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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E01F
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  E01F
管理番号 1228985
審判番号 無効2010-800071  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-04-19 
確定日 2010-12-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第4286161号発明「バリケード用支持脚のクランプ取付構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成16年2月10日:出願(特願2004-32977号)
平成21年4月 3日:特許権の設定登録
(特許第4286161号 請求項3)

平成22年4月19日:本件審判請求
平成22年5月12日:手続補正書
平成22年6月28日:被請求人より答弁書提出
平成22年7月26日:併合審理通知
平成22年8月20日:審理通知
平成22年9月14日:被請求人より口頭審理陳述要領書(1)提出
平成22年9月15日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成22年9月21日:被請求人より口頭審理陳述要領書(2)提出
平成22年9月30日:請求人より口頭審理陳述要領書2提出
平成22年9月30日:口頭審理

第2 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められ、これを構成要件に分説すると次のとおりである。
「【請求項1】
A 脚部13において起立可能となるごとくブロー成形された中空のプラス チック枠体1であって、これら少なくとも2個のプラスチック枠体1・1 間にポール部材Pを掛架するためのクランプ2を固定するためにビーム部 11が設けられ、
B かつ、前記クランプ2は、ポール挟持部21と前記プラスチック枠体1 のビーム部11に固定するための取付治具22とを連結して構成され、か つ、当該取付治具22にはシャンク部sおよびその両端にそれぞれ頭部を 有する止着具22aを備える一方、
C 前記ビーム部11の側面には、鉛直方向に亙り内側に凹入せる縦溝12 が形成され、
D この縦溝12の凹入部の全長に亙り前記止着具22aのシャンク部sを 凹入部内壁面に添合させるごとく充当して、
E-1 この止着具22aによって、ポール挟持部21が取付時に回動自在 になるように連結すると共に、
E-2 この枢結軸を兼用する当該止着具22aが取付治具22の略中心に 貫通して配設され、
E-3 かつ、この止着具22aにおける両方の頭部によって縦溝12の両 端縁部を挟み抑え付けて止着することにより取付治具22がビーム部11 に固定され、クランプ2を取り付ける
F ことを特徴とするバリケード用支持脚のクランプ取付構造。
【請求項2】
G クランプ2の取付治具22の止着具22aは、一対のボルト部材とナッ ト部材とから構成されており、このボルト部材の円筒部またはネジ部を縦 溝12の凹入部に添合させた状態で前記ナット部材と螺合することにより 止着せしめる
H ことを特徴とする請求項1記載のバリケード用支持脚のクランプ取付構 造。」
(以下、請求項1、2に係る発明を、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」という。)

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、特許第4286161号の特許の請求項1及び2に係る特許は無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由1ないし3を主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第13号証を提出した。

[無効事由1]
本件発明1及び2は甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(具体的理由)
甲第13号証の1に示す、甲第13号証に示す警告書に記載の実施品は、うさぎ状にバリケードをブロー成形で形成していて、その頭部の係止部の一側面部を凹設してクランプを取付治具を介してパイプを複数のバリケード間に架設するようにしたものであるが、甲第13号証に示す警告書において、被請求人は、この実施品が本件発明1(警告書における本件発明2)と構成要件が同一であると主張しているから、本件発明1及び2は甲第1号証に記載された発明といえる。
[無効理由2]
本件発明1及び2は甲第1号証ないし甲第12号証記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(具体的理由)
甲第1号証の図1、2に示す実施例には、バリケードを形成するプラスチック枠体のビーム部に自在クランプを取り付けるクランプ取付構造が記載されている。ここで、自在クランプの取り付け方は記載されていないが、甲第4号証、甲第5号証には、バリケードのビーム部の側方から一定幅の上下にわたった凹入孔にボルトを挿入してクランプを取り付けることが記載され、甲第1号証の図3、4には、中空プラスチック枠体のビーム部の側面に、内側に凹入せる縦溝を設けることが提案されている。
さらに上下に貫通する凹入孔を設けることは、甲第6号証、甲第11号証又は甲第12号証に記載されており、甲第1号証記載の発明において、ビーム部側面に、鉛直方向に亙り内側に凹入せる縦溝を設け、甲第7号証ないし甲第10号証に記載のようなクランプのボルトを溝に添って充当するように挿入して締結し、本件発明1、2の構成とすることは、当業者にとって自明または容易に発明できることにすぎない。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平8-3950号公報
甲第2号証:特開2000-294646号公報
甲第3号証:意匠登録第1128266号公報 1、2ページ
甲第4号証:特開2002-256523号公報
甲第5号証:特開2001-81745号公報
甲第6号証:特開2000-27133号公報
甲第7号証:実開平6-14351号公報
甲第8号証:実開平3-5721号公報
甲第9号証:特開平7-190254号公報
甲第10号証:実開昭61-50110号公報
甲第11号証:特開2002-28969号公報の1、6、7ページ
甲第12号証:特開2003-165152号公報
甲第13号証:警告書抜粋
甲第13号証の2:甲第13号証警告書に記載の実施品の説明用資料

