• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1228678
審判番号 不服2007-24124  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-03 
確定日 2010-12-15 
事件の表示 特願2003-105029「ストレスにさらされている生細胞とさらされていない生細胞とを用いた少なくとも1つの生物学的パラメーターに結果的に生じた変化の同定法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月17日出願公開、特開2004-166685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年4月9日(パリ条約による優先権主張2002年11月19日、フランス)の出願であって、平成19年2月27日に明細書に対して手続補正がなされ、平成19年5月31日付けで拒絶査定がなされ、平成19年9月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成19年2月27日に受け付けられた手続補正書により補正された明細書の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1-16に記載されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1の記載は以下の通りである(以下、これを「本願発明」という。)。

【請求項1】 少なくとも1つの加齢する間に変化が生じるトランスクリプトームパラメーターに結果的に生じた変化を同定する方法であって、
a)三次元組織モデルで培養された若い生細胞からmRNAを回収すること
b)三次元組織モデルで培養された加齢した生細胞からmRNAを回収すること
c)若い生細胞から回収したmRNAの発現レベルと、加齢した生細胞から回収したmRNAの発現レベルとを、前記mRNAで行われる比較トランスクリプトーム解析により比較すること
d)細胞の加齢に対して更に変化が生じる少なくとも1つのトランスクリプトームパラメーターを結果的に同定することを可能にすること
を特徴とする方法。

3.引用文献に記載の事項
(3-1)引用文献2
これに対し、原審の拒絶査定の理由で引用文献2として引用した、本願の優先日前である2000年に頒布された刊行物である「Experimental Cell Research, Vol.258, No.2, 2000, p270-278」には、「テロメラーゼ発現が再構成皮膚モデルにおいてインビトロ加齢繊維芽細胞の皮膚としての完全性を回復させる」と題した記事が掲載されており、以下の事項が記載されている。

(3-1-1)
「ヒト繊維芽細胞や他の主要な細胞株の寿命は、テロメラーゼ活性サブユニット(hTERT)の発現により延長されうる。複製老化は遺伝子発現における実質的な変化に伴われることから、我々は、テロメラーゼによる不死化の前後でのインビトロ加齢皮膚繊維芽細胞の性質を評価した。これらの細胞の生物学的挙動はヒト再構成皮膚への組み込みにより評価された。老人の皮膚に鑑み、皮膚繊維芽細胞の継代数が増加するに従い、脆弱性や表皮下水疱が増加することを我々は見いだした。しかしながら、後期継代細胞におけるテロメラーゼの発現は、正常な水疱のない表現型を回復していた。DNAマイクロアレイ解析により、老化した繊維芽細胞は、皮膚マトリックスの破壊や炎症過程に関係する様々なマーカーの発現増加とともに、コラーゲンIとIIIの発現レベルが低下することを明らかにした。また、テロメラーゼの発現は初期継代細胞に実質的に類似するmRNA発現パターンを引き起こすことを明らかにした。それ故、テロメラーゼ活性は複製不死性を皮膚繊維芽細胞に与えるだけでなく、老化細胞に見られる生物学的機能の喪失を阻止したり回復したりすることもできるものである。」(270ページ左欄サマリー)

(3-1-2)
「細胞培養とレトロウイルス形質導入。BJ皮膚繊維芽細胞(バイエル医科大学のJ.Smith氏からの頂き物)は、10%CO_(2)、37℃の加湿インキュベーターで10%胎児牛血清(FBS)含有EMEM(GIBCO-BRL)中で培養された。集団倍加(PD)は継代時の細胞カウントによって決定された。BJ細胞における複製老化はPD90(<5%S期、集団倍加時間3週間以上)付近で顕著である。(後略)」(271ページ左欄5-11行)

(3-1-3)
「マイクロアレイ解析。(中略)ポリ(A+)mRNAが、オリゴテックスカートリッジ(キアゲン社)を使用して生育したサブコンフルエント培養物から調整された。RNAはA_(260)測定で定量され、アガロースゲル電気泳動で確認された。mRNAのCy-5またはCy-3標識化cDNAプローブへの変換、およびプローブの競合型ハイブリダイゼーションが、参照文献27に実質的に記載されている方法で実行され、結合シグナルが蛍光測定で定量された。両方のチャンネルでバックグラウンドレベルに対し<2.5のスコアだったシグナルは考慮されていない。全Cy-5シグナルは全Cy-3シグナルに基準化され、差異発現比が計算された。それぞれのmRNAのペアリングは2回重複して実行され、本研究結果は、これら2回の測定値の平均を表している。(後略)」(271ページ右欄第9行ー32行)

