• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G11C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11C
管理番号 1228068
審判番号 不服2008-12049  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-12 
確定日 2010-12-07 
事件の表示 特願2004-373155「シフトレジスタとその駆動方法及び液晶表示パネルの駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日出願公開、特開2005-293817〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年12月24日(パリ条約による優先権主張2004年3月31日、大韓民国)の出願であって、平成19年11月2日付けで手続補正がなされ、平成20年2月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月12日に審判請求がなされるとともに、同年6月11日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成22年1月15日付けで審尋がなされ、同年6月15日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年6月11日付けの手続補正について
[補正の却下の決定の結論]
平成20年6月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?26を補正後の特許請求の範囲の請求項1?26と補正するものであって、そのうち、補正前後の請求項1の記載は以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
スタートパルスをシフトさせ、前記シフトされたスタートパルスを次の段に出力する多数のステージを有するシフトレジスタであって、前記多数のステージのそれぞれは、
第1ノードに制御されて第1クロック信号を出力ラインに供給するプルアップトランジスタと、
第1ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタと、
前記第1及び第2ノードを制御する制御部と、
前記第1ノードと第2クロック信号の入力ラインとの間に接続された補償キャパシタとを具備し、前記第2クロック信号は前記第1クロック信号とは異なり、そして、
前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号の移行電圧によるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させることを特徴とするシフトレジスタ。」

(補正後)
「【請求項1】
スタートパルスをシフトさせ、前記シフトされたスタートパルスを次の段に出力する多数のステージを有するシフトレジスタであって、前記多数のステージのそれぞれは、
第1ノードに制御されて第1クロック信号を出力ラインに供給するプルアップトランジスタと、
第1ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタと、
前記第1及び第2ノードを制御する制御部と、
前記第1ノードと第2クロック信号の入力ラインとの間に接続された補償キャパシタとを具備し、前記第2クロック信号は前記第1クロック信号とは異なり、そして、
前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号のローレベルによるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させるものであり、
前記第1クロック信号がローレベルからハイレベルへ移行する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに印加して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持することを特徴とするシフトレジスタ。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりである。

(補正事項1)
補正前の請求項1の「前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号の移行電圧によるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させる」を、
補正後の請求項1の「前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号のローレベルによるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させる」と補正すること。

(補正事項2)
補正前の請求項1の「・・・変化させることを特徴とするシフトレジスタ。」を、補正後の請求項1の「・・・変化させるものであり、 前記第1クロック信号がローレベルからハイレベルへ移行する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに印加して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持することを特徴とするシフトレジスタ。」と補正すること。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項1について
(1-1)補正の目的について
この補正は、補正前の請求項1の「前記第2クロック信号の移行電圧」を、補正後の請求項1の「前記第2クロック信号のローレベル」と補正して、第2クロック信号の電圧レベルを具体的に限定するものであるから、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(1-2)新規事項の追加の有無について
補正後の請求項1の「前記第2クロック信号のローレベル」は、本願の願書に最初に添付した明細書の0045段落に「ローに移行された第2クロック信号(/C1)」と記載されているから、本件補正は本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。よって、この補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(2)補正事項2について
(2-1)補正の目的について
この補正は、補正後の請求項1の「前記第1クロック信号がローレベルからハイレベルへ移行する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに印加して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持する」ことを追加することにより、第1ノードの電圧制御について技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)新規事項の追加の有無について
補正事項2により、「前記第1クロック信号がローレベルからハイレベルへ移行する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに印加して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持する」という事項が付加されているから、補正後の請求項1においては、第1クロック信号がローレベルからハイレベルへ移行する前、即ち、第1クロック信号がローレベルであるときに、ローレベルの第2クロック信号を印加しているものと認められる。
しかし、当初明細書等では、例えば0009段落に「第1クロック信号(C1)では図3のように一定のパルス幅を持つハイ状態電圧及びロー状態電圧が交番的に供給されて、第2クロック信号(/C1)(図示しない)が第1クロック信号(C1)と相反した極性を持つように供給される。」と記載されるように、第2クロック信号は第1クロック信号と相反した極性を持つことのみが記載されており、同時にロウレベルの同極性となるような制御が行われることは当初明細書等に記載されておらず、かつ、それらの記載から当業者にとって自明な事項とも認められないから、この補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものとは言えない。よって、この補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないものである。

