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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1229387
審判番号 不服2008-8489  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-07 
確定日 2010-12-02 
事件の表示 平成 9年特許願第508872号「ジデプシペプチドに基づく殺内部寄生虫薬(endoparasiticides)、新規ジデプシペプチドおよびそれらを調製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月27日国際公開、WO97/07093、平成11年 9月28日国内公表、特表平11-511142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1996年7月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1995年8月11日(DE)ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成19年4月26日付けで拒絶理由が通知され、同年11月13日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年12月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年4月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月7日に手続補正書が提出され、同年9月29日付けで審尋がなされ、平成21年1月7日に回答書が提出され、さらに、同年10月27日付けで拒絶理由が通知され、平成22年5月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月11日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?6に係る発明は、平成19年11月13日付け、平成20年5月7日付け及び平成22年5月10日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「下記一般式(Ia)で表される新規ジデプシペプチドまたはその塩、光学異性体もしくはラセミ体:
一般式(Ia)
【化6】

式中、
R_(1)は水素、直鎖もしくは分枝状のC_(1-4)-アルキル、C_(3-6)-シクロアルキル、アリ-ル-C_(1-2)-アルキルまたはヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルを表し、または、
R_(1)およびR_(2)はそれらが結合される原子と一緒になって、場合によっては酸素、イオウ、スルホキシルもしくはスルホニルにより中断され得る5もしくは6員環を表し、
R_(2)は、水素、6個までの炭素原子を有する直鎖もしくは分枝状のアルキル、4個までの炭素原子を有するアルケニル、C_(3-6)-シクロアルキル、C_(3-6)-シクロアルキル-C_(1-2)-アルキル、アリ-ル、アリ-ル-C_(1-2)-アルキル、ヘタリ-ル、ヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルを表し、
R_(3)およびR_(4)は水素を表し、
R_(5)は、水素、6個までの炭素原子を有する直鎖もしくは分枝状のアルキル、4個までの炭素原子を有するアルケニル、C_(3-6)-シクロアルキル、C_(3-6)-シクロアルキル-C_(1-2)-アルキル、アリ-ル、アリ-ル-C_(1-2)-アルキル、ヘタリ-ル、ヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルを表し、
【化7】

はカルボニル、チオカルボニル、-C=CH-NO_(2)、-C=CH-CN、-C=N-R^(6)、スルホキシル、スルホニル、-PO)-OR^(7)もしくはPS)-OR^(7)を表し、
R^(6)は、水素、ヒドロキシル、C_(1-4)-アルコキシ、C_(1-4)-アルキルカルボニル、C_(1-4)-ハロゲノアルキルカルボニル、C_(1-4)-アルキルスルホニル、ニトロもしくはシアノを表し、そして
R^(7)は水素もしくはC_(1-4)-アルキルを表し、そして
Qは、直鎖もしくは分枝状のC_(1-6)-アルキル、C_(2-6)-アルケニル、C_(2-6)-アルキニル、C_(3-6)-シクロアルキルまたはヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルを表し、あるいは、場合によっては、基G^(2)およびG^(3)【化8】

