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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61M
審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A61M
管理番号 1229119
審判番号 無効2009-800013  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-21 
確定日 2010-12-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2647132号発明「安全後退用針を備えたカニューレ挿入装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
(1)本件特許第2647132号の請求項1?4に係る発明についての出願(以下「本件出願」という。)は、昭和63年4月28日に出願され、平成9年5月9日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされたものである。
(2)これに対し、請求人は、平成21年1月21日に本件特許無効審判を請求し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求めた。
(3)被請求人は、平成21年5月11日に答弁書を乙第1号証ないし乙第6号証と共に提出し、一方、請求人は、平成21年7月13日(8月24日付け)に口頭審理陳述要領書を甲第7号証ないし甲第10号証と共に提出した。
(4)その後、被請求人は、平成21年8月4日に口頭審理陳述要領書を提出し、請求人は平成21年8月24日に上申書を甲第11号証、甲第12号証と共に提出し、同日に口頭審理が実施された。
(5)口頭審理実施後、被請求人は、平成21年9月14日に上申書を提出し、請求人は、平成21年9月25日に上申書を提出した。

II.本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件出願の願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと、
該ハンドル内に配置されたニードルハブと、
鋭い自由端と、前記ニードルハブに連結された固着端とを有するニードルと、
前記ニードルハブを前記中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段と、
前記ニードルハブから独立して移動可能であり、前記ニードルハブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッチであって、前記ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され、前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチと、
から成ることを特徴とする安全装置。」

III.請求人の主張
請求人は、本件特許発明を以下のように分節し、本件特許発明を無効とする、との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第6号証を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。

「A:近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと、
B:該ハンドル内に配置されたニードルハブと、
C:鋭い自由端と、前記ニードルハブに連結された固着端とを有するニードルと、
D:前記ニードルハブを前記中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段と、
E:前記ニードルハブから独立して移動可能であり、前記ニードルハブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッチであって、前記ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され、前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチと、
F:から成ることを特徴とする安全装置。」

(1)理由1
本件特許発明の特許請求の範囲に記載されている「ニードルハブ」なる用語が、発明の詳細な説明に一切記載されておらず、また、「ニードルハブ」がどのような構成のものか明確に把握できず、したがって、特許請求の範囲に記載された「ニードルハブ」が発明の詳細な説明のどの部材に対応するのか、判断できない。
よって、本件特許発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、本件特許は、平成2年政令第258号附則第2条第1項によりなおその効力を有するとされる、平成2年法律第30号附則第4条による改正前の特許法(以下「昭和62年特許法」という。)第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第3号に該当し、無効とされるべきである。

(2)理由2
本件特許発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(3)理由3
本件特許発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び周知の技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開昭62-72367号公報
甲第2号証:特開昭59-69080号公報
甲第3号証:米国特許第3572334号明細書、甲第3号証の部分翻訳文甲第4号証:米国特許第4160450号明細書、甲第4号証の部分翻訳文
甲第5号証:特開昭50-27200号公報
甲第6号証:実願昭55-015351号(実開昭56-116961号)のマイクロフィルム

IV. 被請求人の主張
これに対し、被請求人の主張は、以下のとおりである。
(1)理由1
「ニードルハブ」という文言は、注射器及びカテーテルを含む医療機器の分野において頻繁に用いられる、意味内容の確立した技術用語であり、「ニードルハブ」の文言を記載した特許公報も、少なくない。それら特許公報からは、「ニードルハブ」は針基を指す文言として慣用される技術用語であることは明らかである。
また、本件特許明細書には、「この実施例はまたハンドル10の前端にしっかり固定された鼻部片20と、ハンドル10内に摺動自在に配置されたキャリヤブロック30と含む。」(特許第2647132号公報(以下「本件特許公報」という。)、12欄19?22行)なる記載等があり、本件特許発明の「ニードルハブ」に対応する針基として、「キャリヤブロック30」が記載されていることは明白である。
よって、「ニードルハブ」は針基を意味する技術用語であり、本件特許明細書には針基として、例えば「キャリヤブロック30」が記載されており、「本件特許発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、昭和62年特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第3号に該当し、無効とされるべきである」との請求人の主張には理由がない。

(2) 理由2,3
本件特許発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく同法第123条第1項第2号に該当しないため、無効とされるべきではない。

V.当審の判断
1.理由1についての判断
被請求人は「ニードルハブ」の語を記載した複数の特許公報(乙第1?3号証)を挙げて、それらはいずれも、針(ニードル)の土台(基)部分のことを「ニードルハブ」とよび、「ニードルハブ」が、針基を指す用語として慣用される技術用語であることは明らかであると主張している。
これに対し、請求人は、特許公報の用語は、それぞれの明細書の発明の詳細な説明において定義されるものであるから、共通の用語が用いられているからといって、同じ意味内容で使われているかどうかは限らないと主張している。
そこで、被請求人が挙げた複数の特許公報(乙第1?3号証)を検討すると、これらは、いずれも医療機器に関するものであり、「ニードルハブ」との文言を、その意味内容を特に説明することなく、針(ニードル)の土台(基)部を指す用語として用いている。してみれば、「ニードルハブ」との文言は、針の土台部、すなわち針基を指す用語として広く知られた、意味内容の確立した技術用語と認識されていたものと認められる。

