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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01T
管理番号 1229527
審判番号 不服2010-7188  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-05 
確定日 2011-01-05 
事件の表示 特願2000-163776号「スパークプラグ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月16日出願公開、特開2001- 68249号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成12年 5月31日を出願日とする特許出願(優先日:平成11年 6月25日、出願番号:特願平11-180426号)であって、願書に添付した明細書について平成21年 8月28日付けで補正したところ、原審において平成21年12月28日付けで特許法第53条第1項の規定によりその補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がされ(拒絶査定の送達(発送)日:平成22年 1月 5日)、これに対し、平成22年 4月 5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 補正却下の決定の適否

第1 手続の経緯にあるとおり、平成21年 8月28日付けの前記手続補正(以下「本件手続補正」という。)は却下されたものであるところ、請求人は、審判請求書において、本件手続補正がされたことを前提としてこの出願の発明が特許されるべき理由を主張しており、その請求の全趣旨に鑑みれば、原審においてされた平成21年12月28日付けの補正の却下の決定に対する不服を申し立てたものと解することができるので、最初に当該補正の却下の決定の適否について検討する。

1 本件手続補正の趣旨

本件手続補正は、次のとおり、本件手続補正の前の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号においていう特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(1) 請求項1について
本件手続補正の前の請求項1において、「前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくとも、Fe、Cr及びCuの少なくとも1以上からなる成分を絶縁体侵食抑制成分として含有する金属材料にて構成され、」とあるのを、「前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくともNi、Cr及びFeを含む成分を絶縁体侵食抑制成分として含有する金属材料にて構成され、」とすること(本件手続補正前の請求項からの摘記部分における下線は、便宜のため当審にて加筆した。)。

(2) 請求項3について
本件手続補正の前の請求項3において、「前記中心電極及び/又は前記接地電極の、前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくとも、前記Fe、Cr及びCuの少なくとも1を合計で10質量%以上含有する金属材料にて構成されている請求項1又は2に記載のスパークプラグ。」とあるのを、「前記中心電極及び前記接地電極における前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が、Ni-Cr-Fe合金(Cr:15質量%、Fe:8質量%、残:Ni)より構成されている請求項1又は2に記載のスパークプラグ。」とすること(本件手続補正の前請求項からの摘記部分における下線は、便宜のため当審にて加筆した。)。

そこで,最初に、本件手続補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願却下発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物及びその記載事項

(1) この出願前に頒布された刊行物である、特開平7-73956号公報(以下「引用例1」という。)には、「沿面放電・セミ沿面放電型スパークプラグ」に関連して、次のアないしクの技術的事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】図9に示す様に、リング状の接地電極911を一体形成した主体金具91と、主体金具91内に嵌め込まれて固定される軸孔921付の絶縁碍子92と、軸孔921内に固定される中心電極93とを具備し、碍子先端面922に沿って沿面放電(フル沿面放電)させる沿面放電型スパークプラグEが知られている。
【0003】しかるに、沿面放電型スパークプラグEにおいては、図10に示す様に、火花放電により、使用に伴って中心電極93の電極消耗が進行して発火部が径小になっていく。
【0004】又、沿面放電に係る放電火花が碍子先端面922を這う為に、所謂、機械加工で言う、放電加工現象が起き、使用するにつれて絶縁碍子92が削られ欠けていくという不具合が発生し(絶縁碍子のチャネリング)、この欠けが進行すると絶縁碍子92が破損してプラグとしての機能を果たさなくなる虞がある(図10参照)。
【0005】尚、中心電極93の電極消耗や、絶縁碍子のチャネリングは、点火エネルギーが大きいほど、顕著である。
・・・(中略)・・・
【0008】本発明の目的は、長期間使用しても、絶縁碍子のチャネリングが少ない、沿面放電・セミ沿面放電型スパークプラグの提供にある。」(公報第2ページ第1欄第19行から同ページ第2欄第5行まで)