からの基を表し、
式中
【化9】

はカルボニル、チオカルボニルもしくはスルホニルを意味することができ、
Yは酸素、イオウもしくは-NR^(9)を表し、
R^(8)もしくはR_(8)は、Yが窒素を表す場合は、窒素原子を介して結合される環状アミノ基を意味することができ、
R^(8)もしくはR_(8)およびR^(9)は相互に独立に、水素、直鎖もしくは分枝状のC_(1-6)-アルキル、C_(2-6)-アルケニル、C_(2-6)-アルキニル、C_(3-6)-シクロアルキル、C_(3-6)-シクロアルキル-C_(1-2)-アルキル、ヘタリ-ルまたはヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルを表し、あるいは、
R^(8)もしくはR_(8)およびR^(9)は、隣接するN原子と一緒になって、5、6もしくは7員環系または7ないし10員の二環系の炭素環を表し、この炭素環は場合によっては酸素、イオウ、スルホキシル、スルホニル、カルボニル、-N-O-、-N=、-NR^(11)-によりもしくは4級窒素によりまた中断され得、
R_(10)は水素もしくはC_(1-4)-アルキルを表し、そして
R^(11)は、水素、直鎖もしくは分枝状のC_(1-6)-アルキル、C_(3-6)-シクロアルキル、C_(2-6)-アルケニル、C_(2-6)-アルキニル、C_(3-6)-シクロアルキル、C_(3-6)-シクロアルキル-C_(1-2)-アルキル、C_(1-4)-アルコキシカルボニル、C_(1-4)-アルキルカルボニル、C_(3-6)-シクロアルキルカルボニル、シアノ、アリ-ル、アリ-ル-C_(1-2)-アルキル、ヘタリ-ルまたはヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルを表し、そして、
Bは、C_(1-6)-アルコキシ、C_(2-6)-アルケニルオキシ、C_(2-6)-アルキニルオキシ、C_(3-7)-シクロアルキルオキシ、C_(3-7)-シクロアルキル-C_(1-2)-アルキルオキシ、アリ-ルオキシ、アリ-ル-C_(1-2)-アルキルオキシ、ヘタリ-ルオキシ、ヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルオキシを表し、または、
アミノ基-NR^(12)R^(13)、-NR^(14)-NR^(12)R^(13)および-NR^(15)-OR^(16)を表し、式中、
R^(12)およびR^(13)は相互に独立に、水素、直鎖もしくは分枝状のC_(1-6)-アルキル、C_(1-6)-アルキルカルボニル、C_(1-6)-アルキルスルホニル、C_(2-6)アルケニル、C_(2-6)-アルキニル、C_(3-8)-シクロアルキル、C_(3-8)-シクロアルキル-C_(1-2)-アルキル、アリ-ル、アリ-カルボニル、アリ-ルスルホニル、アリ-ル-C_(1-2)-アルキル、ヘタリ-ル、ヘタリ-ルカルボニル、ヘタリ-ルスルホニルまたはヘタリ-ル-C_(1-2)-アルキルを表し、あるいは、
R^(12)およびR^(13)は、隣接するN原子と一緒になって、5、6、7もしくは8員環系または7ないし10員の二環系の炭素環を表し、この炭素環は場合によっては酸素、イオウ、スルホキシル、スルホニル、カルボニル、-N-O-、-N=、-NR^(11)-によりもしくは4級窒素によりまた中断され得、
R^(14)は、水素、直鎖もしくは分枝状のC_(1-6)-アルキル、C_(3-6)-シクロアルキルを表し、
R^(15)およびR^(16)は相互に独立に、水素、直鎖もしくは分枝状のC_(1-6)-アルキル、C_(1-6)-アルキルカルボニル、C_(2-6)-アルケニル、C_(2-6)-アルキニルまたはC_(3-6)-シクロアルキルを意味し、そして
R^(15)およびR^(16)は隣接するN-O-基と一緒になって炭素環の5、6もしくは7員環を表す、
但し、
式(Ia)でR_(1)、R_(5)および=G=Xが一緒に以下の基すなわちR_(1)が水素およびメチルを表し、
R_(5)が水素を表し、
【化10】

がカルボニルを表す場合、
基QおよびBが以下の条件すなわちQがメチル以外の基を表し、
Bが-NH_(2)以外の基を表す;また、
式(Ia)において、G^(2)および=G=Xが一緒に以下の基すなわち
【化11】

がカルボニルを表し、
G^(2)がtert-ブチルオキシ、ベンジルオキシまたは4-ニトロベンジルオキシを表す場合、
基Bがtert-ブチルオキシ、ベンジルオキシまたは4-ニトロベンジルオキシ以外の基を表す;また、
式(Ia)において、R_(4)およびR_(5)が水素を表す場合、基BはNH_(2)を表さず;また、
式(Ia)において、R_(1)?R_(5)が水素を表し、そして
【化12】


【化13】

を表す場合、基Bはメチルアミンを表さず;また、
式(Ia)において、
【化14】

がベンジルオキシカルボニルを表すか、または
【化15】


【化16】

を表す場合、基Bはベンシルアミノを表さず;また
式(Ia)において、
【化17】

がtert-ブチルオキシカルボニルを表し、R_(1)?R_(3)が水素を表し、そしてR_(4)またはR_(5)のいずれかがメチルを表し、他方が水素を表す場合、基Bはエトキシを表さず;また

