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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1229215
審判番号 不服2007-26557  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-27 
確定日 2010-12-20 
事件の表示 特願2003- 95827「L-ラムノースイソメラーゼの固定化法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日出願公開、特開2004-298105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成15年3月31日の出願であって、平成19年4月26日付で拒絶理由が通知され、同年7月2日付で手続補正がなされるとともに、同日に意見書が提出されたが、平成19年8月20日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正書が提出された後、平成22年2月26日付で審尋がなされ、これに対し、同年4月30日付で回答書が提出され、更にその後、同年8月3日付で審尋がなされ、これに対し、同年10月4日付で回答書が提出され、さらに同年10月20日付でファクシミリが送付されたものである。

第2 平成19年9月27日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年9月27日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、平成19年7月2日付で補正された特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
D-プシコースをD-アロースへ変換する活性を持つL-ラムノースイソメラーゼを結晶化したものが固定化されていることを特徴とするD-アロースを連続製造するための固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクター。」(以下、「本願発明1」という。)から
「【請求項1】
結晶化と固定化を同時に進行させて、D-プシコースをD-アロースへ変換する活性を持つL-ラムノースイソメラーゼを結晶化したものが固定化されているもので、送液時の圧力が低く、安定で長期間連続使用可能な形態に構築されていることを特徴とするD-アロースを連続製造するための固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクター。」(以下、「本願補正発明1」という。)へと補正された。

2.目的要件違反について
本件補正は、補正前の請求項1における、L-ラムノースイソメラーゼの結晶化及び固定化が、「結晶化と固定化を同時に進行」させるものとする(以下、「本件補正1」という。)とともに、固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクターが、「送液時の圧力が低く、安定で長期間連続使用可能な形態に構築されている」ものとする(以下、「本件補正2」という。)ものである。

(2-1)本件補正1について
本件補正1は、L-ラムノースイソメラーゼが結晶化したものが固定化されている固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクターにおいて、L-ラムノースイソメラーゼを結晶化させて固定化する工程として、「結晶化と固定化を同時に進行」させる旨の限定を付加するものである。
しかしながら、本願発明1においては、L-ラムノースイソメラーゼを結晶化させて固定化する工程は記載されていないから、当該工程を付加することは、発明特定事項を限定するものではない。

(2-2)本件補正2について
本件補正2は、固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクターが特定の形態に構築されているとする限定を付加するものである。
しかしながら、本願発明1においては、固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクターの形態については記載されていないから、当該特定の形態に構築されているとする限定を付加することは、発明特定事項を限定するものではない。

(2-3)小括
以上のとおりであるから、本件補正1及び2は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとはいえない。
また、本件補正1及び2が、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とする補正ではないことは明らかである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件違反について
仮に、本件補正が、発明を特定するために必要な事項を限定するもの(特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮)に該当するとした場合、本願補正発明1が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて、念のため、以下検討する。

(3-1)はじめに
本願補正発明1は、上記1.に記載したとおりである。
「同時に」という用語は、「同じ時に。」、「まさにその時。」又は「いちどきに。」を意味し、接続詞的に用いた場合には「・・・とともに。」、「一方。」、「・・・するやいなや。」又は「・・・とすぐ。」を意味するものとされる(広辞苑第三版第六刷、1988年、新村出編、株式会社岩波書店発行、1696頁)。
そして、本願補正発明1の「結晶化と固定化を同時に進行させて」という記載からみて、「同時に」という用語は接続詞的に用いられたものではないから、本願補正発明1の「同時に」は通常の用法で用いられており、「結晶化と固定化をいちどきに進行」させるものを意味すると解される。
以下、本願補正発明1の「結晶化と固定化を同時に進行」は、「結晶化と固定化をいちどきに進行」させるものであるとして、検討する。

