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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1229591
審判番号 不服2007-2268  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 平成8年特許願第232259号「ビーム硬化性印刷インキ」拒絶査定不服審判事件〔平成9年4月28日出願公開、特開平9-111175〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年9月2日(パリ条約による優先権主張 1995年9月7日、ドイツ連邦共和国(DE))の出願であって、平成15年7月16日付けで拒絶理由が通知され、同年10月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成16年5月19日付けで拒絶理由が通知され、同年8月16日に意見書が提出され、平成18年10月27日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成19年1月18日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同日付けで手続補正書が提出された後、平成20年11月28日付けで審尋がされ、平成21年3月4日に回答書が提出され、平成21年7月22日付けで平成19年1月18日付けの手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶理由が通知され、平成22年1月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願に係る発明は、平成22年1月18日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。
「ビーム硬化性印刷インキにおいて、一般式:
【化1】

[式中、R_(1)はメチルであり、R_(2)は一般式:
-CH_(2)-CH_(2)-COO-CH_(2)-C(CH_(2)OCO-CH=CH_(2))_(3)又は
-CH=CH-COO-CH_(2)-C(CH_(2)OCO-CH=CH_(2))_(3)であるか、あるいは
【化2】

の基であり、
R_(3)はメチルであり、nは30?150であり、mは0?3である]のオルガノポリシロキサンを、総インキ製剤に対して0.01?3重量%の量で含有するビーム硬化性印刷インキ。」(以下、「本願発明」という。)

第3 当審の拒絶理由
当審の拒絶理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


刊行物1:特開平3-152174号公報
刊行物2:特開平7-149906号公報

第4 引用刊行物の記載事項及び記載された発明
(1)引用刊行物の記載事項
(1-1)刊行物1に記載された事項
「特開平3-152174号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-a)「(1)表面機能化用の添加剤を含む電離放射線硬化用インキを基材にコートした後、機能化する表面の反対側から電離放射線を照射し、次にいずれか一方の側又は両側から電離放射線を照射することを特徴とする表面機能化方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1-b)「(5)請求項1乃至4のいずれかに記載の表面機能化方法において、前記電離放射線硬化用インキが添加剤を0.01?50重量%含有することを特徴とする表面機能化方法。
(6)請求項5に記載の表面機能化方法において、前記添加剤がシリコーン、ワックス、シリコン、粉体、界面活性剤、フッ素化合物、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤又は安定剤であることを特徴とする表面機能化方法。」(特許請求の範囲の請求項5及び6)
(1-c)「本発明において用いることのできる電離放射線硬化用インキは、紫外線や電子線等の電離放射線で硬化する電離放射線硬化型樹脂を主体とするインキである。」(第2頁右下欄10行?13行)
(1-d)「カーボンを加えれば帯電防止性を向上することができ、また着色することにもなる。」(第4頁左上欄10行?12行)
(1-e)「次に上述のインキを基材表面に塗布する。基材としては、ポリエステル等のプラスチックフィルムを用いるのが好ましい。塗布方法としてはブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコ-ティング法、ナイフコーディング法、リバースロールコーティング法、オフセットグラビアコーティング法等が使用できる。」(第4頁右下欄11行?17行)
(1-f)「実施例1
ウレタンアクリレート(UV-7700B、日本合成化学工業(株)製)75重量部と、ジペンタエリスリトールへキサアクリレート(DPHA、日本化薬工業(株)製)25重量部と、シリコーンアクリレート(TUV-6000、東芝シリコ-ン(株)製)1重量部とを混合し、60℃に加温してロールコート方式により、厚さ200μmのポリ塩化ビニルフィルム(BC-801、三宝樹脂工業(株)製)にコートした。
コートした面に、シリコーン処理したポリエステルフィルム(E7000、東洋紡(株)製)をラミネートした。
ラミネート後、エレクトロンカーテン型電子線(EB)照射装置(ESI社製)により、第1の電子線照射として210KVの加速電圧でポリ塩化ビニルフィルム面から電子線をlMrad照射した。
次に、第2の電子線照射としてシリコーン処理したポリエステルラミネートフィルム面から180KVの加速電圧で電子線を5Mrad照射し、塗膜を完全に硬化させた。
硬化後ラミネートフィルムを除去して、以下の要領で硬化塗膜の物性を評価した。
(イ)爪スクラッチテスト
人差指の爪で塗膜を2?3回引っかき(引っかきの長さは約30mm)、著しい傷、復元しない傷又は生地が露出するような傷が生ずるかどうかを観察する。
○:傷つかない
×:傷つく
(ロ)滑り性テスト
塗膜の表面に50gの重りを置き、徐々に塗膜表面に角度をつけてゆき、重りが滑り出す角度を測定した。
(ハ)口紅テスト
塗膜表面に口紅を塗り、室温で4時間放置した後、石油ベンジンでこれを拭き取り、口紅が消えるか否かを観察した。
○:口紅が消える
×:口紅が残る
結果を第1表に示す。」(第6頁左上欄9行?左下欄8行))
(1-g)第1表に実施例1等についての爪スクラッチテスト、滑り性テスト及び口紅テストの結果が記載されており、実施例1については、爪スクラッチテストが○、滑り性テストが10°及び口紅テストが○であることが示されている。(第7頁左上欄4行?6行)