【化18】

で表される化合物は除かれ;また
メチル‐O‐(N‐カルボベンゾキシ‐L‐ロイシル)-ヒドロキシエタノエ-ト、
メチル‐O‐(N‐カルボベンゾキシ‐L‐ロイシル)-(S)‐2‐ヒドロキシ-3‐フェニルプロパノエ-ト、
メチル‐O‐(N‐カルボベンゾキシ‐L‐ロイシル)-(S)‐2‐ヒドロキシプロパノエ-ト、
メチル‐O‐(N‐カルボベンゾキシ‐L‐ロイシル)-(S)‐2‐ヒドロキシ-4‐メチルペンタノエ-ト、
エチル‐N‐(ベンジルオキシカルボニル)アミノ‐2‐(O‐グリシル)‐グリコレ-ト、
エチル‐N‐(ベンジルオキシカルボニル)アミノ‐2‐(O‐グリシル)‐ラクテ-ト、
エチル‐N‐(ベンジルオキシカルボニル)アミノ‐2‐(O‐アラニル)‐グリコレ-ト、および
エチル‐N‐(ベンジルオキシカルボニル)アミノ‐2‐(O‐アラニル)‐ラクテ-トは除かれる。」

第3 当審で通知した拒絶理由
当審で通知した拒絶理由は、
(I)この出願の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
(II)この出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、(ア)として請求項1について、(イ)として請求項2について、いずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、
との理由を含むものである。

(II)の理由に対しては、請求人は、平成22年5月10日付け意見書の中で、
「しかしながら、上述した補正により、請求項1及び請求項2に記載の化合物から、ジデプシペプチドのα末端基及びω末端基が限定のない置換基を有する化合物は排除されたことのみならず、ジデプシペプチドのアミノ酸残基部分及びオキシカルボン酸残基部分の主鎖が限定のない置換基を有する化合物も排除された。
したがって、少なくとも、審判長殿の上記説示事項(イ)に関する記載不備は解消したものと信じる。」、
「ジデプシペプチドのα末端基及びω末端基が限定のない置換基を有する化合物は排除されたことのみならず、ジデプシペプチドのアミノ酸残基部分及びオキシカルボン酸残基部分の主鎖が限定のない置換基を有する化合物も排除されたことにより、請求項1及び請求項2に記載された化合物は、一般的に、生物活性に影響を与える事が知られている、化学構造要素の立体的な嵩だかさ等を含む、電子的、立体的、疎水的に多様性を示すものの、明細書165、166頁(特表平11-511142号公報158、159頁)の表に記載される実施例番号の化合物のものとそれらの多様性には大差がないものと信じる。」、
と述べ、同日付け手続補正によって、特許法第36条第6項第1号に適合しない範囲のものは特許請求の範囲から排除されたこと、請求項1及び請求項2に記載された化合物は、明細書165、166頁(特表平11-511142号公報158、159頁)の表に記載される実施例番号の化合物のものとそれらの多様性には大差がないことを主張している。
そして、当該主張は認められるので、上記「第2」に示したとおり、請求項2に係る発明は請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものと認定し、当審で通知した上記拒絶理由(I)について、以下に検討する。

第4 刊行物及び刊行物の記載事項
当審で通知した拒絶理由で引用された刊行物のうち、引用文献6、7、9、10として示したものは次のとおりであり、以下に示す事項が記載されている。

引用文献6:特開昭56-142251号公報(8頁実施例2工程1)
引用文献7:特開昭60-6649号公報(4頁例6.)
引用文献9:Macromolecules, 9〔5〕(1976) pp.802-808(803頁右欄)
引用文献10:Biopolymers, 16〔5〕(1977) pp.1033-1052(1036頁TABLE I)

以下、引用文献6、7、9、10を順に刊行物1、2、3、4という。

1 刊行物1(特開昭56-142251号公報)
(1a)「実施例2
(サルコシン^(1)、エチルL-ラクテート^(8))-アンギオテンシン-IIの製造
工程1
Boc-Pro-Lac-OEtの製造
4.8g(30ミリモル)のカルボニルジイミダゾールを、0℃で10分以内に、20mlの乾燥テトラヒドロフラン中の4.3g(20ミリモル)のBoc-Pro-OHの溶液に加える。その後、テトラヒドロフラン中の2.1g(20ミリモル)のエチルL-ラクテートの溶液を、同じ温度の前記混合物へ滴々加える。・・・2.22g(36%)のBoc-Pro-Lac-OEtが得られる;R_(f)^((3))=0.77,R_(f)^((1))=0.36。」(8頁左上欄1行?右上欄1行)