(3-1-4)
「老化関連遺伝子発現パターンはテロメラーゼ発現により実質的に阻害される。老化に際し遺伝子発現における変化を評価するために、我々はカスタムDNAマイクロアレイを作成し(参照文献13)、BJ繊維芽細胞の初期継代、後期継代、そしてテロメラーゼ発現継代細胞を対比するために使用した。初期継代細胞に比較して、老化したBJ繊維芽細胞は様々なプロセスに関するマーカーが過剰発現している。cdkインヒビターp21と、成長抑止特異的(gas1)mRNAはおそらく細胞周期抑止に関しているか、あるいはそのマーカーである一方、ケモカインMCP-1、Gro-α、サイトカインIl-1α、Il-15、接着因子ICAM-1は、炎症反応に特徴的である。マトリクス破壊活動は、ここでtPA、ストロメライシン1、2とカテプシンOの発現でも示されているように、老化細胞のよく知られた特徴である(参照文献11)。GADD153やMnSODのようなストレス関連遺伝子もまた上方制御されている。これらのタンパク質分解性で走化性活動は、創傷回復と正常な皮膚繊維芽細胞の血清反応性に関連しており(参照文献13,31)、老化細胞が不適切な炎症状態に停まり、正常な創傷回復をするタンパク質同化段階を妨げていることを示唆するものである。」(274ページ左欄最下パラグラフー右欄第1パラグラフ)

(3-2)引用文献4
また、原審の拒絶査定の理由で引用文献4として引用した、本願の優先日前である平成13年に頒布された刊行物である、特開2001-258555号公報には、以下の事項が記載されている。

(3-2-1)
「1.序 論
本発明は細胞および組織の三次元培養系に関する。この培養系は、インビボで観察される環境にいっそう近接した環境で細胞および組織を長期間インビトロ増殖させるのに使用できる。本文記載の培養系により、インビボ組織と同等な類似構造を形成するための増殖および適正な細胞成熟が提供される。」(【発明の詳細な説明】)

(3-2-2)
「二次元的細胞の増殖は培養細胞を調製し、観察し、研究するためには便利な方法であり、それにより細胞を迅速に増殖させることができるが、インビボの完全な組織の特徴である細胞-細胞および細胞-マトリックス相互作用に欠ける。かかる機能的および形態学的相互作用を研究するために、少数の研究者はコラーゲンゲル(Douglasら、1980, In Vitro 16:306-312; Yangら、1979, Proc. Natl.Acad. Sci. 76:3401;Yangら、1980, Proc. Natl. Acad. Sci. 77:2088-2092;Yangら、1981, Cancer Res. 41:1021-1027); セルローススポンジ単独(Leightonら、1951, J. Natl. Cancer Inst. 12:545-561)またはコラーゲンで被覆したもの(Leightonら、1968, Cancer Res, 28:286-296; ゼラチンスポンジ,Gelfoam (Sorourら、1975, J. Neurosurg. 43:742-749)のような三次元基質の使用を探究してきた。」(【0004】)

(3-2-3)
「6.三次元皮膚培養物系
本発明の三次元培養系は、生理学的条件に匹敵する系での上皮および真皮要素のインビトロ複製を与える。重要なこととして、この系で複製する細胞は適切に分離(segregate)して、形態学的および組織学的に正常な上皮および真皮成分を形成する。
上皮および真皮細胞の増殖における三次元同時培養系の使用は、現在用いられている単層系と比べて多くの利点をもっている。このモデルは正常な細胞-細胞相互作用、天然増殖因子の分泌、およびインビボで見られるものと殆ど同じ結合組織網状構造の確立を可能にする;特に、間質細胞は型特異および種特異コラーゲンをつくり出す。完全に分離しうるこのメッシュ製作物は移植されるか、凍結保存されるか、または細胞毒性および薬物の作用機序の研究において標的組織として使用される。さらに、このモデルは真皮同等物を形成するための繊維芽細胞単独の増殖、あるいは完全な厚さの皮膚同等物を形成するための表皮ケラチン細胞およびメラニン細胞と一緒の繊維芽細胞の増殖を可能にする。この三次元系中の細胞はすべて代謝的に活性のままであり、しかも他の多くのモデルと比べて大きな利点である有系分裂を受ける。」(【0092】?【0093】)

