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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1229197
審判番号 不服2009-17367  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-16 
確定日 2010-12-24 
事件の表示 特願2003-376502「GaN系半導体発光素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日出願公開、特開2005-142315〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年11月6日の特許出願であって、平成21年5月15日付けで手続補正がなされ、同年6月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月16日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともにこれと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成21年9月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年9月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容及び目的
(1)補正の内容
平成21年9月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1につき、補正前(平成21年5月15日付け手続補正後のもの。)の
「 シリコン基板の主表面直上にて面内に分散形成された層厚0.1?1μmの酸化シリコン層と、該酸化シリコン層上に形成されたGaN系半導体化合物からなる発光層部とを有し、
前記酸化シリコン層には、前記発光層部からの紫外領域もしくは青色領域の発光を励起光としたフォトルミネッセンス発光を誘起させる発光源物質が分散形成されてなることを特徴とするGaN系半導体発光素子。」
を、
「 シリコン基板の主表面直上にて面内に分散形成された層厚0.1?1μm(ただし0.1μmは除く)の酸化シリコン層と、該酸化シリコン層上に形成されたGaN系半導体化合物からなる発光層部とを有し、
前記酸化シリコン層には、前記発光層部からの紫外領域もしくは青色領域の発光を励起光としたフォトルミネッセンス発光を誘起させる発光源物質が分散形成されてなることを特徴とするGaN系半導体発光素子。」
に補正する内容を含むものである。