2 刊行物2(特開昭60-6649号公報)
(2a)「例6.
メタクリル酸クロリドとアラニンとからションテン・バウマン法でN-メタクリロイルアラニンを得、これをブロモ酢酸エチルとトリエチルアミンの存在下縮合させてN-メタクリロイルアラニンエトキシカルボニルメチルエステル(VIII)=(2,R=CH_(3))を得た。反応は酢酸エチル溶媒を用い、6時間加熱還流させておこなった。収率94.7%。
found C:54.76,H:7.20,N:5.71
caled C:54.31,H:7.00,N:5.76」(4頁右上欄7?17行)

3 刊行物3(Macromolecules)
(3a)「tert-Butoxycarbonyl-L-alanyl-L-lactic Acid N'-Methylamide.
tert-Butoxycarbonyl-L-alanyl-L-lactic acid^(3)(3g,11.5mmol) was dissolved in dry THF(28 ml),N-methylmorpholine(1.28 ml,11.5mmol) was added, and the solution was cooled to -20℃ with a dry ice /2-propanol bath. Isobutyl chloroformate(1.49ml,11.5mmol) was added and,after stirring 3 min, a precooled solution of methylamine in THF(1.1M,15ml,16.5mmol)was added dropwise.・・・NMR(CCl_(4))・・・Ir(KBr)・・・Anal.Calcd for C_(12)H_(22)N_(2)O_(5)・・・」 (803頁右欄表の下7?29行)

4 刊行物4(Biopolymers)
(4a)「Synopsis
The coupling of N-acyl-α-amino-acids with α-hydroxyacid-methyl amides results in depsipeptide molecules containing two chiral centers and one ester function inserted between two amide functions. Their conformational features have been investigated by IR spectroscopy, proton magnetic resonance, X-ray diffraction, and theoretical P.C.I.L.O. calculations.」(1033頁1?6行)
(4b)「

」(1036頁 TABLE I)

第5 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、(1a)に摘記したように、Boc-Pro-OHとエチルL-ラクテートとの反応による、「Boc-Pro-Lac-OEt」の製造が記載されており、化合物「Boc-Pro-Lac-OEt」が製造されたことは明らかであるから、
「化合物Boc-Pro-Lac-OEt」
の発明が記載されているといえる。

(2)刊行物2に記載された発明
刊行物2には、(2a)に摘記したように、メタクリル酸クロリドとアラニンとからN-メタクリロイルアラニンを得、これをブロモ酢酸エチルと縮合させ、N-メタクリロイルアラニンエトキシカルボニルメチルエステルを得たことが記載されており、N-メタクリロイルアラニンエトキシカルボニルメチルエステルが製造されたことは明らかであるから、
「化合物N-メタクリロイルアラニンエトキシカルボニルメチルエステル」
の発明が記載されているといえる。

(3)刊行物3に記載された発明
刊行物3には、(3a)に摘記したように、tert-Butoxycarbonyl-L-alanyl-L-lactic acidとN-methylmorpholineとを反応させ、tert-Butoxycarbonyl-L-alanyl-L-lactic Acid N'-Methylamideを得たことが記載され、tert-Butoxycarbonyl-L-alanyl-L-lactic Acid N'-Methylamideの固有の物性値も測定されており、この化合物が製造されたことは明らかであるから、
「化合物tert-Butoxycarbonyl-L-alanyl-L-lactic Acid N'-Methylamide(tert-ブトキシカルボニル-L-アラニル-L-乳酸 N’-メチルアミド)」
の発明が記載されているといえる。

(4)刊行物4に記載された発明
(4a)に摘記したように、刊行物4には、「N-acyl-α-amino-acids、すなわち、N-アシル-α-アミノ酸」と「α-hydroxyacid-methyl amides、すなわち、α-ヒドロキシ酸メチルアミド」を「coupling、すなわち、縮合」させて、「depsipeptide、すなわち、デプシペプチド」を製造することが記載され、それらは、赤外分光法や核磁気共鳴やX線回折により調査されたことが記載されている。
そして、その具体的化合物は、(4b)に摘記したTABLE Iに示されているから、刊行物4には、
「TABLE Iに示された化合物」
の発明が記載されているといえる。

