始位置は上述した第1加速開始位置HP1と第2加速開始位置HP2との間の位置になり、両側板3,3から離れた位置となる。」(段落【0022】)
(2e)「そこで、この実施例のインクジェット記録装置においては、第1加速開始位置HP1又は第2加速開始位置HP2からキャリッジ4の加速を開始させるときの加速条件(これを「第1加速条件」とする。)に対して、第1加速開始位置HP1と第2加速開始位置HP2との間の位置からキャリッジ4の加速を開始させるときの加速条件(これを「第2加速条件」とする。)を緩やかに設定している。」(段落【0024】)
(2f)「つまり、図8に示すように、第1加速開始位置HP1又は第2加速開始位置HP2からキャリッジ4の加速を開始させるときの第1加速条件で加速を行なったときにキャリッジ4が目標速度の到達するまでの要する移動距離としての第1助走距離(面積)Laに対して、第1加速開始位置HP1と第2加速開始位置HP2との間の位置からキャリッジ4の加速を開始させるときの第2加速条件で加速を行なったときにキャリッジ4が目標速度の到達するまでの要する移動距離としての第2助走距離(面積)Lbが大きくなる(La<Lb)ように設定している。」(段落【0025】)
(2g)「このようにすることによって、第1加速開始位置HP1と第2加速開始位置HP2との間の位置からキャリッジ4の加速を開始させるときにメインシャフト2に発生する衝撃荷重が低減して、メインシャフト2の剛性の低下を補うことができるので、印写画像の直線性の低下を防止できて、記録画像の画像品質が向上する。そして、メインシャフト2の剛性を上げることなく、印写画像の直線性の低下を防止できることからコストの上昇を伴うこともない。」(段落【0026】)
(2h)上記(2c),(2d),(2e)及び図6,図7,図8から 印刷したい領域は印刷が可能な最大領域よりもその幅が狭く、キャリッジの移動について、第1加速開始位置HP1から加速が行われて印刷が可能な最大領域を定速で移動した後減速が行われて第2加速開始位置HP2で移動を終了し、また、第2加速開始位置HP2から加速が行われて印刷が可能な最大領域を定速で移動した後減速が行われて第1加速開始位置HP1で移動を終了することと、第1加速開始位置HP1の内側から加速が行われて印刷したい領域を定速で移動した後減速が行われて第2加速開始位置HP2の内側で移動を終了し、また、第2加速開始位置HP2の内側から加速が行われて印刷したい領域を定速で移動した後減速が行われて第1加速開始位置HP1の内側で移動を終了することが看取できる。

上記記載事項(2a)?(2h)の記載及び図面を含む引用例2全体の記載からみて、引用例2には以下の発明が記載されているものと認められる。
「記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に移動させながら記録媒体を副走査方向に搬送して記録を行なうシリアル型記録装置において、
印刷(記録)が可能な最大の記録媒体の全面にわたって記録を行うときには、キャリッジは、第1加速開始位置HP1から加速が行われて印刷が可能な最大領域を定速で移動した後減速が行われて第2加速開始位置HP2で移動を終了し、
印刷が可能な最大領域よりもその幅が狭い印刷したい領域に記録を行うときには、キャリッジは、第1加速開始位置HP1の内側から加速が行われて印刷したい領域を定速で移動した後減速が行われて第2加速開始位置HP2の内側で移動を終了する、
シリアル型記録装置。」(以下、「引用発明2」という。)

