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審決分類 |
審判 一部無効 判示事項別分類コード:123 F16L |
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管理番号 | 1228982 |
審判番号 | 無効2008-800212 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-10-20 |
確定日 | 2010-12-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3361861号「蛇腹管用接続装置」の特許無効審判事件についてされた平成21年 4月 8日付審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10131号、平成21年12月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3361861号の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は、平成5年10月29日に出願され、平成14年10月18日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。 これに対し、請求人は、平成20年10月20日に請求項3に係る発明(以下、「本件特許発明3」という。)についての特許の無効審判を請求し、平成21年4月8日付で、本件特許発明3についての特許を無効とする審決がなされたところ、被請求人は、平成21年5月19日に当該審決を取り消すことを求めて訴訟を提起(平成21年(行ケ)第10131号)し、知的財産高等裁判所において、平成21年12月25日付で、当該審決の取消の判決がなされ、これに対し、請求人は、最高裁判所に対し、上告受理申立て(平成22年(行ノ)第10002号)、上告提起(平成22年(行サ)第10002号)を行ったが、平成22年3月9日付で、上告受理申立て却下となり、平成22年5月31日付で、上告棄却となり、当該審決の取消の判決が確定した。 2.本件特許発明 本件特許発明3は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項3に記載された、以下のとおりのものである。 「接続孔を有する装置本体と、先端部が上記接続孔に移動可能に挿入された筒状をなす押圧部材と、上記押圧部材より前方の上記接続孔の内部に配置され、押圧部材を通して接続孔に挿入された蛇腹管の先端部外周に移動不能に係合する係合部材とを備え、上記押圧部材が所定の位置から前方へ移動させられて上記係合部材に突き当たることにより、上記蛇腹管が上記接続孔から抜け出るのを阻止する蛇腹管用接続装置において、 上記装置本体と上記押圧部材との間に、上記装置本体と上記押圧部材とのうちの一方の内周面とこれに対向する他方の外周面とにそれぞれ形成された一対の環状溝、及び外周部が上記一方の内周面に形成された環状溝に嵌まり込むとともに、内周部が上記他方の外周面に形成された環状溝に嵌まり込む係止部材を有する係止機構が設けられ、上記係止機構は、上記押圧部材に作用する先端側への押圧力が所定の大きさ以下であるときには上記係止部材が上記一対の環状溝に嵌まりこんだ状態を維持することによって上記押圧部材の先端側への移動を阻止し、上記押圧部材に作用する先端側への押圧力が所定の大きさ(注:「大きさきさ」は誤記)を越えると、上記係止部材が拡径または縮径して上記係止部材の全体が上記一対の環状溝の一方に嵌まり込むことによって上記押圧部材の先端側への移動を許容することを特徴とする蛇腹管用接続装置。」 3.審判請求人の主張 審判請求人は、本件特許発明3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の無効審判を請求し、証拠方法として、甲第1号証(特開平7-127779号公報)、甲第2号証(特許第3361861号公報)を提出し、以下の理由により、本件特許発明3についての特許は無効とすべきであると主張している。 本件特許発明3は、本件特許の出願審査過程において平成14年8月28日付手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)で追加されたものであり、この本件特許発明3は、押圧部材が螺合なしで又は螺合以外の方法で移動するものも包含する。しかし、本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、押圧部材が螺合なしで又は螺合以外の方法で移動してもよいという記載はない。また、当初明細書等の記載から、本件特許発明3は、装置本体の接続孔と押圧部材の先端部との螺合を前提とした改良発明としか理解することができない。したがって、本件補正は、要旨変更にあたる。