2 対比・判断
(1)刊行物1に記載された発明との対比・判断
刊行物1には、「Boc-Pro-Lac-OEt」なる化合物の発明が記載されているところ、「Boc-Pro-Lac-OEt」なる化合物を検討するに、「Boc」は「tert-ブトキシカルボニル」基を意味し、「Pro」はプロリン、すなわち、ピロリジン-2-カルボン酸を意味し、「Lac」は乳酸であって2-ヒドロキシプロパン酸のことであり、「OEt」はエトキシ基を意味するから、本願発明における一般式(Ia)において、
「Qがtert-ブトシキ、=G=Xがカルボニル、R_(1)とR_(2)が、それらが結合される原子と一緒になって5員環を形成し、R_(3)とR_(4)が水素、R_(5)がメチル、Bがエトキシ基の化合物」
に相当する。
そして、「Qがtert-ブトシキ」とは、「Qが基(G^(2))を表し、G^(2)中のYが酸素、R^(8)が分枝状のC_(4)アルキル」のことである。
すなわち、刊行物1に記載された「Boc-Pro-Lac-OEt」なる化合物とは、本願発明における一般式(Ia)で表される化合物であって、「但し、」以下で規定される除外される化合物にも該当しない。
そうしてみると、本願発明は、刊行物1に記載された発明を包含するから、本願発明は刊行物1に記載された発明であるといえる。

(2)刊行物2に記載された発明との対比・判断
刊行物2には、N-メタクリロイルアラニンエトキシカルボニルメチルエステルの発明が記載されているところ、アラニンとは、2-アミノプロピオン酸のことであるから、この化合物は、本願発明における一般式(Ia)において、
「Qが、C_(3)アルケニルに相当するメタクリル、=G=Xがカルボニル、R_(1)、R_(3)?R_(5)が水素、R_(2)がメチル、Bがエトキシ基の化合物」
に相当する。
すなわち、刊行物2に記載されたN-メタクリロイルアラニンエトキシカルボニルメチルエステルなる化合物とは、本願発明における一般式(Ia)で表される化合物であって、「但し、」以下で規定される除外される化合物にも該当しない。
そうしてみると、本願発明は、刊行物2に記載された発明を包含するから、本願発明は刊行物2に記載された発明であるといえる。

(3)刊行物3に記載された発明との対比・判断
刊行物3には、tert-ブトキシカルボニル-L-アラニル-L-乳酸 N’-メチルアミドの発明が記載されているところ、「tert-ブトキシ」、「乳酸」については上記(1)に、「アラニン」については上記(2)に示したとおりであるから、該化合物は、上記(1)、(2)に示したように、本願発明における一般式(Ia)で表される化合物であって、「但し、」以下で規定される除外される化合物にも該当しない。
そうしてみると、本願発明は、刊行物3に記載された発明を包含するから、本願発明は刊行物3に記載された発明であるといえる。

(4)刊行物4に記載された発明との対比・判断
刊行物4には、「TABLE Iに示された化合物」の発明が記載されているから、この「TABLE I」を検討すると、標題中に記載される「R_(1)-C_(1)O_(1)-N_(2)R_(2)'-C_(2)^(α)H_(2)^(α)R_(2)-C_(2)O_(2)-O_(3)'-C_(3)^(α)H_(3)^(α)R_(3)-C_(3)O_(3)-N_(4)H_(4)-R_(4)」なる式は、(4a)に摘記したように、N-アシル-α-アミノ酸とα-ヒドロキシ酸メチルアミドとを反応させて製造された化合物を表すから、「N-アシル」に相当する構造が「R_(1)-C_(1)O_(1)-」の部分、「α-アミノ酸」に相当する構造が「-N_(2)R_(2)'-C_(2)^(α)H_(2)^(α)R_(2)-C_(2)O_(2)-」の部分、「α-ヒドロキシ酸」に相当する構造が「-O_(3)'-C_(3)^(α)H_(3)^(α)R_(3)-C_(3)O_(3)-」の部分、「メチルアミド」に相当する構造が「-N_(4)H_(4)-R_(4)」の部分といえる。
本願発明の化合物は、式(Ia)で表される構造を有しているから、本願発明の式(Ia)と刊行物4の「TABLE I」の標題中に記載される構造どうしを対応させると、刊行物4の「TABLE I」の標題中に記載された構造式の下付き数字はその原子の位置を表す番号であって原子の数でないことは明らかであり、また、上付きのαの記号はコンフォメーションを表す記号であって、両者の化合物の構造の対比に影響はないから、両者の化合物の構造は、以下の(ア)?(ク)に示す基どうしが互いに対応しているといえる。