(3-2)特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号
(3-2-1)本願明細書の記載
(3-2-1-1)
「【作用】
ある程度分子内架橋が進行した段階でリジン溶液を添加し分子間架橋させることにより、
バイオリアクターを構築した場合に流速が速く、安定で長期間連続使用可能な固定化酵素となる。
すなわち、上記の方法で得られる固定化酵素は、
(1)PEG20000を用いた結晶化による部分精製と架橋試薬による架橋を同時に進行させるため、簡単で高い活性の固定化酵素が得られる。イオン結合法では高い活性で、安定な固定化酵素が得られない。
(2)イオン結合法に比べコストが非常に安い。イオン結合法では¥15,000/reactorに対し、架橋法では¥3,000/reactor程度のコストである。
(3)一般には架橋法は過激な固定化条件を必要とするが、本発明が採用する特定の固定化法は架橋法の中では酵素活性の損失が少ない、すなわち70%維持できるという利点がある。これはイオン結合法(10%の活性を固定化)と比較して大である。
(4)速い流速が得られるという利点がある。
(5)pHの変化がない。この点はイオン結合法より優れる。
(6)高い温度で使用できる。この点はイオン結合法より優れる。
(7)長期間の使用が可能で粒子が崩れたり酵素が脱離することがない。この点はイオン結合法より優れる。
(8)固定化菌体を用いた場合でも安定に反応する。この点はイオン結合法では不可能である。」(段落【0017】)

(3-2-1-2)
「実施例
(本発明の固定化酵素の作製例)
I 新規の固定化(グルタルアルデヒド-リジン架橋法)
(A) 酵素結晶の固定化
(1)菌体10gを破砕し粗酵素液を得る。
(2)4-5.5%のPEG20000を撹拌しながら徐々に添加し酵素の均一な結晶が得られるまで静置する(24-48時間)。
(3)結晶を生じた粗酵素液に12.5%グルタルアルデヒドを撹拌しながら、終濃度1%になるように添加し30分間撹拌した後、3時間以上放置する。
(4)20%L-リジンを終濃度1%になるように添加し30分間撹拌し、3時間以上放置する。
(5)遠心分離により架橋結晶を回収し、グリシン‐NaOH緩衝液で2回洗浄する。
以上の条件で活性回収率は約70%が得られる。」(段落【0021】)

(3-2-1-3)
「II 本発明の固定化酵素の評価
(A)固定化酵素結晶、(B)固定化微生物菌体とも、活性の約70%を固定化することができ、1ヶ月以上バイオリアクターに使用できる。すなわち、L-ラムノースイソメラーゼの固定化酵素結晶および固定化微生物菌体ともに、従来最も広く用いられているイオン交換法と比較するとD-アロースなど希少糖の生産法として大きな改善が進んだ。
イオン交換法による固定化法では、活性は約10%しか固定化できず、しかもバイオリアクターを用いるD-アロースの生産には約2週間のみの使用で活性がなくなった。
一方、本発明による固定化法では活性の約70%が固定化することが可能であり、50%D-プシコースをpH9グリシン緩衝液中でのバイオリアクター反応において一ヶ月以上の安定した反応を行うことが可能であった。また、本発明によるL-ラムノースイソメラーゼの固定化酵素結晶および固定化微生物菌体ともに粒の大きさが従来法に比べて大きいため、バイオリアクターの送液時の圧力が低いものであった。これらのことよりD-アロースをD-プシコースから連続生産が可能となった。」(段落【0023】)

(3-2-1-4)
「【発明の効果】
産業的に希少糖を大量に生産するのに有効に利用できる安定な、高活性の固定化L-ラムノースイソメラーゼを提供することができる。
低い流れ抵抗を有し、充填されたカラムを通る基質の流速が速い固定化L-ラムノースイソメラーゼを提供することができる。」(段落【0024】)