イ 「【0015】
【実施例】本発明の第1実施例を図1?図6に基づいて説明する。セミ沿面放電型スパークプラグAは、筒状の主体金具1と、主体金具1内に嵌め込まれて固定される軸孔21付の絶縁碍子2と、貴金属合金材3を周設し、碍子先端面22から突出状態に軸孔21内に固定される中心電極4とを具備し、碍子先端面22に沿って放電を行なう沿面ギャップg_(1 )と、気中放電を行なう気中放電ギャップg_(2 )とを備える。
【0016】主体金具1は、低炭素鋼で製造され、外側電極12、12を先端面11に溶接している。又、主体金具1の先端外周にはネジ13が螺刻され、ガスケットを介して内燃機関のシリンダヘッド(何れも図示せず)に装着される。
【0017】L字状を呈する外側電極12は、放電面121が中心電極4の発火部を隔てて対向配置され、良熱伝導性の銅を封入したニッケル合金材(本実施例ではインコネル600 )で形成されている。
【0018】絶縁碍子2は、アルミナを主体とするセラミックで製造され、パッキンを介して座面を主体金具1の段部に係止し、主体金具1の六角頭部(何れも図示せず)を加締める事により、開口14から先端が突出する様に主体金具1内に固定される。
【0019】絶縁碍子2の先端面22は、放電面121の内方縁端121aより略同一平面または僅かに燃焼室側(図示上方)に位置し、セミ沿面を構成している。
【0020】先端付近の中心電極外周に幅0.8mm(=k)で周設される貴金属合金材3は、白金リング30とニッケル合金材40とをレーザーにより溶融凝固させたものである。そして、図6に示す様に、貴金属合金材3の先端31は、中心電極先端から0.75mm後方で、且つ碍子先端面22から0.2mm(=距離t_(1) )前方に位置し、後端32は碍子先端面22から0.6mm(=距離t_(2) )後方に位置する。
【0021】中心電極4(外径d=2mm)は、良熱伝導性の銅を内部に封入したニッケル合金材(本実施例ではインコネル600 )40で形成され、碍子先端面22から所定距離(本実施例では0.95mm)突出状態で軸孔21内に固定される。」(公報第2ページ第2欄第42行から第3ページ第3欄第30行まで)

ウ 「【0029】
つぎに、耐久試験(試験1、2)について述べる。
{試験1}溝幅(0.6mm)、及び凹溝401形成位置(先端31位置)を変更して、距離t_(1 )を0.2mm、0.3mm、-0.1mm、0.4mm、距離t_(2) を0.4mmとしたセミ沿面放電型スパークプラグを製造し、700Hr迄の(試験条件;2000cc DOHC 六気筒、5000rpm×w.o.t、火花エネルギー27mJ)の耐久試験を行ない、絶縁碍子2のチャネリング深さw(図3参照)を測定し、測定結果を図4に示すグラフに表した。」(公報第3ページ第4欄第8行から同ページ第4欄第18行まで)

エ 「【0032】
又、貴金属合金材3の先端31を、碍子先端面22から0.2mm前方に位置させているので、貴金属合金材3より先に位置する中心電極4は若干細る(図示せず)が、発火部付近の中心電極4の電極消耗の進行が抑えられるので、強度が低下せず、中心電極4の耐久性が向上する。」(公報第3ページ第4欄第35行から同欄第40行まで)

オ 外側電極12がギャップg_(1 )、g_(2 )に面していること。(公報第5ページの図1)

カ t_(1) をそれぞれ0mm、0.2mm、0.3mm、-0.1mmにした時のチャネリング深さwの耐久時間(Hr)に応じた変化の様を示す曲線(カーブ)のうち、t_(1 )を0mm又は0.2mmにした時が低いチャネリング深さwの変化を示すこと。(公報第5ページの図4)

キ 中心電極4と先端面22を有する絶縁碍子との間に隙間があること。(公報第5ページの図1及び同第6ページの図6)

