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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1229034
審判番号 不服2009-20226  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-21 
確定日 2010-12-15 
事件の表示 特願2003-384164「定着装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-148311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、平成21年10月21日付の手続補正、本願発明
本願は、平成15年11月13日の出願であって、平成21年7月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月21日に査定不服の審判請求がなされ、同日付で手続補正がなされたものである。
さらに、審査官により作成された前置報告書について当審より審尋したところ、平成22年3月19日付で回答書が提出されたものである。

平成21年10月21日付けの手続補正は、審判請求書には明確に主張されていないが、特許請求の範囲の請求項1、請求項3において、明りょうでない記載の釈明をするものであり、そして、旧請求項5を削除するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

本願の請求項1?4に係る発明は、平成21年10月21日付手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その特許請求の範囲の請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という)は以下のとおりである。

「【請求項3】
定着ローラに所定圧力で加圧ローラを転接し、前記定着ローラと前記定着ローラから離間して配設された加熱ローラとに掛け渡した定着ベルトを加熱して、前記定着ローラと加圧ローラの転接部を通過する記録媒体上にトナー画像を定着させる定着装置であって、
前記定着ローラと加圧ローラの待機静止時におけるローラ間の圧力解除機構を設けない構成とし、
かつ前記定着ローラと加圧ローラが前記待機静止時における転接状態から転接しながら1回転したとき、前記加圧ローラの転接部の円周方向への移動距離が前記定着ローラの転接部の円周方向への移動距離より、少なくとも前記転接部の円周方向の長さ分短くなるように前記加圧ローラと定着ローラの外径寸法比を選択した
ことを特徴とする定着装置。」

2.引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2003-270994号公報(原査定の引用文献2。以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1a)「【0005】また定着装置としては、加熱手段としてのヒータにより加熱され、トナーを定着されるシート状の記録媒体を搬送するための回転する無端の定着ベルト、定着ベルトを巻き掛けられた加熱ローラ及び定着ローラ、定着ベルトを介して定着ローラに対向して配置される加圧部材としての加圧ローラ、加圧ベルト等を構成要素とし、定着ベルトと加圧ローラとによって形成される当接領域であるニップ部に、これらの回転により、トナーを定着される用紙を搬送して通過させ、加熱加圧してトナー像を定着するタイプのいわゆるベルト定着装置が知られている。」

(1b)「【0028】図2に示すように、定着装置12は、用紙Pを挟持搬送可能なように互いに対向して当接することにより連動回転が可能な定着ローラ12Aと、定着ローラ12Aに対向して配設された第2の回転体としての加圧ローラ12Bと、加圧ローラ12Bと当接し回転する無端の定着ベルトである第1の回転体としての加熱ベルト12Cと、定着ローラ12Aとの間で加熱ベルト12Cを展張した、加熱ベルト12Cを加熱するための加熱ローラ12Dとを有している。」

(1c)「【0032】加熱ベルト12Cは、円筒状にした状態で径が60mmであり、厚さが90μmのポリイミドベルト樹脂製の基体と、この基体の外周に配設された、高離型シリコンゴムをコーティングにより被覆した厚さ200μmのオイル担持層をなす表層とを有しているものであって、熱容量が低く、熱応答性を良好とされている。」

(1d)「【0033】定着ローラ12Aは、鉄製中実の金属製の芯金と、芯金の外周に配設された厚さ6mmの発泡シリコンであるシリコンゴムの弾性層とを有する、径が30mmのローラである。テンションローラ12Eは鉄製無垢の金属製であり、表面をニッケルメッキした、径が8mmのローラである。定着装置12はテンションローラ12Eの軸受をなす、PPS系の耐熱性を有する樹脂製の第1の軸受部材としての図示しないスベリ軸受を有している。スベリ軸受は、これを支持する側板を通じてアースされている。」

