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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1229213
審判番号 不服2007-14657  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-22 
確定日 2010-12-22 
事件の表示 特願2003-170138「丸形状上部磁極」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004- 71139〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年6月16日(パリ条約による優先権主張 2002年8月5日、アメリカ合衆国)の出願であって、その請求項1乃至10に係る発明は、平成22年7月7日付けで手続補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】 共同磁極を有する読取り要素と、上部磁極を有する書込み要素と、および回転ディスクの表面と対面するための空気ベアリング面とを有する薄膜ヘッドにおいて、
前記書込み要素の前記上部磁極が、実質的に平面状であり、磁極先端と、前記空気ベアリング面から遠位の位置で前記磁極先端に取り付けられた略楕円状の本体と、を有し、
前記書込み要素が、前記共用磁極と前記上部磁極との間に位置するヨークをさらに有し、
前記上部磁極と前記ヨークとが実質的に同じ形状を有していることを特徴とする、薄膜磁気ヘッド。」

2.引用例
これに対し、当審からの拒絶理由通知において引用した、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平11-328615号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に、次の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】磁壁端部の固定作用、或いは、磁壁生成作用をもつ屈曲点で結合された線で画成された形状部分をもつ磁極を備えてなることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】?【請求項4】(省略)
【請求項5】磁極がMR素子のシールドを兼ねることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1記載の磁気ヘッド。」

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばハード・ディスク・ドライブなどの磁気記録装置に於ける情報読み取り部を構成する磁気ヘッドの改良に関する。」

ウ.「【0003】
【従来の技術】一般に、磁気記録装置の情報読み取り部を構成する磁気ヘッドの特性は、磁極磁性膜の磁区構造に強く依存することが知られている。
【0004】例えば、磁区構造の不安定性は、再生時の出力変動やバルクハウゼンノイズの原因となったり、また、高周波記録時には、磁区内のスピン回転に伴う磁束の伝播が円滑に行なうことができずに記録不良に陥ることがあり、従って、磁区構造の制御は極めて重要である。
【0005】図4の(A)及び(B)は一般的な薄膜磁気ヘッドの構造及びMR/インダクティブ複合型薄膜磁気ヘッドを説明する為の要部切断側面図である。
【0006】図に於いて、1はNiFeなどからなる下部磁極、2はアルミナなどからなるギャップ層、3はCuなどからなるコイル、4はレジストなどからなる絶縁層、5はNiFeなどからなる上部磁極、6はアルミナなどからなる非磁性層、7はMR素子、8はNiFeからなる磁気シールド層をそれぞれ示し、(B)に於ける下部磁極1は磁気シールド層を兼ねている。
【0007】前記磁気ヘッドに於いて、磁極をなす磁性膜には、磁区構造が生成されるが、その磁区構造として好ましいのは、三角磁区や六角磁区で構成された還流磁区構造である。」

エ.「【0014】図1は本発明の原理を解説する為の磁極形状を表す要部平面図であり、11は磁極、11A及び11Bは屈曲点(不連続点)、12は六角磁区、13は三角磁区、14は磁壁、15はトラック幅、Wは磁極後端の幅、Lは磁極の長さ、θ1は屈曲点11Aに於ける角度、θ2は屈曲点11Bに於ける角度をそれぞれ示している。尚、磁極の幅W、磁極の長さLは、例えばW=50〔μm〕、L=80〔μm〕であり、また、屈曲点の角度は、例えばθ1=60°、θ2=45°である。」

上記摘示事項「ア.」乃至「エ.」によれば、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ハード・ディスク・ドライブにおけるMR/インダクティブ複合型薄膜磁気ヘッドにおいて、
前記MR/インダクティブ複合型薄膜磁気ヘッドは、磁気シールド層と、MR素子と、磁気シールド層を兼ねた下部磁極と、上部磁極などからなり、
前記上部磁極は、後端側から磁極先端側に向かって絞り込まれる部分をもつ
MR/インダクティブ複合型薄膜磁気ヘッド。」

同じく、当審からの拒絶理由通知において引用した、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2002-197615号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に、次の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

オ.「【0059】図1に示す垂直磁気記録ヘッドを真上から見た(矢印方向)平面図は、例えば図10のように示される。図10の平面図に示すように、前記主磁極層24は、前端面24aの上面(主磁極層24のトレーリング側の面)が微小なトラック幅Twで形成され、この幅寸法を保ってあるいは若干幅寸法が広がる幅細の前方領域24cが形成されている。又この前方領域24cの基端からは後方領域24dが形成されており、前記後端領域24ではトラック幅方向の寸法が漸次的に広がって形成されている。
【0060】図10に示すように前記ヨーク層35は、前記主磁極層24の後端領域24d上に重ねられて形成されている。前記ヨーク層35は、ハイト方向後方に向けてトラック幅方向への幅寸法が漸次的に広がる形状で形成されている。」