(3-2-4)
「本発明の三次元皮膚培養物は、化合物のスクリーニングのための基質としてのその使用、移植および皮膚移植、皮膚病の研究および治療を含めて多種多様の用途をもっている。例えば、有毒でありうる化学物質の徹底的な試験の必要性が一般的に認められており、さらに薬物、化粧品、食品添加物および殺虫剤を評価するための感度のよい、再現性のある、短期インビトロ検定を開発することが明らかに必要である。ここに記載した三次元皮膚モデルは検定基質としての組織同等物の使用を可能となし、インビボ状態にきわめて似ている系での正常細胞相互作用の利点をもたらす。」(【0094】)

(3-2-5)
「例として、制限としてではなく、三次元皮膚細胞培養系は次のようにつくられる:
(a)インビトロ骨髄複製系で使われる増殖促進繊維芽細胞に関して先に記載したように、繊維芽細胞をメッシュに付着させ、約7-9日間培養してサブ集密的増殖を達成させ、そしてコラーゲンIおよびIII型を沈着させる;
(b)メラニン細胞をこの間質メッシュにまき、約5日間サブ集密的に増殖させる;
(c)表皮ケラチン細胞をサブ集密的メラニン細胞に接種する。
本発明の好適な実施態様では、三次元皮膚細胞培養系は以下のように作製される:
(a)繊維芽細胞をメッシュに付着させ、約14日間培養して集密的増殖を達成させ、そしてコラーゲンIおよびIII型を沈着させる;
(b)メラニン細胞をこの間質メッシュにまき、約5日間サブ集密的に増殖させる;
(c)表皮ケラチン細胞をサブ集密的メラニン細胞に接種する。」(【0101】?【0102】)

(3-2-6)
「6.5.三次元皮膚培養物のインビトロ使用
三次元皮膚培養物はインビトロで維持することができ、毒性についての化合物のスクリーニング、薬物の作用機序の研究、皮膚病の研究など、いろいろな目的に使用される。」(【0107】)

4.引用文献2に記載された事項について
引用文献2に記載の発明は、(3-1-1)(3-1-4)の記載からして、
「DNAマイクロアレイ解析により、後期継代BJ皮膚繊維芽細胞は、初期継代BJ皮膚繊維芽細胞に比較して、皮膚マトリックスの破壊や炎症過程等々に関係する様々なマーカーの発現が増加することや、コラーゲンIとIIIの発現が低下することが見いだされたこと」が記載されており、
(3-1-3)の記載からして、ここで使用されるDNAマイクロアレイ解析は、
「培養物からポリ(A^(+))mRNAを調整し、cDNA化することで、サンプルプローブを得た」こと、また「mRNAのCy-5またはCy-3標識化cDNAプローブへの変換、およびプローブの競合型ハイブリダイゼーション」を行い、「差異発現比」を得たことが記載されている。
そして、(3-1-2)の記載からして、当該DNAマイクロアレイ解析に供する培養物は、加湿インキュベーターでFBS中でBJ皮膚繊維芽細胞培養を行うことで得られたことが記載されている。
これらのことから、引用文献2には、
「継代する間に変化が生じるマーカーのmRNA量に結果的に生じた変化を同定する方法であって、
a)培養された初期継代BJ皮膚繊維芽生細胞からmRNAを回収すること
b)培養された後期継代BJ皮膚繊維芽生細胞からmRNAを回収すること
c)初期継代BJ皮膚繊維芽生細胞から回収したmRNAの発現レベルと、後期継代BJ皮膚繊維芽生細胞から回収したmRNAの発現レベルとを、前記mRNAで行われるDNAマイクロアレイ解析により比較すること
d)継代する間に更に変化が生じるマーカーに結果的に生じたmRNA量の変化の同定を可能とすること
を特徴とする方法」
について記載されている、と言える。