(3)補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についてのまとめ
以上検討したとおり、補正事項2についての補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、補正事項2についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4 独立特許要件の検討
以上で検討したとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
しかし、請求人は、平成22年6月15日に提出された回答書において、補正後の請求項1に記載の「前記第1クロック信号がローレベルからハイレベルへ移行する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに印加して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持する」は、「ローレベルからハイレベルへ移行した前記第1クロック信号が伝達する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに伝達して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持する」の誤記である点を主張している。
そこで、仮に、本件補正が、請求人の主張するとおりの誤記を含むものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものとみなした場合において、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正が、いわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かにつき一応検討を進める。

(1)補正発明
本件補正による補正後の請求項1?26に係る発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?26に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。
なお、ここにおいて、先に述べたように本件補正が請求人の主張するとおりの誤記を含むものとみなし、当該誤記を訂正した上で請求項1に係る発明を認定しているが、それに加えて、請求項1の「第1ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタ」は、「第2ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタ」の誤記であることが明らかであるから、この点も加味して請求項1に係る発明を認定した。

「[請求項1]
スタートパルスをシフトさせ、前記シフトされたスタートパルスを次の段に出力する多数のステージを有するシフトレジスタであって、前記多数のステージのそれぞれは、
第1ノードに制御されて第1クロック信号を出力ラインに供給するプルアップトランジスタと、
第2ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタと、
前記第1及び第2ノードを制御する制御部と、
前記第1ノードと第2クロック信号の入力ラインとの間に接続された補償キャパシタとを具備し、前記第2クロック信号は前記第1クロック信号とは異なり、そして、
前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号のローレベルによるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させるものであり、
ローレベルからハイレベルへ移行した前記第1クロック信号が伝達する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに伝達して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持することを特徴とするシフトレジスタ。」

(2)引用例に記載された発明
引用例:特開平10-31202号公報
(2-1)本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-31202号公報(平成10年2月3日出願公開、以下「引用例」という。)には、図3?5とともに、次の記載がある。(なお、下線は当合議体にて付加したものである。)

