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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1228072
審判番号 不服2008-21708  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-25 
確定日 2010-12-06 
事件の表示 特願2004-501174「表面に特徴をつける方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月13日国際公開、WO03/93018、平成17年 8月11日国内公表、特表2005-523833〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は、2002年11月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年4月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年3月10日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされ、同年5月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月25日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲に係る手続補正がなされたものである。
さらに、審査官により作成された前置報告書について平成21年12月24日付けで審尋がなされたところ、審判請求人からは指定期間内に回答書が提出されなかったものである。


第2.平成20年8月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「オリフィス層(14)のオリフィス(16)を取り囲む穴ぐり(18)の表面(26)を作成する方法であって、
前記オリフィス(16)を通って噴射される流体の性質を、流体の表面張力から判定すること、および
前記流体の性質に基づいて
前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみをレーザによってアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成すること、
を含む方法。」
から
「オリフィス層(14)のオリフィス(16)を取り囲む穴ぐり(18)の表面(26)を作成する方法であって、
前記オリフィス(16)を通って噴射される流体の性質を、流体の表面張力から判定すること、および
前記流体の性質に基づいて
前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみをレーザによってアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成すること、
前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御すること
を含む方法。」
に補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「アブレーション」に関して、「前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御すること」を限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

なお、上記「前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御すること」に関しては、この記載のみからは、「レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施」すことと、「穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御する」こととの関係、及び、「穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御する」ことの具体的構成が明りょうではないが、本願明細書の記載(「【0022】流体の性質に基づいて穴ぐり表面26のテクスチャを制御する可能な方法の1つは、レーザ・アブレーションによる。・・・一実施形態において、マスクまたは共通のマスク基板が、アブレーション(abration,削摩)される特徴(features)を画定する。そのようなマスクにおいて用いられるマスキング材料は、好ましくは、多層誘電体またはアルミニウム等の金属等、レーザ波長において非常に反射性が高い。」)を参酌すれば、「前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御すること」は、「前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して、マスクを施していない箇所を穴ぐり(18)とし、その表面テクスチャを変化させること」を包含するものと解釈して、上記文言のまま認定することとした。


2.独立特許要件について
(1)刊行物に記載された発明
(刊行物1について)
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された、特開平5-155028号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。

(1-a)「【0001】
【技術分野】本発明は、インクジェットヘッドに関し、より詳細には、インクジェットプリントヘッドにおけるノズル形成に関する。例えば、濡れ性コントロールを伴う面粗度加工に適用されるものである。
【0002】
【従来技術】従来よりインクジェット記録装置は、低騒音,高速記録,普通紙使用可能など、種々の優れた点を有する記録装置として知られている。しかし、長時間連続して記録を続けると、インク液滴の飛翔方向がずれたり、吐出できなくなったりするという問題点があった。この点を解決するために、例えば、特開平2-212153号公報に「インクジェット記録ヘッド」が提案されている。この公報のものは、ノズル面においてノズル(吐出口)近傍の領域を撥液性とし、ノズルから離れた領域を親液性としたものである。撥液性としては、シリコーン系撥水剤,フッ素系界面活性剤,撥水剤の表面処理をあげている。しかしながら、撥液処理の場合、経時的耐久性,耐摩耗性,均一性,処理領域のコントロール(特に、ノズル近傍)性を確保しなくてはならず、その処理法の管理が困難である。」