本願発明の化合物の構造 刊行物4に記載された化合物の構造
(ア)Q R_(1)
(イ)G=X C_(1)O_(1)
(ウ)R_(1)(Nは略) R_(2)’
(エ)R_(2)、R_(3)(Cは略) H_(2)^(α)、R_(2)
(オ)C(=O)O C_(2)O_(2)-O_(3)’
(カ)R_(4)、R_(5)(Cは略) H_(3)^(α)、R_(3)
(キ)C=O C_(3)O_(3)
(ク)B N_(4)H_(4)-R_(4)
ここで、(イ)、(オ)、(キ)は比べるまでもなく一致しているから、(ア)、(ウ)、(エ)、(カ)、(ク)についてみる。
例えば、刊行物4の「TABLE I」の一番上に記載された化合物は、
「R_(1)=CH_(3)、R_(2)’=CH_(3)、R_(2)=R_(3)=H、R_(4)=CH_(3)」、であるから、本願発明の式(Ia)において、
「Qがメチル、R_(1)がメチル、R_(2)?R_(5)がH、Bがメチルアミノ」、に相当し、両者は一致する。
さらに例えば、刊行物4の「TABLE I」の上から7番目に記載された化合物は、「R_(2)’とR_(2)でトリメチレン」を形成しているところ、これは、本願発明の式(Ia)において、「R_(1)およびR_(2)はそれらが結合される原子と一緒になって、・・・5もしくは6員環」の「5員環」の場合に相当するから、両者は一致する。
そして、刊行物4の「TABLE I」の上から2番目に記載された化合物は、本願特許請求の範囲の請求項2の、
「式(Ia)において、R_(1)?R_(5)が水素を表し、そして
【化12】(化学式略)

【化13】(化学式略)
を表す場合、基Bはメチルアミンを表さず」
に該当するため、本願の請求項2に記載された化合物と一致しないが、他の場合は、すべて本願発明の化合物と一致する。
すなわち、刊行物4の「TABLE I」に記載された化合物で、該TABLEの上から2番目に記載された化合物以外のものは、すべて、本願発明における一般式(Ia)で表される化合物であって、「但し、」以下で規定される除外される化合物にも該当しない。
したがって、本願発明は刊行物4に記載された発明であるといえる。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?4に記載されている。

4 請求人の主張
請求人は、平成22年5月10日付けの意見書の「〔1〕理由1について」において、「1-2.審査官殿は、さらに、請求項2に係る発明は、引用文献2-27のいずれかに記載された発明であるとのご認定である。
なるほど、引用文献2-27には、一定のジデプシペプチド(以下、「引用ペプチド」という)が記載されている。
しかしながら、上記の(イ)?(ハ)の補正により、本願発明のジデプシペプチドは、一般式(I-a)の、特に、Q-G(=X)-及びBの定義により引用ペプチドと識別できるか、そうでない場合は、請求項2において特定の化合物が除かれていることにより、また、請求項2に記載の化合物と識別できる。
したがって、請求項2に係る発明は、また、引用文献2-27の存在にかかわりなく特許法第29条所定の特許要件を具備すると考える。」と主張する。

しかしながら、補正後の請求項2に記載される一般式(Ia)が、特定の化合物が除かれてもなお、上記「2」に示したように、刊行物1?4に記載された化合物を包含することは明らかである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-23 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-14 
出願番号 特願平9-508872
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
油科 壮一
発明の名称 ジデプシペプチドに基づく殺内部寄生虫薬(endoparasiticides)、新規ジデプシペプチドおよびそれらを調製する方法  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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