2 被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論するとともに、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。

[無効理由1について]
(1)甲第1号証には、本件発明1、2の構成要件BCD及びEは記載されていないから、本件発明1、2は甲第1号証に記載された発明ではない。
(2)被請求人は、甲第13号警告書における実施品全体が本件発明1と同一であるなどとはいっていない。
[無効理由2について]
本件発明1における構成要件BCD及びEが互いに結合したことによる技術的効果、ならびに本件発明2において構成要件BCDE及びGによる技術的効果は大きく、これら構成要件BCD及びEの結合による連関作用は甲第1号証ないし甲第12号証には示されていない。

[証拠方法]
乙第1号証:被請求人が請求人に対して行った侵害警告(甲第13号証)の対象製品の内容を示す「イ号目録」及び「イ号物件説明書」
乙第2号証:甲第13号証に係る警告書の全文

第4 無効理由1についての判断
1 証拠方法の記載内容
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証(特開平8-3950号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 脚部12において起立可能なるごとく中空に一体成形されたプラスチック板体1であって、当該板体1側面には流動体Wを給入および排出可能な給排口2が内空部に連通して形成され、かつ、この板体1の頭部11にはブリッジ部材5を架掛すべき第1係合部3が設けられると共に、この第1係合部3の下方にはステー部材6を連結すべき第2係合部4が設けられたことを特徴とするプラスチック中空標示器。
【請求項2】 脚部12において起立可能なるごとく中空に一体成形されたプラスチック板体1であって、当該板体1側面には流動体Wを給入および排出可能な給排口2が内空部に連通して形成され、かつ、この板体1の頭部11には引掛バー31が形成された第1係合部3が設けられ、この引掛バー31にブリッジ部材5が自在クランプ7を介して連結されると共に、前記第1係合部3の下方にはステー部材6を連結すべき第2係合部4が設けられたことを特徴とするプラスチック中空標示器。
【請求項3】 脚部12において起立可能なるごとく中空に一体成形されたプラスチック板体1であって、当該板体1側面には流動体Wを給入および排出可能な給排口2が内空部に連通して形成され、かつ、この板体1の頭部11には蟻溝32を設け、かつ、この蟻溝32の少なくとも一方の側壁には上部に狭隘部33を突設した第1係合部3が設けられ、この蟻溝32にブリッジ部材5が蟻継状態に連結されたことを特徴とするプラスチック中空標示器。」
(1b)「【0009】
【課題解決のために採用した手段】本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添附図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0010】即ち、本発明は、脚部12において起立可能なるごとく中空に一体成形されたプラスチック板体1であって、当該板体1側面には流動体Wを給入および排出可能な給排口2が内空部に連通して形成され、かつ、この板体1の頭部11にはブリッジ部材5を架掛すべき第1係合部3が設けられたプラスチック中空標示器を採用することによって、上記技術的課題を解決した点に特徴がある。」