また、本件特許明細書では、実施例について、以下の記載がある。
「第1図および第2図に示すように、本発明の好ましい一実施例は成形された中空ハンドル10を含む。この実施例はまたハンドル10の前端にしっかり固定された鼻部片20と、ハンドル10内に摺動自在に配置されたキャリヤブロック30とを含む。
第1図および第2図の実施例はまた鼻部片20に近接してキャリヤブロック30をハンドルの前端近くに固着するラッチ40と、ブロック30により担持されハンドル10から鼻部片20を貫通して延びる針50とを含む。」(本件特許公報12欄18?26行)
前記記載からは、中空ハンドル10内に摺動自在に配置されているのは「キャリヤブロック30」であり、ラッチ40により中空ハンドル10の前端近くに固着するのは「キャリヤブロック30」であって、針50を担持するのは「キャリヤブロック30」であることが把握できる。
上記のことを、本件特許発明に関する特許請求の範囲の請求項1の記載「近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと、該ハンドル内に配置されたニードルハブと、鋭い自由端と、前記ニードルハブに連結された固着端とを有するニードルと、……前記ニードルハブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッチであって、……安全装置」と対比すると、実施例において「ニードルハブ」に相当するものは「キャリヤブロック30」であることは明らかである。

以上のとおり、「ニードルハブ」は発明の詳細の説明に直接の文言の記載はないが、一般的な用語として知られていると共に、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例においては「キャリヤブロック30」のことを指していることが明らかであるから、請求人の「本件特許発明が、サポート要件を満たしていない」、「本件特許発明の『ニードルハブ』が発明の詳細な説明のどの部材に対応するのか不明である」との主張は失当である。

よって、本件特許は、昭和62年特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第3号に該当しないから、理由1によっては無効とすることはできない。

2.理由2についての判断
2-1.甲第1ないし4号証の記載内容
請求人が本件特許発明に対する無効理由2の根拠とする甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証には、図面と共にそれぞれ次の事項が記載されている。

(甲第1号証)
(ア)「(1)皮下注射針またはその他の器具に関連した動きによるか、あるいはそのものの上に折り重ねることによって、前記の針またはその他の器具が正常に使用される第1の位置で、前記の針またはその他の器具、あるいはその支持体に接続させ、据えておくことができるようになっている1個のさやから成り、第2の位置では、さやが、針またはその他の器具を包み、かつその第2の位置に、さやを保持するようになっていることを特徴とする皮下注射針等の安全装置。」(【特許請求の範囲】(1))
(イ)「(5)針が、ハウジングによって支持されており、かつさやが、ハウジングに固着されていることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項乃至第(3)項のいずれかに記載の皮下注射針等の安全装置。」(【特許請求の範囲】(5))
(ウ)「(6)さやが、針の長さ方向に平行に、ハウジングに対して動くことができ、それにより、さやが、針を包むように移動できることを特徴とする特許請求の範囲第(5)項に記載の皮下注射針等の安全装置。」(【特許請求の範囲】(6))
(エ)「(産業上の利用分野)
本発明は、皮膚の臨床的穿刺に用いられる皮下注射針またはその類似器具の安全装置に関する。」(2頁左上欄15?17行)
(オ)「(発明が解決しようとする問題点)
臨床オペレータ、臨床処理の監視者、および一般の人々を含むその他すべての関係者が、誤って傷つくことのないような方法で、皮下注射針またはそうした器具を処理することのできる装置が明らかに必要である。
本発明の目的は、そうした装置を提供することにある。」(2頁右上欄8?15行)
(カ)「本発明の安全装置は、皮下注射針に代表される穿刺器具の保護に、一般的に適用できるものであるが、そうした器具の中でも、皮下注射針は、最も広範に使用されている。
例えば、この装置は、生検針、傷針、すなわち、接着テープによるような皮膚表面に針を固定することのできる側面付属装置の付いた針の保護や、静脈カニューレや腰椎穿刺針の保護に適用することができる。」(2頁左下欄7?15行)
(キ)「本発明によるさやは、予め針に取り付けて提供するのが、好適かつ簡便である。
特に好適には、さやは、除去されないように、または容易に除去されることのないような方法で取り付けられる。例えば、さやを、針または針の支持体に接着するか、あるいは針または支持体にクリップで止めてもよい。」(2頁右下欄7?13行)
(ク)「(実施例)
本発明を、添付図面について、さらに説明する。
第1A図および第1B図に示した本発明の実施態様は、針(5)を支持しているプラスチック成形物の針ハウジング(4)と、ハウジング(4)の上を滑ることができるように支持された、さやと共に要素を構成する親指ガード(7)と合体したプラスチックさや(6)から成っている。」(3頁右上欄12?19行)
(ケ)「さや(6)は、拡大図により詳細に示してあるように、溝(8)に沿って滑る自動ばね栓(9)と合体している。さやが溝(8)の端までいくと、自動ばね栓(9)が、小さな「くぼみ」(10)に落ちて、滑動するさやを所定の位置に固定する。
さやの長さは、第1B図に示すように、それが所定の位置に固定された際、針の鋭利な先端がさやに完全に含まれるような長さである。」(3頁左下欄2?9行)
(コ)「ハウジング(4)は、どの標準的注射器胴部または連結器にも合うように設計されている。
使用後、保護さやを固定位置まで伸ばし、安全な方法で針を含む。」(3頁左下欄10?13行)

