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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E05C |
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管理番号 | 1229022 |
審判番号 | 不服2009-15200 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-08-21 |
確定日 | 2010-12-15 |
事件の表示 | 特願2004-13304「多重引き式引戸装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年6月9日出願公開,特開2005-146832〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1.手続きの経緯 本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成16年1月21日(優先日:平成15年3月11日,出願番号:特願2003-64726号,優先日:平成15年10月20日,出願番号:特願2003-358717号)の出願であって,平成21年5月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月21日に審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。 その後,当審において,平成22年4月22日付けで審査官の前置報告書に基づく審尋がなされ,同年6月9日付けで回答書が提出された。 第2.本願発明 本願発明は,請求項の削除を目的とする平成21年8月21日付けの手続補正により補正された,特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「【請求項1】 開口部を開閉する開閉移動方向が同一方向となっている少なくとも第1及び第2の2個の扉体と,これらの扉体を開閉移動方向へ案内する第1及び第2のガイド部材と,前記2個の扉体を連結してこれらの扉体の移動方向を同一方向とし,かつ前記第1扉体よりも前記第2扉体を高速で移動させるとともに,前記第1扉体よりも前記第2扉体が閉じ側へ前進することにより前記開閉移動方向へずれた前記第1及び第2扉体によって前記開口部を閉じるための連動機構と,前記第1及び第2扉体に対して不動となっている不動部材からの荷重によって弾性変形可能となっている弾性部材の摩擦力で前記第1及び第2扉体を開閉移動方向の任意な位置で停止させ,かつ移動力が前記第2扉体に作用したときに前記弾性部材の弾性変形で前記第1及び第2扉体を移動可能とするフリーストップ装置とを含んで構成され, このフリーストップ装置が前記第1扉体に取り付けられているとともに,前記第2扉体に,この第2扉体に前記移動力を作用させるための把持部が設けられていることを特徴とする多重引き式引戸装置。」 第3.引用刊行物 刊行物1:特開平10-61322号公報 刊行物2:特開2002-12196号公報 1.刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された上記刊行物1には,次の事項が記載されている。 (1a)「【0008】 【発明の実施の形態】図1及び図2において,平行並列に配される3枚の戸1a,1b,1cは,開口枠2の上枠下面に配された上レール21における3条の凹溝21a,21b,21cに夫々上端がはめ込まれているとともに,開口枠2の下枠上面に配された下レール22における3条の凹溝22a,22b,22c上を走行する戸車10を下端面に備えている。 【0009】そして3枚の戸1a,1b,1cのうちの中央の戸1bは,その上端に全幅にわたる金属製の枠材3を備えている。該枠材3はその両端に夫々プーリ31,31を備えており,これらプーリ31,31間には無端ワイヤ32が架け渡されている。また無端ワイヤ32には2つの連結部材4,4が固着されている。一方の連結部材4は戸1bの片面側に突起40を突出させ,他方の連結部材4は戸1bの他面側に突起40を突出させたもので,一方の連結部材4が戸1bの一側端に位置する一方のプーリ31側にある時,他方の連結部材4は戸1bの他側端に位置する他方のプーリ31側に位置するように無端ワイヤ32への両連結部材4,4の固着がなされている。 【0010】残る2枚の戸1a,1cは,夫々戸1bと対向する一面に,上記連結部材4の突起40がはまり込む凹部45を備えている。ただし,一方の戸1aの凹部45と他方の戸1cの凹部45とは,戸1a,1cの幅方向において逆の側端に設けられている。