(1e)「【0035】加圧ローラ12Bは、厚さ1mmの鉄製芯金の表面に、厚さ1.5mmの弾性層を表層として設けた、径が40mmのローラであって、かかる弾性層は、導電性シリコンゴムのベース層、厚さ30μm程のフッ素ゴムの中間層、および厚さ70μm程の高離型シリコンゴムの表層とを有する3層構造となっている。」

(1f)「【0036】加圧ローラ12B、加熱ローラ12Dの内部にはそれぞれ、加熱源であり加熱手段としてのヒータである、加圧ヒータ25、加熱ヒータ26が配設されている。また加圧ローラ12B、加熱ローラ12Dの周面にはそれぞれ、温度検知手段であるサーミスタ27、28が当接しており、加圧ヒータ25、加熱ヒータ26に対する通電を検知温度に基づいて制御することで、各ローラ12B、12Dの温度を制御している。
【0037】これにより加熱ベルト12Cの温度がニップ部16において所定の定着温度で略均一となるよう制御され、かかる圧接領域に図における下方からトナー像Tを担持した用紙Pを通し、加熱ベルト12C等によって用紙P上のトナー像Tを加熱・溶融、加圧して用紙Pに定着するようになっている。」

これら記載によれば(特に、前記(1a)(1b)(1d)(1e)(1f)参照)、引用例には、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているものと認められる。

「定着ローラ12Aと、
加熱手段としての加熱ローラ12Dにより加熱され、トナーを定着されるシート状の記録媒体を搬送するための回転する無端の加熱ベルト12Cと、
加熱ベルト12Cを介して定着ローラ12Aに対向して配置される加圧部材としての加圧ローラ12Bとからなり、
加熱ベルト12Cと加圧ローラ12Bとによって形成される当接領域であるニップ部16に、図2における下方からトナー像Tを担持した用紙Pを通し、加熱ベルト12C等によって用紙P上のトナー像Tを加熱・溶融、加圧して用紙Pに定着する、
ベルト定着装置であって、
定着ローラ12Aは、鉄製中実の金属製の芯金と、芯金の外周に配設された厚さ6mmの発泡シリコンであるシリコンゴムの弾性層とを有する、径が30mmのローラであり、
加圧ローラ12Bは、厚さ1mmの鉄製芯金の表面に、厚さ1.5mmの弾性層を表層として設けた、径が40mmのローラである、
ベルト定着装置。」

3.対比
本願発明と引用例発明とを対比する。
引用例発明の「定着ローラ12A」、「加圧ローラ12B」、「加熱ベルト12C」、「当接領域」、「用紙P」、「トナー像T」、「ベルト定着装置」は、それぞれ、本願発明の「定着ローラ」、「加圧ローラ」、「定着ベルト」、「転接部」、「記録媒体」、「トナー画像」、「定着装置」、に該当する。

引用例発明の
「 定着ローラ12Aと、
加熱手段としての加熱ローラ12Dにより加熱され、トナーを定着されるシート状の記録媒体を搬送するための回転する無端の加熱ベルト12Cと、
加熱ベルト12Cを介して定着ローラ12Aに対向して配置される加圧部材としての加圧ローラ12Bとからなり、
加熱ベルト12Cと加圧ローラ12Bとによって形成される当接領域であるニップ部16に、図2における下方からトナー像Tを担持した用紙Pを通し、加熱ベルト12C等によって用紙P上のトナー像Tを加熱・溶融、加圧して用紙Pに定着する、
ベルト定着装置」は、
本願発明の
「定着ローラに所定圧力で加圧ローラを転接し、前記定着ローラと前記定着ローラから離間して配設された加熱ローラとに掛け渡した定着ベルトを加熱して、前記定着ローラと加圧ローラの転接部を通過する記録媒体上にトナー画像を定着させる定着装置」
に相当する。