ウ.対比・判断
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「インクジェットプリンタ1」が本願補正発明の「インクジェット式記録装置」に、以下同様に「印刷ヘッド5」が「インクジェット式の記録ヘッド」に、「矢印A、Bで示す左右方向(第1の方向)」が「主走査方向」に、「テープ案内部材8」が「プラテン」に、「テープT」が「被記録材」に、「制御回路100」が「制御部」に、それぞれ相当している。
引用発明1における「テープT」は、「テープ送りローラ12を回転することにより繰り出され、テープTは印字位置に向けて案内されて、印刷位置は、印刷ヘッド5とこれに対峙させた案内部材8によって規定されるものであり、この印刷位置を通過したテープTは、テープ排出口101bから外部に搬出されるもの」であるから、このテープTの案内される向き及び搬出される向きは、「副走査方向」であるということができる。
引用発明1における「印刷ヘッド」は「インク滴」を「吐出」するものであることは明らかである。
また、引用発明1において、「記録媒体であるテープの搬送手段が、テープ送りローラ12と、この駆動源であるモータ18と、モータ18からローラ12への動力伝達用の歯車列181によって基本的に構成されて」おり、同じく引用発明1において、「ヘッド駆動モータ19のモータ出力軸19aは、歯車列から構成される減速機構191を介して、リードねじ7の端部に連結されており」、「リードねじ7を回転することにより、ヘッドキャリッジ6およびそこに担持されている印刷ヘッド5を図において矢印A、Bで示す左右方向(第1の方向)に往復移動させることができるもの」である。
そして、引用発明1における「制御回路100」は、「印刷ヘッド5による印刷動作を制御するためのプリンタコントローラ140、各モータ18、19を駆動制御するためのモータドライバ150、160が接続されていて」、「ROM内に予め格納された制御プログラムに基づき」、「装着されたテープカートリッジ3に収納されているテープ幅に対応した印刷可能範囲」を「設定」し、「べた塗り印字等の動作」を行うものであるから、すなわち、引用発明1の「制御回路100」は、「記録媒体であるテープの副走査方向への搬送」、「印刷ヘッド5の主走査方向への往復移動」、及び、「印刷ヘッド5のインク吐出動作を」制御するものということができ、したがって、引用発明1の「制御回路100」は、「前記被記録材の副走査方向への搬送、前記記録ヘッドの主走査方向への往復移動、及び記録ヘッドのインク吐出動作を制御する制御部」の点で、本願補正発明の「制御部」と一致するということができる。
引用発明1は、「制御回路100の制御の下に、装着されたテープカートリッジ3に収納されているテープ幅に対応した印刷可能範囲が設定され」るものであるから、引用発明は、「予め特定された一のサイズの前記被記録材の記録」が可能である点で、本願補正発明と共通する。
引用発明1は、「テープTの全幅をインクで塗りつぶすべた塗り印刷の場合には、テープTの幅方向の両端にはマージンが設定されず、印刷範囲は、テープ幅W1よりも広い範囲W(p1)に設定され」、「搬送されるテープ幅W1よりも広い印刷範囲で印刷を」行うものであるから、引用発明1の「制御回路100」と本願補正発明の「制御部」は、「べた塗り印刷を行う」点で共通するということができる。
引用発明1は、「搬送されるテープ幅W1よりも広い印刷範囲で印刷を行うと、テープTの縁端T1の手前側での印刷動作、およびテープTの縁端T2を通過した後での印刷動作において、印刷ヘッドから吐出したインク滴は、テープT上に付着することなく、案内部材8の側に飛翔するが、案内部材8の表面81を、印刷可能範囲に渡って配置してあるので、吐出したインク滴が他の部分に飛翔してそこに付着することがなく、案内部材の表面81に付着して、案内部材8は、メッシュフィルタ81と、これに連続したインク吸収部82から構成されているから、案内部材の表面81に向けて吐出され、ここに付着したインク滴は、このメッシュフィルタ81を通過して、後ろ側のインク吸収部82に至り、ここに吸収保持されることにより、案内部材表面にインク滴が付着したままの状態になり、後に搬送されてくるテープTが、インク滴によって汚れてしまうことがない」ものであるから、引用発明1の「案内部材8」は、「前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲するため」の部分を有する点で、本願補正発明の「プラテン」と共通する。
以上から、本願補正発明と、引用発明1は、次の点で一致している。
「主走査方向に往復移動されるインクジェット式の記録ヘッドと、
該記録ヘッドと対向する位置において、副走査方向に搬送される被記録材を支えるプラテンと、
前記被記録材の副走査方向への搬送、前記記録ヘッドの主走査方向への往復移動、及び記録ヘッドのインク吐出動作を制御する制御部であって、予め特定された一のサイズの前記被記録材の記録において、
べた塗り印刷を実行する制御部と、
前記プラテンの、前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲する部分、を備えるインクジェット式記録装置。」