(1c)「【0012】まず、本発明の第1実施例の標示器について説明する。図1および図2に示すように、第1実施例の標示器は、脚部12において起立可能なるごとく中空に一体成形された一対のプラスチック板体1の間に、ブリッジ部材5およびステー部材6を挟んで構成してある。このプラスチック板体1は、ブロー成形法によって成形することが可能である。当該プラスチック板体1の側面には、流動体Wを給入および排出可能な給排口2が内空部に連通して形成してある。標示器を設置する際に、給入口21から水などの流動体Wを給入し、標示器を除去する際に、排出口22から内部の流動体Wを排出する。このように流動体Wを内空部に充填することにより、軽量のプラスチック材質を使用しても標示器の安定設置が可能になる。前記流動体Wとして、水を用いることが多いけれども、倒れ難くするために水よりも比重の大きい砂などの粒状体を使用してもよい。前記プラスチック板体1の頭部11には引掛バー31が形成された第1係合部3が設けられ、この引掛バー31にブリッジ部材5が自在クランプ7を介して連結される。このブリッジ部材5に危険を知らせる警告マークなどを簡単に付加することができる。そして、前記第1係合部3の下方にはステー部材6を連結すべき第2係合部4が設けてあり、このステー部材6を一対の前記板体1の脚部12に連結することにより、標示器が安定に保持される。上記の標示器は分離タイプの軽量部材を使用しているので、各部材(プラスチック板体1、ブリッジ部材5、ステー部材6)毎に分離して収容することにより、保管時および運搬時には大幅に占有スペースを節約でき、かつ、運搬作業も重労働を伴うことなく能率よく安全に行うことが可能になる。」
(1d)「【0013】つぎに、本発明の第2実施例の標示器を図3および図4に基づいて説明する。第2実施例の標示器は、前述の第1実施例の標示器とほぼ同様であるけれども、プラスチック板体1の頭部11に形成された第1係合部3にブリッジ部材5を連結するための構造が異なる。このプラスチック板体1およびブリッジ部材5は、ブロー成形法によって成形することが可能である。図3および図4に示すように、前記板体1の頭部11には縦長の蟻溝32・32が対向して形成された第1係合部3が設けられ、ブリッジ部材5の両端には蟻ほぞ51・51が突設されている。そして、当該蟻ほぞ51・51の上部には突起部53・53を有するロック部材52が設けられ、かつ、当該第1係合部3の上部内側には狭隘部33・33が突設されており、これらを連結する際には、前記狭隘部33・33を弾性変形によって押し広げるようにして前記ロック部材52の突起部53・53を下方に挿入し、挿着された後は前記狭隘部33・33が元通りに復帰するため前記ブリッジ部材5が簡単に抜けることなくロックされる。このように蟻継構造を使用しているので、前記ブリッジ部材5の蟻ほぞ51・51を順次連結することにより、標示器を簡単に増設することができる。」
(1e)図2には、次の図面が記載され、「引っ掛バー31」は、側面に凹凸のない棒状の部材であることが記載されている。

(1f)図4には、次の図面が記載され、板体1の頭部11には縦長の蟻溝32・32が対向して形成されることが記載されている。


ここで、「自在クランプ」は、取付部を引掛バー31に固定した際に、ブリッジ部材5の挟持部が回動自在になるものであることは明らかであるから、これらの記載によれば、甲第1号証には、次の2つの発明が記載されていると認められる。

(第1実施例に開示された発明)
「脚部12において起立可能となるごとくブロー成形された中空のプラスチック板体1であって、
これら2個の中空のプラスチック板体1、1間にブリッジ部材5を掛架するための自在クランプ7を固定するために、中空のプラスチック板体の頭部11に引掛バー31が設けられ、
前記自在クランプは、ブリッジ部材5の挟持部と前記引掛バー31に固定するための取付部とが連結して設けられ、
自在クランプは、引掛バー31に固定するための取付部に対し、ブリッジ部材5の挟持部が回動自在になるように連結されている、
プラスチック中空標示器のクランプ取付構造。」(以下、「甲第1号証発明1」という。)