カ.「【0073】図3は本発明における第3実施形態の垂直磁気記録ヘッドの構造を示す縦断面図である。
【0074】図1との相違点は、主磁極層24およびヨーク層35の構造にある。この実施形態でもヨーク層35の膜厚H6は前記主磁極層24の膜厚H5に比べて大きくなっているが、前記ヨーク層35は前記絶縁層33の上に形成され、前記ヨーク層35の基端部35bは前記接続層25の上面25aに磁気的に接続されている。
【0075】また前記ヨーク層35の前端面35aは、下面から上面に向けて前記対向面H1aに近づく傾斜面あるいは湾曲面で形成されている。前記ヨーク層35の上に形成される主磁極層24の下面と前記ヨーク層35の前端面35a間の外角θは90°以上であることが好ましい。これによって前記主磁極層24から前記ヨーク層35に向けて漏れる磁界を少なくでき前記主磁極層24により磁界を集中させることができるからである。
【0076】図3に示すように、前記ヨーク層35の周囲は、新たな第4の絶縁層57によって埋められている。なお図3に示すようにヨーク層35の前端面35aより対向面H1a側は前記第4の絶縁層57によって埋められ、前記第4の絶縁層57が前記対向面H1aから現れる。本発明では、前記第4の絶縁層57の上面と前記ヨーク層35の上面はCMP技術などを用いて平坦化加工が成されている。
【0077】前記第4の絶縁層57は無機絶縁材料で形成されることが好ましく、前記無機絶縁材料としては、AlO、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、Ta_(2)O_(5)、TiO、AlN、AlSiN、TiN、SiN、Si_(3)N_(4)、NiO、WO、WO_(3)、BN、CrN、SiONのうち少なくとも1種以上を選択できる。
【0078】そして本発明では前記平坦化された前記第4の絶縁層57上からヨーク層35上にかけて主磁極層24が形成されている。
【0079】図14は図3に示す垂直磁気記録ヘッドの平面図である。図14に示すように、前記ヨーク層35は、トラック幅方向への幅寸法が細くされた幅細の前方領域35cとこの基端からハイト方向後方に向けて前記幅寸法が漸次的に広がる後端領域35dとで平面形成されている。
【0080】なお前記前方領域35cのトラック幅方向への幅寸法は、トラック幅Twよりも大きく形成されている。
【0081】図14に示すように、前記第4の絶縁層57上から前記ヨーク層35上にかけて形成された主磁極層24は、前端面24aが前記対向面H1aに現れ、前記前端面24aの上面はトラック幅Twで形成されている。前記主磁極層24は、前記前端面24aからハイト方向後方へトラック幅寸法で、あるいはそれよりもやや幅広で形成された前方領域24cと、前記前方領域24cからハイト方向後方へ向けてトラック幅の寸法が漸次的に広がる後方領域24dとで平面形成されている。
【0082】なお図14に示す形状は一例に過ぎず、本発明はこの形状に限定されるものではない。すなわち本発明では、前記ヨーク層35を前記対向面H1aと平行な方向から切断したときのある断面の面積が、前記主磁極層の前端面24aの面積よりも大きくなればよい。」

同じく、当審からの拒絶理由通知において引用した、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平2-203410号公報(以下「引用例3」という。)には、図面と共に、次の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

キ.「2.特許請求の範囲
1.セラミックス基板上に設けた下部磁性膜と、前記下部磁性膜上に形成され、一端が前記下部磁性膜の一端に接し、他端が前記下部磁性膜の他端に磁気ギャップを介して対向し、前記下部磁性膜と共に一部に前記磁気ギャップをもつ磁気回路を形成する上部磁性膜と、前記下部磁性膜と前記上部磁性膜との間を通り磁気回路と交差するように配置され所定回巻かれたコイル導体と、前記コイル導体の相互間、及び、前記コイル導体と前記下部磁性膜及び前記上部磁性膜を電気的に絶縁する絶縁部材とを具備するものにおいて、
前記上部磁性膜及び前記下部磁性膜が円形形状をしていることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
2.前記上部磁性膜および前記下部磁性膜の最大幅W_(L)がその中心にあり、最大幅W_(L)と長さLとの比W_(L)/Lが0.83?1.2の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。」(1頁左下欄4行?右下欄3行)

ク.「〔課題を解決するための手段〕
上記目的は、薄膜磁気ヘッドの磁気コアに印加される膜応力を、磁気コアの中央部では等方的になるように、また、先端部分では応力異方性が小さくなるように、それぞれ、磁気コアの形状を規定することにより達成される。」(2頁右上欄3?8行)