(1-b)「【0004】
【構成】本発明は、上記目的を達成するために、(1)ドロップ・オン・デマンド型のインクジェットヘッドにおいて、ノズル板に設けられたノズル及び該ノズルの周辺の面に異なる複数種類の面粗さの領域を設けたこと、更には、(2)前記ノズルの内側面を粗面とし、外側面をなめらかな面としたこと、更には、(3)前記ノズルの近傍外側面から内側面を粗面とし、前記近傍外側面以外の外側面をなめらかな面としたこと、更には、(4)前記(2)において、前記ノズルの外側面に粗面部を設けたこと、更には、(5)前記(3)において、前記ノズルの外側面に粗面部を設けたこと、更には、(6)前記(3)において、前記ノズルの近傍外側面の粗面にくぼみを設けたこと、更には、(7)前記(4)において、外側面の粗面部の一部又は全部にくぼみを設けたこと、更には、(8)前記(5)において、ノズル近傍の外側面の粗面にくぼみを設けたこと、更には、(9)前記(5)において、外側面の粗面部の一部又は全部にくぼみを設けたこと、更には、(10)前記(5)において、ノズル近傍の外側面の粗面および外側面の粗面部の一部又は全部にくぼみを設けたこと、更には、(11)前記(1)から(10)のいずれかにおいて、ノズルおよび周辺の面をガラス材料にて構成し、前記粗面およびくぼみをフッ酸(HF),苛性ソーダ等による溶解性エッチングを用いて形成すること、更には、(12)前記(1)から(10)のいずれかにおいて、ノズルおよび周辺の面を樹脂材料にて構成し、前記粗面およびくぼみを酸,アルカリ,薬品等による溶解性エッチングを用いて形成すること、更には、(13)前記(1)から(10)のいずれかにおいて、ノズルおよび周辺の面をガラス,樹脂,金属等の1種類あるいは複数種類の材料にて構成し、前記粗面およびくぼみとする領域の区分けをフォトエッチング法を利用して行うこと、更には、(14)前記(1)から(10)のいずれかにおいて、ノズルおよび周辺の面をガラス,樹脂,金属等の1種類あるいは複数種類の材料にて構成し、前記粗面およびくぼみを研摩によって形成すること、更には、(15)前記(1)から(10)のいずれかにおいて、ノズルおよび周辺の面をガラス,樹脂,金属等の1種類あるいは複数種類の材料にて構成し、前記粗面およびくぼみをスパッタエッチングにて形成すること、更には、(16)前記(1)から(10)のいずれかにおいて、ノズルおよび周辺の面を樹脂,金属等の1種類あるいは複数種類の材料にて構成し、前記粗面およびくぼみをレーザー光等による加熱にて形成すること、更には、(17)前記(1)から(10)のいずれかにおいて、ノズルおよび周辺の面を樹脂,金属,ガラス等の1種類あるいは複数種類の材料にて構成し、前記粗面およびくぼみをレーザー光等によるアブレーション(融除)にて形成することを特徴としたものである。以下、本発明の実施例に基づいて説明する。」

(1-c)「【0011】図2(a),(b)は、本発明によるインクジェットヘッドの更に他の実施例を示す図で、ノズル近傍を粗面化にして濡れ領域を設けたものである。すなわち、ノズルの近傍外側面1bから内側面2aを粗面とし、前記ノズルの近傍外側面以外の外側面をなめらかな面2bとしたものである。図7(a),(b)は、本発明によるインクジェットヘッドの更に他の実施例を示す図で、ノズル近傍の粗面にくぼみ3aを設けたものである。このくぼみ3aの毛細管6により、より強い濡れ作用を有する。」

(1-d)「【0014】次に、ノズルの製造方法について説明する。ガラスをノズル材とする場合には、フッ酸,苛性ソーダ等による溶解性エッチングを用いることができる。また、面粗度を大きくしたい時には、感光性ガラスも有効である。溶解性エッチングの場合、マスク領域に合わせて赤外光等での温度領域操作を行うことも有効である。また、フォトエッチング,スパッタエッチング,レーザー加熱加工,レーザーアブレーション加工,研摩等にて面処理することができる。樹脂をノズル材とする場合、酸,アルカリ,その他薬品による溶解性エッチングを用いることができる。この場合もガラス同様、温度領域操作が有効である。また、ガラス同様、フォトエッチング,スパッタエッチング,レーザー加熱加工,レーザーアブレーション加工,研摩等にて面処理することができる。金属についても同様に、フォトエッチング,スパッタエッチング,レーザー加熱加工,レーザーアブレーション加工,研摩等にて面処理することができる。」