よって、平成5年法律第26号附則第2条第2項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第40条の規定により、本件特許の出願日は該手続補正書を提出した時である平成14年8月28日とみなされる。その結果、本件特許発明3は、本件特許の公開公報である甲第1号証に記載された発明と同一であるか、あるいはこの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又は第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件特許発明3についての特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 4.審判被請求人の主張 審判被請求人は、答弁書、口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(2)を提出し、以下の理由で、本件特許発明3についての特許は無効ではない旨主張している。 (1)本件特許発明3が、押圧部材が螺合なしで又は螺合以外の方法で移動するものも包含するという審判請求人の主張は認める。 (2)押圧部材が所定の位置から移動させられて係合部材に突き当たることは、当初明細書等に記載されている。さらに、押圧部材が螺合を伴わずに移動することは乙第1号証に記載されているように、本件特許の出願前に公知であったので、押圧部材の移動に際して螺合を伴うか伴わないかは任意に選択できる事項である。よって、本件特許発明3において、螺合を伴うか伴わないかに言及せずに単に「押圧部材が移動させられて係合部材に突き当たる」と限定したことは、当初明細書等に記載された事項の範囲内である。 (3)本件特許発明の目的・効果は、「蛇腹管挿入前の押圧部材の所定位置からの不用意な移動を阻止し、蛇腹管挿入後に所定以上の力で押圧部材の移動を可能にすること」であるので、当業者にとっては「装置本体と押圧部材との螺合関係」の有無に拘らずに本件特許発明が成立し得ることは自明である。 (4)上記(2)、(3)から、本件補正は要旨変更ではないので、本件特許の出願日は平成14年8月28日付手続補正書の提出日まで繰り下がることはなく、甲第1号証は本件特許の出願前に頒布された刊行物には該当しない。したがって、本件特許発明3は、特許法第29条第1項第3号、又は第29条第2項の規定に該当しないので、本件無効審判の請求は成り立たない。 5.当初明細書等について 当初明細書等には、以下の事項が開示されている。 a「【従来の技術】一般にこの種の接続装置は、接続孔を有する装置本体と、接続孔の開口側端部に螺合された押圧部材と、接続孔の内部に配置された係合部材とを備えており、蛇腹管を接続孔の内部に押圧部材を通して挿入すると、係合部材が蛇腹管の先端部の所定箇所に係合する。そして、この係合部材を押圧部材によって押圧すると、蛇腹管の先端が接続孔の内部に形成された当接部に突き当たる。その後、当接部と係合部材との間の蛇腹管の先端部が押し潰されるまで蛇腹管をさらに押圧することにより、蛇腹管を接続するようになっている。」(【0002】) b「ところで、押圧部材が何らかの理由によって回転して所定の位置から移動すると、蛇腹管を挿入したときに係合部材が蛇腹管に係合することができなくなることがある。」(【0003】) c「このような不具合を未然に防止することができる蛇腹管用接続装置が実開平5ー38487号公報に提案されている。この接続装置は、装置本体の外周に位置決め部材を設け、この位置決め部材によって押圧部材の移動を阻止するようにしたものであり、位置決め部材は、蛇腹管の接続時には押圧部材の移動を許容するよう、装置本体に着脱可能に設けられている。」(【0004】) d「【発明が解決しようとする課題】上記公報に記載の接続装置においては、位置決め部材が装置本体の外周に設けられ、しかも着脱可能になっているため、不慮の事故によって位置決め部材が装置本体から外れてしまうことがある。位置決め部材が外れると、押圧部材が移動し、この結果蛇腹管の接続時に係合部材が蛇腹管に係合することができなくなってしまうという問題があった。」(【0005】) e「【課題を解決するための手段】この発明は、上記問題を解決するためになされたもので、接続孔を有する装置本体と、先端部が接続孔に移動可能に挿入された状態で装置本体に螺合された筒状をなす押圧部材と、接続孔の内部に配置され、押圧部材を通して接続孔に挿入された蛇腹管の先端部外周に移動不能に係合する係合部材とを備え、上記蛇腹管を上記押圧部材により上記係合部材を介して上記接続孔の内部側へ押圧するようにした蛇腹管用接続装置において、上記装置本体と上記押圧部材との互いに対向する内周面と外周面との間に、所定の大きさ以下の力では押圧部材の移動を阻止し、かつ所定の大きさを越える力では押圧部材の移動を許容する係止機構を設けたことを特徴としている。」