ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q |
---|---|
管理番号 | 1228895 |
審判番号 | 不服2008-13202 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-23 |
確定日 | 2010-12-16 |
事件の表示 | 特願2003-123798「アンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日出願公開、特開2004-328610〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯と本願発明 本願は、平成15年4月28日の出願であって、原審において平成20年4月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月23日に審判請求がなされ、平成22年7月6日付けの当審よりの拒絶理由通知に対し、同年9月9日に意見書の提出があったものであり、 その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月27日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 (本願発明) 「携帯機器に搭載されるアンテナ装置であって、 非接触通信を行うための非接触通信用アンテナが形成されたアンテナ基板と、前記非接触通信の周波数帯域における比透磁率のインダクタンス成分が1より大きくかつ磁気損失成分が10より小さい金属系磁性体板と、 非導電性でありかつ比透磁率が1に近い材料からなる中間部材と、を備え、 前記中間部材は、所定の厚みを有するとともに、前記アンテナ基板と前記金属系磁性体板との間に介在させて前記アンテナ基板と前記金属系磁性体板とを接着するよう構成したアンテナ装置。」 2.引用発明及び周知技術 (1)当審の拒絶理由に引用された、特開平11-339143号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【請求項1】 盗難監視用の物品(11)に取付けられ送信アンテナ(13)から送信された特定周波数の電波に共振する共振回路部(14,54)を備えた盗難防止用タグ(12)において、 前記物品(11)への取付面と前記共振回路部(14,54)との間に電磁遮蔽層(16,56)が介装されたことを特徴とする盗難防止用タグ。 (・・・中略・・・) 【請求項5】 電磁遮蔽層(16,56)が粒径10μm以下の軟磁性粉末とプラスチック又はゴムとの複合材からなる請求項1又は2記載の盗難防止用タグ。 」(2頁1欄、請求項1、5) ロ.「【0019】 【発明の実施の形態】次に本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて詳しく説明する。図1?図3に示すように、盗難監視用の物品11に取付けられたタグ12は送信アンテナ13から送信された特定周波数の電波に共振する共振回路部14と、物品11の取付面と共振回路部14との間に介装された電磁遮蔽層16とを備える。物品11はこの実施の形態では強磁性材料である鋼板製の容器11aに収納された飲料水や食用油やキャンディ等である。共振回路部14は紙やプラスチック薄板等の絶縁性材料により形成された絶縁性基材シート17と、絶縁性基材シート17の一方の面に銅やアルミニウム等の導電性材料により略正方形の渦巻き状に形成されたコイル部18と、絶縁性基材シート17の一方の面に接着され上記コイル部18と電気的に接続されたコンデンサ19とを有する(図1及び図2)。コンデンサ19は誘電体層(図示せず)を介して互いに接着された一対の電極層19aにより構成される。コイル部18は絶縁導線を略正方形に渦巻き状に巻回して絶縁性基材シート17に貼付けることにより形成され、或いは絶縁性基材シート17に積層したアルミニウム箔や銅箔等の導電性材料をエッチング法又は打抜き法等により不要部分を除去して略正方形の渦巻き状に形成される。 【0020】電磁遮蔽層16はスチロール板やアクリル板等の絶縁材料により形成するか、又はフェライト粉末とプラスチック又はゴムとの複合材、若しくは粒径10μm以下の軟磁性粉末とプラスチック又はゴムとの複合材により形成される。複合材により電磁遮蔽層16を形成すれば電磁遮蔽層16の厚さを薄くすることができる。電磁遮蔽層を絶縁材料により形成した場合には、その厚さは5mm?10mmの範囲にあることが好ましく、電磁遮蔽層を複合材により形成した場合には、その厚さは3?5mmの範囲にあることが好ましい。また、上記複合材からなる第1層と、プラスチック又はゴムからなる第2層とを積層して電磁遮蔽層16を形成しても良い。第1層と第2層とを積層して電磁遮蔽層を形成すれば、第1層の厚さを薄くすることができ、かつフェライト粉末又は軟磁性粉末の使用量を少なくすることができる。