ク 中心電極4に設けられた貴金属合金材3の先端31が絶縁碍子の先端面22からt_(1 )の距離に位置し、t_(1 )の距離を超えて中心電極4の先端までは同貴金属合金材が設けられていないこと。(公報第6ぺージの図6)

(2)引用発明

前記引用例1に記載された技術的事項アないしク及び上記で摘記していないその他の図面の記載を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「中心電極と、自身に形成された軸孔内に前記中心電極が軸線方向に挿入され、該中心電極の先端部を自身の先端面に露出させる絶縁碍子と、前記中心電極の先端部との間に火花放電ギャップを形成するとともに、当該火花放電ギャップにて前記絶縁碍子の先端部表面に沿う沿面火花放電が可能となるように、前記絶縁碍子先端部及び中心電極先端部との間の位置関係が定められた外側電極とを備え、
前記中心電極及び/又は前記外側電極は、前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分を備えており、かつインコネル600にて構成され、たスパークプラグ。」

3 本願却下発明との対比

そこで、本願却下発明と引用発明とを比較する。

ア 引用発明の「軸孔」及び「絶縁碍子」は、それぞれ、本願発明の「貫通孔」及び「絶縁体」に相当する。

イ 引用発明の「外側電極」は、接地されているものであることが明示されていないが、前記第2の2(1)のイの段落【0016】にあるとおり、外側電極が溶接された主体金具は先端外周のネジ13によりシリンダヘッドに装着されるものであるから、通常シリンダヘッドを含む内燃機関が接地側にあることに鑑みれば、外側電極も接地されていることと看取できるから、本願却下発明の「接地電極」に相当する。

ウ 引用発明の「中心電極」及び「外側電極」は、スパークプラグが電極間に生じる放電現象による発火を行うものであるというその作動原理に照らしてみれば、「火花放電ギャップに面する発火面形成部分」を具備していることは明らかであるが、中心電極の発火面形成部分が中心電極を構成する金属材料にて構成されているか否かについて明示的な記載はない。

しかし、引用発明は、前記第2の2(1)のイないしエ、カ及びクに示したとおり、中心電極の貴金属合金材で構成されていない部分は使用にともなって若干細くなるものであって当該部分において放電が生じていることが示唆されていることに加え、t_(1 )=0mm、すなわち絶縁碍子の先端面から突出している中心電極の部分のすべてが貴金属合金材で構成されていない場合をもその実施の態様として含むものであるから、中心電極の表面のうち貴金属合金材が周設されていない表面も発火面となるものである。

そうすると、引用発明においても、中心電極の発火面形成部分が中心電極を構成する金属材料にて構成されているものと言える。

また、外側電極の発火面形成部分は、スパークプラグの作動原理を前提として、前記第2の2(1)のイの段落【0015】及び【0017】の記載をみれば、外側電極を構成する材料にて構成されているものと言える。

ところで、引用発明の「中心電極」及び「外側電極」は、良熱伝導性の銅を封入したニッケル合金材(インコネル600)にて構成されたものであり、ここでいうインコネル600は、INCONEL(登録商標) 600とも称され、当該INCONEL(登録商標) 600は、少なくともNi、Cr及びFeを含む成分を含有する金属材料であることが周知の事項である(必要であれば、この出願の明細書にも引用されている改訂3版「金属データブック」、社団法人 日本金属学会編、平成5年3月25日、丸善株式会社発行、第138ページ、「6・4・1鋳造用耐熱合金b.Ni基超耐熱合金の組成」の表、を参照のこと。)。