(【0006】) f「【作用】押圧部材に作用する力が所定の大きさ以下である場合には、係止機構が押圧部材の移動を阻止する。したがって、蛇腹管を接続孔に挿入したときに係合部材が蛇腹管の外周に係合することができなくなるのを未然に防止することができる。勿論、蛇腹管の挿入後には、押圧部材に所定の大きさを越える力が作用するように回転させることにより、押圧部材を移動させて蛇腹管を装置本体に接続することができる。しかも、係止機構は、装置本体と押圧部材との互いに対向する内周面と外周面との間に設けられているので、不慮の事故によって両者の間から外れることがない。」(【0007】) g「まず、図1?図4を参照してこの発明の一実施例たる蛇腹管用接続装置Aについて説明すると、符号2は装置本体である。この装置本体2には、その一端面(右端面)から他端面(左端面)まで貫通する接続孔2aが形成されている。この接続孔2aの内周面には、右端開口部に雌ねじ部2bが形成され、中央部に摺動孔2cが形成されている。この摺動孔2cに右側と左側とにおいて隣接する部分には、それぞれ接続孔2aの軸線と直交する係止面2d、当接面2eが形成されている。また、装置本体2の左端部外周面には、装置本体2をガス栓、ガス器具等のガス機器に接続するためのテーパねじ部2fが形成されている。」(【0009】) h「上記雌ねじ部2bには、押圧部材6が螺合されている。この押圧部材6は筒状をなすもので、蛇腹管4Aを挿通し得るよう内周面のいずれの箇所も蛇腹管4Aの外径より大径になっている。押圧部材6の左端部内周面には、左端から右側へ向かって順次、テーパ部6a、ストレート部6bおよび接続孔2a(注:「1a」は誤記)の軸線と直交する押圧面6cが形成されている。テーパ部6aの小径側端部の直径とストレート部6bの内径とは同一になっており、しかも谷部1aに嵌まり込んだ係合部材4の外径より若干小径になっている。したがって、図4に示すように、押圧部材6を左方へ移動させてテーパ部6aを係合部材4に突き当てると、テーパ部6aによって係合部材4が縮径させられる。これに伴って谷部1aが係合部材4に沿うように変形する。そして、係合部材4がストレート部6bに入り込むとストレート孔部6bによってその状態が維持されるようになっている。」(【0014】) i「上記装置本体2の内周面と押圧部材6の外周面との間には、押圧部材6の不用意な移動を阻止するための係止機構10が設けられている。すなわち、図2に示すように、装置本体2の内周面と押圧部材6の外周面とには、環状溝10a、10bがそれぞれ形成されている。これらの環状溝10a、10bには、仮止めリング(係止部材)10cが嵌め込まれている。」(【0017】) j「係合部材6が谷部1aに嵌まり込んだら押圧部材6を回して左方へ移動させる。このとき、仮止めリング10cが環状溝10aから出るまでは大きな力を要するが、一旦環状溝10aから抜けでると、比較的小さな力で回転移動させることができる。」(【0023】) k「その後、押圧部材6をさらに左方へ移動させると、係合部材4がストレート部6b内に入り込み、拡径不能になる。これによって、係合部材4が谷部分1aから外れるのを確実に阻止される。押圧部材6をさらに移動させると、座金7が係合部材4に突き当たり、係合部材4を介して蛇腹管1Aを押圧し、シール部材5を介して当接面2eに押し付ける。その後、係合部材4とシール部材5との間に位置する蛇腹管1Aの1山分が押し潰されるまで押圧部材6を左方へさらに移動させることにより、蛇腹管1Aの接続が完了する。なお、蛇腹管1Aを押し潰す際には、座金7が押圧部材6に対して相対回転するので、蛇腹管1Aが押圧部材6の回転に追随して回転することはない。」(【0025】) l「次に、この発明の他の実施例を説明する。図5に示す接続装置Bは、押圧部材6を、互いに別体であるねじ部6Aと押圧部6Bとから構成したものである。ねじ部6Aは、雌ねじ部2b(注:「1b」は誤記)に螺合されている。一方、押圧部6Bは接続孔2a(注:「1a」は誤記)に移動可能に挿入されており、その外周面と接続孔2a(注:「1a」は誤記)の内周面との間に係止機構10が設けられている。したがって、押圧部6Bが不用意に移動することがない。よって、蛇腹管1Aを挿入したとき、係合部材6は確実に蛇腹管1Aの所定の谷部1aに嵌まり込むことができる。勿論、ねじ部6Aは、右方へは容易に移動可能であるが、左方へは押圧部6Bに突き当たることによって不用意な移動が阻止される。」(【0026】) m「また、ねじ部6Aと押圧部6Bとの互いの接触面間には、グリース等の潤滑油が塗布されるか、両接触面の少なくとも一方に潤滑性に富む樹脂をコーティングすることにより、押圧部6Bはねじ部6Aに対して相対回転自在になっている。押圧部6Bがねじ部6Aに対して相対回転自在になっているので、この実施例においては上記実施例における座金7が用いられていない。