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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1228930
審判番号 不服2008-26482  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-15 
確定日 2010-12-09 
事件の表示 特願2003-110656「エリア監視システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日出願公開、特開2004-328018〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成15年4月15日(優先権主張平成15年3月5日)に出願された特許出願であって,平成20年9月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年10月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり,その請求項1に係る発明は,平成19年9月28日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)
「【請求項1】 被監視者が携帯するGPS付携帯電話と,
前記GPS付携帯電話に対して所定スケジュールで位置情報を要求し,前記GPS付携帯電話からの位置情報を受け取る位置検索センターと,
前記位置検索センターからの位置情報を受け取り,その位置情報があらかじめ監視者が定めたエリア外または所定のエリア内であったときに当該監視者の携帯電話に電子メールで通報するサービスセンターとからなり,
前記GPS付携帯電話が前記位置検索センターに通報する位置情報は,GPS衛星と位置検索センターの基地局または中継局による位置情報を含む,
エリア監視システム。」

2 引用例
これに対して,原審における,平成20年2月8日付けで通知した拒絶理由で引用した,特開2002-99971号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の記載がある。

(イ)「【請求項1】 携帯端末の所持者の異常事態を検知して通報する緊急通報装置であって,
前記所持者が指定する移動範囲を許容領域として登録する許容領域データベースと,
前記携帯端末の前記所持者の現在位置情報を取得する位置情報取得部と,
前記現在位置情報が前記許容領域内であるか否かを判定する判定部と,
前記判定部により前記所持者の現在位置が前記許容範囲外であると判定された場合に,前記所持者が異常事態にあることを通報する通報部とを備えたことを特徴とする緊急通報装置。」(2頁1欄2?13行)