(2)補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1に、(酸化シリコン層の層厚について)「ただし0.1μmは除く」との限定を付加するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用刊行物記載の発明
ア 引用刊行物1及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-261169号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。)。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化物系III-V族化合物半導体を窒化物系III-V族化合物半導体と異なる材料からなる基板上に成長させるようにした窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法において、
上記基板上に成長マスクを直接形成した状態で上記基板上に窒化物系III-V族化合物半導体を成長させるようにしたことを特徴とする窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法。
・・・
【請求項3】 上記成長マスクはストライプ形状を有することを特徴とする請求項1記載の窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法。
・・・
【請求項5】 上記成長マスクはSiO_(2) またはSiNからなることを特徴とする請求項1記載の窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法。
【請求項6】 上記基板はサファイア基板、SiC基板、Si基板またはスピネル基板であることを特徴とする請求項1記載の窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法。
・・・
【請求項11】 上記成長マスクの開口部における上記基板上に上記窒化物系III-V族化合物半導体を選択成長させて上記開口部をほぼ埋めた後、成長温度を上昇させて上記窒化物系III-V族化合物半導体を連続膜が形成されるまで成長させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法。
【請求項12】 窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体装置において、
窒化物系III-V族化合物半導体と異なる材料からなる基板上に成長マスクを直接形成した状態で上記基板上に窒化物系III-V族化合物半導体が成長されていることを特徴とする半導体装置。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法および半導体装置に関し、特に、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザや発光ダイオードあるいは電子走行素子に適用して好適なものである。
【0002】
【従来の技術】GaN系半導体は直接遷移半導体であり、その禁制帯幅は1.9eVから6.2eVに亘っており、可視領域から紫外線領域におよぶ発光が可能な発光素子の実現が可能であることから、近年注目を集めており、その開発が活発に進められている。・・・
【0003】ところで、一般に、高性能の半導体装置を得るためには、この半導体装置を構成する半導体層の結晶の品質が非常に重要である。例えば、従来のGaAs系半導体を用いた光素子では、半導体層の積層欠陥密度は10^(3) cm^(-2)以下である。これに対し、GaN系半導体は、通常サファイアやSiCなどの格子定数の異なる基板上に成長されるが、その積層欠陥密度は10^(8) ?10^(10)cm^(-2)程度と極めて高い。GaN系半導体の性質上、このような高密度の結晶欠陥が存在するにもかかわらず、すでに発光ダイオードが実用化され、半導体レーザも室温連続発振が達成されており、電子走行素子も試作例が近年報告されている。
【0004】しかしながら、結晶欠陥の少ないGaN系半導体では発光効率が高くなる傾向があることが実験的に確認されており、また、理論計算により、電子移動度はキャリアが少ないときには結晶欠陥によって規定されることが指摘されている。このため、近年、GaN系半導体の結晶欠陥の低減化方法が模索されてきている。特に、GaN系半導体レーザの長寿命化には、GaN系半導体の結晶欠陥の低減が必須とされている。
【0005】GaN系半導体の結晶欠陥低減のための従来の方策について、GaNを例にとって説明する。・・・GaNの結晶欠陥低減のための第2の方策は、選択成長技術を用いることである(J.Crystal Growth,144(1994)133)。この方法では、c面サファイア基板またはSiC基板上にあらかじめ単結晶のGaN層を形成しておき、その上にSiO_(2) 膜やSiN膜からなる成長マスクを形成した状態で2回目のGaNの成長を行う。この場合、この成長マスクで覆われていない開口部のGaN層上に成長したGaN結晶が横方向に(成長マスク上に)延びてゆくとき、下地から引き継がれる貫通欠陥は成長マスクによって阻止されるので、成長マスク上に成長したGaN層はより低結晶欠陥密度の高品質な結晶となる。この技術は、Si基板上に単結晶のGaAsを成長させる技術(GaAsオンSi基板技術)で用いられてきたものであるが、近年GaNの結晶成長においても試みられ、結晶欠陥の低減に成功を収めつつある(Jpn.J.Appl.Phys.,36(1997)L899)。
【0006】上述のGaNの選択成長技術についてより詳細に説明する。すなわち、この技術では、図16に示すように、まず、例えば、c面サファイア基板101上に例えば500?600℃程度の低温で厚さが例えば20?30nmのアモルファス状のGaNバッファ層を成長させた後、基板温度を1000℃程度まで上昇させてこのGaNバッファ層を固相エピタキシャル成長により結晶化させ、結晶粒の方位がそろった多結晶のGaN層を形成する。そして、この多結晶GaN層上にGaNをある程度厚く(典型的には3μm程度)成長させると、積層欠陥密度が10^(10)cm^(-2)程度の単結晶のGaN層102が得られる。次に、このGaN層102上にSiO_(2) 膜などからなるストライプ形状の成長マスク103を形成し、1000℃程度の温度で有機金属化学気相成長(MOCVD)法やハイドライド気相エピタキシャル成長(HVPE)法によりGaNを成長させる。すると、成長マスクで覆われていない開口部のGaN層102上に成長したGaNは横方向成長によって成長マスク103上に広がってゆき、GaNをある程度の厚さ、例えば、マスク幅の2?5倍の厚さ(例えば、8?20μm)成長させると、成長マスク103の各開口部から横方向成長したGaN結晶同士が合体して連続的な単結晶のGaN層104が成長する。このとき、成長マスク103上のGaN層104のみならず、成長マスク103の開口部上のGaN層104の貫通転位も横方向に曲がって、GaN層104全体としての結晶欠陥が低減する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の従来の選択成長技術は、GaNの結晶欠陥低減には有効であるものの、次のような欠点を有している。すなわち、第1に、低結晶欠陥密度の単結晶のGaN層104を成長させるためには、あらかじめc面サファイア基板101上に単結晶のGaN層102を形成しておく必要がある。これは、結晶成長を2回行わなければならないことを意味し、結晶成長のコストがほぼ2倍になる。第2に、GaN層104の選択成長は、成長マスク103の各開口部から成長したGaN層104の側面同士が合体して欠陥が減少するまで続ける必要があるので、現在のところMOCVD法などで少なくとも8μm程度と厚くGaN層102を成長させなければならない。これは、成長時間と原料とを多く消費することを意味し、結晶成長のコストが高くなる。
【0008】したがって、この発明の目的は、低結晶欠陥密度の高品質の単結晶の窒化物系III-V族化合物半導体を低コストで成長させることができる窒化物系III-V族化合物半導体の成長方法およびこの成長方法を用いて製造される半導体装置を提供することにある。」