「【0023】図4は、本発明の特徴を実施する、図1の選択ラインスキャナ60の、図3のシフトレジスタ100の、模範的な段Nを示す。段Nの夫々のトランジスタは、N-MOS TFTである。閾電圧ドリフトを引き起こしうる圧力を減少させるため、夫々のトランジスタが電導性である時間は、不導性である時間と比較して短い。図3のシフトレジスタ100は、図1の液晶ディスプレイマトリックス16の行選択ライン118を駆動するためのタイミングを与える。図1、図2の(a)及び(b)、図3及び図4において、類似する符号及び数字は、類似する項目或いは機能を示す。
【0024】図3のシフトレジスタ100において、段N-1、N、N+1及びN+2は、縦続の形状で互いに連結する。所与の段の出力信号は、回路の中ですぐに続く段の入力と連結する。例えば、レジスタ100の回路の先の段N-1の出力信号OUT(n-1)のパルスは、図4の段Nの入力端子72と連結する。実例として、4つの段N-1、N、N+1及びN+2のみが、図3に示されている。しかしながら、レジスタ100の回路の合計の段数Nは、行選択ラインの数、この例では560と同じである。シフトレジスタ100を、「walking one」シフトレジスタと称することもできる。これは、ビデオ画像フレーム時間の間、レジスタ100を通して、真(TRUE)の状態或いは高(HIGH)レベルが伝達されるからである。
【0025】図5の(a)乃至(i)は、図3及び図4の回路を説明するのに役立つ波形を示す。図1、図2の(a)及び(b)、図3、図4及び図5の(a)乃至(i)において、類似する符号及び数字は、類似する項目或いは機能を示す。図3のクロック発生器101は、夫々図5の(b)及び(c)に示される波形を持つ2相クロック信号(クロック信号C1およびC2)を発生する。図3の(a)の出力信号OUT(n-1)のパルスは、図5の(c)のクロック信号C2のパルスの間、図4の段Nの入力端子72で発生する。図5の(a)の高レベルの出力信号OUT(n-1)のパルスは、図4のトランジスタ78を通して、制御信号P1を発生させるため、端子78aに連結される。制御信号P1は、第1の出力トランジスタ76のゲート電極に連結される。
【0026】制御信号P1が、図4のトランジスタ76のゲート電極で発生するとき、トランジスタ76のドレイン電極は、クロック信号C1の負の低レベルである。出力トランジスタ76のゲートで発生した信号P1は、電導のため、出力トランジスタ76を調節する。電導性のトランジスタ76は、ゲートと電導性のトランジスタ76のソース電極との間に連結されているコンデンサ70に、高レベルの信号P1を一時的に蓄えるための電流路を作る。クロック信号C1はまた、トランジスタ76の電極間寄生容量CPを通して、端子78aに連結する。従って、高レベルの信号P1はまた、容量CPにも蓄えられる。図5の(a)の出力信号OUT(n-1)が低レベルに達し、図4のトランジスタ78がターンオフされた後でさえ、高レベルはコンデンサ70及び容量CPに蓄えられる。
【0027】図5の(b)のクロック信号C1は、クロック信号C2のパルスが止んだ後或いは低レベルに達した後すぐに、トランジスタ76のドレイン電極で高レベルで発生する。図5の(b)のクロック信号C1は、電導性のトランジスタ76を通じて出力端子73に連結する。従って、高レベルを達すると、コンデンサ70及びCPを通じて、端子78aにおける電圧をブートストラップし、それによりトランジスタ76に対して余分の駆動を与える。そのような動作は、ブートストラップ動作と呼ばれる。従って、図5の(f)の出力信号OUT(n)は、信号C1の高レベルから電圧降下なしに、図4のレジスタNの出力端子73において発生する。」

「【0033】図5の(b)のクロック信号C1が作動しない低レベルに達したとき、図4のトランジスタ76及び81は、コンデンサ70及びCPが放電するまで、点いたままである。トランジスタ75は、端子78aと-12Vの一定の負の供給電圧V1の間に連結される。トランジスタ77は、端子73との負の供給電圧V1の間に連結される。
【0034】段N+1の信号OUT(n+1)は、トランジスタ75及び77のゲート電極に戻って連結される。信号OUT(n+1)はまた、本発明の特徴を実施し、夫々トグリング電圧V2及び行nの選択ライン118(n)に連結するソース及びドレイン電極を有するプルダウントランジスタ79のゲート電極に連結する。このように、信号OUT(n+1)のパルスが生じると、トランジスタ75、77及び79は、ターンオンされる。トランジスタ75及び77がターンオンされるとき、それらはコンデンサ70及び寄生コンデンサCPを放電する。これは、-12Vの負の供給電圧V1が、クロック信号C1が作動しない低レベルと同じためである。それにより、トランジスタ76及び81はターンオフされる。信号OUT(n+1)はフレーム当たり1回起こり、それは実質的にクロック信号C1或いはC2よりも頻繁でないため、トランジスタにおいて閾電圧の変化を起こしうるトランジスタ79、75及び77の圧力は、有利に、小さい。」