(ロ)「【0015】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態の緊急通報システム,緊急通報装置及び携帯端末を説明する。図1は,緊急通報システムの全体図である。緊急通報システムは,所持者の携帯端末10と,警備会社40における緊急通報装置20と,コールセンター30を有する。
【0016】携帯端末10の一例は,PHS,携帯電話,またはPDA等のモバイル端末である。携帯端末10は無線通信によって基地局70とデータ通信を行う通信部を有する。さらに携帯端末10は位置情報取得部の一例として,GPS衛星60と通信し,所持者の位置情報を取得することのできるGPS通信部を有する。
【0017】緊急通報装置20は,基地局70を介して携帯端末10から所持者の行動範囲及び現在位置情報を受信し,所持者の現在位置情報が行動範囲内であるかどうかを判定し,行動範囲外である場合に,携帯端末10へ確認信号を発信し,所持者からの応答がない場合に,異常事態であると判断し,コールセンター30へ通知する。コールセンター30は,所持者の現在位置に警備員を派遣する,または所持者の保護者の電話80またはファックスに通報する。また緊急通報装置20は,インターネットプロバイダ50を介して保護者のパーソナルコンピュータ90に電子メールを送信し,異常事態を連絡する。
【0018】図2は,緊急通報装置20の構成図である。緊急通報装置20は,通信部102と,位置情報取得部104と,判定部106と,確認部108と,通報部110とを有する。また緊急通報装置20は,図示しないデータベース検索部を介して行動範囲データベース120と,地図情報データベース130にアクセスして,データの読み書きをすることができる。緊急通報装置20の構成は,ハードウエア的には,任意のコンピュータのCPU,メモリ,その他のLSIで実現でき,ソフトウエア的にはメモリにロードされた緊急通報機能のあるプログラムなどによって実現されるが,ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって,これらの機能ブロックがハードウエアのみ,ソフトウエアのみ,またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは,当業者には理解されるところである。
【0019】通信部102は,基地局70を介して無線通信により携帯端末10とデータ通信を行う。位置情報取得部104は,通信部102が受信したデータから所持者の行動範囲を規定する位置情報または所持者の現在位置情報を取得する。行動範囲及び現在位置情報は緯度及び経度を用いて指定される。位置情報取得部104は所持者の行動範囲に関する情報を所持者の個人情報に対応づけて行動範囲データベース120に登録する。携帯端末10の所持者を識別するため,携帯端末10の発信電話番号を用いる。
【0020】また位置情報取得部104は,現在位置情報を判定部106に入力する。判定部106は行動範囲データベース120から所持者の行動範囲を検索し,現在位置情報が行動範囲内であるかどうかを判定する。判定部106は,地図情報データベース130を用いて,所持者の現在位置が行動範囲に近いかどうかを判定してもよい。判定部106が,所持者の現在位置が行動範囲外であると判定した場合,確認部108は,所持者が異常事態にあることを確認するための通報確認信号を携帯端末10に発信する。確認部108は,携帯端末10から通報確認信号に対する所持者の応答待ち状態になる。所定のタイムアウト時間を経過しても確認信号に対する応答が受信されない場合に,通報部110はコールセンター30に通知して,警備員の派遣,保護者への通報を行う,またはインターネットプロバイダ50に警告の電子メールを保護者のパーソナルコンピュータ90に送信する。
【0021】図3は,行動範囲データベース120に登録される所持者の行動範囲に関する情報を説明する図である。所持者の名前,電話番号,住所等の個人情報に対応づけて,所持者の複数の行動範囲が格納される。行動範囲は,2組の緯度,経度を対角線とする矩形の領域の組み合わせにより指定される。さらに複数の行動範囲の各々に指定日時を対応づけて登録することができる。たとえば,第1の行動範囲の指定日時は平日の月曜日から金曜日であり,第2の行動範囲の指定日時は土曜日,日曜日及び休日である。また昼間,夜間等の時間帯を指定してもよい。このように日時によって所持者の行動範囲を区別して登録することができる。また一時的行動領域は,所持者が行動範囲外で一時的に所在することが許される位置を格納する。たとえば所持者の現在位置の緯度N5,経度E5を中心として,半径300m以内を一時的行動領域として登録する。一時的行動領域には有効期限が設けられ,たとえば30分と設定する。指定された有効期限が経過すると,登録された一時的行動領域は抹消される。
【0022】図4は,携帯端末10の一例であるPDAの説明図である。PDAは基地局70と無線通信を行う通信部12と,表示部14と,操作ボタン15A?15Eとを有する。表示部14は,地図を表示し,所持者は登録したい行動範囲を指定することができる。斜線を付した領域16は,所持者が行動範囲として指定した領域である。たとえば,PDAを子どもや老人に持たせる場合に,子どもや老人の日常の行動範囲を指定する。PDAは図示しないアラーム部を有し,緊急通報装置20から通報確認信号を受信した場合に,警告音を鳴らす。また図示しないGPS受信部がGPS衛星60から現在位置情報を受信する。GPS受信部はPDAに内蔵されていても,GPSアンテナ装置としてPDAに装着されてもよい。通信部12は,所持者の位置情報を緊急通報装置20に送信する。」(4頁5欄18行?5頁7欄18行)

(ハ)「【0024】図6(A)?(F)は,携帯端末10における行動範囲の登録画面の説明図である。図6(A)は,緊急通報サービスのメニューであり,行動範囲登録,通報解除の2つのメニューがある。行動範囲登録を選択すると,図6(B)の行動範囲登録のメニューが表示される。「期間で設定」,「地図または路線で設定」,「移動経路で設定」,「現在位置で設定」のいずれかを選択する。「期間で設定」を選ぶと,図6(C)の画面により,行動範囲を登録する期間を設定することができる。たとえば携帯端末10を持ち歩く1か月の間,移動した範囲が自動的に行動範囲として,緊急通報装置20の行動範囲データベース120に登録される。「地図または路線で設定」を選択すると,図6(D)の画面により,電車の路線と駅名で行動範囲を指定する,または地図を参照しながら行動範囲を指定することができる。「移動経路で設定」を選択すると,図6(E)の画面により,開始ボタンを押すと,移動中の場所を行動範囲として自動登録することができ,中断ボタンを押すと,自動登録を中断することができる。これにより,所持者が移動中の場所を行動範囲として登録できる。「現在位置で設定」を選択すると,図6(F)の画面により,現在位置を中心とした半径を指定して,現在位置及びその周辺を行動範囲として登録できる。
【0025】携帯端末10は,GPS受信部から取得した位置情報を随時,緊急通報装置20に送信し,緊急通報装置20は取得した位置情報を統合して行動範囲として行動範囲データベース120に登録する。あるいは携帯端末10が所持者の移動した範囲の位置情報を統合し,行動範囲に関する位置情報として一括して緊急通報装置20に送信してもよい。」(5頁7欄26行?8欄5行)