また、この出願の明細書の段落【0032】には、次の記載があり、そこには、INCONEL(登録商標) 600が具体的な合金材として掲げられている。

「【0032】
次に、チャンネリング抑制効果の高い侵食抑制層30(図4)を形成するためには、中心電極2及び/又は接地電極4は、火花放電ギャップg1あるいはg2に面する発火面2b,4aの形成部分が少なくとも、Fe、Cr及びCuの少なくとも1を合計で10質量%以上含有する金属材料にて構成されていることが望ましい。また、電極2,4の耐熱性を考慮すれば、発火面2b,4aの形成部分が少なくとも、Ni又はFeを主成分とするもので構成されていることが望ましい(なお、本明細書において「主成分」とは、最も質量含有率の高い成分を意味し、必ずしも「50質量%以上を占める成分」を意味するものではない)。例えば、Ni又はFeを主成分とする耐熱合金としては、次のようものが使用可能である。
【1(丸数字の「1」)】Ni基耐熱合金:本明細書では、Niを40?85質量%含有し、残部の主体が、Cr、Co、Mo、W、Nb、Al、Ti及びFeの1種又は2種以上からなる耐熱合金を総称する。具体的には、次のようなものが使用できる(いずれも商品名;なお、合金組成については、文献(改訂3版金属データブック(丸善);p138)に記載されているので、詳細な説明は行わない):
ASTROLOY、CABOT 214、D-979、HASTELLOY C22、HASTELLOY C276、HASTELLOY G30、HASTELLOY S、HASTELLOY X、HAYNES 230、INCONEL 587、INCONEL 597、INCONEL 600、INCONEL 601、INCONEL 617、INCONEL 625、INCONEL 706、INCONEL 718、INCONEL X750、KSN、M-252、NIMONIC 75、NIMONIC 80A、NIMONIC 90、NIMONIC 105、NIMONIC 115、NIMONIC 263、NIMONIC 942、NIMONIC PE11、NIMONIC PE16、NIMONIC PK33、PYROMET 860、RENE 41、RENE 95、SSS 113MA、UDIMET 400、UDIMET 500、UDIMET 520、UDIMET 630、UDIMET 700、UDIMET 710、UDIMET 720、UNITEP AF2-1 DA6、WASPALOY。」(下線は、便宜のため当審にて加筆した。)

そうすると、引用発明の「中心電極」及び「外側電極」は、その発火面形成部分が少なくともNi、Cr及びFeを含む成分を含有する金属材料にて構成されたものであると言える。

以上のアないしウを踏まえると、本願却下発明は、引用発明と比して、次の点で一致すると言える。

<一致点>

「中心電極と、自身に形成された貫通孔内に前記中心電極が軸線方向に挿入され、該中心電極の先端部を自身の先端面に露出させる絶縁体と、前記中心電極の先端部との間に火花放電ギャップを形成するとともに、当該火花放電ギャップにて前記絶縁体の先端部表面に沿う沿面火花放電が可能となるように、前記絶縁体先端部及び中心電極先端部との間の位置関係が定められた接地電極とを備え、
前記中心電極及び/又は前記接地電極は、前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくともNi、Cr及びFeを含む成分を含有する金属材料にて構成され、たスパークプラグ。」

また、本願却下発明は、引用発明と比して、次の点で相違すると言える。

<相違点>

(1) 前記中心電極及び/又は前記接地電極を構成する金属材料に含有される少なくともNi、Cr及びFeを含む成分が、本願却下発明においては、「絶縁体侵食抑制成分」とされており、かつ、「火花放電ギャップにおける火花放電に伴い絶縁体先端部表面に絶縁体侵食抑制成分を含有した侵食抑制層が形成されるようになって」いるのに対して、引用発明においては、当該成分が、「絶縁体侵食抑制成分」であるか否か明らかでなく、かつ、「火花放電ギャップにおける火花放電に伴い絶縁体先端部表面に絶縁体侵食抑制成分を含有した侵食抑制層が形成されるようになって」いるか否か明らかでない点で一応相違する。

(2) 中心電極の外径Dと、該中心電極が挿通される前記貫通孔の内径dとの差d-D(以下「径差」という。)について、本願却下発明が、「絶縁体の先端位置から軸線方向に5mm離間した位置において0.07mm以上0.25mm以下の範囲で確保されている」のに対して、引用発明においては、かかる「径差」について言及されていない点で相違する。