(1-2)刊行物2に記載された事項
「特開平7-149906号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-a)「アクリル酸エステル基(アクリレート基)で変性されたオルガノポリシロキサンは、高エネルギー照射で硬化可能な結合剤として、例えば印刷インキのためおよび紙、木材表面および金属表面のための塗料結合剤または被覆剤を製造するために有利であることが判明した。該オルガノポリシロキサンは、殊に接着性被覆材料として使用することができる。硬化は、殊に公知の開始剤、例えばベンゾフェノンおよびその誘導体の添加後に、UV-照射または電子線照射硬化によって極く短時間で行われる。」(段落【0008】)
(2-b)「本発明による化合物は、照射硬化塗料または被覆材料としてまたはこの種の系中での添加剤として使用することができる。該化合物は、常法では、硬化開始剤、充填剤、顔料および別の常用の添加剤を用いて配合することができる。本発明による化合物は、三次元的に、遊離基によって架橋されていてもよく、例えば過酸化物を添加しながらかまたは高エネルギー照射、例えばUV-照射または電子線照射の作用下に、極めて短時間に熱硬化して、本発明の化合物の適当な組成の場合に予め決定可能な接着性の性質を有する機械的かつ化学的抵抗能の層になる。」(段落【0080】)
(2-c)「例 1
平均の全鎖長N=8および一般式:
HMe_(2)SiO(SiMe_(2)O)_(8)SiMe_(2)H
で示される末端にSiH-官能化されたポリジメチルシロキサン50.1g(0.09モル、0.18val SiH)を、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)[RhCl(PhCl(Ph_(3)P)_(3)]19.2mg(=Rh20ppm)並びにフェノールチアジン20mgと一緒に、撹拌機、滴定漏斗、温度計および還流冷却器を備えた250mlの4つ口フラスコ中に装入し、かつ撹拌しながら80℃に加熱する。前記温度で、トリメチロール(LaromerTMPTA;BASF社)52.1g(0.176モル、0.53val C=C)を30分間で滴加する。添加の完結後に、官能混合物を、更に、80℃で約5時間後に>99%の変換率が達成されるまで撹拌する。この場合、変換率性は1時間毎のSiH-値測定が使用される。
次に、この反応を中断し、かつ触媒残分を反応混合物から濾別する。オイルポンプによる真空中での蒸留によって、揮発性副生成物を除去する。93%の収率で得られた反応生成物は、清澄で僅かに帯赤色に着色され、かつ20℃で420mPa・sの粘度を有する。暗所で70℃で>4週間の熱貯蔵は、生成物の物理的外形に影響を及ぼし、ゲル化は生じない。
^(1)H-NMR、^(13)C-NMRおよび^(29)Si-NMRを用いる分析試験は、期待された構造を証明し、かつ出発成分の付加反応生成物が式I(分光器のデータに相応する)によって記載することができることを示している:
【化27】

但し、
【化28】

(β-1,2-付加反応生成物)
分光器のデータ:
^(1)H-NMR(CDCl_(3)):δ=0.85(m,a)、2.35(t,b)
^(29)Si-NMR(CDCl_(3)):δ=7.5(Si-CH_(2)-CH_(2))
または
【化29】

(β-1,2-脱水化する付加反応、(E)-3-シリルプロペノエート)
分光器のデータ:
^(1)H-NMR(CDCl_(3)):δ=6.25(d,a’)、7.16(d,b’)
^(29)Si-NMR(CDCl_(3)):δ=-3.9(Si-CH=CH-)
である。
この場合、TMPTAの双方の付加反応生成物の比は、約1:1である。α-1,2-付加反応生成物は、検出不可能であった(≦1%)。
例 2
例1に記載されたのと同様の方法で、平均の全鎖長N=30の末端でSiH-官能性化されたポリジメチルシロキサン96.9g(0.044モル)を、トリメチロールプロパントリアクリレート26.1g(0.088モル)と、触媒としてクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)[RhCl(Ph_(3)P)_(3)]22.3mg並びに重合阻害剤としてフェノチアジン25mgを使用しながら、ヒドロシリル化反応中で互いに反応させる。処理後に、700mPa・sの粘度を有する清澄な反応生成物115g(理論値の95%に相応する)が得られ、該反応生成物は、分光器によるデータに相応して式II:
【化30】