そして、以下の点で相違している。
(相違点1)
本願補正発明の「インクジェット式の記録ヘッド」は、「ドット形成要素が配列され」るものであるのに対して、引用発明1の「印刷ヘッド5」は、「ドット形成要素が配列され」るものであるか否かは明らかではない点。
(相違点2)
本願補正発明の「制御部」が、「記録ヘッドのインク吐出動作を制御する」に際して「記録データに基づいて」制御するものであるのに対して、引用発明1の「制御回路100」は、「記録ヘッドのインク吐出動作を制御する」ものであるが、「記録データに基づいて」制御するか否かについては記載されていない点。
(相違点3)
本願補正発明の「制御部」は、「第1ポジションから前記記録ヘッドを加速して第3ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、前記往復移動の範囲に関して前記第1ポジションよりも外側となる第2ポジションから前記記録ヘッドを加速して前記第3ポジションよりも外側となる第4ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードと、を実行する」のに対し、引用発明1の「制御回路100」は、「べた塗り印刷」を実行するものではあるが、そのような「第1動作モード」と「第2動作モード」とを実行するか否かについては記載されていない点。
(相違点4)
本願補正発明の「前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲する部分、を備えるプラテン」は、「前記プラテンにおける前記被記録材を支える面は、互いに離間して複数設けられ」、「前記複数の前記被記録材を支える面の間で、前記被記録材が搬送される副走査方向に延設され、前記主走査方向に複数並んで且つ前記記録ヘッドに向かって突設された溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁と、を備える」のに対し、引用発明1の「案内部材8」は「前記プラテンにおける前記被記録材を支える面は、互いに離間して複数設けられ」、「前記複数の前記被記録材を支える面の間で、前記被記録材が搬送される副走査方向に延設され、前記主走査方向に複数並んで且つ前記記録ヘッドに向かって突設された溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁と、を備える」ものではない点。

上記相違点について検討する。
(相違点1について)
「インクジェット式の記録ヘッド」を、「ドット形成要素が配列され」るものとすることは、インクジェット式記録装置において例示するまでもなく広く一般に採用されている事項であり、相違点1は、実質的な相違点にはあたらない。
(相違点2について)
「記録ヘッドのインク吐出動作を制御する」に際して「記録データに基づいて」制御することは、インクジェット式記録装置において例示するまでもなく広く一般に採用されている事項であり、相違点2は、実質的な相違点にはあたらない。
(相違点3について)
引用発明1に記載のインクジェットプリンタは、上記「第2.3.イ.」において示した(1a)に、
「……このインクジェットプリンタを用いて、記録媒体、例えばテープに隙間なく塗り潰すような印刷(べた塗り印刷)を行なった場合は、……」
と、同じく(1b)に、
「……記録媒体の縁端の一部、全幅、全長あるいは全面を隙間無く塗りつぶす印刷(以下において、このような印刷動作を「べた塗り印刷」として総称するものとする。)を行うことの可能な……」
と、同じく(1c)に、
「……べた塗り印刷時において……」
と、同じく(1d)に、
「……このようなはみ出し印刷時に……」
と、同じく(1e)に、
「また、このテープカートリッジは収納されているテープ幅が異なるので、それに応じてべた塗り印刷のための印刷範囲を適切に設定できるようにするためには、テープカートリッジが収納されているテープの幅寸法を示すための寸法表示手段を備え、前記印刷駆動制御手段が、この寸法表示手段によって表示される幅寸法を読み取るための読み取り手段を備えた構成を採用し、読み取った幅寸法に基づき前記印刷ヘッドによる前記第1の方向の印刷範囲を記録媒体の縁端より外側に外れた位置までとなるように設定できるようにすればよい。」
と、同じく(1f)に、
「【作用】
例えば、本発明のインクジェットプリンタにより記録媒体の幅方向あるいは長さ方向を隙間無く塗りつぶすべた塗り印字を行う場合には、印刷駆動制御手段によって、記録媒体の幅あるいは長さよりも広い印刷範囲が設定される。従って、印刷ヘッドによる印刷が、搬送される記録媒体の印刷開始側の縁端に到る前から開始され、記録媒体の印刷終了側の縁端を通過した後の時点で終了するように行われる。印刷の開始位置を印刷開始側の縁端よりも充分な距離だけ手前の位置とし、印刷終了位置を印刷終了側の縁端から充分な距離だけ通過した位置にすることにより、記録媒体の双方の縁端に塗り残こしの状態が発生することはない。」
と、同じく(1s)に、
「以上説明したように、本例のインクジェットプリンタ1においては、装着されたテープ幅よりも左右に広い印刷範囲を設定して、テープ全幅のベタ塗り印刷を行うようにすると共に、……」
と、同じく(1t)に、
「なお、テープ表面おける幅方向の一方の縁端側のみをべた塗り印刷する場合には、その縁端の手前の時点から、あるいはこの縁端を通過した時点まで印刷動作を行うように印刷範囲を設定すればよい。」
と、それぞれ記載されているとおり、「べた塗り印刷」は、印刷範囲の設定により行われるものであるから、印刷範囲の設定により、「べた塗り印刷」と、縁に余白を設けて記録を行う通常の印刷の双方を行うことができるものと認める。(なお、上記(1t)においては、「幅方向の一方の縁端側のみをべた塗り印刷」し、残る他端側については縁に余白を設けて記録を行う通常の印刷を行うよう設定することが記載されている。)
してみると、引用発明1に記載のインクジェットプリンタの「制御回路100」は、引用例1の記載、及び、上記相違点2についての検討から、
「前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードと、を実行する」
ということができる。
ここで、記録を行う幅が相違する場合に、印刷(記録)が可能な最大の記録媒体の全面にわたって記録を行うときには、キャリッジは、第1加速開始位置HP1から加速が行われて印刷が可能な最大領域を定速で移動した後減速が行われて第2加速開始位置HP2で移動を終了し、印刷が可能な最大領域よりもその幅が狭い印刷したい領域に記録を行うときには、キャリッジは、第1加速開始位置HP1の内側から加速が行われて印刷したい領域を定速で移動した後減速が行われて第2加速開始位置HP2の内側で移動を終了することは上記引用発明2に記載されている。
そして、引用発明1においても、前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードにおいて、同じ被記録材を用いても、記録を行う幅が第1動作モードよりも第2動作モードの方が幅が広くなることは自明であるから、引用発明1に引用発明2を適用して上記相違点3に係る本願補正発明の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
(相違点4について)
プラテンにおける被記録材を支える面が互いに離間して複数設けられるとともに、前記複数の前記被記録材を支える面の間で、かつドット形成要素と対向する位置に、インク吸収部材を有するインク受けであって、インク吸収部材がプラテンにおける被記録材を支える面より下方に設けられているインク受けを設けることは、本願優先日前に周知である。(以下、「周知技術1」という。例.特開平4-341848号公報、特開平5-286129号公報。)
また、インク捕獲機能を発揮するためにインクをガイドする複数の溝形成用壁を備えたインク受けも、本願優先日前に周知である。(以下、「周知技術2」という。例.特開平11-58753号公報、特開平9-123469号公報、実願平3-20603号(実開平4-117756号)のマイクロフイルム。)
そして、引用発明1の「前記被記録材における縁の外側に打ち捨てられたインクが付着する位置に、前記打ち捨てられたインクを受けて捕獲する部分、を備える案内部材8」(プラテン)に周知技術1を適用するにあたり、周知技術1のインク吸収部材を、周知技術2の、プラテンにおける複数の被記録材を支える面より低い位置に複数の溝形成用壁を設ける構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜採用し得る程度の事項にすぎず、その際、複数の溝形成用壁を主走査方向に複数並んで設ける構成とすることも、当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎない。
よって、上記相違点4に係る本願補正発明の構成は、引用発明1、周知技術1及び周知技術2から当業者が容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の効果も引用発明1、引用発明2、周知技術1及び周知技術2から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができない。
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