また、押圧部6Bの先端部には、テーパ面6dが形成されているが、このテーパ面6dは、上記実施例のテーパ面6aと異なり、係合部材4を押圧して蛇腹管1Aを押圧移動させるとともに、係合部材4が谷部1aから外れるのを防止するためのものである。その他の構成は、上記接続装置Aと同様であるので、同様な部分には同一符号を付してその説明を省略する。」(【0027】) n「また、環状溝10aが雌ねじ部2b(注:「1b」は誤記)に形成されているので、仮止めリング10cの一部が雌ねじ部2b(注:「1b」は誤記)の谷部に断続的に嵌まり込む。このため、押圧部材6を移動させるのに要する力(回転させるための力)が大小に変化する。力の変化をできる限り小さくするには、仮止めリング10cの線径をできる限り大きくするのがよい。特に、仮止めリング10cを断面矩形状にする場合には、その幅(接続孔2a(注:「1a」は誤記)の軸線方向における幅)を雌ねじ部2bのピッチより大きくするのがよい。」(【0029】) o「また、上記の実施例においては、押圧部材6を装置本体2の内周面に螺合させているが、外周面に螺合させるようにしてもよい。その場合には、係止機構10を装置本体2の外周面と押圧部材6の内周面との間に形成することになる。」(【0031】) p「【発明の効果】以上説明したように、この発明の蛇腹管用接続装置によれば、装置本体と押圧部材との互いに対向する内周面と外周面との間に、所定の大きさ以下の力では押圧部材の移動を阻止し、かつ所定の大きさを越える力では押圧部材の移動を許容する係止機構を設けたものであるから、係止機構が不慮の事故によって装置本体と押圧部材との間から外れることがない。したがって、押圧部材が不用意に移動するのを阻止することができる。よって、蛇腹管を接続孔に挿入したときに係合部材が蛇腹管の所定の位置に係合することができなくなるような事態を未然に防止することができるという効果が得られる。」(【0032】) 6.判断 本件補正は、本件特許発明3を追加するものであり、本件特許発明3は、審判被請求人も認めるように、押圧部材が螺合なしで又は螺合以外の方法で移動するものも包含するものである。そこで、本件補正が、要旨変更に該当するか否か検討する。 本件補正が要旨変更に該当するか否かに関し、平成21年(行ケ)第10131号判決において、次の様な判示がなされている。 『3 本件補正が要旨変更に当たるとの判断の誤りについて (1) 要旨変更に関する判断基準 明細書の要旨の変更については、平成5年法律第26号による改正前の特許法41条に「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす」と規定されていた。 上記規定中「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきところ、上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は、必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも、明細書又は図面の記載から自明である技術的事項であれば、特段の事情がない限り「新たな技術的事項を導入しないものである」と認めるのが相当である。そして、そのような「自明である技術的事項」には、その技術的事項自体が、その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって、かつ、当業者であれば、その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができ、その技術的事項が明細書に記載されているのと同視できるものである場合も含むと解するのが相当である。 したがって、本件において、仮に、当初明細書等には「押圧部材と装置本体との螺合されていない態様」あるいは「螺合以外の手段によって移動可能」とすることが直接表現されていなかったとしても、それが、出願時に当業者にとって自明である技術的事項であったならば、より具体的には、その技術的事項自体が、その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって、かつ、当業者であれば、その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができるものであったならば、本件発明3を追加した本件補正は、要旨変更には該当しないというべきである。そこで、以下、本件補正が上記要件に該当するか否かを検討する。 (2)「螺合以外の手段によって移動可能」とすることが周知の技術的事項であるか否かについて ア 周知例1について 前記2(1)の記載によれば、周知例1には、軸心に対し傾斜する傾斜溝12が形成された継手主筒部5(本件発明3の「装置本体」に相当する。)と、外周面に前記傾斜溝12に係合するピン13が固植された内筒10(本件発明3の「押圧部材」に相当する。)