・・・」 (1b)「【0011】今,図1に示す状態にある戸1a,1b,1cのうちの戸1aを固定とし,戸1cを図中左方に動かせば,戸1cの凹部45に突起40をはめ込んだ連結部材4が図中左方に移動して無端ワイヤ32を動かす。これに伴って戸1aの凹部45に突起40をはめ込んだ他方の連結部材4も移動しようとするが,戸1aが固定であるために戸1bが図中左方に移動する。戸1cの移動に連動して中央の戸1bも移動するものであり,この時の戸1bの移動速度及び移動量は戸1cの移動速度及び移動量の1/2である。図3(a)に示す全開位置と,図3(b)に示す全閉位置との間の戸1b,1cの移動は,戸1cを動かすだけで得られるものである。・・・図中15は把手を示している。・・・」 (1c)「【0016】・・・3枚の戸1a,1b,1cのうちの片端の戸1aまたは戸1cは,開閉に際して動くことがないわけであるから,左右勝手の変更を行うことがないのであれば,図9に示すように壁1dで代用してもよい。」 (1d)図1及び3には,上記(1a)及び(1b)の記載事項からみて,プーリ31,無担ワイヤ32,及び,連結部材4が,「戸1b及び戸1cの2枚の戸を連結してこれらの戸の移動方向を同一方向とし,戸1bよりも戸1cが閉じ側へ前進することにより開閉移動方向へずれた前記戸1b及び戸1cによって開口枠2を閉じるための」ものであることが,記載されている。 そして,上記記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。 「開口枠2を開閉する開閉移動方向が同一方向となっている戸1b及び戸1cの2枚の戸と,これらの戸を開閉移動方向へ案内する凹溝21b及び凹溝21cと,前記2枚の戸を連結してこれらの戸の移動方向を同一方向とし,かつ戸1bの移動速度は戸1cの移動速度の1/2であるとともに,前記戸1bよりも前記戸1cが閉じ側へ前進することにより前記開閉移動方向へずれた前記戸1b及び戸1cによって前記開口枠2を閉じるためのプーリ31,無担ワイヤ32,及び,連結部材4とを含んで構成され, 前記戸1cに,把手15が設けられている三連式引戸。」 (以下,「刊行物1記載の発明」という。) 2.刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された上記刊行物2には,次の事項が記載されている。 (2a)「【0008】 【発明の実施の形態】・・・図1?図6において,1は建物の出入り口部2を開閉するために設けられたスライド式ドアで,このスライド式ドア1は出入り口部2の上方に水平に設けられたレール3に沿って出入り口部2を閉じた状態と開いた状態との間でスライドするように構成されている。つまり,スライド式ドア1の上端には前記レール3上に載るローラー4を備えたハンガー5がスライド式ドア1を正面から見て左右に取り付けられ,レール3に沿ってスライドする構成となっている。6はスライド式ドア1が閉じた側での前記レール3の端部に取り付けられた自閉装置で,スライド式ドア1はこの自閉装置6のばね力により自動的に閉じられるようになっている。 【0009】7は前記スライド式ドア1の上端の一方のハンガー5に取り付けられたドア用自在ストップ装置である。詳しくは,このドア用自在ストップ装置7はスライド式ドア1の上端の開方向に位置するハンガー5に取り付け金具8を介してねじ9,10止めにより水平に取り付けられている。そして,このドア用自在ストップ装置7は前記ハンガー5にねじ9止めにより取り付けられる取り付け金具8に対してねじ10止めにより取り付けられる平面形状がコの字状の本体部11と,この本体部11の内部で水平に摺動可能に設けられる平面形状がコの字状の振り子支持金具12と,この振り子支持金具12にピン13を介して上端近傍が軸支され下端が前記レール3上に当接する振り子14とから構成される。・・・前記振り子14は前記ピン13を介して前記本体部11ならびに振り子支持金具12に取り付けられる金属製の振り子ブロック14aと,この振り子ブロック14aの下端にインサート成形により固着され下端が前記レール3上に当接する硬質ゴムからなる摩擦体14bとから構成され,・・・前記摩擦体14bの下端は両側の互いに逆方向に向く斜めの偏平面14c,14dと,この両偏平面14c,14d間に位置する摩擦体14b先端の偏平面14eとを備えている。」 (2b)「【0010】・・・前記スライド式ドア1を完全に閉じた状態から開く場合は,前記自閉装置6の付勢力に抗してスライド式ドア1を手で開くのであり,スライド式ドア1を手で開く前の前記振り子14の状態は,図6(A)に示すように前記ピン13を支点に下端の摩擦体14bがスライド式ドア1の開き方向側に傾いて摩擦体14b下端の一方の斜めの偏平面14cがレール3上に当接しており,この状態からスライド式ドア1に手で開く方向に力を与えることにより前記振り子14の下端の摩擦体14bは硬質ゴムの弾性力に抗して回転して図6(B)に示すように振り子14はスライド式ドア1の開き方向とは反対側に傾き,スライド式ドア1に対する振り子14のストップ力が作用しない状態となり,この状態でスライド式ドア1を自閉装置6の付勢力に抗して手で開くのである。