「【0039】行nの選択解除間隔の間に、図4のクロック信号C1は、容量CPを通じ、コンデンサ70の充電を引き起こす傾向を有しうる。従って、クロック信号C2は、容量CPよりも20%大きい容量71を通じて端子78aに連結する。有利に、容量結合されたクロック信号C2は、行nの選択解除間隔の間に、コンデンサ70のいかなる電荷の発生をも防ぐ。」

(2-2)引用例1の図3の記載から、シフトレジスタ段N-1に「入力スキャンパルス」が入力されていることは明らかである。

(2-3)0025段落の「制御信号P1を発生させるため、端子78aに連結される。制御信号P1は、第1の出力トランジスタ76のゲート電極に連結される。」の記載及び0027段落の「クロック信号C1は、電導性のトランジスタ76を通じて出力端子73に連結する。」の記載及び図4の記載から、第1の出力トランジスタ76は、端子78aに制御されてクロック信号C1を出力端子73に供給するものであることは明らかである。

(2-4)0033段落の「トランジスタ77は、端子73との負の供給電圧V1の間に連結される。」の記載及び0034段落の「段N+1の信号OUT(n+1)は、トランジスタ75及び77のゲート電極に戻って連結される。」の記載及び図4の記載から、トランジスタ77は、段N+1の信号OUT(n+1)に制御されて負の供給電圧V1を出力端子73に供給するものであることは明らかである。

(2-5)0025段落の「図3のクロック発生器101は、夫々図5の(b)及び(c)に示される波形を持つ2相クロック信号(クロック信号C1およびC2)を発生する。」の記載及び図5の記載から、クロック信号C2はクロック信号C1の反転信号であることは明らかである。

(2-6)よって、引用例には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「段N-1、N、N+1及びN+2は、縦続の形状で互いに連結し、段N-1に入力スキャンパルスが入力され、所与の段の出力信号は、回路の中ですぐに続く段の入力と連結したシフトレジスタ100において、模範的な段Nは、
端子78aに制御されてクロック信号C1を出力端子73に供給する第1の出力トランジスタ76と、
段N+1の信号OUT(n+1)に制御されて負の供給電圧V1を出力端子73に供給するトランジスタ77と、
出力信号OUT(n-1)のパルスを端子78aに連結するトランジスタ78と、
クロック信号C2を端子78aに連結する容量CPよりも20%大きい容量71とを具備し、クロック信号C2はクロック信号C1の反転信号であり、
容量結合されたクロック信号C2は、行nの選択解除間隔の間に、コンデンサ70のいかなる電荷の発生をも防ぐシフトレジスタ100」

(3)補正発明と引用発明との対比
(3-1)引用発明の「入力スキャンパルス」及び「段N-1、N、N+1及びN+2」は、補正発明の「スタートパルス」及び「多数のステージ」に相当する。
よって、引用発明の「段N-1、N、N+1及びN+2は、縦続の形状で互いに連結し、段N-1に入力スキャンパルスが入力され、所与の段の出力信号は、回路の中ですぐに続く段の入力と連結したシフトレジスタ100」は、補正発明の「スタートパルスをシフトさせ、前記シフトされたスタートパルスを次の段に出力する多数のステージを有するシフトレジスタ」に相当する。

(3-2)引用発明の「端子78a」、「クロック信号C1」及び「出力端子73」は、補正発明の「第1ノード」、「第1クロック信号」及び「出力ライン」に相当する。
よって、引用発明の「端子78aに制御されてクロック信号C1を出力端子73に供給する第1の出力トランジスタ76」は、補正発明の「第1ノードに制御されて第1クロック信号を出力ラインに供給するプルアップトランジスタ」に相当する。

(3-3)引用発明の「段N+1の信号OUT(n+1)」及び「負の供給電圧V1」は、補正発明の「第2ノード」及び「第1駆動電圧」に相当する。
よって、引用発明の「段N+1の信号OUT(n+1)に制御されて負の供給電圧V1を出力端子73に供給するトランジスタ77」は、補正発明の「第2ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタ」に相当する。