(サ)摘記事項(キ)、(ク)及び第1A,1B図の図示内容より、さや6は、中空であって、ある程度の長さを有するものであり、臨床オペレータ等の穿刺器具の操作者にとって、近い端及び遠い端を有していること、また、ハウジング4は、さや6内に配置されていることが把握できる。そして、摘記事項(エ)及び第1A,1B図の図示内容から、針5は鋭い自由端を有し、ハウジング4の遠い端で当該ハウジング4に支持される、前記鋭い自由端と反対の端部を有することが把握できる。
(シ)摘記事項(ウ)、(ク)及び第1A,1B図から、さや6を、針5の長さ方向に、ハウジング4に対して動かすときに、親指ガード7も一緒に動くように、さや6と一体に構成されていることが把握できる。
(ス)摘記事項(オ)、(ク)?(ケ)及び第1A,1B図から、さや6を針5を包むように前に動かすのは、操作者の手動によることも把握できる。
(セ)摘記事項(イ)及び(キ)の記載、また、甲第1号証記載の安全装置において、針5の穿刺時には、さや6は、針5あるいはハウジング4に対して、針5が露出するような位置に保持される必要があることは自明であることからみて、甲第1号証記載の安全装置においては、ハウジング4とさや6を、ハウジング4が一時的にさや6の遠い端に隣接した位置に保持される接着等による固着手段を有していることも把握できる。

上記記載事項からみて、甲第1号証には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「近い端及び遠い端を有する中空のさや6と、
さや6内に配置されたハウジング4と、
鋭い自由端と、ハウジング4の遠い端で当該ハウジング4に支持される、前記鋭い自由端と反対の端部とを有する針5と、
ハウジング4を一時的に中空のさや6の遠い端に隣接して保持する接着等による固着手段と、
から成る皮下注射針等の安全装置。」

(甲第2号証)
(ソ)「(1)可動コアを具えるか具えない皮下注射針を使用する、自動プランジャ復帰式の注射器にして、注射器本体(1)を、注射器前端(4)で一体化された2個の同軸的な円筒素子(2,3)で構成するともに、該本体(1)を上記前端(4)から、上記円筒素子(2,3)の前方に同軸線に設けられた中空の円錐台状の座部(5)まで延設し、両円筒素子(2,3)間の環状室(8)の一端を前記前端(4)で閉鎖し他端は開放し、円筒素子(3)の中心部に、両端が開放され前端が前記座部(5)に連通する円錐台部分(10)を終端とする円筒状空洞(9)を形成し、前記注射器本体(1)の内部に、2個の同軸的な円筒(14,15)からなる軸線方向に移動可能なプランジャ(13)を収納し、これら円筒(14,15)のうちの外方円筒(14)を前端で開放し、後端で環状部(17)により閉鎖し、内方円筒(15)を前端で閉鎖し、後端で上記環状部(17)を経て円板部即ちボタン(18)まで延設し、これら外筒(14)と内筒(15)の間の第2環状室(16)の後端を前記環状部(17)で閉鎖し、更に、上記内筒(15)の前端で、皮下注射針(7)の可動コア(6)のための固定点を画定し、上記可動コア(6)の基部を、外側面がアンダカット状で、前記円筒状空間(9)内を、それと協働して気密、液密のシールを構成しつつ摺動するパッキン(20)内に収納したことを特徴とする注射器。」(「特許請求の範囲」(1))
(タ)「(3)プランジャ(13)の外方円筒(14)の前端の前方にスプリング(21)を配設し、プランジャ(13)が注射器本体(1)内に押込まれると、上記スプリングが環状部(8)内で圧縮されるように構成したことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の注射器。」(「特許請求の範囲」(3))
(チ)「本発明は、自動プランジャ復帰式のバイオプシー用の注射器、即ち、後の分析のために、患者の身体から組織や体液のサンプルを抽出する皮下注射器に関する。」(2頁左上欄9?12行)
(ツ)「従来、通常の皮下注射針を装着してバイオプシーに使用される通常の皮下注射器、或は移動コア等の装置を設けられた皮下注射器が知られている。
バイオプシーは、・・・、2段階で行われる。即ち、皮下注射器に適切に装着された針を、分析のためのサンプルを必要とする組織に刺す第1段階と、この組織から微細な粒子或は液滴を吸込む第2段階の2段階である。この操作には、一方の手で針及び注射器を確実に保持し、他方の手で注射器の可動部品、つまりプランジャを引出すことにより、分析用の前記組織または体液が針から吸込まれるための負圧を生じさせることが要求される。」(2頁左上欄13行?右上欄5行)
(テ)「図面において、1は注射器本体を示し、この注射器本体1は、2個の同軸的な円筒素子2,3で構成されている。これら円筒素子2,3は、注射器本体1の前端4で結合されて一体的な肩部となり、この肩部が前方に延ばされ、両素子2,3と同軸的な円錐台状の座部5とされている。6は、この座部5内を摺動させられる皮下注射針の可動コアを示す。7は通常の皮下注射針で、上記座部5に装着される。」(2頁右下欄8?16行)
(ト)「外方の円筒素子2の前記前端4から最も遠い端部は、2個の弾性変形が可能な、つまり可撓性を有する突起11に接続し、これら各突起11には戻り止め12が設けられている。」(3頁左上欄1?5行)
(ナ)「皮下注射針7の可動コア6は、プランジャ13の内筒15の前端に取付けられている。同コア6の基部は、外側面がアンダカット状のパッキン20に被覆されている。これは、注射器本体1の中心空洞9内で上記パッキン20を摺動させ、気密、液密のシールを構成させるためである。」(3頁右上欄1?6行)
(ニ)「第4図は本発明の他の実施例を示し、本実施例では前記実施例の円錐台状リップシール19にかえて、プランジャ13の外筒14の前端にスプリング21を設けている。」(3頁右上欄7?10行)
(ヌ)「次に、本発明による皮下注射器の作用を説明すると、皮下注射針7をバイオプシーのための患者の部位に挿入する前に、まずプランジャ13のボタン18に親指を当て、突起11で構成された戻り止め12に環状部が係合して弾性的に位置決めされるまで前方に押込む。この状態で、注射針7を、分析のために抽出すべき組織のサンプルの深さまで刺し込む。その後、上記突起11を横方向に押圧すると、環状部17が戻り止めから解放されてプランジャ13が戻される。この動作は、注射器本体1の環状室8の圧縮空気により自動的に行われるか、或はその時点まで圧縮されていたスプリング21を介して行なわれる。
このようにプランジャ13が戻る間に、注射器本体1の中心空洞9及び円錐台部分10には適当な負圧が発生し、少量の組織または流体が針7から吸込まれる。」(3頁左下欄1?17行)