(ウ)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、従来技術が有する上述の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。以下にその概要について説明する。
・・・
【0013】以上のように、GaNと異なる任意の基板上に成長マスクを直接形成し、この際、成長マスクを、その表面の任意の点からその端までの最短距離がその表面におけるGaおよびNの拡散長よりも小さくなるように形成し、その状態でGaNの成長を行うことにより、成長マスクの開口部における基板表面に方位のそろった結晶核を高密度で生成し、これらの結晶核の集団を横方向に制御して成長させる(グラフォエピタキシー)ことにより、低温成長によるGaNバッファ層のようなアモルファス層を基板上にあらかじめ成長させることなく、1回の成長で表面が平坦で低結晶欠陥密度の単結晶のGaN層を成長させることができる。
・・・
【0021】上述のように構成されたこの発明においては、基板上に成長マスクを直接形成した状態で基板上に窒化物系III-V族化合物半導体を成長させるようにしているため、成長マスクの開口部における基板上に窒化物系III-V族化合物半導体を選択成長させることができるように成長マスクを形成し、また、成長温度を選ぶことにより、成長時には、まず、成長マスクの開口部における基板上にエピタキシャル成長により一定の結晶方位を持って高密度で生成された結晶核の成長により成長マスクの開口部が埋められ、次いで横方向成長により成長マスク上に成長が進み、各開口部から横方向成長した結晶同士が合体し、連続膜が形成される。このようにして成長された窒化物系III-V族化合物半導体は、その横方向成長の途中で下地から引き継がれる貫通転位などの結晶欠陥が減少することにより、低結晶欠陥密度の高品質の単結晶となる。また、この場合、基板上に成長マスクを直接形成し、その上に窒化物系III-V族化合物半導体を成長させるだけでよいので、成長は1回で済む。」

(エ)「【0022】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。・・・
【0023】図1?図8はこの発明の第1の実施形態によるGaN層の成長方法を示す。
【0024】この第1の実施形態においては、まず、図1および図2に示すように、c面サファイア基板1上に例えばCVD法によりSiO_(2) 膜2を形成した後、このSiO_(2) 膜2をリソグラフィー法およびエッチング法によりc面サファイア基板1の〈11-20〉方向に延びるストライプ形状にパターニングし、成長マスクを形成する。ここで、この成長マスクとしてのSiO_(2) 膜2の幅W_(1) は、使用する成長温度に対し、このSiO_(2) 膜2の表面の任意の点からその端までの最短距離がその表面におけるGaおよびNの拡散長よりも小さくなるように選ばれる。・・・また、このSiO_(2) 膜2の厚さは例えば0.1μmとする。図9に、成長マスクとしてのSiO_(2) 膜2を形成したc面サファイア基板1の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【0025】次に、成長マスクとしてのSiO_(2) 膜2が形成されたc面サファイア基板1をMOCVD装置の反応管内に導入する。そして、この反応管内でまず、水素(H_(2) )および窒素(N_(2) )をそれぞれ流量8l/minおよび7l/minで供給しながら1050℃、10分間の熱処理を行ってc面サファイア基板1の表面のサーマルクリーニングを行った後、成長温度まで基板温度を下げ、温度が安定した状態で反応管内にアンモニア(NH_(3) )およびトリメチルガリウム(TMG)をそれぞれ流量10l/minおよび100μmol/minで同時に供給し、GaNの成長を行う。・・・
【0026】成長初期においては、図3に示すように、SiO_(2) 膜2の開口部におけるc面サファイア基板1の表面にGaNの結晶核3がc面サファイア基板1の結晶方位に対して一定の結晶方位を持って高密度にエピタキシャル成長する。このとき、SiO_(2) 膜2の表面におけるGaおよびNの拡散長がこのSiO_(2) 膜2の表面の任意の点からその端までの最短距離よりも長いため、このSiO_(2) 膜2の表面に結晶核3はほとんど生成されない。すなわち、結晶核3は、SiO_(2) 膜2の開口部におけるc面サファイア基板1の表面に選択的に生成する。
【0027】時間の経過とともに各結晶核3が成長し、一定時間経過後には互いに合体し、図4に示すように、SiO_(2) 膜2の開口部におけるc面サファイア基板1上にほぼ単結晶のGaN層4が成長する。このときのGaN層4の表面は通常、凹凸が存在する面になっている。
【0028】さらに時間が経過すると、図5に示すように、GaN層4の表面がSiO_(2) 膜2の表面とほぼ同一の高さになる。
【0029】この時点で成長温度を例えば1000℃程度に上昇させ、また、TMGの流量を例えば30μmol/minとして、GaNの成長を続ける。これによって、図6に示すように、GaN層4は、厚さを増しながら、SiO_(2) 膜2の幅方向への横方向成長によりSiO_(2) 膜2上にも成長してゆく。通常、この時点でも、GaN層4の表面には凹凸が存在している。GaN層4が2μm程度の厚さまで成長すると、図7に示すように、GaN層4の表面の凹凸はほとんどなくなる。このようにして成長したGaN層4の側面の面方位は{1-101}となる。
【0030】GaN層4の成長がさらに進むと、SiO_(2) 膜2の各開口部から横方向成長したGaN層4同士がそれらの側面で合体し、GaN層4の厚さが6μm程度になった時点で、図8に示すように、表面が平坦な単結晶のGaN層4が連続膜として得られる。
【0031】図10に、最初にGaNバッファ層を成長させる従来のGaN層の成長方法における成長速度を用いる場合にGaN層を厚さ0.1μm成長させるのに必要な時間(約30秒)だけ成長を行ったGaN層4の表面のSEM写真を示す。図10より、SiO_(2) 膜2の開口部の端からこのSiO_(2) 膜2上へのGaN層4の横方向成長が見られる。この場合、・・・GaN層4はSiO_(2) 膜2の開口部の両側のSiO_(2) 膜2上にそれぞれ0.3μm横方向成長している。また、X線回折の結果、このGaN層4はアモルファスではなく、c軸配向した結晶であることが確認された。
・・・
【0034】以上のように、この第1の実施形態によれば、c面サファイア基板1上に成長マスクとしてのストライプ形状のSiO_(2) 膜2を直接形成し、このときこのSiO_(2) 膜2の幅を成長温度におけるGaおよびNの拡散長よりも狭くし、このSiO_(2) 膜2が形成されたc面サファイア基板1上にGaNの成長を行っていることにより、1回の成長により、表面が平坦で低結晶欠陥密度の高品質の単結晶のGaN層4を低コストで成長させることができる。」