(3-4)引用発明の「出力信号OUT(n-1)のパルスを端子78aに連結するトランジスタ78」は、出力信号OUT(n-1)に与えられるパルスに応じて端子78aの状態を制御していることは明らかである。
よって、引用発明の端子78aを制御するトランジスタ78は、補正発明の「前記第1及び第2ノードを制御する制御部」と、「前記第1ノードを制御する制御部」である点で一致する。

(3-5)引用発明の「クロック信号C2」は、補正発明の「第2クロック信号」に相当する。
よって、引用発明の「クロック信号C2を端子78aに連結する容量CPよりも20%大きい容量71」は、補正発明の「前記第1ノードと第2クロック信号の入力ラインとの間に接続された補償キャパシタ」に相当する。

(3-6)一般に、ある信号の反転信号とは、元の信号とは常に異なるレベルの信号となるから、引用発明の「クロック信号C2はクロック信号C1の反転信号であり」は、補正発明の「前記第2クロック信号は前記第1クロック信号とは異なり」に相当する。

(3-7)以上によれば、補正発明と引用発明とは、
「スタートパルスをシフトさせ、前記シフトされたスタートパルスを次の段に出力する多数のステージを有するシフトレジスタであって、前記多数のステージのそれぞれは、
第1ノードに制御されて第1クロック信号を出力ラインに供給するプルアップトランジスタと、
第2ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタと、
前記第1ノードを制御する制御部と、
前記第1ノードと第2クロック信号の入力ラインとの間に接続された補償キャパシタとを具備し、前記第2クロック信号は前記第1クロック信号とは異なる、シフトレジスタ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明は、「制御部」が「前記第1及び第2ノード」の両方のノードを制御するものであるのに対して、引用発明では、第2ノードに対応する「段N+1の信号OUT(n+1)」は制御部を介していない点。

(相違点2)
補正発明は、「前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号のローレベルによるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させるものであり、 ローレベルからハイレベルへ移行した前記第1クロック信号が伝達する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに伝達して、前記第1ノードの電圧をローレベルに維持する」のに対して、引用発明は、「容量結合されたクロック信号C2は、行nの選択解除間隔の間に、コンデンサ70のいかなる電荷の発生をも防ぐ」ものである点。

(4)当審の判断
(4-1)相違点1について
引用発明では、プルダウントランジスタであるトランジスタ77の制御に、段N+1の信号OUT(n+1)を直接入力しているが、所望のタイミングまたは振幅の信号とするための回路を挿入して調整を行うかどうかは当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項であり、引用発明において、段N+1の信号OUT(n+1)をそのまま用いることにかえて、何らかの制御部を備えることは当業者ならば容易である。
よって、引用発明において、第1ノードに対応する端子78aに加えて第2ノードに対応する段N+1の信号OUT(n+1)も制御部によって制御する構成とすること、即ち、本願発明のごとく、「前記第1及び第2ノードを制御する制御部」を備える構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(4-2)相違点2について
まず、引用例の図5において、(g)の出力信号OUT(n+1)が高レベルから低レベルに移行する時点での引用例の図4の回路の動作を考える。
移行前には出力信号OUT(n+1)が高レベルであったことから、トランジスタ75がターンオンされて端子78aは低レベルになっており、その状態から出力信号OUT(n+1)が低レベルとなることによりトランジスタ75がターンオフし、また出力信号OUT(n-1)も低レベルであることからトランジスタ78もターンオフしており、端子78aは低レベルでのフローティング状態になる。このことは、補正発明における「前記第1ノードでフローティングされた電圧」に相当する。
そしてこのとき、クロック信号C2が高レベルから低レベルに移行し、引用例の0039段落に「クロック信号C2は、容量CPよりも20%大きい容量71を通じて端子78aに連結する。」と記載されていることから、端子78aの電圧は、大きい容量である容量71に結合したクロック信号C2と同じ電圧方向、つまり電圧を低くする方向に変化する。
一方、補正発明の「前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号のローレベルによるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させる」こととは、発明の詳細な説明の0045段落に、「これによって、Qノードの電圧は下降する第2クロック信号(/C1)に従ってもっと低くなった後」と記載されていることから、具体的には、補償キャパシタを経由した第2クロック信号のローレベルによって第1ノードの電位を低くする方向に変化させることであると認められる。
よって、引用発明において、低レベルでのフローティング状態である端子78aを、容量71を経由してクロック信号C2の低レベルによって電圧を低くする方向に変化させることは、補正発明の「前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号のローレベルによるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させる」ことに相当する。