(第2実施例に開示された発明)
「脚部12において起立可能となるごとくブロー成形された中空のプラスチック板体1であって、これら2個の中空のプラスチック板体1、1間にブリッジ部材5を掛架するために、中空のプラスチック板体の頭部11に鉛直方向に凹入する蟻溝32を設け、
この蟻溝32にブリッジ部材5の両端の蟻ほぞ51を連結する、プラスチック中空標示器のブリッジ部材取付構造。」(以下、「甲第1号証発明2」という。)

甲第13号証は、被請求人が請求人に対して送付した警告書の抜粋であり、次の事項が記載されている。
「本件発明2(当審注:甲第1号証の特許請求の範囲に係る発明)の構成要件イは、『脚部12において起立可能なるごとく中空に一体成形されたプラスチック板体1』であるのに対して、これに対する貴社製品の第3構成部分の構成(1)(原文は丸数字)は、『本体Bは、・・・ブロー成形された中空のプラスチック成型物であって、・・・足部Fにおいて起立可能』であるというものである。
したがって、貴社製品の第3構成部分における構成(1)は、本件発明2における構成要件イと同一である。」

2 対比、判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証発明1とを対比すると、甲第1号証発明1の「ブリッジ部材5」、「引掛バー31」、「自在クランプ」は、それぞれ本件発明1の「ポール部材P」、「ビーム部11」、「クランプ2」に相当する。
また、甲第1号証発明1における「取付部」と本件発明1の「取付治具22」とは、「取付部」である点で共通する。
したがって、両者は、次の点で一致する。
「A 脚部において起立可能となるごとくブロー成形された中空のプラスチ ック枠体であって、これら少なくとも2個のプラスチック枠体間にポー ル部材Pを掛架するためのクランプを固定するためにビーム部が設けら れ、
B’かつ、前記クランプは、ポール挟持部と前記プラスチック枠体のビー ム部に固定するための取付部とを有しており、
E’取付部によって、ポール挟持部が取付時に回動自在になるように連結 される
F バリケード用支持脚のクランプ取付構造。」
しかし、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、
「取付部」が、シャンク部およびその両端にそれぞれ頭部を有する止着具を備える取付治具であって(構成要件B)、
枢結軸を兼用する当該止着具が取付治具22の略中心に貫通して配設されたものであり(構成要件E-2)、
「ビーム部」が、側面に鉛直方向に亙り内側に凹入せる縦溝が形成されたものであり(構成要件C)、
この縦溝の凹入部の全長に亙り前記止着具のシャンク部を凹入部内壁面に添合させるごとく充当して(構成要件D)、
止着具によって、ポール挟持部21が取付時に回動自在になるように連結する(構成要件E-1)と共に、
この止着具における両方の頭部によって縦溝の両端縁部を挟み抑え付けて止着することにより取付治具がビーム部に固定される(構成要件E-3)ものであるのに対し、
甲第1号証発明1は、クランプの取付部及びビームの構成はこのようなものに限定されていない点。

上記相違点1について検討すると、甲第1号証発明1は、クランプの取付部及びビームの構成は特に限定されていないが、実施例に具体的に記載されているビーム部(引掛バー)は、凹凸のない棒状のもののみであり、側面に鉛直方向に亙り内側に凹入せる縦溝を形成し、ここにクランプの止着具のシャンク部を充当し、止着具における両方の頭部によって縦溝の両端縁部を挟み抑え付けて止着することは、記載されていないし示唆もないから、本件発明1は甲第1号証発明1ではない。
また、甲第1号証発明2は、クランプを取り付けるものではないから、本件発明1が、甲第1号証発明2でないことは明らかである。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