上記記載事項からみて、甲第2号証には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「可動コア(6)を具える皮下注射針(7)を使用する自動プランジャ復帰式の注射器において、注射器本体(1)を、注射器前端(4)で一体化された2個の同軸的な円筒素子(2,3)で構成するとともに、前記注射器本体(1)の内部に、2個の同軸的な円筒(14,15)からなる軸線方向に移動可能なプランジャ(13)を収納し、これら円筒(14,15)のうちの外方円筒(14)を前端で開放し、後端で環状部(17)により閉鎖し、更に、上記内筒(15)の前端で、皮下注射針(7)の可動コア(6)のための固定点を画定し、上記可動コア(6)の基部を、外側面がアンダカット状で、前記円筒状空間(9)内を、それと協働して気密、液密のシールを構成しつつ摺動するパッキン(20)内に収納し、プランジャ(13)の外方円筒(14)の前端の前方にスプリング(21)を配設し、プランジャ(13)が注射器本体(1)内に押込まれると、上記スプリングが環状部(8)内で圧縮され、戻り止め(12)により固定されるように構成した注射器。」

(甲第3号証)
(ネ)「The present invention relates to intravenous catheter placement units, more particularly to such units wherein the catheter passes internally through a sharpened needle and the needle normally remains on the unit during use.」(1欄33?36行):当審による仮訳(以下、同様)
「本発明は、静脈カテーテル留置装置に関し、より具体的には、カテーテルが鋭い中空ニードルの内部を通過し、通常の場合にニードルが使用中に装置上に残る装置に関する。」
(ノ)「All the prior art devices involve removable parts and necessitate the use of some kind of additional device to protect the catheter from the sharp edges of the needle point where such protection is even possible. In fact, all such devices which currently are being used leave the needle exposed on the catheter after the catheter has been fully inserted for use. Furthermore, many of these devices are quite complicated and difficult to operate.」(1欄58?65行):
「すべての先行技術器具は、取り外し可能な部分を含み、ニードルの先端の鋭い刃からカテーテルを保護するなんらかの種類の付加器具の使用を必要とする(このような保護が可能な場合において)。事実、現在使用されているすべてのこのような器具は、カテーテルが使用のために完全に挿入された後にカテーテル上にニードルが露出されたままとする。さらに、これらの器具の多くは、非常に複雑であり、扱いにくい。」
(ハ)「I have invented an intravenous catheter placement unit which has no removable parts except for those used in packaging the unit, provides for complete retraction of the needle and automatic protection of the catheter from injury by the sharp edges of the needle point as well as for sterile protection of the inserted catheter, and is designed for extremely simple two- or three-step operation.」(1欄66行?2欄2行):
「私は、装置を包装するために使用されるものを除いて取り外し可能な部分を持たない静脈カテーテル留置装置を発明した。この装置は、ニードルの完全な後退およびニードルの鋭い刃による損傷からのカテーテルの自動保護ならびに挿入されたカテーテルの殺菌保護を提供し、きわめて簡単な2ないし3段階操作で使用するように設計されている。」
(ヒ)「In the unit of my invention the needle is under precise control at all times and the needle point, when retracted, is held firmly in a fixed position with respect to the catheter tubing. This avoids any possibility that the sharp edges of the needle point will cut the catheter due to relative movement between them. The needle point is automatically fixed in this position upon retraction without the need for special adjustment or the use of any additional parts to protect the catheter.」(2欄3?11行):
「私の発明した装置では、ニードルは常に精確な制御下にあり、そしてニードルの先端は、後退したとき、カテーテル管に関して定位置に確実に保持される。これにより、ニードルの先端の鋭い刃がカテーテルとの相対運動によりカテーテルを切る可能性を排除する。ニードルの先端は、後退後に、カテーテルを保護するための特別の調整も付加部分の使用も必要とせずに、この位置に自動的に固定される。」
(フ)「After the catheter connector 44 is locked in position at the rear of the housing, as shown in FIGS. 11 and 12, the operator presses down on the leading end of the catheter 33 through the skin of the patient, as shown in FIG. 12, and the needle 30 is retracted into the housing merely by moving the flag or finger grip 42 to the rear, as shown in FIG. 12.」(6欄25?32行):
「図11及び図12に示されているように、カテーテルコネクタ44がハウジングの後方位置でロックされた後、操作者は、図12に示されているように患者の皮膚上からカテーテル33の先端を押し下げ、そして、単にフラグ又は指グリップ42を図12に示されるように後方に移動させるだけで、針30はハウジング内に引込まれる。」
(甲第4号証)
(ヘ)「The invention is in the field of catheter devices of outside-the-needle type, as employed for supplying liquids intravenously.」(1欄5?7行):
「この発明の分野は、静脈内液体供給のために使用されるニードル外カテーテル装置である。」
(ホ)「As originally constructed, outside-the-needle catheter devices have suffered from messy blood spillage and contamination during the time the venipuncture needle has been withdrawn from the catheter or cannula immediately after placement of the catheter in a vein and before the venoclysis set has been connected to the catheter. This has been highly undesirable for a variety of reasons. Besides being unsanitary and inconvenient, it has tended to frighten the patient.」(1欄16?24行):
「考案された当初において、ニードル外カテーテル装置には、カテーテルを静脈内に留置した直後および静脈注射セットがカテーテルに接続される前における静脈穿刺ニードルがカテーテルまたはカニューレから取り外されている状態において汚い血液漏出と汚染が生ずるという問題があった。これは、種々の理由からきわめて好ましくないことである。不衛生かつ不便である上に、それは患者を驚かせがちであった。」
