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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1228675
審判番号 不服2007-22124  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-09 
確定日 2010-12-10 
事件の表示 平成 9年特許願第349695号「単結晶の引上速度制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月 6日出願公開、特開平11-180793〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年12月18日の出願であって、平成19年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年4月11日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年7月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年9月5日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成22年2月1日に特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年4月16日に回答書が提出されたものである。

2.平成19年9月5日付け手続補正書による補正と本願発明
平成19年9月5日付け手続補正書による補正(以下、「本補正」という。)は、
(1)平成19年4月11日付けで補正された本補正前の特許請求の範囲である、
「【請求項1】
チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
シード絞り後のショルダー形成においてリング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内に発生しないように、ショルダー径が目標製品直径となるボディ直径の50%から100%であるショルダー形成時には、ボディ部における平均引上速度の1.2倍から6倍の引上速度で60分以下保持して育成することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法。
【請求項2】
シード絞り後ショルダー形成によってボディ直径になるまでの単結晶の引上げ軸方向長さをLとし、ボディ部直径をDとした場合に、L/D≧1/4とすることを特徴とする請求項1記載の単結晶の引上速度制御方法。
【請求項3】
チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
ショルダー形成後に目標製品となるボディ部の引上げに際しリング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内に発生しないように、ショルダー形成後にボディ直径になった直後から引上げられる単結晶長さがボディ直径になるまで、単結晶の平均引上速度の1.2倍から6倍の引上速度で育成することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法。
【請求項4】
チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
リング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内の所定の位置に発生するように、ボディ部の全長に亘り、目標製品となるボディ部の引上速度の最大30%から最小30%の範囲内で引上速度を調整することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法。」を
「【請求項1】
チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
シード絞り後のショルダー形成においてリング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内に発生しないように、
シード絞り後ショルダー形成によってボディ直径になるまでの単結晶の引上げ軸方向長さをLとし、ボディ部直径をDとした場合に、L/D≧1/4とするとともに、
ショルダー径が目標製品直径となるボディ直径の50%から100%であるショルダー形成時には、ボディ部における平均引上速度の1.2倍から6倍の引上速度で60分以下保持して育成することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法。
【請求項2】
チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
ショルダー形成後に目標製品となるボディ部の引上げに際しリング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内に発生しないように、ショルダー形成後にボディ直径になった直後から引上げられる単結晶長さがボディ直径になるまで、単結晶の平均引上速度の1.2倍から6倍の引上速度で育成することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法。
【請求項3】
チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
リング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内の所定の位置に発生するように、ボディ部の全長に亘り、目標製品となるボディ部の引上速度の最大30%から最小30%の範囲内で引上速度を調整することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法。」と補正し、
(2)同本補正前の明細書の【0014】を
「 (1)CZ法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、シード絞り後のショルダー形成においてリング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内に発生しないように、シード絞り後ショルダー形成によってボディ直径になるまでの単結晶の引上げ軸方向長さをLとし、ボディ部直径をDとした場合に、L/D≧1/4とするとともに、ショルダー径が目標製品直径となるボディ直径の50%から100%であるショルダー形成時には、ボディ部における平均引上速度の1.2倍から6倍の引上速度で60分以下保持して育成することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法ある。以下、この方法を第1の制御方法という。」に、
同【0016】を
「 さらに、第1の制御方法の実施に当たっては、シード絞り後ショルダー形成によってボディ直径になるまでの単結晶の引上げ軸方向長さをLとし、ボディ部直径をDとした場合に、L/D≧1/4とする必要がある(後述の図4参照)。」に、
それぞれ補正するものである。
上記(1)に係る補正事項は、本補正前の請求項1を削除し、同請求項2の記載形式を従属形式から独立形式に変更するとともに、同請求項2?4の請求項番号を繰り上げ、それぞれ、新たに、請求項1?3とするものであって、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する事項を目的とするものである。
また、上記(2)に係る補正事項は、上記(1)に係る補正事項と発明の詳細な説明の欄の記載の齟齬を解消するものであって、新たな事項を導入するものではなく、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
よって、本補正は適法なものであり、本願の請求項1?3に係る発明は、本補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうちの請求項3に係る発明(以下、「本願第3発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項3】
チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
リング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内の所定の位置に発生するように、ボディ部の全長に亘り、目標製品となるボディ部の引上速度の最大30%から最小30%の範囲内で引上速度を調整することを特徴とする単結晶の引上速度制御方法。」