(3-2-2)当審の判断
上記のとおり、本願明細書には、菌体から得られた粗酵素液から酵素の均一な結晶を得、その後、結晶を生じた粗酵素液にグルタルアルデヒド及びL-リジンを添加して生じた架橋結晶を回収・洗浄して、固定化酵素を得ることが記載されているが、「結晶化と固定化をいちどきに進行」させて、固定化酵素を得ることは記載されていない。
また、結晶化と固定化のプロセスが異なれば、得られる固定化酵素の構造もその酵素活性も大きく異なるものであり、特に本願所定の固定化酵素が、「結晶化させた後に固定化した固定化酵素」であっても「結晶化と固定化をいちどきに進行させて得られた固定化酵素」であっても、その酵素活性や安定性の点で同等であることが、本願出願時の技術常識であったともいえない。
よって、本願補正発明1については、当業者が課題を解決できることが理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
また、発明の詳細な説明には、本願補正発明1を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がなされているともいえない。

(3-2-3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成22年4月30日付回答書において、「結晶化と固定化を同時に進行させる」ことについて、「結晶化と固定化とを時間的に同時に進行させるという意味ではなく、結晶化だけではなく、また固定化だけではなく、二つとも進行させたものの意味である」と主張しているが、上記(3-1)で示したとおり、接続詞的ではなく用いられた「同時に」は、「同じ時に。」、「まさにその時。」又は「いちどきに。」を意味するものとして明らかであるから、本願補正発明1の「結晶化と固定化を同時に進行させる」が「結晶化と固定化の両者を共に施す」を意味するとはいえず、審判請求人の主張は採用することができない。
なお、「同時に」が審判請求人の主張するとおりの意味があると仮定すると、この点は、補正前の請求項の記載からも明らかなことであるから、「結晶化と固定化を同時に進行」させる旨を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。また、この補正が明りょうでない記載の釈明に該当するものであるともいえない。

(3-2-4)小括
したがって、本願補正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、また、発明の詳細な説明は本願補正発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

上記のとおり、本願補正発明1に記載の「同時に」は、接続詞的に用いたものではないが、審判請求人は、「結晶化と固定化を同時に進行させる」ことについて、上記(3-2-3)のとおり主張しているので、以下、上記審判請求人の主張に基づいて、本願補正発明1の「結晶化と固定化を同時に進行させる」が「結晶化と固定化の両者を共に施す」を意味すると仮定して、念のため、検討する。

(3-3)特許法第29条第2項
(3-3-1)引用文献
(3-3-1-1)引用文献1
原審の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願出願前に頒布された刊行物であるJ.Mol.Biol.,2000,300(4),p.917-33には、以下の事項が記載されている。

(3-3-1-1-1)
「新たな発現系を用い、大腸菌由来のラムノースイソメラーゼを精製し結晶化した。」(917頁要約欄1?2行)

(3-3-1-1-2)
「結晶化 ・・・ラムノースイソメラーゼの結晶は、類似条件のアレイの下、得られた。ロボティックワークステーション(Biomek 2000, Beckman, Palo Alto, CA)を用いて結晶化のための最適化を広範囲にわたって行った。結晶は1日後に現れ、1週間後に最大サイズに達した。最大の結晶(最大0.6mm×0.6mm×0.5mm)は、0.2Mクエン酸、0.1MHepes(pH6.4-7.4)、22.5-30.0%(w/w)PEG8000及び10%(w/w)イソプロパノールからなる保存液を室温で用いて得られた。」(929頁下から9行?930頁12行)

(3-3-1-2)引用文献2
原審の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平2-291265号公報には、以下の事項が記載されている。

(3-3-1-2-1)
「(1)可溶性グルコースイソメラーゼ結晶を架橋結合により水-不溶形に転換することを特徴とする、グルコースイソメラーゼ結晶。」(特許請求の範囲)

(3-3-1-2-2)
「(8)水-不溶性架橋結合結晶酵素の製造方法において、
(a)結晶イソメラーゼサスペンションにジアルデヒドを添加し、その場合ジアルデヒドの添加前又は架橋結合反応中、アンモニウム塩、アミン又はアミノ酸のような少なくとも1個のアミノ基を含有する化合物をそこに添加し、そして
(b)架橋結合結晶を水又は何か他の液体により洗滌して試薬残留物を除去することを特徴とする、上記水-不溶性架橋結合結晶酵素の製造方法。」(特許請求の範囲)