(マ)「In accordance with the invention, the above-mentioned problems are effectively solved by providing an elongate needle-receiving housing having one end connected in liquid-tight manner to a catheter through which extends a stylet needle having an end enclosed by the housing. The housing is itself liquid-tight, except for an opening in its end opposite the catheter. A tube, usually supply tubing for a venoclysis liquid, extends through and substantially closes such opening and connects with the enclosed end of the needle. The needle is entirely free of the catheter, but remains within the housing, following withdrawal from the vein. Flow of liquid takes place via the interior of the housing.」(1欄44?56行):
「この発明に従って、端部をハウジングに囲まれた探り針を通したカテーテルに液密的に接続される一端を持つ細長いニードル収容ハウジングを設けることにより、上述の問題は、効果的に解決される。このハウジングは、カテーテルの反対側の他端の開口部を除いて、それ自体液密である。チューブ、通常の場合、静脈注射液の供給管が、この開口部を通して伸びて実質的に閉鎖し、ニードルの囲まれた端部と接続する。このニードルはカテーテルに全面的に自由に出入りできるが、静脈からの抜き取り後、ハウジング内に留まる。液体の流れは、このハウジング内部を経由して発生する。」
(ミ)「Means are provided by which the housing opening is closed liquid-tight. In one embodiment of the device, such means takes the form of a seat in the housing and a hub formation on the enclosed end of the needle for liquid-tight engagement with the seat when the needle is retracted into the housing. In other embodiments wherein the catheter is advanced relative to the needle, such means takes the form of a liquid-tight connection between the housing and the tube that enters the housing through the opening.」(1欄57行?2欄2行):
「ハウジング開口部を液密的に封鎖する手段を設ける。この装置の1つの実施態様では、このような手段は、ハウジング中の座部およびニードルがハウジング内に後退させられたときにおける当該座部との液密結合のためのニードルの囲まれた端部におけるハブ構造の形態をとる。カテーテルがニードルに対して相対的に前進される他の実施態様では、このような手段は、ハウジングと、開口部を経てハウジングに入るチューブ間との、液密結合の形態をとる。」
(ム)「The housing and at least the supply tubing for the venoclysis liquid are preferably of transparent or translucent material, usually a suitable synthetic resin plastic, whereby flash-back of blood can be observed to indicate a successful venipuncture. It is a feature of the invention that the needle is wholly withdrawn from the catheter following venipuncture, so danger of inadvertent transection of the catheter by the sharp end of the needle is minimized.」(2欄3?11行):
「ハウジングと少なくとも静脈注射液の供給管は、血液の逆流により正常な静脈穿刺を観察できる透明または半透明の材料製、通常の場合、適切な合成樹脂製とすることが望ましい。ニードルの鋭い先端によるカテーテルの不注意な切断の危険を最小化するために、静脈穿刺後にニードルがカテーテルから全面的に抜き取られることが本発明の1つの特徴である。」
(メ)「The device of the invention is used in much the same way as are conventional outside-the-needle catheter devices. A vein of the patient concerned is punctured in conventional manner by forcing the protruding point 13b of needle 13 and the beveled tip 10b of catheter 10 through overlying skin and flesh of the patient and into the vein, the backwardly protruding end 14b of rigid or semi-rigid connection tubing 14a being held firmly along with housing 11 during this time. Flash-back of blood, observable through transparent or semi-transparent needle hub 13c, portion 14a of connection tubing 14, and housing 11, indicates a successful venipuncture.」(3欄45?56行):
「この発明の装置は、在来のニードル外カテーテル装置とほとんど同じ方法で使用される。在来の方法に従って、ニードル13の突出先端13bとカテーテル10の傾斜先端10bを患者の被覆皮膚と肉を通して静脈に突き刺し、また、この操作中、剛体または半剛体接続管14aの後方突出端14bをハウジング11に沿って着実に保持することにより、関係患者の静脈が穿設される。透明または半透明のニードル・ハブ13c、接続管14の部分14a、ハウジング11を通して観察できる血液の逆流が正常な静脈穿刺を示す。」
(モ)「While still firmly holding end 14b of connection tubing 14 with one hand, housing 11 is pushed forwardly by the other hand to advance catheter 10 relative to needle shank 13a farther into the vein. Then housing 11 is held stationary while portion 14a is pulled backwardly until needle hub 13c is securely seated as a stopper against walls 11a behind detent ring 11b, as shown in FIG. 3. In preferred embodiments, needle shank 13a and pointed end 13b will be entirely withdrawn from catheter 10 and protectively encased by housing 11.」(3欄57?66行):
「片手で接続管14の端部14bを着実に保持し続けつつ、他方の手でハウジング11を前方に進めてカテーテル10をニードル軸13に対して相対的に進めることによりさらに静脈の中に前進させる。次に、ハウジング11を静止させたままで、図3に示すように、デテント・リング11bの後方の壁11aに対するストッパーとしてニードル・ハブ13cが確実に着座するまで部分14aを後方に引く。好ましい実施態様では、ニードル軸13aと鋭い先端13bは、カテーテル10から全面的に引き出され、ハウジング11内に保護するように格納される。」
(ヤ)「With the needle retracted in this manner, housing 11 is pushed forwardly to advance catheter 10 as far as desired into the vein. The device is then anchored in place in customary manner by the use of adhesive tape.」(3欄67行?4欄2行):
「この方法によりニードルが後退させられた状態で、ハウジング11を前方に押してカテーテル10を必要な深さまで静脈内に進める。次に、従来の方法に従い、接着テープを使用してこの装置を所定の位置に固定する。」