(1-e)「【0015】
【効果】以上の説明から明らかなように、本発明によると、以下のような効果がある。
(1)請求項1?6及び構成7?17までのドロップ・オン・デマンド型のインクジェットヘッドにおいては、面粗度によるノズル噴射口の濡れ性コントロールを行っているので、インク滴曲がりや空気引き込みを起こしにくい安定したインク滴噴射が得られる。
(2)請求項3,5,6及び構成8?17のドロップ・オン・デマンド型のインクジェットヘッドにおいては、面粗度によってノズル噴射口近傍の濡れ性をコントロールしているので、メニスカス振動の低減がはかれる。
(3)請求項4,5及び構成7?17のドロップ・オン・デマンド型のインクジェットヘッドにおいては、ノズル面の不要インク取り込み量が多いので、ノズル面クリーニング機構への負担を低減できる。」

(1-f)図7として、





上記の事項をまとめると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

「インクジェットプリントヘッドのノズル形成において、粗度加工によってノズル近傍の濡れ性をコントロールする方法であって、
レーザーアブレーション加工によって、ノズル近傍にくぼみ3aを設けるとともに、該くぼみ3aの表面及びノズルの内側面2aを粗面とした、
濡れ性をコントロールする方法。」


(2)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 刊行物1発明における「インクジェットプリントヘッドのノズル」及び「くぼみ3a」は、それぞれ、本願補正発明における「オリフィス層(14)のオリフィス(16)」及び「穴ぐり(18)」に相当し、刊行物1発明における「インクジェットプリントヘッド」に用いられる「インク」は、本願補正発明における「流体」に相当する。

イ 刊行物1発明における「レーザーアブレーション加工」は、本願補正発明における「レーザによってアブレーション(して)」に相当する。

ウ 刊行物1発明における「(粗度加工によってノズル近傍の)濡れ性をコントロールする」及び「『該くぼみ3aの表面』『を粗面とした』」は、それぞれ、本願補正発明における「所望の濡れ特性を達成する」及び「前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化(させて)」に相当する。

エ 上記ウを踏まえれば、刊行物1発明における「該くぼみ3aの表面及びノズルの内側面2aを粗面とした」構成と、本願補正発明における「前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみをレーザによってアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成する」構成とは、「前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域をレーザによってアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成する」構成で共通する。

オ 上記ア?エから、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「オリフィス層(14)のオリフィス(16)を取り囲む穴ぐり(18)の表面(26)を作成する方法であって、
前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域をレーザによってアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成すること、
を含む方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]:
本願補正発明は、「前記オリフィス(16)を通って噴射される流体の性質を、流体の表面張力から判定する」とともに、「『前記流体の性質に基づいて』『前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみをアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成する』」のに対し、
刊行物1発明は、「前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域」に加えて、「ノズルの内側面」も「テクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成する」ものであって、「前記オリフィス(16)を通って噴射される流体の性質を、流体の表面張力から判定する」及び「『前記流体の性質に基づいて』『前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみをアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成する』」との特定がない点。

[相違点2]:「アブレーション」に関して、
本願補正発明は、「前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御する」のに対し、
刊行物1発明は、そのような特定がない点。


(3)判断
上記相違点について検討する。
(3-1)相違点1について
ア まず、インクジェットプリンタ等、流体エジェクタを用いる装置において、インク又は流体の表面張力等の物性が、流体の飛翔に影響を及ぼすこと、及び、流体(インク)の物性に応じて、ノズル表面と流体(インク)との濡れ性が異なることは、文献等を提示するまでもなく、当該技術分野における技術常識である。
そして、インクの物性の違いに応じて、インクジェットヘッドのノズル面の撥水性、親水性に係る構成を変更することも、周知の技術である(例.原審の拒絶理由通知に引用文献2として引用された、特開平8-39805号公報(「【0057】また、インクの種類が異なる場合には、例えば濡れ性が高いインク(撥水面との接触角が小さいインク)を用いるヘッド部ほど吐出口の周から親水部までの距離を長くした方がよい。」)に加えて、特開平6-210859号公報(「【0052】吐出口から溝帯状親水領域5までの距離H1、H2、溝状親水領域5の幅W1、W2はインクの種類、吐出口径等により選定されるが、好適な数値の選定については後述する。なお、溝状親水域5の長さは、吐出口配列幅と同等かもしくはそれ以上であることが望ましい。」)参照。)。