によって記載することができる。
例 3
平均の全鎖長N=50の末端でSiH-官能性化されたポリジメチルシロキサン200g(0.053モル)、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)[RhCl(Ph_(3)P)_(3)]20.8mg(=Rh10ppm)並びに重合阻害剤としてのフェノチアジン40mgを、室温で500mlの4つ口フラスコ中に装入する。この後、該混合物を、撹拌しながら100℃に加熱する。>99%(約2時間後)の変換率の達成後に、該反応生成物を上記の方法で処理する。750mPa・sの粘度を有する黄色の反応生成物216g(理論値の94%に相応する)が得られ、該反応生成物は、分光器によるデータに相応して一般式:
【化31】

によって記載することができる。」(段落【0083】?【0098】)
(2-d)「使用技術的試験
本発明により使用すべき物質の使用技術的性質の試験のために、実施例の生成物並びに本発明によらない比較例を、平板上の支持体(配向されたポリプロピレン薄膜)の上に塗布し、かつ2Mラドの電子照射(ESH)の作用によって硬化させるかもしくは光開始剤(Darocure(登録商標)1173、チバガイギィ(Ciba Geigy)社)の添加後に、120W/cmを有する紫外線光(UVH)の作用によって、20m/分の軌道速度(Bahngeschwindigkeiten)で硬化させる。塗布量は、全ての場合に、約0.8g/m^(2)である。
分離値
分離値の測定のために、バイヤードルフ社(Firma Beiersdorf)の種々の25mm幅の粘着テープ、詳細には、TESA(登録商標)7475の名称で市販により入手可能であるアクリレート粘着剤で被覆された粘着テープ並びにTESA(登録商標)7476およびTESA(登録商標)4154の名称で市販により入手可能であるゴム粘着剤で被覆された粘着テープを使用する。粘着性の測定のために、前記粘着テープを下地の上に巻き取り、引続き、TESA(登録商標)4154の場合には70℃で、TESA(登録商標)7475およびTESA(登録商標)7476の場合には40℃で70g/cm^(2)の重量で貯蔵する。24時間後に、それぞれの粘着テープを30cm/分の速度で、下地に対して180°の剥離角度で剥がすために必要とされる力を測定する。前記の力を、分離値と呼称する。一般的な試験手順は、本質的に、FINAT 試験法 No.10に相応する。老化挙動の試験のために、7日間および14日間、上記条件下で貯蔵する。
ループ試験
ループ試験を、分離被覆(Trennbeschichtung)の硬化速度の迅速な測定のために使用する。このために、TESA(登録商標)4154の名称で市販により入手可能であるバイヤードルフ社の粘着テープの約20cmの長さのテープを、3回下地の上に巻き取り、直ちに、再度剥離する。次に、該粘着テープの末端をまとめることによってループを形成し、その結果、双方の末端の粘着面は、ほぼ1cmの区間で接触している。次に、この末端を再度手で引き離し、この場合、接触面は、均一に粘着テープの中央へ移動する。不良に硬化した分離材料との混交の場合、粘着テープの粘着力は、接触面を末端を引き離す際にまとめるためには、もはや十分ではない。前記の場合、試験は不合格と見做される。
残留粘着力(Restklebkraft)
残留粘着力の測定を、FINAT Testvorschrift No.11の記載により行う。このために、バイヤードルフ社の粘着テープ TESA(登録商標)7475を下地の上に巻き取り、引続き、70℃で70g/cm^(2)の重量で貯蔵する。24時間後に、該粘着テープを下地から分離し、かつ鋼板の上に巻き取る。1分後に、粘着テープを30cm/分の速度で、鋼板に対して180°の剥離角度で剥がすために必要とされる力を測定する。こうして測定された値は、未処理の粘着テープが、その他の点で同じ試験条件下に生じる値によって割った。この結果を残留粘着力と呼称し、通常、百分率で記載する。」(段落【0124】?【0127】)
(2-e)例2及び3の生成物を含むオルガノポリシロキサンについて、使用技術的試験を行い、その結果が、表2及び3に残留粘着力及びループ試験、表2?表7に分離値が記載されており、例2及び3で製造されたポリオルガノシロキサンが残留接着力、ループ試験及び分離値において、優れた特性を有すること(【表1】及び【表2】)が記載されている。(段落【0129】?【0136】)