(ニ)「【0026】図7は,緊急通報装置20における緊急通報方法のフローチャートである。位置情報取得部104は,通信部102が受信するデータから,携帯端末10の所持者を識別する情報と所持者の現在位置情報を受信する(S102)。判定部106は,行動範囲データベース120を検索して所持者の現在位置情報が所持者の登録した行動範囲内であるかどうかを判定する(S104)。判定の結果,行動範囲内である場合,ステップS102に戻る。行動範囲外である場合,確認部108は行動範囲外であることを所持者に確認するための通報確認信号を携帯端末10へ送信する(S106)。確認部108は所持者の携帯端末10から通報確認信号に対する応答を待つ(S108)。携帯端末10には図8の画面が表示され,警告音とともに,緊急通報が必要かどうかを示すメッセージが表示される。所持者が「通報不要」ボタンを押すと,通報確認信号に対する応答が緊急通報装置20に送信される。確認部108は所定のタイムアウト時間を設定し,通信部102が通報確認信号に対する応答を受信するのを待つが(S110),タイムアウト時間を経過すると,所持者からの応答がないものとして,通報部110は所持者が異常事態にあることを警備会社または所持者の保護者に通報する(S112)。このように,所持者が通報確認信号に対して所定の時間内に通報不要であると応答しなかった場合には,通報が行われる。なお,図8の画面において所持者が「助けて!」ボタンを押した場合にも,通報が行われることは当然である。
【0027】ステップS108において,携帯端末10から確認信号に対して通報不要の応答があった場合,確認部108は現在位置を所持者の行動範囲に追加登録するかどうかを所持者に確認するメッセージを携帯端末10に送信する(S114)。携帯端末10には図9の画面が表示され,所持者に追加登録をするかどうかを問い合わせる。「登録する」を選択した場合,現在位置情報が緊急通報装置20に送られ,現在位置とその周辺が行動範囲として行動範囲データベース120に登録される。「登録しない」を選択した場合,現在位置情報が緊急通報装置20に送られ,現在位置とその周辺を一時的な行動領域として行動範囲データベース120に登録される。現在位置とその周辺は有効期限付きで一時的な行動領域として登録されるので,ステップS102に戻っても一定の時間内は行動範囲外として警告されることがない。」(5頁8欄6?48行)

(ホ)「【0028】以上述べたように,本実施形態の緊急通報システムによれば,携帯端末10の現在位置情報を取得して,携帯端末10の所持者の現在位置が日常の行動範囲内であるかどうかを判定し,許容された行動範囲外に居ることがわかった場合に,本人に異常事態であるかどうかを確認した上で,応答がない場合に警備会社や保護者に通報することができる。子どもや徘徊老人のように携帯端末10を操作するのが難しい場合でも,簡単に異常事態を確認して通報することができる。また,一般の所持者であっても,ストーカーやひったくりの危険に会って逃げている場合など,助けを求められない状況でも,自動的に異常事態が検出され,容易に危険を知らせて,通報することができる。」(5頁8欄49行?6頁9欄11行)

(へ)「【0030】そのような変形例として,上記の説明では,携帯端末10がGPS受信部を有し,GPS衛星60から位置情報を受信することにより所持者の現在位置情報を取得したが,携帯端末10と通信を行う基地局70が携帯端末10の位置情報を取得してもよい。たとえば,携帯端末10の一例であるPHSや携帯電話は複数の基地局70と通信することが通常であり,PHSや携帯電話と通信する基地局70の各々の電波の強度の違いから携帯電話の位置を推定することができる。GPSによる位置情報の精度が数メートルであるのに対して,複数の基地局による位置の推定精度はPHSの場合で数十メートル程度,携帯電話の場合で数百メートル程度が得られる。徘徊老人や子どもの行動範囲を規定するにはPHSまたはGPSによる位置精度が要求されるが,学生や勤労者の行動範囲を規定するには数百メートルの位置精度でも目的を達成しうる。」(6頁9欄17?32行)