4 相違点についての検討・判断

(1) まず始めに、前記相違点(1)に関して、以下に検討する。

引用発明においては、侵食抑制層について触れるところはないが、この出願の明細書の段落【0025】ないし【0028】に記載された侵食抑制層の形成される原理に照らしてみれば、侵食抑制層の形成を促進するためのスパークプラグの使用条件等はいろいろ考えられるものの、本件却下発明の如く、「中心電極と、自身に形成された貫通孔内に前記中心電極が軸線方向に挿入され、該中心電極の先端部を自身の先端面に露出させる絶縁体と、前記中心電極の先端部との間に火花放電ギャップを形成するとともに、当該火花放電ギャップにて前記絶縁体の先端部表面に沿う沿面火花放電が可能となるように、前記絶縁体先端部及び中心電極先端部との間の位置関係が定められた接地電極とを備え、前記中心電極及び/又は前記接地電極は、前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくともNi、Cr及びFeを含む成分を含有する金属材料にて構成され、たスパークプラグ」でありさえすれば、Ni、Cr及びFeを含む成分が侵食抑制層として作用し、火花放電ギャップにおける火花放電に伴い絶縁体先端部表面に絶縁体侵食抑制成分を含有した侵食抑制層が形成されるようになるものと解するほかないから、そのようなスパークプラグである点で本願却下発明と差異のない引用発明も、当該成分が絶縁体侵食抑制成分とされており、かつ、火花放電ギャップにおける火花放電に伴い絶縁体先端部表面に絶縁体侵食抑制成分を含有した侵食抑制層が形成されるようになっているスパークプラグであるといえる。

したがって、相違点(1)については、実質的に相違するところではない。

(2) 次に相違点(2)について検討する。

引用発明においては、「径差」について明らかにされていないが、「径差」を確保するということは、中心電極と、該中心電極が挿通される前記貫通孔との間に隙間を確保することと同視することができ、かつ、中心電極と絶縁体とはそれを構成する材料が異なり、スパークプラグが使用される状況における両者の熱膨張率の差により絶縁体の割れ等の不都合が発生することは周知の技術課題であって、これを防止するために中心電極と該中心電極が挿通される絶縁体の貫通孔との間に隙間を設けることは普通に行われることであるから、引用発明においても、そのような「径差」は実質的に確保されているものといえる。

そして、そのような「径差」をどの程度で確保するかは、当業者が実験等により好適化又は最適化することによって適宜なし得る設計上の事項である。

その上、スパークプラグにおいて、「径差」を0.07mm以上0.25mm以下の範囲とすること又はそのような範囲の「径差」を確保することと同視し得る隙間を確保することは、例えば、特開昭64-27176号公報第10ページ右上欄第13行から同ページ左下欄第1行までの記載及び第15ページの第27図の記載からは、0.15mmを下回る範囲の隙間(「径差」としては、0.3mmを下回る範囲に相当する。)が、特開平5-159853号公報第4ページ第5欄第10行から第29行及び同ページ第6欄第11行から第19行の記載並びに第5ページの図2と図3及び第7ページの図6の記載からは、0.025mmから0.075mmの範囲の隙間(「径差」としては、0.05mmから0.15mmの範囲に相当する。)が、特開平9-199260号公報第5ページ第8欄第50行から第6ページ第9欄第8行の記載及び同公報第7ページ第12欄第8行から第20行の記載並びに第10ページの図2、第11ページの図8及び第12ページの図9の記載からは、0.03mmの「径差」及び概ね0.1mmから0.25mmを含む範囲の「径差」が、それぞれ看て取れることから理解されるように、スパークプラグとして周知の事項であって、格別特異なことではない。