3.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物である特開平08-330316号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の記載がある。
(3-1)「半導体素子の製造に用いられるシリコン単結晶ウェーハは主にCZ法により製造されている。CZ法とは周知の如く石英坩堝内のシリコン融液に種結晶を漬け、石英坩堝および種結晶を回転させながら種結晶を引き上げることにより、円柱状のシリコン単結晶を育成するものである。・・・・・・ところで、このようなCZ法により育成したシリコン単結晶ウェーハは、熱酸化処理(・・・・・・)を受けたときに、リング状に発生するOSFと呼ばれる酸化誘起積層欠陥を生じることがある。このOSFリングは引き上げ速度が速くなるにつれて単結晶の外周側へ移動することが知られており、現在LSIの製造には、OSFリングが単結晶の最外周に分布するように比較的高速の引き上げ速度・・・・・・で育成された高速育成ウェーハが用いられている。」(【0002】?【0003】)
(3-2)「同一の構造を有する結晶育成装置では、OSFリングの径は結晶の引き上げ速度に依存して変化し、引き上げ速度の低下と共にその径は減少するが、育成装置が相違し、ホットゾーン構造が変化すると、同一の引き上げ速度であってもOSFリングの径は異なる。しかし、単結晶の引き上げ速度をV(mm/min )とし、シリコン融点から1300℃までの高温域における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/Gで表わされる比によりOSFリングの径は一義的に決定される。」(【0019】)