なお、請求人は、甲第13号証の2に示す実施品について、被請求人は、甲第13号証の警告書において、甲第1号証の請求項1の発明と同一であると主張しているから、本件発明1及び2は甲第1号証に記載された発明といえると主張しているが、甲第13号証の2に示す実施品は、甲第1号証に記載されたものではなく、甲第13号証及び甲第13号証の2は、甲第1号証に記載された発明の認定に影響を及ぼすものではない。
さらに、付言すると、甲第13号証には、被請求人は、警告の対象となった実施品が、甲第1号証の請求項1に記載の発明の構成要件のうち「脚部12において起立可能なるごとく中空に一体成形されたプラスチック板体1」の構成要件を備えていると主張していることが示されているにすぎない。

(2)本件発明2について
本件発明1が上記のとおり、甲第1号証に記載された発明ではない以上、本件発明1の構成要件をすべて含みさらに他の構成要件を付加した本件発明2も、甲第1号証に記載された発明ではない。

第5 無効理由2についての判断
1 証拠方法の記載内容
甲第1号証に記載された事項及び記載された発明は、上記「第4 1」に記載したとおりである。

本件特許の出願前に頒布された甲第2号証(特開2002-294646号公報)の図9には次の図面が記載され、「起立可能な2個のスタンドSの頂部と下段部にクランプ様の取付具を介してポールを掛架したバリケード」(以下、「甲第2号証発明」という。)が示されている。


本件特許の出願前に頒布された甲第3号証(意匠登録第1128266号公報)には、「移動柵用スタンド」の意匠に関して、次の記載がある。
(3a)「【意匠に係る物品】本物品は・・・移動柵用のスタンドに関し、合成樹脂製のブロー成形中空体である。また天端及び下段部に単管を挟持するための金具を取り付けて使用する。」
(3b)図1には次の図面が記載され、スタンドの天端及び下段部に金具を取り付ける水平のビーム部を形成したことが示されている。


(3c)平面図には、次の図面が記載され、スタンドの天端のビーム部の側面は、鉛直方向に亙り内側に凹入した凹入部に形成されていることが示されている。


これらの記載によれば、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「ブロー成形された中空のプラスチックスタンドであって、
プラスチックスタンドの天端及び下段部に単管を掛架するための金具を固定するためにビーム部が設けられ、
前記ビーム部の側面は、鉛直方向に亙り内側に凹入する凹部に形成され、
金具を介して単管をビーム部に掛架する、
移動柵用スタンド。」(以下、「甲第3号証発明」という。)

本件特許の出願前に頒布された甲第4号証(特開2002-256523号公報)には、「移動柵用の支柱」に関して、次の事項が記載されている。
「【0010】支柱2は略山型に形成された合成樹脂製のブロー成形品であり、上部と下部にボルト11が設けられ、ボルト11に保持金具12が取付けられ、保持金具12にパイプ材を柵棒1として保持して支柱2、2間に架設して、例えば、バリケードとして使用される移動柵10とするものである。・・・」
(4b)「【0020】図9(a)?(d)に示すように、パリソン14が左右の成形型15、15の間に供給され、型締めがおこなわれるとともに圧力空気がパリソン14の内部に吹き込まれて所定の形状にブロー成形されるのであり、成形中間品16に打ち抜き加工をおこなって貫通孔5を形成するとともに余剰部分21を除去するのである。このようなブロー成形時にボルト11を成形中間品16に保持させておき、打ち抜き加工においてボルト11を支柱2側に残すようにしている。」
(4c)図1には支柱の斜視図が、図4には、図1のA-A断面図が、図6には図1のC-C断面図が記載され、ボルト11は、支柱2の上部と下部の水平部に鉛直方向に沿って埋設されていること、ボルト11埋設部は、鉛直方向に凹入した形状となっていることが示されている。
これらの記載によれば、甲第4号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「ブロー成形された中空のプラスチック支柱2の上部と下部に、柵棒1となるパイプ材を保持する保持金具12を固定するための、ボルト11を埋設した水平部を有し、ボルト11埋設部は、鉛直方向に凹入した形状となっている移動柵用の支柱。」(以下、「甲第4号証発明」という。)