したがって,上記(イ)乃至(ヘ)の摘記事項,及びこの分野の技術常識より,引用例には,
「所持者が携帯するGPS付携帯電話と,
前記GPS付携帯電話からの位置情報を受け取る位置情報取得部と,
前記位置情報取得部からの位置情報を受け取り,その位置情報があらかじめ保護者が定めたエリア外であったときに当該保護者のパーソナルコンピュータに電子メールで通報する通報部とからなり,
前記GPS付携帯電話が前記位置情報取得部に通報する位置情報は,GPS衛星による位置情報を含む,
緊急通報システム。」の発明(以下,「引用例発明」という。)が開示されている。

3 周知例
例えば,原審における,平成19年7月26日付けで通知した拒絶の理由に引用した,特開2002-269653号公報(以下,「周知例」という。)には,図面とともに以下の記載がある。

(ト)「【請求項1】 警告エリアを設定する設定手段と,
監視対象としての携帯端末の位置を取得する取得手段と,
前記取得手段により取得された前記携帯端末の位置が,前記設定手段により設定された前記警告エリア内であるか否かを判定する判定手段と,
前記判定手段により前記携帯端末の位置が前記警告エリア内であると判定された場合の通知先を指定する通知先指定情報を記憶する記憶手段と,
前記記憶手段により記憶されている前記通知先指定情報により指定される前記通知先に,前記携帯端末の位置が前記警告エリア内であることを通知する第1の通知手段とを備えることを特徴とする監視装置。」(2頁1欄2?14行)

(チ)「【0022】図3において,パーソナルコンピュータ1,および携帯電話機2は,監視者が有するものであり,PHS端末4-1,4-2(以下,PHS端末4-1,4-2のそれぞれを個々に区別する必要がない場合,まとめてPHS端末4と称する)は,監視対象者が有するものである。そして,監視対象者は,例えば,図に示すように子供や老人などであり,監視者は,その保護者である。
【0023】位置検出センタ5は,PHS端末4から送信される電波を図示せぬ受信端末において受信し,その受信端末の位置に基づいて,監視対象者の位置を特定する。位置検出センタ5により検出された位置情報は,監視センタ3に通知される。
【0024】監視センタ3は,監視者(パーソナルコンピュータ1)により予め設定された危険エリア(警告エリア)に関する情報を保持しており,位置検出センタ5から通知された位置情報に基づいて,監視対象者が危険エリアに進入しているか否かを判定する。そして,監視センタ3は,監視対象者が危険エリアに進入していると判定した場合,その場合の通知先として予め登録されている,監視者が有するパーソナルコンピュータ1および携帯電話機2に電子メールなどにより通知する。また,監視センタ3は,監視対象者が有するPHS端末4に対しても,危険エリアに進入していることを電子メールで通知する。すなわち,図3において,白抜き矢印は,警告情報(監視対象者が危険エリア内に進入していることを通知する情報)の流れを示している。」(3頁4欄12?38行)

(リ)「【0026】図4は,図3の監視システムの構成例を示すブロック図である。
【0027】図3において,センタ装置11は,監視センタ3により管理され,基本的に,センタ制御装置21,およびセンタ通信装置22から構成される。センタ制御装置21は,センタ通信装置22を制御し,通信網13を介して,様々な情報を送受信する。
【0028】位置情報検出装置12は,位置検出センタ5により管理され,PHS端末4の現在位置を取得する。取得された位置情報は,通信網13を介してセンタ装置11に送信される。」(3頁4欄45行?4頁5欄5行)

(ヌ)「【0032】図7は,図4の携帯電話機2の構成例を示すブロック図である。制御部71は,入出力バス73を介して各部を制御し,携帯電話機2の全体の動作を制御する。通信部72は,通信網13を介して様々な装置と通信し,受信したパケットを制御部71に出力する。メモリ74は,不揮発性のフラッシュメモリよりなり,登録された電話番号などの情報を記憶するとともに,例えば,センタ装置11から送信されてきた,監視対象者が危険エリアに進入していることを通知するメッセージを含む電子メールなどを記憶する。LCD75は,制御部71からの指示に基づいて,各種の情報を表示する。例えば,LCD75には,監視対象者が危険エリアに進入していることを監視者に通知するメッセージなどが表示される。入力部76は,テンキーや十字キーなどよりなり,携帯電話機2のユーザ(監視者)からの入力を受け付ける。スピーカ77およびマイクロフォン78は,制御部71が通話モードを実行しているとき動作し,スピーカ77は,他の電話機などから送信されてきた音声を入出力バス73を介して制御部71から受信したとき,それを出力し,マイクロフォン78は,携帯電話機2のユーザの発話を集音して入出力バス73を介して制御部71に出力する。」(4頁5欄33行?6欄4行)