2-2.当審の判断
(1)対比
本件特許発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「針5」は、上記摘記事項(エ)から皮下注射針であるから、本件特許発明の「ニードル」に相当する。引用発明の「ハウジング4」は、針5を支持するものであるから、本件特許発明の「ニードルハブ」に相当する。
引用発明の針5の「鋭い自由端と反対の端部」は、ハウジング4の遠い端で当該ハウジング4に支持される部分であるから、本件特許発明の「固着端」に相当する。
引用発明の「中空のさや6」については、甲第1号証の図1A,1Bの記載等を勘案すると、当該中空のさや6を滑動させるには親指ガード7に親指を当てるだけと認められ、主たる持ち手としての「ハンドル」は意味しないとしても、そのような滑動操作の際には、当該中空のさや6を補助的に持って使用する態様もあり得ることを考慮すると、その意味では本件特許発明の「中空のハンドル」又は「中空なハンドル」に相当するといえる。
引用発明の「固着手段」は、ハウジング4(ニードルハブ)を一時的に中空のさや6(中空のハンドル)の遠い端に隣接して保持するものである点において、本件特許発明の「ラッチ」とは、「一時的保持手段」として共通しているといえる。
また、引用発明の「皮下注射針等の安全装置」は本件特許発明の「安全装置」に相当する。

してみれば、両者は、本件特許発明の用語を用いて表現すると、
「近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと、
該ハンドル内に配置されたニードルハブと、
鋭い自由端と、前記ニードルハブに連結された固着端を有するニードルと、
ニードルハブを一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持する一時的保持手段と、
から成る安全装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明は、「ニードルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段」を有しているのに対し、引用発明は、上記「付勢手段」に当たるものを有していない点。

<相違点2>
本件特許発明は、一時的保持手段として、「ニードルハブから独立して移動可能であり、ニードルハブを付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッチであって、ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され、ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチ」を有しているのに対し、引用発明は、一時的保持手段である「固着手段」は、接着等によるものであり、上記「ラッチ」のような構成ではない点。