本件特許の出願前に頒布された甲第5号証(特開2001-81745号公報)には、「移動柵用の支柱」に関して、次の事項が記載されている。
(5a)「【0008】図1?図4に、本発明の移動柵の支柱の一実施例を示す。この実施例の支柱1が使用される移動柵2は、・・・図4に示すように、起立して対向する一対の支柱1に、上下でそれぞれパイプ3を差し渡して固定するものであり、パイプ3は各々クランプ4を介して支柱1に固定されるようになっている。なお、クランプ4は、円形のパイプ保持穴を形成する上下一対の保持金具の一端を蝶着し、他端をボルトで締着することにより、パイプ3をパイプ保持穴に固定する方式のもの等、任意方式のクランプを使用することができる。
【0009】本実施例では、かかる移動柵2の支柱1を合成樹脂により形成するとともに、ナット5を螺合したボルト6を、その先端側が突出し、かつナット5の端面5aが露出するように、支柱1の上部と下部とにそれぞれインサート成形により埋設している。
【0010】支柱1は、吹き込み成形による中空の樹脂一体成形品よりなり、側面視がA字状の略三角形状を呈している。この支柱1を複数、パイプ3で連結することにより、自立可能な移動柵2が形成される。ボルト6及びナット5は、この支柱1の頂部7と下部の橋絡部8とにそれぞれ埋設されている。ボルト6は頭部6aを下にした状態で、先端のねじ部6bが支柱1の外面より少し突出するように埋設されており、また、ナット5は、その端面5aが支柱1の外面と面一になるように埋設されている。」
(5b)「【0012】以上のように、本実施例の移動柵の支柱1は、中空体で一体樹脂成形されているために極めて軽量であり、また錆びないことから、運搬や管理面での現場の負担を少なくすることができる。そして、固定用ボルト6をインサート成形によって埋設することにより支柱1と一体化したことから、クランプ4の組付や分解を容易にすることができ、さらに図3に示すように、ボルト6に螺合して埋設したナット5の端面5aと締着用ナット9とでクランプ4を挟着できることから、クランプ4を強固に固定し、組み立てた移動柵2の横揺れや破損を防止して、その安定性と安全性を向上させることができる。」
これらの記載によれば、甲第5号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「吹き込み成形による中空の樹脂一体成形品よりなる支柱1の頂部7と下部の橋絡部8に、パイプ3を保持するクランプ4を固定するための、ナット5を螺合したボルト6を埋設した移動柵用の支柱。」(以下、「甲第5号証発明」という。)

本件特許の出願前に頒布された甲第6号証(特開2000-27133号公報)には、「工事用バリケード」に関して、次の事項が記載されている。(6a)「【請求項1】 架設体(13)と、その架設体(13)を支持する脚体(12)とを備え、架設体(13)をほぼ水平面内において傾動可能に構成した工事用バリケード。」
(6b)「【0023】前記脚体12の脚本体部14は、合成樹脂のブロー成形によりほぼ全体が中空状に形成されるとともに、上端部が充実状に形成されている。・・・」
(6c)「【0029】前記脚本体部14の横桟14aの側面中央には嵌合凹部24が形成されている。そして、図4及び図5に示すように、架設体13が折り畳み位置P2及び格納位置P3に配置されたとき、その先端がこの嵌合凹部24内に嵌合されるようになっている。・・・」

本件特許の出願前に頒布された甲第7号証(実開平6-14351号公報)には、「クランプ金具の底面部にボルトを突設すると共に、そのボルトに進退可能な凹型のチェーン係止部と締付用のナットを付設することを特徴とする建設工事用吊足場の手摺りパイプ取付金具。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)が記載されている。