5.本願発明と引用文献2に記載された事項との対比
本願発明と引用文献2に記載された事項を対比すると、引用文献2に記載された事項の「マーカーのmRNA量」は本願発明の「トランスクリプトームパラメーター」に、「DNAマイクロアレイ解析」は「比較トランスクリプトーム解析」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2に記載された事項の「初期継代BJ皮膚繊維芽生細胞」「後期継代BJ皮膚繊維芽生細胞」「継代」は、本願明細書【0005】の「『若い』細胞と呼ばれる細胞は、若いドナー由来の生検材料に由来する細胞、in vitro経代培養の回数が比較的少なくあまり増殖していない細胞、又は、太陽放射にあまりさらされていない生検材料(胴体、胸部、腹部、包皮等)に由来する細胞のいずれかであり、また、『加齢した』細胞と呼ばれる細胞は、加齢したドナー由来の生検材料に由来する細胞、in vitro経代培養を受けた回数が多い細胞、又は、太陽にさらされている部位(首、手、顔等)から採取した生検材料に由来する細胞のいずれかである。」の記載に鑑み、それぞれ本願発明の「若い生細胞」「加齢した生細胞」「加齢」に相当する。
してみれば、両者は、
「少なくとも1つの加齢する間に変化が生じるトランスクリプトームパラメーターに結果的に生じた変化を同定する方法であって、
a)培養された若い生細胞からmRNAを回収すること
b)培養された加齢した生細胞からmRNAを回収すること
c)若い生細胞から回収したmRNAの発現レベルと、加齢した生細胞から回収したmRNAの発現レベルとを、前記mRNAで行われる比較トランスクリプトーム解析により比較すること
d)細胞の加齢に対して更に変化が生じる少なくとも1つのトランスクリプトームパラメーターを結果的に同定することを可能にすること
を特徴とする方法。」
である点で一致し、
本願発明では、mRNAを抽出する若い/加齢した生細胞が、三次元組織モデルで培養された細胞であるのに対し、引用文献2に記載された事項では、二次元培養細胞である点
で、相違する。

6.判断
上記相違点について検討する。
引用文献4には、(3-2-1)(3-2-2)(3-2-3)の記載からして、三次元培養系がインビボ組織と同等な環境を実現し、生理学的条件に匹敵する系でのインビトロ複製を可能にすること、二次元的細胞増殖は、インビボの完全な組織の特徴である細胞-細胞および細胞-マトリックス相互作用を欠いていること、そして、三次元培養系を使用することで、正常な細胞-細胞相互作用、天然増殖因子の分泌、およびインビボで見られるものと殆ど同じ結合組織網状構造の確立を可能にするなどの利点を得られることが記載されていると認められる。また、(3-2-5)の記載からして、実際にそのような三次元培養系皮膚組織モデルを作成する手法が開示されている。
ここで、一般に、生命現象の解明を目的とする研究は、生体や生体に近い環境で実行することで、より実際に生命現象が生じている環境に近い状態での真理究明が可能となることは、当該研究分野において自明の事実であり、当業者であれば通常、実験の操作性や取り扱いの容易性、実験に要するコストや時間等々の条件が許せば、なるべく生体に近い環境を選択するのが、本願優先日時の技術常識である。ここで、引用文献2に記載されたDNAマイクロアレイ解析は、初期継代BJ皮膚繊維芽細胞と後期継代BJ皮膚繊維芽細胞の発現比較を行うものであるが、これは老化に関する生命現象の解明を目的としたものであり、なるべく生体に近い環境でのデータ取得を目指すのは、当業者として自然な選択である。このため、引用文献2に記載された解析では、取り扱いが比較的簡便な二次元培養細胞が皮膚モデルとして使用されているが、より生体に近い環境での真理究明や、引用文献4で二次元的増殖では実現できないとされる細胞-細胞相互作用・細胞-マトリックス相互作用が老化に与える影響を生体条件により整合させることを目的として、二次元培養細胞に換えて引用文献4に記載されたような三次元培養系皮膚組織モデルを採用することは、当業者であれば容易に想到しうるものである、と言うべきである。
次に本願発明の効果について検討する。本願の明細書等を参酌しても、より生体に近い環境である三次元培養系皮膚組織モデルを使用したことにより当然実現される効果以上のものが本願発明に奏されているとは、認めることができない。

7.むすび
以上の通りであるから、本願請求項1に係る発明は、引用文献2、4に記載された発明、および本願優先日時の技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2010-07-15 
結審通知日 2010-07-20 
審決日 2010-08-03 
出願番号 特願2003-105029(P2003-105029)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西 剛志  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 加々美 一恵
平田 和男
発明の名称 ストレスにさらされている生細胞とさらされていない生細胞とを用いた少なくとも1つの生物学的パラメーターに結果的に生じた変化の同定法  
代理人 安富 康男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