電磁遮蔽層を第1層及び第2層を積層して形成した場合には、第1層及び第2層の厚さはそれぞれ2?4mm及び2?5mmの範囲にあることが好ましい。 【0021】なお、上記複合材又は第1層はフェライト粉末又は軟磁性粉末を80?95重量部、プラスチック又はゴムを5?20重量部の範囲で混合・固化して形成されることが好ましい。また、図中では電磁遮蔽層16は共振回路部14と略同一面積にて示したが、電磁遮蔽層16の面積を共振回路部14より大きくすることにより電磁遮蔽層16の効果がより発揮されることは言うまでもない。なお、粒径10μm以下の軟磁性粉末を使用する場合における軟磁性粉末は、アモルファス合金、パーマロイ、電磁軟鉄、ケイ素鋼板、センダスト合金又はFe-Al合金のいずれかを使用することが好ましい。 【0022】電磁遮蔽層16は絶縁性基材シート17と略同一面積を有する平板状に形成され、接着層21によりコイル部18及びコンデンサ19が形成された絶縁性基材シート17の一方の面に接着される。また絶縁性基材シート17に接着された電磁遮蔽層16は接着層22を介して上記物品11の表面、即ち鋼板製の容器11aの表面に取付けられる(図1?図3)。このようにして盗難防止用タグ12は電磁遮蔽層16を共振回路部14と盗難監視用の物品11との間に配置された状態で取付けられる。一方、上記物品11を販売する店の出入り口(図示せず)には上記送信アンテナ13と受信アンテナ23とが互いに所定の間隔をあけて立設される(図3)。受信アンテナ23は制御部24の制御入力に接続され、制御部24の制御出力に送信アンテナ13が接続される。また制御部24の制御出力には警報を発するスピーカ26が接続される。」(4頁6欄?5頁7欄、段落19?22) 上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、 引用例記載の「盗難防止用タグ12」は、上記ロ.および引用例図1の記載から明らかなように、 アンテナとしての「コイル部18」が形成された「絶縁性基材シート17」と、「電磁遮蔽層16」および「接着層21」を含むものであり、 ここで、上記「電磁遮蔽層16」は、上記イ.【請求項5】や上記ロ.【0020】にあるように、「粒径10μm以下の軟磁性粉末とプラスチック又はゴムとの複合材により」、「平板状に」(【0022】)形成されており、 また、上記「接着層21」は、引用例図1から明らかなように、層としての「所定の厚み」を有し、かつ前記「基材シート」と前記「電磁遮蔽層」の間に介在させて両者を「接着」するように構成されている。 また、接着後の前記「基材シート」と「電磁遮蔽層」及び「接着層」の3層構造は、上記「盗難防止用タグ」のアンテナ、すなわち「タグ用アンテナ」を構成しているということができる。 したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (引用発明) 「タグ用アンテナであって、 アンテナコイルが形成された基材シートと、軟磁性粉末とプラスチックとの複合材により平板状に形成された電磁遮蔽層と、 接着層と、を備え、 前記接着層は、所定の厚みを有するとともに、前記基材シートと前記電磁遮蔽層との間に介在させて前記基材シートと前記電磁遮蔽層とを接着するよう構成したタグ用アンテナ。」 (2)同じく当審の拒絶理由に引用された、特開2001-202483号公報(以下、「周知例1a」という。)には図面とともに以下の事項イ.が、 また例えば、特開2003-67692号公報(以下、「周知例1b」という。)、特開2003-37861号公報(以下、「周知例1c」という。)には、以下の事項ロ.、ハ.が記載されている。 イ.「【0015】 【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して、本発明の情報入出力装置の例示的一態様としてのリーダライタ100を説明する。なお、添付図面の各図において、同一の参照番号を付した部材は同一部材を表すものとし、重複説明は省略する。リーダライタ100は電子機器の一例であるノート型パーソナルコンピュータ(以下、「ノート型パソコン」という。)300に接続され、非接触ICカード202及びコイン型の非接触ICタグ204(なお、以下、「非接触情報媒体200」は両者を総括するものとする。)の両方と交信することができる。従って、本実施例では、リーダライタ100は例示的にノート型パソコン300の機能拡張装置として機能する。ここで、図1は、リーダライタ100、非接触情報媒体200及びノート型パソコン300からなる通信システム1を示す概観斜視図である。 【0016】リーダライタ100は、図1及び図2に示すように、筐体10と、収納部40及び50と、ランプ62及び64と、スイッチ72と、ゴムパッド80と、コード98とを有する。筐体10は、例えば、プラスチックから形成され、図3乃至図5に示すように、表カバー20と裏カバー30とから構成され、底部には例示的に4つのゴムパッド80を各コーナーに有する。ここで、図2はリーダライタ100の正面図である。