(オ)「【0038】次に、この発明の第3の実施形態によるGaN系半導体レーザの製造方法について説明する。図13?図15にこの製造方法を示す。このGaN系半導体レーザは、SCH(Separate Confinement Heterostructure)構造を有するものである。
【0039】この第3の実施形態においては、図13に示すように、まず、第1または第2の実施形態と同様な方法により、c面サファイア基板1上に成長マスクとしてのストライプ形状のSiO_(2) 膜2を直接形成し、その上にMOCVD法により表面が平坦で低結晶欠陥密度の単結晶のGaN層4を連続膜として成長させた後、引き続いてMOCVD法によりこのGaN層4上にn型GaNコンタクト層5、n型AlGaNクラッド層6、n型GaN光導波層7、例えばGa_(1-x) In_(x) N/Ga_(1-y) In_(y )N多重量子井戸構造の活性層8、p型GaN光導波層9、p型AlGaNクラッド層10およびp型GaNコンタクト層11を順次成長させる。このとき、これらの層の下地となるGaN層4が低結晶欠陥密度の高品質の単結晶であることから、これらの層もまた低結晶欠陥密度の高品質の単結晶となる。・・・また、n型GaNコンタクト層5、n型AlGaNクラッド層6およびn型GaN光導波層7にはドナーとして例えばSiをドープし、p型GaN光導波層9、p型AlGaNクラッド層10およびp型GaNコンタクト層11にはアクセプタとして例えばMgをドープする。この後、これらの層にドープされたドナーおよびアクセプタの電気的活性化、特にp型GaN光導波層9、p型AlGaNクラッド層10およびp型GaNコンタクト層11にドープされたアクセプタの電気的活性化のための熱処理を行う。・・・
【0040】次に、p型GaNコンタクト層11上に、所定幅のストライプ形状のレジストパターン(図示せず)を形成した後、このレジストパターンをマスクとして、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法によりp型AlGaNクラッド層10の厚さ方向の途中の深さまでエッチングし、リッジ部を形成する。次に、このレジストパターンを除去した後、p型GaNコンタクト層11およびp型AlGaNクラッド層10上に所定幅のストライプ形状のレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとして例えばRIE法によりn型GaNコンタクト層5の厚さ方向の途中の深さまでエッチングすることにより、p型GaNコンタクト層11、p型AlGaNクラッド層10、p型GaN光導波層9、活性層8、n型GaN光導波層7、n型AlGaNクラッド層6およびn型GaNコンタクト層5の上層部をストライプ状にパターニングする。このパターニング終了後の状態を図14に示す。
【0041】次に、図15に示すように、エッチングマスクに用いたレジストパターンを除去した後、p型GaNコンタクト層11上に例えばNi/Au膜やNi/Pt/Au膜などからなるp側電極12を形成するとともに、エッチングされた部分のn型GaNコンタクト層5上に例えばTi/Al膜からなるn側電極13を形成する。
【0042】この後、上述のようにしてレーザ構造が形成されたc面サファイア基板1を劈開などによりバー状に加工して両共振器端面を形成し、さらにこれらの共振器端面に端面コーティングを施した後、このバーを劈開などによりチップ化する。以上により、目的とするSCH構造のGaN系半導体レーザが製造される。
【0043】この第3の実施形態によれば、レーザ構造を形成する半導体層の下地となるGaN層4を1回の成長により低コストで成長させることができることにより、従来に比べてGaN系半導体レーザを低コストで製造することができる。」