(ル)「【0058】次に,図16のフローチャートを参照して,センタ装置11の監視処理について説明する。
【0059】ステップS91において,センタ制御装置21は,位置検出装置12から送信されてきた位置情報が,セキュリティモードがオンである監視対象者に関する情報であるか否かを判定する。センタ制御装置21は,セキュリティモードがオンである監視対象者に関する情報であると判定するまで待機し,セキュリティモードがオンである監視対象者に関する情報であると判定した場合,ステップS92に進み,それを受信する(取り込む)。
【0060】センタ制御装置21は,ステップS93において,登録されている設定情報(危険エリアが設定されている地図情報)を読み出す。そして,センタ制御装置21は,ステップS94において,通知された監視対象者の現在の位置情報と,危険エリアが設定されている地図情報とをマッチングする。
【0061】センタ制御装置21は,ステップS95において,ステップS94で実行したマッチングの結果,監視対象者が危険エリアに存在するか否かを判定し,危険エリアに存在しないと判定した場合,ステップS91に戻り,それ以降の処理を繰り返し実行する。一方,ステップS95において,センタ制御装置21は,監視対象者が危険エリアに存在すると判定した場合,警告モードとなり,ステップS96において,監視対象者が有しているPHS端末4に,危険エリアに入っていることを通知する警告情報を送信する。
【0062】また,センタ制御装置21は,ステップS97において,通知先として予め登録されている監視者の携帯電話機2の電話番号やメールアドレスなどを記憶装置42から読み出し,監視対象者が危険エリアに進入していることを通知する警告情報を,通信網13を介して携帯電話機2に送信する。
【0063】さらに,センタ制御装置21は,ステップS98において,監視者が有するパーソナルコンピュータ1に対して,監視対象者が危険エリアに進入していることを通知する警告情報を,通信網13を介して通知する。このステップS97,およびステップS98で通知する通知先が複数登録されている場合,センタ制御装置21は,その全ての通知先に対して,監視対象者が危険エリアに存在することを通知する。
【0064】ステップS99において,センタ制御装置21は,警告モードを解除することがパーソナルコンピュータ1,または携帯電話機2から指示されたか否かを判定し,解除することが指示されたと判定するまで,ステップS96に戻り,それ以降の処理を繰り返し実行する。すなわち,警告モードが解除されるまで,PHS端末4,携帯電話機2,およびパーソナルコンピュータ1に対して,所定時間毎に,警告情報が送信される。
【0065】そして,センタ制御装置21は,ステップS99において,パーソナルコンピュータ1,または携帯電話機2から警告モードを解除することが指示されたと判定した場合,ステップS100に進み,警告モードを解除する。例えば,監視者が,通知された監視対象者の位置情報に基づいて,監視対象者の安全を確認した場合,携帯電話機2からセンタ装置11に警告モードを解除することが指示される。」(6頁9欄22行?10欄28行)
したがって,上記周知例より,監視装置において,「位置情報を受け取る位置検出装置を独立させて位置情報を受け取る位置検出センタとすること」及び「電子メールで通報する通報手段を独立させて電子メールで通報する監視センタとすること」は周知である(以下「周知技術」という。)。

4 対比
本願発明と引用例発明とを対比する。
引用例発明の「所持者」は,所持者の行動範囲外を保護者に通知するため保護者によって監視されていることになるので,本願発明の「被監視者」に相当する。
引用例発明の「位置情報を受け取る位置情報取得部」と,本願発明の「位置情報を受け取る位置検索センター」は,「位置情報を受け取る位置情報手段」で一致する。
引用例発明の「保護者」は,所持者の行動範囲外を保護者によって監視しているので,本願発明の「監視者」に相当する。
引用例発明の「パーソナルコンピュータ」は電子メールを用いて通信をしているので,本願発明の「携帯電話」と「通信装置」で共通する。
引用例発明の「電子メールで通報する通報部」と,本願発明の「電子メールで通報するサービスセンター」は,「電子メールで通報する通報手段」で一致する。
引用例発明の「緊急通報システム」は,エリアを監視して通報するシステムであるから,本願発明の「エリア監視システム」に相当する。