図3はリーダライタ100の側面図である。図4はリーダライタ100の断面図である。図5はリーダライタ100の裏カバー30の裏面図である。 【0017】代替的に、筐体10は、ノート型パソコン300のキーボードと一体的に構成されたり、拡張ユニットとして構成されたりしてもよい。また、本実施例とは異なるその他の電子機器(PDA、ハンドヘルドパソコン、ウェアラブルコンピュータ、テレビ、携帯電話、ゲーム機など)の本体又は付属部品(例えば、テレビのリモコン)と一体的に構成されてもよい。」(3頁4欄、段落15?17) ロ.「【請求項1】モバイル機器のバッテリー用蓋の内側に組み込まれ、当該モバイル機器と一体構成されるモジュールであって、 外部のリーダライタ装置と信号の送受信を行うアンテナコイルと、 当該アンテナコイルに接続されて非接触式ICカード機能を発揮するICチップとを具備する、 ことを特徴とする無線通信モジュール。 【請求項2】前記モジュールは、 前記モバイル機器のバッテリー内部の金属板による前記アンテナコイルへの悪影響を低減するシート状の電磁シールド材を、具備する、 ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信モジュール。」(2頁1欄) ハ.「【請求項1】無線通信を行う携帯電話機の筐体であって、樹脂からなる筐体の少なくとも一部分に、金属導体をコイル状に配線したアンテナとそれと電気的に接続されたIC部品とからなる非接触式ICカード機能部品が内蔵封止されていることを特徴とする非接触式ICカード機能を備えた携帯電話機用筐体。」(2頁1欄) 例えば上記周知例1a?cに開示されているように、「タグやリーダライタ等に用いられる非接触通信用アンテナを携帯電話等の電子機器に組み込む」ことは周知技術である。 (3)同じく当審の拒絶理由に引用された、特開平10-92623号公報(以下、「周知例2」という。)または、特開2002-158482号公報(以下、「周知例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されており、 また例えば、特開2002-217583号公報(以下、「周知例4」という。)には、以下の事項が記載されている。 (周知例2) イ.「【請求項1】 軟磁性合金粉末と有機結合剤とからなる複合磁性体を含む電磁干渉抑制体において,前記軟磁性合金粉末は,チタネートカップリング剤またはシランカップリング剤処理が施されていることを特徴とする電磁干渉抑制体。」(2頁1欄、請求項1) ロ.「【0026】図1は本発明の実施の形態によるカップリング剤で処理した軟磁性粉末を用いた複合磁性体の実数部透磁率μ´と虚数部透磁率μ''の周波数特性を示す図である。図1を参照して,上記表1におけるカップリング剤A及びBを用い,バインダーとして,塩素化ポリエチレンを使用した複合磁性体の実数部透磁率μ´は,夫々曲線11,12に示すように,40MHz付近で極大を示し周波数が増加するにつれて減少するのに対して,虚数部透磁率μ''は,夫々曲線21,22で示すように40MHz付近から一度増大し,100MHzで極大を示することがわかる。」(4頁5欄?6欄、段落26) ハ.周知例2の図1には、1GHz以下の周波数帯域における実数部透磁率μr’が1より大きくかつ虚数部透磁率μr”が10より小さい磁性材料の特性が開示されている。 (周知例3) イ.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ノイズの原因等となる電磁波を吸収するための電磁波吸収体に関し、詳しくは、電磁波吸収体を構成するための電磁波吸収体用金属粉末、その電磁波吸収体用金属粉末を用いて構成された電磁波吸収体、及び、電磁波吸収体の1形態としての塗料に関する。」(2頁1欄、段落1) ロ.「【0009】本発明の電磁波吸収体用金属粉末は、鉄を主成分としてこれにケイ素を添加したことによって、良好な電磁波吸収特性を呈する。なお、ケイ素の添加量が2重量%未満では充分な電磁波吸収特性が得られない可能性がある。一方、ケイ素の添加量が8重量%を超えると、粉砕/磨砕時に粉末形状が歪み、電磁波吸収体中での均一な分散に不利である。また、クロムは耐触性を向上させる元素で、1重量%未満では充分な耐触性が得られない場合がある。一方、クロムの添加量が15重量%を超えると、粉砕/磨砕効率が悪く、扁平化に要する時間が長くなって好ましくない。更に5重量%を超えると電磁波吸収体としての透磁率が低下し好ましくない。従って、クロムの取り扱い上からもクロムの添加量は5重量%以下が好ましい。」(2頁2欄?3頁3欄、段落9) ハ.「【0046】続いて、前述のように良好な電磁波吸収特性を呈するNo.1の試料に対して、更に、その電磁波吸収特性の周波数に応じた変化(周波数特性)を検証した。図3は、No.1の試料における複素比透磁率μrの実数項μr’及び虚数項μr”の周波数特性を表す線図である。なお、評価には塩素化ポリエチレン樹脂中に試料を55体積%配合した状態で測定を行った。