してみると、両者は
「定着ローラに所定圧力で加圧ローラを転接し、前記定着ローラと前記定着ローラから離間して配設された加熱ローラとに掛け渡した定着ベルトを加熱して、前記定着ローラと加圧ローラの転接部を通過する記録媒体上にトナー画像を定着させる定着装置」
で一致し、以下の点で一応相違する。

[相違点1]
本願発明では「待機静止時におけるローラ間の圧力解除機構」を設けない構成とするのに対し、
引用例には「待機静止時におけるローラ間の圧力解除機構」には言及されていない点。

[相違点2]
本願発明では、「前記定着ローラと加圧ローラが前記待機静止時における転接状態から転接しながら1回転したとき、前記加圧ローラの転接部の円周方向への移動距離が前記定着ローラの転接部の円周方向への移動距離より、少なくとも前記転接部の円周方向の長さ分短くなるように前記加圧ローラと定着ローラの外径寸法比を選択」されているのに対し、
引用例発明では、定着ローラ12Aの径が30mmで、加圧ローラ12Bの径は40mmであるが、
引用例には「定着ローラ12Aと加圧ローラ12Bが前記待機静止時における転接状態から転接しながら1回転したとき、加圧ローラ12Bの転接部の円周方向への移動距離が定着ローラ12Aの転接部の円周方向への移動距離より、少なくとも前記転接部の円周方向の長さ分短くなるように加圧ローラ12Bと定着ローラ12Aの外径寸法比を選択」するものであることは説明されていない点。

4.判断
4-1.相違点1について
本願明細書には、従来技術における待機状態の、定着ローラと加圧ローラ間の圧力解除について、次のように説明されている。
「【背景技術】
【0002】
電子写真装置用の定着装置として、例えば、特許文献1に記載されているベルト式定着装置は、2ローラ式の加熱・定着ローラから熱源を外部に取り出した構成を有する。すなわち、熱源を内蔵した加熱ローラと、この加熱ローラからの熱を、定着ベルトを介して定着ローラと加圧ローラとの転接部(ニップ部)に伝達することで、その転接部を通過する記録媒体(未定着シート)上のトナーを加圧および加熱するようになっている。
【0003】
また、かかるベルト式定着装置では、定着ベルトを未定着シートの搬送経路を規定するガイド板に近接して配設することで、定着ベルトからの輻射熱により、ガイド板上を搬送されている未定着シートを予熱でき、これによりニップ部の温度を低く設定できる。さらには、熱容量の小さい定着ベルトを用いることで、ニップ部通過時に定着ベルトの温度を急速に冷却させ、ニップ部の出口で定着ベルトより分離するトナーの凝集力を高めること
で、定着ベルトとトナーとの離型性を高めることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平6-318001号(特許登録第2813297号)公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したベルト式定着装置では、定着動作が停止している待機状態においても、定着ローラと加圧ローラ間の圧力解除がされず、定着ローラは加圧ローラにより加圧され続けられる、という制御機構が採られている。その結果、定着ベルトおよび定着ローラに過度なストレスがかかるという問題がある。
【0006】
また、従来の定着装置は、定着ローラと加圧ローラとを同一径、あるいは同一に近い径で構成しているため、定着ローラと加圧ローラ各々のニップ領域が、待機後の1回転目、およびそれ以降の回転においても、再び同じ位置で重なり合うことになる。その結果、定着ローラと加圧ローラのニップ領域が重なるたびに、例えば、定着ローラの表面に残った凹みにより異音や回転ムラ等が生じるという問題がある。」
してみると、本願明細書のこの記載事項によれば、従来のベルト定着装置においては、定着動作が停止している待機状態において、定着ローラと加圧ローラ間の圧力解除がされず、定着ローラは加圧ローラにより加圧され続けられる、という制御機構が採られており、従来のベルト定着装置においては、待機状態において、定着ローラと加圧ローラ間の圧力解除がなされないのが普通であるというのが相当である。
引用例発明のベルト定着装置において、定着時には、定着ローラ12Aと加圧ローラ12Bとは、圧着されるものであることは明記されているが、待機静止時にはこの圧着が解除されるものであるのか解除されないものなのかについて、引用例に言及がない。しかしながら、従来のベルト定着装置においては、待機状態において、定着ローラと加圧ローラ間の圧力解除がなされないのが普通である以上、待機静止時にはこの圧着が解除されるものであるのか否かの言及のない、引用例発明のベルト定着装置は、待機静止時にはこの圧着が解除されないものと解するのが妥当である。
してみると、前記相違点1は、実質的には相違点ではない。