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「表面機能化用の添加剤を含む電離放射線硬化用インキを基材にコートした後、機能化する表面の反対側から電離放射線を照射し、次にいずれか一方の側又は両側から電離放射線を照射することを特徴とする表面機能化方法。」(摘示(1-a))と記載されており、その実施例1には、「ウレタンアクリレート・・・75重量部と、ジペンタエリスリトールへキサアクリレート・・・25重量部と、シリコーンアクリレート・・・1重量部とを混合し、・・・厚さ200μmのポリ塩化ビニルフィルム・・・にコートした。
コートした面に、シリコーン処理したポリエステルフィルム・・・をラミネートした。
ラミネート後、エレクトロンカーテン型電子線(EB)照射装置・・・により、第1の電子線照射として210KVの加速電圧でポリ塩化ビニルフィルム面から電子線をlMrad照射した。・・・次に、第2の電子線照射としてシリコーン処理したポリエステルラミネートフィルム面から180KVの加速電圧で電子線を5Mrad照射し、塗膜を完全に硬化させた。硬化後ラミネートフィルムを除去して、」(摘示(1-f))と記載されている。刊行物1の実施例1では、ウレタンアクリレート、ジペンタエリスリトールへキサアクリレート及びシリコーンアクリレートを混合させ、塗布した後、電子線を照射して硬化させている。これら3成分の混合物は電離放射線硬化用インキであって、3成分で製剤としてのインキすべてを構成しており、ウレタンアクリレート、ジペンタエリスリトールへキサアクリレート及びシリコーンアクリレート合計101重量部にシリコーンアクリレートを1重量部が含ませているから、シリコーンアクリレートは、電離放射線硬化用インキに約1重量%含まれている。
したがって、刊行物1には、
「電離放射線硬化用インキにおいて、シリコーンアクリレートを、総インキ製剤に対して約1重量%の量で含有する電離放射線硬化用インキ。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第5 本願発明と引用発明との対比及び相違点についての判断
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「電離放射線硬化用インキ」は、グラビアコーティング法により基材に塗布することができるのであるから(摘示(1-e))、本願発明の「印刷インキ」といえる。また、刊行物1の「本発明において用いることのできる電離放射線硬化用インキは、紫外線や電子線等の電離放射線で硬化する電離放射線硬化型樹脂を主体とするインキである。」(摘示(1-c))との記載からみて、このインキは、紫外線や電子線等の電離放射線で硬化するものであって、紫外線や電子線等の電離放射線はビームに該当するものであるから、引用発明における「電離放射線硬化用インキ」は、本願発明の「ビーム硬化性印刷インキ」に相当すると認められる。
また、引用発明の「シリコーンアクリレート」は、「オルガノポリシロキサン」である。したがって、両者は、
「ビーム硬化性印刷インキにおいて、オルガノポリシロキサンを、総インキ製剤に対して0.01?3重量%の量で含有するビーム硬化性印刷インキ。」
の点で一致し、次の点で相違する。
ア.本願発明では、オルガノポリシロキサンが「一般式:
【化1】

[式中、R_(1)はメチルであり、R_(2)は一般式:
-CH_(2)-CH_(2)-COO-CH_(2)-C(CH_(2)OCO-CH=CH_(2))_(3)又は
-CH=CH-COO-CH_(2)-C(CH_(2)OCO-CH=CH_(2))_(3)であるか、あるいは
【化2】

の基であり、
R_(3)はメチルであり、nは30?150であり、mは0?3である]」(以下、「特定オルガノポリシロキサン」という。)に特定されているのに対して、引用発明においては、オルガノポリシロキサンが特定オルガノポリシロキサンとはされていない点(以下、「相違点ア」という。)