実施例No.1の試料を用いたものは、極めて良好な透磁率を有し、特に、1GHzではμr’≧10,μr”≧5となった。従って、本発明品は極めて優れた電磁波吸収特性を有し、電磁波ノイズの放射抑制等にも極めて有効であることが分かった。」(7頁12欄、段落46) ニ.周知例3の図3には、800MHz以下の周波数帯域における複素比透磁率の実数項μr’が1より大きくかつ虚数項μr”が10より小さい磁性材料の特性が開示されている。 (周知例4) イ.「【0005】因みに、フェライトコア7によるコモンモード電流の抑制作用には、磁気特性として使用周波数に対する複素透磁率の実数成分μ′によって生じるインダクタンスLの成分と複素透磁率の虚数成分μ″によって生じる損失Rの成分とが寄与している。」(2頁1?2欄、段落4) 物質の磁気的特性を表す物性的パラメータである「透磁率」は、真空の透磁率に対する比として無名数である「比透磁率」が慣用されるが、上記周知例3のハ.にもみられるように単に「透磁率」とも通称されるものであって、更に電磁波・電波のような高周波においては、「複素(比)透磁率」として複素数の実部と虚部に対応する2つの成分を有することは技術常識である。 そして、例えば上記周知例4に開示されているように、「使用周波数に対する複素透磁率の実数成分μ′」は「インダクタンス成分」であり、「複素透磁率の虚数成分μ″」は「(磁気)損失成分」である。 したがって、例えば上記周知例2、3に開示されているように、「軟磁性材料を用いた800MHz以下の周波数帯域における比透磁率のインダクタンス成分(実数部透磁率μr’)が1より大きくかつ磁気損失成分(虚数部透磁率μr”)が10より小さい磁性材料」は周知である。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「携帯機器に搭載されるアンテナ装置」と、引用発明の「タグ用アンテナ」は、いずれもアンテナとして当然のことながら、電波すなわち無線信号を扱うものであるから「無線アンテナ」である点で一致している。 また、本願発明の「非接触通信を行うための非接触通信用アンテナが形成されたアンテナ基板」と、引用発明の「アンテナコイルが形成された基材シート」は、いずれもアンテナの構造部分として「アンテナ部」である点で一致している。 また、本願発明の「金属系磁性体板」は、本願明細書【0024】、【0027】などにあるように、「電磁波遮断板」、「電磁波遮蔽板」であるが、 上記周知例2?4にあるように、磁性体の複素透磁率は所定の周波数帯域において所定のインダクタンス成分(実数部透磁率)と磁気損失成分(虚数部透磁率)を有するものであるから、引用発明の「電磁遮蔽層」も所定の周波数帯域において所定の複素透磁率を有するのは当然のことであって、周波数に応じた所定のインダクタンス成分と磁気損失成分を有するから、 本願発明の「前記非接触通信の周波数帯域における比透磁率のインダクタンス成分が1より大きくかつ磁気損失成分が10より小さい金属系磁性体板」と、引用発明の「軟磁性粉末とプラスチックとの複合材により平板状に形成された電磁遮蔽層」は、いずれも「所定の周波数帯域における所定のインダクタンス成分と磁気損失成分を有する電磁遮蔽部」である点で一致している。 また、本願発明の「非導電性でありかつ比透磁率が1に近い材料からなる中間部材」と、引用発明の「接着層」は、いずれも「中間層」である点で一致しているが、引用発明の接着層の物性に関しては不明である。 したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。 <一致点> 「無線アンテナであって、 アンテナ部と、所定の周波数帯域における所定のインダクタンス成分と磁気損失成分を有する電磁遮蔽部と、 中間層と、を備え、 前記中間層は、所定の厚みを有するとともに、前記アンテナ部と前記電磁遮蔽部との間に介在させて前記アンテナ部と前記電磁遮蔽部とを接着するよう構成した無線アンテナ。」 <相違点> (1)「無線アンテナ」に関し、本願発明は「携帯機器に搭載されるアンテナ装置」であるのに対し、引用発明は「タグ用アンテナ」である点。 (2)「アンテナ部」に関し、本願発明は「非接触通信を行うための非接触通信用アンテナが形成されたアンテナ基板」であるのに対し、引用発明は「アンテナコイルが形成された基材シート」である点。 (3)「所定の周波数帯域における所定のインダクタンス成分と磁気損失成分を有する電磁遮蔽部」に関し、本願発明は「前記非接触通信の周波数帯域における比透磁率のインダクタンス成分が1より大きくかつ磁気損失成分が10より小さい金属系磁性体板」であるのに対し、引用発明は「軟磁性粉末とプラスチックとの複合材により平板状に形成された電磁遮蔽層」である点。 (4)「中間層」に関し、本願発明の中間層は「非導電性でありかつ比透磁率が1に近い材料からなる中間部材」であるのに対し、引用発明の中間層はその物性については不明であるものの「接着層」である点。 4.