したがって,両者は,
「被監視者が携帯するGPS付携帯電話と,
前記GPS付携帯電話からの位置情報を受け取る位置情報手段と,
前記位置情報手段からの位置情報を受け取り,その位置情報があらかじめ監視者が定めたエリア外または所定のエリア内であったときに当該監視者の通信装置に電子メールで通報する通報手段とからなり,
前記GPS付携帯電話が前記位置情報手段に通報する位置情報は,GPS衛星による位置情報を含む,
エリア監視システム。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では,「位置検索センター」が「GPS付携帯電話に対して所定スケジュールで位置情報を要求し」ているが,引用例発明では,GPS付携帯電話に対して所定スケジュールで位置情報を要求しているか不明である。
[相違点2]
位置情報を受け取る位置情報手段が,本願発明は「位置情報を受け取る位置検索センター」であるのに対し,引用例発明は「位置情報を受け取る位置情報取得部」である点。
[相違点3]
電子メールで通報される通信装置として,本願発明は「携帯電話」を用いているのに対し,引用例発明は「パーソナルコンピュータ」を用いている点。
[相違点4]
電子メールで通報する通報手段が,本願発明は「電子メールで通報するサービスセンター」であるのに対し,引用例発明は「電子メールで通報する通報部」である点。
[相違点5]
位置情報として,本願発明は「GPS衛星と位置検索センターの基地局または中継局による位置情報」を用いているのに対し,引用例発明は「GPS衛星による位置情報」を用いている点。

5 当審の判断
[相違点1][相違点2][相違点4]について検討する。
周知技術を引用例発明に適用すると,位置情報を受け取る位置情報手段に関しては,引用例発明の「位置情報を受け取る位置情報取得部」に代えて「位置情報を受け取る位置検出センター」に,電子メールで通報する通報手段に関しては,引用例発明の「電子メールで通報する通報部」に代えて「電子メールで通報するサービスセンター」となるから,相違点2,相違点4は周知技術による単なる設計的変更ということができる。
また,位置検索センター等から位置情報を要求することは,例えば,特開2001-325692号公報(段落【0013】他),特開平11-64482号公報(【要約】他)に開示されているように周知といえる事項であって,所定スケジュールという条件で要求することも,監視者が被監視者の位置取得をどのような条件実施したいかによって,ほとんど必然的に決定しうる,単なる設計的事項にすぎず,事実,前記周知,特開2001-325692号公報(「定期的」との記載)にも示されている。したがって,引用例発明に「GPS付携帯電話に対して所定スケジュールで位置情報を要求し」との構成を付加する程度のことに格別な創意工夫を見出すことはできない。
[相違点3]について検討する。
監視装置において,電子メールで通報される通信装置として,「携帯電話」を用いることは,周知例あるいは特開2001-357475号公報等に見られる如く技術常識であるから,電子メールで通報される通信装置として,引用例発明の「パーソナルコンピュータ」に代えて「携帯電話」を用いることには,格別の困難性が存在しない。
[相違点5]について検討する。
GPS付携帯電話において,位置情報として,GPS衛星による位置情報と位置検索センターの基地局による位置情報の両者を用いることは,特開2002-51371号公報,特開平9-257905号公報等に見られる如く技術常識であるから,位置情報として,引用例発明の「GPS衛星による位置情報」の代えて,「GPS衛星と位置検索センターの基地局による位置情報」を用いることは,当業者が容易に想到し得ることである。

そして,本願発明の作用効果も,引用例発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6 むすび
したがって,本願発明は,引用例発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-06 
結審通知日 2010-10-12 
審決日 2010-10-26 
出願番号 特願2003-110656(P2003-110656)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 浦口 幸宏  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 高野 洋
萩原 義則
発明の名称 エリア監視システム  
代理人 加藤 久  

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