4-2.相違点2について
本願明細書には、定着ローラと加圧ローラの径について、次のように記載されている。
「【0065】
定着ローラ24と加圧ローラ26が同一径、あるいは略同一に近い径を有している場合、定着ローラ24のニップ領域111と加圧ローラ26のニップ領域113は、待機後の1回転目において再び重なり合うため、例えば、定着ローラ24の表面に残った凹みにより異音や回転ムラ等が生じる。また、かかる凹みの回復が遅く、ローラ表面に凹みが残っている限り、待機後の回転開始時(回転初期)のみならず、それ以降の回転時においても、異音、回転のムラ等が連続的に発生する。」
「【0068】
一方、図7の(c)は、待機後の1回転目において、加圧ローラ26のニップ領域113と定着ローラ24のニップ領域111とが重ならず、加圧ローラ26のニップ領域113が、定着ローラ24のニップ領域111よりも、少なくともニップ幅分、後に到来する例を示している。この場合、加圧ローラ26の直径D2を定着ローラ24の直径(25mmm)よりも大きくして、待機後の1回転目において、加圧ローラ26のニップ領域113が、回転方向において定着ローラ24のニップ領域111よりも後になるようにすればよい。
【0069】
すなわち、図7の(c)に示す例では、
π×D2≧(π×25+7)[mm] …(2)
を満たせばよい。この式(2)より、加圧ローラ26の直径D2が27.2mm以上であれば、待機後の1回転目において、加圧ローラ26のニップ領域113は、定着ローラ24のニップ領域111よりも後にくることになる。また、1回転目以降においても、相互のニップ領域のずれが徐々に拡大することは、上述した図7の(b)に示す例と同様である。
【0070】
図7の(b),(c)いずれの場合も、定着ローラ24と加圧ローラ26が回転を重ねるうちに、ニップ領域のずれが元に戻り、最終的には再度、ニップ領域が互いに重なることになる。しかし、ずれが元に戻ってニップ領域が再度、重なるまでには、ローラ周辺に形成されていた凹みも回復するため、ニップ領域の再度の重なりに起因する異音や回転ムラ等は発生しない。
【0071】
このような外径寸法比とすることで、定着ローラ24と加圧ローラ26のいずれか一方の凹みだけが転接部に到来し、その転接部に両ローラのニップ領域が同じタイミングで到来して凹みが相互に重なることがない。そのため、一方の凹みによる異音等が回転初期に生じるだけであり、凹みどうしの重なり合いによる場合に比べて、異音や回転ムラ等が大幅に軽減される。」
本願明細書のこれらの記載事項によれば、相違点2の構成の「前記定着ローラと加圧ローラが前記待機静止時における転接状態から転接しながら1回転したとき、前記加圧ローラの転接部の円周方向への移動距離が前記定着ローラの転接部の円周方向への移動距離より、少なくとも前記転接部の円周方向の長さ分短くなるように前記加圧ローラと定着ローラの外径寸法比を選択」されていることは、請求項4の「前記定着ローラの直径をc、前記転接部におけるニップ幅をdとしたとき、前記加圧ローラの直径D2はπ×D2≧(π×c+d)を満たすように設定」されることを意味する、ということができる。
他方、引用例発明では、定着ローラ12Aの径が30mmで、加圧ローラ12Bの径は40mmである点は、ニップ部16の幅が約31.4mm以下であれば、
π×40≧(π×30+d)
を満たすことになる。そして、引用例発明においては、ニップ部16の幅は、図3から、31.4mm以下であることは明らかである。引用例発明では、定着ローラ12Aの径、加圧ローラ12Bの径が、π×D2≧(π×c+d)を満たすように設定されていることは明らかである。
すなわち、引用例発明においては、定着ローラ12Aと加圧ローラ12Bが前記待機静止時における転接状態から転接しながら1回転したとき、前記加圧ローラ12Bの転接部の円周方向への移動距離が前記定着ローラ12Aの転接部の円周方向への移動距離より、少なくとも前記転接部の円周方向の長さ分短くなるように前記加圧ローラ12Bと定着ローラ12Aの外径寸法比が選択されていることに該当するものである。
してみると、前記相違点2は、実質的には相違点ではない。