とを有し、前記内筒10を回転させると前記ピン13が前記傾斜溝12にガイドされて回転を伴いながら軸方向に摺動するように構成されたコルゲート管接続用継手の実施例が示されている。上記実施例では、内筒10は継手主筒部5に螺合されていないことが明らかである。 イ 周知例2について 前記2(2)の記載によれば、周知例2では、筒状押動体10(本件発明3の「押圧部材」に相当する。)がガイド溝19に係合する係合ピン20によって回転を伴いながら軸方向に移動することが認められる。 したがって、周知例2は、螺合以外の手段であるガイド溝19と係合ピン20による回転を伴う移動という手段によって、筒状押動体10が移動するものであることが明らかである。 ウ 周知例3について 前記2(3)の記載によれば、周知例3では、スリーブ12(本件発明3の「押圧部材」に相当する。)が偏心カム27によって軸方向に移動することが認められる。 したがって、周知例3は、螺合以外の手段である偏心カムを利用した手段によって、スリーブ12が移動するものであることが明らかである。 エ 周知例4について 前記2(4)の記載によれば、周知例4では、進退筒(60)(本件発明3の「押圧部材」に相当する。)が、螺合以外の手段である基端部方向への押し込みによって軸方向に移動することが明らかである。 オ 以上のとおり、周知例1ないし4を考慮すれば、本件出願当時、「螺合以外の手段によって移動可能」とすることが周知の技術的事項であったと認められる。 (3)周知の技術的事項が、当業者であれば、その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができるものか否かについて ア 前記1の段落【0004】、【0005】、【0006】、【0007】及び【0032】の各記載によれば、当初明細書等から把握される本件発明の目的は、従来技術では位置決め部材が装置本体から外れてしまうことがあり、押圧部材が不用意に移動することがあったことを踏まえ、その課題を解決するために、所定の大きさ以下の力では押圧部材の移動を阻止する係止機構を設け、押圧部材が不用意に移動するのを阻止するものであることが認められる。 これに対して、周知例1ないし4に示される「押圧部材を螺合以外の手段によって移動可能」とする周知の技術的事項を、本件発明3の「押圧部材」に用いた場合には、押圧部材の移動手段について「螺合」以外の手段を含むものであるものの、上記の本件発明の目的を変更するものではなく、まして、その目的に反するものとも解されない。したがって、上記周知の技術的事項を本件発明3において用いることに障害はないというべきである。 イ そこで、次に、本件発明3の蛇腹管用接続装置に、周知例1ないし4で示されるところの「螺合」以外の押圧部材の移動手段を用いることが特別な工夫を要することなく当然にできるかどうかを検討する(なお、当事者は、本件補正が要旨変更に該当するか否かを判断するために、専ら本件発明3の発明特定事項である「係止機構」を周知例1ないし4に適用し得るか否かを問題としているが、前記(1)に示した要旨変更に関する判断基準からすれば、誤りである。) (ア)周知例1について 前記(2)アのとおり、周知例1は、軸心に対し傾斜する傾斜溝12が形成された継手主筒部5と、外周面に前記傾斜溝12に係合するピン13が固植された内筒10とを有し、前記内筒10を回転させると前記ピン13が前記傾斜溝12にガイドされて回転を伴いながら軸方向に摺動することによって、本件発明3の押圧部材に相当する内筒10を移動するものである。 そして、本件発明3について、内周に環状溝が形成されている装置本体2に周知例1の「傾斜溝12」を形成し、外周に環状溝が形成されている押圧部材6に周知例1の「ピン13」を固植したとしても、押圧部材6が準備位置にある時、これら一対の環状溝に係止部材を嵌め込むことにより、所定の大きさ以下の力では押圧部材の前進を抑止する構成とし、ピン13をガイドする傾斜溝12の一対の内側面(ガイド面)は、環状溝を形成することにより一部切り欠かれても、連続性を保持できる構成とすることは可能であると解される。 この点、審決は、前記第2の4(1)ウのとおり、構造の改変なくして周知例1の実施例に対して本件発明3の係止機構を設けることはできず、当業者にとって自明でもない旨判断している。しかしながら、審決がいうように、傾斜溝12の幅、環状溝の幅及びピン13の径の相互関係の設定、傾斜溝12の深さと環状溝の深さの相互関係の設定等の構造の改変が必要であるとしても、これらは、単なる設計的な事項であって、特別な工夫を要するものではないから、本件発明3において周知例1の螺合を伴わない移動構造を用いることについて、何ら妨げとなるものではない。 (イ)周知例2について 前記(2)イのとおり、周知例2では、ガイド溝20と係合する係合ピン19により、スリープ8を筒状本体1上を軸方向に移動するという手段によって、本件発明3の押圧部材に相当する筒状押動体10を移動するものである。 