エ.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成22年9月2日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年6月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認められる。
「ドット形成要素が配列され、主走査方向に往復移動されるインクジェット式の記録ヘッドと、
該記録ヘッドと対向する位置において、副走査方向に搬送される被記録材を支えるプラテンと、
前記被記録材の副走査方向への搬送、前記記録ヘッドの主走査方向への往復移動、及び記録ヘッドのインク吐出動作を記録データに基づいて制御する制御部であって、予め特定された一のサイズの前記被記録材の記録において、
第1ポジションから前記記録ヘッドを加速して第3ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁に余白を設けて記録を行う第1動作モードと、
前記往復移動の範囲に関して前記第1ポジションよりも外側となる第2ポジションから前記記録ヘッドを加速して前記第3ポジションよりも外側となる第4ポジションで当該記録ヘッドの移動を終了することにより、前記被記録材における前記主走査方向の縁の外側に記録データを展開して記録を行う第2動作モードと、を実行する制御部と、
前記プラテンにおける前記被記録材を支える面は、互いに離間して複数設けられ、
前記複数の前記被記録材を支える面の間で、かつ前記ドット形成要素と対向する位置に形成された複数の溝形成用壁であって、当該溝形成用壁の頂面が前記プラテンにおける被記録材を支える面よりも低い位置に形成されている溝形成用壁と、を備えるインクジェット式記録装置。」

(1)引用例
当審拒絶理由に引用された引用例1、引用例2、及びその記載事項は、上記「第2.3.イ.」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、本願補正発明を特定する事項から、上記「第2.1.」で示した限定を省いたものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2.3.」で検討したとおり、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-01 
結審通知日 2010-10-06 
審決日 2010-10-19 
出願番号 特願2005-2804(P2005-2804)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 藏田 敦之
鈴木 秀幹
発明の名称 インクジェット式記録装置  
代理人 石井 博樹  

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