また、引用発明において、「径差」は、絶縁体の先端位置から軸線方向に離間した位置に応じてどのようにその値が変化するかが定かではないが、前記引用例1における図1や図6に記載された引用発明を具体化した構造を見ると、「径差」を確保することと同視し得る隙間が絶縁体の先端位置から軸線方向に離間した位置に応じて変化している様はなく、かつ、その他に、その隙間を絶縁体の先端位置から軸線方向に離間した位置に応じて変化させているとする格別の理由はないので、引用発明は、絶縁体の先端位置から軸線方向に離間した位置に依らず、設計上同視し得る程度で実質的に一定の隙間を備えており、そのことから「径差」も設計上同視し得る程度で実質的に一定のものであるといえる。

そうすると、「径差」の範囲を、絶縁体の先端位置から軸線方向に5mm離間した位置において特定するか否かは、当該「径差」の範囲に実質的に差異をもたらすものではないから、設計上の事項と言うことができる。

したがって、以上を考慮すれば、引用発明において、相違点(2)の如く構成することは、当業者であれば適宜なし得るものである。

また、そのことにより、顕著な効果を奏するものでもない。

5 まとめ

両相違点(1)及び(2)を総合してみても、本願却下発明により、引用発明及び周知の事項から、予測し得ない顕著な効果を奏するものではない。

したがって、本願却下発明は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 むすび

以上のとおりであるから、その余について論じるまでもなく、本件手続補正は、改正前特許法17条の2第5項に規定する要件を満たすものではない。

したがって、特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものであるとした原審における補正の却下の決定は妥当なものである。

第3 本願発明

前記第2に記載したとおり、平成21年 8月28日付け手続補正は却下されているので、この出願の特許請求の範囲の請求項1?17に係る発明は、それぞれ平成21年 5月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
中心電極と、
自身に形成された貫通孔内に前記中心電極が軸線方向に挿入され、該中心電極の先端部を自身の先端面に露出させる絶縁体と、
前記中心電極の先端部との間に火花放電ギャップを形成するとともに、当該火花放電ギャップにて前記絶縁体の先端部表面に沿う沿面火花放電が可能となるように、前記絶縁体先端部及び中心電極先端部との間の位置関係が定められた接地電極とを備え、
前記中心電極及び/又は前記接地電極は、前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくとも、Fe、Cr及びCuの少なくとも1以上からなる成分を絶縁体侵食抑制成分として含有する金属材料にて構成され、前記火花放電ギャップにおける火花放電に伴い前記絶縁体先端部表面に前記絶縁体侵食抑制成分を含有した侵食抑制層が形成されるようになっており、かつ、
前記中心電極の外径Dと、該中心電極が挿通される前記貫通孔の内径dとの差d-Dが、前記絶縁体の先端位置から軸線方向に5mm離間した位置において0.07mm以上0.25mm以下の範囲で確保されていることを特徴とするスパークプラグ。」

第4 引用刊行物及びその記載事項

前記第2の2に記載したとおりである。

第5 対比・判断

本願発明は、前記第2の1に記載したとおり、本願却下発明の「前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくともNi、Cr及びFeを含む成分を絶縁体侵食抑制成分として含有する金属材料にて構成され、」(下線は、便宜のため当審にて加筆した。)を「前記火花放電ギャップに面する発火面形成部分が少なくとも、Fe、Cr及びCuの少なくとも1以上からなる成分を絶縁体侵食抑制成分として含有する金属材料にて構成され、」に上位概念化したものに相当するものである。

そうすると、本願発明を特定するために必要な事項の全てを含むとともに本願発明を下位概念化したものに相当する本願却下発明が、前記第2において検討したとおり、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

そして、そのような発明を包含するこの出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-05 
結審通知日 2010-11-08 
審決日 2010-11-24 
出願番号 特願2000-163776(P2000-163776)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 哲也中田 善邦  
特許庁審判長 林 浩
特許庁審判官 小関 峰夫
栗山 卓也
発明の名称 スパークプラグ  
代理人 菅原 正倫  

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