(カ)「【0044】以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0045】例えば、上述の第1、第2および第3の実施形態において挙げた数値、構造、基板、原料、プロセスなどはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、構造、基板、原料、プロセスなどを用いてもよい。
・・・
【0047】また、上述の第1、第2および第3の実施形態においては、基板としてc面サファイア基板を用いているが、必要に応じて、SiC基板、Si基板、スピネル基板などを用いてもよい。同様に、成長法としては、MOCVD法のほかに、HVPE法などを用いてもよい。
【0048】さらに、上述の第3の実施形態においては、この発明をGaN系半導体レーザの製造に適用した場合について説明したが、この発明は、GaN系発光ダイオードはもちろん、GaN系FETなどのGaN系電子走行素子の製造に適用してもよい。」

(キ)「【0049】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の第1の発明によれば、基板上に成長マスクを直接形成した状態で基板上に窒化物系III-V族化合物半導体を成長させるようにしていることにより、低結晶欠陥密度で高品質の単結晶の窒化物系III-V族化合物半導体を低コストで成長させることができる。
【0050】また、この発明の第2の発明によれば、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体装置を低コストで製造することができる。」

(ク)上記摘記事項の記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 窒化物系III-V族化合物半導体と異なる材料からなる基板上に成長マスクを直接形成した状態で上記基板上に窒化物系III-V族化合物半導体が成長されており、
基板上に成長マスクを直接形成した状態で基板上に窒化物系III-V族化合物半導体を成長させるようにしているため、成長マスクの開口部における基板上に窒化物系III-V族化合物半導体を選択成長させることができるように成長マスクを形成し、成長時には、まず、成長マスクの開口部における基板上にエピタキシャル成長により一定の結晶方位を持って高密度で生成された結晶核の成長により成長マスクの開口部が埋められ、次いで横方向成長により成長マスク上に成長が進み、各開口部から横方向成長した結晶同士が合体し、連続膜が形成され、
上記基板はSi基板であり、
上記成長マスクはストライプ形状にパターニングされ、
上記成長マスクはSiO_(2)からなり、このSiO_(2) 膜の厚さは例えば0.1μmとした、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体装置であって、
前記窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体装置はGaN系発光ダイオードである半導体装置。」