(2)判断
上記相違点について、判断する。
<相違点1について>
引用発明2は、「注射器本体(1)を、注射器前端(4)で一体化された2個の同軸的な円筒素子(2,3)で構成するとともに、前記注射器本体(1)の内部に、2個の同軸的な円筒(14,15)からなる軸線方向に移動可能なプランジャ(13)を収納し、…プランジャ(13)の外方円筒(14)の前端の前方にスプリング(21)を配設し、プランジャ(13)が注射器本体(1)内に押込まれると、上記スプリングが環状部(8)内で圧縮され」る「自動プランジャ復帰式注射器」であって、バイオプシー用の注射器である。その機構は、スプリングのバネ力によって自動的にプランジャを戻すものであるが、当該機構により移動されるのは、皮下注射針7ではなく、組織吸込みのための可動コア6であって、皮下注射針7はそのまま皮下に残っているものと把握できる。
してみると、移動させる対象が皮下注射針7ではなく組織吸込みのための可動コア6である引用発明2の機構を、中空のさや6(中空のハンドル)とハウジング4(ニードルハブ)を相対的に移動させるものであって、その移動対象が異なる引用発明において採用し、本件特許発明に想到することは容易とはいえない。
また、引用発明に引用発明2を適用する場合、引用発明2は、バイオプシー用の注射器であるから、引用発明2の構造のバイオプシー用注射器の皮下注射針7を皮膚から抜いた後の保護のために、引用発明のさや6を付加的に採用したものに過ぎないものとなり、本件特許発明とは異なる発明に到達して、本件特許発明には想到することは容易とはいえない。

さらに、甲第3号証に記載のものは、摘記事項(ネ)?(フ)からわかるように、カテーテルを中空針の中に通して、カテーテルを静脈に挿入するタイプのカテーテルであって、カテーテルの使用の際にも針は装置上に残されたままである。そして、カテーテルを傷つけないために、後退させた針を固定する手段が開示されているのであり、請求人の主張するような「注射針がその役割を果たした後に安全のため、注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するもの」ではない。
また、甲第4号証に記載のものは、摘記事項(ヘ)?(ヤ)からわかるように、静脈穿刺針をカテーテルから引き抜いた時に、カテーテル装置が汚染された血液の流出を防ぐために、カテーテルと静脈注入セットの連結の際の血液漏れを防ぐためのものであって、請求人の主張するような「注射針がその役割を果たした後に安全のため、注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するもの」ではない。
上記のことから、「カニューレまたはカテーテルを挿入するための注射針がその役割を果たした後には安全のため、注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術」が周知であるという請求人の主張には理由がない。

よって、引用発明に引用発明2(甲第2号証記載の発明)及び甲第3、4号証に記載されたような周知技術を適用して、本件特許発明の相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することはできないものである。

<相違点2について>
「カニューレまたはカテーテルを挿入するための注射針がその役割を果たした後には安全のため、注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術」が周知であるという請求人の主張には理由がないことは、<相違点1について>に記載したとおりである。
仮に、「カニューレまたはカテーテルを挿入するための注射針がその役割を果たした後には安全のため、注射針を中空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術」が周知であると仮定したとしても、摘記事項(ト)(ヌ)からわかるように、引用発明2のバイオプシー用注射器において、付勢手段(スプリング21)とラッチ(戻り止め12)を有する機構が開示されているものの、引用発明2は、あくまでバイオプシー用の注射器であり、当該機構により移動されるのは、引用発明2に開示の皮下注射器針7ではなく、組織吸込みのための可動コア6である。したがって、移動させる対象が異なり、また、目的も異なる引用発明2の機構を引用発明において採用し、本件特許発明に想到することは容易とはいえない。

よって、引用発明2(甲第2号証記載の発明)及び甲第3、4号証に記載されたような周知技術を引用発明に適用して、本件特許発明の相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することはできないものである。

以上の点からみて、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、並びに甲第3号証及び甲第4号証に記載されたような周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、理由2によって無効とすることはできない。

3.理由3についての判断
3-1.甲第1,3ないし6号証の記載内容
請求人が本件特許発明に対する無効理由3の根拠とする、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証には、図面と共にそれぞれ次の事項が記載されている。
(甲第1,3及び4号証)
前記2-1.の項参照。

(甲第5号証)
(ユ)「本発明はナイフ、くし等のとび出し機構に係り、その目的はナイフの刀身部やくし等をそのケースよりワンタツチで出し入れし得るようにした機構を提供するにある。」(1頁右下欄3?6行)
(ヨ)「以下本発明をとび出しナイフとして具体化した手段の一例を図面について説明すれば図面中1はケース全体を示し、2は同ケース1において先端頭部3を平面かまぼこ状に膨出してなる刃収納部材、4は同刃収納部材2の頭部3先端面中央に開口した刃出入口、5は同じく刃収納部材2の刃出入口4より基端にかけて設けた刃ガイド溝を兼用する刃収納凹部、6は同刃収納凹部5内の一側に突設した支持軸であつて、後記操作レバー10の中央を傾動可能に軸支する。」(1頁右下欄8行?2頁左上欄1行)
(ラ)「10は基端に係止爪部11を有する操作レバーであつて前記刃収納部材2の刃収納凹部5内の支持軸6により中央の凹部10bを軸支され、同支持軸6を中心としてP矢印若しくは反P矢印方向へ若干傾動可能である。・・・12は前記刃収納部材2の刃収納凹部5内を案内され同刃収納部材2頭部3の刃出入口4より出入可能とした刀身部、」(2頁左上欄6?15行)
(リ)「次に本発明の作用及び効果について説明する。・・・そこで、この状態から操作ボタン18を上部カバー25のガイド機構26に沿つて、反Q矢印方向(後方)へ移動させると、・・・操作レバー10先端の刀身部12基端面に対する係合が解除されて、刀身部12は一気にコイルバネ16の引張力により第一係止爪20に引張られて後動しケース1内に収納される。」(2頁右下欄10行?3頁右上欄7行)