ケ.「このように、本発明では、磁歪定数λが変化しても磁気コアに作用する応力に影響がないよう、すなわち、磁気異方性エネルギが安定するように磁気コアの形状を規定することにより、磁区構造を安定化し、安定したヘッド特性を得ることができる。」(2頁右下欄3?8行)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「ハード・ディスク・ドライブ」は、「回転ディスク」を有することは明らかである。
(2)引用発明の「磁気シールド層を兼ねた下部磁極」は、本願発明の「共用磁極」に相当する。
(3)引用発明の「MR/インダクティブ複合型薄膜磁気ヘッド」は、本願発明の「薄膜(磁気)ヘッド」に相当し、「ハード・ディスク・ドライブにおける」ものであるから、読み取り要素と、書込み要素と、回転ディスクの表面と対向するための空気ベアリング面を有することは明らかである。
(4)引用発明と本願発明の「上部磁極」は、共通する。
(5)引用発明の「上部磁極」は、「磁極先端側に向かって絞り込まれる部分が屈曲点で結合された線で画成された形状部分をもつ」ものであるから、本願発明の「磁極先端と、前記空気ベアリング面から遠位の位置で前記磁極先端に取り付けられた本体」に相当する構成を有している。

そうすると、引用発明と本願発明との<一致点>および<相違点>は以下のとおりである。

<一致点>
「共同磁極を有する読取り要素と、上部磁極を有する書込み要素と、および回転ディスクの表面と対面するための空気ベアリング面とを有する薄膜ヘッドにおいて、
前記書込み要素の前記上部磁極が、磁極先端と、前記空気ベアリング面から遠位の位置で前記磁極先端に取り付けられた本体と、を有する、薄膜磁気ヘッド。」

<相違点>
(a)「上部磁極」について、本願発明は「実質的に平面状であり」と特定されるのに対し、引用発明は平面状ではない点。

(b)「本体」について、本願発明は、「略楕円形」と特定されるのに対し、引用発明は楕円形状ではない点。

(c)本願発明は、「前記書込み要素が、前記共用磁極と前記上部磁極との間に位置するヨークをさらに有し」、かつ、「前記上部磁極と前記ヨークとが実質的に同じ形状を有している」ものであるのに対し、引用発明は、ヨークを有していない点。

4.判断
そこで、上記各相違点について検討する。

相違点(a)について
薄膜磁気ヘッドに関し、引用発明及び本願発明と同一の技術分野に属する引用例2(摘示事項「カ.」【0081】)には、主磁極層24(上部磁極)は平面形成されていることが記載されている。
そうすると、引用発明において、記録ヘッドの上部磁極の形状を、実質的に平面状とすることは、引用例2に記載された上記技術を参照することにより当業者が容易になしえることである。

相違点(b)について
薄膜磁気ヘッドに関し、引用発明及び本願発明と同一の技術分野に属する引用例3(摘示事項「ク.」?「コ.」)には、磁区構造を安定化するために磁気コア本体の形状を、上部磁性膜(上部磁極)の最大幅をW_(L)、長さをLとしたときに、比W_(L)/Lを0.83?1.2の範囲とすること、換言すれば、上部磁極の本体形状を楕円形状を含む円形形状とすることが記載されている。
引用発明は、上部磁極の形状を後端側から磁極先端側に向かって絞り込まれる部分をもつようにすることで磁区構造を安定化するものである。
そうすると、引用発明において、磁区構造を安定化するための上部磁極の本体の形状を略楕円形とすることは、引用例3に記載された上記技術を参照することにより当業者が容易になしえることである。

相違点(c)について
引用例2には、主磁極層(上部磁極)に磁界を集中させるためにヨーク層上に該主磁極層を形成することが記載されており、本願発明の上部磁極とヨークとの配置関係と一致し、そして、ヨーク層等の形状は適宜であることも記載されてる(摘示事項「キ.」)。
また、引用例2には、主磁極層とヨーク層との配置関係は本願発明とは相違する(主磁極層上にヨーク層を形成)が、ヨーク層は主磁極層に重ねられて形成されること(摘示事項「カ.」)が記載され、主磁極層とヨーク層とが同じ形状を有していることが示唆されている。
そうすると、引用発明において、記録時の変換効率を高めるために「前記書込み要素が、前記共用磁極と前記上部磁極との間に位置するヨークをさらに有し」とすること、かつ、「前記上部磁極と前記ヨークとが実質的に同じ形状を有している」こととすることは引用例2に記載された上記技術を参照することにより当業者が容易になしえることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用例1?3から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-26 
結審通知日 2010-07-27 
審決日 2010-08-09 
出願番号 特願2003-170138(P2003-170138)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 眞富澤 哲生  
特許庁審判長 小松 正
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
山田 洋一
発明の名称 丸形状上部磁極  
代理人 岩本 行夫  
代理人 吉田 裕  
代理人 堀井 豊  
代理人 浅村 皓  
代理人 酒井 將行  
代理人 浅村 肇  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 深見 久郎  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 森田 俊雄  
代理人 仲村 義平  

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