(3-3-1-2-3)
「(10)ジアルデヒドはグルタルアルデヒドである、請求項8記載の方法。」(特許請求の範囲)

(3-3-1-2-4)
「初めの結晶状態を維持し、一方酵素の酵素活性は非常に高く残すような方法でグルコースイソメラーゼ結晶を架橋結合できることがわかった。」(3頁右下欄10?12行)

(3-3-1-2-5)
「当業者はここに開示した架橋結合方法は、一般にそのアミノ酸組成のために、従来架橋結合に貢献することが分らなかった任意の結晶酵素の不溶性標品の製造に実際に使用できることを認めるであろう。」(4頁右上欄6?10行)

(3-3-1-2-6)
「例52?57
イソメラーゼ結晶は次の一般的教示に従って硫酸アンモニウムおよびリジン溶液中で架橋結合した:
10%硫酸アンモニウム中の10gのイソメラーゼ結晶(すなわち、乾物として計算して3.72gの精製イソメラーゼたん白、0.63gの硫酸アンモニウム、および5.65gの水)、
5gの硫酸アンモニウム、
45gの水、
1.25gのグルタルアルデヒド、100%として計算、
0?3gのリジン(第VI表参照)。
すべての反応成分のpHは攪拌前に苛性ソーダにより8.0に調整した。
混合物は3℃で18時間攪拌した。

第VI表
リジン(g) 活性(%)
例52 0 40
例53 0.3 62
例54 0.6 66
例55 1.2 72
例56 1.8 92
例57 3.0 96

リジンは架橋結合の収量に非常に有利に影響することが結果からわかる。硫酸アンモニウムは、たとえ硫酸アンモニウム単独で満足できる結果を得るとしても、リジンを利用できる場合の結果より大きい効果を有しない。」(8頁右下欄1行?9頁左上欄下から7行)

(3-3-1-2-7)
「例70
水により洗滌した1gの架橋結合グルコースイソメラーゼマス(例56からのもの、0.4g乾物)をpH7.0に調整した100gの40%グルコース溶液中に混合した。混合物は60°Cでたえず攪拌した。・・・試験後、架橋結合イソメラーゼを混合物から濾過により分離し、水で洗滌した。回収した結晶マスはその活性および乾燥含量に対し試験し、活性酵素は全く溶解しないか又は試験で消失しないことがわかった。試験は同じ酵素バッチについて数回反復することができた。」(9頁左下欄3?下から3行)

(3-3-1-2-8)
「市販酵素を含むカラムの流速は本工業的実施で認められるきわめて代表的なものを表わす。架橋結合イソメラーゼ結晶を含むカラムの流速は実質的に一層高い。工業的実際では、架橋結合結晶の高活性は本質的に一層小さい酵素力ラム使用の結果となり、このように投資および加工コストを節約できる。」(11頁右上欄3?9行)

(3-3-1-3)引用文献3
原審の拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願出願前に頒布された刊行物であるTrends in Biotechnology,1996,14(7),p.223-30には、以下の事項が記載されている。

(3-3-1-3-1)
「Cross-Linked Enzyme Crystals (CLECR)は、酵素(高活性、高選択性、穏和な反応条件下で機能する能力、廃棄容易性)又は不均一触媒(様々な環境下での安定性、再利用性)のいずれかに通常関連する特徴を、組み合わせて提供するものである。」(223頁要約欄1?4行)

(3-3-1-3-2)
「それ以来、15以上の酵素がCLECの形態で製造され、5つのCLEC酵素(Candida rugosa(CRL)又はPseudomonas cepacia(LPS)由来のリパーゼ、サーモリシン、スブチリシン、ペニシリンアシラーゼ)は数kgスケールで生産され、Altus Biologics社によって市販されている。」(223頁右欄20?25行)