(甲第6号証)
(ル)「握りやすいような外形を有し細長い筺体状に形成された外側ケース2とこの外側ケース2内に嵌合固定される内側ケース3と、この内側ケース3内に摺動自在に嵌合される刃先8とからなり、前記内側ケース3は刃先8が摺動自在に嵌合される溝10を有する枠体6と、この枠体6と合体されて内側ケース3を構成する枠体7とから成り、この枠体7はその外側面側に長方形状の凹部16が形成され、・・・凹部16内には・・・断面が円弧状の操作片5に嵌着される突片31を有する作動板24が収容され、この作動板24の外側にはその両端部を前記支持部25,25中に嵌合させた状態でコイルばね32が配置され、このコイルばね32の両端には前記作動板24の支持部25の外方端に接触させた状態で支持板34,34がそれぞれ固定され、・・・ていることを特徴とするとび出しナイフ」(実用新案登録請求の範囲)
(レ)「本考案の目的は刃先のとび出し及び収納をも片手のみによつて自由に行うことができるように構成したとび出しナイフを提供するにある。」(4頁5?7行)
(ロ)「この状態でナイフを使用し、刃先8を収納したい場合には、操作片5を後方に引けばよい。すると、作動板24が後退し、・・・また、作動板24の後退に伴なつて、・・・ コイルばね32の先端側の係止板34は突起35によつて係止された状態にある為、コイルばね32は伸び弾性エネルギーが蓄積される。
作動板24の後退が続くと・・・この結果、板ばね22はたわみ、その折曲部23は開口部19中に引き込まれる。従つて、刃先8の後端を係止しなくなり、コイルばね32の弾性エネルギーが開放され、係止板34が内側に引かれ、突起35を介して刃先8は勢いよくケース内に引き込まれる。」(16頁9行?17頁15行)

3-2.当審の判断
(1)対比
本件特許発明と引用発明とを対比する。
前記2-2.(1)の項参照。

(2)判断
上記相違点について、判断する。
甲第3号証及び第4号証に記載されたような周知技術に基づく判断については、前記2-2.(2)を参照。

甲第5号証、甲第6号証に記載されたものは、ケースに入ったナイフの刀身部を出し入れする機構に関するものであり、操作ボタンを手動で後退させることにより、板ばねが徐々に後退し、当該板ばねの最も盛り上がった地点が、刀身部を支える操作レバーの支点を後方へと過ぎると、操作レバーが回動して刀身部から外れるという機構であり、ナイフの技術分野においてこのような機構が周知であったことが認められる。しかし、この周知の機構は、ケースに入ったナイフの刀身部を出し入れするために用いられるものであって、引用発明とはその属する技術分野が異なり、また引用発明における、臨床オペレータ等が、処理後、誤って、針で自分自身あるいは他の人を傷つけ、病気が媒介されたり、あるいは化学的または生物学的中毒を引き起こすという偶発事故を防ぐとの目的の点からみても共通するとはいえず、甲第5号証、甲第6号証に記載されたような周知技術を、引用発明と組み合わせる動機づけがない。
仮に、引用発明に「ナイフの刀身部をワンタッチでケース内に収める」という課題を当てはめて、具体的にそのような課題を解決しようと考えたとしても、ナイフの刀身部を出し入れするための周知技術の比較的複雑な機構を、ハウジング4に対して配置された「中空のさや6」を滑動させる引用発明の装置において採用し、本件特許発明のようなスプリングとラッチからなる比較的簡易な構成とすることは、容易に想到できることではない。

以上の点からみて、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第5号証及び甲第6号証に記載されたような周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、理由3によって無効とすることはできない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-05 
審決日 2009-10-21 
出願番号 特願昭63-107382
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61M)
P 1 123・ 531- Y (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森田 ひとみ  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 中島 成
増沢 誠一
登録日 1997-05-09 
登録番号 特許第2647132号(P2647132)
発明の名称 安全後退用針を備えたカニューレ挿入装置  
代理人 本多 広和  
代理人 豊岡 静男  
代理人 森 修一郎  
代理人 田中 成志  
代理人 杉山 共永  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 高松 俊雄  
代理人 片山 英二  
代理人 森 修一郎  
代理人 平出 貴和  
代理人 日野 真美  
代理人 田中 成志  
代理人 平出 貴和  
代理人 黒川 恵  
代理人 山田 徹  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 中村 閑  
代理人 高松 俊雄  
代理人 山田 徹  
代理人 豊岡 静男  
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