引用発明は、クロック信号C1が低レベルから高レベルに変化した際に、「容量結合されたクロック信号C2は、行nの選択解除間隔の間に、コンデンサ70のいかなる電荷の発生をも防ぐ」構成となっているから、引用発明においても低レベルから高レベルへ移行したクロック信号C1が端子78aに伝達する前に、クロック信号C2の低レベルが前記端子78aに伝達されているものと解される。したがって、引用発明においても補正発明と同様に「ローレベルからハイレベルへ移行した前記第1クロック信号が伝達する前に、前記第2クロック信号のローレベルを前記第1ノードに伝達して、」いるものと認められる。
そして、引用発明は、「容量結合されたクロック信号C2は、行nの選択解除間隔の間に、コンデンサ70のいかなる電荷の発生も防ぐ。」構成となっているから、引用発明においては、コンデンサ70が接続されている、低レベルでのフローティング状態である端子78aでの電荷の発生を防いでおり、補正発明と同様に「前記第1ノードの電圧をローレベルに維持する」機能を有しているものと認められる。
これらの点を総合すると、相違点2は実質的なものではない。

したがって、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、上記3において検討したように、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、上記4において検討したように、仮に当該要件を満たすものとみなした場合においても、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成20年6月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?26に係る発明は、平成19年11月2日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?26に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。
なお、上記第2.4.(1)に記載した理由と同じ理由により、「第1ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタ」は、「第2ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタ」の誤記と認め、本願発明を以下のように認定する。

「【請求項1】
スタートパルスをシフトさせ、前記シフトされたスタートパルスを次の段に出力する多数のステージを有するシフトレジスタであって、前記多数のステージのそれぞれは、
第1ノードに制御されて第1クロック信号を出力ラインに供給するプルアップトランジスタと、
第2ノードに制御されて第1駆動電圧を前記出力ラインに供給するプルダウントランジスタと、
前記第1及び第2ノードを制御する制御部と、
前記第1ノードと第2クロック信号の入力ラインとの間に接続された補償キャパシタとを具備し、前記第2クロック信号は前記第1クロック信号とは異なり、そして、
前記第1ノードでフローティングされた電圧を、前記補償キャパシタを経由した前記第2クロック信号の移行電圧によるフローティングされた電圧とは反対方向に変化させることを特徴とするシフトレジスタ。」

一方、本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-31202号公報(「引用例」)には、上記第2.4.(2)に記載したとおりの事項、及び発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
そして、本願発明に対して技術的限定を加えた発明である補正発明は、上記第2.4.(4)において検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も当然に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上検討したとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-12 
結審通知日 2010-07-14 
審決日 2010-07-28 
出願番号 特願2004-373155(P2004-373155)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11C)
P 1 8・ 561- Z (G11C)
P 1 8・ 575- Z (G11C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須原 宏光  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 加藤 俊哉
西脇 博志
発明の名称 シフトレジスタとその駆動方法及び液晶表示パネルの駆動装置  
代理人 朝日 伸光  
代理人 岡部 正夫  
代理人 臼井 伸一  
代理人 越智 隆夫  
代理人 岡部 讓  
代理人 加藤 伸晃  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