本件特許の出願前に頒布された甲第8号証(笑開平3-5721号公報)
には、「フエンスジヨイント5と、単管を着脱可能に挟持する単クランプ10とからなり、フエンスジヨイント5は分割された一対のジヨイント構成片6,7で構成され、該両ジヨイント構成片6,7は夫々、中央部に配した平板状の基部6a,7aの両側部に円弧状の嵌合部6b,7bをこれらの軸心が並行するようにして一体的に設けて形成され、これら両ジヨイント構成片6,7における基部6a,7aと前記単クランプ10の基板とに夫々ボルト挿通穴6d,7d,20を形成し、更に両ジヨイント構成片6,7の一方の構成片7における基部7aには、そのボルト挿通穴7dに位置してナツト9を固設し、前記単クランプ10及び両ジヨイント構成片6,7を、それらのボルト挿通穴を通じて1本のボルト21で締付連結するようにしたことを特徴とするフエンスクランプ。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)が記載されている。

本件特許の出願前に頒布された甲第9号証(特開平7-190254号公報)には、「配管を嵌着する溝部を有するとともに取付面に固定するためのボルト孔を有する支持本体と、前記支持本体のボルト孔と対応する位置にボルト挿通口を有するとともに前記溝部を被冠する支持部と、該支持部から前記取付面に対して離間するように延出するとともに配管挿通口を有する延出部とからなる支持部材と、前記支持本体及び前記支持部材を前記ボルト孔及び前記ボルト挿通口を介して前記取付面に固定するボルトとを備えた車両用配管支持具。」(特許請求の範囲請求項1)が記載され、図1には、ボルト挿通口18は、側部が開放したU字状の開口であることが示されている。

本件特許の出願前に頒布された甲第10号証(実開昭61-50110号公報)には、「一端側に第1の湾曲部を有し、他端側に上記第1の湾曲部と異る方向に湾曲する第2の湾曲部を有し、上記各湾曲部間に円筒状に巻回形成した枢支ピン挿入用筒部を有する一対の挾持片を、互いの各湾曲部が相対向するとともに前記筒部を軸方向に直列して突き合せ、これら筒部に枢支ピンを挿入係合して前記各挾持片が該ピンを介して開閉自在となるように結合し、さらに前記各第2の湾曲部の自由端間にボルトとナツトにより形成される締結機構を配するようにしたことを特徴とするバリケード連結用金具。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)が記載され、第4図には、第2の湾曲部の自由端の一方にボルト挿通部を、底部が開放したU字状の開口とすることが示されている。

本件特許の出願前に頒布された甲第11号証(特開2002-28969号公報)には、「中空体の相対する壁を貫く筒状の貫通穴の外壁面に溶着し、少なくとも一方の壁面に基部を有し対向する壁面に向けて延びる補強リブを設けているブロー成形体の締結構造とその製造方法」(【要約】の【構成】参照)が記載され、図12には、ブロー成形体の金型内に板状ピンを配設することが示されている。

本件特許の出願前に頒布された甲第12号証(特開2003-165152号公報)には、「2重壁の偏平なブロー成形体に1列又は複数列の補強用のリブが形成されたブロー成形体」が記載され、図1、図2、図7には、リブは断面略台形状をなし、成形体の下面には、リブによる凹入孔が凹設されることが記載されている。