イ 引用刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-177145号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。)。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】絶縁基板と、
前記絶縁基板の上に積層形成されたGaN系積層膜であって、その一つの層が紫外光を可視光に変換する蛍光体を含む選択成長マスク材層を用いて成長されたGaN系膜であるGaN系積層膜と、
このGaN系積層膜の上に形成された、少なくとも紫外光成分を発光する活性層と、
を積層構造として有する半導体発光素子。
・・・
【請求項4】前記蛍光体を含む選択成長マスク材層は、ストライプ状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項5】前記蛍光体を含む選択成長マスク材層は、格子状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
・・・
【請求項11】前記蛍光体を含むマスク材は、無機バインダと共に供給され、加熱固着させて得ることを特徴とする請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】無機バインダは酸化シリコンであることを特徴とする請求項11に記載の半導体発光素子の製造方法。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体発光素子およびその製造方法に関するもので、特に発光効率の高い半導体発光装置に好適なものである。
【0002】
【従来の技術】光を利用した記憶装置は記憶容量が大きく、非接触による長寿命および高信頼性という特徴があるため、広く利用されている。ここで用いる光は短波長のものほど記録密度が上げられることから、青色から緑色の発光素子が使用されようとしている。また、青色LEDとYAG蛍光体とを組み合わせることによって白色光を得る白色LED等新しい発光素子が実現している。
【0003】青色から緑色にかけての発光素子としては、現在、GaN系材料で高輝度の発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)が得られている。
【0004】このGaN系発光素子の結晶成長技術に、最近ELO(Epitaxially Laterally Overgrown)が注目されている。
【0005】図11はELOにおける成長の様子の概要を示す断面図である。まず、サファイア基板1の上に選択成長マスク2を形成し(図11(a))、ELOでGaN系膜の成長を行うと、結晶欠陥はGaN系膜はELOにおける横方向と縦方向との成長速度の差により、選択成長マスクを埋め込むように成長する(図11(b)および図9(c))。そしてこの際、結晶欠陥は速い横方向成長に沿って発生するため、選択成長マスク上のELOによるGaN膜には転移が非常に少なくなる。この上にエピタキシャル層を積層して素子構造を得た場合、下地の欠陥密度が非常に低いため、発光特性に優れた半導体発光素子を得ることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このようなGaN系材料を用いる高輝度の発光ダイオード(LED)のうち発光中心(D/A)型の青色LED構造では、活性層であるInGaNにドナーとしてのSiおよびアクセプタとしてのZn、Mg等をドープしており、バンド端ではなく発光中心で所望の発光波長を得ようとするものであるため、可視光以外にも多くの紫外(Ultra Violet:UV)光が発生している。すなわち、この活性層の組成ではIn13%で中心波長400nmのバンド端の発光波長は365nm程度であるが、発光中心だけでなくこのバンド端のからの紫外光も存在し、注入電流を増加させるほどバンド端発光の割合は増加する。しかしながら、この紫外光は有効に利用されておらず、光取り出し効率は低いままにとどまっている。
【0007】また、In組成を減少させて活性層から紫外光のみを発生するようにしたUV発光LEDでは発生した紫外光は有効に取り出されておらず、外部量子効率は低いままにとどまっている。また、上述したELO技術は低転移化のみに利用されている。
【0008】本発明はこれらの問題を解決するためになされたもので、光取り出し効率の高い半導体発光装置を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、絶縁基板と、前記絶縁基板の上に積層形成されたGaN系積層膜であって、その一つの層が紫外光を可視光に変換する蛍光体を含む選択成長マスク材層を用いて成長されたGaN系膜であるGaN系積層膜と、このGaN系積層膜の上に形成された、少なくとも紫外光成分を発光する活性層と、を積層構造として有する半導体発光素子が提供される。
【0010】この半導体発光素子によれば、ELO用の選択成長マスク層の中に、予め蛍光体を混入させてあるため、従来有効に利用されていなかった紫外光を活性層付近で可視光に変換させることが可能となり、蛍光体との結合効率を著しく向上させることができる。」

(エ)「【0018】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】図1は本発明にかかる半導体発光素子10の構造を示す断面図である。サファイア基板11の上にGaNバッファ層12、n-GaN層13が積層され、その上に蛍光体を均一に混入したSiO2でなるELOのためのマスク層15、その上にこのマスクを用いてELOにより形成されたn-GaN層16、さらにInGaN活性層17、p-AlGaNキャップ層18、p-GaNクラッド層19、p^(+)-GaNコンタクト層20が積層され、p^(+)-GaNコンタクト層20の光取り出し面には透明電極22が形成され、この透明電極に接するようにp電極24が、露出されたn-GaN層16にはn電極25がそれぞれ形成され、表面全体はパッシベーション膜21および23で覆われている。このパッシベーション膜にも蛍光体が混入されている。
【0020】なお、活性層としてはここではAl_(x)In_(y) Ga_(1-x-y) N(0≦x≦0.1≦y≦1)膜であるが、B_(z)Ga_(1-z)N(0≦z≦1)膜等の種々の膜を用いることができる。」

(オ)「【0050】
【発明の効果】以上のように、本発明にかかる半導体発光装置によれば、選択成長マスク材の中に、予め蛍光体を混入させてあるため、発光層から発せられる紫外光の一部を活性層付近で可視光に変換させることが可能となり、発光装置全体としての発光効率を著しく向上させることができる。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「(窒化物系III-V族化合物半導体を用いた)半導体装置」は、「GaN系発光ダイオードである」から、本願補正発明の「GaN系半導体発光素子」に相当する。