イ 刊行物1発明は、「粗度加工によってノズル近傍の濡れ性をコントロールする」ことを目的とするものであって、刊行物1には、「面粗度を大きくしたい時には、」(上記摘記事項(1-d)参照。)との記載もあることから、上記アの事項を踏まえれば、刊行物1発明において、流体(インク)の表面張力(濡れ性)に応じて、「粗度加工によってノズル近傍の濡れ性をコントロールする」べく、「面粗度を大きさをコントロールする」ことは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 流体(インク)の表面張力(濡れ性)に応じて、「粗度加工によってノズル近傍の濡れ性をコントロールする」ためには、流体(インク)の表面張力(濡れ性)を知る必要があるから、「前記オリフィス(16)を通って噴射される流体の性質を、流体の表面張力から判定する」とともに、「『前記流体の性質に基づいて』『前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域をアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成する』(『粗度加工によってノズル近傍の濡れ性をコントロールする』)」ことは、当然の構成といえる。

エ 本願明細書には、「【0004】 流体の性質に基づいて流体滴の方向を最適化することができる構造が、求められている。」と記載され、刊行物1には、「面粗度によるノズル噴射口の濡れ性コントロールを行っているので、インク滴曲がりや空気引き込みを起こしにくい安定したインク滴噴射が得られる。」(上記摘記事項(1-e)参照。)と記載があるとおり、本願補正発明と刊行物1発明とは、ともに「流体滴の方向を最適化する」ことを目的とするものである。
そうすると、同じ目的を達成するために、「表面(26)のテクスチャを変化させ」る範囲を適宜変更する程度のことは、当業者が適宜なし得る設計的事項であるから、「前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみ」「テクスチャを変化させ」るか、それとも、「前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域」に加えて、「オリフィス(16)(ノズル)の内側面」も「テクスチャを変化させ」るかは、当業者が適宜選択できる設計上の微差というべきである。

オ 上記ア?エから、刊行物1発明において、「前記オリフィス(16)を通って噴射される流体の性質を、流体の表面張力から判定する」とともに、「『前記流体の性質に基づいて』『前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみをアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成する』」構成を採用することは、当業者が上記アの周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(3-2)相違点2について
ア 「アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施」すことは、従来周知の技術である(例.特開平6-15829号公報(段落【0036】?【0037】)、及び、特開平6-79874号公報(段落【0036】?【0037】)参照。)。

イ したがって、刊行物1発明において、「前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御する」構成を採用することは、当業者が上記アの周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

(3-3)本願補正発明が奏する効果について
上記相違点1及び2によって、本願補正発明が奏する効果は、刊行物1に記載された事項及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年8月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成20年3月10日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「オリフィス層(14)のオリフィス(16)を取り囲む穴ぐり(18)の表面(26)を作成する方法であって、
前記オリフィス(16)を通って噴射される流体の性質を、流体の表面張力から判定すること、および
前記流体の性質に基づいて
前記オリフィス層(14)の前記穴ぐり(18)の表面(26)の区域のみをレーザによってアブレーションして前記穴ぐり(18)の表面(26)のテクスチャを変化させて所望の濡れ特性を達成すること、
を含む方法。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用された刊行物1、及び、その記載事項は、前記第2.2.(1-a)?(1-f)で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2.2.で検討した本願補正発明から、「アブレーション」に関して、「前記アブレーションに際して、レーザー波長に対して反射性の高いマスキング材料によってマスクを施して穴ぐり(18)の表面テクスチャを制御する」との限定を削除したものである。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2.2.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-13 
結審通知日 2010-07-16 
審決日 2010-07-27 
出願番号 特願2004-501174(P2004-501174)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島▲崎▼ 純一  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 菅野 芳男
藏田 敦之
発明の名称 表面に特徴をつける方法  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  

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