4-3.作用効果
本願明細書には、本願発明の効果は、次のように記載されている。
「【0020】
本発明によれば、待機静止後のローラの回転動作時において異音や回転ムラ等が発生するのを防止できる。」
しかしながら、引用例発明においても、加圧ローラ12Bと定着ローラ12Aの外径寸法比は、
ニップ幅をdとしたとき
π×40≧(π×30+d)
を満たす。そして、本願明細書の説明によれば、前記の式を満たすときには待機静止後のローラの回転動作時において異音や回転ムラ等が発生しないことになる。

してみると、本願発明が奏する効果は、引用例発明においても同様に奏しているものであり、格別の効果の差異は認められない。

4-4.請求人の主張について
請求人は、平成22年3月19日付回答書において次のように主張している。
『(2-2) 画像形成装置、印刷装置等には、従来より、ローラ表面の凹みに起因して異音や回転むらが発生するという問題があり、それを解消するためにローラ間に圧力解除機構、あるいは簡略化した圧力解除機構を設けるのが通常であって、圧力解除機構を設けない構成は一般的ではないと思料する。』

また、請求人は、次のように主張している。
『(2-3) 本件の審判請求書「請求の理由」において言及した知財高裁判例(平成20年(行ケ)第10096号)では、『出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、容易想到性の有無を客観的に判断するためには、当該発明の特徴点を的確に把握すること、すなわち、当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして、容易想到性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが、そのためには、当該発明が目的とする『課題』の把握に当たって、その中に無意識的に『解決手段』ないし『解決結果』の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。』(下線は引用者が追加。)とした上で、『本願発明が引用文献に記載の発明に基づいて容易に想到できるとするためには、先行技術である引用文献において本願発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは不十分であり、本願発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在が必要である。』と判示している。
(2-4) これを本件出願に当てはめると、前置報告書のように、圧力解除機構に関わる技術的な課題に何ら言及していない引用文献1および2に基づいて本願発明が当業者には容易に想到できるとすることは、『発明が目的とする課題を的確に把握』していないことに加え、引用文献には『本願発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在』がない、という事実をまったく無視した判断を行っていると言わざるを得ない。』

しかしながら、これらの主張は、従来のベルト定着装置において、定着動作が停止している待機状態のときにに定着ローラと加圧ローラ間の圧力を解除する圧力解除機構を設けるのが通常であるということを前提とした主張であるところ、前記4-1.で述べたように、本願明細書の記載事項によれば、従来のベルト定着装置においては、定着動作が停止している待機状態において、定着ローラと加圧ローラ間の圧力解除がされず、定着ローラは加圧ローラにより加圧され続けられる、という制御機構が採られているということができるから、請求人の上記主張は採用できない。

4-5.まとめ
以上のことから、本願発明は、引用例発明と同一である。

5.むすび
したがって、本願の請求項3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-24 
結審通知日 2010-09-27 
審決日 2010-10-25 
出願番号 特願2003-384164(P2003-384164)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 伏見 隆夫
一宮 誠
発明の名称 定着装置  
代理人 丸山 幸雄  

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