(3-3-1-4)引用文献4
原審の拒絶の理由に引用文献4として引用された、本願出願前に頒布された刊行物であるKhim Leang他5名,L-ラムノースイソメラーゼの固定化とD-アロース生産への応用,日本生物工学会大会講演要旨集,2002年,p.87,559には、以下の事項が記載されている。

(3-3-1-4-1)
「【目的】Pseudomonas stutzeri LL172株の生産するL.ラムノースイソメラーゼはD.プシコースとD.アロース間の異性化反応を触媒する。我々はすでにL.ラムノースイソメラーゼ遺伝子のクローニング、大腸菌による大量発現およびHis-tagを融合させたL.ラムノースイソメラーゼの簡易精製法の確立に成功している。本研究では希少糖D.アロースを大量に生産するためにL.ラムノースイソメラーゼ固定化法の検討を行った。
【方法および結果】純度が高く高活性のL.ラムノースイソメラーゼを用いた固定化法としてグルタルアルデヒド架橋法を検討し、D.アロース生産の効率化を試みた。20%リジンと12.5%グルタルアルデヒドを用いて5500Uの精製L.ラムノースイソメラーゼを架橋したところ、4500Uの活性を持つ酵素が得られ、効率よく架橋されていた。架橋したL.ラムノースイソメラーゼの至適温度、熱安定性、至適pH、pH安定性、基質特異性、反応速度の解析による諸性質の検討を行ったところ架橋前のL.ラムノースイソメラーゼとほぼ同じ性質であった。3.4gの架橋酵素と20gのD.プシコースを全量200mlの系でバッチ反応させたところ、10時間で平衡に達し、1日あたり10gのD.アロースが生産できた。架橋酵素は10日以上安定を保っていた。また、この架橋酵素をカラムにつめバイオリアクターを構築し、D.プシコースを通液して反応させたところ、同様にD.アロースに転換され連続反応が可能であった。」(87頁559欄1?19行)

以上のことから、引用文献4には、D-プシコースをD-アロースへ変換する活性を持つL-ラムノースイソメラーゼが、グルタルアルデヒド及びリジンによって固定化された、安定で長期間連続使用可能な形態に構築されていることを特徴とするD-アロースを連続製造するための固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクターが記載されていると認められる。

(3-3-2)本願補正発明1と引用文献4との対比
上記のとおり、「結晶化と固定化を同時に進行させる」ことが、「結晶化と固定化の両者を共に施す」ことを意味すると仮定した前提で、本願補正発明1と、引用文献4に記載された事項とを対比すると、両者は、「D-プシコースをD-アロースへ変換する活性を持つL-ラムノースイソメラーゼが固定化されているもので、安定で長期間連続使用可能な形態に構築されていることを特徴とするD-アロースを連続製造するための固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクター」である点で一致し、前者では、結晶化と固定化の両者を共に施すことによって、結晶化したL-ラムノースイソメラーゼを固定化しているのに対し、後者では、結晶化したことが不明なL-ラムノースイソメラーゼを固定化している点(相違点1)、及び、前者では、当該バイオリアクターが、送液時の圧力が低くなるような形態に構築されているものであるのに対し、後者では、そのような形態であることについては記載されていない点(相違点2)で相違する。

(3-3-3)当審の判断
(3-3-3-1)相違点1について
引用文献2には、引用文献4に記載の酵素(L-ラムノースイソメラーゼ)と同じイソメラーゼ活性を有する酵素(グルコースイソメラーゼ)を結晶化し、グルタルアルデヒドで架橋して固定化することによって、高活性で安定性の優れた固定化酵素を得ることができることが記載されており、引用文献3には、リパーゼ、プロテアーゼ(サーモリシン、スブチリシン)、アシラーゼなどの種々の活性を有する酵素を結晶化し、グルタルアルデヒドで架橋して固定化することによって、高活性で安定性の優れた固定化酵素を得ることができることが記載されている。
また、引用文献1には、「L-ラムノースイソメラーゼ」がPEGを用いて結晶化することができることが開示されており、引用文献2?3には、「L-ラムノースイソメラーゼ」が、固定化酵素として用いることができる酵素として望ましくないといった旨の記載もない。
そして、引用文献2?4は、いずれも酵素の活性を高く安定して維持したバイオリアクターを得ることを目的としたものであるから、引用文献4に記載の固定化「L-ラムノースイソメラーゼ」について、その酵素活性をさらに高く安定して維持することができる固定化酵素を有するバイオリアクターを得るため、引用文献1に記載された結晶化L-ラムノースイソメラーゼを用い、引用文献2?3に開示されたように、酵素に対して結晶化と固定化の両者を共に施すことは、当業者が適宜なし得たことである。