イ 引用発明の「窒化物系III-V族化合物半導体と異なる材料からなる基板」は、「Si基板」であるから、本願補正発明の「シリコン基板」に相当する。

ウ 引用発明は「基板上に成長マスクを直接形成」するものであり、引用発明の「成長マスク」は、「SiO_(2)からなり」、かつ「ストライプ形状にパターニングされ」るものであるから、
引用発明の「成長マスク」は、本願補正発明の「酸化シリコン層」に相当し、
引用発明は、「シリコン基板の主表面直上にて面内に分散形成された酸化シリコン層を有する」点で、本願補正発明の「シリコン基板の主表面直上にて面内に分散形成された層厚0.1?1μm(ただし0.1μmは除く)の酸化シリコン層を有し、」との特定事項と一致する。

エ 引用発明は、「基板上に成長マスクを直接形成した状態で上記基板上に窒化物系III-V族化合物半導体が成長されて」いるところ、引用発明の「半導体装置」は「GaN系発光ダイオードである」から、上記「窒化物系III-V族化合物半導体」が発光層部を備えることは明らかであり、引用発明は、本願補正発明の「該酸化シリコン層上に形成されたGaN系半導体化合物からなる発光層部とを有し」との特定事項を備える。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「シリコン基板の主表面直上にて面内に分散形成された酸化シリコン層と、該酸化シリコン層上に形成されたGaN系半導体化合物からなる発光層部とを有するGaN系半導体発光素子。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

a.酸化シリコン層が、本願補正発明では、「層厚0.1?1μm(ただし0.1μmは除く)」とされているのに対して、引用発明は、「(このSiO_(2) 膜の)厚さは例えば0.1μmとした」とされている点(以下「相違点1」という。)。

b.本願補正発明は、「前記酸化シリコン層には、前記発光層部からの紫外領域もしくは青色領域の発光を励起光としたフォトルミネッセンス発光を誘起させる発光源物質が分散形成されてなる」とされているのに対して、引用発明は、そのような事項を有していない点(以下「相違点2」という。)。


(3)判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
引用発明において、成長マスク(SiO_(2))の厚さは、一実施形態の例示として、「厚さは例えば0.1μmとした」とされているに過ぎず、引用発明において、基板上に成長マスクを直接形成した状態で基板上に窒化物系III-V族化合物半導体を成長する際に、窒化物系III-V族化合物半導体の品質、成長時間等を考慮して、成長マスクの層厚として0.1?1μmの範囲の適宜の値を選択し、相違点1に係る本願補正発明の特定事項となすことは、当業者が容易になし得たことである。
また、本願明細書の記載を見ても、相違点1に係る本願補正発明の特定事項である酸化シリコン層の層厚の範囲(上限値及び下限値)に格別の臨界的意義は認められないから、本願補正発明において、酸化シリコン層の層厚の範囲を限定することによって、引用発明から予測し得る域を超えるほどの格別の効果を奏するものと認めることもできない。

イ 相違点2について
引用刊行物2には、上記(1)イに示した事項が記載され、半導体発光素子において、紫外光を可視光に変換する蛍光体を含む選択成長マスク材層として、蛍光体を均一に混入した酸化シリコンでなるELO用の選択成長マスク層を用いて成長されたGaN系膜であるGaN系積層膜を積層構造として有することで、ELO用の選択成長マスク層の中に予め蛍光体を混入させてあるため、従来有効に利用されていなかった紫外光を活性層付近で可視光に変換させることが可能となり、蛍光体との結合効率を著しく向上させることができる技術が開示されている。
一方、GaN系半導体発光素子において、GaN系半導体発光素子による紫外光もしくは青色光と、該紫外光もしくは青色光を励起光とする蛍光体からの発光とを用いて白色光を得ようとすることは、本願の出願時において当業者にとって周知の課題であって、引用発明においても当然考慮される事項であると認められるから、引用発明において、引用刊行物2に記載された上記技術を適用し、相違点2に係る本願補正発明の特定事項となすことは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年5月15日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1の記載は、上記第2の1(1)において、補正前のものとして示したとおりのものである(以下、補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

2 引用刊行物記載の発明
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1及び2の記載事項並びに引用発明は、上記第2の2(1)に示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2の2で検討した本願補正発明において、酸化シリコン層の層厚について、「ただし0.1μmは除く」との限定を省いたものである。
そうすると、上記第2の2(2)ないし(3)での検討に照らして、本願発明は、引用発明及び引用刊行物2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-26 
結審通知日 2010-10-27 
審決日 2010-11-11 
出願番号 特願2003-376502(P2003-376502)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 謙仁瀬川 勝久  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 田部 元史
杉山 輝和
発明の名称 GaN系半導体発光素子およびその製造方法  
代理人 菅原 正倫  

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