2 判断
(1)本件発明1について
上記「第4 2(1)」で挙げた、本件発明1と甲第1号証発明との相違点1について検討すると、本件発明1の上記相違点1に係る構成については、甲第2号証ないし甲第12号証のいずれにも記載されていないし、示唆もない。
すなわち、甲第2号証発明には、起立可能な2個のスタンドS(本件発明1の「板体」に相当)間にクランプ様の取付具を介してポールを掛架するバリケードが示され、甲第3号証発明には、ブロー成形された中空のプラスチックスタンド(同「板体」に相当)の天端及び下段部に単管(同「ポール」に相当)を掛架するための金具を固定するビーム部を設けることが示されているが、スタンドにポールを取付けるための取付構造は具体的に記載されていない。
甲第4号証発明及び甲第5号証発明の「支柱」は、本件発明1の「枠体」に相当し、甲第4号証発明の「保持金具」は、本件発明1の「クランプ」に相当するから、甲第4号証発明及び甲第5号証発明には、ブロー成形された中空のプラスチック枠体の上部及び下部に、クランプを取り付けるためのボルトを埋設することが示されているが、ボルトはブロー成形時に埋設されるものであって、成形後のスタンドにボルトを添合させものではなく、ビーム部の側面に鉛直方向に亙り内側に凹入せる縦溝を形成したビームを形成し、この縦溝に止着具のシャンク部を充当して、止着具の頭部によって縦溝の両端縁部を挟み抑え付けて、止着具をビームに止着することは示されていない。
また、甲第1号証発明2には、中空プラスチック枠体のビーム部の側面に、内側に凹入せる縦溝を設けることが示されているが、ポール(ブリッジ部材)の端部の蟻ほぞを係合するためのものであり、ビーム部の側面の溝にクランプの止着具のシャンク部を挿入する凹入部を設けることは示されていない。
さらに、甲第7号証ないし甲第10号証には、パイプやポールを挟持するクランプが記載されているが、クランプを取り付けるパイプやポールに、ボルトを添合するための凹入部を設けることは示されていない。
そうすると、甲第1号証発明2に、ブロー成形体の側面に内側に凹入せる凹入部を設けることが示され、また、甲第6号証、甲第12号証にブロー成形により内側に凹入せる貫通した縦溝を形成することが示され、甲第11号証に、ブロー成形体の金型に板状ピンを設け、ブロー成形体に板状ピンに対応する凹入部を形成することが示されているとしても、甲第1号証発明1において、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることが当業者が容易になしうるとはいえない。

なお、請求人は、「甲第1号証記載の発明において、ビーム部側面に、鉛直方向に亙り内側に凹入せる縦溝を設け、甲第7号証ないし甲第10号証に記載のようなクランプのボルトを溝に添って充当するように挿入して締結し、本件発明1、2の構成とすることは、当業者にとって自明または容易に発明できることにすぎない。」旨主張する。
しかし、自在クランプとして、2本のパイプを回動自在に連結するものは、甲第8号証に記載されているように周知であり、このようなものは、甲第1号証発明のビーム部(引掛バー)に直ちに取り付けることができるから、甲第1号証発明において、特に取付治具として、シャンク部およびその両端にそれぞれ頭部を有する止着具を備える取付治具を採用する必然性はなく、このような取付治具を採用し、しかも止着具をビームに取り付けるために、ビーム部の側面に、鉛直方向に亙り内側に凹入せる縦溝に設けることが当業者が容易に想到しうるとすることはできない。

そして、本件発明1は、ビーム部の側面に、内側に凹入せる縦溝を形成し、この縦溝の凹入部に止着具のシャンク部を添合させるごとく充当して、止着具を止着することにより、クランプの取付治具をビーム部に固定することができ、「支持脚に事後的な加工処理を必要としなくとも、ポールを掛架するために必須なクランプを簡単かつ確実に取り付けることができる」等の明細書記載の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件発明2について
本件発明1が上記のとおり、甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明1の構成要件をすべて含みさらに他の構成要件を付加した本件発明2も、甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1及び本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-10-28 
出願番号 特願2004-32977(P2004-32977)
審決分類 P 1 123・ 113- Y (E01F)
P 1 123・ 121- Y (E01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 清二  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
山本 忠博
登録日 2009-04-03 
登録番号 特許第4286161号(P4286161)
発明の名称 バリケード用支持脚のクランプ取付構造  
代理人 森本 邦章  
代理人 戸川 公二  
代理人 藤川 義人  
代理人 岡倉 誠  
代理人 岡筋 泰之  
代理人 山上 和則  
代理人 雨宮 沙耶花  
代理人 中出 朝夫  

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