(3-3-3-2)相違点2について
引用文献2には、「酵素に対して結晶化と固定化の両者を共に施すこと」によって得られた架橋結合した結晶化酵素は、粒子の大きな結晶マスであり(上記摘記(3-3-1-2-7)参照)、これを含むカラムの流速は実質的に早くなること(上記摘記(3-3-1-2-8)参照)が記載されており、一般に、カラムに充填される粒子の大きさが大きくなると、同じ圧力をかけた場合の送液速度は大きくなるものであり、同じ送液速度を維持するための送液圧力は低くなるものであることを踏まえれば、引用文献2?3に開示されたような、酵素に対して結晶化と固定化の両者を共に施すことによって得られる架橋結合した結晶化酵素の形態は、「送液時の圧力が低くなるような形態」にほかならない。

(3-3-3-3)効果について
本願明細書には、従来技術であるイオン交換法と比較して、本願補正発明1が優れた効果を奏する旨が記載されている(段落【0023】)ものの、引用文献4に記載のバイオリアクター(グルタルアルデヒドとリジンを用いて固定化したもの)と比較した結果は記載されておらず、かつ、審判請求人は、平成19年7月2日付意見書、平成19年9月27日付審判請求書、平成22年4月30日付回答書、平成22年10月4日付回答書、及び、平成22年10月20日付ファクシミリのいずれにおいても、本願補正発明1が、引用文献4に記載のバイオリアクターと比較して予測できない優れた効果を奏することについて、それを裏付ける具体的なデータに基づく釈明を何らしていないから、本願補正発明1が格別な効果を奏することを推認することができない。

(3-3-3-4)小括
したがって、本願補正発明1は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、本件補正が、同法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)に該当するとした場合であっても、本願の発明の詳細な説明は、本願補正発明1の課題が解決できることを本願出願時の当業者が認識できるように記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、かつ、発明の詳細な説明は本願補正発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
更に、仮に、本件補正が、同法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)に該当するとした場合であって、本願の発明の詳細な説明は、本願補正発明1の課題が解決できることを本願出願時の当業者が認識できるように記載されており、かつ、発明の詳細な説明には本願補正発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとした場合であっても、本願補正発明1は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成19年9月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成19年7月2日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもの(上記第2 1.参照)である。

第4 特許法第29条第2項
1.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?4、及び、その記載事項は、上記第2 3.(3-3-1)に記載したとおりである。

2.対比・当審の判断
本願発明1は、上記第2 1.に記載した本願補正発明1から、固定化L-ラムノースイソメラーゼバイオリアクターの限定事項である、「結晶化と固定化を同時に進行させて」及び「送液時の圧力が低く、安定で長期間連続使用可能な形態に構築されていること」が除かれたものであって、その上位概念に相当するものである。
そうすると、本願発明1は、本願補正発明1をその態様として包含するものであるところ、本願補正発明1は、上記第2 3.(3-3)に記載したとおり、引用文献1?4に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明を包含する本願発明1も、これと同様の理由により、引用文献1?4に記載に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をするものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-28 
結審通知日 2010-10-29 
審決日 2010-11-09 
出願番号 特願2003-95827(P2003-95827)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 57- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 潤也  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 耕一郎
平田 和男
発明の名称 L-ラムノースイソメラーゼの固定化法  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 須藤 晃伸  

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