そして,スライド式ドア1を完全に開いた状態もしくはスライド式ドア1を完全に開くまでに途中で開いた状態を止めておく場合は,スライド式ドア1を完全に開くかもしくはスライド式ドア1を途中まで開いてスライド式ドア1から手を離すことによりスライド式ドア1はストップ状態となる。つまり,スライド式ドア1には自閉装置6の付勢力が作用しているが,振り子14はスライド式ドア1の開き方向とは反対側に傾いているので,振り子14の下端の摩擦体14bの下端の他方の斜めの偏平面14dとレール3との摩擦ブレーキ力によりスライド式ドア1は開状態を維持することになる。この開状態のスライド式ドア1を閉じるときはスライド式ドア1に手で閉じる方向に力を与えることにより前記振り子14の下端の摩擦体14bは硬質ゴムの弾性力に抗して回転して図6(A)に示すように振り子14はスライド式ドア1の閉じ方向とは反対側に傾き,ストップ力が解除され,スライド式ドア1から手を離すとスライド式ドア1は自閉装置6の付勢力により閉じられる。スライド式ドア1を閉動途中で止めて開状態を維持する場合は,自閉装置6の付勢力で閉動するスライド式ドア1を手で止め,その後スライド式ドア1を開く方向に少し移動させることにより前記振り子14は回転してスライド式ドア1の開き方向とは反対側に傾いて閉方向へのストップ力が働き,スライド式ドア1を閉動途中で止めて開状態を維持することができる。」 (2c)図1には,上記(2b)の記載事項及びスライド式ドアの技術常識からみて,スライド式ドア1を手で開くための「把持部」が記載されていると認められる。 そして,刊行物2の「レール3」は,上記(2a)の記載事項からみて,「スライド式ドア1に対して不動となっている」ものであることは明らかであるし,また,「把持部」は,上記(2b),(2c)の記載事項からみて,「スライド式ドア1に,摩擦体14bを弾性変形させるために必要なレール3からの荷重を発生させる力を与える」ものであることも明らかである。 そうすると,上記記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物2には次の発明が記載されていると認められる。 「スライド式ドア1に対して不動となっているレール3からの荷重によって弾性変形可能となっている摩擦体14bのストップ力で前記スライド式ドア1を開き方向,閉方向の途中で止めさせ,かつ力をスライド式ドア1に与えたときに前記摩擦体14bの弾性変形で前記スライド式ドア1を移動可能とするドア用自動ストップ装置が備えられ, 前記スライド式ドア1に設けられた把持部が,このスライド式ドア1に前記力を与えるためのものであるスライド式ドア。」 (以下,「刊行物2記載の発明」という。) 第4.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「開口枠2」が本願発明の「開口部」に相当し,以下同様に,「戸1b及び戸1cの2枚の戸」が「第1及び第2の2個の扉体」に,「凹溝21b及び凹溝21c」が「第1及び第2のガイド部材」に,「戸1bの移動速度は戸1cの移動速度の1/2である」が「第1扉体よりも第2扉体を高速で移動させる」に,「プーリ31,無担ワイヤ32,及び,連結部材4」が「連動機構」に,「把手15」が「把持部」に,「三連式引戸」が「多重引き式引戸装置」に,それぞれ相当する。 そうすると,両者は, 「開口部を開閉する開閉移動方向が同一方向となっている第1及び第2の2個の扉体と,これらの扉体を開閉移動方向へ案内する第1及び第2のガイド部材と,前記2個の扉体を連結してこれらの扉体の移動方向を同一方向とし,かつ前記第1扉体よりも前記第2扉体を高速で移動させるとともに,前記第1扉体よりも前記第2扉体が閉じ側へ前進することにより前記開閉移動方向へずれた前記第1及び第2扉体によって前記開口部を閉じるための連動機構とを含んで構成され, 前記第2扉体に,把持部が設けられている多重引き式引戸装置。」である点で一致し,以下の点で相違している。 (相違点1) 本願発明が,「第1及び第2扉体に対して不動となっている不動部材からの荷重によって弾性変形可能となっている弾性部材の摩擦力で前記第1及び第2扉体を開閉移動方向の任意な位置で停止させ,かつ移動力が前記第2扉体に作用したときに前記弾性部材の弾性変形で前記第1及び第2扉体を移動可能とするフリーストップ装置」を備え,「このフリーストップ装置が前記第1扉体に取り付けられている」のに対して, 刊行物1記載の発明は,そのような構成を備えていない点。 (相違点2) 上記相違点1に関連して,第2扉体に設けられた把持部が,本願発明では「第2扉体に(弾性部材を弾性変形させるために必要な不動部材からの荷重を発生させる)移動力を作用させる」機能を有しているのに対して, 刊行物1記載の発明では,弾性部材を含むフリーストップ装置を備えていないため,そのような機能を有していない点。 第5.判断 上記相違点1及び2について検討するために刊行物2をみると,刊行物2記載の発明の「スライド式ドア1」が本願発明の「扉体」に相当し,以下同様に,「レール3」が「不動部材」に,「摩擦体14b」が「弾性部材」に,「ストップ力」が「摩擦力」に,「開き方向,閉方向の途中で止め」が「開閉移動方向の任意な位置で停止」に,「力をスライド式ドア1に与え」が「移動力が扉体に作用し」に,「ドア用自動ストップ装置」が「フリーストップ装置」に,「力を与え」が「移動力を作用させ」に,「スライド式ドア」が「引戸装置」にそれぞれ相当する。 そうすると,刊行物2によって, 「扉体に対して不動となっている不動部材からの荷重によって弾性変形可能となっている弾性部材の摩擦力で前記扉体を開閉移動方向の任意な位置で停止させ,かつ移動力が前記扉体に作用したときに前記弾性部材の弾性変形で前記扉体を移動可能とするフリーストップ装置が備えられ, 前記扉体に設けられた把持部が,この扉体に前記移動力を作用させるためのものである引戸装置。」は公知となっている。 引戸装置において,扉体を開閉移動方向の任意な位置で停止させようとすることは,従来から考察されている一般的な課題に過ぎないから,刊行物1記載の発明の多重引き式引戸装置において,このような課題を解決するために,刊行物2記載の発明の「フリーストップ装置」を適用するとともに,刊行物1記載の発明の第2扉体の把持部に,刊行物2記載の発明の把持部と同様の「移動力を作用させる」機能を付与することは,当業者が容易に想到し得たことである。 そして,刊行物1記載の発明にフリーストップ装置を適用する際に,刊行物1記載の発明の連動機構の構成からみて,第2扉体に小さな移動力を作用させれば第1扉体にそれに倍する移動力が作用することは,前記連動機構の持つ力学的特性として自明であるから,刊行物1記載の発明において,フリーストップ装置を取り付けた後の扉体が,小さいな移動力で良好な移動操作性を示すことができるように,このフリーストップ装置を「第1扉体に取り付ける」ことは,当業者が当然に着想し得たことである。 また,刊行物1記載の発明に刊行物2記載のフリーストップ装置を適用すると,このフリーストップ装置は,必然的に「第1及び第2扉体に対して不動となっている不動部材からの荷重によって弾性変形可能となっている弾性部材の摩擦力で前記第1及び第2扉体を開閉移動方向の任意な位置で停止させ,かつ移動力が前記第2扉体に作用したときに前記弾性部材の弾性変形で前記第1及び第2扉体を移動可能とする」ものとなる。 そうすると,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,上記相違点1及び2に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 そして,本願発明が奏する効果は,刊行物1及び2記載の発明から予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。 よって,本願発明は,刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 なお,請求人が提示した,平成22年6月9日付け回答書の補正案に係る発明,及び,平成22年9月14日の面接時の補正案に係る発明を検討しても,いずれも,刊行物1及び2に記載された発明,並びに,自働移動装置に係る周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得るものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第6.むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-04 |
結審通知日 | 2010-10-12 |
審決日 | 2010-10-25 |
出願番号 | 特願2004-13304(P2004-13304) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E05C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼木 尚哉、引地 麻由子 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
山本 忠博 宮崎 恭 |
発明の名称 | 多重引き式引戸装置 |
代理人 | 安藤 武 |