判断 そこで、まず、上記相違点(1)の「無線アンテナ」について検討するに、 例えば上記周知例1a?cに開示されているように、「タグやリーダライタ等に用いられる非接触通信用アンテナを携帯電話等の電子機器に組み込む」ことは周知技術であり、 当該周知技術を引用発明に適用する上での阻害要因は何ら見あたらないから、当該周知技術に基づいて、引用発明の「タグ用アンテナ」を、本願発明のような「携帯機器に搭載されるアンテナ装置」とする程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。 ついで、上記相違点(2)の「アンテナ部」について検討するに、 例えば上記周知例1a?cに開示されているように、「タグやリーダライタ等に用いられる」アンテナは、いわゆる非接触通信に用いられる「非接触通信用アンテナ」であり、 また、本願発明のアンテナもその具体的形状は引用発明と同様の「ループアンテナ(アンテナコイル)LA」(本願図1、明細書、段落24参照)であり、 引用発明の「基材シート」も「シート」である以上「板」状の形状に大差はなく、 これらの知見に基づいて、引用発明の「アンテナコイルが形成された基材シート」を、本願発明のような「非接触通信を行うための非接触通信用アンテナが形成されたアンテナ基板」とする程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。 ついで、上記相違点(3)の「所定の周波数帯域における所定のインダクタンス成分と磁気損失成分を有する電磁遮蔽部」について検討するに、 例えば上記周知例2、3に開示されているように、「軟磁性材料を用いた800MHz以下の周波数帯域における比透磁率のインダクタンス成分(実数部透磁率μr’)が1より大きくかつ磁気損失成分(虚数部透磁率μr”)が10より小さい磁性材料」は周知であり、 またタグ用アンテナで使用する周波数が通常数百MHz以下であることを考慮すると、引用発明の軟磁性材料を用いた電磁遮蔽層の特性を当該周知の特性とする上での阻害要因は何ら見あたらないから、当該周知の特性に基づいて、引用発明の「軟磁性粉末とプラスチックとの複合材により平板状に形成された電磁遮蔽層」の構成を、本願発明の発明のような「前記非接触通信の周波数帯域における比透磁率のインダクタンス成分が1より大きくかつ磁気損失成分が10より小さい金属系磁性体板」とする程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。 最後に、上記相違点(4)の「中間層」について検討するに、 本願発明の中間層である「中間部材」は、例えば本願特許請求の範囲請求項3の記載によれば「接着剤」であり、板状構造を接着する「層」を構成するから、当該構成自体は引用発明の「接着層」と変わらない。 一方、引用発明の「接着層」はアンテナコイルに接触しているのであるから、導体であるアンテナコイルの動作を阻害しないためには、当該接着層が「絶縁性」即ち「非導電性」を備えなければならないことは当業者には自明のことである。 また、導電性、非導電性を問わず接着剤のような磁性体以外の一般的な材料(いわゆる非磁性体)の比透磁率が通常1に近いものであることも、非磁性体は(強くは)磁性を示さないのであるから、磁気的には何もない真空とほぼ同様な透磁率であるので、真空に対する比としての比透磁率の定義からも自明な技術常識であって、 更に例えば本願明細書中に言及された、特開平7-263936号公報(段落28?31参照、なお同段落における「非透磁率」なる記載は、「比透磁率」の誤記と認める。)や、特開昭62-42306号公報(1頁右下欄4?14行目、特に13行目参照)にあるように周知の技術事項でもある。 結局、これらの自明ないしは周知の技術事項に基づいて、引用発明の「接着層」の物性及び名称を、本願発明のような「非導電性でありかつ比透磁率が1に近い材料からなる中間部材」と限定することは、格別の技術的意義を有するものではなく、当業者であれば適宜なし得る程度のことと言わざるを得ない。 そして、本願発明が奏する効果も前記引用発明及び周知技術、技術常識から当業者であれば容易に予測出来る範囲内のものである。 また、当審の拒絶理由に対する意見書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-13 |
結審通知日 | 2010-10-19 |
審決日 | 2010-11-02 |
出願番号 | 特願2003-123798(P2003-123798) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01Q)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 圭一郎、西脇 博志 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
猪瀬 隆広 新川 圭二 |
発明の名称 | アンテナ装置 |
代理人 | 小栗 昌平 |
代理人 | 橋本 公秀 |
代理人 | 市川 利光 |