(2)本件発明と引用発明との相違点についての判断
次いで上記相違点について検討する。
(2-1)相違点アについて
刊行物2には、本願発明の特定オルガノポリシロキサンに類似するオルガノポリシロキサン(請求項1で【化1】として記載されたオルガノポリシロキサンにおけるn+mが9である化合物)の具体的な製造手段が実施例の例1に記載されており、同様の製造手段で本願発明の特定オルガノポリシロキサンが製造できることが例2及び例3に記載されている(摘示(2-c))。そして、同オルガノポリシロキサンが良好な分離値、ループ試験結果及び残留粘着力を有すること(摘示(2-e))、同オルガノポリシロキサンが照射硬化塗料または被覆材料としてまたはこの種の系中での添加剤として使用することができ、三次元的に、遊離基によって架橋されていてもよく、例えば過酸化物を添加しながらかまたは高エネルギー照射、例えばUV-照射または電子線照射の作用下に、極めて短時間に熱硬化すること(摘示(2-b))、及び、アクリル酸エステル基(アクリレート基)で変性されたオルガノポリシロキサンが高エネルギー照射で硬化可能な結合材として印刷インキに用いられること(摘示(2-a))が記載されている。
そうしてみると、ビーム硬化性印刷インキにおいて、塗布したインキが良好な分離値などを有するものとするため、引用発明において、オルガノポリシロキサンとして本願発明の特定オルガノポリシロキサンを用いることは当業者が適宜なし得ることである。

(2-2)本願発明の効果について
本願発明の効果が、印刷インキとして、良好な剥離性と並び改良された耐引掻性及び高められた滑性を有するものであるところ(本願明細書段落【0001】及び【0013】)、刊行物2には、本願発明の特定オルガノポリシロキサンが剥離性の指標である分離値において良好であることが示されており(摘示(2-e))、また、刊行物1には、ウレタンアクリレート75重量部と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート25重量部とシリコーンアクリレート1重量部に電子線を照射して硬化させた塗膜が爪スクラッチテスト(引っ掻き性)及び滑り性テストにおいて、優れた性質を有することが記載されている(摘示(1-f)及び(1-g))。
したがって、本願発明が、引用発明が奏する効果にそれぞれの特定事項を適用したものの奏する効果を超えて優れたものとは認められない。

第6 請求人の意見書における主張について
請求人は、平成22年1月18日付け意見書において、本願発明により奏される「良好な剥離性」と刊行物2に記載の発明により奏される「良好な分離値」とが異質な効果であるとして、以下の主張をしている。
「刊行物2の段落番号[0078]には、分離値に関して以下のように説明されております。
『5.分離値(Trennwert)の増大によって確認可能な貯蔵の際の硬化した生成物の接着性の変化は、生じないかまたは僅かな範囲でのみ生じる。』。
また、段落番号[0125]には、被覆の分離特性に関して、オルガノポリシロキサンを支持体上に塗布し、硬化させた後、市販の粘着テープを貼着し、次いで貯蔵した後で、剥離するために大きな力を要することが示されております。
上記記載から明らかでありますように、刊行物2に記載の発明において、『良好な分離値』とは、オルガノポリシロキサンを硬化後に貯蔵した場合であっても、生成物の接着性が大きく変化しないことを意味するものであります。これに対して、本願発明における『良好な剥離性』とは、前述の通り、インキの印刷後に長期間貯蔵することなく、硬化直後にこのインキ上にラベル又は符号を貼り付けた場合であっても、後でこのラベル又は符号を除去する際にインキがラベル又は符号に付着して印刷図が損傷することがないことを意味します。このように、刊行物2に記載の発明における『良好な分離値』と、本願発明における『良好な剥離性』とは、全く技術的意義が異なる異質な効果であります。そして、刊行物2に記載の発明において、本願発明における『良好な剥離性』が、達成すべき応用技術的特性として全く認識されていなかったことは、刊行物2の発明の詳細な説明のみならず実施例においても、オルガノポリシロキサンを硬化した後、粘着テープを貼付するまでの時間については全く言及されていないことからも明らかであります。」
しかしながら、刊行物2には、「本発明による化合物は、照射硬化塗料または被覆材料としてまたはこの種の系中での添加剤として使用することができる。・・・本発明による化合物は、三次元的に、遊離基によって架橋されていてもよく、例えば過酸化物を添加しながらかまたは高エネルギー照射、例えばUV-照射または電子線照射の作用下に、極めて短時間に熱硬化して、」(摘示(2-b))とあり、本願発明で使用するオルガノポリシロキサンがビーム照射であるUV-照射又は電子線照射により極めて短時間に熱硬化することが記載されており、このオルガノポリシロキサンを引用発明のビーム硬化性印刷インキに適用することにより、印刷インキにおけるインキが極めて短時間に硬化すること、例えば、印刷インキの硬化後5分とした際に良好な分離値/剥離値を示すことは当業者が容易に予測し得ることである。
したがって、請求人の上記主張は是認できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-10 
結審通知日 2010-08-11 
審決日 2010-08-24 
出願番号 特願平8-232259
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 健司菅原 洋平守安 智  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
細井 龍史
発明の名称 ビーム硬化性印刷インキ  
代理人 久野 琢也  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 杉本 博司  

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