そして、本件発明3において、周知例2のガイド溝と係合ピンの手段によって押圧部材を移動することは、例えば、当初明細書等の図1において、装置本体2が押圧部材6と螺合している部分に、螺合に代えて装置本体2の右端部に係合ピンを設け、押圧部材6には前記係合ピンが係合するガイド溝を設けることで、特別な工夫を要することなく達成することができると認められる。 (ウ)周知例3について 前記(2)ウのとおり、周知例3では、レバー25の把手25aを回動させることによって回動する偏心カム27の長径部がスリープ12の窓24を押すことによって、本件発明の押圧部材に相当するスリーブ12が移動するものである。 そして、本件発明3において、上記偏心カムを利用した手段によって押圧部材を移動することは、例えば、当初明細書等の図1において、装置本体2が押圧部材6と螺合している部分に、螺合に代えて本件装置2に窓を設け、押圧部材には偏心カムとレバーをピンで回動自在に枢支することで、特別な工夫を要することなく達成することができると認められる。 (エ)周知例4について 前記(2)エのとおり、周知例4では、本件発明の押圧部材に相当する進退筒(60)が、螺合以外の手段である「基端部方向への押し込み」によって軸方向に移動することが認められる。 そして、本件発明3において、上記「基端部方向への押し込み」という手段によって押圧部材を移動することは、例えば、当初明細書等の図1において、装置本体2が押圧部材6と螺合している部分の螺合をなくすることで、特別な工夫を要することなく達成することができると認められる。 (オ)このように、周知例1ないし4の螺合に代わる各手段によって、本件発明3の押圧部材を移動させることは、特別な工夫を要することなく当然にできるものであり、また、それら各手段は、本件発明の目的を変更するものでもないことが認められる。 ウ 前記ア及びイのとおり、本件発明3について「螺合以外の手段によって移動可能とすることが、明細書又は図面の記載からみて出願時に当業者にとって「自明である技術的事項」に当たるといえるから、本件補正は、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、「新たな技術的事項を導入しないもの」であると認められる。したがって、本件補正は「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の補正と認めるのが相当である。 (4)以上のとおりであるから、本件補正が当初明細書等の要旨を変更するものであって、本件特許出願の出願日を本件補正時である平成14年8月28日とみなすべきであるとした審決の判断は誤りである。』 本件補正が要旨変更に該当するか否かに関する判断は、上記判示事項に拘束されるものであるから、本件特許発明3の蛇腹管用接続装置において、周知例の螺合に代わる手段によって、本件特許発明3の押圧部材を移動させることは、特別な工夫を要することなく当然にできるものであり、また、当該手段は、本件特許発明3の目的を変更するものでもないことが認められる。 したがって、本件特許発明3について「螺合以外の手段によって移動可能とすることが、明細書又は図面の記載からみて出願時に当業者にとって「自明である技術的事項」に当たるといえるから、本件補正は、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、「新たな技術的事項を導入しないもの」であると認められる。したがって、本件補正は「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の補正と認めるのが相当である。 そうすると、本件補正は要旨変更に該当しないので、本件特許の出願日は平成14年8月28日付手続補正書の提出日まで繰り下がることはなく、甲第1号証は本件特許の出願前に頒布された刊行物には該当しない。したがって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 7.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件特許発明3についての特許を無効にすることはできない。 審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-08 |
結審通知日 | 2010-10-13 |
審決日 | 2010-10-27 |
出願番号 | 特願平5-294488 |
審決分類 |
P
1
123・
123-
Y
(F16L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川向 和実 |
特許庁審判長 |
堀川 一郎 |
特許庁審判官 |
田良島 潔 冨江 耕太郎 |
登録日 | 2002-10-18 |
登録番号 | 特許第3361861号(P3361861) |
発明の名称 | 蛇腹管用接続装置 |
代理人 | 原田 三十義 |
代理人 | 渡辺 昇 |