ここで、上記引用文献の記載について検討する。
(あ)まず、上記(3-1)に記載されている「シリコン単結晶ウェーハ」と「円柱状のシリコン単結晶」との関係についてみてみると、上記(3-1)には「CZ法とは・・・・・・円柱状のシリコン単結晶を育成するものである。」と記載されており、引き上げられた単結晶をその成長軸に対し垂直にカッティングして得られたものがウェーハであることは技術常識であるから(要すれば、特開平5-221786号公報の【0002】、特開平9-255480号公報の【0011】を参照。)、CZ法により「シリコン単結晶」が育成され、それから「シリコン単結晶ウェーハ」が製造されていることが記載されているとみることができる。なお、このことは本願明細書の記載「単結晶は育成装置外に取り出され、所定の条件で冷却されて、ウェーハに加工される。」(【0005】)からも窺うことができる。
(い)上記(3-1)の「CZ法により育成したシリコン単結晶ウェーハは、熱酸化処理(・・・・・・)を受けたときに、リング状に発生するOSFと呼ばれる酸化誘起積層欠陥を生じることがある。・・・・・・OSFリングが単結晶の最外周に分布するように比較的高速の引き上げ速度、・・・・・・で育成された高速育成ウェーハが用いられている。」との記載は、「シリコン単結晶ウェーハ」を「CZ法により」「OSFリングが単結晶の最外周に分布するように比較的高速の引き上げ速度、・・・・・・で育成」すること、すなわち、上記(あ)の検討を併せみると、「シリコン単結晶」を「CZ法により」「OSFリングが単結晶の最外周に分布するように比較的高速の引き上げ速度、・・・・・・で育成」する方法が記載されているとみることができる。
(う)そうすると、上記(あ)、(い)の検討を踏まえて、上記(3-1)の記載事項を本願発明の記載ぶりに則して記載すると、引用文献には、
「CZ法によりシリコン単結晶を育成する方法であって、OSFリングが単結晶の最外周に分布するように比較的高速の引き上げ速度で育成する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4.対比・判断
本願第3発明と引用発明とを対比する。
(か)引用発明の「CZ法」についてみてみると、引用文献の【0001】段落に、「チョクラルスキー法(以下CZ法という)」と記載されていることから、該「CZ法」は「チョクラルスキー法」を指していることは明らかであって、本願第3発明の「チョクラルスキー法」に相当する。
(き)本願第3発明の「単結晶」、「リング状の酸化誘起積層欠陥」について本願明細書の記載をみてみると、本願明細書には、「単結晶の製造方法は種々あるが、なかでも、シリコン単結晶の引上げに関し、・・・・・・CZ法がある。
・・・・・・
・・・・・・溶融液から切り離された単結晶は育成装置外に取り出され、所定の条件で冷却されて、ウェーハに加工される。このように単結晶から加工されたウェーハは、その後表面研磨等が施されて種々のデバイスの基板材料として用いられる。
上述の工程を経て育成された単結晶ウェーハの面内には、単結晶の育成条件によって、リング状の酸化誘起積層欠陥(・・・・・・)が発生する場合がある。」(【0002】?【0006】)と記載されているから、本願第3発明の「リング状の酸化誘起積層欠陥」は、「シリコン単結晶」に生じるものとみることができ、また、本願明細書の「(実施例1)」では、「結晶原料として、多結晶シリコンを120Kg充填し・・・・・・単結晶1を引き上げた。」(【0029】)と記載されているから、本願第3発明の「単結晶」は「シリコン単結晶」を含むものといえる。
そうすると、引用発明の「シリコン単結晶」は、本願第3発明の「単結晶」に含まれる。
(く)引用発明の「OSF」リングは、本願明細書の「リング状の酸化誘起積層欠陥(・・・・・・R-OSF(Oxidation induced Stacking Fault)という)」(【0006】)の記載からみて、本願第3発明の「リング状の酸化誘起積層欠陥」に相当する。
(け)引用発明の「OSFリングが単結晶の最外周に分布するように」の「最外周」は「結晶面内の所定の位置」であることは明らかであるし、「OSFリングが・・・・・・分布する」ことは、上記(く)の検討を併せみると「リング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内の所定の位置に発生する」とみることが自然だから、引用発明の「OSFリングが単結晶の最外周に分布するように」は、本願第3発明の「リング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内の所定の位置に発生するように」に相当する。
(こ)引用発明は、「OSFリングが単結晶の最外周に分布するように比較的高速度の引き上げ速度で育成する方法」であるから、引上速度を比較的高速である所定の範囲の値に調整していることは明らかである。
一方、本願第3発明の「単結晶の引上速度の制御方法」における「制御」について本願明細書には定義がされていないから、一般的な制御の意味、すなわち、「機械や設備が目的通り作動するように操作すること」(広辞苑第6版、JIS Z8116-1994の「自動制御用語-一般」を参照。)といえる。
そうすると、引用発明の「シリコン単結晶を育成する方法」は、「引上速度を調整するシリコン単結晶の引上速度の制御方法」に他ならない。
そうすると、上記(か)?(こ)の検討から、両者は、
「チョクラルスキー法によって育成される単結晶の引上速度制御方法であって、
リング状の酸化誘起積層欠陥が結晶面内の所定の位置に発生するように、引上速度を調整する単結晶の引上速度制御方法。」である点で一致し、次の相違点Aで相違している。
相違点A:本願第3発明が「ボディ部の全長に亘り、目標製品となるボディ部の引上速度の最大30%から最小30%の範囲内で引上速度を調整」しているのに対して、引用発明ではかかる事項を有していない点。
そこで、この相違点Aについて検討する。
(さ)まず、引用発明の特定事項である「OSFリングが単結晶の最外周に分布するように」することについてみてみると、引用文献には、「OSFリングが単結晶の最外周に分布するように」することの理由について、明記されていないが、技術常識に照らせば、この理由は、LSI製造に使用されない範囲にOSFを分布されるためであるといえるから(要すれば、特開平8-268794号公報の【0007】、特開平8-12493号公報の【0015】を参照。)、引用発明において、ウェーハを製造する、すなわち、目標製品となるボディ部の全長に亘り、「OSFリングが単結晶の最外周に分布する」ように比較的高速の引き上げ速度で育成していることは明らかである。
(し)次に、引用文献の上記(3-2)の「同一の構造を有する結晶育成装置では、OSFリングの径は結晶の引き上げ速度に依存して変化し、引き上げ速度の低下と共にその径は減少するが、育成装置が相違し、ホットゾーン構造が変化すると、同一の引き上げ速度であってもOSFリングの径は異なる。しかし、単結晶の引き上げ速度をV(mm/min )とし、シリコン融点から1300℃までの高温域における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/Gで表わされる比によりOSFリングの径は一義的に決定される。」との記載をみてみると、OSFリングの径は、結晶の引き上げ速度が小さくなると減少するものの、結晶育成装置の構造、すなわち、ホットゾーン構造に依存し、引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/Gで表わされる比によりOSFリングの径は一義的に決定されるといえる。ところで、同一の結晶育成装置であっても、例えば、加熱源の出力の変動がもたらすホットゾーン構造の変化や、また、融液温度の変動等により、引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値Gが変動することは技術常識に照らし明らかである。そうすると、OSFリングが最外周に分布するようにその径を一定にすべく、換言すれば、所定の位置に発生するように、V/Gで表わされる比を一定にすべく、Gの変動に応じて引き上げ速度を制御することは、当然のことであって、その際、引上速度の最大30%から最小30%の範囲内で引上速度を調整することは当業者であれば、適宜なし得ることである。
(す)そして、本願明細書には、「ボディ部の全長に亘り、目標製品となるボディ部の引上速度の最大30%から最小30%の範囲内で引上速度を調整すること」の作用・効果について、「R-OSFを結晶面内の所定の位置に発生させることが可能になる」(【0027】)と記載されているのみであり、当業者であれば、予想できる程度のものである。
(せ)よって、上記相違点Aに係る本願第3発明の特定事項をなすことは当業者であれば容易になし得ることである。

4.むすび
以上のとおり、本願第3発明は、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-30 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-10-05 
出願番号 特願平9-349695
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之宮澤 尚之  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 中澤 登
深草 祐一
発明の名称 単結晶の引上速度制御方法  
代理人 森 道雄  

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